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No.4708の一覧
[0] 歩く道先は 憑依・TS有り (旧題 ゼロの使い魔、憑依物?テスト)[BBB](2010/02/12 04:45)
[1] タイトル、なんにしよう・・・ 1話[BBB](2010/06/17 04:00)
[2] 以外にご好評で・・・ 2話[BBB](2010/06/17 04:00)
[3] 今回は前二つより多め、しかし原作なぞり 3話[BBB](2010/06/17 23:10)
[4] まずは一本立ちました 4話[BBB](2010/06/17 23:10)
[5] 大体15~20kb以内になっている・・・ 5話[BBB](2010/06/17 23:10)
[6] まさかの20kb超え 6話[BBB](2010/07/04 04:58)
[7] 区切りたくなかったから、25kb超え 7話[BBB](2010/07/04 04:59)
[8] 14kb位、そういうわけで原作1巻分終了の 8話[BBB](2010/08/21 04:01)
[9] 2巻開始っす、しかし7話は並みに多く 9話[BBB](2010/07/04 05:00)
[10] やばいな、中々多く…… 10話[BBB](2010/07/04 05:01)
[11] 区切りたくないところばかり 11話[BBB](2010/10/23 23:57)
[12] 早く少なく迅速に……がいい 12話[BBB](2010/10/23 23:57)
[13] やっぱこのくらいの量が一番だ 13話[BBB](2010/10/23 23:58)
[14] 詰まってきた 14話[BBB](2010/10/23 23:58)
[15] あれ、よく見れば2巻終了と思ったがそうでもなかった 15話[BBB](2010/10/23 23:59)
[16] こっちが2巻終了と3巻開始 16話[BBB](2010/08/21 04:07)
[17] これはどうかなぁ 17話[BBB](2010/03/09 13:54)
[18] 15kb、区切れるとさくさく 18話[BBB](2010/03/09 13:53)
[19] 区切ったか過去最小に…… 19話[BBB](2010/03/09 13:57)
[20] そんなに多くなかった 20話[BBB](2010/08/21 04:08)
[21] ぜんぜんおっそいよ! 21話[BBB](2008/12/03 21:42)
[22] 休日っていいね 22話[BBB](2010/03/09 13:55)
[23] 詰めた感じがある三巻終了 23話[BBB](2010/03/09 05:55)
[24] これが……なんだっけ 24話[BBB](2010/10/23 23:59)
[25] 急いでいたので 25話[BBB](2010/03/09 03:21)
[26] おさらいです 26話[BBB](2010/01/20 03:36)
[27] 遅すぎた 27話[BBB](2010/03/09 13:54)
[28] 一転さ 28話[BBB](2009/01/10 03:54)
[29] スタンダードになってきた 29話[BBB](2009/01/16 00:24)
[30] 動き始めて4巻終了 30話[BBB](2010/02/12 04:47)
[31] 4巻終わりと5巻開始の間 31話[BBB](2010/03/09 05:54)
[32] 5巻開始の 32話[BBB](2010/10/23 23:59)
[33] 大好評営業中の 33話 [BBB](2010/08/21 04:12)
[34] 始まってしまった 34話[BBB](2010/08/21 04:09)
[35] 終わってしまった 35話[BBB](2010/02/12 04:39)
[36] まだまだ営業中の 36話[BBB](2010/01/20 03:38)
[37] 思い出話の 37話[BBB](2010/01/20 03:39)
[38] 友情の 38話[BBB](2010/02/12 04:46)
[39] 覚醒? の 39話[BBB](2010/08/21 04:04)
[40] 自分勝手な 40話[BBB](2010/08/22 01:58)
[42] 5巻終了な 41話[BBB](2010/08/21 04:13)
[43] 6巻開始で 42話[BBB](2010/10/24 00:00)
[44] 長引きそうで 43話[BBB](2010/10/24 01:14)
[45] あまり進んでいない 44話[BBB](2011/11/19 04:52)
[46] 昔話的な 45話[BBB](2011/11/19 12:23)
[47] もしもな話その1 このポーションはいいポーションだ[BBB](2010/08/21 04:14)
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[4708] こっちが2巻終了と3巻開始 16話
Name: BBB◆e494c1dd ID:b25fa43a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/08/21 04:07











