―――トントントン、トントントン。それに気付いたのは初等部。二人とも高等部への飛び級が決まっており、俺達のために教員が気を利かせ、初めてユーノと隣同士の席になった時だった。授業中、絶えず右手で頬杖をつき、こめかみを叩く。始めは、ユーノにとってはつまらないであろうこの授業に対する何らかの反抗だと思った。しかしユーノの表情は真剣そのもの。俺が先ほどから投げている消しゴムのカスにも気付かず、とてもつまらなそうには見えない。「ソレ、お前の癖か?」「あ、ごめん。煩わしかった?」「いや、そんなこと無いけど。お前にしては珍しく反抗的な態度だし……」「あはは、そんなつもりは無かったんだけどね―――っとと、ディフェクト、次、あてられそうだよ?」そうユーノに言われ、急いで俺は正面を向いた。やばいやばい。しかし教員は完全にこちらに背を向け、板書の最中。こちらを向いていないのにあてるのか? ……嘘つくなよなテメェ。「おい、嘘つくなよ。ちょっとあせ―――」「はい次、ディフェクト・プロダクトー。授業がつまんないのは解るけどちゃんと聞いとけよー」なんでやねん。「……は~い。答えは、え~と、アレだ、アレ。なんか相手を浮かせて体勢を崩した後にそのまま地面に向けて無数の―――っあ、そうそう、バーティカルエアレイドだ。それの中の人」「はい、お前は何をきいとるんだー。座ってよーし」「は~い」なんだよ違うのかよ。絶対あたってると思ったのに。「ね、あてられたでしょ?」「なんで? ていうか分かってたなら答え教えてよ」「まぁ、次はちゃんと教えるから」いやいや、次て。流石にもうあたんないよね?そんなことを思い、またも正面を向いた。……ばっちり教員と目があっちゃった☆「はい次~、ディフェクト・プロダクトー。いい加減にしないと先生おっこっちゃうぞー」「は~い。答えは、えーとなになに? ……えー、答えはハイマットフルバーストです。ちなみにそれの中の人です」「正解だなー。答を教えてもらうのはもうちょっとこっちに伝わらないようにやれよー。座ってよーし」「は~いごめんなさい」……だから何で俺にあてるんだよ。ていうかなんで分かるんだよユーノ。この不思議現象は全てユーノが操ってるんじゃないのか?「……なんで分かるんだよ」「ん、まぁ顔とかを見てたら何となく、かな。その人の表情とか言葉とか……ちょっと説明しづらいな」そういってユーノは、うふふっと はにかむ様に笑った。ちょ、おま、可愛すぎるだろうが!つかお前ソレ笑って済ませるようなことじゃありませんから。明らかに異常ですから。将来お前が警察になったらやばいじゃないですか。言い訳できませんよ?(やらかす気満々)「ていうかね、ソレなんて仙里算総眼図?」「仙里算総眼図? ……なにそれ?」「そりぁお前、あれだよ……」「……? ―――っあ」「はい次ディフェクト・プロダクトー」「またっ!?」だから何で俺ばっかりあてるんだよ!? 他にも喋ってるやついるじゃん! しかも何で教えてくれないのユーノ!「ご、ごめん。はかりそこねた……」「お前、いい加減にしないと先生凄い要求 突きつけちゃうぞー。次の問題といてみろー」「はいごめんなさーい。えと、えーと……答えはさとしくんのバットです。それを振ってる中の人です」「はい、不正解だなー。お前は本当に高等部に行っていいのか不安になってきたぞー。走ってよーし」「は~い……え?」「走ってよーし」「え?」「走ってよーし」「―――。やぁってやるぜぇぇええ!!!」俺は一気に教室から逃走した。その際に申し訳なさそうな顔をしているユーノにウィンクをしていくのを忘れない。いいんだよ別に。こんな退屈な授業受けてるんだったら校庭走ってたほうが幾分ましだ!「ひゃらっほーい!!」「はい、次は―――」「―――仙里算総眼図、か……」00/『俺を誰だと思っていやがる!』「どうすかセンセ、これもう俺達の勝ちで良いんじゃない?」がっくりと、力なく膝を突いているちょび髭。その姿は正しく俺とシェルが想像したとおり、己の生殺与奪を預けているかのようだった。