さて試験ですよ試験。皆さんお分かりの通り管理局の入局試験ですな。けど試験のことをいくら事細かに説明しようが“つまんね”って言われること間違いなし。と、いうことで……。筆記試験終了。とりあえずユーノから勉強教えてもらっといてホントに良かった。いきなりこの問題解けとか言われても絶対無理なところでしたよマジで。ユーノ様様。実技試験終了。運動はどちらかといえば得意なほうだから楽勝だったね。“あそこに逃げている犯人がいます。捕まえてください”とか言われたときは本気のタックル見せてやったね。カチアゲてやりました。試合だったら審判から注意が入るとこだよ。魔法試験終了。遠距離に特性がないからドキドキだったけど……うん、意外と何とかなるモンだよ。試験官が唸り声出しながら“まぁいっか”とか言ってるのが聞こえたからね。俺の聴覚キテる。そして、「はい、じゃあ自己紹介と志望動機を教えてください」分かるだろ? そうだよそうだよ、面接ってやつだよ。俺こういうのあんまし好きじゃないんだけど。まぁフェイトのため、はやてのため。がんばるんば!「はい! 私、ディフェクト・プロダクトと申します! 管理局を目指している理由は、自分の力が世界の為に役立つものであると自負しているからです!」俺が面接官だったら精子と卵子からやり直してこいと言うところだが、「っは、ははは、うん、子供なのになかなか……うん、面白いよ」中年の面接官はやけに楽しそうに笑った。まぁユーノから言われたとおりに、いま自分が考えたことを素直に言ったんだけどね。面接は元気が一番。自分の考えをはっきり言うことも大事。っていうか色々大事。軸をぶれさす事なく話しきれば好感度ゲット!「それじゃあ君の魔法はどんな事が出来るのかな?」「はい! 私は加速、殴る、爆発、この三つを主に使っております!」「ふむ。調書にも書いてあるが……随分物騒な使い方だね。武装隊志望か?」「いいえ。しかし私が魔法を使う場はそこにしかないと考えています。不器用だと自分でも痛感しておりますが、私を武装隊に入れるのなら輝かしい戦績をたたき出してみせましょう!」「……まぁ、口では何とでも言えるだろう。その年では大したものだといいたいが……、魔導師ランクはCか」「戦闘の場において魔導師ランクはオナニーした後に捨てるティッシュほどの価値しかありません! もちろん相手の強さを測るバロメータにはなりますが、だからといって尻尾を巻いて逃げるだけ馬鹿なのです。 私は魔導師ランクC。その私がランクSの魔導師に敵として出会ってしまったのなら絶対に逃げることはしないでしょう。逃げ切れるはずがないからです。だから戦います。罠を張る時間があるなら使います。毒を仕込むことが出来ればもちろんそうします。そうやって私はランクAAのデスサイズ・ヘルカスタム氏に勝ちました!」「ほう、なるほど」さぁ聞いたかい?そう、俺の魔導師ランクはCなのだー! はっはっはー!デスサイズに勝って、クマーに勝って、クロノには負けて、だけどプレシアには勝って! なんと、その俺の魔導師ランクはC! 魔力保有量は最近量ってないけど多分D! 神だわ。これ何かしらの力が働いてるに違いない。こんな俺がプレシアに勝ったとかマジありえん。俺のステータス、冒険始めたばっかの勇者くらいだぜ。一体全体何をしたら勝てるんだよ。そもそもどうやって勝ったんだっけ? 正直『ハイ』になりすぎててあんまり覚えてないんだよね。プレシアぶっ殺したところはしっかり覚えてるんだけど……はいはいトラウマトラウマ。思い出しても良い事なんかありゃせんわ。「……では、最後の質問だ。例えば君の親友一人と顔見知り百人……どちらかしか助からない状況だとして、助けるならばどっちを選ぶ?」っは、舐めんな中年。「───そこに居る百一人を救ってみせますっ!!」……多分、こういう回答がお好きなんじゃないかな? 受かるよね? 受かってよ?05/レインはい試験終了! さっさとアースラ帰ろ。転移転移!……っと、「おかえりー。