―――夢を、夢を見ていました。夢の中のわた……じゃなくて、俺は……? 俺? 私、そう、これは『俺《私》』の―――これは、卒業を間近にした時の頃だったかな。00/~『いいから聞けよクソメガネ!』~「ねぇ、ディフェクト」「……んぁい?」珍しくユーノの声に反応して目が覚める。なんか最近避けられてる気がすんだよね、俺。……なんかやっちまったか?ゴシゴシと目元を拭いながら身体を起こした。いつも眠ってばっかって訳じゃないけど、昨日はシステルさんでハッスルしすぎた。身体が睡眠を求めてるぜ。それにしても良い尻だった。しっとりと肌に吸い付く手触り。柔らかな感触。ありゃ一級品ですぜ。「うへへ……」「気持ち悪いなぁ、目覚めてからいきなりニヤニヤしないでよ」「おおっとゴメンよ。でも仕方がないことなんだ」「まぁいいけどさ。それより次の授業サボらない?」「おお、どうしたよ優等生。お前から誘うなんて珍しいじゃん」いつもは俺からだもんね。いやいや、サボってばっかでもないよ、もちろん。たまぁにデスサイズの授業とか、キャメルの特別演習とか、その辺のを逃げてるだけ。俺は悪くない。「ん、だってもう新しいこと教えてくれるわけじゃないしね。次と、その次は自習だよ」「あ~そっか、もう卒業も近いしなぁ……」「うん。天気もいいしさ、お弁当持って屋上行こうよ」「それはいいけど、俺弁当持ってないよ」何を隠そう、俺は学食派。システルさんに作ってもらうのもなんか悪い気がするしね。……まぁ金貰ってる時点でアウトなんですけど。購買で何か買うのもいいんだけど……正直、人だかりがモーゼの何とかの如く割れるのはどうにかして欲しい。なんだ? 俺そんなに嫌われてんのか? 触りたくも無いとか思われてんのか?「ちくしょう……」なみだ、ほろにげぇ。「ちょ、急にどうしたの? お弁当だったらボクの分けてあげるから」「マジ? じゃあいいや。行こうぜ!」いいんだ。俺にはユーノがいるじゃないか。こんなに可愛くて、お弁当まで分けてくれるユーノが。なんで男なのか理解できないね。最近ちょっと冷たいけど、いいんだ。それが大人になるってことなんだ。そうに決まってる。俺が嫌われるなんて……うん、ないない。それはない。「あ、いくら天気良くても流石にちょっと寒いかな?」「だいじょぶだいじょぶ。俺のロッカーの中にブランケット入ってっから、それ持ってこーぜ」「君ねぇ、学校に何しに来てんのさ」「お前に会うためさ、ハニー」「……えとっ、その、……うん、あり、がと……」顔真っ赤で俯くユーノが可愛すぎる件。スレ立てたら俺だけで1000いく。いいかな? もうユーノエンドでいいかな、マイライフ。どう思うよマイライフ。尻の穴とも相談して、よく考えて結論を出してくれ。『とりあえず・勘違いで・朝勃ち・しているのを・直して・下さい』「いいところに気が付いたなシェル」『私の・第一・観察対象・ですから』魔法を覚えろ。「お、ホントにいい天気じゃん」チンポジ直してやってきました屋上。この学校の屋上は生徒にきちんと解放してるのがいいね。花壇とかベンチとかあって綺麗だし。適当なところで、あえてベンチには座らずに腰を下ろした。椅子はまずい。ごまかしが利かねぇからな! 物食うときは流石に見たくねえだろ。だから胡坐をかくんだ。こう、制服のシワをよせて、何とか目立たないように……よし。「どうする? ちょっと早いけどお弁当食べちゃおっか?」「食う食う。腹減ったよ。俺はなんかいつも腹減ってるよ」「ふふ、はいどーぞ」ぽん、と丸々弁当を渡された。