さて、入局試験は三日後に決まりました。筆記の試験はユーノが過去問を持ってきてくれたのでテキトーにこなした所“まぁ受かると思うよ”との事です。実技は毎年何があるのか分からないから対応の仕様が無いんだって。ユーノは“君なら大丈夫だよ”って言ってました。……なんかユーノって俺の事過剰に評価しすぎだよね。俺なんてグレアムのおっさんが入れてくれようとしてなきゃ絶対受からない気がするんだけど……。そのことを踏まえて君なら大丈夫って言ってくれたのかな?不安なんだ俺は。これで受からなかったら色々やばいじゃないか。何の試験にしてもそうだけど、やっぱ受ける前はそわそわするよね。てことで、「ふんぬぅ……っ飛べぇ!」トレーニングルーム。スフィア発射!同時に爆発。目の前で爆発。「げふぉっ、えふっ、げほっ! ……ちくしょう、全然ダメだぁ……」『……才能が・無い。そういうこと・でしょう』「テメェ……」まったくもってダメダメじゃん。なんだよ、侵食100%いったのにダメなのかよ。射撃、ホントに才能無いのかなぁ……。「ガチバトルはさぁ、戦ってる時はすっげぇ面白いんだけど生傷が絶えないんだよね。あんまり子供の頃から身体に傷を作るのはどうかと思うよ、俺は」『今更・ですね』「まぁね」俺ってアレじゃん? アリシアのおかげで、所謂美少年ってヤツじゃん? 女にしか見えねーよとか言うのなしね。そんな俺だけどさ、体中結構傷だらけなのだー。色白だし結構目立つのである。しかも侵食線がめちゃくちゃ出てるしね。右腕とか結構酷いことになってるね。最終話のカズマさんの一歩手前である。グローブと長袖で隠してるのである。「……いや、正直ちょっとカッコいいけどさ、侵食線って消せないの?」『無理』「そですか」はい。そういう事で特訓特訓。俺は射撃を諦めません。手首をくりくり捻り上を向けた。そして魔力を集中。リンカーコアを通してじんわりと掌が熱くなる感触が。普通はこの辺全部デバイスが処理してくれるはずなんだけどね、ホントに使えないデバイスだこと。「フォトンランサー」掌を中心に魔法陣が展開された。つい最近バルディッシュからコピーさせてもらった射撃魔法。球状に魔力は固まり、金色のスフィアが形成されていく。俺は電気の魔力変換資質もってないからただの魔力弾ですな。さっきも形成までは上手く行ったんだ。問題はここから。「シェル、今度はコントロールはこっちがするから、お前はスフィア維持ね」『了解』揺らめきながらスフィアが浮く。もうすでに爆発しそうなんだが……。一先ず身体の周囲を一周、二周。うん。やっぱり発動、コントロールはこっちでやったほうが上手く行く。ずっと前から疑問だったんだが、何でデバイスに任せるより俺がやったほうが上手く行くんだろうか。なのは なんかは才能の塊だから引き合いに出せないけど、普通はデバイスがやってることですよ? 俺の『射撃の使い方』は間違ってない。教科書にも書いてあった。けど教科書通りじゃなくて、やっぱコントロールはこっちでやったほうが長持ちするし……。ゆっくり右腕を突き出し、「よぉし、飛ばすぞぉ? いいかぁ? 維持しっかりねぇ?」『おぅけぇ……』目標は五メートル先にある人型の的。映画なんかでよく俳優さんが射撃練習してる時なんかに映るアレ。「発射!!」気合を込めた言葉とは裏腹にゆぅっっっくりスフィアは飛んでいく。『維持・維持・維持・維持・維持・維持・維持・維持!!』シェルうっせ! 黙ってやってろ! 人間味にあふれすぎだ!……人間味?ジリジリ的へ迫っていくスフィアを見ながら、ちょっとした疑問。そう、シェルは人間味にあふれている。なぜならアリシアコピーだから。ちょっとはっちゃけたかもしれないから取り合えず俺に出来る魔法を羅列してみる。チェーンバインド。 発動者、俺。ユーノに手取り足取り教えてもらった。頑張れば普通に使える。ストラグルバインド。 発動者、俺。ユーノに手取り足取り教えてもらった。頑張れば普通に使える。ノーマルバインド。 発動者、俺。ユーノに手取り足取り教えてもらった。普通に使える。