やぁ、皆さん始めまして。僕はディフェクト・プロダクト。妙な名前だけど覚えてね。Asから読み始める猛者もきっと居るだろうと思って取りあえず自己紹介さ。無印ではとんでもない怪我をしてしまってね、つい最近まで眠ってたみたいなんだ。……それで今何をしているのかって言うとね、「君がディフェクト君か。お母さんの事、残念だったね」「いえ、気にしていません」ギルが居るんだ、目の前に。髭面のナイスミドル。イギリス人らしく、俳優顔負けの雰囲気。柔らかい物腰。口調。どれをとっても良い人そうなんだよね。けれどコイツだ。コイツがはやての足長おじさんで、んで殺そうとしてる人。許せねぇよ。クロノの親父さんのことがあったって言っても はやて無関係なんだし。まぁ、これは俺が『リリカルなのは』を見ていたからこその感想なんだけどさ。それでもやっちゃいけない事は確かにあるわけで。どんなつもりで俺に接触してきたのか気になるが……どうせ碌でもない理由なんだろうね。「ふむ」少しだけ考えるようにグレアムは髭をさすった。似合いすぎる。なんだろ。いきなり“君には死んでもらう”とか言われなければそれでいい。ソファーと机しかない部屋に二人っきり。俺をここまで連れてきたクロノも居ない。超怖いんだけど。「クロノから記録は見せてもらった。君は中々才能にあふれる若者のようだ」「……そうですか、有難うございます」とは言っても俺がプレシアを殺したことは知らないはず。うん。嘘ついたからね。プレシア穴の中に落っこちて行ったって。ユーノとシェルだけだ。真実を知っているのは。俺は言ってもいいかなぁと思ってたんだけど、ユーノに止められた。ユーノが止めるってことはホントに言わないほうがいいって事だ。だからグレアムが見た記録ってのは、VSクロノとかVSプレシア(前哨戦)になるはず。クロノは特に問題にはしないって言ってたから大丈夫だ。「君は管理局に興味はあるかね?」=管理局に入るかい?だよね。裏を読め。俺はリーゼとすでに接触している。猫姉妹から情報は来てるだろ。闇の書の主、八神はやてと一緒に居た魔導師。それだけで警戒レベルはマックスのはず。俺がグレアムのおっさんだったら絶対に地球には行かせない。拘束したい。目の届く所に。多分、そういうことだろ?そもそも管理局に入りたいなんて思っても無いし、ここは断るべき所。「訓練とか、そこに居る人たちや、どんな所なんだろうなぁとか、純粋な興味ならありますが?」「ふ、面白い言い回しだ」「……俺は、局員になるつもりはありません」「それは何故かな。それほどの魔法技術を持ちながら。持て余すのではないかね」性欲なら持て余し気味だが魔法を持て余すことは無い。持て余すほどに魔法を使えたことが無い。「いえいえ。俺に使える魔法なんてちょっと爆発させるくらいのもので、そんな大した事は出来ませんよ」「しかし『戦闘能力』に限定すれば、君はかなり高みに居るようだが?」「逆に言えばそれしか出来ない。そんなヤツ局に入れてどうするんですか」「……何にでも、使いようはあるという事だ」目の奥に暗い光が宿ったのは一瞬。それはすぐに消えうせ、また暖かい笑顔に戻っていった。このおっさん、怖い。高校の頃バイクパクって捕まった時の取調官、その時の『飴と鞭』の飴と一緒の顔してやがる。俺はひっかからねぇぞ。飴も鞭もどっちにしろ捕まえるんだから。情に絆されちゃいけない。良い人そうなだけだ。「……俺は、管理局には入らない」「ふむ、なるほどな……」またも髭をさする。雰囲気は柔らかいくせに空気が重い。奇妙な矛盾。飲み込まれそうになる。「……私は恐らく、君の妹さんの保護監察官という立場になるだろう。クロノが持ってきた事件だからな」「……? そうですか」知ってるよ。原作ではそうだったんだから。「私はこう見えても中々発言力を持っているほうでね」「そう、ですか」見たまんまじゃねぇかよ。ああ、ちくしょう。「君の妹さんの罪をこれ以上軽くすることは出来ないだろう。それくらい、クロノはよくやってくれている。 ……だが、罪を軽くは出来ないだろうが、裁判を優先的に受けさせるくらいなら何とかなるものでね」「……」さて、とグレアムはソファーから立ち上がり、ガラス越しに夜景を。そして口を開いた。「君は、管理局に興味はあるかね?」01/チェンジ・オブ・ライフ「……最悪だぁ……」グレアムの部屋から出てトボトボと。『なぜ・ですか? フェイトの・拘束も・短く・なるのでしょう?』「……それはいいんだけどね」まだ返事はしていない。