つかやけにデカイな。二段弁当じゃん。ユーノってそんなに食べる印象ないんだけど……食っていいのか、これは?「ええと、全部いいの? お前の分は?」「好きなだけ食べなよ、ボクはなくても平気だし」「いやいや、なんかワリーよそんなの」「……言いつつお箸を握るディフェクト君であった」「もぐもぐ……」う、美味え。めちゃくちゃ美味い。蓋を開けたときにあ、綺麗とは思ったけど……何だコレ! システルさんが作ってくれる多分料理と思わせたいのであろうナニカの百倍はウメエ!! 学食も美味いけど……霞むぜ。学食のおばちゃんが霞に消えるぜ!!「うめぇ……」「ホント!?」「ああ、これメッチャ美味い。この玉子焼きなんて半端ねぇんだけど。あ、出汁巻き卵かこれ」「うん! それすっごい勉強したんだ! 巻くのが難しくて、卵もベチャベチャになっちゃうし」そこまで言われて、今更のように気付いた。「……お前が作ったの? ってかそりゃそうか。寮だもんな、弁当なんか用意してくれる訳ねーか」「う、うん。結構好きでさ、料理」「流行の弁当男子ってヤツかぁ、やっぱこういうのが最近はモテるんだろうねぇ……。お前ネコかぶってりゃバリバリ草食系だもんな」「いや、別に猫被ってるつもりはないんだけど……」被ってるだろ。怒ったら超怖いし。俺は見たぞ、いつだか教師(キャメル・クラッチ)に土下座させているのを。「それにしてもおかずのチョイスがいいわ。俺の好物ばっかじゃん」「そ、そお? それはよかった、えへへ」……可愛い。ユーノが可愛い。むしろユーノをオカズにしてもいいですか? 制服のシワに隠れちゃいるが俺のジュニアは本気を出してるんだぜ?『待て』「ああ、まだ早いな」「どうしたの? あ、これも食べてみて。下味つけるトコから全部やったんだよ」「あいあい」ユーノが指したから揚げちゃん。……けど俺アレなんだよね、弁当に入ってるから揚げってなんか苦手っつーか、ベチョってなってるのが――――――サクッ。「な、なんだってぇぇえええ!!」『馬鹿な! 弁当から揚げが・サクサク・ジューシー・だなんて!』「宇宙人の仕業だったんだよ!」「ボクの仕業だよっ!!」そうだとも。ユーノの仕業だとも!しかし美味い。そして可愛い。お前もうボクっ漢(こ)として売り出せ。大ブレーク必至だから。超次元アイドルのメンマ・リーとか速攻で追い抜くから。ッキラ☆とか言ってんじゃねえ。にゃんにゃんとかほざいてんじゃねえ。萌えたけど。「しかし美味え! 止まらねえ! 俺の箸捌きが止まることを知らねぇぜええ!!」「あ、これも食べて!」と、今度は煮物を指した。疑いはもうない。美味いに決まっている。行くぞ俺は! スクライアの箸で掴む!「ん?」……箸?今更ながらに気付いた。なんで箸? こっち(ミッドチルダ)じゃナイフとフォークが主流なのに。箸がないわけじゃないんだけど、ユーノだってナイフとフォーク使ってた気がするし……。「どうしたの? 煮物、嫌いだった?」不安げに、上目遣い。可愛い。可愛すぎる。おかしい。ユーノが男なんておかしい。箸の事なんてどうでも良い。「……神は死んだ……もぐもぐ、うめえ……。こんなに美味いのに、なんで……」「なんかおかしかった? 変だった?」チクショウ。なんでこんなに美味いんだよぅ……。「超、美味い」「あぁよかった~」「ほれ、お前も食えよ。自分のなんだから、あ~んしろあ~ん」から揚げを差し出した。これマジ絶品だから。作った本人に言うのはなんだけど、食わなきゃ損するから!「い、いいよいいよ、全部食べちゃっていいから!」