タイトル「役目ってなんだろな? 合ってそうでそうでもない」
握手を終え、また同じように座る。
『男に『ご主人様』と呼ばせる趣味は無いから』
『俺だって呼びたくないですよ……』
『俺の精神が生粋の女の子だったら、ありじゃないか? とか思っただろ』
『そ、そんなことあるわけないじゃないスカ!』
当たりだったらしい。
『じゃあ危険な道を歩くに至って、知って置かなければならん事を教えておく』
『はい』
『まずはハルケギニア語で喋れ』
「ハルケギニア語?」
「一発で喋べんなよ」
即座に反応してきたことから、やはりアニメのサーヴァント契約の効果はあるらしい。
いわく、『ハルケギニア語での会話』。
今まで日本語で話していたのは、俺に日本語が通じるからであって。
そうでない相手だとすぐさまハルケギニア語に変換されるらしい。
もっとも、言葉が通じるだけであって、読み書きは出来ないだろうと当たりを付ける。
「ちょっと待て」
部屋においてある紙とペンを取り出し、ハルケギニア語で『こ、こ、この馬鹿犬!』と書く。
せっかくのくぎみーボイス、一度は言って見たい言葉。
他にくぎみーボイスで言いたい事は『うるさいうるさいうるさい!』とか。
「これ、読めるか?」
「…… なんすかこれ?」
「ミミズがのた打ち回ったような文字か?」
「はい、汚いっすね」
「こ、こ、この馬鹿犬!」
「な、なんすか行き成り!」
「いや、書いてある言葉だが」
「………」
侮辱的な視線は慣れているが、『可哀想な人』を見る目は久しぶりだった。
気持ちいい……! なんて事は勿論無い。
「まぁ、これで分かった。 主従契約の効果でハルケギニア語は喋ることだけは出来るようだな」
「はあ、そうっすか」
「そういう描写があったからもしやと思ったんだが、まぁ読み書き出来なくても良いだろ」
原作で読み書きをタバサから習っていた話はあったが、実際使用した場面はなかった……と思う。
大体は覚えているが、細かいところまではさすがに記憶していない。
「読みたい文字があったら言ってくれ、読んでやるから」
「分かりました」
次、一番大事であろう『ガンダールヴ』のルーン。
危険な道を歩むに至って、才人の生死を分かつ能力。
これが無ければ確実に才人は死ぬ、間違いなく。
「じゃあこれ持ってみろ」
「フォーク?」
「ああ、フォークだ。 何か感じないか?」
「いや、別に」
「ふむ……」
認識、かな。
武器だと認めれば効果が出るかもしれない。
「それは武器か?」
「は? 食器でしょ」
「いや、言い方が悪かった。 それで人を殺せるか?」
「……、首とか突き刺せば……ッ!」
当たりか。
「体、軽くなったろ?」
「はい、何すかこれ」
「現在唯一にして、最後まで共に歩く武器だ」
「こ、これがですか……!?」
「フォークじゃねーよ」
すかさず突っ込み、武器として使えなくは無いがこんな物が自身の命を支える物となったら嫌だろうに。
「『ガンダールヴ』のルーン、効果はありとあらゆる武器を使用できるようになるのと身体能力の向上だな」
どれだけ凄い効果なのかは知っている。
剣術の「け」すら知らない才人が怒りモード発動して、ワルドを一瞬で追い詰める事が出来るほど。
ワルドが全盛期の御母様には劣るが、それでも凄まじいほどの使い手なのは確認済み。
それを追い詰めるとなると、どれだけ凄いか一目瞭然。
……それを言ったら御母様がドンだけ化け物なのかと言えるが。
「へぇ」
「聞こえたか? ありとあらゆる武器、だぞ?」
「凄いっすね、剣とか槍とかっすよね?」
腕が影を置き去りにしそうな速度でフォークを振り回す才人。
まじではえぇ……。
「ちげぇよ、『現存するありとあらゆる武器』だよ。 戦闘機や戦車とかあれば、触れるだけで操縦方法が分かるんだよ」
「まじっすか!」
マジです、チート級な能力です。
それを言ったら虚無魔法はもっと反則的だが。
主が反則なら使い魔も反則、コレジョウシキネ。
「一応、この世界に戦車とレプシロ? レシプロだったか……、どっちか忘れたがプロペラ式戦闘機が存在するのは確認している」
「何か、ファンタジーの世界の癖して科学兵器があるってのは……」
「こっちの世界で作られた物じゃない、てかこの世界にエンジンという概念ないしな」
シエスタと仲良くなり、実物をすでに見せてもらっている。
戦車のほうはロマリアにあるから見に行けなかったが、原作と同じ道筋ならある筈。
「ま、そのガンダールヴに胡坐をかいたから何度か負けたんだが」
「これで負けたんですか……」
素人の俺から見ればプロを凌駕する速度、それでも負けたのだから人間の可能性って素晴らしい。
「これは……最強物になるかも」
「そしてモテモテ……」
さもありなん、ニコポナデポ完備な最強才人様ご光臨。
いやー、本当にファンタジー物って素敵ですね!
