光に包まれる。―――ひょ?それが俺の、この世に残す最後の言葉。無様だ。これじゃHA☆GAじゃねぇかよ。なんかもっとこうさぁ、かっこいい言葉を残して死にたかったもんだね。やっぱ死に様って大切でしょ。それがたとえ一介のss主人公にすぎないにしても。そして脳裏に様々な情景が流れ出す。これは、まさか走馬灯? いよいよか。いよいよなのか。シェルと会った。はやてと会った。初めて『挨拶』をした。フェイトのネガティブ。そして『挨拶』をした。アルフのもふもふ尻尾。そして『挨拶』をした。ユーノのメイド姿。『挨拶』……してねぇ……やっときゃ良かった。なのはの全裸鑑賞会。『挨拶』……してねぇよ。むしろ最後までやっときゃ良かった。メガネ。……イラネ。そして、『うえっへっへっへ、よく寝ておる。今日も頂きますかのぅ……』、システルさんの、パンツ下ろし。そこで視界が急に開けてくる。ちょ、ま、なんで? なんでパンツ下ろしが最後なの!? いくら俺でも死ぬ時くらいはっ!! ス、ストップ! こんな終わりは嫌だ! なんで、なんで―――、「―――なぁんでっ! システルさんのパンツ下ろしがっ最後なんだぁぁぁあああああ!!」17/~そして黄金は輝き 獣の王が咆哮を上げた~声を大に叫んだ。瞳をきつく閉じ、天に向かって。咽喉が振え、硬くにぎった両方の拳が痛い。何か握ってンなこれ。「……あれ?」そして、紛れもない現実感。揺れる地面。いや俺が揺れてんのか?グラグラと、ゆらゆらと。ほぇ、なんじゃらほい? 一体何がどうなってこの状況? 意味が分からんのだが……。『……どうせ・馬鹿・みたいな・走馬灯でも・見たんでしょう?』「え、あ、いや、その通りだけど……あれ、なにこれ? ジュドーは?」『ココは・アニメじゃない・ですが?』ですよね~。俺もそう思ってたところさ。だって前に口をあんぐりあけたプレシアがいるし、キョロキョロと辺りを見渡せばアルフ、フェイト、管理局の面々。皆々様、目がくりくりしてますな。驚いてますな。その気持ち分かる。俺もだから。つかなんでだろ? なんで俺復活? いや嬉しいけどさ。メッチャ嬉しいけど、俺って、ジュドーに消されるとこだったはずなのに……。「……なんで?」呟きながら何となしに右手の手首を見た。金色に輝く宝石のようなそれ。俺のデバイス、シェルブリット。……何とか、してくれたのかな?「シェル……あー、アリシア?」『シェルで・いいです。私は・シェルが・いいんです』「……愛されちゃってるねー、俺様」『今更・ですね』「……うん。ホントに、ね」ホント今更。こいつがいてよかった。心底そう思った。こいつじゃなきゃダメだよ、俺のデバイス。使い勝手悪いけど、最高だ。魔法なんかいらねぇ。使えねぇ。それがどうした。コイツ以外に俺のデバイスが、在り得る筈がねぇ。じわり、と周囲の景色が捻れる。ぼやける。何だよ、コレ。ダセェ。止まってろ。「―――っく、ぅ。……はは、かっこ、わりぃよ」『……ええ。そう・ですね』瞳から、涙が零れる。ぽたりと右腕に落ちる感触。ああ、感動だ。シェルの言い草はいつも通りだけど、なんだろう、なんかすげぇ。言葉に出来ないけど、なんかすげえ。もうホントね、久しぶりだよ、人に泣かされるのは。デバイスだけど、泣かされちまったよ。『お帰りなさい・マスター』「……ああ。帰ってきてやったぞ、シェルブリット」もう恥ずかしい。泣くかよ、普通! いや、泣くのか? いやいやダメだろ!?帰ろう。さっさと帰ろう。今日はシェルに色んな話をしてやろう。俺の事を教えてやろう。全部、ぜ~んぶ。『魔法少女リリカルなのは』の事から、『俺』の、今までの人生まで。平凡で、割と楽しくて、学生で、社会人に。なかなか満喫してたさ。『こっち』に来てからも、何も変わらない、俺だけの人生。最高だよ人生。楽しいね、人生!だから、「倒すぜ、プレシア・テスタロッサ。そして俺は生き残る」目が怖い。いや、全部怖い。そのゆらゆら揺れている、ビカビカ光っている、二つほど減っているジュエルシードが怖い。体から漏れ出てる、色を持った魔力が怖い。やだねぇ……。何だよそれ。まさか俺に勝てるつもりかよ。無駄。無駄無駄。今の俺には、きっと誰も勝てない。そんな気がする。そして暗い瞳のまま、プレシアが口を開いた。「寄越しなさい」「ヤダね」「茨の宝冠を」「死ぬまで離さねぇ」「それなら死になさい」「お前がな」絶対にやらねぇよヴォケ。「―――死ぬのは、あなたよ!」口火を切った。プレシアの周りにいくつも、いくつもいくつもスフィアが浮かんだ。数の把握など既に不可能。テラ本気。優に百を超えるそれらは、「―――俺は死なねえっ!!」爆音と共に放たれた。狙われているのは俺だけじゃない。アルフもフェイトも局員も全て、そのマルチロック対象に入っている。考えている暇などなかった。いや、考える間もなかった。すでに口から滑り落ちた言葉は当然、「シェル!」『りょ!』うかい! だろ、普通は? でも違うんだ。必要なかった。既に俺たちは、互いを完全に理解しあえている。俺が右といえば左を向くようなツンデレだけど、こういう時は頼りになる俺の半身。スフィアが届くまでの時間なんざ、瞬き一つ。俺が、サードフォームを構成するのは、瞬き半分!振り上げた時には既に、拳は人間の形をしてはいない。外殻は既に形成され、背中から伸びるアクセルウィップ。上半身を丸々覆うその防御装甲で、「んだりゃあ!」左の拳で一つ目のスフィアを破壊し、「ほいさあ!」右の拳で二つ目を。「なんとぉぉおおおっ!!」後はもう数えてすらいない。雷の電光を携えたスフィアを、目に付く限り、「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」壊しに壊し、破壊の限りを尽くした。「―――オラァア!!」どんッ!と最後に爆発を残し、俺に向かってくるスフィアをあらかた片付けた。拳は衝撃に揺れ、少しだけの痛みが走るが気にする必要は無い。随分前に慣れたもの。周囲にはもうもうと魔力の残滓が立ち上り、若干視界が悪かった。っち、と舌打ちを。そしてプレシアの姿が紛れて消えた。アルフも管理局も、自分の身ぐらいは自分で守ってくれるはず。勝手にやってろ。辺りを、意志を持っているかのように飛び回るスフィア。それを無視し、恐らく先ほどまでプレシアがいたであろう場所に向けて吶喊。防御? 性に合ってねぇ!両の拳を腰だめに構え、「―――あれっ?」足を止めた。油断だったか。左の腕が通常通りに動いていることに疑問を持ったからか。間違いなく言える事は馬鹿だったって事くらい。ちょっと死の淵から這い上がったからって、余裕をかましていた俺が悪い。対峙している相手、それはあくまでもプレシア・テスタロッサ。大魔導師様ってね。『マスター!』シェルの切迫した声。それは背後からの攻撃だった。「―――ぁがっ!」痛烈な打撃が俺を襲う。反応など出来なかった。