「よくねーよ! 食え! 食うんだ! 今から十秒以内に口をあけなきゃ口移しを敢行する!! サンとアシタカみたいな事する!!」「え、ちょ、ちょお!」「い~ち、に~い、じゅう! ハイ十秒!!」「ま、まって、まってまって! あ~ん、あ~ん!」三秒しかたってませんけど。口をあけたユーノに箸を突っ込んだ。「……美味しい」「だろ?」「ボクが作ったんだけどね」「俺が食わせてやったんだよ」「おーぼーだぁ」怒っていますよ、と笑いながら、そして可愛らしくユーノは唇を突き出した。ターゲットロックオン。狙い打つぜぇ!『まだ・早い』「おぉっと、さっきのは危なかったぜぇ?」「ん、どうかしたの?」小首を傾げるユーノ。ターゲットロックオン。狙い―――、『まだ・早い』「おっとっと、危ねえ危ねえ」「あ、ご飯粒ついてる」俺の頬から米粒を剥ぎ取り、そのまま俺の口の中に指ごと突っ込んでくるユーノ。ターゲットロック―――、『まだ』「ぬ、ぐぅ……。自分ではなく、指ごと俺に食わせるか。なんという破壊力……!」「あは、おでこに机の跡ついてるよ?」ふぅふぅ息を吹きかけてくるユーノ。ターゲッ―――、『ま』「死ぬかもしれんね、俺」その後、可愛い(ユーノ)に悶えながら、完☆食!! いい感じにお腹も膨れた。さあ、そしたら何が来るんだ。そう、お昼寝、だっろぉおがああ!!「ユーノ、枕になって」「いいよ~。膝? 腕?」「お腹~」「はいはい、おいで」苦笑しながらユーノは読んでいた本を閉じ、ころん、とその場に寝転がった。もぞもぞ芋虫のように俺は移動し、そのお腹の上に顔面を埋める。ああ、なんか久しぶりだなぁ、この感じ。「ん、ユーノなんかいい匂いすんね」「……そうかな? 特に何か付けてる訳じゃないんだけど?」じゃあこれはユーノ臭か。なんか臭って書くとくさい物みたいだけど全然そんなことないから。超いい匂いだから。安心する。眠い。「ん~、眠れそう。おやすみ~」「うん、おやすみなさい」上下するお腹がすげえ安らげる。ああ、これはもう……。。。。。。『色々と・惜しいことを・しましたね』そしてシェルは音声を発信した。読んでいた本を枕にし、腕で顔を覆っていたユーノがそれに反応しピクリと動く。自身の腹の上ですやすや眠る存在を、笑みを湛えて眺めた。「……大丈夫?」『ご安心を。完全に・眠って・います』主が眠っている時にしか訪れないこの時間。機械であるシェルが感じるのは間違っているかもしれないが、これは『楽しみ』にしていた、という事なのだろうと決め付ける。「はぁ、ボクってそんなに分かりにくいかな?」ユーノの言葉。シェルが人間だったのなら、ここは『苦笑』をするべきところだとロジカルに判断。親しみやすさを出す為に、ない筈の『感情』を作り上げる。『いえいえ・むしろ・露骨な・くらいです。最近は・マスターを・起こしに・来ませんが・どうか・なさったんですか?』そう、割と最近までユーノはディフェクトを起こしにきていたのだ。主が起きるまでの時間。それがユーノとシェル、二人の『本音』が語られる時間だったのだ。「ああ、ディフェクトのファンクラブとかいうのがいてね、その子達がちょっと面倒なんだよ、もぉ……」『なるほど・あの・○○○○達・ですね』「シェリー、あんまり汚い言葉は使っちゃダメだよ?」シェリー。それは秘密を共有した時に付けてくれた愛称。『この時間』だけの呼び名。『本気の・ユーノ様より・マシかと』そもそもシェルが○○○○という言葉を始めて聞いたのはユーノからだ。初めて聴く言葉。登録されていない単語。