タイトル「とても死にそうです」













 空を切る、滑空するのは風竜シルフィード。
 トリステインの王都、トリスタニアの上空を突っ切り駆ける。
 5人も背中に乗せて、その速度は衰える事を知らず。

 アルビオン空域から滑空中、ルイズが目を覚ました。
 血が抜けたせいなのか軽い貧血気味で、顔が青い。

「王宮に、行かなくちゃ」

 ルイズの有無を言わせぬ一言にタバサは従い、トリスタニアへ進路を変更して今に至る。



 飛行禁止の王都上空に、未確認の飛行生物。
 それに気が付いた魔法衛士隊『マンティコア隊』は即座に警戒レベルを上げ、上空へ飛び上がる。

「止まれ! この空域は飛行禁止である! これ以上進むのなら──」

 高速で突っ切った。
 見事抜かれたマンティコア隊だったが、すぐに反転して風竜を追いかける。
 進行方向は王宮、襲撃しに来たのかと判断して杖を抜き魔法を唱え始めたが。
 足が速い風竜は王宮上空までたどり着き、王宮中庭にゆっくりと着地していく。
 それを見て次々と着陸した風竜の周りを取り囲むマンティコア隊

「貴様等! ここが王宮だと知っての行いか!」

 マンティコア隊隊長、ド・ゼッサールが大声を上げた。
 見れば、風竜から降りてきたのは5人の子供。
 燃えるような赤髪で長身の少女、眼鏡を掛けた青髪で小柄な少女、金髪で口に薔薇を銜えた少年、ふら付きながら降りる桃色髪の少女に、それを支える二本の長剣を背負った黒髪の少年。

「杖を捨てろ!」

 桃髪色の少女が簡単に杖を投げ捨て、その他の少年少女も杖や剣を置く。
 ゆっくり、支えられながら歩く少女と支える少年。
 ゼッサールの前に歩み寄り、声を発した。

「私はラ・ヴァリエール公爵家が三女、ルイズ・フランソワーズで御座います」

 ゆっくり礼、頭を下げた。
 ゼッサールは聞いた名前に少し眉を潜めた。

「ラ・ヴァリエール公爵様のご息女とな」
「はい」
「……確かに、似ている」
「御母様にはド・ゼッサール殿の事を聞いております」
「……なに? なんと言っていた!?」

 途端に大声になったゼッサール。
 剣幕もそれ相応に険しくなる。
 お母様にフルボッコにされて鍛えられたらしいからなぁ、なんと言われてたか気にならなくはないだろう。

「……修練が足りぬ、と」
「な、なん……ッ」
「お気を付けを、もしかすれば……」

 顔が青くなるゼッサール、昔にお母様が課した厳しい訓練を思い出したのだろうか。

「不味い、不味いぞ……。 あれで足りぬとなると……」

 魔法衛士隊の訓練は厳しく行っている、今でもギリギリな訓練なのに、さらに今以上の訓練を課せばどんなことになるやら。
 そんな事を考えつつ、ぶつぶつと呟くゼッサール。

「ゼッサール殿、御母様のことは後にして……」

 自分から振っておいて何だが、先に進むよう促す。

「む、申し訳ない。 些か昔の……いや、態々王宮の中庭に下りた用件を聞こう」
「此度は姫殿下の密命を帯びて参りました、姫殿下に『任を果たしました』とお取次ぎを──」
「ルイズッ!」

 ふらりと倒れ掛かったルイズを才人が抱き支える。
 ワルドから受けた傷のダメージと、ほぼ無詠唱魔法発動に大きく体調を崩していた。
 勿論数時間で治るはずもなく、今も立つのだけで精一杯だった。