基本的な治癒魔法。 発動者、俺。ユーノに手取り足取り教えてもらった。普通に使える。アクセラレーション。 発動者、シェル。“始めから”茨の宝冠に入ってた。普通に使える。フィストエクスプロージョン。 発動者、シェル。“始めから”茨の宝冠に入ってた。普通に使える。バーストエクスプロージョン。 発動者、シェル。“始めから”茨の宝冠に入ってた。普通に使える。エクスターミネーション。 発動者、シェル。“始めから”茨の宝冠に入ってた。普通に使える。基本的な転移魔法。 発動者、俺、シェル。リニスから完全コピー。ユーノが陣を引いて、時間をかければ何とか使える。基本的な防御魔法。 発動者、シェル。プロテクションとか紙。和紙。金魚すくいのポイ。一応発動する。基本的な射撃魔法。 発動者、俺の場合。実戦に使え無いまでも一応発動。基本的な射撃魔法。 発動者、シェルの場合。その場でBA☆KU☆HA☆TU。そうなのである。シェルは凄く人間味にあふれてて、アリシアなのである。そしてアリシア・テスタロッサは、魔法の才能ゼロの、一般人なのである。『維持・維持・維持・維持・維持・維持・維持・維持……』しかしシェルの思いも虚しく、スフィアは的に届く前に爆発した。その余波でカタカタ揺れる人型があたかも笑っているようで。『……残念・でしたね』「うん……あのさ、シェル」『イエス』「お前の中にさ、最初っから入ってる射撃魔法ってある?」『……最近・思い出したのが・一つ。砲撃・射撃・どっちつかずの・ただの・遠距離攻撃・ですが』「それ、行ってみようか」『了解』☆シェルブリット・アリシアの情報が更新されました☆~シェルブリット・アリシア~普通にデバイスしてればいいのに、『アリシア』だったから最初から登録されてる魔法しかまともに使えないんだ☆なぜかというと使い方が分からないから☆変な所で『アリシア』を前面にもってくるんだ☆皆も是非、こんなデバイスがあったら捨てるようにね☆マジ使えねぇ……。04/フェイタル・チャイルド「まったく君はっ! 限度って物を知らないのか!?」「そんなこと言っても初めて使った魔法なんだもん。仕方ないじゃん?」「“じゃん?”じゃない! 君のおかげでトレーニングルームがっ」鼻息荒くクロノが。恐らくこれが『怒髪天を突く』と言う現象なのだろう。野菜の方々を置いてけぼりにするほどに髪の毛は逆立ち、所謂スーパー管理局員になっている。デスサイズのことかー。「まぁまぁまぁまぁまぁ、落ち着けよ。悪かったって、修理手伝うからさ」「当たり前だ! ……はぁ、大体どんな魔法使えばあそこの壁を貫けるんだ?」「あ、やっぱトレーニングルームの壁ってなんかあったの? 壁に当たったら魔法が消えていくからさ、こりゃ何かあるぜって思ってたんだよね」「最新式の、『魔力の結合を解く魔法』を発生させる装置を配備してもらってる」おやおや?それって要するにアレだよね。アレしかないよね?「……AMFの事?」「何だそれは?」「ナンだ」「それはもういい。AMFとは何のことだと聞いているんだ」「Anti Magi‐link Field の事だけど?」ほら、ストライカーズで出てきたけどあんまり役にも立たずにいつの間にかあるのか無いのかよく分からなくなった魔法だよ。最初見たときは、これガジェット最強じゃね? って思ってたけど結構皆普通にぶっ壊してたからな。あれはもう涙目だろ、ガジェット。「それは魔法なのか?」「え、うん。確かAAAランクのフィールド系防御魔法だったと思うけど。読んで字の如く、魔力の結合を解く魔法」「……聞いたこと無いな……だけど機械に発生させる事が出来るんだ、僕たちにも、デバイスに登録できなくも無いか。AAAランク……扱えるか……?」「えと、クロノ?」ミスったかもしれない。もしかしてAMFがまだ確立していないのかもしれない。そりゃそうだよね、だってストライカーズって十年後の話じゃんか。その間に誰かが“これ対人の魔法に転用できるんじゃね?”って言ったんだ。間違いね。今の技術じゃ追いついてないのかな?