素早く検索をかけ、自身の悪口フォルダの中に追加した。「……はぁ、こんなだから猫被ってるとか言われるのかなぁ、ボク」『私の・マスターは・一番ブ厚い・猫皮に・気付いて・いませんが』「カケラも?」『爪の・甘皮ほども』「そりゃさ、言い出したのはボクだけど、いくらなんでも気付いてよさそうなもんじゃない?」『一回・信じたら・疑いません・からね。私の・マスターは』「鈍感とか、そんなんじゃないんだよね。いや、ちょっとはあるかな……。まぁ、それよりも一直線すぎるんだよディフェクトは」猪突猛進。言うならばこれか、とシェルは自身の『四字熟語フォルダ(笑)』を開いた。自分のマスターはマルチに物事を考えることが出来ない。いや、『自分では・よく考えてる・つもり・みたい・ですけどね』だからこそ始末が悪いんだよ、とユーノがため息をつく。『いっそのこと・迫って・みたら・どうでしょう?』「な、何言ってるんだよ! そんなのっ」『起きますよ?』「―――っく、だ、だからってそんなこと出来ないよぉ……」面倒だ、『人間』は。もし、自分だったらそれは最良の選択のように思える。『人は・面倒・ですね』「……? 人は?」『ええ。機械の・私には・最良の・選択のように・感じますが』「……ああ、なるほどね。あは、ボクも馬鹿だな」そう言ってユーノがこめかみを叩いた。「ふふ、シェリーも、もう少ししたら……分かるかもね」『何を・ですか?』「ん~、なんて言ったらいいのかな。今ボクが抱えてる『モヤモヤ』とか、かな」『私に・『モヤモヤ』は・存在・しません』「まぁまぁ、憶えといてよ」『了解』シェルブリットには理解できない。『今の』シェルブリットには。もし『モヤモヤ』が存在するとすれば、それは重大なバグフィックスだ。サポートセンターへ電話しなければならない。解析不能の四文字が返ってくるのは目に見えているが。しかし、ユーノが言うような『いつか』が来るのなら、それはそれで『楽しそう』だ。シェルブリットは、そう『思った』。『ところで・ユーノ様』「ん?」『予行・演習を・しましょう』「ん~?」『マスターを・起こさないよう・ゆっくり・身体を・起こしてください』「……オッケー。膝枕への移行完了」『さぁ・見えますか・マスターの・それはそれは・雄大な・モノが』「ぶはっ! なぁ、なななな何を!」『触るのです・ユーノ様。私が・手塩にかけ・育て・観察を続けた・ソレを』「……で、も……」『興味は?』「いや、そりゃ、人並には……。ボクの場合ちょっと特殊だし……」『今しか・ありませんよ』「……じゃ、じゃあ、ちょっとだけ」―――むんず☆「こ、こんなに?」『すごい・でしょう?』「ちょっと怖い……。うわぁ、すっごい熱いよ、服越しにこんな……」「―――いや、何やってんのユーノ?」『あ』「―――ッ!!」「え、なに? なんでユーノが俺のチ―――」「―――ぃぎゃぁぁぁぁああああああああ!!!」―――メメタァッ★ユーノ・スクライア。初めてディフェクトを殴ったその日である。。。。。。「……ん、ん」意識が上昇。少しだけ寒い。けど、あったかい。なんだっけ。何してたんだっけか……。ふわりと鼻腔をくすぐるいい匂い。あ、ユーノだこれ。「ん~……ゆぅの~?」重たい瞼を開けゆっくりと目を開けると、顔面の数センチ前にユーノの顔があった。流石に少し驚いたものの、それを超える驚きでかき消される。「……つか夜じゃん」寝すぎだろ。学校終わっちゃってました。あるぇ~? 俺って寝起きは悪いけど、意外と短時間でも起きる人なんだけどなぁ……。ここまで爆睡したの久しぶりじゃね? 