00/きんいろオペレート んでまぁ、結局グレアムのおっさんは管理局辞めないわけよ。 もう原作がどうとか言ってもしょうがないレベルまで来てるけどね、あえて言う。原作どこ行った? 次元断層の中? ん? これあれだね。もうストライカーズとかわっけわかんねーことになるの間違いなしだね。んなこともう分かってたって? はっはー。そりゃ言えてますな。ひゅー。「何をぶつぶつ言ってるんだ?」「ちょっと未来を感じてた」「妙なものを受信するのはよせ。一緒にいる僕まで変な目で見られる」 胡散臭そうなものを見るようにクロノは視線をよこした。「そんな風で大丈夫なのか? 試験まで時間がないぞ」「うっせ。だいたい試験って何よマジで。俺こないだ訓練校終わったばっかだぞ。三等陸士になりたてだぞ。そのくせ試験って訳分からん」 試験だよ。そうだよ試験だよ。マジ意味分かんないでしょ? 大丈夫。俺も分からん。 「君、今の魔道師ランクは?」「Cになったばっか」「だから試験だ。Cランク魔導師のままじゃ所属先も限られてくるだろ。上がっておいて損は無い」 だ、そうです。 どうにもね、グレアム君とクロノくんが結託して俺を使い潰そうとしてるみたいなんだ。グレアム君強権発動しちゃってるみたいなんだ。俺のこと二等陸士にするとか言いだしちゃってるみたいなんだ。 まぁ待て。少し落ち着け。グレアムの事は全部クロノに任せちゃったから俺は何とも言えんのだけど、それにしてもすがすがしい程にはっちゃけちゃったじゃないか。もうちょっと慎重に行った方がいいんじゃないか? だって俺だぞ。俺なんだぞ。俺ごときをそんなポンポン昇進させちゃって大丈夫なのかよ。それ絶対頭悪い選択だって。補給部隊とかでダラダラしながら生活に不安がないくらいの定給をもらい続けるっていう俺の夢はどうなるんだよ。 「Bランクを取れば闇の書事件での活躍を湛えて特別昇進だ。まぁ、闇の書事件は非公開だから大っぴらには言えないけどね」「試験とか昇進とかいらんからそのままひた隠しにしとけよ」「そうはいかない。君ほど戦える魔導師を遊ばせておくほど、管理局に余裕は無い。グレアム提督の一存だと思わないでくれよ。僕も、母さんも、あと君の保護者も納得済みなんだから」「俺の意思は何処に行った。そういうのが一番に尊重されるべきだと考える私」「提督が言ってたろ? 管理局に残るつもりだったら便宜を図るって」「そりゃお前、あれはフェイトの事とか、はやてのこの先の事とか、ヴォルケンとか、俺はそういうことだと思ってたわけでな……。図りすぎだよ、便宜」 はぁ、と盛大にため息をつくと、クロノは楽しそうに笑った。 最近クロノは、なんとなく笑顔が増えた気がする。以前も笑ってたっちゃ笑ってたけど、ふっ、とかはっ、とか、なんかそんな感じだった。でも最近は少し違って、きちんとあっはっは、と笑うのである。目じりを垂れ下げるクロノを見て、初めて年相応だと感じた。 闇の書事件。なんか色々あったけど、こんなとこにある小さな変化は、やっぱりこの俺ディフェクト・プロダクト様のおかげなのだろう。なんたって頑張ったし。俺にしちゃ異常なくらい頑張ったし。もう人生の頑張りの三分の一は使い果たしたね。無印、エース、ストライカーズ。うん。三個でちょうどいいね。 はてさて、とにかく給料が増えるのはいいことだし、アニメにもなってないってことで十年くらいは安全なわけだし、ちょっくら二等陸士ディフェクト様になってくるのもいいのかもしれない。 出世に関しちゃまったくと言っていいくらいに関心がないんだけど、あの手この手で俺は出世させられていくんだろう、きっと。エースのハッピーエンドを勝ち取ったんだから、まぁ何とかなるんじゃないのかね、たぶんおそらくきっと。なんとかなってもらわないと色々困るよ、ホント。「見えたぞ」 クロノが窓の外をのぞきながらそう言った。 ああ、そういや俺たちヘリ乗ってんだよね。俺のほかに四人試験を受けるらしくて、緊張した様子でクロノと同じように窓の外に目を向けてる。 ストライカーズを見ていた俺に死角は無い。試験はアレだ。ティアナとスバルが受けてたアレ。……に似たやつ。「んじゃいっちょやってやりますかね」『うぃ』「……もうちょっと気合の入る言葉よこせよ」『合格・したら・キスして・あげます』「俺の手首にゃ唇は付いてねぇ」『夢の・なかで』「そっち行ったら白目むいて泡吹いてカニみたいになるからやだ」『わがまま・ですね』「俺の唇は安くねぇ……こともねぇ」『いつでも・バーゲンセール中・です。