どうだった、面接」「ん、とりあえず中年の試験官に馬鹿笑いされた」ユーノ……転送ポートの付近に三角座りで待機ですか。俺の帰りを待ってたんですね。分かります。もうさ、俺、何度も言ってると思うんだけどさ、もう……いいよね? ユーノエンドに行きそうな感じがするとか、もうそういう次元じゃないと思うんだ。何だこいつ。なんでこんなに可愛いんだ。原作でも可愛い部類だったけどさ、お前なんか間違ってんだろうがっ! 畜生! こんちくしょう!「そっか。ボクは多分受かったと思うけど……どう、手ごたえ的には」「ん? まぁユーノは可愛いと思うけど?」「……ん、んん?」「でもさ、凸と凸じゃどうあっても合体できないって、俺はそう思ってるんだ。凹がなきゃやっぱ収まり悪いわけよ。いやいや、まさかここで“そんな幻想、俺がぶっ潰す!!”とか言って尻の───」『アッ───!!』「おう、どうしたシェル?」『いえ・マスターが・危険な・道へと・行きそうだった・もので』ふぅ。何を心配してるって言うんだシェル。俺は間違ってもユーノに尻の穴を掘られて感じるような性癖はないぜ。……うん、ないない。大丈夫。俺正常。なんも心配することない。俺の顔を不思議そうに覗き込んでくるユーノにドキドキなんかしてない。全然してない。ちょっとユーノの顔が近いんだけど、俺の視線がその唇を見てるなんてありえない。ぷるぷるつやつやでおいしそうとかまったく考えてない。まつげなげーとかちっとも思ってない。目の色綺麗とか考えたことすらない。……俺はっ、俺はぁ……。「ディフェクト?」「うん」「なんか……目が血走ってるけど?」「よせ、やめろ! これ以上覗き込んでくるつもりなら俺も実力行使に出るしかなくなっちまう! ぐ、ぐぁ、体が勝手に、勝手に動いてやがるっ! やめろ、シェルか、シェルなんだな!? 俺にユーノの肩をつかませてどうしようってんだ! ま、まさかやっちまう気なのか!? いくらユーノが可愛いっていってもっ、く、あ、抗えないってのか、この俺がぁ! シェルゥゥウウ!!」『人の・せいに・しないで・ください』「あ、ちょ、ちょっと……こらっ、顔近いよ」「こっちの台詞だ!」「ボクの台詞だよ!」……はぁ、はいはい分かってますよもう。やめればいいんでしょ、やめれば。ちくしょう、尻の穴をかけたギャグをやってもユーノは困るだけか。いや、当たり前なんだけどね? ここでユーノが“……好き”とか言い出したら俺もどうなるかわからんよ。もちろん尻の穴的な話ね、尻の穴的な。ため息をつきながらユーノを開放。ユーノ顔赤い。こいつマジで可愛いんだが、ホント俺はいったい何処に行こうとしているでゴザルか?「もう……、それで試験はどうだったのさ?」「ばっちりに決まってんじゃんか。俺を誰だと思ってやがる」「はいはい、俺様 何様 ディフェクト様だもんね」「その通ぉり。俺ってあれじゃん、やらせてみれば大抵のことは出来ちゃうじゃん?」「嘘は良くないよ」「サーセン」そりゃ俺よりユーノのほうだよね。『しかし・おそらく・合格だと・思います』「そうなの?」「イエス。マスターは・詐欺師なので・ああいうのは・得意なんです」「お前は自分のマスターのことをよくも詐欺師とか言えたもんだなオイ。俺の何もかもを包み込むサイコフレームの輝きのような心が無かったらお前死んでんぞ」『心中・ですか?』「お前なんかと心中なんてしてやるかバーカバーカ! 手首お化け!」『ガキの戯言ね。そんなにお姉ちゃんといるのが恥ずかしいの?』「こ、っだからやめろってんだろ!」もうやだこのデバイス! ホントやだこのデバイス!「なに君……、もしかして照れてるの?」「て、照れてなんてないもん! 全然照れてなんてないもん!」『可愛い子ね』「───っ!!」俺の声にならない悲鳴はユーノの笑い声でかき消されていくのだー。へ、へへ……誰か助けておくれよい。よいよい。。。。。。いつもの通りに夕食の買い物を済ませ、太陽がいよいよ沈もうという時間、シャマルは包丁片手に目を細めた。タマネギ。ニンジン。ジャガイモ。そしてお肉。お分かりだろう。そう、カレーである。