「……その内容を開示してもらおう、そうでなければ姫殿下への耳に入れることは出来ぬ」
「お姫様直々なんだよ、さっさと取り次いでくれよ!」

 声を上げる才人に、ド・ゼッサールは眉を潜めた。
 見たことが無い人種、杖ではなく剣を置いていた事から貴族ではないと判断した。

「馴れ馴れしい平民だな、貴族に従者風情が話しかけると言う法は無い、黙っていろ」

 その言葉を聞いてムカッと来た才人。

「平民が貴族に話しかけてはいけない法など、ありませんわよ」

 声を上げようとした才人より先に、ルイズが言ってのける。
 格差社会は辛い、本気で。

「御早くお取次ぎを、これを取次がなければゼッサール殿の首が飛びますよ?」
「いや、その様な取次ぎこそすれば首が飛ぶ」
「本当に宜しいのですね? 確実に魔法衛士隊から強制除隊、貴族爵位の剥奪もありえますが」

 そう嘯いて、ゼッサールを見る。
 唸り、迷う。
 そう言い切るだけの内容か、と悩む。

「……分かった、今──」
「ルイズ!」

 取次ごう、と決めたときにはアンリエッタが声を上げて中庭に走り寄って来る。
 ルイズはそれを見て、ふっと笑う。

「姫殿下……」

 容赦なく抱きついてくるアンリエッタ。
 体が痛いわけではないが、揺らされると頭に響く。
 こんなに頭が痛いのは、何年か前に詠唱なしで発動させたイリュージョンの時以来か。

「無事だったのね! 危ない目にあってないか……」

 アンリエッタは見て気が付いた、ルイズが着ている衣服に穴が開いていたり破れていたりしていた事に。
 才人だってそこまで酷くは無いが、掠れていたりしている。
 命に危険が及ぶ事があったと、懸念通りだったと。

「ご、ごめんなさい……私は……」
「姫殿下、この様な場所でお話しする内容では」

 嗜め、部屋で話そうやと視線で訴えた。

「そうね、場所を変えましょう。 ……彼等は私の友人です、心配はありません」

 探す視線、この5人に視線をやるが、ワルドやアンリエッタの愛しい人の姿が無いと気が付いていた。
 ゼッサールに言って魔法衛士隊を引かせるアンリエッタ。
 それに頷いて、中庭から飛び立つマンティコア隊。

「それでは行きましょう、ルイズ。 他の方々も部屋を用意させましょう」

 アンリエッタの言葉に、皆が一様に頷いた。






「……子爵が、裏切り者?」

 ルイズと才人がアンリエッタの居室に招かれ、アルビオンで起こった事のあらましを話す。
 ラ・ロシェールの道中で雇われた傭兵に襲われた事、それを撃退したキュルケたちと合流した事。
 街で傭兵の一群に襲われた事、アルビオン行きのフネに乗れば空賊に遭遇した事、その空賊がアルビオン王党派でウェールズが乗っていた事。
 件の手紙を返してもらった事、その後ワルドに襲われた事、今現在ちょっと頭が痛い事など。

「そんな、まさか……」

 向かい合って座るルイズとアンリエッタ、才人はルイズの隣に座り、ワルドと戦った事を話した。

「わた、わたしが……ああ」

 ぼろぼろと、手紙を握り締めながらアンリエッタが涙を零す。
 ワルドが裏切り者で、ウェールズの命を狙う刺客で有ったと。
 それを送り出したのは自分で、ウェールズが死んだのは自分のせいだと。

「アン、泣くのは止めて」
「ルイズ……、私が……」
「アンが泣く姿を見たら、皇太子は喜ばないわ」
「そうですお姫様、王子様が姫様の泣く姿を見たくないって言ってました」

 才人は約束を破った、ウェールズは言わないでくれと頼んだのに。
 だが、才人はその約束を破って良いような気がした。
 勿論本人が良いと言っていないから駄目なのだが、ウェールズが聞けば『しょうがないな、使い魔君は』とでも言って笑って許してくれそうな気がした。
 短い間ではあったが、才人はウェールズのことをそう捉え考えていた。





