*注意*
この話は本編と全く関係有りません。
時系列的には惚れ薬前後の、本編とは関係ない完全なパラレルワールドです。
悩みとか問題とか無いその場のノリでやっている、つまりこまけぇこたぁいいんだよ!!(AA略
そんな感じで御願いします。
「はいこれ、注文通りの代物よ」
ある日の午後、モンモランシーがコルクで蓋をした試験管を俺の部屋に持ってきた。
もう出来たのか! はやい! これで勝つる!
「予想以上に早かったわね、もうちょっと掛かると思ってたけど」
「私も興味あったから、そもそも禁薬じゃないから隠す必要もないし」
そもそもこんな薬があることを知られていないので、無い物を禁制に指定しても意味が無い訳で。
「しっかりと効果を確かめてから持ってきたのよね?」
「ええ、解除薬もあるわよ」
そう言ったモンモランシーの手の内に、青色の液体が入った試験管と橙色の液体が入った試験管が握られている。
「ブルーが薬で、オレンジが解除薬。 書いてあった通り効果は一時間しか持たないわよ」
「……実験もした?」
「しっかりと、自分で実験する訳には行かないから動物でね。 何度も試した後自分でも飲んでみたわ」
勇気あるなぁ、実験動物で成功しても人間で成功するって訳じゃないだろうに。
「……どうなった?」
「……成功したわよ。 一時間で元に戻ったし、解除薬でも元に戻ったわ」
嫌そうな表情を浮かべるモンモランシー、おそらくあれを見て驚いたのだろう。
ギーシュと付き合ったままならいずれ見る事になるだろうし、保健の勉強という事で諦めろ。
「それは安心したわ」
実験で確認済みというなら安心して使えるな。
「一気には無理でしょ? 持って帰るなら何度も往復しなくちゃいけないわよ?」
「……用意してるわけ?」
「してるわよ」
モンモランシーを部屋に招き入れ、クローゼットの中に重ねて置いてある、膨れ上がった袋の一つの紐を解いて中を見せる。
中にはエキュー金貨、一袋に二百枚入っている。
それが十袋、締めて2000エキューもある。
これらは全て薬の調合費用、さらには材料購入代金として十五袋を渡している。
合計5000エキューも金を用意した、分けて運び込むの超めんどくさかったぜ。
「中を全部確かめておく?」
袋の中の黄金の輝きにモンモランシーは息を呑んだ、この額になると貴族の子弟でも早々手に入れられない。
日頃ポーションをせっせと作っているモンモランシーは材料代が足りなくて喘いでいる、香水とか作ってそれを他の生徒に売ってたりもする。
本来なら『趣味が有るのはいいなぁ』とか適当に流すのだが、そう思わずモンモランシーのポーション調合スキルを頼る事になった原因に出会ってしまった。
ある日俺はフェニアのライブラリーから面白そうな本を漁っていたら、表紙が古いせいか文字が擦れて読めない本を見つけた。
その本の内容を確かめるため開いて読めば、書いてある事は薬の事ばかりだった。
薬など興味は無い、適当に飛ばし読みしていて目を引く事がなかったため、閉じようとした最後のページに一気に興味を惹かれた。
まじかよ、そう呟いてしまうほど衝撃的だった。
正直に言えば初めて魔法を使った時よりも衝撃を受けた、こんな物が存在するとは、ファンタジーを舐めてた。
惚れ薬があるんだから、こんな薬も存在してて良い筈だ。
俺はよくそのページを読んで、正確に読み取れない部分が無い事を確認してから、本を持って図書館を後にした。
その本を脇に抱え込んで、モンモランシーの部屋に飛び込んだのは数日前だ。
手持ちをありったけ渡し、材料をかき集めて調合してもらった。
「……ある意味夢よね、これは」
「どんな夢よ」
ステキ!
