「姫殿下……、幼馴染へのご訪問は終わりましたかな?」
「……隊長」
ルイズへの相談が終わり、赤くはれた目を押さえながら迎賓室へ戻るアンリエッタ。
そこへいきなり声が掛かり、アンリエッタが振り返れば。
濃紺色に白のグリフォンが描かれたマントを羽織る美丈夫が立っていた。
「如何に我等が御身をお守りしているとは言え、たった一人で出歩くのは些か感心致しかねます」
そう言って膝を付いたのは『ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド』。
トリステインが誇る魔法衛士隊の一つ、『グリフォン隊』の隊長であった。
「貴方達が居たからこそ、ですわ」
「それこそが我等の存在意味でありましょう」
膝を付いて俯くワルド、それを見据えてアンリエッタが口を開く。
「子爵、なぜ子爵は私と彼女が幼馴染だと?」
「我が領地と、ラ・ヴァリエール公爵家領地とは隣り合っております、故に私もルイズとは幼馴染に近い関係であります」
「ルイズと……?」
「はい、一時期は婚約者にも選ばれたのですが、何か不都合が有ったのかすぐに解消されてしまいましたが」
ほんの少し、だがとても楽しそうに笑うワルドにアンリエッタも吊られて笑みを浮かべた。
「……ルイズは、変わらず息災で有りましたでしょうか」
「ええ、とても」
ワルドは深く頷いた。
「……姫殿下は、何かお悩みでも?」
「………」
「解消したのはわかりかねますが、もしそうでないなら、何なりとお申し付けください。 この身は殿下の卑しき僕で御座います、例え火の中水の中、迫り来る死であろうと我等を止める事は出来ませぬ」
「……期待しても、よろしいのですね?」
「その御期待、目に見える形でお答えしましょう」
「明日の早朝、ルイズ達一行が旅立ちます。 その護衛を」
「確かに、目的などは……?」
「それは全てルイズが知っています、必要ならばルイズに」
「は、この任務、必ずやご期待に沿えるよう」
仰々しく頷いたワルド、それを見て頷いたアンリエッタは歩き出す。
ゆっくりと立ち上がったワルド、見えぬよう口端を吊り上げていた。
やっぱりそう来るかー。
と、廊下の壁と同化していた幻像ルイズ。
こう、『すまない……、盗み聞きして(略』とかで来ると思ったが。
定番過ぎてちょっと残念だが、やはり付いて来るのは確定済みか。
思惑通りに事が運んだ、とか思って笑ってるしこいつ。
見られていないと感じれば、誰だって思い思いの行動するか……。
ふふ、俺はその点抜かり無し。
どこから情報が漏れるかわからないから常に演技さ!。
才人との会話も日本語だし、でもバレバレな情報……。
ミョズニトニルンがガーゴイルでも使って監視しているのか?
そうだったとしたらどこで俺が虚無だとばれたのか……。
……もうちょっと自重してみるか。
『(……さっさと寝よう)』
廊下の先へと消えていくアンリエッタとワルド、二人が見えなくなる前に幻像は霧散した。
タイトル「全てはシナリオ通りに進んでいる……?」
『俺は日が昇る前に起きるぞ! サイトォォォォーーーー!!』
数日風呂に入れない事にちょっと嫌悪感。
烏の行水なんてレヴェルじゃねぇーぞ! 体を拭くだけが精一杯……だと。
その……ふふ、ちょっと失礼なんですが……鼻を……つまんじゃいましてね……。
学院生徒や教師、女性は香水とかで誤魔化してるんだが、男は臭う奴が居るんだよな……。
せめて2~3日に一度ぐらいは体ぐらい拭けよと、そう思いながらデルフを才人の上に落とした。
「グオッ!」
『前にも言ったが、寝すぎは(略』
「まだ……暗いです……」
アンアンが帰ってから30分もしないうちに寝ました、まだ外は真っ暗です、以上。
てか、才人出かける準備してないし。
『さっさと起きろ』
「ヒギィ!」
「で、また馬か……」
場所は正門前、俺と才人は馬を撫でながらキザ野郎を待っていた。
服はいつもの学院指定の奴、足には乗馬用ブーツ、これって蒸れるからなぁ。
才人はいつもどおり帽子付きの青いパーカーに、紺色のジーパン。