 ……才人が何時ウェールズと話したのかは分からないが、確かにそう言ったのだろう。
 原作でも愛し合ってるように、この世界も勿論愛し合っていただろう。
 なら尊ぶのはウェールズの言葉、泣いて悲しむのはウェールズを冒涜するに等しいか。

「だから泣いては駄目よ、気丈に振舞って貴方が強い事を見せ付けなさい。 貴方が愛した女は、強いのだと教えてあげなさい」

 ……なに言ってんだか、止められたくせに、見殺したくせに。
 ラ・ロシェールの道中でワルドを殺す事も出来たのに、ガンダールヴ覚醒のために放って置いた。
 俺が殺したようなもんだ。
 そこにゾンビと化した操られているウェールズ、アンリエッタにはさらにつらい思いをさせてしまう。
 くそ、あたまがいてぇ。

「それとアン、これをお返すわ」
「水のルビー……、それはルイズが持って居て貰っては駄目ですか?」
「……何故?」
「今回の、忠誠に酬いた褒賞、とでも思ってくれれば」
「……分かったわ、なら──」

 才人を見る、確か原作じゃ風のルビーを外していたはずだ。
 視線に気が付いて、才人がポケットを漁る。

「えっと、お姫様。 これを」

 差し出した赤い何かがこべり付いた指輪。
 それを受け取り、その赤みが何なのかとアンリエッタが見ると。

「これ……は、風の……」

 ウェールズの血が付いた、風のルビー。

「はい、王子様が渡してくれって」

 ただルイズに言われて抜き取った指輪。
 本人はもう事切れていて、でも指輪を抜き取る時、そう言った方が良いと才人は感じていた。

「ウェールズ様が……?」
「はい、その、なんて言ったら良いか……多分お姫様の事愛していたと思います」

 血に濡れた指輪を嵌める、台のサイズが大きかったがアンリエッタが呟いて杖を振れば丁度良いサイズとなった。
 血も消え去り、愛しそうにルビーを撫でたアンリエッタ。

「……ありがとうございます、優しい使い魔さん」

 そう言って才人に微笑む。
 才人はそう言われて、ウェールズにも優しいなんて言われた事を思い出していた。

「私も……、あの方を愛しておりました」

 一筋、アンリエッタの頬を伝った涙があった。






 アンリエッタと話が終わり、シルフィードに乗って魔法学院へ帰る一行。

「ねぇ、ルイズ。 貴方が受けた任務って、成功したのよね?」
「……ええ」

 重い頭でキュルケの問いに答える。
 二日酔いなんて目じゃないほど、頭が軋む。
 視界がぶれる、視界が歪む、視界が……。

「どんな任務内容だったの?」
「言え、ないわ」
「ふぅん、ギーシュは内容知っているんでしょう?」
「え、ああ、……知らないよ」
「じゃあ何でルイズ達と一緒に居たのよ」
「ぐ、偶然だよ! 何か面白そうだったから付いていっただけだよ!」
「じゃあその荷物何なのよ、偶然見つけたにしては凄い用意が良いじゃない?」

 何としても聞き出そうとするキュルケ、絡まれたギーシュはたじたじで。
 知らない振りをするギーシュを見切り、標的を才人に変えたキュルケ。

「ねぇ、サイトは勿論知っているでしょう?」
「ああ、知ってるけど」
「なら教えてくれるわよね? あれだけ手伝ったんですもの」

 しなを作りながら才人によるキュルケ。

「ごめん、教えられない」
「どうして?」
「えっと……、お姫様が言っちゃいけないって」

 本当はルイズが言っていたのだが、キュルケがルイズに絡みそうだったんでお姫様に変更した。

「いいじゃない、私は誰にも言わないから」
「……キュル、ケ、いい加、減になさい」
「良いじゃない! 私とタバサだけが知らな──」

 キュルケがそう言いかけて、ルイズは倒れた。
 一度はブレーカーが上がって目覚めたが、また落ちた。
 無詠唱魔法を使用後に起き続けるのは、かなり頭痛が激しくなる。
 昔に唱えた時は、二日ほど寝込んだ。
 今回も同じように脳が休息を欲して、無理やり意識を落とした。