二現目から……あたり真っ暗だし、もう七時は超えてんだろーな。軽々と八時間くらい寝てんじゃん。しかしユーノも珍しい。コイツの寝顔ってなかなか見れないんだぜ。デスサイズ戦で見た一回しかない。少し前までシステルさん家によく泊まりに来てたけど、俺より遅く寝て俺より早く起きるからな……。少し堪能しましょう。がっちりホールディングされて抜け出せそうにないし。「いや、改めて見ても可愛いな、やっぱり」それより俺はなんで並んで寝てるんだろ。お腹を枕にしてたのに、いつの間にかユーノの腕枕じゃないですか。ブランケットまで掛けられて、ドンだけ寝相悪かったんだろ。ごめんねユーノん。「しかし可愛いな。どうなっているのでしょうか」『さっき・から・可愛い・連呼・しすぎです』「おは。てかお前ね、起こせよ。夜じゃねーかよ」『生死を・彷徨って・いましたしね』「いきなり何を言っているのでしょうかアナタは?」『御気楽な・脳で・羨ましい・です』「ンだとこんちくしょう! いくら俺でもそろそろ怒るぞ!」と、俺の声に反応したのかユーノの瞼が動いた。暗くてよくは見えないけど、殆んどバタフライキスしてるようなもんだから瞼の動きくらい分かるよね。「ふ、ん~……あれぇ、なんでぇ?」「おはこんばんわ」『おは・こんばんわ』「んふ~、うん、おはこんばんわぁ……ん~ふふ、明晰夢だぁ」そう言ってユーノはがじがじ俺の鼻の頭をかじり始めた。なにごとw『寝ボケ・マックス』「ぱねぇな」「……」「ユーノ?」「ああ、うん。おはよう」「今更気取って何か意味はあるか?」「……やっぱり無い、かなぁ?」「超可愛かったけど」「……それならそれでいいや」そうしてやっとユーノホールドがとけ、ゆっくりと立ち上がる。うう~、やっぱさみー。天気よかったからなあ、放射冷却がすっごい。早く帰って、風呂とか入って温まらないと風邪ひいちゃうぜ。「ユーノ、早く帰るぞ。寒い」返事がない。ただのしかb―――、「ユーノ?」「……ねえディフェクト、あそこ、何か……いるよね?」「……え?」夜。学校。屋上。ユーノが指したのは、第二校舎の屋上だった。ちなみに俺たちがいるのは第一校舎。その隣に建っている第二校舎の屋上に、ぽぅ、となにやら光るものが。「いやだ」「まだ何も言ってないじゃないか」「俺は夜の森と夜の学校は嫌いなんだよ。あと掃除機の排気風のニオイも嫌いだな。さらにデスサイズは正直殺したいと思ってる」「……ユーレイは?」「見たことないから嫌いかどうか判断できん」「ん、なるほどね。……でも一体なんだろうね、警備会社かな?」いや、それはないだろ。多分だけど、まだ七時くらいだし。生徒も残ってておかしくない時間帯だ。ユーレイかどうかは分かんないけど、きっと碌な事にはならないはず。今俺の勘は冴え渡ってるぜ。特に理由はないけど。「まぁ、ちょっとスリルを求めたアベック辺りじゃない?」「アベックって……また随分な表現出したね」「復刻すると信じている」カップルとかもう古い。これからはアベックを推して行くぜ、俺は。『覗きに・行きましょう』「AVならいいんだけどさ、リアルにそういうの見るのって結構引くよ?」「まるで覗いたことがあるような口ぶりだね、君」「たまたまだよ。夜に友達と公園でこおり鬼やってたら車がぶ~ん。んで出てくるかと思いきやそれは既に始まっていたって訳さ。車はバックしている。なのに聞こえる嬌声。ゾッとしたぜ。一体どんなテクを使っていたのやら……」『引いていた・割に・きちんと・見て・ますね』それはほら、雄の本能ってヤツでしょう。