背中にはデルフとキュルケに貰った剣を右肩と左肩、交差させて担いでいる。
と言うか、原作これしか着てなくね?。
ルイズが似たようなの作って複数持たせているのか、それともずっと……。
「言ったでしょう? 慣れておいた方が良いって」
帰ってきたら新しい服作ってもらうか……、持っているはず無いのに毎日同じ型の服に着替えていると思っていたから駄目だ、俺。
「また腰が……」
『ロデオマッスィーンですね、わかります』
見たくないけど。
「やあやあ、お待たせ」
「おせぇ」
ギーシュに容赦ないぜ、この才人はよ。
「ちょっと手間取ってね」
薔薇を構えながら、『フッ』とか言いやがる。
いちいちポーズ取るなよ、時間掛かるだろ。
さっさと後の巻のギーシュに変化しないかなぁ。
「それで、ルイズにお願いがあるのだが……」
「良いわよ、さっさと用意して」
「え? 何のお願いか聞かなくて良いのかい?」
「使い魔でしょう? ギーシュのなら問題ないから」
確かモグラだったよな、地面を掘って進むのが異常に速い奴。
付いて来れるなら問題なし、断る理由もない、脱出手段でもあるし。
さっさと許可を出して自分が乗る馬を撫でる、デルフを買いに行ったときに乗った馬。
名前は『クラウン』、意味は道化や王冠とかそんな意味。
この馬はラ・ヴァリエール公爵家領地にある有名牧場の産育馬、俺の体が小さい事もあるがそれでも他の馬よりでかい。
この馬は……良い馬だ。
ルイズの特技は乗馬です、乗りこなせるようになると楽しいぜ、乗馬って。
ちなみに鞍数は余裕で200を超えている、夜も昼も乗って走り回ってたぜ。
クラウンを一撫ですると、気持ち良さそうに鼻息を鳴らした。
「そうか! ありがとう!」
と言って地面を踏み鳴らすと、ギーシュの足元の土が盛り上がりモンスターが顔を出した。
ジャイアントモール、直訳で『巨大モグラ』。
人間ぐらいの大きさ、立ち上がればギーシュと同じぐらいはある。
「ああ! ヴェルダンデ! ぼくの可愛いヴェルダンデ!!」
土塗れのモグラに頬擦りするなよ、服に土が付いてるぞ……。
「モグモグモグ」
と鼻を引く付かせてルイズを見た。
「サイト、止めて」
「承知!」
突如走り寄って来たモグラと、才人がガッツリ組み合った。
のこった! のこった! ルイズへ迫ろうとするモグラ、それを力ずくで抑える才人!
モグラが重心をずらす! 才人は慌てて切り返す!
「このモグラ……!」
中々やる!
「おりゃあ!」
力負けした才人は剣の柄を握ってガンダールヴ発動、片手だけで押し返し始める。
「モグッ!?」
このままでは押し倒されかねない、と踏んだモグラが深く腰? を落として耐えようとしたが。
「掛かったな、アホめが!」
即座に引っ張って、モグラのバランスを崩したが。
「のわぁ!」
と、自分もバランスを崩して一人と一匹は倒れた、短い時間だったが良い勝負だった。
「さぁ、遊んでないでさっさと行きましょう」
ヴェルダンデを引っ張り起こすギーシュと、服に付いた土を払い落とす才人。
「すまないね、しかしなんでヴェルダンデはルイズに……何? 宝石の匂いがした? 持ってるのかい、ルイズ?」
「持ってるわよ」
水のルビー、始祖の秘宝をな。
王家が所有する秘宝の一つ、これで祈祷書とか香炉が有れば完璧に呪文覚えられるんだけどなぁ……。
そう考えながら、素早く馬を駆け上がって跨る。
サドルステッチ、所謂横向き座りでも良いんだが。
余り激しい動きには耐え辛く、走りっぱなしの状況になると跨って乗るより腰が痛くなってしまう。
だから女性に好まれない『跨って乗る』を好む、そっちの方が色々と良い。
「えーっと、こっちに足をかけて……」
確認しながら跨る才人と。
俺と同じように、貴族の嗜みと言って良い乗馬の経験があるギーシュは軽やかに跨る。
全員が馬に跨り、ヴェルダンデが地面の下へ潜った。
さあ出発と言うところで。
「待ちたまえ」
と声が掛かった。
やっぱり来たか、揃うタイミングでも見ていたのか?