シャマルは自身の料理の腕を信じているし、実際に作っても不味いものは出来上がらない。だが、特に美味しいものも出来上がる事はないのだ。先日作ったチャーハン(間違えようがないメニュー)はヴィータに“うん、まぁまぁかな”と言わせるに終わった。その前に作ったハンバーグはシグナムに“ふむ……”と呟かせ、その前に作ったロールキャベツは、まぁザフィーラがただ寡黙なだけだと信じたい。はぁ、とシャマルは一度ため息を吐き出した。「う~ん……、はやてちゃんは全部美味しいって言ってくれるんだけど……」それでも確実に言えるのは はやてのほうが料理上手ということだけ。同じ材料で同じように作って、何故あそこまで味に差が出てしまうのだろうか。頭を悩ませながらも包丁はとんとんとん、とリズム良くまな板を叩く。一口サイズに野菜を切り分け、火の通りにくい順番に鍋へと投入。肉には焼き色が出るくらい炒めるのが八神家のカレーである。自身もその中にある以上それは守るべきもの。だからシャマルはオリジナル(はやて)を超えるために極限までの贋作者(フェイカー)となるのだ。「いくぞ料理王。食材の貯蔵は十分か……なんちゃって、なんちゃって」「シャマル?」びくっ、と。「あ、あらヴィータちゃん。ごめんね、ご飯はもうちょっとかかるわよ?」「あー、うん……、えと、あのなシャマル」「うん?」「その……」「……? 今日はカレーよ。好きでしょ?」「……あぁ、うん好きだ。うん」このとき炒めていた食材からちょっとだけ焦げたような臭いが。いけない、とちょっとだけ焦り気味に火を弱めて、だからシャマルは見逃していたのだ。ヴィータの少しだけ悲しげな笑みを。いつもだったら気がついていたし、そこそこの観察眼を持つシャマルにとっては見過ごせないものになっていたはずだったが、そのときは運悪くカレーだったのだ。ヴィータが“楽しみにしとく”と言い残し去るのに対し、シャマルは笑みを返しただけに終わった。「ん~、このくらいなら大丈夫かな」何も知らずにシャマルは夕食の準備へと。。。。。。「ありがとな、ザフィーラ」いつものようにフローリングに傷がつかないように気を遣いながらはやてを食卓へと運んだ。ザフィーラの爪はともすればすぐに床を傷だらけにしてしまう。何度人の姿で生活をしようと思ったことか。しかし問題は はやて、シグナム、ヴィータ、シャマル。この家には己以外に女性しか生活していないのだ。そこに一匹狼が入るのは、なんとも空気を壊してしまいそうで、だからザフィーラはいつも獣の姿をとっている。食卓の横に腰をすえ、そこで夕食を。もともとこの姿が本来のものなのでどうということもないのだが、やはり人間と生活をするには人間の姿のほうが何かと便利なのも事実。特にカレーを食べるときにスプーンを使えないのは面倒くさいことこの上ない。「食べにくない?」「……いや」「そかそか」強がるのも狼の性質なのだ。頭上の食卓ではかちゃかちゃと食器がなる音がしていて、ザフィーラはそこでため息。食器の音が目立つ。あまり喋っていない。礼儀の面では正しいのだろうが、それはあまり楽しいことではないだろう。ザフィーラは数日前からヴィータの元気がないことに気がついていた。二人(一人と一匹)とも家にいることが多くて、ザフィーラが散歩に出るときはヴィータもついてくる。そこでヴィータが何か話したそうにもごもごと口を動かし、そして黙ってしまうのだ。ザフィーラは本人が言うまでは気付いていないふりをしようと思っていたし、実際にそうしている。が、いつも騒がしいほどに喋っているヴィータの元気がないというのは、食卓の元気までなくなってしまうことなのだ。シグナムとシャマルも何となくは気がついているのだろうが、二人ともザフィーラと同じスタンスなのか、腹を割って話そうという事はないようである。まぁ、そうはいってもお通夜のようにしんとしている訳でもなく、それなりに楽しい食事のはず。考えの通り、ヴィータから言ってくるのを待とうと決め、そして食べ終わったカレーの皿を咥えたときだった。「ヴィータ、どうかしたのか?」シグナムの明瞭な声が聞こえ、「へぁ?」