「さぁ持っていきなさい! そしてその薬を寄こすのよ!」
テンション上がってきた俺を見て、モンモランシーはなんとも言えない表情で薬を手渡してくる。
喜んで薬を受け取り、顔の前に持ってきて青と橙色の怪しい薬を見て笑う。
「……出来上がったのはこれだけ?」
「ええ、そもそも材料がめったに手に入らないんだから、これだけ作れただけでも感謝してよね」
「するする、ありがとーございますー」
「……してないでしょ」
等価交換しただろ、材料費と調合費を全額出して、報酬も渡すんだから文句言わないでくれるかね。
「で、どれ位飲めばいいの? もしかしてこれで一回分? 何かに混ぜて飲んでも大丈夫?」
「一滴で十分よ、解除薬もね。 水でもワインでも効果は無くならないわ」
たったこれだけで5000エキューもしたなら間違いかもしれなかった。
だが複数回使える、楽しみが広がってやばいね。
「それじゃあさっそく……」
テーブルの前に移動して、さっき水を飲むために使っていたグラスに一滴ポトリ。
わずかに残っていた水と混ざり合った薬、グラスを傾けて一気に飲み干す。
「……そういえば、効果はすぐ出るの?」
振り返ってそう言えば、古典的なボフンとピンクっぽい煙が全身を包んだ。
苦しくはないが視界が遮られて、真っピンクでなんか嫌。
手であおぎながら煙が晴れるのを待つ。
「……変わ……てる?」
変わってた、絶壁と言うには難しい僅かな膨らみがある胸が、真の絶壁に。
あとスカートとか下着がきつく感じる、この感覚は十数年ぶりだな。
「……まったく変わってないじゃない」
モンモランシーから見て、だな。
「そう言わないでよ、色々変わってるんだからさ」
ん? どっかの小さい錬金術師の弟みたいな声になってるか。
「……それはわかるけどね」
身長は伸びていない、髪も変わっていない、女性としての胸がなくなり、男性のあれが出来ていた。
「さすが、この性転換薬は上出来のようだ」
「言ったでしょ、しっかりと試したって」
後は着替えだな、容赦なくシャツを脱ぎ捨ててクローゼットに向かう。
体は女の子特有の丸みが少なくなった感じか、なんと言うか鏡見たら少し細くなった感じを受けるかもしれないな。
「ちょっと! 私が居るんだからそういう事しないでよ!」
「とか言って、実験した時じっくりと見たりしたんじゃない?」
主に自分の体を、特に下半身。
「なっ! そ、そんなわけないでしょ!」
顔が真っ赤ですよ、ミス・モンモランシー。
「どっちでもいいですけど」
キャミソールも脱ぎ捨て、スカートにも手を掛ければ。
「そ、それじゃあ失礼するわ!」
そそくさとモンモランシーが部屋を出て行った、扉を閉めずに。
ドア位閉めてくれよと思えば、入れ替わりに才人が入ってきた。
すれ違ったモンモランシーを見つつ、部屋に入って俺が居る方向に顔を向け。
「……な、なにしてんだよ!?」
上半身裸の俺、その姿を目に入れてからあわてて才人は顔を両手で覆う。
才人、指に隙間が開いてますよ。
「いやな、モンモランシーにポーション作ってもらったから試してたんだよ」
「……薬?」
背を向けたまま扉を閉める才人、その状態で聞いてくる才人に一言返した。
「そうだよ、性転換薬。 今の俺は男ですよ」
「……男!?」
才人用に買ってたシャツやズボンを取り出して、トランクスもタンスから取り出す。
「いやさ、こうなった身としてはこういう展開も有りだと思うんだよね」
遠い昔になくなってしまった男の象徴を目に入れて、確かにこんなのだったなと懐かしみながら着替える。
……下品だな、そう思ってしまう自分も居るから変わったんだなぁと感じる。
とりあえずは変態だな、スカートと女物の下着を着る美少年的な意味で、つまり男の娘ってやつなのか。
いやまぁ、そのままでも殆ど外見変わらないからスカートとか着けてても良いんだけど。
性転換したからには全部脱ぎ捨て男物、トランクスやらシャツやズボンとか着る、サイズがちょっと大きいから袖や裾を折り曲げ完成。
「もう良いよ」
シャツのボタンはしっかり閉めた、ズボンも然り。
才人に声を掛け、振り返った才人が俺を見て。
「性転換って何だよ」
ブスっとした表情の才人。
かわいい女がかわいい男になったのがいやなのかね。
「面白いのを見つけてな、モンモランシーに作らせて見たんだ」
「……ずっとそのままでいるのか?」
「いや、一時間しか持たないらしいよ。 すぐ戻りたい場合も解除薬もあるし……」
そう言って、俺はじっと才人を見つめる。
「……なんだよ」
俺はゆっくりと椅子に座り、足を組んで左腕を背もたれの後ろに回して。
「飲まないか」
「絶対にいやだ」
プイっと才人は顔をそらして断言した。
「えー、すぐ戻れるしいいじゃん」
こんな機会めったに無いよ? と立ち上がりながら説得してみる。
「考えたこと無い? 自分が女に生まれてたらどんな風な感じになってたか」
「ない!」
「嘘は良くないよ? 少し見てすぐ解除薬飲めばいいんだし、解除薬が効果あるか不安なら俺が確かめるからさ」
薬を混ぜた水を少し飲むだけで元通りさ!