「いや、いい話を聞いた。ふん、AAAランクか。挑戦するのもよさそうだ」いや、余計な事はしなくていい。ただでさえうろ覚えなストライカーズが余計こんがらがる可能性があるじゃないか!と言いたい。声を大にして。しかし、しかししかし、使うなと言ったところで、“何でだ?” って言われたら何にも言えなくなっちゃうので無言を通します。先の事なんか分かんない方が面白いかな……?いや、やっぱダメだ。歴史通りに進んでくれないと訳わかんない事になっちゃう。俺はそこまで干渉する気無いけどさ、そのせいで誰かが死んじゃったりしたら……。うん。色んな二次にある『歴史の修正力』とか言うのに期待しとこう。がんばれ、修正力!「ああ、そうだ。君が余計な事してくれたんで忘れてたんだが……」「お、なに?」『自☆慰』黙っとけ!「今日は君の保護者の所に行くぞ」「システルさん家に?」「ああ。ちょっと話をしにな」「親権の事?」「それもある。それと君が局の試験を受けるのに一応同意がいるんだ。しかも君、何にも説明して無いんだろう? 顔くらい見せて来い」「ん、そうだね~」カートリッジも新しいの欲しいしね。メンテも兼ねて行きますか、セブンの家に!会うの久しぶりだなぁ。泣いて喜ぶに違いない。パンツ下ろしてた事実はもう怒っても無いだろう。スパナもって追いかけてこなけりゃいいけど……。「あ、それとフェイトも連れて行くからな」「あいよ」うん。フェイトを先行させよう。決めた。なかなか面白い事になるのではないだろうか……ふひひ。。。。。。「た、ただいま……?」そしてフェイトは扉を開いた。工場のような建物があり、その隣に、いかにも“適当に作りましたと”言わんばかりの、二階建てのコンテナハウスのような物があった。フェイトの兄の話ではここに住んでいるとの事。フェイトの兄、ディフェクトは言った。『あ、俺ちょっと用事あるからフェイト先に行ってて。ちゃんとただいまって言うんだぞ?』なにやらニヤニヤしながら去っていく兄はとても楽しそうだったのだが、今度はアルフだ。アルフまでも、『ちょっとオシッコ行ってくる』と、いつもは獣の姿でトイレなどしないだろうに、そそくさと去って行ってしまったのだ。そして流石に不安になり、もう一人付いてきたクロノを見上げれば、『先に行っててくれ。二人を連れ戻してくる』と、一応犯罪者であるフェイトを置いて走っていった。五分ほどキョロキョロと辺りを見渡しながら迷っていたのだが、あまりに不信人物だろうと思い、結局扉を開けることに。「ただいま~……?」もう一度。兄にはただいまと言えと言われたが、やはりここはこんにちはの方がよくはないだろうか、と自身の言葉に首をかしげた時だった。ドガンッ! と爆音が響く。どきりと心臓が跳ね上がったものの、叫び声を上げるでもなくこそこそと辺りを見渡した。見れば隣の工場から光と音が断続的に。(あっちのほうかな……?)フェイトは覗き込むようにしていた身体を引っ込め、玄関を閉めた。鍵の事が一瞬だけ頭をよぎるが、最初からしていなかったのだからいいだろう、と。十歩も歩かないうちに隣の工場の入り口に。シャッターが大口を開けている。中を覗けば女性とおぼしきシルエットが見えた。顔面にマスク状の何かを付けているので顔は把握できないが、あれが兄が言っていたシステルなる人物なのだろう。フェイトは轟音が立て続けに鳴り響くそこに一歩踏み出した。システルがフェイトに気付く節は見当たらず、そのままに背後へと近づく。(ただいま? こんにちは? すみません? ただいま? こんにちは? すみません? ただいま? こんにちは? すみません?)一歩一歩ゆっくり近づきながら、そしてその背中が目の前に。取り付かれた様に作業を繰り返すシステルに若干の不安を覚えながら、「た、ただにちわんっ!!」「!?」システルの肩がビクリと跳ね上がった。「何っ!? いま何てっ」「あ、た、ただい」「……ディ……ディ……ッ」「ただいまん」「ディフェクトー!!」「ひゃっ!」そしてフェイトはシステルから熱い抱擁を受けた。