17/ブレイク 輝く転送を受けて。「ちょり~んス」 シリアスとかねぇわ。俺にそんなの期待するとか隠してあるエロ本をわざわざ机の上に置くオカンくらいねぇわ。 いや死んでねぇよ。むしろ思ったとおりだったよ。思ったとおりヴォルケンってさ、倒されたら闇の書の中に戻っていくわけよ。たぶんそうなんじゃねぇかなとか思ってて、実際にそうだったよ。だから死んでねぇよ。……多分。死んでない、よね? しっかし、いくらなんでもこりゃすげぇ。何やってんだよフェイト。ミサイルかお前。 目の前に広がる惨状。月明かりが照らすそれは、あまりに悲惨。てか馬鹿。 こっちはボロの体をひーこら言わせてここまで来てんのに、なんだかとんでもない事になってる。しかも俺の妹がガッツリ引き金を引いている。おうまいごっど。信じちゃいねぇがオウ・マイ・ゴッド! フェイトを抱き起こ……いやこれ動かしていい状況じゃねぇ。医療局員が来るまで待ってるべきだ。ひでぇ。こういうのは俺の役目だと思ってんだけど、どこまでも思い通りにゃいかねぇな、ちくしょう。「お前……ッ! お前ェ!」 ヴィータが今にも噛み付く勢いでこっちに両手を伸ばすが、それはシグナムによって止められていた。 今のヴィータがどんな思いかなんてのはわかんない。でも、俺と一緒の顔したフェイトが突っ込んできたんだ。何かしら思うところはあるだろうね、そりゃ。 「落ち着け!」 「だってアイツ! だって!」「後を追いたいのか! アイツの遺志を、ここで閉ざすつもりか!」「だって、だってぇ……」 ごめんで済むようなこっちゃねぇけど、思わず謝りたくなっちまうな。いや、本当にすまん。俺の妹がすまん。 ……でもお前はちょっと腹立つな。「ぶっ潰してやる! ぜってぇぶっ潰してやるからな!!」 ヴィータが吼えて、「……さっきから、うるさいな」 フェイトに回復魔法をかけていたユーノが静かに口を開いた。 イライラしたように頭を掻くユーノは、久々に冷たい瞳をしている。「きみ、自分達はやられないって思ってた? たいした自信だよ、恐れ入るね。確かに君達には怒る理由がある。仲間をやられたんだ。当然だね」 でもさ。ユーノはそう言うと、視線だけでヴィータを射抜いた。「でも、今まで君たちがやってきたこと、分かってる? 今まで何人の人を殺してきたのか、分かってるのかな……。怒る理由はあっても、文句を言う権利はないよ」「っ、だけど、でもっ、今回は───!」「ふざけないで。今回は、だって? 殺さなかったからって、そんないい訳がたつはずない。実際にフェイトちゃんは怒った。十一年前からそれを引きずってる人間だって居る。簡単に過去から逃げられるもんか」 そういうとユーノは口を噤み、フェイトの治療に専念する。 なんだかんだでユーノも腹が立ってるってことだね。まぁ、自分の思い通りに事が運ばないからなんだろうけど。 俺の言いたいことは全部言われちゃったな。俺は主人公のはずなのにちっとも目立たないな。その辺どうなんだろうか。 うむむ、と考え込んでいると、黙り込んだヴィータの代わりにシグナムが一歩前に出た。 え? ちょ、さっさと帰れよ。いま来られたら絶対一撃で落ちるよ、俺。こっちはクロノからボコボコにされてんだよ。空気よめよ。「……正論だ」「だろ? うちのユーノはこういうこと言わせたら天下一品。なんにも言い返せなくなる」「だが……正論だが、私達の怒りは収まらん」「そりゃそうだ。やめろって言われてやめるようなら、最初からやってねぇもんな」「覚悟がある」「俺には無いね、覚悟。けど、決意ならある」「……?」「お前ら絶対ぶっ飛ばしてやらぁ」 中指をおっ立てると、シグナムは今は引く、と言い残し、ヴォルケンリッターは空へと消えた。 ◇◆◇ はぁ。あれだよ。別にやることは変わらねぇよ。 