魔力による攻撃ではない。煙幕のように張る魔力を目くらましに、プレシアは既に背後に回っていた。シェルの防御外殻をうまく避け、腰の横辺りに衝撃が響く。みちみち、と肉が軋んだ。視線を背後に持っていく前に、その手に持ったデバイスをプレシアは振り切る。兆速で流れる景色。信じがたい事に、その筋力だけで吹き飛ばされた。「―――ッヤロォ!」水平に飛んでいく地面に拳を突き立て、慣性を殺さず、その勢いに乗るようにして身体を押し立てた。大丈夫、痛いけど、すっごい痛いけど、まだイける!「っんだらあ! やってやん―――」二の句が次げない。顔を上げた時、既に眼前に迫るスフィア。今度は頭突きをかます。顔面を覆う鋭角的な半面、それで相殺。だが、ぱん、と軽い音を残して消えたそれは感触でフェイクだと悟った。「―――っまず、い!」考える間もなく、身体を限界まで低く、土下座!不恰好とでもなんとでも言え。俺は死ぬかうんこ食うかを選べといわれえたら迷わずうんこ食う! だってそうだろ、死んじゃお終いなんだ!背筋を走った怖気。距離があっても感じる魔力。その体勢のまま頭を庇った。聞こえる言葉は、「死ね」莫大な魔力を持った砲撃魔法が発射された。―――■■■■■!!!!轟音などではない。爆音すらも生ぬるい。背中を掠めるように通り過ぎていく閃光は、あたり一面に雷を発生させ、時の庭園そのものを破壊する勢いで壁を貫通し、次元空間の狭間に落ちていく。当たっていない。ギリギリだが、当たっていないのだ。それなのにジリジリ痺れたように身体は言う事を聞かない。周囲の空気全てをプレシアはその雷で焼き尽くした。鼻につくのはやたらと焦げ臭い匂い。「ぅ、おいおいおぉい……」心臓が早鐘を打つ。本物の死闘。負けたら、死ぬ。殺される。プレシアのデバイスは、考える間もなく物理破壊・殺傷設定。本当に、殺す気か。うん。分かっていたことだ。……本当に、分かっていたことか?「笑えねぇぞ、これ……」予想外すぎる。あんな強いなんて、予想外すぎる。原作ではどんなだったっけ? こんなに強かったか? 強かった気もするけど、ここまでかぁ? 違うだろ。違わないのか。ラスボスが強いのは当たり前?それでもこれは―――、「あら、降参? 死ぬの?」悠然と、アレだけの魔法を使ったにも拘らず、何の疲れも見せないプレシア。土下座している俺を見れば降参かとも思うだろう。化け物。頭に浮かんだ言葉。「……強すぎだよ、お・か・あ・さ・んっ!」それを打ち消すように身体を跳ね上げた。手の届く範囲に歩いてきたプレシアに拳を振う。身体強化を完全に行使し、筋肉、腱、神経、シェルの根にまで魔力を通している。今の俺の速度、強度は既に人間の外。完全にプレシアの意を超えている。……はずなのにね、それは無いでしょあんた。「―――ちくしょうっ!」「無駄無駄、ってところかしらね」顔面を狙ったそれは当たる前に、それはそれは簡単に障壁に邪魔された。指先一つ動かさず、瞬き一つせず、当然のようにそこにある障壁。その強度、まさにラスボス。冗談ではなく乾いた笑いが出てくるのを感じた。っはん!いやいや、熱くなってくるねアンタ。いい状況だよまったく。いいじゃないか。強ければ強いほどいい。高ければ高いほどいい。超えたときの、優越感。全能感。最強。無敵。成すのは俺しかいねぇ! 俺は強い! そうだ、俺は強いんだ! 攻撃が、つか何にも出来ずにあしらわれてるのは俺が弱いんじゃない! 強い俺よりプレシアがちょっと強いだけだ!へ、へへへ……ヒビくらい入りやがれよコンチクショウ!「ッンなろぉ!」少しだけ自棄になりながらカートリッジロード。ばしゃ! と薬莢の排出を横目に見ながら、手の甲に魔力が廻る。障壁が邪魔なら叩き壊すまでだ!「シェルブリットバーストッ!」『―――burst explosion―――』ばがぁんッ!といつもの爆発。拳からの反動で俺自身が吹き飛ばされそうになる。今の俺の魔法は既にミサイルなど凌駕。志向性を持った爆発が、拳を通して障壁に叩き付けられた。最高位。残り少ない魔力でひねり出した、今の俺に出来る最高の魔法だった。……それなのに、手ごたえ、無しッ!はじける干渉光越しに、全くといっていいほど健全な障壁越しに、視線が交錯する。プレシアの瞳には暗い色。闇。くい、と馬鹿にしたようにプレシアは片眉をあげて見せた。「……あの、アンタちょっと強すぎやしませんかねマジで」「無意味だと、気付いた?」「っは、冗談―――」笑えねぇし、怖ぇ。俺は楽しい冗談じゃないと笑えないんだよ。気のいい連中と、大好きな仲間と。怖いのは嫌いだ。痛いのも、汚いのも、カッコ悪いのも。でもそれは、生き残る事に比べたら、なんとも小さい。やってやるさ。嫌いとか、怖いとか、言ってる場合じゃないだろ。俺に言葉は効きやしねぇ。俺は俺にしか従わねえ。 無意味だぁ? んなもん、『昔』イヤっていうほど聞いたっつーの!「無理とか無駄とか無意味とか、ンなもん俺がぶっ飛ばす!!」拳を地面に打ち付けた。フィストエクスプロージョンを発動させ跳躍。同時にいつもより勢いの強い風を感じ、自身の魔法の威力が上がっている事に感謝。最高じゃん。やっぱ俺は強いはず。間違いねえ。プレシアとの距離をとる。今の俺に必要な距離。10mってトコか。もう少しか。だがいくら間を取ったところで、プレシアには殆んどそれこそ『無意味』程度の距離だろう。辺りにはまだ先ほどプレシアが放ったスフィアが生きており、ようやくになってその姿が消えてきているような状況。その気になれば全弾を操作することも出来るはずだ、プレシアは。先ほどの交錯で気が付いた。違うニオイ。歯。「えぇおいコンチクショウ。面白ぇか、その最強感はよ?」「そうね、貴方をプチっと潰すのにはちょうどいいくらいかしら?」「っは、言ってくれんじゃんかよ。チート使って最強ってかぁ? 自分のレベルくらい自分で上げろよな」「……貴方、なかなか面白い話をするわ」にたり、とプレシアの表情が変わると、その瞬間にまたもや異常魔力があふれ出した。先ほどの砲撃の瞬間にも感じたアレ。なのはとフェイトのそれを足し合わせて2を掛けたような、量、密度、質、どれをとっても異常な魔力。肌に刺さる。やっぱ怖い。恐ろしいよぅ。「……願いを叶える、ね。多分だけど、それってもともとそんな使い方されてたんじゃないの、ジュエルシードって」そう、プレシアは使っているのだ、ジュエルシードを。恐らく、複数。一度に百を超えるスフィアを形成できるのもそう。俺を、身体強化をしていても、それでも自身の筋力だけで吹き飛ばせたのもそう。全力で渾身の、この俺様のバーストを軽々と弾くのもそう。そしてプレシアは『懐』からジュエルシードを取り出した。三つ。その背に浮いている物ではない。「貴方、本当に面白いわ。アリシアのデキソコナイの、そのクローンなのに、随分と頭の出来が違うのね?」