ぎゅうぎゅうと抱え込まれ、その大きな胸に顔面が埋まる。自分を兄と間違えている事には気付いたものの、それでもこの暖かい感触。手放し難い。フェイトはそのまま感極まっているシステルに自らも抱き付いた。背中に手を回し、何となく母を思い出しながら。「あんたっ」そしてシステルがマスクを取り外し、ソレをポイと投げ捨てた。綺麗な顔立ち。一目見れば冷たそうな印象を持たれてしまいそうな切れ長の瞳。面長の輪郭といい、美人と言う言葉がぴったりと合う。その顔は今、満面の笑みと涙が。「あんたねぇ、今まで、一つも連絡しないで……」「あ、違……」「いいの、後で聞くから。ちょっとジッとしてなさい」「でも、あの、その……」兄ではない。フェイトはそう言いたかったのだが、暖かいのだ、システルは。着ているつなぎが汗まみれで、ぐっちょりと濡れているがまったく気にならなかった。「よかった、ホントよかった……。管理局から封書が届いてさぁ、あんたの事預かってますなんて言うから、何かしでかしたんじゃないかって……」「え、えと」冗談交じりにシステルが微笑むが、フェイトはどう反応していいか分からない。「ああ、鼻水出てきちゃったじゃない、もう」「ご、ごめんなさい」「……なぁに? 何か大人しいわねぇ」「ええと……」「あ、怒られると思ってるんだ? いいわよパンツくらい、別に」「パ、パンツ?」「……なによ、欲しいの?」「え……? え?」「……ちょっと待ってなさい」分からなかった。何一つ。会話の流れがまったく読めない。パンツとは何だろう、と真剣に考えるほどであった。そしてシステルの温もりは離れ、その場でつなぎのジッパーを下ろしていくのである。……やらないか?(!?)瞬間、フェイトは兄と使い魔に念話を繋いだ。が、反応は無し。いつも、どちらかというとおっとりぽけぽけしているフェイトだが、これは流石に焦った。一体何をされるのか。つなぎを脱ぎ捨て、タンクトップと下着姿になったこの女性から、一体何をされてしまうのか。そして、「……さ、流石に恥ずかしいわね。ちょっとあっち向いてて」「は、はい!」急いで後ろを向けば、背後でごそごそと何かやっている。脱いでいるのか、着ているのか。なぜか心臓が高鳴っている。これは不安のせいで間違いないのだろうが。「いいよ」「は、はい……」そして手渡されたソレは、システルの汗をしっかりと吸って少しだけ重くなった下着。一体何事なのだろうかとフェイトは考える。考える。考えて、そしてフェイトが出した結論は、(……取り合えず、はこう)自身も短パンと下着を脱ぎ捨て、システルから貰った黒色の、やけに扇情的な下着をはくのであった。。。。。。「ひーっひーっ……げほ、げほ! くはっ、はぁはは、ふつ、普通はくかよ、人のパンツぅ……くひ、ひゃっひゃっひゃ!!」「だ、だって、パンツどうしていいか……」「いやいや、百点満点だぞ、フェイト。あそこでパンツをはくのは予想だにしなかった」「そ、そう? えへへ、よかった。パンツはいてよかった」かいぐりかいぐり。フェイトは可愛いなぁ。何もかもが可愛いなぁ。撫でられてる時にグイグイ頭を摺り寄せてくるのが可愛いぜ。なんか猫みたい。「おい! そうやって馬鹿みたいなことを教えるんじゃない! 他人のパンツはく事の何処が百点だ!」「ほらほら、そんなにいっつも怒ってると禿げるよ? いいじゃないか、パンツくらいはいたって」「き、君は心配じゃないのか? 自分の主の事だろう!? 君の主は他人のパンツをはくんだぞ!?」「大丈夫だよ、そんなに心配しなくても。パンツははくけどフェイトだって馬鹿じゃない」「馬鹿だろう! 人のパンツをはくのは馬鹿だろう!?」こら、人の妹をあんまりバカバカ言うな。「いや、あの……あんまりパンツパンツ言うの止めてくれない……?」ノーパンつなぎ が あらわれた!ノーパンつなぎ は おちゃ を だした!ノーパンつなぎ は かお が まっか だった!いやぁ、久しぶりに見たけど……髪伸びたねぇ。美人度がアップしてやがる。グッと大人っぽくなったぜ。……一体何歳なんだろうか。