考えさせてくれって言って出てきた。選ぶのか、俺は。フェイトか、それとも はやてか。出来ることなら両方欲しい。でも俺の身体は一つしかない。どうすりゃいいってんだよ。クロノにグレアムのおっさんの事ぶっちゃけても今の段階じゃどうしようもないし。ってか信じてくれるわけねぇか。……いや、闇の書があるってのは事実だし……いけるか? 今のうちに存在を明らかにして、早めに対処してもらえば何とかなるかな?「って、馬鹿か俺。それじゃヴォルケン達が消えちまうじゃんか」『……なにを・言って・いますか?』「今後の対策に付いて思考中。お前も混ざれ」『メタな・発言が多すぎて・ついて・いけません』「じゃあ君には俺の過去について教えてあげよう」あーで、こーで、こうなっちゃったんだ。ハッハー☆『なるほど。ですから・マスターには・予知発言が・多かったのですね』「おう。黙っててごめんね」『いえ・打ち明けてくれて・嬉しいです』はい、説明終了。いいだろ? この流れるような感じ。これで俺が憑依してるって打ち明けたんだぜ? だぜ?まぁ、それは置いといてだよ、マジでどっちを取るか。確かヴォルケン達が蒐集活動を始めるのは11月前後のはずで、今が……、「今は何月何日だ? 地球的意味で」『7月18日・です。地球的・意味で』だから、三ヶ月ちょっと。俺は高校は卒業してるから、管理局に入ったとして、訓練校が三ヶ月間ある。訓練校を終わったくらいでエースの始まりかよ。たまんねぇ。何とかしてやりたいけど、俺には何にも出来そうに無いじゃないか。フェイトの拘束を短くして早めに送り込むか? それで解決するわきゃねぇよな。つっても、闇の書がどういう存在かも詳しくない俺がはやての近くに居てどうにかなるっかってーと、どうにもならない。何よりもまず情報だと思います。何にも対策が練れない。そして情報といえば管理局の無限書庫。ホントに、俺にはどうしようもない。原作通りに進んでくれるのならそれでいいけどさ、無理でしょ? 俺が居たせいで はやては なのはと知り合っちゃったし、フェイトとは挨拶する仲だし。なんか余計なことしかしてねぇな、俺。そりゃ作者も“エース書けない”ってなるわ。『もう・流れに・身を任せる・というのは・どうでしょう?』「いや、読者はうまい具合の原作レイプを望んでいる気がする」『……たとえば・どういった?』「誰も怪我せず誰も傷つかず誰も泣かない超ハッピーエンド」『夢・ですね。レイプ・しすぎです』「男の子は夢見るもんなの」無理だろうけどね。どう考えても。そもそも選ぶとか出来ない。俺の中での優先順位。はやて一番。フェイト一番。アルフ一番。なのは一番。ユーノ一番。他も、変な意味じゃなくて、俺のこと好いててくれて、信用してくれてる人は全部一番に成り得る。欲張りすぎだ。その内破綻すんじゃね、俺。「なぁシェル、お前の中の記録に夜天の書、もしくは闇の書って無い?」『……申し訳・ありません。該当する・記録は・無いようです』「ん。いや、言ってみただけだから気にすんな」無いか。くそ、ちょっと期待したのに。取りあえずアースラに帰ろう。クロノに説明してもグレアムが何の行動も起こしてない今、信用を勝ち取るなんて無理な話しだし、とりあえずは心のうちに秘めといていいことだよね?一番気になるのは、「グレアムは俺が『気付いている』事に気が付いてるのかな?」『可能性としては・存在しますが・恐らく・カマ掛けの・ような・ものでしょう。相手は・ユーノ様では・ありませんから』何気にシェルのユーノに対する評価の高さに嫉妬。仲いいんだよな、シェルとユーノ。俺が寝てる間に色々話してるとか言ってるし。あ~あ、もうホントに……エース、どないすっぺ。。。。。。「どうだった、ディフェクト」アースラの転送ポートに帰っての一声。クロノ君。どうもこうもねぇよ。無茶苦茶言いやがるし、ちょっと怖かったし。思ってるほど甘い奴じゃなかったよ。ちくしょう。「……おう、すっごい良い人そうだったよ。お前が懐くのも分かる」「懐くとか、そういう言い方はやめろ。尊敬しているんだ」言いつつ、いつものむっつり顔が笑顔に変わるのはやっぱり懐いている証拠だろう。実際クロノにとっては優しいし、尊敬できる人物なのも分かる。これはやっぱ駄目だ。クロノに今グレアムのこと言っても疑わないだろ、流石に。俺がクロノの立場だったとしても疑わないし、むしろ怒るよ。だって俺にはたとえシステルさんが猟奇殺人犯とか言われても信じられないし。そういうことでしょ。