「メガネ。俺は今、とても感動している」「あえて聞こう。それは何にだい?」「……目の前に広がる、桃源郷に」ぱしゃぱしゃ☆きゃ、やだぁ、冷たいですキツネさん♪ えいっ☆ひゃ、やったなあ☆ ほれほれっ☆「もう一度言おうメガネ……」「何度だって言ってやるさ。僕たちは……」「ああそうだ。……俺たちは今、感動している!」とんでもねーぜ。大変だぜ。びびるぜ。ネコさんの乳にはとんでもなくビビッたぜ。なんて凶器。アレだけで稼げるほどのモノを持っていやがる。畜生、なんてスペックだ。着痩せしてるから気付かなかったぜ。俺ともあろうものが……。しかし、そんな俺の驚愕をさらに上回るとはな。やるじゃないか、キツネさん。いやいや、乳はいたって普通。ウエストもいたって普通。尻もいたって普通。とても着物が似合いそうな体形だ。うん。いや、いいんだキツネさん。アンタは可愛い。それだけは言っておく。俺が驚愕したのはそんな事じゃない。キツネさん。アンタ……生えてないんだねカッコワラーイ。ふひひ☆00/~『これが自然の恵みだぜ!』中編~朝。二日目だね。「よし、出発しようか」「あいよ~」水浴び⇒ 覗き⇒ 生えてない☆⇒ キツ×ネコ⇒ 寝る⇒ 起きた⇒ いまここ。相変わらず森は避け迂回。昨日は本当に怖かった。キツネさん達の水浴びの最中に見張りと偽って覗いてたわけだが、危うく食い殺されるとこだったぜ☆ 即行で火を持ってきて撃退したんだけど……いや危なかった。居たんだもん。犬が三匹くらい。焦ったぜ。余談なんだけど人間が道具無しで勝てる動物って30㎏位の犬が限界なんだって。危なかった。野生で火を恐れるから良かったものの、アレで襲われてたら俺たち死んでた。だって30kgなんてもんじゃなかったもん、昨日の犬。見た感じ50はあった。あいつら立ったら俺よりでかいこと間違いなし。てことで森には水を求める以外には絶対入らねぇぜ。「今日はどうすんの、リーダーさん?」生えてないが口を開いた。ネコさんと手をつなぎながら。いいなぁ。俺も混ぜろ。「うん、太陽の傾き具合から言うと……多分七時くらいだ。昼までは一気に進もう」「おお、すげーなメガネ。太陽で時間読めるの?」「まぁある程度はね。管理局に入ったとして、こんな状況にならないとも限らないし」「ほぇ~、いややっぱ尊敬してやんよ。お前結構すげーわ」「はは、ありがとう」ただのマダオと思いきやなかなかやるじゃん。やっぱメガネは伊達じゃなかったか。ちゃんと度が入ってんだね。「それじゃあ行きましょう、か?」ネコさんの目の下にはうっすら隈が出来ていた。疲れているのか。昨夜の影響か。割とハッスルしてやがったからな……。ちくしょう、行き場のない精気が恨めしいぜ。「よし、しゅっぱーつ!」二日目開始!てくてくと。やっぱり話すことなんかは全部オチがメガネに付く。そのキャラだけで食っていけるんじゃないかと思うほど知らないトコでいじられてやがる。今回はちょっと話の流れを変えて、「それでよぉ、俺はようやくたどり着いたわけなんだよ、『全て遠き理想郷』に……」「ディフェクト君……君は自分の親代わりの人になんてことしてんのよ」「で、でもでも、普通気がつきませんか? 寝てる間にパンツ下げられるなんて」「普通じゃ無いのかもね~、それともホントは気付いてるのかもしれないよ?」……いや、それは無い……はずだ。それは俺のずり下ろしテクが物凄いだけで、システルさんは何も気が付いていないはず。だって、気付いてるとしたら……それって、それってっ、「誘ってるんじゃないかなぁ? そのシステルさんって人」「お、大人です……」「……もう僕、イっちゃってもいいよね?」悶々とシステルさんの事を考える。い、いいのか? いいんでしょうか? あの豊満でもちもちした身体を、いいようにしちゃっても。ホントに誘ってんのかな? いや、そう考えてもおかしくは無いんだ。いつも寝るときは俺より早くベッドインしてるし。俺がその隣に入るとがっちり組み付いてくるし。乳が。乳がすごいんだ。絡み付いてくる太腿が気持ちいいんだ。だからついパンツ下ろしちゃうんだ。