リアルに疑問なんだが……。「うぃっす。久しぶり、システルさん」「……そうよねー。これだわ、これ。あんたがあんなに可愛げあるはず無いもんねぇ」「ひどいなぁ。超可愛いじゃないですか、俺」「顔はね」ライトな会話。ああ、久しぶりだな、ホントに。フェイトの接近に気が付かないほど作業に熱中したり、テンパってパンツやったり、うん、変わってないね。「シェルも、久しぶりね」『ええ、お久しぶりです、システルお姉さま。シェルブリット改め、シェルブリット・アリシアです。どうぞアリシアとお呼び下さいな』「急にどうしたのよw」ちょ、シェル。フェイトが、フェイトが超反応してるって。アリシアって言葉にめっちゃ反応してるって!迂闊な発言は避けてくれ、まだ説明もしてないんだから。「に、兄さん、アリシアって……?」「おう、ちゃんと説明するからな、ちょっと待っててね」「うん……」取り合えず、ここからかな。「さて、皆さん聞いてください。わたくしディフェクト・プロダクトは―――」説明中。説明中……。説明中…………。んで、「―――と、言うわけなのですよ。結局俺はね、この中じゃ一番年下なのだー。実はフェイトの弟なのだー。っはっはっはー」「兄さんは弟で……シェルが姉さん?」「そうだね。どうする? お姉ちゃんって呼んで欲しいか?」「な、何かくすぐったいよ。フェイトがいいな」「おう。それならそれで。俺の事は好きに呼んでいいよ。兄さんでも、ディフェクトでも」「……ディ、ディフェクト……?」「うん、どうしたフェイト」「……ディフェクト」「おう」「ディフェクト」「なんでちゅかお姉たん」「うひゃ……やっぱり兄さんのままでいい、かな?」「あいよ」なわけで説明終了なんだが、システルさんとかもう呆れてるね。俺がクローンなのは地球に行く前に説明してたけど、まぁちょっとばかり衝撃が大きかったのだろうか。多分システルさんにとっての一番の衝撃はシェルだな。元人間のデバイスって……解剖されたりしないよね?「あんたねぇ……どんな星の下に生まれればそんな人生送れるわけ?」「あはぁ☆ なかなか話題に尽きない人生じゃないですか。面白いよ?」「馬鹿言ってんじゃないの。ホントに身体は大丈夫なのね?」「ユーノが調整してくれたんだから間違いないって」「そ。ノンちゃんなら間違いないか」ほっと息をつくようにシステルさんの肩から力が抜けた。ここでも無条件に信用されるユーノ。ちなみにノンちゃんというのはユーノの事です。ユーノちゃん⇒ユウノちゃん⇒ウノちゃん⇒ノンちゃんの順番で変わっていきました。システルさんのセンスに嫉妬。システルさんとユーノかなり仲いいからな。合鍵渡してるし。学生の頃はユーノが勝手に家の中にいるのが当たり前だったし。ご飯とか作ってくれてたし。システルさんのご飯はお世辞にも美味いもんじゃないし。デバマスとしてもユーノの『デバイスを使えない病』を治してやりたいそうな。あんたええ人やで、システルどん。「ノンちゃんは何してるの?」「今スクライアに行ってる。管理局の試験受けるのに同意が必要だからね」「……へ~、ノンちゃん局入りするんだ。フリーで働くかと思ってたのに」「そうなんだよねー」「あんたも見習いなさいよ。いつまでもニートは良くないわよ?」「うん。局入りするよ」「そうそう、あんたも……はぁっ!?」システルさんは顎が外れるかと思うほどに口をあんぐり。そこまで驚く事か?実際高校の教師とかも来てたじゃないか。管理局に推薦したいって。当然断ったがな!「ちょ、ちょっと待ちなよ、あんたまたどっか行っちゃうの?」「どっかって……だから管理局に入るんだってば」「止めときなってあんな碌でもないトコ! 運が悪かったら死んじゃうんだよ!?」「ちょ、執務官がいるんですけど……?」隣に座っているクロノを見れば静かにお茶を飲んでいた。おせんべいを浸してやがる。通だなクロノ。てかアルフ、お茶菓子ばっかり食べてるんじゃない。茶を飲め、茶を。さて、どう説得したものかと首を捻るとクロノが目を開いた。執務官の目。少しだけ冷たい印象があるが、これがクロノのスタンスなのだろう。