「勿論俺は対象外で」
「言われなくとも」
その次、この世界の主力と言って良い攻撃手段『魔法』。
偉大なる始祖『ブリミル』が伝え教えたと言われる自然現象を引き起こす物。
つまり、魔法を使える者は皆偉大なブリミル様の師事を受けた人たちの子孫と言うわけだ。
「じゃあルイズも?」
「勿論、ブリミル様様よ」
原作のブリミルはガンダールヴのサーシャに、色々と実験しようとしていた気がする。
その度にぶっ飛ばされてたような……、なんか才人と俺じゃないルイズの関係に似ている気がした。
「そのブリミル様が広めた魔法が、今現在貴族の間で使われる魔法だ」
「へぇー」
「系統は5つ、RPGによくある火、水、風、土、そして失ったとされる『虚無』だ」
「ルイズは何系統っすか?」
『こっからは日本語でな』
「何でですか?」
『誰にも聞かれたくないからさ』
「あー、はい。『分かりました』」
『俺の系統は五つ目、虚無だ』
『伝説級の代物とか言わないっすよね?』
『チートなガンダールヴの主がチートでなくてどうする』
『それを言われたら……』
『魔法にはランクがあってだな、一種類しか使えなければ『ドット』、二種類掛け合わせれるなら『ライン』てな具合に増える。 また、同系統の魔法を二つ重ねることが出来れば『ライン』と言う判定だ』
『へぇー、ルイズはドット?』
『YES、掛けれる数は最高4つでそれに比例して魔法も強力になる』
事実、掛け合わせた魔法は多様性に富み、色んな場面で活躍できる。
『だがしかし、虚無はほかの系統魔法を使えないが、それ単体でスクウェアクラスの魔法を凌駕するほど凄い』
『そんなに凄いんですか……』
『まぁな、人なんて100人単位で殺せるし、戦車や戦闘機も一瞬で鉄くずに出来るぞ』
『なんつー生物兵器……』
『大体は決まっている性質を突き進んだ物だと思えば良い、例えば……』
『こんなのとか』
『へ?』
軽く杖を振ったとき、才人の背後から声が聞こえて振り返れば、今目の前に座っていたルイズが居た。
『え? 何で後ろ──』
ルイズが座っていたベッドの方へ視線を戻すと、ベッドに座るルイズとその隣に座るルイズ。
『は?』
また振り返る、椅子の背に手を乗せるルイズとそのルイズの肩に手を乗せるルイズ。
また視線をベッドに戻す、ベッドに座る二人のルイズとその背後に寝転がるルイズ。
またまた振り返る、背凭れに手を乗せるルイズとその肩に手を乗せるルイズと、その斜め後ろの椅子に座るルイズ。
またまた視線をベッドに戻すと、ベッドに座る二人のルイズとその背後に寝転がるルイズと、枕を抱いてベッドの上に座るルイズ。
振り返るたびにルイズが増え、室内には計15人のルイズが犇めき合っていた
『な、なにこれ!?』
『こ れ が 虚 無 魔 法 の 一 つ 『イ リュー ジョ ン』 だ』
『耳が! 耳が!』
これが 15.1chサラウンドサウンドの力だ……。
あ、サブウーファーがないから15chか。
『これは『幻像』を発生させる魔法で、俺が今まで見た物の記憶を映し出してるわけだ』
『す、すごいっすね……』
『幻像だから触れられないが、喋ったりする事は出来る』
一人の幻像ルイズが才人に触ろうとするが、幽霊の如くすり抜ける。
シャルロット……もといタバサが嫌いな幽霊に扮して脅かした時もあった。
『あれだ、科学技術で言えばホログラムだな、精度完璧な』