「あん? フェイトの事言ってんのそれ? ンだよ、フェイトはお姉ちゃんかよ。俺はお前のアニキだぞって豪語しちまったじゃねえかよ」「私の願いは『その力が続く限り私に魔力を供給し続けろ』『その力が続く限り私の身体を完全な状態を目指して修復し続けろ』『その力が続く限り私の身体を限界まで強化し続けろ』。この三つね」「ああ、フェイトとか はやてとかになんて言おうかなぁ……。今更弟って分かったらどうなんだろ。フェイトとか何気にお姉ちゃん風吹かせそうだな。可愛いだろうな、うん。いや……けどなぁ、今更弟ってのも……」「ジュエルシードね、具体的なお願いをすればきちんと叶えてくれるのよ。貴方が言ったとおり、恐らく兵器として使われてたのね。何の違和感もないわ」「そうだな、このままアニキってのを通そう。フェイトお姉ちゃ~ん、とかムリ……いや、いけるくね、これ? いける気がするな、なんか。お姉ちゃん……いいじゃないか」「魔力は尽きず、怪我は治り続け、最強の肉体。今の私にはどうやっても勝てないわよ?」「ああ~でもなぁ、フェイトから『兄さん』って呼ばれる事が無くなる訳だろぉ。それは痛いなぁ……」「鼻につく抵抗を止めれば……そうね、麻酔くらいならしてあげる。眠っている間に殺してあげるわ」「フェイトにはやっぱアニキで通そう。気付かないだろ、どうせ」「それでもまだ、抵抗するのかしら?」っはん。「―――当ったり前じゃん!」背中から後方に伸びるアクセルウィップ。それは優しく、はたくかの様に地面を叩いた。金色の魔力が円を描くように足元にはしり、身体が、足が十センチほどふわりと浮き上がる。「斃れるとしても前のめり! どっかの熱い漢が言ってた!」『―――Acceleration―――』今度は力強く、ばちぃんっ!と音が鳴るほどに『空間』をブッ叩く。空気が弾けて消えた。同時に来るのは、爆発加速。「―――っぐ、ッ!」その加速だけで殺す事が出来る。主に俺を。向かう先はもちろん、「助けてアルフー! アイツ強いよー!」管理局の周りをくるくる飛んでいるスフィアたちをぶっ壊しながら。いや、諦めてないよ、もちろん。ちょっと時間稼ぎをお願いするだけさ。プレシアはもちろん俺が倒す。「―――任せなァ!!」局員たちの中から、単身アルフが飛び出した。プレシアのスフィアを壊しつくした事によってフェイトを守る必要がなくなったのだ。「時間稼ぎでいいから! 死ぬなよ!」「あいあいりょ~っかい!!」加速を解きつつ手を出した。アルフも理解してくれたようで、ばちん、と力強くハイタッチ。瞬時にその姿を獣に変え疾走るその姿は……間違いねえ。惚れる。カッコイイのだ。アルフが。……きゅんっ。そして局員に守られるフェイトからぎゅんぎゅん魔力を吸い上げアルフは咆哮をあげた。「大丈夫か坊主!」「へっ、全然余裕だってぇの」駆けて来る局員に軽口を叩く。認めるさ。プレシアは強い。思っていたよりも、数段も、数十段も。次元が違うといってもいい。オートで魔力が回復し続け、オートで傷は治っていき、常に力は人間以上。よかったね、管理局。俺がいなかったらお前ら全員あの世を覗いて飛び込んでんぞ。でも、勝てるさ、きっと。「リンディさん準備しといて」「……次元震が、起きるの?」起きないよ。起きないけど、もしかしたら、ね。もちろん起こさせないように努力はするよ? でも、保険はあったほうがいい。リンディさんは険しい表情で、「分かっているの? もしかしたら……」「ん。そだね、死んじゃうかもね、プレシア。もとい俺たちも」話半分に聞き、返し、局員に抱えられているフェイトを、その腰の辺りを弄る。ごそごそと取り出したのはテルミドール・クノッヘン。……だったよね、確か。同時にポッケに入れていた二つのジュエルシードも取り出す。一度願いを叶え終えてるみたいだけど、行けるだろ、多分。次元震を起こすにはちょっと足りないけど、まだまだ魔力も残ってるはず。「残るのは俺と、リンディさんだけね」「ダメよ。局員は全員残します。帰るのはむしろ……」「やめてよ、今更言っても仕方ないでしょ。俺がいないと絶対にプレシアには勝てない。むしろプレシアに勝てるのは俺だけだ。邪魔だから帰しといてね」自信を込めてそう言う。自信は力だ。自分を信じてないやつがどうやって最強に成り得る。モチベーションは高く。心は常に最強無敵。俺様何様ディフェクト様だこのヤロウ。腰の辺りにクノッヘンをぶら下げた。人間の手。骨。相も変わらず不気味なこって。マジでシステルさんの頭を心配しなきゃな。帰ったら病院に連れて行こう。「もういいでしょ、いくよ?」「……よく、ないわ。あなた、死ぬ気じゃない」「いえいえ、そんな事はこれっぽっちも無いから。心配しなくてダイジョーブイ! ……ブイブイッ!!」「……」「……」んな顔すんなよ。ふぅ、と一度だけ息をついた。プレシアが『使っている』ジュエルシード自体を封印できれば一番いいんだろうけど、やらせてくれるはずが無いのだ。きちんと警戒して、懐に入れてたし。服に手を入れて、胸元まさぐってジュエルシード見っけて、それから封印。三十回は死ねるな。殺されるよ。―――俺以外だったら。管理局程度が戦ってもどうしようもない。クロノが居ない管理局なんて……なんだろうな、所詮モブってところか。主人公は俺で、俺を中心に世界は回っていると、俺はそう思う。だってそうだろう? 地球が、ここは地球じゃないけど、それが自転してるなんて、公転してるなんて信じられるか? 回ってんだぜ、地球って。俺は信じられねぇな。太陽が俺の周りを回っているんだ。月にしたってそう。肌で感じる事こそが全て。そりゃあもちろん知識では知ってるさ。でも俺はいまだかつて、自分が太陽の周りを回っているところを想像できた事は無い。太陽が昇り、沈むのを感じた事はあるが、俺が地球と共に昇ったり沈んだりするところを想像した事は、無い。だから、俺にとっての心理は知識じゃなくて、この肌で感じて、自分が思った事。―――世界は、俺を中心に動いている。間違いねぇよ。ああ、間違いねぇ。だから今はプレシアをどうにかしなきゃ。皆死んじゃうじゃん。主に俺、死んじゃうじゃん。主人公が死んでいい物語なんて、バッドエンドはゴメンなんだよ。ハッピーエンドが好きなんだ。『世界の中心』であるこの俺を、その仲間を殺させるもんか。ジコチュー?っは、言ってろよ。「さぁ、行くぞ、ジュエルシード。いいか? お前がやるのはセットアップの補助だぞ、補助。わかる? どっかの猫ちゃんみたいにいきなりデカくしたりすんじゃねぇぞ」まぁ、話が出来るとは思ってないんで、何となく、気分的にね。自分の『願い』を固める為にも。まずは、「テルミドール・クノッヘン、セットアップ」俺は名前をあげられなかった。シェルが嫉妬して大変だったからな。けど、フェイトからいい名前を貰ったじゃないか。誇りに思っていいぞ。クノッヘンのデバイスコアがきらりと輝いた。