「……よし。今度は乳を揉んでみようと思う」「小心者~、ガバっと押し倒す位しなきゃ! 私はそうやってネコを手に入れた!」「あぅ、キツネさんなに言ってるですか~っ!」わたわたと手を振り、違うよ、と念を押してくるネコさん。「畜生め、幸せそうにしやがって! イチャイチャしてんじゃねえ!」まぁ俺は『そういうの』に対して偏見無いからいいんだけど、ちょっとオープンすぎるぞキツネ。ちょっと自重しろぃ!それにしても、だ。さっきから気になってたんだけど……、「メガネ、なんか喋れよ」「いや、あの」汗すっごいなお前。そこまで気温も高くないけど、気分悪くなっちゃったのか?「……顔色悪いぞ? ちょっと休むか?」「違うんだ、その……」なんなんだよ。言えよ。言わなきゃわかんないよ。俺は心なんて読めねーぞ。「なんだよ、言えってば」「……トイレに行って来てもいいかい?」便所なんざねえよ!! とは言いません。流石にそこはね、ほら、空気読まなきゃね。ったくよー、夜のうちに済ませとけっての。「崖? 森?」「……森」おっきい方ですね。了承。メガネが壊した、コンパスがついてない地図を懐から取り出した。夜のうちに教えてもらった地図の読み方。ちょうどよく、川が近くにあった。「馬鹿。我慢してたのか?」「……うん」「はいはい、了解。行くぞ」「ありがとう」「キツネコさん、ちょっと踏ん張り出してくっから待ってて」「はいは~い」「了解、です」用を足す時は二人一組。してるときって正直無防備だしね。何かに襲われでもしたら一発で終わっちゃうよ。つーことで、うんこ! メガネが終わったら俺もしとこ。「すんだ~?」「ああ、すんだよ。川に行って来るからそこで待っててくれるかい?」「あいよ~」茂みの奥から聞こえてくる声に適当に返事を返す。ッザッザ、と穴を埋める音が聞こえ、同時にメガネが川に飛びこむ音も。俺も、別にあんまりしたい感じはしないんだけど、丁度いい感じに穴を掘った。うん。ナイス穴。俺の全てをここに堕とす! 早くあがってくるんだ、メガネ!「芸術的なとぐろを巻いてやるぜ……」がさがさ、と草木が揺れる音。お、メガネ上がったか。次は俺の番って言ってたからな。なかなか早いお帰りだ。「おう、結構早かった―――」「―――クマー?」それは可愛らしい外見だった。その鳴き声の如く、熊。しかし身体はまだまだ小さく、一目で小熊だということが分かった。勝てる。逃げ切ることが出来る。魔法がなくても、大丈夫。そう、頭では考えた。反して、身体。―――どくん。心臓が、一つ高鳴る。(なんで、コイツ、俺はコイツを……どこかで……?)「クマー」鳴き声。聞いたことなんて無いはず。ツリに引っかかった連中からしか聞いたことは無いはず。釣られたでクマー。それなのに、身体が震える。歯が、顎がガタガタ、カチカチ。クマー。クマー……。クマー、クマー、クマー。「く、熊ぁ?」「クマー?」会話をしてるわけじゃないよ、もちろん。ただ、なんか怖いだけ。がさがさ、ともう一つ茂みがなった。ああ馬鹿、このタイミングでお前……。「随分静かだね、どうかし―――」「―――走れメガネッ!!!」瞬間、俺は後方に向かって走り出した。同時に異変を察したメガネも駆け出す。背中越しに、「ク、グ……グマ゛ッゥゥウグァアアアアアア!!!」こ、怖いでクマー!!思い出した。完全に『思い出した』。あいつアレだ、俺の事食おうとしてた魔獣じゃねえかよ。プレシアが呼び出して、そんで俺の同胞たちを食い殺してたクマーじゃねえかよ。身体が覚えてる。あの恐怖を。目の前で血と臓物が飛び交うのを。コイツ、あいつらの子供だ!!「冗談じゃねぇええ!! マジ死んじゃうじゃんかこの授業!」「逃げろ逃げろ逃げろ!! もっと速く!!」メガネは俺を追い抜かし、速く、と声をかける。しかし、子供なのだ、俺は。もちろんメガネもまだ子供だけど、それでも俺より背が高い。足が長い。足が速い。魔法が使えない今、身体強化すら出来ない今、後ろから迫ってくるクマーを振り切る事は出来ない。ちらりと後方に視線を送った。「グルゥゥァァァアアア!!」