生物の五感にさえ作用し、対象の認識を完全に誤魔化す事も出来る上、状況に左右されず完全なステルスも可能とする。
イリュージョンの名に相応しい効果、まさにチート。
ちなみに。
イリュージョン [illusion]
(1)幻影、幻想、錯覚、幻覚
(2)〔美〕 二次元の画面に感じる、遠近感・立体感などの三次元的な錯覚。バロックの天井画はその代表例
(3)3Dアダルト美少女ゲー(略
魔法の効果は(1)の方。
『ものすごく反則だが、それに見合った問題点が一つ』
『問題点?』
『凄く疲れる』
『あー、使用MPが多いんですね』
『そうだ、低レベルの内に最強の魔法が使える様なもんだ』
決められた志向性、それに特化した物であって文字通り突出している、特化している分だけ使用精神力がでかい。
一回戦闘して、いちいち宿に戻るようなことになりかねん。
杖を手放すと霧散していくルイズたち、残るのは本体と才人だけ。
『覚えているのは後二つ、見せても良いが室内で使う物じゃないし、系統魔法がないと意味がないものだ』
『なんか、使い魔が居る必要感じないっすけど……』
『まぁ、俺の使い方じゃさほど必要無いが』
『正しい使い方じゃないんですか?』
『本来は長ったらしい呪文を唱えて発動する広範囲型なんだよ、俺はそれを途中で中断してるから素早く発動出来るわけだ』
これ、威力は落ちるが最終的には無詠唱で発動できそうな位凶悪な物
基本的な系統魔法は最後まで唱えないと発動しない代物、それと比べると使い勝手は格段に上だったりする
『大体は反則的な能力、でも使用制限が高いと覚えておいてくれ』
『りょーかい』
この後も魔法の説明は続き、ぶっちゃけもう理解している授業に出る気が起きなくて、そのまま才人への説明時間で一日が暮れた。
「まぁ本来ならここら辺でサイトの役割を説明しているだろうルイズ」
「それに文句言いながら聞く俺、と言うわけですね」
「うむ、簡単に使い魔の役割を話しておこう」
その1、使い魔の視線は俺の物。
緊急時じゃないと繋がりません。
その2、使い魔は主に益をもたらす物を見つけてくる。
ぶっちゃけこの世界を知らない才人じゃ無理だろ。
その3、使い魔は主を守ること。
大本命。
「1と2は無視の方向で」
「了解しました」
「それじゃあ寝るか」
「はい……、ってえぇ!?」
「何だよ、近所迷惑だろ」
「いやいや、これからの事は……?」
「そんなもん教えても仕方ないだろ、サイトに教えても手心加えておかしくなりそうだし」
例えば翌日……だったかどうかわからんがギーシュとの決闘とか。
香水を拾うか踏むか、原作かアニメの違いはあるだろうがシエスタが気障ったらしいギーシュに絡まれるのは間違いないはず。
それを知った才人が先んじて拾うかもしれんし、そうなれば『私のために貴族様に反抗しただなんて!』な考えが無くなるかもしれん。
「なんかサイトは下手を打ちまくりそうで怖いんだよ」
「そんなこと……」
「学校の先生や生徒に『ぬけている』って言われた事あるだろ」
「うっ」
「死なない程度にアドバイスしてやるから、普通に過ごしてれば良いんだよ」
「大怪我はあるって事っすか……」
召喚されて数日で死に掛ける怪我を負うのは仕様です、御理解御協力ください。
「頑張れ」
「それ聞いたら頑張りたくないんですけど……」
「……ハーレム」
「全身全霊を持って頑張らさせてもらいます!!」