 体がゆれ、シルフィードから落ちそうになるのを才人は手を伸ばしてそれを支えた。

「……ルイズ、無事なのよね……?」

 アルビオンから出る時も怪我を負って気絶していたし、傷を治したのにまた気絶した。
 目が覚めたから大丈夫だとは思っていたけど……。

「気絶してるだけ」

 タバサが杖を振って答える。
 その状況で、任務の内容が何であったか等聞ける雰囲気ではなかった。
 才人も渋い顔を作り、ルイズを見つめている。

 その後、誰も言葉を発せず。
 学院に戻り、ルイズは二日間眠り続けた。









 ルイズが二日間の眠りから少し覚める前。
 ルイズと才人が一日だけ滞在した、ニューカッスル城は見るも無残な状態であった。
 度重なる砲撃と、レコン・キスタの最後の攻撃で城は陥落。
 少ない手勢で戦った王軍は当たり前に全滅、敵味方問わず死体が転がっていた。

 城自体の攻略は30分も掛からなかったが、その間にレコン・キスタが受けたダメージは恐るべき物だと言えた。
 たった三百ほどの数で、二千人以上の反乱軍を返り討ちにしたと言う。
 如何にほぼメイジだけであった王軍とは言え、二千人、その他怪我人などを含めると四千名以上の損害だった。
 決死、その言葉が似合う王軍の抵抗は予想以上だったと言えた。
 そんな今は存在しない王軍の大戦果、後に語られるには十分すぎるほどの結果だった。

「……こんなものだろう」
「そんなもんかしらね」

 焼き焦げた死体、上半身と下半身が泣き別れた死体、胸に大穴を開けた死体。
 十の死体があれば、九はレコン・キスタ兵士の死体。
 勝負に負けて戦いに勝った、それを眺めていたのは二人の人物。
 一人はウェールズを討ったワルド。
 もう一人は目深くローブを被ったマチルダであった。

「チッ」

 とマチルダが唐突に上げた舌打ちに、ワルドがその視線の先を見た。
 兵士が死体から宝石などの金品類を剥ぎ取ったりして喚いている。

「盗賊であるフーケも拾えばよかろう?」
「はん、死体から奪うのは意味が無いのさ」
「ほう」

 目を細めてマチルダを見るワルド。

「傲慢な貴族から大事にしているお宝を奪い取って、あたふたする光景を見たいのさ」
「美学か?」
「……さぁね、少なくともそっちの方が良いね」

 歩き出し、城の、ワルドがルイズと、そして才人と戦った礼拝堂へ赴く。
 天井が落ち、瓦礫で床の部分が少しも見えない。

「ここかい? あんたが言ってたあのお嬢ちゃんとガンダールヴが死んだ場所って」
「そうだ」

 ワルドは肘から先、手首より前から切り落とされた左腕を摩る。
 才人の怒れる一撃で切り落とされた腕。

「……ただのガキだとは思ってなかったけど、あんたの腕を落とすほどやるなんてねぇ」
「油断した、と思っては居ない」

 遍在を使ってまで本気で戦い、腕を切り落とされた。
 対して才人は最初の遍在で食らったエア・ハンマーとウインド・ブレイクを一回ずつだけ。
 だがそれは、本気でない状態の時だ。
 本気の状態、あの礼拝堂で戦った時に放った魔法は全て無力化された。
 どちらが勝ったと聞かれれば、十中八九才人が勝利したと言える戦いだった。

「だが、恐らくは死んだだろう。 俺と戦ってかなり消耗していたはずだ」

 今思えばあの時、ゆっくり立ち上がったように見えたが。
 実はかなり消耗していて、立つのだけでも精一杯だったのではないかと考えていた。
 失態、あそこで攻めれば奴とルイズを殺せていた。
 手紙も奪えて、任務は完璧にこなせていた。