……ちなみに・今のは・ちゅーと・中をかけた、緊張しているであろう・マスターへの・私なりの・ジョーク・です』 年末ですどうもありがとうございました。 試験は至って簡単。人質を救って制限時間以内にゴールしなさい、と。 俺はスバルたちみたいにチームじゃないから一人用コース。『準備はいいですか?』 渡された通信機器から聞こえてくる声におkと応え、『救出作戦を開始します。前方に見える建物から五人の人質を救出してください。制限時間は二十分です』「あいよー」 前方に見える建物。そこは廃ビルだった。窓やら何やら、ガラスは全部割れちゃってるし、なんとなくさみしい印象。心霊現象の一切を信じていない俺でも、夜になったら怖いかも知んない。 よし、救出だな、救出。うん、ちゃんと分かってるよ。助けなくちゃいけないってことだ。 てことで、正々堂々正面玄関からおじゃまします!◆◇◆「あの……、あの子、正面から行きましたけど……?」 オペレータは小さく呟いた。このオペレータ、仮に名前をオペ子としておこう。 オペ子は今年で二十六歳。先月の事である。四年間付き合っている彼氏が照れくさそうに頭を掻きながら「そろそろさ、ほら、その……」と言い出したのがきっかけで、見事に寿退社を勝ち取ることに成功した。 だから、オペ子はこの試験のオペレータの役目を終えたら専業主婦となる。今日この日、四人目の試験、これこそがオペ子の最後の仕事だ。 彼女は今までに試験オペレータを何度となくこなしている。だからこそ試験の難易度も分かるし、開始して三分程度が立てば合否の予想もなんとなく付く。 だが、開始して一秒で不合格と確信した試験生は、オペ子がオペレータになって初めてであった。 どんな腕自慢でも、単独で人質を救出しなさいという試験で、正面から堂々と乗り込んでいく馬鹿は居なかったのだ。 さらにこの少年がクロノ執務官が連れてきた少年だもんだから、オペ子は少々焦りを含んだ声色で言った。「えと、よろしいのですか? このままだと不合格確定かと……」 恐る恐るといったふうに後ろを振り向き、クロノに視線を預ければ、返ってきたのは、予想に反して笑顔だった。「はは、あの馬鹿……」 オペレータのオペ子よりも真剣に、そして楽しそうにモニターを見るクロノを、彼女は悪戯をする少年のようだと思った。 モニターに映る少年、ディフェクト・プロダクト三等陸士は焦るでもなくてくてくとホールを歩き、エレベータのボタンを連打し、『動いてねぇのかよッ、このポンコツが!』ゲシ! とドアを蹴りつけ、ペタペタと階段を昇りはじめた。 駄目だこれは。オペ子の確信はより深くなった。何を思って執務官はこんな、それこそポンコツを連れてきてしまったのか。お友達だからと、優遇されているのだろうか。 ほんの少しだけ、胸のあたりにもやもやしてくるものがあったが、オペ子はプロフェッショナルとしての矜持を忘れていない。仕事は仕事。オペレータなのだから、この試験生の先を見ないわけにはいかないのだ。 少年が二階を一分間だけ堂々と視察し、ペッと唾を吐いて三階へ上がった。 三階には敵が四体。人質が二名居る。この試験での救出人員は五人。人ではなく魔導機械だが、とにかくそれは人質役なのだ。敵役も魔導機械で、Bランク試験なのだから当然設定としてはBランク魔導師程度の実力を持つ。 Cランクのこの少年が正面から戦っても勝てるとは思えない。何らかの策を講じればそこまで強い敵ではないのだが、ここまで馬鹿だとどうしようもない。『お、みっけた』「速やかに人質を救出してください」 やや冷たい声でオペ子が言うと同時に、敵役の魔導機械がスフィアを打ち出した。少年はセットアップすらもしていない(考えられない! どんな馬鹿!)。一撃で終わってしまうだろう。 これが管理局に勤める私の最後の仕事かと、彼女は心臓の奥の方が冷たくなっていくようなものを感じ―――、『いてっ』 少年は胸のあたりに当たった魔力弾に、そう返事をした。「……は?」『あいたっ、ちょ、いて、ちょ、ま、ちょちょ、ンにゃろッ、いてぇよ!』 少年が駆けた。Bランク相当の魔力弾を体中に浴びながら、バリアジャケットも何もない“素”の状態で、まっすぐに駆けた。 まちなさい! 思わず声をかけようとしたオペ子だが、そのときモニターに閃光が走る。目を開けていられないほどの輝きだった。 ―――どんッ! 同時に来る、腹の奥に響く衝撃音。 