そんなことを言いながら、別のグラスに水を少し注いで、今度は橙色の薬を一滴落とす。
一瞬水が色付いたが、すぐに無色透明に戻る。
その解除薬が入った水のグラスをつかみ、ゴクリと喉を鳴らして飲み干せば。
「ほら」
またボフンと真っピンクの煙が出て、元の性別に戻る。
「いや、わかんねーし」
そうですよねー。
「……少しだけよ、しっかりと見てなさい」
遺憾な事ながら、胸を張って胸の下、シャツの上から肋骨を左右の手で押さえる。
そうすれば分かる、胸には小さいながらテントが出来ているのが。
見ろと言った手前もあり、目をカッと見開いて才人が俺の胸を凝視していた。
恥ずかしいが下を見せるわけにもいかないからこういう手段。
「……はい終わり」
そう言って手を離し、最初に性転換薬を入れたグラスに水を少し注ぐ。
また一滴垂らし、グラスを手に取って呷る。
またピンクの煙、晴れれば男の俺が居た。
「ほーら、男でしょ?」
同じようにシャツの上から肋骨を手で押さえるが、胸の膨らみなど確認できない。
「証明終了! さぁドリンクタイムだよ、ニーサン!」
「ニーサンってだれだよ……」
「ほらほら」
同じグラスに水を少し注ぎ、青い薬を一滴。
そのグラスを押し付けるように才人に手渡す。
「解除薬も用意しておくから」
才人が持つグラスとは別の、解除薬を入れて飲んだグラスに水を注いで青い薬を一滴垂らす。
「これで心配は無くなったな、それじゃあ一気に行こうか」
さあ! さあ!
グラスを持って迫る俺を見て、逃れられないと悟ったのかグラスを受け取り一気に呷る才人。
ゴクリと水が才人の喉を通って胃袋へ、すると同時にボフンとピンクの煙。
「さぁて、一体どんな娘がでてくるの……」
もくもくとした煙が晴れてきて。
「………」
グラスを手放した。
グラスが砕けて、足元に水が飛ぶ。
「うわ! ちょ、なにしてんだよ!」
「………」
煙が晴れた中にはいつもの青のパーカーと紺のジーンズを履いた才人。
のような存在。
「………」
一番に目に入ったのは胸だった。
パーカーの胸の部分が大きく膨らんでいた、少々緩かった胸部から余裕が大きく減っていた。
なんだこれは、まさか幻覚でも見ているのか。
「……これ、なに?」
一歩足を踏み出して自然と伸ばした手が、才人の胸に実るたわわな物体を掴む。
手に伝わる感触はやはり柔らかい、まさしく乳房。
「うわ!?」
「ねぇ、これ、なに?」
明らかに手に収まりきれない、C……いや、Dカップはあるだろう胸がそこにあった。
ジャンプしたら間違いなく揺れる、そして多分痛みが走る、そんな胸。
「……うーん、大きい」
ムニュムニュボヨンボヨン、俺の手には余る大きさ。
なるほど、女の子の才人はこんな風になるのか。
「いッ!」
「………」
「いだっ!?」
ぐにゅぅ、っと指が才人の胸に食い込み、指の間から変形した胸がその弾力を主張していた。
なるほど……、女体化才人は……。
「……ゆ゛る゛ざん゛!」
「まじ痛てぇって!」
それを聞いてようやく手を離す、おお神よ、始祖ブリミルじゃなくて神よ。
なぜ胸囲の格差社会を作りたもうたのか、これは効果が切れない豊乳薬が無いか調べなければならなくなってしまった。
「ごめんごめーん、ちょっとイラっとしちゃった☆」
と言いつつ俺の顔は笑っていないのか、才人は腕で胸を押さえながら頬を引きつらせていた。
気を取り直して改めて才人を見る。
女体化という事で、男の角ばった感じが無くなり、体のラインに丸みが出ている。
声は元の男とはぜんぜん違う、女の子の才人はこんな声だろうなぁと予想通りな感じ。
身長は変わらないが、顔はどことなく小さくなっており、服装的に男に見えるがよく見れば女の子というのが分かるような……。
というか、その胸に付いた脂肪がくそったれ!
「だから掴もうとするなよ!」
「チッ!」
イメージ的にクラスに一人は居そうなボーイッシュな女の子、髪を染めていない黒のショートヘア。
他の女子よりも少し背が高くて、男女係わらず気さくに声を掛けるような明るい子。
顔はクラス一番じゃないが、それなりに可愛いく、スタイルも服の上から分かるような胸。
その上ぬけていると、言い換えればちょっとしたドジっ娘。
ああ、これは密かな人気が出そうだ。
女子側から見ればどうか分からんが、男子側だと悪くないんじゃないか。
高校生には己の性癖を確立するにはちょっと早いだろうか、とりあえず目に付くような胸とかで男子の人気をゲット。
しかも本人は厭味が無い性格、要は付き合いやすい。
妥協できない理想を持たなければ、彼女とかになったりしても重っ苦しくは感じないだろう。
好感が持てるな、胸以外は。
……妬ましいと思う辺り、かなりルイズっぽい気がする。
「……しっかし、可愛くなってるよなぁ。 確かメイド姿もあったような気もする、それの挿絵も可愛かったような」
「……まじで?」
男のルイズと女の才人、なるほど……そんなのもあったような気がするな。
性転換した同士の男と女……?