小さな手足をガツガツ動かし迫るクマー。冗談じゃ、「―――ねえんだよお!!」走る走る。森。足場が悪い。予想以上にスピードが出ない。けどそれはクマーも同じ。やつも子供で、俺にすら追いつけないとこを見ると、そこまで運動能力が高い種族じゃないと判断。「急いで! もうちょっとだ!」メガネの声が聞こえた。もうちょっと? もうちょっとで何?薄暗い森に、光が差していた。森の切れ目。キツネさんと、ネコさんがいる場所。そんなところに連れて行く? このクマーを? 四人なら勝てるのか?確認のためにもう一度、走りながら振り向いた。「がぁ、ッガァァァアアアア!!」クマーが前足を振り上げ、光。振り下ろした。「―――ッ!?」ばがぁ!と、激音。閃光は走る俺の隣にある木に当たり、その幹を粉々にへし折った。バケモノ。連れて行く? コイツを? キツネさんとネコさんのトコに?んなこと、「できるわきゃねぇよなぁっ!」目まぐるしく動かす足を、その右足を思いっきり地面に叩きつけた。踏みしめる。大地を。慣性で前のめりに倒れそうになるが、それを気合と根性で踏み止め、とまっちゃダメだ、とやけに切羽詰ったメガネの声なんざ完全に無視し、ぐるぅと回転するように力を込めて、「んだりゃぁぁあああ!!」「ガァァアアア!!」後方に向かって、クマーの眉間に向かって拳を突き出した。同時に顔面に向かってくるクマーの前腕。ごきごきぃ、と嫌な音が響いた。俺の腕と、クマーの眉間から。クマーの、そのメタリックな爪は俺を貫く事無く、目の前三ミリってトコで止まっていた。小熊より俺の腕のほうが長かった。全力で走るクマーのその眉間に、完全に逆ベクトルのパンチ。ずる……、と垂れ下がるようにしてクマーの腕はゆっくり下がっていく。俺の胸をなぜるように、力なく。それでも裂けていく服と肌は、クマーが放った狂爪の威力を物語っていた。荒く息をつきながら、倒れ伏すクマーを一瞥。よかった。はじの一歩読んでて本当によかった! タカムラパンチが当たって本当によかった!! 月の輪熊は無理だけど、小熊ぐらいならね!! それにしても、「……死ぬかと、思った」いやホントに。魔獣だし。しかもなんか飛ばしたぞこいつ。魔法?「だ、大丈夫かい!?」メガネが駆け寄ってくる。「いや、あんま大丈夫じゃねえなコレ。腕からすっごい音したし、多分折れてる」「身体も、ひどいじゃないか……」胸を縦に走る三本の線。結構血も出てる。「いや、こっちはそんな対したことないと思うよ。切れ味鋭かったから派手に血が出てるだけ。すぐ止まるかと」「……ごめん、僕のせいで」「ああ? クソとかションベンなんざ生理現象だろ。謝る必要ねーよ」「でも、僕が昨日のうちに……」「ああ、はいはい分かった分かった。んじゃ背負って行ってくれ。んでチャラな」別に気にすることないのに。やっぱメガネ掛けてるからな、真面目なんだなメガネ。よいしょ、と俺はかがんだメガネの背中に、血が付くのとかまったく気にしないで抱きついた。いいかい? とメガネが声をかけてきたそのとき、「ク、クマァ……」「―――走るでクマー!!」「了解でクマー!!」二日目、夜。いってぇ。めっちゃズキズキしてきた。胸の傷は予想通りたいした事ないけど、腕がヤバイ。超痛い。「大丈夫かい?」「ん、おう、へーきへーき」全然痛いけど。でもね、こう言っとかなきゃ負い目感じちゃうでしょ、メガネが。俺って相当優しいよねコレ。自分で言ってるんだから始末に負えねえよ、ホント。「本当に、あの二人には黙ってるの?」「ああ、余計な心配されたくないし、あんな危険なのが居るって知ったらストレスも溜まるだろ?」「そうかもしれないけど……」「だぁいじょうぶだって! ホラ、覗きに行くぞ! 明日になったらもうリゾートだ、今日が多分最後だぞ!」「あ、ああ。そうだね」そういうことです。キツネさんとネコさんには何も言ってません。右手が腫れてるのなんて長袖で気が付かないし、服が裂けてるのは欲情を押さえられなかったメガネに押し倒されて暴れた結果だと言っておきました。同情されると思いきや、二人はメガネをすっごい応援するしね。