モニターが回復すると、そこには少年が立っていた。右腕を黄金に変えた、言われなければ少女にしか見えない少年は、へらりとしまりのない顔でサーチャーに向かってブイサインをくれやがった。『あいあい二人救出っと。あと何人だっけ?』「よ、要救助者はあと三人です」『了解! ……いまのぽくなかった? ねぇ、局員ぽくなかった?』『うるさい・です』 ぴゅうと口笛でも吹くかのように、またもやぺったらぺったら階段を昇っていく。 それはオペ子からするならば、あまりに規格外だった。後ろに立つ執務官が笑っていることすら、すでに現実感がなかった。 おかしいだろう。敵役四体が放つ魔力弾に、なんの抵抗性もない生身で突入し、そして耐える。あまつさえ勝つ。「何者ですか……」 口から出たのは、そんな疑問だった。「ああ、まぁ常識外れの男だよ。あいつ、バリアジャケットを構築できないらしくてね。戦い方もあれだ。自然と覚えていったらしい、自分だけのスタイルを」「ですが、Bランク相当の魔力弾です。子供が耐えられるものでは……」「僕も初めは信じられなかったよ。だけど、君の目の前にある現実はどうかな。あいつは前に進んでる」 少しばかりふざけてるけどね、と執務官はそう言い、モニターの中の少年は四人目の人質を救った。 事もなげに少年がたどり着いた廃ビルの七階。そこには一回り大きな敵役と、最後の人質が用意されている。 人質救出が今回の試験内容なので、わざわざ敵役を破壊せずとも良いのだが、戦うのだろうな、とオペ子は思った。 少年は階を上がるたびに口の端を釣り上げて、少しずつ興奮してきているようだった。局員にあるまじき表情。見ている側の心臓さえも騒がせてしまう、その狂暴なふるまい。一階でエレベータのドアを蹴りつけている時とはまるで違い、三階で敵役四体と戦った時とも違い、四階で人質を解放した時とも違い、ただただ、『みっけたぁ!』 ―――楽しそう。◆◇◆ 居た! 居た居た! アレだ、スバルが戦ってたあいつだ! Bランク楽勝。屁でもねぇ。俺強すぎ。やっぱアレだね。経験が違うよね。バケモンみたいなやつらと戦ってきたディフェクト君には膨大な経験値が蓄積されてるね。 今までのより一回りでかい魔導機械がスフィアを打ち出してくる。 俺の天才的かつニュータイプ的センスは当然それを予想していたが、「げふぅ」 予想してようが何だろうが避けようと思ってないから当たっちゃうよね。 あれだ、俺ダメみたいだ。避けるのに向いてない。真っ直ぐにしか走れないし、直角にしか曲がれない。うまい具合のカーブとか、加減をしてのストレートとか、そう言うのまったくもって向いてない。 せり上がってくる胃酸をむりくり飲み下して、止まりそうになった足をもう一歩先に進めた。「んのやろぉあ!」 アクセルフィンに点火。 肩甲骨のあたりからせり出す三枚のうち、一番下の一枚が崩れ落ちて加速の本流を生みだす。 こんくらいの試験、ファーストフォームで乗り切っちゃる。出来なきゃストライカーズとか絶対勝てない。もっと地力を上げるべきだな、俺は。 てことで衝撃のぉ……!「ファーストッ!」 生意気にも障壁を張る敵のそれをぶち抜いて、腕を半分ほどめり込ませて、「ブリットォ!!」◆◇◆「不合格です」「ですよねー」 結果、少年は不合格になった。 試験官から結果を言い渡されている彼は、まるで気にしていない風にけらけらと笑っている。どこまでいってもこちらの常識は通用しないのだな、とオペ子も自然に笑みを浮かべた。 最後の戦闘時、少年の爆発は強すぎたのだ。部屋の隅の方に居た人質役は爆風でよろけ、運が悪いことに窓がそばにあった。廃ビルを利用して行うこの試験、当然窓ガラスなんて上等なものはずいぶん昔に粉々になっていて、すってんころりんと七階から人質は落ちて行った。 当の本人はデバイスと一緒になって、指差しながらそれを笑って、そこで試験中止の号令。 クロノ執務官にぽかりと頭を殴られた彼は、さーせんふひひと変わらず笑っていた。 少年は来週にも再試験を受けるそうだ。 その時のオペレータは、オペ子ではない。当然で、彼女は今日が最後の仕事だったのだ。 結果は思わしくなかったが、最後の最後でとてもいいものが見れた、とオペ子はどこか誇らしげに胸を張った。 おそらく彼女は忘れないだろう。モニターの輝き、腹の奥まで響く轟音、そして少年の、その楽しそうな金色の笑みを。・後日談は時系列とかバラバラですので、深く考えずになんとなく読んでもらえたら嬉しいです。