そう考えて今だ深く落ちる朝もやの中から、重い足音共に一匹と一人の人物が現れた。
「貴方は……ワルド?」
「ああ、ルイズ! 久しぶりだね!」
ギーシュは『誰だ?』、才人は『コイツって、ルイズの元婚約者か』と表情に出した。
「久しぶりね、……何故ここに?」
「……姫殿下から護衛を命じられた」
久しぶりの再会に笑みを浮かべていたワルド、ルイズに問われてすぐに笑みを消して真剣な表情になった。
「護衛、ね……」
「ああ、残念ながら君達が向かう目的地などは知らないが、全力を持って護衛せよと命じられたのでね」
「そう、姫殿下が……頼りにさせて貰うわ」
最初だけな、と心の中で付け加える。
ただ付いてくるなら断る事も出来るが、姫殿下の命と付け加えられたなら断る事は出来ない。
正直漫才なんて見ないで出発すれば良かったか、……それでも道中で追いつかれるだろうが。
「僕の名は『ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド』、王家と王城を守る近衛隊の一つ、『グリフォン隊』の隊長を勤めさせてもらっている」
才人とギーシュに向かって一礼。
才人は小さく頭を下げ、ギーシュはわざわざ馬から下りて深く挨拶を返す。
全貴族の憧れ、魔法衛士隊の一つ『グリフォン隊』。
その隊長が目の前に居るとあってギーシュは喜んでいた。
「僕はギーシュ・ド・グラモンで御座います」
「グラモン……? まさか元帥の子息かな?」
「はい、父で御座います」
「やはり、元帥には何度か戦略の手解きを受けたことがあってね、中々会う機会は無いが、今度僕が『よろしく』と言っておいたと伝えてくれないかい?」
「勿論でございます、確かにお伝えしましょう」
「はは、頼むよ」
談笑し始めた二人、それを嗜めたのはやはりルイズだった。
「ごめんなさい、二人とも。 余り時間は無いと思うから早く行きましょう」
「ああ、そうだね。 すまない」
二人は馬とグリフォンに跨る。
「さぁ、出発しましょう」
その号令に皆が頷き、手綱を握った。
「始祖ブリミルよ……、彼の者達にご加護を……」
そう願を掛けるアンリエッタと、自分で入れた紅茶をすするオスマンが学院長室に居た。
「姫殿下、そう思いつめる事はありませぬぞ」
「何故ですか? 私が頼んでいながら彼女達の身が心配でなりません」
一層強く、指を強く組んで窓の外を見る。
そこには走り去る馬とグリフォンが見えた。
「おや、姫殿下は信じないのですかな?」
「……いえ」
ルイズなら私が出せなかった答えを出してくれると、そう信じて相談したのだ。
そして、そのルイズが出した答えが『ルイズ自身が手紙を受け取りにいく』と言う、思いがけない答えだった。
変わっていると、そう思ったアンリエッタ。
聞かされていた大貴族、ラ・ヴァリエール公爵家三女も、その他の王宮貴族たちと同じだろうと子供心で考えていた。
だが、実際はまるで想像とは違った、一線を画していると。
確かに貴族然としていたが、貴族に有りがちな平民差別を一切持たなかった少女。
『全てが貴族を中心に回っているわけではない』、『平民が居るからこそ貴族が成り立つ』など、信じられない言葉を吐いた。
全てが逆の発想、貴族ならば絶対に思い付かないであろう考えを次々と聞かせてくれた。
『アン、貴女が毎日食べている食事、貴方は作れる? その食事に使われる食材を、病気無く育てる事が出来る?』
『そんなことできないわ』
『でしょう? 貴女が着ている服だって作ったり出来ないでしょう?』
『できないわ』
『貴族だからって、魔法が使えるからって、今言った事を出来る平民より優れているわけじゃないのよ?』
『うん』
『むしろ、魔法と言う物が無ければ確実に私や貴女は、貴族の皆が貶む平民以下の存在なのよ?』
『………』
『わかったでしょう? 貴族は、私たちがここに居られるのは平民が毎日頑張っているからなのよ? 私たちが原っぱで遊んでいるときに、汗を流して働いているのよ?』
『うん……』
『考えを変えなきゃ駄目よ? そうしないと何れ皆怒っちゃうわよ、『馬鹿にして』『見下して』と、アンや貴女のお母様を叩きに来るかもしれないわよ?』
『いや、そんなのいやよ』
『私も嫌よ、だから頑張らなくちゃ。 皆が笑って暮らせるよう、泣かないで済むように変えていかなくちゃ』