何も言わずに展開されていく白い骨。正直かなり不気味だがそれでもシステルさんが作って、フェイトが使ったデバイス。疑いを持つ余地など無い。クノッヘンはこちらの意志を汲み取り、腕と肩には防御装甲を着けない。腰から伸びる、脊髄をそのまま取り出したような骨は俺の左足を拘束していく。二つ、カートリッジを取り入れた。さぁて、お次は……、「シェル」『……』「……シェル」『……』「……シェルブリット?」『……』「……え~と……シェルブリット・アリシア?」『……』「……っ、……俺のっ、唯一つしかない半身! この世で最高のデバイス、シェルブリット・アリシア!」『イエス・マスター』嫉妬乙w可愛いやつだよ、まったくね。ばしゃ、ばしゃ、ばしゃ、ばしゃ、と。カートリッジの四発消費。一度にこれだけの弾丸を使うのは初めてだ。魔力が充填され、熱くなりはじめた右腕。その肘から角のように突き出るマガジンを取り外した。もう入ってねえ。っぽい。「よし……」失敗は許されない。構成に失敗するということは、即ち俺の負けを意味する。思い描くのは『天下無敵』の俺。想像するのは『王』。頼むぞ、シェル、クノッヘン、ジュエルシード。「リミットブレイク……、オーバァっ、ッドライブゥウ!!!」ッドン!!身体を打ち付けられたかのような、衝撃。テルミドール・クノッヘンのドライブ機構を全力全開で解放した。リンカーコアが弾け出さんばかりの勢いで魔力を排出し始める。限界を超えて、臨界に近く。「―――ッ、ぅぐっ熱ぅ……ッ!!」熱い。ただ身体が熱いかった。根を通して全身へ熱は回る。筋肉はビクビク痙攣したようにうごめき、神経は過敏に反応。脳内が、アドレナリンとか、エンドルフィンとか、興奮作用が、全部、全部!来た。来た来た来た来たッ! ひひひ、勃っちまうぞこら!!クロノがボコボコにやられるのも道理だ。これで負けれるはずがねえ!なぁ、そうだろ、「―――ッシェルブリットォォオオ!!」『了解。ハイブリットフォーム・展開・します』同時に握ったジュエルシードが輝く。ハイブリットフォーム展開の補助。己の役目をきちんと理解してくれていたようで。ぎしり、と身体が悲鳴を上げたのを聞き逃しはしなかった。だけどそれがどうした? 何の関係もねえ。奥歯に折れんばかりの力を込める。相変わらず痛ぇな、初めての構成は。だけど、すっごい気持ちいい。まず顔面。全体に獅子を模したかのような面が現れる。それはさらに上に伸び、髪の毛の全てを巻き込み、後頭へ伸びた。鬣のようなそれを、ゆっくりと重みで感じ取り、両の腕はさらに凶悪に進化。常に解放されているジョイントも含め、さらに巨大化。開放部はその奥が透けて見え、金色の光を僅かに放ちながら腕の中を行ったり来たり。その様はまるで流星のようで。そしてじわじわと腰から下へと伸びる黄金は、足先を覆った時には人間のものではなかった。細く、しなやかなそれは肉食獣の四肢。獣の、獅子。「あは、く、くくく……」シェルブリット・ハイブリットフォーム、構築完了。「くはっ、―――最ッ高ぉぉぉおおおお!!」展開だけで、魔力を根こそぎ持っていかれた。カートリッジを六発。さらにドライブで底上げされた分まで。ハイブリットの癖に燃費が悪ぃ。うまい事言ったぜ。まぁ、無いなら無いで他のとこから持ってくるまで、だな。精神感応性物質変換能力。ドライブで全身の、その全ての力が底上げされている今、「アルター、全開だぁあ!!」言うまでも無く、還ってくる魔力は今までの比ではない。―――バキィィィイン!―――バキィィィイン!―――バキィィィイン!―――バキィィィイン!壁が、地面が、ありとあらゆる『物質』が、その姿を金色の塵に変える。それは、それらは巡り巡って俺の手の甲に集まり、廻り廻って純魔力へと。「来た来た来た来たぁ……」根を通して全身へ駆け巡る魔力を感じながら、両の拳を打ち鳴らした。それだけで『身体《シェルブリット》』は反応。アルターは止まる事無く物質を還元し続ける。黄金の魔力が、あふれる。「―――さあ見ろ、そして聞けえ!!」空間が、その魔力のみで破裂する。言葉を発するだけで、それは最早『衝撃』へと。「コイツがっ、俺の、絶対防御のカタチ! さぁ感じているか、上にも下にも敵はねぇぞ!!」その全てを吸収するその両拳。手の甲で魔力が廻る。廻る。巡る。巡る。さぁ、お前に分かるかプレシア・テスタロッサ。見えてるか?聞こえているか?感じているか?―――教えてやるよ。今俺がまとっている黄金が、俺が使っているデバイスが、そしてこの俺自身が、「―――これが、天下無敵のぉおっ、チカラだあああぁぁぁああぁああぁァアアア!!!」パシャリ、と瞳への防御機構が降りてくる。そしてそれと同時。『―――Burst Acceleration―――』―――■■■■■ッ!!!軋む。プレシアが放った砲撃魔法と同じ、最早『音』の領域を超えていた。シェル(アクセルウィップ)が打ち付けた背中の空間は消失。変わりに俺に加速を与えた。加速。ぬるい表現だ。そう、これは弾丸。弾けて飛んで、突き刺さる。俺が、弾丸。自分以外の全てがスローモーションに見えた。プレシアが今振り上げたデバイスも、俺の声を聞いて飛び退るアルフの背中も。「んだりゃぁああああッ!」加速はそのまま。弾丸はプレシアに。拳を突き出した時、初めてプレシアの顔に焦燥が生まれたのを見た。「―――っく!」障壁を張った。ああん? 拳が届く。楽勝だろ。どごっ、と鈍い音。干渉光すらも弾けず、ブロック塀をハンマーで叩いたようなその音は、まさしく俺の拳が通過した証だった。あれだけの魔力を込めて、あれほどの加速を叩きつけて、ようやく拳が一つ通るか通らないかの小さな穴。それでも『破れない』と『頑張れば破れる』では大きく違う。俺の心情も、それ以上にプレシアの心情が。破ることが出来るとわかっているのなら、プレシアも障壁に頼ることが少なくなる。そうであって欲しい。一歩前進。大きな一歩。先ほどとは違う視線の交錯。プレシアの表情からは余裕が消えていた。それだよそれ。そういう表情をさせたいの、俺は。障壁を抜けた掌を返して一本だけ中指を立て、「カマしてやったぜぇ、おい?」「―――下品な、事ねえ!!」プレシアは障壁を消し、俺に向かってデバイスを突き出した。反射で両腕を交差させブロック。外殻を通して響く衝撃がプレシアの化け物ぶりを語っている。イテェ。思うと同時、プレシアのデバイスはスフィアを展開させた。俺の周囲、取り囲むように。数は七。質は……、一発一発のその色が、魔力を凝縮させすぎて黒くなるほど。ヤバイと思うよりも早く、どうせこれしか出来やしねえ。「っし!」顔面の横に存在していたどす黒いスフィアを殴った。まぁ当然……爆発。ひひ。どがぁッ! と痛みよりも衝撃のほうが強いそれは、一つ爆発した事により次々と誘爆を起こし、結局七つ全ての爆発を喰らうことに。ピンボールのように身体は撥ね、撥ねられた先にはスフィア。