ぷ、ぷぷぷ。いやいや、調子に乗った名前してるからそんなことになっちゃうんだよ。早く負けを認めてください。「……そんなはずは、こんな……」やりすぎたかな? まあいいでしょ。メイド服着せて実習をやらせるような腐った教員にはこの位ちょうど良いよね?それよりユーノだよ。「マジ助かったよ。サンキュなユーノ」「ふふ、いいんだ。君のフォローはボクの役目でしょ?」目頭を押さえながらもユーノは笑ってみせた。しっかりと汗もかいており、明らかに疲れてるのが分かる。実はこれ、相当に消耗が激しい技なのだ。視力、動体視力、その他、おおよそ目にかかわる全ての機能を魔法によって強化しなければならない。そうでもしないと絶えず動いてる戦闘中に相手の表情など正確に読み取ることなど不可能だ。ユーノは確かに魔力の扱いは上手い。十の魔法を使うのに正確に十の魔力を練ってみせる。だがしかし三十人。それだけの人数分視続けてきたのだ。クラスの連中と変わらない程度(それでも七歳にしては異常)の魔力でそれはきつかったであろう。「わりぃな。ホントは決めるときに使いたかったろ?」「まぁ……そうかもね」「……ごめんなさい」「あ、いや、責めるつもりは無いんだ。ただ、あの先生が言ったとおり、つらい時に大技に逃げるのはよくないよ? 小さくこつこつ、ね?」「うん」だってさだってさ、焦るんだもん。凄く。一発も当たらないんだよ? 遠距離魔法適正型のくせして近距離魔法集中適正型の俺の拳が当たらないって……。いや、そりゃあ一番苦手とするタイプだし、管理局で馬鹿みたいに訓練受けたのは分かるよ? でも、どうやってもガチじゃ勝てねぇって思っちゃったんだもん。「そんなに落ち込むこと無いさ。僕の読みどおりなら―――っち。……ごめん、負けは認めてくれなさそうだ」「―――みたいだねぇ」ゆらり、と立ち上がったちょび髭。いや、デスサイズ・ヘルカスタム。その姿は今までとは違う。こちらに伝わってくる何か、気とでも言うのか。それが違った。近寄りたくない。真剣にそう思う。身体が震えるのだ。別に何もされてないのに。……ちょ、まじで? ここに来てそれ? おいおいやめてくれよ。それ駄目だよ。このお話しはドラゴ○ボールじゃないんだよ?「貴様らには、コレでは駄目だ……。コレは壊れたのだ。そう、たった今、壊れた…」デスサイズの手の中に納まる『コレ』。教員用ストレージデバイス。この学校にいる全ての教員が持ち、使用する。もちろん、実技の時間も。そのデバイスをデスサイズは、「欠陥品だ」捨てた。主からの魔力供給が絶たれ、スタンバイ状態へと移行したデバイスはさらに踏みつけられる。「仕方が無いであろう? 壊れているのだ。仕方が無い。ああ仕方が無い。だから―――」ごそごそと懐を探る。あぁ、もうなんか読めた。ユーノじゃないけど、読めたよアンタ。「コレで、相手をさせていただこう…。―――セットアップだ、BR1 BR2!!」ヤツが懐から出したもの。完全私用デバイス。BR1・2。デスサイズは二つのデバイスを操る魔道師。後で聞いた話では、実は結構凄いヤツで、管理局じゃ意外と名の通った男らしい。BRは瞬時に主の想いに応え、目にも止まらぬ速さでその姿を変えていった。それだけで己の技量を示した。バスターモード。完全にアレな感じの姿。「……ほらね、やらかした」「大丈夫。君なら何とかなるよ」もうね、便所から帰ってきたときからなんかやらかすと思ってたんだよね。何だお前。何なんだお前。手加減するって言ってたじゃん! やっぱする気無いじゃん! やばいから! そんなので相手されると凄く危ないから!! アンタの息子コースまっしぐらだろが!あぁぁぁああ!! ホントごめんねユーノ! 俺が簡単にヤツを間合いから外しちゃったからこんな事になったんだよね!?「さて、再開と行こう……」途端にユーノから背中を押された。俺は前へとつんのめり右手を突く。―――チュンッ。そんな音を残して頭上を駆けていったナニカ。それは当然の如く俺の後ろにいたユーノに、「―――あたるもんか!」しかしユーノは避けて見せた。