茶をもうひと口飲み、口を開いた。「……確かに、大怪我じゃ済まないような時もあります。死んでしまうこともあります。戦闘もある。殲滅戦なんていう後味が悪い事も。けど、それでも僕は僕が従事している局が好きだ」「で、でも、ディフェクトはまだ子供でしょう! 9歳なんて、自分のためならまだしも、そんな、人の為に戦うような歳じゃないわよ……」なんかシステルさんがシリアスだ。そんな深く考えなくてもいいよ、どうせすぐ辞めちゃうんだから。「……僕は今までずっと執務官のクロノ・ハラオウンでした」「……? ええ、それが?」「けれど、僕はクロノ・ハラオウンなんです。クロノ・ハラオウンが、執務官なんです」迷言キタコレ。「貴女がディフェクトを局員にしたがらない理由は……まぁ、ある程度は分かります。 でも、ディフェクトはディフェクトだ。管理局員のディフェクトにはならないですよ、コイツは。見てみれば、ディフェクトは管理局員だったんだね、って所です。 どうやっても想像できない。安っぽい正義を語るディフェクトは。コイツは自分の道を作りますよ、局の中に」「……でも、そんなの分かんないじゃない。人は変わるわ」システルさんがそう言うと、ふっとクロノは小さく笑った。少しだけキョトンとしてるシステルさんが可愛い。美人がキョトンとすると可愛い。萌え。「……“関係ねぇ”。そう言われましたよ、僕は。 少し前に任務でフェイトと戦闘になりました。その時僕が放った魔力弾がフェイトに当たって、それで怪我をさせました。それで、怒ったディフェクトが出てきたんです。 僕は言いましたよ、執務官だって。管理局の人間だって。それなのにコイツときたら“関係ねぇ”で済ませました。妹に怪我をさせたからただ殴るだけだと。まさか本当にかかって来るとは思わなかった。 そこで狗だって言われました。管理局の狗だって。その時は腸が煮えくり返るほど腹が立ったんですがね、それが僕が僕だということに気付かせてくれた。僕はクロノ・ハラオウンで、それがただ時空管理局に勤めているだけなんだって。僕は僕の意志で今、時空管理局員だ。今は狗といわれようが、それはもう褒め言葉です。 “関係ねぇ”でそこまで済ませるコイツが、そんな簡単に人格変わってくれるなら、それなら誰も苦労して無い。ウルトラマイペースなんですから、心配しているような事にはなりませんよ。ディフェクトを信じてやってください」「……」く、口がうめぇなクロノ。その口達者でエイミィを落としたのか、分かります。はてさて渋面で悩んでいるシステルさん。美人はどんな顔しても美人だが、なるべく笑って送って欲しいでヤンス。頑張ってきなさいって背中を叩くくらいのほうが似合ってるよ。「……試験は?」「ん?」「……試験はいつ?」「おお、三日後だよ」「三日後!? なんでそんなギリギリまで帰ってこないの!?」「ご、ごめす(ごめんなさいです)!」「ほらっ、シェルのメンテとか、準備! さっさとしなさい!」「りょうかーいっ!!」まぁ、こうして一応同意は貰いました。ちなみにフェイトの親権問題はまた今度にするってクロノが。今はあんまり話せる様な状況じゃないってさ。言ってもいいと思うけどなぁ。ああ、いや、俺とフェイトの取り合いが始まるって事かな? リンディさんとシステルさんで。まぁ原作通りエースが終わるくらいに決まればそれでいいかぁ。「煎餅ウマー」ゴメンねアルフ、存在薄くて。。。。。。「はぁやて~、ただいま~!」ヴィータは玄関を撥ね開けると靴を放り脱ぎ、そのままどたどたとリビングへ。いつものように昼ご飯の支度をしているはやてに飛びついた。「うわっひゃ~! こら、包丁使っとるんよ!」「ただいまただいまただいま~っ!」はやての苦言なぞなんのその。ヴィータは聞いちゃいねぇとばかりに車椅子に座っているはやてに縋りつき、ぐりぐりと顔面を擦りつける。八神家謎の習慣その2。『あいさつ』の為である。ちなみにその1は乳揉み。ヴィータは温もりを感じながら、んもう、と はやてが笑っているのが分かった。