っは、馬鹿みてぇ。砕けていく外殻から皮膚が見え始めた所でようやく爆音は止んだ。倒れ伏す。負け犬かよ。違うさ。やられてんぞシェル。お前の装甲。プレシア強すぎ。最強感が溢れてる。「っく、くくぁははは! その程度なの!? その程度で、あんな口をきくかしら!」片手で顔を覆い、プレシアは笑う。げらげら笑う。身体を折りたたみ、腹を押さえて。笑う。ああ、そんなにおかしいかな、今の俺。だって、この程度だったらさ、あんな口も、そんな口も、どんな口だって、「―――きいちゃうんだよぉ、これが」―――バキィィィィイイン!!アルター発動。同時、修復。右腕と、わき腹に純魔力は駆けた。見る見るうちに金色の外殻へと成る。目を剥くプレシアを哂いながら、方膝をつき悠然と立ち上がった。「はい、しゅ~ふくぅ。ん、どうしたよ、笑わないのぉ?」わざとらしく首を傾げて。既にプレシアの間に差は無い。あるのは制限時間だけ。ジュエルシードとアルター。ジュエルシードとドライブ。ジュエルシードと俺の肉体。全部が全部、俺の不利だけど、今、この瞬間はそうじゃない。「お前に俺は殺せねえよ、プレシア・テスタロッサ」「―――やってあげるわよ」言いながらプレシアはデバイスを袈裟に振った。先ほどと同じ轍は踏まない。今度は片腕でいなす様にその力を、その方向を変えさせ、スフィアを形成するよりも早く反撃に転じた。俺の攻撃はもちろん、いつも、どんな時だって拳。腹部を狙った拳打は、しかし当たる直前にプレシアの反射神経に負ける。右足を大きく一歩下げただけ、その動作だけで避けてみせた。……始めから、楽して勝てる相手じゃないことなんか分かりきっている。強い。いろんな意味で、強い。娘が死んでも、それでも何一つ諦めない姿勢。その器、すげぇよアンタ。「―――ッンなろ!」「当たらないわね」もちろん俺の闘いの型は攻め攻め攻め。もっと攻め!拳で空気を切る。空間を破砕する。足を踏みしめれば地面は崩壊。爆発を起こせば壁が消えてなくなる。失った魔力は補充補充。たった今踏んでいる何かは塵に変わった。……そういうことだ。当たんないね、攻撃。壁とか地面とか壊してどうすんの。当たれよ。畜生が。そんだけ強いくせに、こんなに『強い』くせに、「そんだけの力があって、そんだけ強い心臓もってて! なんでフェイト一人に愛情注いでやれないんだよ! 馬鹿みてぇにデカイ器持ってるくせにッ、入り口が小せぇんだよぉお!!」「―――あなたにっ!」余裕ではないにしろ、プレシアは避ける。まともなヒットがなかなか出ない。だが、自身の攻撃の邪魔になるからだろうか、それとも俺には意味が無いと思っているのか、障壁を張る回数が減ってきている事にプレシアは気付いているか?光明が一筋。「あなた如きになにが理解るって言うの!?」言いながらプレシアは左腕を払うようにして振った。同時に起こる爆音と、衝撃。いくら勝機が見えようと、プレシアの放つ魔法はまさに一撃必殺をそのままに体現。一発放てば避けた背後の壁、もしくは地面は爆発崩壊。次元空間が穴の奥に透けて見えた。無茶苦茶しやがって。あんまり壊すんじゃねえよ。お前から奪ったらここは俺んちになんだからよ。俺も壊してるけど、お前は俺の比じゃねえよ。穴あいてんぞ。『奥』見えちゃってんじゃんか!「わからねェよ! 理解ってやりたいけど、俺にはわからねえ!! だって俺には―――」拳を振う。当たらない。「―――子供は居ねぇし!」蹴りを放つ。当たらねぇ!「フェイトみたいなガキがいたらッ、愛せずにはいられねぇえ!!」攻撃は爆発だ! 俺の攻撃はそれだけだ。まだまだシェルを使いこなせてない、ってね。距離をとりたがるプレシアに、全力で喰らい付く。射撃型の魔道師に、距離をとらせたらお終い。しかも相手はプレシア。でかいの一発でお空の上の爺ちゃんと婆ちゃんに接近遭遇しちまう。そっちは元気にしてるかい? 俺はまだまだ行くつもりはねぇぞ!「ンッ―――」右足を、懇親の力を込めて地面に叩きつける。「―――だりゃあッ!」『―――explosion―――』震脚。崩壊を伴い爆発を起こす。右『足』で起こったそれは、拳で放つより威力は弱いものの、破片を飛ばし、散らしプレシアに襲い掛かった。苦々しく舌打ちをしたプレシアは、もちろん障壁を張った。だが、障壁。結界ではないのだ。その全ては防御しきれない。結界を張るには俺が近すぎる。共々内に入れてしまえばやられるのを分かっているから。どちゃ、と鈍い音が響いた。刺さりやがった……! 絶対痛いぞあれ!俺は内心やってやったぜ、といった所。始めの一発以来じゃね? 食らわせたの。だがプレシアは、「ふざけた能力、だこと!」わき腹に刺さった破片なんぞ何も気にしない。それほどジュエルシードの能力は凄まじいのか。最早黒々とした魔力を携え、その右掌が、小さな魔法陣が俺の顔面の前に展開された。何だこれ? 防御か? 回避か?考える間もなく、バヂバヂッ!とその姿は電気に変わり、上方から俺の身体に雷が落ちてきた。発動ちょっぱや。「―――んぎぁッ!」蒸し焼きにされるように全身に熱と痛みと痺れが。身体が電気で動かない。言う事を聞かない。楽々とシェルを『通過』してきやがる! 何だよお前、電気に弱いとかそんな性質持ってんの? 先に言っとけ馬鹿ヤロウ!「くは、はぁあっはっはっははぁああ!!」プレシアの声を聞いた時、その魔法の威力を高めたのが分かった。なにこれ何万ボルトよ? 筋肉が勝手に硬直して、ガタガタ震えてる。痛い。ヤバイ! し、し、死ぃ!「くくく、なにが……なにが理解してやりたいよ。なにが愛さずにはいられないよ。そんな事は、そんな事にはねぇ……!」言うな。それ以上。やっぱダメだ。それ以上はダメだ。俺の攻撃意志が鈍る。そういうのは無しにしよう。反則じゃんそれ。それにこの電撃。これな、あんまりやってると、「ほんろりひんひゃうらろらぁあああッ!!」『―――Burst Acceleration―――』背後の空間が消し飛び、爆発加速。俺ではない。俺の意志を感じ取ったシェルが勝手にやった事だ。頭ではなく、殆んど顔面をプレシアの腹部に突っ込ませた。何の準備も、体勢すら整えていなかったのでクビが痛い。ポキってなった。どすっ。鈍い感触。「―――おふっ!」少しだけ笑える苦悶の声を聞いた。顔面をプレシアの腹からぶっこ抜き、今しかない。拳を振り上げた。プレシアは腹を押さえながら障壁を張る体勢。その手は顔面を庇うように。「―――、ッ!」瞬間、スパークが走ったように身体が反応した。たんッ、とリズムを変えてしゃがみ込み、そのままぐるりと回りこむように足払い。その向こう脛に力いっぱいシェルブリットの外殻を、俺の脚を叩き込んだ。ゴキン。「ぃ、ぐぅ! このッ!」プレシアはデバイスではなく自身の腕を払いながら魔法を飛ばすが、当たらない。さらにそのまま抱きついてしまえるかと思えるほどに超接近しやり過ごす。