「何で泣いてるん?」「え?」「そ、そんなに美味しくなかった? ちょっと焦げちゃったけど結構上手くいったと思ったんだけど……」「ちが、ご、ごめん、美味しかったよ! ちょっとアタシ散歩してくる!」思わずため息をついた。ヴィータが椅子を飛ばす勢いで立ち上がり、そして主の制止も振り切って外に飛び出していってしまったのだ。食卓に残された三人は困惑顔で、そして次はシグナムが立ち上がった。「行きます。主はゆっくりと食べていてください」「私も行く!」「いえ、ですが……」「私は皆の主なんやろ? それなら……」「そうなのですが、その……」シグナムが言いたいのは車椅子では色々と不都合があるということだろう。自身の料理のせいで逃げ出してしまったと思っているシャマルは沈んだ顔をしているし、どうにもな、と。ゆっくりと三人に背を向けザフィーラは静かに呟いた。「俺が行こう。アイツがいる場所なら大体分かる」玄関を前足で開け、嗅覚が捕らえるヴィータを迎えに。少しだけ雨が降っており、臭いが消える前に、と。予想通り、というのだろう。八神家から近くにある公園。いつも朝になると老人たちがゲートボールをしていて、それにヴィータも参加しているのだ。その公園に彼女はいた。ぎぃこぎぃことブランコを鳴らし、こちらに気がついているはずなのにその視線はザフィーラを向かない。雨にしっとりとぬれた髪の毛が額に張り付いて、その表情は分からなかった。ザフィーラは特に何をするでもなく近くに拠り、周りに人がいないことを確認して人間の姿に戻った。ヴィータの隣のブランコに腰を下ろし、そこで呟きが。「……アタシ、嫌な奴だ」「そうか」ヴォルケンリッターの守りの要なのだ。戦闘になったら誰よりも落ち着いていられる自信は在るし、誰よりも状況を見る目が肥えているという自負もある。おそらくヴィータの変調に気がついたのも一番だったはずだし、何よりもヴィータと共にすごす時間が長い。今の主に召還されてからは、おかしな話だが『兄』のような心境になっている。ザフィーラはふ、と一度だけ笑みをこぼし、「言ってみろ。これでもお前よりは年上に設定されている」俯けていた顔を初めて上げたヴィータの瞳にはいっぱいの涙。降る雨でも隠しきれないほどのそれは今にも零れ落ちそうだった。「アタシ、ヴォルケンリッターなのに、なのにっ、はやての事、このままでもいいって、そう思った!」「……」「はやての足、悪くなってる……、麻痺が進行してる。私たちを召還してから酷くなってるっ」「……そうか」「あんなのただの病気じゃない、闇の書がはやてのこと取り込もうとしてるに決まってんだ!」雫を振りまきながらヴィータが叫んだ。ザフィーラにはそうか、としか返すことが出来ずに、しかし脳裏ではリンカーコアを集める事を、その計画を進行。主の身に危険が及ぶのならば守護獣として見逃すことは出来ないに決まっている。それはもちろん はやてから禁止されている行為だが、そんなものは関係ない。守りの、盾の戦士であるザフィーラにとって、主を死なせることは一番に回避するべき事だ。しかし、ヴィータが嗚咽を漏らすように、「……集めるの?」年相応に見えてしまう。外見の通りに、幼い子供のような視線だった。「……そうなるだろう」「駄目だって言われてるのに?」「主を死なせる訳にはいかない。麻痺の進行を見なければなんとも言えんが、“そう”なってしまいそうなんだろう?」「……だから、アタシは嫌な奴なんだ……」「……」「シグナムだったら、シャマルだってザフィーラだって、きっとすぐに集めようって思っただろ。皆はやてのこと考えて、それで集めようって思うんだ……」「……ああ、少なくとも俺はそう思った。それが一番だと、そう思った」「アタシは違った。違ったよ……。最初アタシは勘違いだって思った。そんなはずないって思った。でも、お風呂でも、同じベッドに寝てても気が付かないくらいほんのちょっと、ちょっとなんだけど、やっぱり進行してた。それなのに気が付かない振りしててっ、このままでもいいって、そう思ってた! だって、だってっ───」何故そんな事を思ったのか、それはザフィーラには分からない。