ヴォルケンぶっ飛ばして、リィンぶっ飛ばして、暴走プログラムぶっ飛ばして、そこでちょちょいのちょいで皆ハッピー☆ラッキー☆ゼッコーチョー☆になるんだよ。 でもさ、考えたときはさすがにこの展開は読めてなかった。 クロノは漢魂だし、フェイトはカミカゼだし、ザフィーラ消えてるし、ヴォルケンに説明する暇はねぇし、そして何より───。「おかしいよっ、そんなの絶対におかしいよ!」 なのはのコレである。 アースラの作戦会議室、リンディさん、クロノ(正直会うのがガチで恥ずかしかった。金玉縮んでた。クロノくんの何でもないような大人の対応がなかったら発狂してた)、ユーノ、なのはの前でとりあえずヴォルケンは邪魔なので消しちまいましょうという意見を出したところでなのはが叫んだ。「よし、聞くぞ。言ってみろ」「だってそんな……、それって、あの人達を殺すって事なんでしょ……?」「おう、それに近い。限りなく物理破壊に近い魔力ダメージで撃墜。……まぁ、あのザフィーラみたいにする」「そんな事……、死んじゃうよ、あの人達……」「実際はそうじゃなくて、自分を保てないほどに消耗するとMOTTAINAI精神旺盛な闇の書が蒐集する……って事なんだけど、まぁ、なのはの言いたいことも分かる」「……」「でも、お前に降りられると、俺はすごく困る」 もう困るとかそういうレベルじゃなくて、俺は死ぬかもしれんぞ。 だって、よしんばヴォルケンに勝ったとしても、次はあのリィンフォースとの戦闘が待っていること間違いなし。あんなもんにどうやって勝てばいいんだよ。なのはとフェイトで無理だったもんを、今の俺の状態でどうこうできるとは到底思えん。死ぬ。絶対死ぬ。クロノだって一人じゃ無理だろうし、ユーノはそういうのには向いてない。 フェイトが間に合うのかどうか分からない今、なのはに降りられたら、そもそもの作戦成功率がめちゃんこ下がる。 「なのは」「……」「俺は頑張るぞ。ヴォルケンも今はぶっ飛ばすけど、なんとか助けようと思ってる」「でも……」「クロノにも永久凍結は控えるようにって、納得もしてもらった。それだけは、ホントのホントに最後の手段だし」「……ごめん、私……」 なのはは首から提げたレイジングハートを外し、机の上に置いた。失礼しますと小さく呟いて、項垂れながら会議室から出て行く。 ……やっぱ駄目だったか。そうだよねぇ。普通そうだよねぇ。小学三年生があんなショッキングな場面見といて『私もやるよ!』とか言い出したら逆に怖いよね。そんなのはもう なのはじゃねぇ。別人だ。……いまさら登場人物に別人だとか言ってもしょうがない気がするけど、リリカルなのは で なのはがおかしくなったら何かおかしいだろそれ。 うう~。ううう~。予想しとくべきだったんだよ。いやむしろ俺はフェイトとか なのはとか巻き込まないつもりだったのに、ケキャキャ! どうなってんのコレ! 「無理強いは出来ないわね……」 沈黙を保っていたリンディさんが、形容しがたい表情で言った。 まぁこの人も色々考えることはあるしね。実際かなり大変だと思うよ。「そりゃね。目の前で友達が人ぶっ殺したわけだし、魔法が怖くなってもしょうがないでしょ」「でも、フェイトさんを責めることも出来ないわ。むしろ管理局は彼女によくやったと言わなくちゃならない」「誰が悪いっていう話を始めたらそれこそ収拾つかなくなる。皆に理由があって、それでやってるんだから、あとは意地の張り合いにしかなんないよ」「あなたは本当に……」「ん?」「見た目よりも、ずっと大人ね」「下半身なんかさらに大人だよっ!」 ぐっ、とサムズアップするとユーノから太もも叩かれた。 しっかし、そうすっとどうなるかねぇ。かなり厳しくなっちゃうんだが、俺は大丈夫だろうか。リアルに死ぬかもしれんとか、ホントそういうの勘弁なんだけど。