背中を通る密度の濃い魔力に冷や汗を流した。いける。それは確信。明らかに骨折しやがった。いくら強化してようが、人間如きのカルシウム。鋼並になろうが、ダイヤモンドになろうが、シェルに折れねぇはずがねぇ!ジュエルシードの魔力でそれが治っていくのを視界の隅で捕らえながら、だから完治される前に、今。ここが、決めるべきタイミングなのかもしれない。いく、ぞ! 俺はやる!身体がぐらついているプレシアの髪の毛。長く艶やかなそれを強引に引っ張った。「くぁ」何を言おうとしているのかは分からない。だが、確かにその表情が苦痛に醜くゆがんだ。『昔』の友達の情報。人間、髪の毛を引っ張られると何も出来なくなる。いい判断だよ、てっちゃん。ぶちぶちぶちぃ、と何本か、何十本かを確かに引っこ抜き、その上体が俺のほうに僅かに傾いた。まだ。ちょうどいいところに来た顔面に、こめかみに、黄金色の右肘を叩き込んだ。拳ではなく、肘。この距離だとこちらの方が効果的。それは当たると同時に、『―――explosion―――』爆発を起こした。『人間爆弾』という言葉がちらりと脳内に。不名誉。イラネ。「―――っぐぁ!」向かって左に流れていくプレシアを、まだ逃がしはしない。先ほど叩き折った、すでに治りかけているプレシアの右足。そこに目掛けて、大きく勢いをつけて足の裏を放り込んだ。めちゃ、と色んなものが潰れる感触。「ぃぎ、ッぁああッ!」うぅわ。シェルの外殻で分からないが、肌が粟立つのを感じた。人を壊す。それを本能的に悟ってしまい、思わず攻撃の手を緩めてしまいそうに。でも、まだ。まだまだ。こんなもんじゃ勝てはしない。プレシアに。完全勝利を、俺は目指しています。だから、ゴメン!ってのは、建前みたいなもんで、俺は、俺が嫌な思いをしたくないだけ。この感触が怖いだけ。気持ち悪いだけ。殺す、と口に出すのは簡単だが、やっぱり怖い。人間の死を、命を摘み取るのは、それは恐怖だ。だから決める。覚悟を。アンタを殺す。かも知れない。殺したくなんか無い。怖い。俺が嫌だ。プレシアが死ぬのはいいけど、俺は殺したくない!……だけど、さ、もしあんたが死んだら、そんときゃ俺は背負うぜ。絶対に忘れないよ。「―――ぅ、わぁぁぁああああああああああああああッ!!!」叫ばなきゃ、こんな事できやしねえ!!プレシアの頭を掴み取り、顔面に膝を突き刺した。何度も、何度も。こちゃ、こちゃ、と水っぽい音が恐ろしい。黄金が鮮血に染まる。プレシアが、何を言っているのか、本当に、分からない!肘だか膝だかを入れるたびに■、■、■、っ!決めろ俺! 行くぞ俺! 殺っちまうかも知んないけど!「だからって!」止まれない。ここで止まって、プレシアの傷が治ってしまったら、今度は俺にそんな覚悟が無い気がする。これで決めなければいけない。そんな気がしている。嫌だ。何も考えたくない。なのに、いつもだったら全然働いていない脳みそは、こんなときだけフル回転。嫌な想像が様々様々選り取りみどりで!嫌だ。抱え込んだ後頭部に肘鉄を下ろした。いち、にぃ、さん。どんっどんっどん!!俺の攻撃の一発一発は、常に全力全開。魔力を完全に通し、その破壊力を底上げしているもの。切れかけのフルドライブで、一撃を入れるごとに魔力光が弾けている。爆発を起こしている。周囲は崩壊を続け《バキィィィイイン》全て俺の魔力になる。嫌だ。本当に現実味を帯びてくるプレシアの、死。背筋を走る怖気を出来るだけ意識しないようにし、滲んだ視界を振り切った。嫌だ、けど、でも、やんなきゃ。だって、だって!「―――俺だって、死にたくないからぁっ!」声が裏返ってるのを、それを誰か笑うかい?これが二度目の生だとしても、それが何度目だって、俺は、生きているのなら、死にたくなんて、無いんだ!プレシアの頭を解放した。突き飛ばすように押し、跪いたプレシアが、そのぐちゃぐちゃの顔面がいいポジショニング。だが、狙うのはそこでいいのか?ああそうさ。放っておいたら、本当に治ってしまうのだ、プレシアは。俺が顎を砕いた時、平然と喋っていたじゃないか。今まさに、見る見るうちに治ってきているじゃないか。でも、死ぬかもしれない。殺すかもしれない。―――超恐い!!「シェルブリットォ―――」硬く握った拳。その両腕を、ゆっくり腰に引いた。先ほどからずぅっとバッキンバッキン音を立てて崩れ去っている周囲の物質が、全部俺の魔力に還元されてる。手の甲で、廻る廻る。最早還元し切れていない魔力が、塵が俺の周囲に渦を巻いていた。―――リィィィィイイイイイン……ッ!音に聞こえる臨海点。今か今かと待ちわびるように黄金は輝く。撃つのか? ―――そう、撃つさ。打つのか? ―――ああ、殴るさ。 やっていいのか? ―――きっと、よくないんだろうね。母親を殴り殺すのか? ―――死んじゃうとは限らない。希望的観測じゃないのか? ―――ああそうさ。でもなるべく死んで欲しくないよ。本心。きっとフェイトに嫌われる。 ―――俺は嫌いになれねぇ。負い目が出来る。 ―――それがどうした。人を好きでいることに、理由は要らないんじゃないかな。人殺しの経験者になる。 ―――それでも後悔したくない。俺はしない。 人の命を、背負う。 ―――、……。―――、―――、―――やったろうじゃねぇかよ!「―――バァストオオオオオ!!」『―――burst explosion―――』突き出した両方の拳。それは治りかけているプレシアの顔面に。爆発? それ以上。余りの威力にプレシアの身体は後方に吹き飛ぶ事無く、跪いたその身体、その上半身が交通事故のように地面に叩きつけられた。後頭部から地面にめり込み、遅れてついていく両腕。万歳をしたような形でぱたり、と。両足はたたまれており、まるでブリッジに失敗したかのような体勢で、プレシアは、プレシア・テスタロッサは、死んだ。「ってことは無いか。あぁよかったぁ、マジで。ホントよかった……」『本気で・驚いたのは・私だけでいい』大丈夫そうだった。ぴくぴく指先が動いてる。つんつん突付いてみたらちゃんとお腹も上下している。しかも傷口がじゃんじゃか治ってきてるし。これやべぇよ。プレシア復活の予兆だよ。「ジュエシーは……」ごそごそ。プレシアの懐を探る。しかしなんだね。とても一人産んだとは思えん身体をしておられる。確か40歳だよね、プレシア。アムロちゃん並みじゃないか……(ガンダムにあらず)。……いけるんですけど。むしろ好物くらいの肉体してやがるぜ。なんてスペック。ジュエルシードに『お願い』してんじゃねえだろうな。俺はこっち(リリカル)なら熟女すらいけるかも分からんね。「あったあった。うおぉ、やっぱすげぇな、ジュエルシード……」三つの魔力の塊。輝くそれは、確かに凶悪なものだった。見える。『視える』のだ。シェルに全部身体を明け渡した今、プレシアに流れ込んでいく魔力まで見える。目玉と脳が、きっと『解放』されてる。