スクライアに伝わる変身魔法。フェレットのような姿になる魔法で。「ディフェクト!」「―――りょ~っかい!!」俺達の間に言葉は要らない。一緒に過ごしたのは一年とちょっと。それでもユーノは俺の事を一年以上視ていた事になる。それなら俺の事を今のとこ誰よりも分かっているのはユーノ。そのユーノが『ディフェクト』としか言わなかった。何をしろとの指示は無い。要するに、「―――接近あるのみ! っだ、ろぅがぁあ!!」『―――Acceleration―――』ぱきぱきぱき、と音を立てて崩れていく背部のアクセルフィン一枚。同時に0を100にするような馬鹿加速の前兆だ。ユーノが何とかなるって言ったんだ。それなら何とかならないはずが無いだろ?ちょこちょこと肩へと駆け上ってきたユーノを胸倉へと突っ込み、「―――衝撃のぉ」ドンッと足場を破壊しながら加速した。一気にデスサイズへと肉薄。っけ、なんて顔してんだいアンタ。ちゃんと言ったろうが。「―――ファーストブリットォォオオおっらぁあ!!」「―――fist explosion―――」「―――ぐぬぅっ! 障壁!!」完全に不意をついたと思った俺の拳は障壁に阻まれた。かなりの爆発が起こり、またも視界が効かなくなる。その砂煙に乗じ、またもデスサイズは姿を消した。―――それでも、「っそこだろ!?」視界の効かない中、俺の拳は完全にデスサイズの腹を捉えた。闇雲に振るったわけではない。拳に戦闘が始まって以来、初めての感触が伝わる。ずしんと、重い手ごたえ。っは、カマしてやったぜ。「―――ぐっ、なぜ!?」「そりゃお前ね、大して離れてないくせに殺る気満々なその視線。感じないわけ、無いだろう?」「んの、クソ餓鬼!!」馬鹿めが。最後にパワーアップする悪役はサラッとやられるのがお約束なんだよ!さらに言わせてもらうなら、「お前、さっき(前編参照)使った魔法のせいで今度こそ余裕が無いんだろ!?」「っちぃ、黙れ!!」俺の拳にはきちんと反応している。腹を捕らえてからの攻撃はまた当たらないし。だが、飛ばない。飛行しない。俺は接近戦型の魔道師だと分かっているのに飛ぼうとしないのだ。空に飛ぶだけで避ける方向が一つ増えるのに。ようするねちょび髭、「―――温存なんてせけぇマネしてんじゃねぇ! さっさとくたばれ!」「やかましいわ!」ぶん、と袈裟に振られたBR1をスウェーバックでかわした。風を切りながら5㎝先をデバイスが通る。馬鹿、当たったら流血もんですよそれ!?そして俺の一歩後退に対してデスサイズは瞬時に距離をとろうとするのだ。馬鹿アホ誰がそんなこと!「だからさあっ! やらせるもんかよ!!」「しつこいぞ! ケモノか貴様っ!!」「なんとでも言いやが、っれ!」顔面を狙った右ストレート。それも後一歩のところでデバイスに阻まれる。同時にBR2は射穴に光を溜め込んだ。「―――吹き飛べケモノがッ!」「おろっ?」何とか半身を反らすことで避けようとするのだが……間に合わないかも。でも俺には、「任せて!」ユーノがいる。ユーノは顔だけを俺の胸元から出し、魔法障壁を張った。完全に迎撃とは行かないが、デスサイズも『溜め』がない状態で放ったような、屁の様な攻撃。その軌道を反らすだけで十分!!「サンキュっ! っしゃらぁああ!!」またも突撃。追撃。……な訳だけど。畜生。キメが無い。互いに一進一退。いや、俺が攻め続けてデスサイズは避け続ける。一攻一進。一避一退。馬鹿みたいな戦いだ。だけど、そろそろ、「こんの! いい加減に当たってください先生!!」「お前こそっ! そろそろ諦め―――」はい馬鹿。こんな軽口に付き合う、それが敗因ってことで。喋る時に一瞬、目を合わせる癖、直したほうが良いよ? ま、俺もたった今、ユーノに教えてもらったんだけどね。「―――いっちまいなぁ!!」ずどむ、とまたも腹を捉えた拳。「うぐぅ!」さらに、「―――フィスト!」『―――explosion―――』完全に拳で相手を捉えてのフィストエクスプロージョン。威力は結構あるよ?完璧な手ごたえ。爆発と共にデスサイズがかっ飛んでいくのが見えた。