うう、今更になって怖くなってきたなぁ。だいたい原作がどっか旅に出たせいでまったく方向性がつかめないんだもん。どうなってんだよちくしょうめ。 手のひらを見つめてにぎにぎ。リンカーコアの調子はどうなんだろうか。体の調子はまぁ、医者が言うように動けないことはないからいいんだけど、魔力がなぁ……。アルター開きっぱなしってマジ辛いんだが。セカンドフォームくらい作れないと、ホントのホントに終わっちゃうぜ。 むむむむぅ。さぁ、決行はいつにするよ。フェイトの回復を待つか。それとも奇襲をかけてヴォルケンを先にやっちまうか。 だいたい後どのくらいで闇の書は満タンになるの? なのはを狙ったって事はそろそろだってユーノは言ってたけど、ヴォルケン全部入れればちゃんと満タンになるんでしょうね? ホント頼むよ? あーもう、なんか考えれば考えるほど不安になってくる。「……大丈夫か?」「あん? 大丈夫だよ」「そうは見えないから言っているんだ」「ホントは超不安だよ」「っは、よかったよ」 クロノは笑った。 なんだ貴様。俺の不安がそんなに楽しいか貴様。このやろう貴様。「そう睨むな。なに、君も人並みにそういうのがあるんだと思ってな。心臓に毛が生えてるかと思ってた」「心臓に根っこなら生えてるけどな、シェルのが」「いつも通りだ。そう不安を感じることはないだろう?」「どこがだよ。まじ怖ぇっつの。ホントに死んじゃうっつの」「ほら」「あ?」「君が死に掛けるなんて、いつものことだ」「……言えてらぁ」 ユーノがケラケラと笑った。 はいはい、作戦会議とかさっさと終了。 とりあえずヴォルケン潰すっしょ。次にリィンでしょ。そんときに色々するでしょ。これ伏線ね、伏線。超伏線。んで暴走プログラム来るでしょ。潰すっしょ。んで終わり。 考えるだけならこんなに簡単なのに、ん~……、正直厳しいよ。一番最初のヴォルケン潰すのとこでばっちり躓きそうだからな。 てことで、助けてお姉ちゃん。「よぉ、フェイトの様子どう?」「ん。まぁ……見ての通りだねぇ」 アルフは疲れたように笑って、フェイトのデコにかかる髪の毛を梳いた。 つい先日までの俺のように、フェイトは身体のいたる所にいろんな器具が取り付けられてる。電子機器のピコピコいう音がなんだか懐かしい。 静かに寝息を立てるフェイトは、満身創痍だった。これほどまでにその言葉が似合うのはなかなかないと思うくらい満身創痍だった。 ばっちり予定は狂っちゃったけど、何でこんなことしたのか、その理由を聞いちゃったらね、怒るなんてとんでもないよ。ラヴ。フェイトラヴ。ほんと可愛い。俺の妹ほんと可愛い。俺の妹がこんなに可愛いわけがないはずがない、って本を書けるくらいに可愛い。「……あんたは怒らないんだね」「ん?」「止めなかったのかって、怒らないんだ」「っは、おいおい、フェイトは俺の姉ちゃんだぞ? やりたいことをやらねぇなんて、黄金の名折れだっての」「そう、かい……。あたしゃ随分悩んだもんだけど、そういうのもありか」「おう。だからそんな疲れた顔すんなって。馬鹿みてぇに尻尾ふって嬉ションしてるくらいが可愛いぞ、お前」「またひっかけてやるよ」「次はフェイトにしとけよ」「起きたら、そうしてやろうかね」 そう言ってアルフはいつものように喉を震わせた。 ちったぁ元気でたかな。なんかアルフが暗いと駄目なんだよね。アルフはやかましい位じゃないとアルフじゃないんだよ。 それからフェイトが今までどうだったかを雑談。いろんな人の世話になったと、グレアムはとてもよくしてくれたと、そしてコオロギになぜか執着を示すと、いろんな話をした。 アルフは大げさに身振り手振りで楽しそうに話して、そんでもってフェイトの馬鹿っぷりが面白いもんだからゲラゲラと笑い声が絶えなかった。 