ヒョイと顔を上げれば思ったとおり。笑顔で迎えてくれている。「おかえり、ヴィータ」ヴィータ前髪がはやてにかき上げられた。そしてそこに優しくキス。「えへ、へへへ~」たった今口付けられた額を撫ぜながらヴィータは笑った。今までの主の事は殆んど憶えていない。しかし優しくされた事などなかった。それだけは断言できる。所詮この身はプログラム。魔法生命体である。ヴィータなどはまだいい。問題はシグナムとシャマルである。その身がクソッタレの主の慰み物になった事が何度あったか。うろ憶えの記憶であるが、確かにあったような気がする。当時は良かった。今のように『感情』が殆んど発達していなかったし、ヴィータ自身も『そういう行為』を何度か受けたが、こんなもんか、と完全に割り切れていた。冷めていた。しかし、今は違う。確かな幸せがここには在った。ここに来て、そう、ここに来て初めてヴォルケンリッターは一つになったような気がする。守護騎士同士で、この様な関係は初めてだった。嬉しかった。楽しかった。ふれあいという物を実感し、ただの守護騎士システムでしかなかった自身が色付いた。ヴィータは笑顔をさらに深く刻み、「今日はな、ゲートボールのばーちゃん達にいっぱいお菓子貰った!」「そかそかよかったなぁ。ちゃんとありがとう言うたか?」「うん! それで今度は はやてと一緒においでって!」「あは、そやねぇ、今度お礼に行かなあかんね」そしてぐりぐりと頭を撫でられる。闇の書の存在時間。それがヴィータの年齢だというなら、それは はやてを優に超えて、超えて超えて、はやての人生を百回やり直してもヴィータのほうが年上だ。しかしヴィータは妹。はやてがそう言っていた。ならば妹でいい、と自分にも言い聞かせている。事実、頭を撫でられても嫌悪感など欠片も湧かず、温もりと愛しさが沸き立つだけだった。続け。この時間は、ずっと続いていい。明日も、明後日も、明々後日も。ヴィータはもしかしたら今、神様を信じているのかもしれない。今までは居る筈が無いと思っていた。その存在は鼻息一つで吹き飛んでいくにすぎないちっぽけな物だった。しかし、(今までゴメン。謝るから、この先も……)信じてやってもいい、とは言わない。信じるから、と。シグナムもシャマルもザフィーラも、全員が同じ気持ちだったら良いなと思った。「ヴィータ?」「ん~」「眠いんか?」「ん~ん~」「んふふ。どないしたん、今日はえらい甘えんぼさんやな?」「ん~ん~ん~」涙腺を通ってくる涙を見られないように はやての腹に顔を埋めた。そして就寝の時間。いつものようにベッドへ二人で寝そべり、今日あった事を順を追って話していく。けらけらと笑うはやてを見れば充足感に満たされて、守護騎士である事など忘れてしまいそうに。そしてはやてが体勢を変えようと、自分の足を掴んだ時だった。「あ……」「ん、どうしたはやて。手伝うか?」「あ、いや、ちゃうねん。ちょっとおしっこ行ってもええかな?」「うん」ヴィータは自分より大きなはやてを軽々と抱き上げるとトイレへと。そして何となく気になってしまったはやての表情。ちゃうねん、とその一言で済んでしまうような事ではなかったように感じた。トイレを済ませたはやてをまた抱き上げ、そしてまた寝室へと戻る。ベッドにゆっくりと寝かせ、ふと時計を見ればもう日付が変わっていた。「そろそろ寝よか?」「おー。明日はばーちゃん達とゲートボールだかんな」「はいはい、ヴィータの雄姿をしっかり見とくわ」クスクス微笑むはやてに先ほどの影は見当たらない。勘違いかな、と枕に顔を埋め、そして電気を消した。瞳を閉じて、羊が一匹、二匹、と はやてから教えてもらった方法で眠ろうとするのだが、やはりダメだ。先ほどの表情が焼きついてしまっている。そして羊を1500まで数えたくらいだろうか、隣でごそりと はやてが身動ぎ、その身体を起こした。「……また、広がっとる……」背中越しに聞こえる声。「……いやや、動かんくなってまう、こんなん、いややぁ……」鼻を啜る音が。「……死にたないよぉ、みんな……」そしてヴィータは―――。