『……うん』
『だから、貴族だから、平民だからなんて考えは要らないの。 平民にだって頭の良い人は居るわ、強い人だって居るわ』
それが当たり前だと間違えないで、アン。
貴女は頭が良いんだから。
「私はルイズを信じます、彼女なら……」
裏切らないと、私を助けてくれると。
「ほほ、杖は既に振られ、わしらには待つことしか出来ませんぞ」
私が困れば、手を差し伸べてくれるように。
彼女が困ったときは、私も手を差し伸べる。
「ならば祈りましょう、ルイズ達に始祖のご加護を……」
港町ラ・ロシェール、山の中腹に設けられた小さな街。
小さな街でありながら、港町ということで常に人口の十倍以上の人で賑わっている。
街の概観は良く、両側面に聳える崖を錬金で削り整えられた建物で並び。
高く聳える崖のおかげで、入る光が少なく日中でも薄暗い。
その街の奥ばった箇所、狭い裏路地を抜けたとこにある『金の酒樽亭』は連日満員御礼だった。
その理由は内戦状態となっている戦地帰りの傭兵で溢れ返っているためだった。
取っ手の付けられた、酒が入った樽杯を打ち合わせて乾杯や。
気の荒い傭兵同士が殴りあったりして、非常に騒々しかった。
そして口々に『アルビオンの王様は終わりだなぁ!』『共和制乾杯!』などと言う声も聞こえてくる。
そんな中に、羽扉を開いて入ってきたフードを被った、ローブから浮かび上がったシルエットを見る限り女が金の酒樽亭に入ってきた。
男しか居なかった空間に、恐らくは見目麗しい女性が入ってくれば、必然的に視線を集める。
その女性は上等な肉料理とワインを頼んで、座る。
勿論代金もその時手渡す。
「こ、こんなに宜しいんで?」
「部屋代も含めてるわ、空いてる?」
声も上等、美しい調べでもあった。
目深く被っていたフードを脱ぐと、ほめる様な口笛や声が上がる。
美女、中々見れないような緑の髪を持つ美しい女性、マチルダであった。
そんな美女が一人となると、男どもは目配りをして何人かが女に寄った。
「お嬢さん、お一人でこんな場所へ来るとあぶねぇぜ?」
ニヤニヤと、いやらしい笑みを浮かべた男達。
女性は気にした風でもなく頼んだ料理を待っていた。
その男の一人が女性の隣へ座って、女性の顎に手を当てた。
「こりゃあ良い女だな、男漁りにでも来たんだろ? 俺たちが相手をしてやるよ」
「あらごめんなさい、どうせなら見目麗しい殿方に相手をしてもらいたいわ」
男の手を叩いて、離させる。
「おい女、あんまかっこつけんなよ」
と言って腰からナイフを取り出そうとして。
「死にたいなら遠慮無く串刺しにしてあげましょうか?」
男のナイフは一瞬で刃が崩れ落ち、そのナイフを持っていた男の首筋に杖を突き当てる。
「ま、まさか、貴族!?」
途端に恐れ戦く男達。
まぁ、魔法を見せられちゃあ傭兵と言えども怖がるかね。
このまま串刺しにしてやっても良いのだが、と思って本題を切り出す。
「あんたたち、傭兵だろう?」
「あ、ああ」
杖を収めつつ、室内を見渡す。
「あんたが言っていた男を漁るってのはあながち間違いじゃないね、私は傭兵を雇いに来たのさ」
「俺たちを?」
「厳密に言えばあんた達じゃないが、まぁ傭兵なら誰でも良いさね」
そう言って袋に手を掛けて、中からコインを一枚取り出してテーブルの上に置いた。
「エキュー金貨じゃねぇか」
「そうだ、貴様等の言い値で金を払おう」
と、先ほどまで室内に居なかったマントを羽織る、白の仮面を被った男が居た。
「な、なんだてめぇ!?」
「俺の事などどうでも良い」
そう言って人の頭ほどもある袋を取り出して、マチルダが座るテーブルの上に置いた。
「さぁ、どうする? 俺に雇われるか、今答えを出せ」
仮面を被った男はそう言って笑った。
駆ける、4人は馬とグリフォンを走り続けさせる。
途中何度か駅で馬を交換したが、それでもグリフォンとルイズが乗る馬は疲れ知らずな様に駆け続けていた。
既に半日以上、才人とギーシュは馬の背中に倒れ掛かってぐったりしていた。
「まじで疲れた……」
と道中何度も呟くが、殆ど休憩しないで走り続けたおかげか。
日が地平線に沈みきった頃には視界の奥に港町の明かりが見え始めていた。
「やっとか……」
疲れた……、腰が痛いというもんじゃない。
今降りたら倒れそうなほど疲弊していた才人たち。