次がある! とか。諦めちゃダメですぅ! とか。あの二人、真性モンだぜ……。「今日はどっちがウケだと思う、メガネ?」「……そんなにコロコロ変わるものじゃないだろ、ネコさんだよきっと」「いや、きっと違うぜ。今日のネコさんの瞳には輝きがあった。彼女は……やる気だ!」「下克上、ってやつか……」「行くぞメガネええ!!」「了解です、ディフェクトさんっ!!」そうして夜の時間が始まり、また朝が来る。。。。。。三日目。朝だぬ~ん。メガネの予想では今日で最後。夜までにはリゾートが味わえるとの事。「ふあ~あ……おはよ、キツネさん、ネコさん」「おはようございますディフェクト君!」「お、なんか機嫌良いね、ネコさん」「はい~! 今日の私は、機嫌が良いですぅ!」きらきらピカピカ。やけにネコさんは輝いていた。そうだね、嬉しかったんだね下克上。組み敷いてたもんね。指技で泣かせてたもんね、キツネさんを。ふとキツネさんに視線を送れば、「ん? おはよ、どうかした?」「いや何でも……」……なんか、普通だね、キツネさん。『そういう立場』って逆転したら意外と悔しいもんじゃない?気になる。気になりずむ。俺はキツネさんにちょいちょいと手招きした。耳元に口を寄せ、ごにょごーにょ。「悔しくないの? 下克上されちゃったんでしょ?」「ああ、覗いてたもんね」ばれてらw「アレはさせてあげたの。それをまたひっくり返すのが面白いんだから」「うわぁ大人だぁ……ちなみにネコさんは覗かれてたの知ってる?」「んふ、一週間が終わったら『事の最中』に教えてやるつもり。真っ赤になって泣くのが目に見えるようねぇ」ニヤリ、と非常にいやらしい笑み。……逃げてネコさーん! あんた泣かされちゃいますよ! この女Sだよ! ドSだよ!! ネコさん如きじゃかなわないよ!!「ネコさん。ご愁傷様」「ふふ、昇天から帰って来れなくしてあげるよ~、ネコちゃ~ん」俺には最早見えない速度でキツネさんの指が動いた。五本の指が、それぞれバラバラに。一体どうやってマスターしたのか非常に気になるがとりあえず、何も知らずにニコニコしているネコさんに、心から冥福を祈ります。……アンタ死ぬ(イク)わよ!「さぁ、そろそろ出発しようか」そう言いながらメガネが俺の前に、背中を見せて屈んだ。乗れと、そういうことなんだろう。キツネさんとネコさんがキャーキャー言ってるし、この誤解は解くのが難しいな、きっと。勘違いすんなよ! 俺の尻は無事だ!!「はぁ、そだね、行こっか」まぁ、正直ありがたいので黙って背負われますけどね。さあいけメガネ号。進めや進め。「それでそれで? どうだったの、メガネ君のに・く・た・い☆」「……すごく、熱かったです」とりあえずノってみました。だって冷や汗だらだら流してるメガネがおもしれぇんだもん。コイツは学校に帰ったらホモの烙印を押される。そして俺は必死に抵抗したと嘯く。尻は守りきったと。「押し倒されちゃったんですか? 無理やりですか?」「コイツ、すごく鼻息あらくて、コフーコフーって言ってたんです」「……か、感じちゃった、ですか?」「命の危機を感じたのです」クマーのせいでね。俺に命の危機を感じさせたのはデスサイズ以来だぜ。あのクマー、二度と会いたくねえ。チャリン(フラグが立つ音)。俺の話はもういいでしょ。メガネちょっと震えてきてるよ。今興味があるのはキツネさんとネコさんの話だな。馴れ初めとか。具合とか。「ネコさんはキツネさんのどんなトコが好きなの?」「え、ええ? なんで知ってるんですか?」「いや、全身から迸る幸せオーラを見てたらそりゃ分かりますよ」今日も今日とて手をつないでいる二人。昨日ネコさんは否定したけど、キツネさん言っちゃったしね、手に入れた!って。大体夜のたびにサカってんじゃないよ。自然に囲まれて気分もオープンプン! になっちゃったのかい?「えと、ですね、ドコが好きかといわれますと、非常に困るといいますか……」「なぁに? 私の事好きじゃないの?」「ちがっ、好きです! 誰よりも好きです! ……ただ、ドコが好きかと言われれば……はて?」