「悔やんでも仕方があるまい、先に奴等の死体を見つけるのが先だ」

 杖を振ると部屋を覆う竜巻が起こって、あらかたの瓦礫を部屋の外に吹き飛ばす。
 その中で、たった一つ死体があった。

「これは、ウェールズ皇太子様じゃあありませんか」

 おどけて言って見せたマチルダ、その中でもう一人の雇い主の言葉を思い出した。

『貴女は手を下せない』

 言った通り現実となった。
 ワルドがウェールズを殺し、ジェームズ一世も兵士どもに串刺しにされた。
 自分が一切手を下すことなく、アルビオン王族は死に絶えた。

「そう言う事かね……」

 小さく呟く、あの小娘はここまで予見していたのか。
 ワルドが敵で、ウェールズを殺すとこまで完全に見切っていた?
 そこまで分かっていて、何故ワルドを止めなかったのか。
 それなりの力が有ると思えるあの小娘、もしかすれば王族にも通じているかもしれない。
 そうだとすれば警告も出す事が出来たんじゃないだろうか?
 積もる予測、想像の域を出ないが少なくとも王家が滅びる事は分かっていたのだと考えた。

「なぁーに、考えても仕方が無いか……ん?」

 落ちている絵画に目を付け拾い上げてみる。

「はぁー、こりゃあ……穴?」

 拾い上げた絵画の下、穴が開いており、覗いてみれば奥の方まで続いていた。

「ねぇワルド、もしかしてあいつ等……」
「何だ……!」
「ここから逃げたのかも、知れないわねぇ」
「………」

 沈黙して穴を見つめるワルド。



 逃げた、だと。
 ……不味い、あの二人を逃がしたのは不味い。
 ルイズの姿が消える魔法、ガンダールヴの戦闘能力。
 どちらもスクウェアクラスのメイジに匹敵する厄介さ。
 前者は風の探知をもってしてでも見つけられない、文字通り目にも耳にも、音でさえ擦り抜けて近寄ってこれる存在。
 あの時、ウインド・ブレイクで炙り出そうとしていなければ、確実に逃げられていた。

 後者は純粋な戦闘能力、魔法をかき消す剣に、風のスクウェアを越える速度で駆ける。
 剣を振るえば人を両断し、一撃で死に至らしめるだろう。

「クッ」

 立ち上がって瓦礫を蹴り飛ばす。
 それを見たマチルダは「へぇ」と笑った。
 逃した獲物は大きい、押し潰されかねないほど大きかった。
 あの二人と同時に対峙すれば、やられかねないと考えていた所にワルドの名前を呼ぶ声が聞こえた

「おーい、子爵! ワルド君!」
「これは閣下」

 振り返って膝を付いたワルド。

「件の手紙は見つかったかね? 婚姻を阻む我等の救世主は!」
「……申し訳ありません閣下、どうやら手紙は獲物ごと逃がしてしまったようです。 言い繕えぬミスです、何なりと罰を……」

 ワルドが膝を付いた男は、オリヴァー・クロムウェル。
 球状の帽子に緑のローブとマントを羽織り、両端が跳ねた金髪を持つ、30台半場の男だった。

「何を言うワルド君! 君は単身城に乗り込みウェールズを討ち取ったのだぞ! 褒めて称えこそすれ罰を与えるなどと出来はすまい!」
「しかし閣下、ウェールズを仕留めは出来ましたが……」
「良い良い、終わったことだ。 罰するにしても君の功績が大きすぎて罰が無くなってしまう!」
「は」
「それで、其方の女性を紹介してくれないかね?」
「彼女は土くれのフーケ、トリステインの貴族を震え上がらせた者です」
「おお! 君があの噂の! お会いできて光栄だよ、ミス・サウスゴータ」