証拠がそろってそこで初めて泣くってところなんじゃない?「管理局に入るんなら推薦してやるって言われたよ」「そうか。僕が君にどうこう言える立場じゃないけど、もし局入りするのなら良い事じゃないか。グレアム提督の後ろ盾はかなり大きい」「……ああ、そうだね。 なぁ、クロノは俺に管理局に入って欲しい?」そう聞くとクロノは少しだけ気持ち悪そうに眉根を寄せた。表情にありありと出ている。「……なんだ、気持ち悪いな。自分の生きる道くらい自分で決めろ。他人の選択に左右されるなんて馬鹿……とは言わないが、もったいないぞ。たった一度きりの人生で、たった一つだけの命じゃないか」俺にとっては二度目の人生なんだけど、クロノの言いたいこともすごくよく分かる。てかクロノ熱いな。かっこいいじゃないかよ。「ああちくしょうその通りだよ……」「どうした、何かあったのか? らしくないぞ」「いんや、なんでもない。ただちょっと……迷ってるだけ」「そういう時は相談してみるといい。君にはたくさん仲間が居るだろう?」「ん。サンキュ、クロちゃん」その仲間に言える事じゃねぇから悩んでんだよ、とは言えなかった。クロノが割と本気で心配してくれてるのが分かったし。……ユーn、「……ユーノに話せ。あいつは頭が良い。きっと何らかの打開策でも思いつくだろう」今そうしようとしたトコです。って事でユーノのトコに来ました。するとどうでしょう。なんとアルフに襲われているではありませんか。圧し掛かられてジタバタもがいてるユーノからやめてぇ、やめてぇと か細い声が聞こえてくる。腕力では明らかにアルフのほうが上なので完全にやられていた。『間違って・天国に……?』な、なんと言うエロス。ハァハァ……。ここは天国か? 理想郷か? アルカディアなのか!?「あ、ディフェクト」「っ! ちょ、アルフホントにっ、ホントにやめてっ!!」「はいは~い」「仲良いなお前ら」「ち、違うよ! アルフがいきなりっ」乱れた着衣を直しつつ髪の毛を整えるユーノに軽く劣情を催した俺は変態なのだろうか。おいおいそこまで節操無しかよマイサン。落ち着くんだ。それは獲物じゃない。誤射は控えろ。お前の行き先はティッシュの中だ。たとえどんなに可愛くても、アレは違うんだ。なんだかブルーな気分がぶっ飛んでいくようだぜ。「おお、状況は分かるから気にすんなよ。割といっつも発情期だから、この犬」「狼だよ~」片手をひらひらさせながらアルフ。コイツ最近犬って言われても反応しないな……。もうどうでもいいのかい? 嬉ションするくらいだからな。もう犬でいいんだろうな。うん。「そ、それで、どうしたの? 君、本局に行くって言ってなかった?」「今帰ってきたトコ。んでさ、ちょっと相談があるんだけど……」「あらま、よかったねぇユーノ。相談だってよ?」「う、うるさいなぁ! アルフは向こう行ってて!」「はいはい、お邪魔虫は消えますかね」言い残し、くすくすと艶やかな笑みを残してアルフは去った。今度は恐らくフェイトの事でも犯しに行くのでは無いだろうか。……混ぜてくんないかな。「……ディフェクト?」「っとと、すまん。禁断の妄想が膨らみすぎてた」「もう、しゃんとしなよ。君、お兄さんを自称してるんだから」「ちょ、自称とか言わんといてっ」「そうじゃないか。フェイトちゃんも大変だね、君みたいなお兄さんが居ると」「被害(挨拶)にあったからってそんなに拗ねるなよ。気持ちよかったろ?」「っ、そ、そういうこと言ってんじゃないの! 矯正するの大変だったんだからね、まったく! ……それで、相談って?」真っ赤になりながら、話を変えるように。ぼす、と少しだけ乱暴にユーノは椅子に座った。くくく、思い出したなユーノ。俺と はやてとアルフが伝授したフェイトの舌技を。アレを喰らってまだフェイトに惚れていないところを見ると、貴様、中々やりおるな?……まぁ、馬鹿な話はこれくらいにして。「相談ってのは他でもないフェイトに関係があることでして」「うん」「あちらを立てればこちらが立たず、こちらを立てればあちらが立たず。こんな時どうする?」二、三度小さく頷いてユーノはこめかみを押した。じぃ、と見つめてくる瞳は俺の奥の奥まで。その視線には何かの圧力があると思うんだけど、これ間違いじゃないね。とん、とん、とん。ぬおっ、ついに叩きだしたぞ。読み込んでやがる! 俺のっ! 心を! 見ているな! ユーノ・スクライア!「え、ええと……」「……グレアム提督に、何か言われた? 