「ふふ、まぁそんな物かもね、愛とか恋とか。分かんないけど、好き。それで良いんじゃない?」「ホントに、本当の本当に好きですよ?」「分かってるよ~」……イチャついてんじゃねえ! まだ太陽は空の上に輝いてんぞ! まだ早いぞテメエら!「大体、私はコレが初恋なんです。叶ってすごく嬉しいんですよ」初恋かぁ。俺は幼稚園の時の先生だったな。よくおっぱい触ってた。しかしネコさん、初恋にしちゃ随分遅いよね。私の初恋の人はお父さんです~、なんてのはよく聞くけど、初めて人を好きになったのが高校に来てか……。やっぱアレかな、「へ~、アレなの? ネコさんってやっぱ女の子しか好きになれない人?」「分からない、です。けど好きになった人がたまたま女の人で、最初は自分でも戸惑ったんですよ」「だろうね~。って事はアプローチはネコさんからなんだ?」「アプローチって言うか、なんと言いますか……、あんまりした覚え……ない、です」「なになに? じゃあどうやって今の関係?」恋バナ。楽しいよね。女の子だけの特権みたいなトコあるけど、男も好きなんだなぁこれが。「だから言ったじゃん。私が押し倒したって」おおっと来ましたよ爆弾発言。なにそれマジだったの?「ええと、マジで?」ネコさんに聞くと、顔を真っ赤にして、こく、と小さく頷いた。「私寮に住んでるんだけどネコが珍しく、ていうか初めてね、一人で部屋に遊びに来たんだ」「い、言っちゃうんですかぁ?」「何? 黙ってて欲しい?」「あの、えぇと、そのぅ……、いいです、言っちゃって」ネコさんが可愛いんだが。もったいねえ。女同士なんて、なんでそんな非生産的な事を……。「んで、ゲームとかしてて遊んでたの。お腹すいたらご飯作ったし、結局一歩も外に出なかったね?」「はい。だってハルちゃ、……キツネさん、髪も梳いてなかったし、寝間着のままでグータラしてました。私、遊びに行くって言ってたのに、です」「あは~、ゴメンゴメン。それで結局夜まで遊んで、親御さんが心配するから帰りなって言ったときだったねぇ……」「……一体、何が?」気になる。ジラースはいい、早く続きを喋るんだ!!「すっごい泣きそうな顔するの、この子。クラっと来ちゃった」「ああ、それは……萌えるな」「そ、そんな顔しました?」「ためしにキスしたら舌ねじ込んでがっついて来るし」「たまらんな。そういうのはたまらんな」「……恥ずかしい、です」「もうそうなったらさ……」「うん分かる。押し倒すのも分かる」そしてメガネ、何も言わずに鼻血吹くのヤメロ。夜。ホー、ホー。フクロウの真似です。「つい、たぁ!」ご苦労さん、メガネ。ちょこちょこ休憩をとったとはいえ一日中俺を背負ってたんだ。疲れて当然だろう。コテージ。うん。こういうのをコテージって言うんだろうね、って位のコテージが、俺たちの前にはあった。とてもリゾートって感じじゃないけど、それでもこれまで野宿だった俺たちにしちゃかなり眩しく見える。「お疲れメガネ。アリガトね」外から見る限り、明かりはついていない。……マッチョ達はまだたどり着いてないって事だ。注意を払っていた俺たちでさえ二つのコンパスを失った(メガネとクマー)。そしてあいつ等は最初から二つしかないわけで。……遭難してんじゃね? ずーっと断崖を歩けば遭難はないだろうが、それでも水と食料。見つけようと思えば割りと簡単に見つかるが、森に入らなければならない。森に入るとなれば、コンパスは必需品。方向が分からなくなったらアウトだ。「ディフェクト君、早く入ろうよ。もう私クタクタ。誰もこの授業とりたがらないの分かる」「はひ~。私も疲れました、ですぅ……」「ん、おう。そうだな」……明日まで待って、ここまでたどり着いていなかった場合は探しに行こう。てか、たぶん遭難してんだろうなぁ。めちゃ読める。多分あのスネオが余計なことして番長を困らせてるに違いない。クマーめ。次は仕留めるからな。出てくんじゃねぇぞ。チャリンチャリン(フラグの立つ音)。「はぁ……、番長、生き残っててくれよ。お前とはちょっと話してみたいんだから……」「ん~? 大丈夫だって、危険な生き物なんて狼くらいだったじゃん。