体力がつきかけてるところにコレだったら俺の勝ちだぜ☆ ていうかコレで俺の勝ちじゃなかったら困る。そしてまたも視界が塞がれた。てゆうか、このグラウンド砂煙たち過ぎ。気分悪くなるっての。デスサイズの気配は……無い気がする。よし、よしよし。「―――よっっっっっしゃぁあああ! 俺の、勝ちだろぉお!!」いやっほぉぉおおお!ついついその場で飛び跳ねてしまい、その反動でユーノがするりぽてんとスカートの中から生まれ落ちた。ああごめんよユーノ。やったぞユーノ。なんだよなんだよお前の言ったとおりだったよ。俺に出来たよ。案外簡単だったよ。だってアイツ攻撃してこねぇんだもん!うへ、うへへへへ。やれば出来るんじゃないか俺! 凄いぞ俺! 今日はシステルさんになんかご褒美もらおう!! パンツ下ろそう!!「ひょふへははははは!! なんだよデスサイズこのメイド萌野郎が! 喫茶にでも行ってはぁはぁしてろってんだ! テメェなんざこの俺と、ユーノの手にかかればちょちょいのチョンマゲだコラぁ!! でも喫茶に行く時は誘ってね!!」「……もう、嬉しいのは分かるけどあんまりはしゃがないでよ。恥ずかしい、皆見てるよ?」なんだなんだ? お前も嬉しいくせに。顔がにやけてるぞ? それに皆には見てもらっていいだろ。勝った喜びを表現してるんだぜ?起きているやつら。今のところ二十人程か。そいつらは一様にこちらを見ながら口をパクパク動かしている。っは、なんだいなんだい。そんなにデスサイズに勝ったことに驚いたかい。まぁね! 俺も驚いてる!「あんだよお前ら。この位余裕だってば!」「―――ち、ちがう! 後ろっ!!」ゆらり、と。「―――バスターライ、フル……ブゥレェイカァアアア!!!」後ろを振り向いた俺の目に飛び込んできたのは閃光。砂埃など完全に消し飛ばしながらこちらに突き進んでくる。ただ、どでかい光が、「あ」オワタ?その一言を呟いた時にはもう。俺は反射的に右腕を前にかざし、完全防御体勢。それでもどうしようもないことなど分かっているのだが。「―――そんなこと、無い!」パキィィィイインと耳障りな音を残して、一瞬で張られた結界魔法。障壁ではなく、結界。俺らの周囲2mほどを包み込み、完全にこの空間を外気から遮断した。それを張り終えたと同時に迫り来る閃光。津波に襲われるとこんな感じなんだろうなぁ、なんて。魔力の奔流は俺らの後ろにいた生徒たちも巻き込み、「―――肉を切らせてぇ……っ骨までしゃぶり尽くす!!」さらに威力を上げた。バヂバヂバヂバヂッ!!!と確かにユーノの結界が削りとられていく。そのときに発生する干渉光は綺麗なんだけど、「もちそう?」「絶対無理っ」「断言するなよ……」「でも、絶対、君だけは守ってみせるからっ!」そう言ってユーノは徐々に人型に戻り始めた。魔力が尽きかけてる。変身魔法を維持すら出来ないなんて。「……無理すんなって」……俺はもう諦めちゃったよぅ。いやいや勝ったと思って馬鹿みたいに喜んでた時にコレはないわ。ここでサラッと負けちゃおうよぅ。大丈夫。非殺傷設定だから死にはしない!! すっげ痛いと思うけど……。しかしユーノは言った。「無理でも何でもやるんだって、昔、君は言ってたじゃないか」ぜぇ、ぜぇと息が荒い。無理しすぎだよ。ホントに。あいつの息子みたいになっちまうぞ? それにさ、そんな言葉は所詮カズマさんからパクっただけの、「こんな状況でそんな言葉、価値なんて無いよ。ニセモノなんだもん。俺は所詮―――」「だったら創ればいい、凄い価値をっ! その言葉に!」ぎしり、ぎしりと結界が歪む。どうあっても耐えられそうに無い。「ボクを、誰だと思ってるの? ボクは、ユーノ・スクライア。君の全てを透し見る…!」ばき、と。「君には、意地がある。 ボクも悔しいさっ……!」ばき。「こんなとこで負けるなんて、……イヤだ!!」ばきぃ。「っだから!」ばきぃん!!硬質な音を残して結界が消え去った。しかしユーノは瞬時に対応してみせる。「―――こんのぉ、障壁っ!!」結界が消えたと同時に展開された魔法障壁。