後部座席側からバリバリ覗いてたから。すごかったよ。けどなんかね、ん~なんて言ったらいいかな。……抜きどころが分からないって感じ。いや、AVってよく出来てるよホント。「ま、シカトに限るよこういうのは。あんまりいい予感しないし」『出ましたね。ニュータイプ・でも・ないくせに・勘に・頼る。そんなだから・いつまで・たっても・強く・なれないん・ですよ』「ちょ、シェル、そこまで言っちゃ可哀想だよ」「なんで俺が哀れまれなきゃならんのじゃ……」俺だって努力してんだよ。毎日毎日スフィアを飛ばしては自爆してんだよ。どうやったら強くなれるんだよ。教えてくれよ!シェルはちっとも成長しないし、悪口ばっか言うし! 泣くぞ! その内俺は泣くぞ!チクショウ。こんちくしょう……。「……ファァァァアァアアアァアァァァアアアアック!! よし、行くぞ! そうだ、俺はニュータイプじゃない! 勘を頼るなんてダメだよね! よし飛べユーノ! 俺を連れてあそこに飛べぇぇぇええ!!」「あ、ゴメン。今、魔力切れてて……」「あふんっ」最後まで格好がつきません。俺はもう死んだほうがいいかも分からんね。こんな主人公でいいのでしょうか?「何がいるのかねぇ……」第二校舎の屋上、その扉を開ける。ぎ、ぎ……、と若干錆びたそれは音を立てた。同時に風が吹く。肌寒い。校舎内から一歩屋上に出れば、やはりそこは寒かった。肌が粟立ち、思わず握り締めているブランケットを俺、ではなくユーノの肩に掛ける。「ありがと。君は寒くない?」「寒い」「ほら、おいでよ。二人でも十分足りるよ?」「おう」キョロキョロ辺りを見回しながらユーノと二人でてるてる坊主のように包まった。あったけー。いいわこれ。いつか恋人同士でしたいことトップ10に入るね。それにしても、光りは何処だ。ユーレイさんがいるのなら挨拶位しておいたほうがいいだろう。俺もいつ仲間になるか分かんないしね。「どこ?」「たしかあっちだったと―――」ユーノが指を指した瞬間、「―――誰だ!?」ちょっとビビッた。けど、何だよ。人かよ。しかも一人かよ。ユーレイじゃねーのかよ。つまんね。あぁ、あとお前フェンス越えて立ってると危ないよ。落ちたら死んじゃうからね。……ああ、そうだった。魔法あるじゃんね。危険なんてないか。「つまんね。帰ろうぜ」「そう? ボクはすごく楽しいよ」『っけ・自殺・志願者が・一人か。逝って・しまいなさい』「―――え、ちょ、ま! 待ってよ! せめて何か声をかけて行ってくれないか!?」うるせーなぁ。なんだよ、死ぬんならさっさと逝っちゃいなさいよ。本気で死にたいんなら落ちて死ぬだろうし、ちょっとでも後悔とかあったら反射的に魔法使っちゃうって。いいよね魔法使い。根性試し感覚でノーロープバンジーが出来るんだぜ?しかしユーノあったかい。手を握ってくるのが可愛い。指を絡めてくるのがヤヴァイ。よかったねお前。ユーノいなかったら突き落としてたぞ。「はぁ、はいはい了解。なんて声かけて欲しいの?」「い、いや、だから……、こんな状況になってる訳とか、聞きたくないのかい?」「はあ? 知らないよンなもん。どーせ管理局の試験に落ちたとか言って、そんでやる気のない自殺なんじゃないの?」「……」「ディフェクト、それかなり核心みたいだよ」「っだらねぇ……じゃ、風邪ひくからお前も早く帰れよ」そう言って俺はユーノの手を引いた。馬鹿だよ、馬鹿。そんな簡単に死ぬくらいだったらその身体寄越せ。ソッチに憑依しちゃるわ!「―――き、君には分からないんだ! 僕がどんな思いで試験に臨んだかなんて!」