ああちくしょう。コオロギってなんだコオロギって。フェイトが起きたら一番に聞いてやる、コオロギ。「可愛いなぁ、フェイト」「だろう。自慢のご主人様だよ」「おう、自慢の姉ちゃんだし、妹だ」 なでなで。フェイトの口元が少しだけ緩んだように見えた。「終わったらさ、また はやてンとこ行こうぜ」 「だったら、あんたはバリバリ働いて助けてあげなくちゃねぇ」「……知ってんだ?」「匂いがね。あの家の、いい匂いがした。あたしにゃ全部は分からないよ。でも、そういうことなんだろう?」「ん」「メスの一匹や二匹、きちんと囲ってあげなきゃオスじゃあないね」「正直ちょっと逃げ腰」「それでもさ。好かれてんだから、頑張りな」「おう、まかせろ」 そしてフェイトの枕元にあるバルディッシュを掴んだ。もひとつポッケにあるレイジングハートも取り出して。「だからアルフ、おつかい行って来て」「……?」「こいつらにカートリッジシステム取り付けてもらえ。出来るなら基礎フレームの強化も。システルさんには連絡入れとくから」 アルフは瞳を大きく開いて、盛大にため息を吐いた。耳まで情けないものを見るようにへなへな。 なんだよなんだよ。文句あんのかよ。いいじゃねぇかよ。旅行中の原作ではそうだったんだよっ!「なんだいあんた、弱気だねぇ。ちまちま保険なんかかけるんじゃないよ」「あるぇ、お前知らねぇの?」 犬のくせになっちゃいねぇ。「獣の王様のハーレムはな、メスのほうが狩りするんだぜ」◇◆◇ 身体を苛む疼痛で目が覚めた。胸の辺りをきゅう、と掴まれる様な痛み。叫びだすほどのそれではないが、日に日に強くなってきている事実に泣き出しそうにはなる。 怖い。恐ろしい。 両手で胸を押さえつけて、痛みが引くのをじっと待った。心臓はいつも通りに動いているのに、その隣の何かが機能不全を起こしているような感覚。原因不明の麻痺。いよいよもって、最後かもしれない。 ふぅ。通り過ぎていった痛みに一息ついて、はやてはベッドから身体を起こした。腰の辺りに手を持っていくと、ああ、もうこんなところまで感覚がない。触ってみても、つねってみても、何にも感じない。 いつ死んでもいいと思っていたのに。 いつ終わっても後悔はないはずだったのに。 雫が一つ、瞳から零れ落ちた。 こんな幸せを知ってしまって、簡単に終われるものか。絶対に、最後の最後まで戦ってやるんだ。皆のマスターである自分が一番に終わるなど、あっていいはずがない。「死にたない……。ううん、生きたい」 生きたい。どこまでも切実で、どこまでも純粋で、どこまでも原始的な願い。病気になんて、絶対に負けない。ベッドのシーツを強く握り締め、はやては堅く決意した。 ちょうどその時、こんこんと病室の扉が叩かれた。ここに来るのは医者以外に家族しかいない。そして医者は来る時間ではない。 心が急に軽くなった。「どーぞどーぞ、開いとるよぉ」「失礼します」 いつまでたっても慇懃無礼。頭を下げつつ入ってくるのはシグナムだった。珍しく、一人で。「おろ? 珍しな、今日は一人?」「はい、少し用事がありまして」「シグナムもそんな無理せんと、毎日来んでもええんよ?」「無理などではありません。主の顔を見ていると、落ち着きます」 ひどく疲れた様子だった。 もともと勘の鋭いところのある はやてはもちろんピンと来て、「なんかあったん?」「……」「なんか、あったん?」「……主」「うん?」「私は、主と一緒に居たいです」「うん、わたしも」「ずっとずっと、一緒に居たいんです」「……うん、わたしも」 シグナムは涙を流していた。初めて見る涙だった。 何があったのかは分からない。はやては、もしかしたら自分の状態が知れてしまっていて、それに涙を流しているのかもしれないのかと考えた。 精一杯元気な振りをして、一生懸命にシグナムを慰めた。