結界とは違い全方位防御ではないので、当然攻撃の余波がソニックブームのように俺たちを襲った。……いてぇよ。「それでも、きっと勝てるからっ」障壁すらも打ち破ろうとするBRBはその威力を止めない。またも防御が食い荒らされていく。「だってそうだろ? 君の意地と言葉にはボクがついてるんだ。ボク達二人がそろって、負ける道理があるもんか」デスサイズの魔法はその威力を一分も弱めることなく、まだまだ奔流はユーノの障壁をこそぎ取っていく。「―――きっと」ばきぃぃんん!! と、またも壊れる防御の術式。そのときユーノは俺のほうを振り向き、「きっと勝てるよ。―――君の拳は、眠らない」俺の頭をその胸に、庇う様に掻き抱いた。同時に、光が、光は―――。。。。。。「―――大丈夫かい!?」「……おぅ、余裕」「そんなわけあるか! アレはデスサイズ先生の使える魔法の中で二番目の威力を誇る技なんだ!」はい。解説有難う。吹き飛んでいった俺たちを助けてくれたのは射線から何とか逃れおおせた生徒たちだった。その数はほんの数人で、他の生徒たちはまたも意識をプッツンされた。「うるせーよお前。て言うか誰だよお前。何でそんなに無駄に熱いんだよお前」「僕かい? 僕の名前は―――」「あ、別にいい。ちょっとやることあるから」「……そうかい」にやにやと。にやにやと笑いながらこちらに近付いてくるデスサイズ・ヘルカスタム……先生。いやいや、アンタつえぇよ。ホントにね。アンタくらいの実力があったんなら俺は楽に延命措置が出来るんでしょうね。「く、くははははっ。いやはや何という体たらく。私はまだT・B・Rブレイカーすら使っていないというのに」「そ、それは貴方の最高位魔法ではないですか!! こんな授業で使うなんて何を言って―――」「いやぁ、やられちゃいましたよ、センセ」「……ふむぅん? なかなか、素直なのかね。それともケモノはケモノらしく、強い者に頭を垂れるか?」隣で、眠るように気を失っているユーノを見る。俺の勝ちを、価値を、何一つ疑っていないような純粋な笑顔のままで。「いやいやいやいや。俺を繋いでおくは……大変そうだ」「―――。ふはっ、なるほどな。そこまで抗うと?」「あったりまえだろ……?」「き、君! もうやめたまえ! 今は感じないかもしれないけど君の身体はっ!! 先生も、何を―――」うるせぇ。「彼の言うとおりだな。その娘に守ってもらった様だが私の魔法は―――」うるせぇ。「だから、もうやめるんだ! 早く保健室に―――」「うるせぇって、言ってんだぁあ!!」「な、何を!?」「うるせぇんだよお前! なんなんだお前! いったい誰なんだお前!!」「だから僕は―――」「喋んじゃねえこのふにゃちんヤロウ! あぶねぇよマジで! 俺ってばお前みたいになっちゃうとこだったよ!!」有難うユーノ。俺はふらつく脚に喝を入れて立ち上がった。スタンバイ状態に戻ってしまっているシェルを、右腕を眼前に構え、「言い訳なんて後で出来るんだ! けど後悔なんてしたくない! こんな授業で魔道師クビになるのもまっぴら御免だ!! ―――だからっ!!」俺の魔力。D+。足りねぇよ。ああ足りねぇ。「だから抗う! 犬みてぇに尻尾振ってご機嫌とんのか!? ちげぇよ、ちげぇよなユーノ!! ―――ここは、抗う場面だ!」足りないならどうする?違う場所からもってくればいい。正直あんまり使ったことないけどね。「こんなチンケな俺にもなぁ、すぐに諦めちまう俺にも、くすぶってるものがあるのさ……。お前には無ェのかふにゃちんヤロウ。俺にはあるぞ、とびっきりの、みんなの度肝抜くようなっ! ―――意地があんだろ、男の子にはぁぁあああ!!! シェルブリ―――ットォオオオオオオおおおおおおお!!!!!!」『了解』シェルの了解を合図に辺りの地面が崩壊する。バキィィン!バキィィン!バキィィン!そんな音を残しながら、崩壊する。俺の稀少技能『精神感応性物質変換能力《アルター》』で。ぼこぼこと穴があいていく地面を尻目に、俺は奥歯に力を込めた。アルターで塵となった物質を俺の魔力に還元。