ほんとウゼーなあのメガネ。暗いのにキラキラキラキラ輝きやがって、叩き割るぞ。隣のユーノを見るとやや困り顔でこくりと頷いた。「……ああもぅ! よし分かった、聞いてやるよ! 何だ、どんなつもりで試験に臨んだんだ?」「言ったって君には分からないさ……」「ッ! マジで突き落とすぞテメエ!」聞いて欲しいのか欲しくないのかワカンネーよ! メンドクセー! コイツ面倒だよ! 意味わかんないメンヘル処女に付きまとわれるくらい嫌だよコイツ!「だってそうだろう!? 君みたいな天才には、才能のある人間には僕みたいな凡人……他の人の気持ちなんて……」「ああ? テメエ誰を指して才能があるなんて言ってやがんだ?」ユーノだよな? そうだよな? まさか俺の筈はねえ。「君等の事さ! ディフェクト・プロダクト! ユーノ・スクライア! 飛び級に飛び級を重ねてここに入学して! ヘルカスタム先生にだって勝って! 他にも、他にも……いつも、輝いてるじゃないかぁ……」泣きやがった。訳わかんね。ガキかテメエ……いや、ガキか。ユーノは確かに天才だよ。けどそれでも万能じゃない。攻撃魔法なんて殆んど使えないし、デバイスを操ることも全然ダメだ。だからこそユーノは磨いたんだろ、他の部分を。そうやって、天才って呼ばれてるんじゃないのかよ。第一、俺に才能があるとか言ってる時点でコイツは何にも分かってねぇ。スフィアが3メートルしか飛ばない魔導師は優秀なのか? スバルでさえもっと飛んでたぞ。ただ殴るだけしかない、こんな俺が、天才か? 才能があるのか?だから、「ざけんじゃねぇ、何だよそれ。サイノーサイノーってよぉ。俺もわりかし人の事天才だとか何とか言うけど、お前とは違うぜ。俺はユーノが近くに居たから気付いただけかも知んないけど、それでもなぁ、天才には天才の悩みがあんだよ。 お前、なんか勘違いしてんじゃねえの? 何でも出来りゃ天才かよ? 強けりゃ天才かよ? 輝いてりゃ天才かよ? ……馬鹿が。結局そりゃ妬んでるだけじゃんか。 確かに人が持ってるものは綺麗に見えるよな、その通りだよ。俺は射撃ができる魔導師が羨ましくてならねぇよ! 戦闘の幅は増えるし、何より痛くねえ!! 最高じゃねーか! 自分が痛みを感じる事無く人をボッコボコに出来るんだぜ!」「……なに、を言っているんだ……君は?」「いいから聞けよクソメガネ!」話の腰を折るんじゃねえ。あと鼻水拭け。「俺ぁお前みたいなのは嫌いだよ、クソッタレ。人の努力も見もしねーで、『アイツには才能があるから敵わない』って、そんな風に斜に構えて人生こなして、そんなんで楽しいかよ、ああ? 凡人って何だよ、魔法が使えるその時点で、この学校に入学してる時点でお前は『才能』があるんじゃねえのかよ? 使えない人間なんざ五万といるのによお。その程度じゃ満足できねえってか? んじゃドコ目指すんだよ? 上に行くたびに他人の『才能』みて、挫折して、そのたびに自殺すんのか? っは、心臓が百個あっても足りゃしねぇ。 当たり前だけどな、全然悪いことじゃねえよ、上を目指すのは。けどなあ、そこにいる奴らは誰だって努力してんだよ。誰だって何かしら、『自分に合ってること《才能》』を見つけてんだよ」「……自分に、合っていること?」「そう、自分に合っていること。人に向き不向きがあるのは当たり前じゃねえか」結局、才能ってのはそういうことなんだと俺は思う。もちろんそれが『自分のしたいこと』と一致しているかなんてわからない。俺は射撃が使いたいけど使えない。