 マチルダは男、クロムウェルを見る。
 軽い感じの男だ、威厳が殆ど感じられないような男。
 私がかつて捨てた名前を知る男。
 こいつ、衣服から見てもアルビオンの司教か。

「紹介が遅れたね、私はオリヴァー・クロムウェル。 昔は管区を統べる司教を、今はレコン・キスタの総司令官を勤めさせていただいておる」
「閣下は既に総司令官では有りません、『皇帝』陛下ですぞ」
「おお、そうであったな」

 わざとらしく笑うクロムウェル、それを見てマチルダは好きになれそうに無いと感じていた。

「トリステインとゲルマニアの同盟は余にとって、レコン・キスタにとって余りいい物ではない」
「確かに、『聖地奪還』には支障をきたすでしょう」
「うむ、故にだ。 私は偉大なる始祖ブリミルから力を与えられてここに居る」

 と仰々しく言うその言葉は、何か引っかかる感じがしたマチルダ。

「閣下、そのお力とはどのような物でしょう?」
「うむ、ミス・サウスゴータは四大系統はご存知だろう?」
「はい」
「私はその四大系統とは別の、第零番目の力を与えられたのだよ」
「零番目……、まさか!」
「そう、伝説と言われし『虚無』だよ」

 にっこりと笑う男、その笑みは……何か薄い。
 あの時に感じた、あの小娘の笑みとは圧倒的に違う矮小さ。
 比べる意味が無いのに比べてしまった自分に、あの笑みを思い出した自分がちょっと嫌になった。
 微笑んだままクロムウェルはマチルダから視線を外し、その後ろにあったものに気が付いた。

「おお、彼はウェールズ皇太子ではないか!」
「はい」
「ふむふむ……」

 クロムウェルは一頻り頷いて。

「ミス・サウスゴータ、貴女に虚無のお力をお見せしようと思うのだが、どうだね?」
「是非に」

 そう答え、クロムウェルの一挙一動を見逃さずに見つめる。
 杖を引き抜き、聞いたことの無い呪文を呟く。
 そして杖を振れば。

「ッ!?」

 ウェールズが瞼を開いて起き上がった。
 胸に開いていた穴が見る間に塞がり、青かった顔色も今まさに生きているかのような肌色に戻っていく。
 マチルダは息を呑んだ、死んだ人間が今目の前で蘇ったと。

「やぁ、大司教」

 微笑んで挨拶を掛けるウェールズ。

「お早う皇太子、今私は皇帝なのだよ」
「これは失礼を、閣下」

 膝を付いて臣下の礼を取るウェールズ。

「どうだね? ミス・サウスゴータ」
「す、素晴らしい……お力です、わ」
「だろう? この力を授かったからにはなんとしてでも、あの忌まわしきエルフから聖地を奪還したいものだよ」

 大きく笑い、ウェールズを見て。

「行こうか、ウェールズ君」
「はい」

 頷いてクロムウェルに付いていくウェールズ。
 その姿が見えなくなってマチルダは呟いた。

「……馬鹿な、ありえない……」
「虚無とは生命を操る力らしい、死者をも生き返らせるとなると信じざるを得ん」

 あれが虚無、その力は凄まじいと感じる。
 そう考えて、本当にあれが虚無なのかと疑問を浮かべてしまった。
 あのルイズの属性も虚無だと聞かされた、生命を操るならばあの時自身の傷をすぐにでも治して逃げていたのではないかと考える。
 礼拝堂でルイズが見せた、姿を隠した魔法。
 どの系統の魔法でも説明できないために、あれは虚無なのだろうと思えるが。
 風の探知さえすり抜ける姿を隠す魔法が、生命を操る事にどう繋がるのか。

『……いつ、わりの……』

 礼拝堂から去るときに聞いたルイズの小さな声。
 それも引っかかった、『偽り』、ルイズはそう言ったのではないかと。
 閣下の操る虚無が『偽りの力』だと言ったのではないかと。

 心の奥底にくすぶる火種を、残したワルドだった。


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