さらにそれを使って構成するのは、「『それ』じゃねぇよシェル」『……』「もっとだ、もっと…」一度構成されたファーストフォームが俺の右腕から剥がれ落ち、地面に落ち、能力で力に還元される。「なんだこの現象は!? ―――ちぃ、滅ぼす!!」っは、このくそちょび髭ヤロウが。デスサイズのくせしやがって。髭もちょこっとしか生えてないくせしやがって。TBRなんて撃たせるかよ。大体俺の後ろには、ユーノがいるんだ。名前も知らない誰かもいるんだ。そんなの撃たせちゃったら大変なことになっちゃうでしょ?だからさ、シェル。「―――もっと、か が や けっえええええええええええ!!!!!!」『了、ッ解……!!』構想は大分前から出来ている。後はそれを形にするだけ。いっつもそこで失敗するわけだが……。みしみしみしぃ! といつもの圧迫感より幾分強い力で俺の右腕を襲うのは、それは期待感。いつもの失敗の時とは違う。何が違う? わからねぇ。それでもいける。黄金の光が右腕を包み、「―――いけるかぁ? 本日が、初のお披露目だ……」『余裕・です。ぶっ潰して・みせましょう』セカンドフォーム、構築完了。同時に俺は髪の毛を手繰り寄せ、首に巻きつけた。巻き込まれて禿げて負けました。コレじゃ洒落にならん。ひゅん、ひゅん、ひゅんひゅんひゅんひゅひゅヒュヒュヒュヒュィィィィイイイイイン……!!!背中の、アクセルホイール始動。今名づけた。それでいい。ぐらり、と体が傾く。制御が難しいなこれ。それでも相手は目の前だ。俺は突っ込む。それでいい。「―――ぬぅ、魔力が集まらん……!!」はは、そりゃあそうだ。俺が、俺たちがあんだけ粘ったんだぜ? それでまだまだいけるなんていったら、そりゃアンタなのはサンにも勝っちゃうよ。「いくぞ、シェル」『いつでも・どうぞ』ぎゅ、と拳に力を入れる。それを腰だめに構え、「ただ殴る。それだけっ!!」『―――Acceleration―――』途端に身体にGがかかる。0から100への馬鹿加速。その速度はファーストフォームより速く、身体にかかる負担は段違い。周囲の景色など風が流れるよりも速く認識外。新幹線? んなもんメじゃねぇよ!「っんのやろぉぉおおあああ!!!」「―――ぐ、障壁!!!」俺は冗談抜きの本気の拳をデスサイズが張った障壁へと叩き付けた。またも攻撃と防御の干渉光が光る。「ぶっ飛びやがれぇぇえええええ!!」「ふざ、けるなぁああ!!」ぶぅん、と障壁の光が増した。このヤロウ、攻撃の為にデバイスに送り込んでた魔力、全部防御にまわしやがったな?けど、そんなもんじゃあ今の俺は、止められねぇぞ。「―――シェルブリットォ……ッバァス―――」。。。。。「お、目ぇさめた?」「……ん。ディフェクト~、んむんむ~」「ちょ、まて、まてまて! 痛い、凄く痛いです!!」完全に寝ぼけているユーノからハグハグされ、右手が超痛いです!!シェルのバカ野郎が言うには構成が甘かったとか。もうね、勘弁してよ。何で攻撃して、勝って、こっちが痛い思いしなきゃならんのだ。『無理に・セカンドフォームを・使おうと・するから・です』「んだよ、お前もノリノリだったじゃん!!」『私は・空気を・読んだ・だけです』「うわ、出たよそれ。私のせいじゃないです~ってか?」『……え? 当たり前・でしょう?』「ど、どのへんが当たり前なのか、今日の夜は眠れないな……。ってかユーノ!! ホント痛いから!!」「んむんむ~(ぐりぐり)」「ホワチャァァァアア!!!」そんなこんなで俺らは勝った余韻に浸かっていた。ん、デスサイズ? 転がってるよ、グラウンドの真ん中あたりに。いや、まさか生徒に負けたショックで自爆しそうになるとは思わなかったからとりあえず気絶させといた。「―――君はいったい……」あん?誰だよお前。ていうかなんだよお前。ていうか皆こっちみんな! ユーノ離れて! 僕たち付き合ってるって思われちゃうよ!!「あの先生が、こんな子どもにやられるなんて……」何だよそのむかつく物言い。言ったろ?「っはん……。―――俺を、誰だと思っていやがる!」