接近戦が『自分に合っていること《才能》』。ソレを伸ばすしかないから今がある。ユーノだって、ホントはデバイスを使って攻撃魔法を沢山使いたいはず。けど、ユーノの『自分に合っていること《才能》』は、一概には言えないけど、補助と防御。はぁ、人生って……ままならねぇ。「……けど、僕には分からない。自分に合っていることがなんなのか……。管理局に、武装隊に入りたくていっぱい訓練したのに、ソレは僕には合っていないってことなのか?」「そうかもしれねぇし、そうじゃないのかもな。俺にはわからねぇよ」「僕にも……出来るのかな? 自分に合っていることを探すことって……」結局コイツ、慰めて欲しいだけなんだろ? うすうす自分でも気付いてたんじゃないかね、多分合格できないだろうって。俺は、コイツの『才能』を知ってるから、別に口出しするまでもなく、そのままの流れで行って欲しかったんだけどね。ほんとコイツ―――、「―――うっぜぇなぁもう!! 分かってんだろ!? 出来る出来ないが問題じゃねえ! やるんだよっ!!」「……うん。そう、だね。ホントにそうだ……ありがとう」アホたれめ。励まして欲しいなら最初に言え。俺等と同じ飛び級仲間じゃねえかよ。励ますし、力にだってなってやれるのに、自分の内に篭って考えてばっか。そんなんだから自殺とか馬鹿の行き着く果てに考えが進むんだよ。自分で自分を殺すとか、そりゃあかんわ。「俺達もう帰るかんな」「ああ、ゴメンね。ちょっとスッキリした」「あ~はいはい」そう言って踵を返した。ユーノの腰に手を添えて。アッタカウマー!「……ふふ、ちょっとかっこよかったよ」「馬鹿にしてる?」「ぜ~んぜん。本心さ」『という・猫を・被って・います』「あ、ちょっとシェル!」ギャーギャーと。俺の右腕と話すユーノは絵面的にシュール。……まぁ、言っても大丈夫かな? 大丈夫だろう。うん。どうせ気付くことになるんだしね。「ああ、それとさぁ……」「……うん?」メガネに声をかける。フェンスの向こう、星を眺めるその瞳は……うん。なかなか良い顔になっておる。イケメンめ、撲滅してやろうか。「お前の部隊運営・指揮理論と戦術論文。アレはかなりよかったぞ、グリフィス・ロウラン」「あ……僕の名前、初めて……」「さてね。苦手なもんで、すぐに忘れるよきっと。じゃあな、風邪ひくなよ」「っあり、がとう……、ホントに、ありがとう……っ!」「っは、キモイっての、メガネ」男の泣き顔で可愛いのはユーノと俺だけ!「かっこつけちゃってまぁ」『マスター・あんまり・かっこ・つけてると・惚れますよ?』「ソレはやめとけ」右手が恋人とか……洒落にならんよ、ホントに。なんかずっとやってそうじゃん。ずーっっっと弄くってそうじゃん!「それにしても、なかなか考えさせてくれる話だったよ」「……だからお前馬鹿にしてんだろ?」「そんなことな~いよっ」そう言ってユーノはつないだ手を、指をわきわき動かす。機嫌よさそうに笑うその顔は、夜なのに太陽のようで……。ちくしょう。だから、なんで、おとこ、なんだぁぁぁあああああああ!!! ああ! あああああああああああああ!!! なぁぁぁああああああん!!!いいのか俺!? ホントにユーノエンドに行き着くぞ!?『結局・あの男は・何が・したかったの・でしょう?』道中、ふとシェルが疑問をこぼした。おやおや、理解できなかったのかい? そんなに俗っぽい性格してる不思議デバイスの癖して。あれはね、まぁ、「誰かに、背中を押して欲しかったんだろうね」『突き落として・欲しかった・と?』そっちじゃねぇよ……。