骨を折ったと確信したあの時、その足が、肉が透けて見えた。だからこそ叩き折ったと確信できた。「……っは、いよいよもって人間外。超人じゃあ、人外にゃ勝てねぇって事だよ、プレシア……」『マスター』「いや、いい。俺はこれでいいよ。ありがとうシェル」『……いえ、こちらこそ。いつも私を使ってくれて、ありがとうございます。デバイス冥利に尽きるというものです。……あ、デバイス・冥利に・尽きると・いうものです・でした』普通に喋ればいいのに。律儀(?)なヤツだよ。そこまでデバイスしなくていいよ。はは、と笑いながら、プレシアの身体が八割ほど治ったところでリンディさんにジュエルシードを放り投げた。「お願いしま~っす。……っておい」皆いるじゃん。帰れっつったじゃんかよ! プレシアがやけになってジュエシー暴走させてたらどうすんだよ。だいたいなんて顔してんだ。笑えよ。勝ったんだぞ。こらアルフ、泣くな泣くな。お前は意外と泣き虫だな、おい。思わず緩む口元。確かに軽くなる心。いいね。気持ちがいいよ。「は~、何だかねぇ。幸せってのは……今にあると思うんだよね、俺。アルフ見て確信したよ。いい思い出ってのはさ、『幸せだった』んだよ。それは継続してないと悲しくなっちゃうだろう? だから見つけなよ、アンタもさ、プレシア・テスタロッサ」『……詩人・ですね』「ああそうさ、まさしく『リリカル』だろ?」『それは・少し・違うみたい・ですが』「いいんだよ、これが俺だっにひッ、い、いだだだだ……ッ!」途端に悲鳴を上げ始めた身体。全身が、それこそ毛先から足の爪先の甘皮の先の細胞一片まで痛かった。イタすぐる。なんじゃこりゃあああああ!!『……あんな・デバイスを・使うからです』「ぐ、おぉ……強烈だぁ!」『でしょうね。余り・動かないほうが・いい・ですよ?』「……おぉう、まさしくその通りだぞこれぇ……」言いつつ、俺はプレシアの周りをウロウロしているジュエルシードを全部、またもリンディさんに放った。わたわたと慌てたようにリンディさんは受け取り、その封印処理をしながらゆっくりと、神妙な顔で頭を振る。「あのっ……、私には……。なんて、声をかけていいか……私には、分からないわ。ありがとう、でいいかしら……?」「……むしろ怒っていいんじゃない? 勝手に着いて来て、勝手にあんた等の仕事の邪魔した、ってさ」「でも、私たちだけだったら……」「いいっていいって。せっかく勝ったんだから笑ってよ。喜んでよ。……それとも俺が悦ばせてやろうかっはっはっは!」相手側には、俺の表情は分からない。ハイブリットフォームのおかげで、分からない。でもホントは、心中、すっごい、色々な感情が溢れてて、なんかホント、すごいね。身体の痛みだけじゃなくて、瞳に水が溜まってきてる。なんだろねコレ。俺にはわかんねえや。それをリンディさんは見抜いているのかいないのか、非常に形容しがたい表情で微笑した。「ええ、そうね、ありがとう。あとでお説教よ、ディフェクト君」「……あいよ~」お母さんって感じ。クロノ、ホントいい母ちゃんもってるね。けどさ、俺の母ちゃんも、色々すごいだろ?再びプレシアに視線を。……うん。大丈夫そうだ。何だか繋がれてない猛獣に触るような気分だけど……。「っんしょ!」ズボ。その頭を地面から引っこ抜いた。しかし随分埋まってたね……。コイツ、強化やらなんやらしてなかったら絶対死んでたぜ。本当によかった、と思ったところで思い出したように『感触』が蘇る。ぞわそわ毛穴が逆立つ感覚。ああもう……トラウマもんだぞこれ。やだやだ。プレシアの瞳は閉じられており、気絶している模様。規則正しい息吹を感じる。脳があんだけシェイクされてんだから、当たり前っちゃ当たり前かね。とはいえ、怖いものは怖い。ハイブリットフォームを展開したままプレシアの身体を背負い、ずるずる足を引きずるような形で局員が張った転移陣に向かった。アルフが手伝おうか? と視線に言霊を乗せて俺を見ていたが、それでもコレは、俺の仕事だろう。任せてくれよ。「……いてて……はぁ~、疲れたねぇ。帰ったらとりあえず寝よう。あと体治そう」『危険な・発言は・やめて・ください』おおっと、やべぇやべぇ。フラグ立っちゃうぜ。ちらりとプレシア確認。……うん。大丈夫。寝てる。「……俺、帰ったらプロポーズしようと思ってるんだ。六人くらいに」『……それ・ユーノ様入ってね?』「―――ぅおわっ! マジだ! やべぇ俺!!」『本人は・狂喜乱舞・でしょうが……』「ん、なんて?」『何でも・ありません』ズルズル。プレシア軽い。俺は力持ち。……プレシアの罪は、どうなるんだろうか。間違いなく重罪なのは判ってるけど、弁護の仕様も無いのかな?実験で娘を失いましたって言っても、それはそれ、だろうねやっぱ。やっちゃいけないことってのは、確かにあるよ。「……難しいなぁ」呟き、ようやく……ホンットにようやく、転移陣にたどり着く。マジで、ド真剣に疲れた。もうこりごり。無印で俺は引退だ。これからも戦うなんて、キツイ。あとはもうあいつ等に任せていいかな?陣に片足をかけて、「あ、そうだった。シェル、帰ったらお前に話したいことがあるんだ」それは冗談じゃなくて、本気でそう思ったからかけた言葉だ。たくさんある。『俺』の幼稚園時代から、小学生になり、中学をサボりにサボって遊び呆けて、だから程度の低い、それでも楽しい高校で、部活して、バイトして、バイクを買って、馬鹿やって、それから大学に入って、それなりに満足の企業に入社した。その思い出。話してやろう。『ディフェクト』になる前の自分を。たくさん、たくさん。なのに、『マスターッ!』その声を聞く前に、俺の視界の右端に白くてすらりと長い、綺麗な腕が見えていた。真っ直ぐに伸びるそれは掌の先に魔力弾を作る。あ、「うそぉ?」冗談ではない。やけに間の抜けた自分の声。肩を跳ね上げるようにして、魔法を放つプレシアの顎を打ったが、もう既に、「―――あは、っあははぁ……ひゃぁあっはっはっはははははっはははあああ!!」正面で、最終封印(デバイスコアの中に仕舞う)仕切れなかったジュエルシードが。プレシアの魔力弾を受け、それは、「……く、そったれぇえ!!」暴走を始めた。互いに干渉し合い、それは大きく、より強く。次元震?転移陣が輝く。まずいよ、それはすごくマズイ。次元断層は? 起こる? 起こらない? ジュエルシードは何処へ行く? アースラ?おいおいおい、死ねるぞ、それ。げらげら笑うプレシアを背中に乗せたまま、駆け寄ってきたリンディさんとアルフを両手で突き飛ばし、「シェル!」『了解っ!』アクセルウィップが空間を叩いた。プレシアをぶっ飛ばし、空気をぶっ飛ばし、ジュエルシードに手を伸ばす。両手で掴みきれない分は身体で受け止めて、どうにかこうにか転移陣の外へ。俺ごと、転移陣の外へ。身体がガタガタで力が入らない。本当に吹っ飛んでるだけだ。「―――ディフェクトォッ!!」