例えば“管理局に入るならフェイトの罪を軽くしてやる”とか」「脱帽ですよ、ホントに」「それでも、君には他にしたいことがあるんだ?」「……うん」その“したいこと”ってのも方法すら見つかってないんだけどね。可哀想とか思うのは傲慢なんだろうけど、リィンフォースは確かに可哀想だったじゃないか。出来るなら助けてやりたいです。はやてが泣くのはあんまり見たくないよ。「どっちが大切なの?」「どっちも。二人とも一番」「二人、ねぇ。あんまりボクの知らないところで知り合い増やさないでよ。『相棒』なんでしょ?」「すまん。近いうちお前にも紹介する」「楽しみにしてるよ」笑いながらユーノは言った。ユーノ頭いいから答え頂戴。俺一人じゃ決めかねてんですよ。「それで、お前だったらどうする?」「ボクにそれは当てはまらないよ。“どっちも一番”なんて無いからね」「……そっか」そりゃそうだ。考えて見りゃユーノは超が付くほどの現実主義者だしなぁ。「でも、君にとってはどっちも大切なんだよね?」「うん。死にかけの家族と恋人どっちを取るかみたいな謎かけに似てる」「その時になってみないと分からないけどね、ボクには優先順位があるよ。きっと選ぶことが出来る」「俺には無い。選べない。だって皆好きなんだもん」「偽善者」「分かってる」「ボクも知ってる」「それでも、俺は」「両方、大切なんだよね。うん。君らしい。すごく君らしい。そういうところ、好きだよ」「……うん、ありがと。ホント、どうしたらいいんだろうね」選べと言われて選べるユーノが羨ましい。俺には無理だ。大切なものなんて、数え切れないほどにある。一番ばっかりだ。贅沢すぎるかもしれないけど、人間なんてそんなもんじゃないのかよ。リスペクト対象に失礼だけど、俺は迷ってばっかだよ。っは、殴られるね、こんな事言ってたら。「君はどうしたいの?」「……皆に、好きな人たちに、いい思いをさせてあげたい。俺も含めて」「あは、贅沢ものだ」「でも俺……俺には、出来ないのかもしれない」そこまで弱音を吐いたところでユーノが大きく伸びをした。表情は変わらず笑み。伸ばした腕を下ろすと同時にふぅ、と一息。そして、「在天願作比翼鳥 在地願為連理枝……ってね」「……へ?」「まぁ、君は一人じゃないよって意味。地球にはいい言葉があった」「ユーノ……」「言いなよ。君、こういうの得意でしょ? それともなに、ボクじゃ役不足かな?」そんなはずが、無いじゃないか。なんていい奴なんだろうか。もしかしたらユーノが神様なんじゃないのか? 神話で語られてる奴なんかよりよっぽどすごいぜ。「……俺、に」居てよかった。ユーノがいて本当によかった。あの学校を選んで本当によかった。「この俺様に付いて来い、ユーノ!」「ふふ、了解だよディフェクト。ボクたちは連理の枝だ」。。。。。「……ぁっ、だめ、だよぅアルフ」「よいではないかよいではないか~」「あ……っだめ、だめぇ……」「っはっはっはぁ☆ 上の口ではそう言っても下の口はどうかなぁ?」「ぅう……あるふぅ……っ!」と、アルフがフェイトの着衣に手をかけた時だった。壊れるかの勢いで、いや、実際に壊れて、フェイト達にあてがわれた一室の扉は勢いよく開いた。「フェイトォォオオオオオオ!!!」「ひゃ、ひゃいっ!」「ありゃ、ディフェクト? アンタも野暮なことするねぇ……混じるかい?」「嬉しい誘いだがあえて、あ・え・て断らせてもらおう! そのご褒美は全部が終わってからだ! ……だからフェイト!!」フェイトの兄(?)はビシ、と音でも出るかの様にフェイトを指した。「な、なに、兄さん……?」「俺はっ、お前をっ、もっと助けるぞぉぉぉおおおおおおおおぉぉぉぉぉ……」そして走り去りながら、その声は遠くに響いて。。。。。。「はぁ、気付かないか……」そしてユーノはため息をついた。好きだと言っても、ありがとう。意中の存在は気が付く事無くスルー。走り去っていくその背中に、未練がましく右手は付いて行った。「もういっそのこと……いや、いやいや、まだ待てる。うん、ボクはまだ待てる」一瞬の葛藤。裸になって迫ってみたらどういう反応をするのであろうか。恐らく笑える対応が返ってくるはずである。はあぁぁ、と今度は長いため息。疑っていないのだ、ディフェクトは。だから気が付かない。なぜなら信じているから。ユーノを信じているから。それさえあれば、信じられているという自信があればユーノは待てる。まだまだ待てる。(天に在りては願はくは比翼の鳥と作り、地に在りては願はくは連理の枝と為らんと……)地球の人、いい事言った。