おいでと言うと彼女はすがり付くように抱きついてきて、頭を撫でると、ついに嗚咽を漏らし始めた。ぐぅ、うう、とまるで男の様に、どこまでも弱さを隠して。 はやてには分からない。シグナムがどういう気持ちなのか、想像だって出来ない。でも、主なのだ。家族の面倒を見るのは主の役目で、とにかく頭を撫で続けた。私は頑張るよと言い続けた。一緒に頑張ろうよと想い続けた。 どれくらいそのままで居ただろうか。しゃくり上げる声が聞こえなくなって、シグナムは少しだけ恥ずかしそうに立ち上がる。「……見苦しい真似をしました」「ううん、シグナムは泣いとったってカッコいいよ」「……はい」「うん、カッコいい」「はい」 強く頷くシグナムを見て、なんだかよく分からなかったけれど、とりあえずの安心。「主」「なんやぁ?」「私たちは頑張ります」「うん」「ですから主も、負けないでください」「任された!」 最後の最後まで抵抗してやる。はやてはそう心に誓った。抵抗どころか、打ち負かしてやる。覚悟を決めた。 家族に涙を流させるような病気に、負けてなんかやるものか。◇◆◇ みんな、おかしいよ。 自室で膝を抱えて、なのはは静かに泣いた。あふれる様なそれではなく、どこまでも静かに。 魔法の力は、すごい。煌いている。どんな事だって出来る、と全能感を与えてくれるし、そして楽しい。好きこそものの、と言うとおり、なのはの成長は才能だけではなく好きだからこそなのだ。 一度、合挽きのひき肉になったディフェクトを見て、怖いと思った。どっぱどっぱと噴き出る鮮血や、ぶらりと力なく、もはや千切れかけている腕など、本当に思い出したくない事実だった。 けれど、なのははそれを乗り越えた。文字にすると『乗り越えた』、たった五文字のこれだが、そこにはいろんな葛藤があった。フェイトのことを思い出して、確かに魔法のおかげで友達になれて、取り柄のない自分もこんなに頑張れるんだ、と。 しかし、今回のはなんだ。あれはどういったことだ。死んでない? いいや違う。あれは死んでいる。どこをどう見てアレを死んでないと判断すればいい。 深々と突き刺さった魔力刃。雷光を発するフェイト。そしてまたも、鮮血。消えていく身体。最後の笑顔。涙。叫び。 あんまりだった。それはつい最近までただの小学三年生だった少女が体験していいような悲しみではなかった。 自己中心的と後ろ指をさされてだっていい。とてもではないが自分には無理だと思った。あれをしろ。みんなは なのはにそう言うのだ。 いやだ。むしろ、こちらに向く視線すらも気持ち悪かった。あれほど楽しくて気持ちよかった魔法が、価値観の相違をまざまざと見せ付けられて、いきなり嫌悪の対象になった。 なのはの魔法は、誰がどう言おうと、守るための魔法だった。それが砲撃だって何だって、守りたいから、友達になりたいから、だから力を使ってきたと、それだけは胸を張って言えた。絶対に、人を傷つけるものではなかったのだ。 それなのに、物理破壊でなんて、そんなのは絶対に───、「……おかしいよ」 呟く。胸元が寂しい。大好きだったレイジングハート。いつだって助けてくれたデバイス。魔法を遠ざけたことで、なのはは友達を失った。 もう、忘れよう。自分には関係のないことだと、今までのことこそが非現実的で、起こってはならなかった事なのだと。 立ち上がり、ベッドに倒れこむようにうつ伏せた。寝てしまえ。忘れてしまえ。 しかし、そこで感じる魔力反応。なのはの才能は眠ることさえ許さなかった。 感じるそれは大きくない。ヴォルケンリッターではなく、恐らく局員。なのはの護衛である。リンカーコアを狙われている事実は、いつまでも残るものだった。 「……もうやだ」 枕に顔を押し付けて、なのははもう一度涙を流した。