アルフの上擦った声。ああ聞こえてるよ。ちゃんと聞こえてる。バイバイ。反応して、覚悟して振り向いた時にはもう、その姿は掻き消えていた。局員も、皆、全員。確実に転移魔法は発動していた。……。加速が終わり、地に足をつけた時、そこに在るのは向けに倒れてなお続くプレシアの笑い声と、ジュエルシードが起こす時の庭園の崩壊音。「……助けとか、来れないんだろうね」『……ここまで・空間に・魔力が溢れると・座標指定が・乱れる・でしょう。時間が・かかります』そっか。シェルは言わないけど、その『時間がかかっている間』に時の庭園は崩れて、消滅しちまうってこったね。俺とプレシアが暴れまくって、ただでさえ崩れかけてるし、ジュエルシード……やっぱすごいし。次元空間にダイブ、か。ああ、結局こうなる訳ね。やっぱり神なんかいねぇ。たった今、ソレこそ確信を持って言えるね。よかった。信じてなくて本当によかった。だけど、まぁ、「―――文句は、無ぇな」『ええ。不思議と・私も』俺はアースラの座標を知らない。てかいつも動いてるわけだし、向こうから何とかしてくれないとどうしようもない。そして俺とシェルだけではこれだけの数で、ビッカビッカ魔力吐き出してるジュエルシードを封印なんて出来ない訳で。ふむふむ。こんなときは怒るべきなんだろうね、デバイスを。でも、だ。今まさに俺が存在しているのはシェルのおかげだしね。助けられっぱなしってのは……今更ながら、性に合わない。ちょっとは借りを返させておくれよ。「んふ、ふふふ……く、くく」幽鬼のように、身体を揺らしながらプレシアは立ち上がった。顔に張り付いている血液と、笑み。愉快ではない。楽しい笑顔ではない。どちらかというと、『全部なくなった後には笑いしか出ない』と言う様な、嘘か真か分からない、そんな笑み。やってくれんじゃん。俺は好きだぜ、最後まで、命のカケラを燃やし尽くしてまでの抵抗。それほどの『想い』。「まだいけるか、シェル?」『もちろん。やって・みせましょう』「魅せてやるか、俺たちの……」『ええ。まったくの・同感・ですね』「先にスリープとか無しだかんな」『マスターこそ・先に・逝かないで・くださいよ?』お前を置いて? 冗談言うなよ。言ったろ、俺は笑える冗談しか好きじゃないって。「俺はさ、死ぬまで、死なねぇよ、シェルブリット・アリシア」『……。……私も最後まで消えないよ、ディフェクト。私のマスターで、弟のあなた』「うん」返事をしたところで、天井の崩落。俺とプレシアの上に落ちてくるそれは、一睨みしただけで、―――バキィィィイイイイン!!!大きな、大きな天井は、砕けて消えた。説明の必要もなく、塵になり還元。全てを魔力に。ドライブは切れている。実際、身体にはガタがきていて、さっきから膝がカクカクしてる。『ほら、最後まで頑張って』「うんっ!」辺りが金色に染まった。手の甲を通し、全身に巡る。熱く、熱くなってきた。「くくく、くく……なぜかしら……なぜかしらねぇ、アリシア」語りかけているわけではない。自問しているわけでもない。プレシアは、もう、そういう『所』にいない。だからさ、アンタ。だから、見ろ、俺を。俺は決めたぞ。こればっかりは口だけじゃない。「アンタを、終わらせる輝きを……魅せてやる」いよいよ崩壊が激しくなってきた。戦闘で大分痛んでいたのも事実。もう、長くはもたないだろう。『狭間』があらゆる所に見えていた。場が滑落していく。全部が終わるその前に。拳に力を込めて。笑う膝に活を入れて。「これが、アンタが創ってくれた―――」言葉を紡ぎながら、またも魔力が渦巻いた。金色が輝く。場が黄金に支配される。キラキラと輝き、ピカピカの光。「―――俺とッ!」『私のッ!』すぅ、と大きく息を吸い込み、そしてアクセルウィップが空気を叩いた。黄金を纏ったまま突撃。反撃なんて何も考えてはいない。最早そういうものではない。あらゆる物を置いてけぼりにする加速の中、両脇に腕をたたみ、さあ魅せてやる。―――輝け。俺たちの、「っ自慢のぉぉぉおおお!!!」輝け。もっと、もっともっと。輝け。忘れないように。輝け。二度と、想いから消えてしまわないように!「―――ッ拳だぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!」『―――Extermination―――』「―――ああ、アリシア」最後の瞬間。拳が当たり、全てを飲み込む、最早爆発ではないナニカが発動するその時。ポツリと、俺を見てプレシアは言った。顔を外殻で覆っているにも関わらず、そう言った。だからもちろん、顔の装甲は剥がれてそのまま魔力へと還元。『大好き、お母さんっ!』もしかしたら声に出ていなかったかもしれない。それでも俺とプレシアの瞳は、視線は繋がって。本物の笑顔。これまで見た中で、プレシアは一番綺麗な、美しいという言葉がぴたりと当てはまる笑顔だった。光に包まれ、言葉は聞こえなくて、しかし確かに聞こえていた。―――愛しているわ。拳から発動された光は俺を含め、全てを飲み込み、俺は、私は、うん。さようなら、おかあさん。。。。。。じゃら……。夢見心地にそんな音を聞いた気がする。ゆらゆら揺れて、暖かい。眠気は限界ながらも、俺は死ぬまで死なないわけで、約束を守るためにもここは起きるべき所だと判断。瞳は閉じたまま、「……ん、しぇ、るぅ……おれは、死んじゃ、いねぇ、ぞぉ」『……』「しぇるぅ……?」「寝かせてあげなよ。君の身体をここまで持ってきたんだから」この声……?「……ゆぅのだぁ……」「うん、ボクだよ」「ゆぅのだぁ……」「うん、そうだよ」それなら、暖かいのはユーノだ。背中かな?もう身体の感覚が無い。分からない。けど、暖かいから、ユーノだ。なんで?すでに自問しても今の脳みそじゃなかなか自答出来ない。おおかた管理局が……、ああそっか、戦闘要員じゃない増援って、ユーノの事だったのかなぁ?「遅いぞぉ、相棒ぉ……」シェルは俺の半身。ユーノは俺の相棒。「これでも君を助けるための装置とか、転送できないデータ憶え込んだりして、それなりに大変だったんだよ?」ゆらゆら揺れる背中(おそらく)が気持ちいい。寝ちゃいそう。けど、ちゃんと言わなきゃね。俺のやったこと、全部。「……ゆぅの、あのね、俺、おかあさんを……」「うん、いいよ。分かってる。分かってるから、全部、ちゃんと」……。いいね。好きだ。そういうの。「……やっぱ、さいこうだぁ……ゆーの」「ふふ、ありがと。……寝てて。起きた時に、いっぱい話をしようよ」「……う、ん。おやしゅみ~」「はい、おやすみなさい」意識が途切れる瞬間、なにやら唇に柔らかいものを感じた。……そんな気がする。ああ、落ちる。もうすでに、今考えていることが現実か否かの判断すら曖昧。分からないけど、そう……俺は、『俺達』は、―――夢を、夢を見そうだ。夢の中の俺は、私は、なにをしているのかな―――?