「よろしい、サイトのベッドはそれな」
人間が来るだろうと思い、わざわざ新しく購入したベッド。
良かったな、俺が使い魔を人間として尊重する奴で。
「ルイズが言ってたルイズじゃないルイズは、その世界の俺をどう扱ってたんですか?」
「寝床は部屋の隅に置いた藁束で、扱いは卑しい駄犬」
「ひでぇ……」
ホロリと一筋の涙を流してベッドに潜り込む才人。
「そうだ、外見とけよ」
「外?」
「……凄いぞ?」
「何が」
「見た方が早い」
何か考えた顔でベッドから降り、窓を開けて広がった視界は──。
「すげぇ……」
巨大な、蒼い月と紅い月が空に浮かぶ。
遠近法でも無理があるだろ、て言うほどでかい月。
俺が最初に見たときは、下手したら落ちてくるんじゃね? と思った。
「あ、風呂入るの忘れてた」
この圧倒的な風景に感動していた才人。
その後ろから空気読め的な発言に感動は一気に崩れ去った。
「サイトも入るか? この世界じゃ湯船を張った風呂は金持った奴ぐらいじゃないと入れないからな」
「入りたいですけど、着替えが……」
「今日は同じ奴で我慢してくれ、今度トランクスっぽいの用意しとくから」
「分かりました、それじゃあ入ります」
「じゃあ湯船を張ってくれ」
「はぁ!?」
おいおい、生徒専用の大浴場に入れるとでも思ったのかよ。
……説明忘れてたから思っても仕方が無いが。
俺と才人の目の前には小屋、場所はコルベールが研究所を構える学院の一角、のさらに端っこ。
勿論オールド・オスマンとコルベールには許可をもらっている。
俺も毎日此方の風呂に入っている、水汲みとかめんどくさいが、精神が日本人故に毎日入りたいのだ。
以前に体が少女の物とはいえ、心は男。
ツルペッタンから『グゥレイトォ!』と叫びたくなるボディの持ち主などさまざま。
精神的に良くない、男を象徴するあれが無いからムラムラしたりはしないが。
「ほら、さっさとポンプを押す」
「へいへい……」
キィーコーキィーコーと、音を立てて水を小屋内の釜に水が入っていく。
それを見てランプから蝋燭を取り出し、日ごろ集めていた小枝と木に火をつける。
勿論紙に火を付けてからだ、そっちの方が早いし。
「大体30分くらいで良い具合になる」
「はぁ、そうっすか!」
異様に力入れて押す才人。
まさかとは思うが……。
「覗くなよ?」
「覗きませんて!」
美少女で可憐な俺、欲情しても仕方がないとは思うが俺からすれば本気で困った事になりかねない。
「じゃあ美少女が入った残り湯を──」
「するかってんだ!」
本気でそう言う事されたら怖いが。
「どうする、先に入るか?」
「俺の残り湯で「晩飯食うの忘れてたな……」先に入ります……」
キィーコーキィーコー。
キィーコーキィーコーキィーコー。
キィーコーキィーコーキィーコーキィーコー。
ただ、ポンプが鳴らす音を聞きながら。
空を見上げ、物語が始まると考える。
懐かしいとは思う、だが帰ろうとは思わない。
もう死んでいるのだ、この世界で一生を過ごすのも悪くない。
原作を知っていると言う以上、行動しだいで確実に巻き込まれるのは確か。
だがそれもありじゃあないか。
才人が主人公で、誰がその隣に立つか分からない。
それを見届けるのも良いだろう、才人が帰るために手伝うのも良いだろう。
骨を埋める、その覚悟はこの体が幼き頃から、既に在った。
「そうか、一緒に入りたかったのか」
「ちげぇよ!」