気をつけてればあの人達もそこまで大変な事にはならないよ」「……そだね」いや、いるんだよ。スゴイのが。お肉が好物で、リンカーコア持ってる、所謂魔獣ってヤツが。子供だったら大丈夫だ。魔法(?)をくらえばアウトだが、番長ほどのガタイの持ち主なら倒す事だって出来ると思う。でも、親が出てきたらさようならだ。人生とさようなら。スネオはいいけど、番長には生きてて欲しい。頼むから死んでんなよ……。「よし、今日はもう寝ようぜ! コテージなんだから布団かベッドかハンモックか、やっと地面以外で睡眠できるじゃん!」「そうだね。それにしてもきつかったよ」「でもでも、すごかったです! 一度も弱音はかないで、ずっと背負ってるんですから!」「そうそう。それがメガネ君の愛の形なのかなぁ?」「いや、だから……っ!」メガネ、こっちをチラチラ見るんじゃない。大丈夫だから。右腕が痛いだけだから。もう痛すぎて麻痺しちゃってますから。でもあと四日間ジッとしておけるんだ。ひどくなる事はないだろ。だから気にしなくていいよ、別に。「はいはいはいはい、さっさと入るよ」いじられてるメガネを余所にコテージのドアを開けた。そして俺たちは衝撃を受ける。そしてそこには夢のような光景が。大きなテーブルが真ん中に一つ、ででん!とあり、その上にはありとあらゆる食材の数々。肉、野菜、フルーツ!しかも端のほうには二つしかないがベッドまである! 最高じゃねえか! よくよく見れば食器棚の中にワインまで入ってる。しかも高級品!!これが三日間の報酬。ああ、最高だ。いやいや受けてよかったよこの授業!!……と、つい妄想に浸りたくなるほどの衝撃だった。「……なんっにもねえ……っ!」ガワだけである。扉を開ければ、そのまま地面だし。え、なにこれ? こっちが妄想ですよね、そうですよね? 僕には妄想を現実にする力があって、所謂ギガロマニアックスって言うんですが誰か知りませんかねぇ? あは、あはは……。「何か、あるね……」口をあんぐりあけて呆けているキツネコとは違い、メガネは割りと冷静だった。メガネの行く先、地面に直接何かの機械がある。「なんだろう、これ。ディフェクト君、これ何か分かる?」寄越されたそれは、「テープレコーダて。今更何処にあんだよこんなの……?」嫌な予感がしますが、再生ですよね。こういう場合。はぁ、とため息を吐きつつ左手で再生ボタンを押した。がちゃ、と懐かしい響き。『あー、あー、聞こえてるかな? キャメル先生だよ。これを聞いてるって事は着いたんだね、リゾートに。おめでとう。 はい、これから君たちに第二の試練を与えまーす。これからスタート地点に戻りましょう! これ聞いた時点でタイムリミット発動だからね。三十時間以内に戻ってくださーい。一応コテージにはカメラあるから、君たちが来た時間なんかも分かってる。ずるしちゃダメだよ? ああ、目に浮かぶな、君たちが“無理だよ!”とか言ってるのが。でも大丈夫。デバイスは持ち込み可能って、僕言ったよね? 持ってきてない人は残念無念。持ってきてた人はラッキッキー! この音声を最後まで聞いたら君たちは『飛行』以外の魔法が解禁されまーす。魔法使えるんだから、楽勝だよね? それじゃ、がんばってねーん』ぱちん、と首から落ちたもの。首輪。魔法を封じる為の物とか言ってたな。それの外側が外れた。今俺たちの首には薄い、テープ状の物が張り付いている。恐らくこれが『飛行』を使えなくする戒。「……デバイス持ってきてる人は?」「僕は持ってきてない。いい機会だと思ってメンテナンスに出した」「……私も、持ってきてない。どうせ使えないって思ってたし」「わた、私は持ってきてます! お守り代わりに持ってきてます!」俺とネコさんだけか。三十時間。間に合うか? 森を突っ切れば何とか……いけるな、うん。デバイスがある以上、番長たちを見捨てる選択肢も俺の中で消えちゃったし、クローンたちの無念を晴らすのも悪くないと思う。ただ、今一つだけ言える事、それは―――、「―――キャメルぶっ殺ォぉぉぉぉおおおおおおおっす!!!」