この身が完成して以来、プログラムが再生をして以来ずっと主のことが一番だったし、珍しく『感情』のようなものを手に入れてもそれは変わることがなかったからだ。しかし、ヴィータの言葉。「───気が付いたら、集めることになったらっ、また人を殺すんだろ!」それにザフィーラはギクリ、と。「また沢山の人を殺して、沢山の人に恨まれて、それでいつかは殺されちゃうんだろ!」「ヴィータ……」「アタシは嫌だ! 殺したくない、殺されたくない! せっかく楽しいのに、初めて幸せなのに、殺しちゃったらはやての顔見れなくなる! いつもみたいに抱きつけなくなる! 今まで何人殺してきたか覚えてるかよ! アタシは覚えてねーよ! そのくらい殺してきて、何も感じなくって、今やっとそれが駄目な事だって思えたのに、なのに……、集めることになったらまた……」「……」「こんなことなら……感情なんていらなかった。いつもみたいに、機械みたいだったらよかった。ただのプログラムだったらよかったのに……、それなのに、はやてに会ったから幸せなんて感じて……失うのが怖いよ。……嫌な奴だ、アタシ……」決壊したダムのように大粒の涙を零しながらヴィータはまたも俯いた。ぽたりぽたりと地面に落ちていくそれは儚くて、今まで殺していたという事実を、リンカーコアを奪い続けていたという事実をザフィーラに再確認させたのだ。殺すということ。そうだ、確かに今まで数え切れないほどの人間を殺してきたはずだった。それはそういう風にプログラミングされているからで、今回が特殊なだけだ。今回の主が持ち出してきた条件は『ただ一緒にいてくれ』。初めは戸惑ったが、徐々にそれが普通になり、今まで機械的に命令を聞いてきたヴォルケンリッターではなくなってしまった。恥ずかしそうに笑うシグナムを見たのは初めてで、天真爛漫なヴィータもそう。料理が少しずつ上手になっていくシャマルは成長しているし、ザフィーラ自身、今までだったら床に気を遣って歩くなど無かった。変わったんだな、と。ただのプログラムではなくて、ヴィータはヴィータになったのだ。ザフィーラは立ち上がり、そしてぐずぐずと涙と鼻水を垂れ流すヴィータの頭に手を置いた。ゆっくりと動かし、濡れたそれはやや重かった。「お前は変わったな」「……ザフィーラも。昔はこんな事しなかった」「ああ。皆変わっている」「……うん」「だったら……」だったら、昔のようにする必要など何処にもない。過去、確かにヴォルケンリッターは数多くの命を奪ってきた。だが今、この幸せな今は、皆変わっているのだ。今のヴィータの話を聞いて殺しを良しとする者はきっといないだろう。誰一人殺す事無く、しかしリンカーコアは集める。究極に難しい状況である。戦う相手のアフターケアまでしなくてはならないのだ。しかもそれには主の命というタイムリミットまで設けられている。それでも、やらなければならない。変わったという事実をそのまま受け入れるためにも。「だったら、だからこそ集めよう、ヴィータ」「……でも」「妥協を許すな。主も助け、まぁ恨まれることにはなるかも知れんが誰も殺さず、そして幸せになればいいのだろう? 何を泣く必要がある。お前は正しいよ、きっと。俺が二人を説得してやる」「……」ぽかん、と口を半開きにしたヴィータは呆れているような驚いているような、そんな表情。ザフィーラは少し喋りすぎたな、といつもは寡黙なキャラクタを演じているだけに少しだけ照れくさくなり、そしてヴィータから視線を外した。「帰るぞ。主に心配をかける」「あ、へ、へへ、なんだー、照れてんのか?」「照れてなどいないっ」「可愛いトコあんじゃねーか」「───ッ!!」勘弁してくれ、とその姿を獣のそれに変え、そしてだんまりを決め込み帰路へ。天気もよくないし、空の月は雨雲で隠れてしまっているが、しかし綺麗な景色など必要なくて、そこにあったのは変わった心の中身だけ。その日、ヴォルケンリッターは人殺しの集団から一歩違う道を歩くことになった。