ルイズとワルドの二人はさほど疲れて居ないようで。
「あ、あの二人、化け物か」
とギーシュが呟いていたのが才人の耳に入っていた。
正直、半日どころか12時間以上駆け続けるなんて乗りすぎた事も何度もあった。
技術もあるが、それを経験しているルイズやワルドの肉体的、精神的疲労は圧倒的に才人達より少なかった。
「あれが、ラ・ルシェーロかぁ」
「ラ・ロシェールだよ、僕は何度か言った事あるんだがね」
駄弁、やっとゆっくり休めると思った二人は喋りだす。
道中は走る事に夢中で殆ど喋っていなかった。
「あー、座りてぇ」
「………」
ふと視線をやったルイズは、何か右側を何度も見ていた。
何かを気にしているような、右の崖から何か──。
そう見やった時、燃え盛る松明が崖の上から幾つも降り注いできた。
「な、なんだ!?」
慌てふためくギーシュ、とっさに右手に剣を取った才人。
ヒュン、とこの世界に来る前に聞いたことがある音が聞こえた。
野球で体験した事がある、耳元を通り過ぎるボールのような、高速で空中を走る物体が出す風きり音。
それよりさらに速く、甲高い音が耳に入った。
嫌な予感、手に握る柄に力が入った。
「相棒、上だ!」
「なんか来るぞ!!」
馬上で剣を構えつつ、強化された身体能力でバランスを取りながら手綱を引く。
馬の足を止めつつ、降り来る物を視界に収めた視界に収めた。
「き、奇襲だ!!」
ギーシュが叫ぶ。
それは矢、不味いと考えつつ、剣を振ろうとすれば。
烈風が舞い起こり、飛来した矢を纏めて舞い上げたのはワルドの魔法だった。
「無事か!?」
「何とか……」
ガンダールヴによって蓄積されていた疲労を軽減。
「ギーシュ! こっちに来いよ!」
呼び寄せて、次撃に備えて馬を下りたが一向に次が来ない。
代わりに聞こえたのは悲鳴と羽ばたく音。
「シルフィード、ね」
ルイズが呟いて見上げれば、月を背に飛ぶ竜が見えた。
背に乗るのは当たり前にタバサとキュルケだろう、武器を買いに行ったときのように窓から俺たちが出て行くのを見たのか。
ゴロゴロと崖から落ちてくる男達、よく死なないな、こいつら。
高さ10メイルはあろうかと言う崖、その絶壁には岩等が凸凹してるのに。
翼を羽ばたかせ、降りてきたのはやはりキュルケとタバサ。
「はぁ~い、お待たせ」
「タバサ、助かったわ」
普通にキュルケを無視してタバサに礼を言う。
「ちょ、ちょっとルイズ! 私に一言は?」
「一言って、キュルケ何もしてないじゃない」
ただシルフィードの背中に乗っていただけ、矢を防いで傭兵どもを叩いたのはタバサだし。
キュルケに言う礼なんて一つも無い。
タバサはタバサで、本を読みながら朝の挨拶のように杖を少し揺らすだけ。
「もう、礼儀知らずね!」
「何もしてない人に言う言葉はあるけど?」
「……聞かないでおいてあげるわ」
負けを悟ったキュルケはすぐに引き下がる。
そのままワルドに近寄って何か話し始める、何時もの誘惑だろうと無視して才人と一応ギーシュにも話しかける。
「怪我、してない?」
「ああ、なんとか」
「一応ギーシュは?」
「一応とは何だね! 一応とは!」
心配してやってるんだから、文句言うなよ。
「してるの? してないの?」
「いや、子爵のお陰で傷一つ無いさ」
「そう、サイト。 もうすぐで港町だから」
「わかった、さっさと休みたいぜ……」
才人はデルフを離し、大きく肩を落とした。
「相棒は体力ねぇなぁー、もっと鍛えようぜ」
「すぐに強くなるなら苦労はしないっての……」
ガンダールヴがそれに該当している事に気が付いてないのか?
「ワルド、ラ・ロシェールで一泊しましょう」
「あ、ああ、そうしよう。 出発は明日一番の船で良いかい?」
「ええ」
まとわり付くキュルケをあしらいながら返事を返すワルド。
キュルケの相手頼むわ、ワルド。
「それじゃあ、行きましょうか」
ワルドではなく、グリフォンに断られたキュルケは才人の馬に乗る。
きゃあきゃあ騒ぎながら才人に捕まるキュルケ、才人は背中に押し付けられた双丘を全身で感じ取っているのか嬉しそうな顔。
「襲ってきた奴等を調べなくて良いのかい?」
「必要ないわ、山賊だったら時間の無駄だし、誰かに雇われたにしろ捨て駒でしょうしね、雇った人物も特定は無理でしょう」
馬に跨って手綱を握る、ラ・ロシェールまで十分も無かった道を駆け始めた。