<●> <●>
「な、なんだよ……」
「ふぅ……、いや、なんでもない。 ほら、鏡見てみれば?」
そう言って才人の後ろに回り、鏡がある方に押して移動させる。
ポンと押して鏡の前、反転して映る鏡の中には少女。
「……すげぇ、流石ファンタジー」
自分の胸に手を伸ばすも、手前で止まり触るかどうか戸惑っていた。
「下もなくなってるでしょ?」
「……もうお婿にいけない」
いいよ行かなくて、帰れないと分かったら責任はしっかりとってやるから。
才人は微妙に内股になって凹んでいる。
「元に戻るから気にしない」
無くなった時を実感した時の物足りなさは凄い。
感覚的にはいきなり無くなるんだぜ、つい股間を押さえちまう。
しかしそんな事はどうでもいい、問題は胸の奴!
「……ちょっとジャンプしてみたら?」
触るのがだめだから、ジャンプしてみろよと勧めてみる。
胸揺れ体験できるしどうよ、そう言えば才人は少し迷った後に頷いてブルンブルンボインボイン。
「いっ……、なんだこれ……」
飛び跳ねるのを止めて胸、というか胸の下に手を当てる才人。
掛かったなアホが!
「おっぱい星人なら覚えておこうぜ! 胸が大きく揺れると痛いんだぜ!」
決してざまぁみろとか思ってはいない。
「……まじかよ、男の夢って痛いのか……」
胸のなんかが弱くて、大きく揺れたりすると損傷して垂れ易くなるんだったか?
とりあえず胸揺れは男にとってはうれしいが、女にとってはいろんな意味で苦しいものなのだよ。
……水のヒーリングで治りそうだけども、苦痛が起きると分かっているのに見せて貰うのもあれだし黙っておこう。
「で、触ってみないの?」
「……なんだかなー」
素直に胸揺れを楽しめなくなった弊害か。
ざまぁみ……、いや、そんな事オモッテナイデスヨ。
「あれだよ、女になったとはいえ自分の体だから、揉んでも虚しいだけだよ」
「……だよなぁ」
なんかこう、ムラムラしない。
俺はともかく、才人は間違いなく自分の体だからな。
正直大きく変わったのは胸と股間のあれ位だろう、胸が無かったら普通に才人。
一目見て、ん? と思うが、やっぱり才人で胸を見たら。
「……ゆ゛る゛ざん゛!!」
「だから止めろって!」
後ろから鷲掴みしようとしたのが、鏡を見て分かったのかあっさり避けられた。
「……世界とは不公平なのね」
「ルイズちょっと怖いんだけど……」
目とか血走ってないですよ。
「……はぁ、こうなったものはしょうがない」
とりあえず髪を後ろで一纏め、いわゆるポニーテールにする。
髪を留め、才人の隣に並んで鏡を見る。
「うーん、あんまり変わらんね」
「俺は別人になっちゃったけどな」
一見してルイズと才人、そこはぜんぜん変わらない。
「サイコちゃんかわいいですよー」
「頭がおかしい人みたいだからやめてくれよ……」
サコちゃん? ……どうでもいいか。
そうして俺は鏡から離れ、テーブルの上に置いていた性転換薬とその解除薬を手に取って。
「………」
駆け出した。
「あっ!」
ネックに指突っ込んで引っ張り、自分の胸の谷間を覗いていた才人が走り出す俺に気づいて声を上げた。
もう遅いわ!
才人が振り向いた時にはドアにたどり着いており、ドアを引いて開き廊下に躍り出る、そこから階段へ向けて全力疾走。
さて、追いかけてこれるかな? 走れば思いっきり胸揺れしちゃうぞ。
廊下には他の女子も居る、皆俺の使い魔だと知っているし、物理法則に従って揺れる胸ってものも知っているぞ?
「フハ、フハハハハ!」
寮から飛び出して学院内を歩き回る、追っ手(才人)の気配も無いしやりたい事をやろう。
目的その1、女の子に声を掛ける、シエスタとか。
目的その2、性転換薬を他の誰かに飲ませる、キュルケとかそこらへん。
目的その3、……もう無いな。
時間限定だし、ちょっと楽しむだけで終わっちゃうがまぁいいか。
まずは洗濯物を干している広場に向かってみる、今の時間帯なら朝の洗濯物を干しているはず。
とことこ歩いて広場に到着、おーおー予想通り洗濯物干してるね。
腕組みしてシエスタが居ないか目を凝らす、居るはずだけどなーと思っていればやっぱり居た。
他のメイドと同じくせっせと洗濯物を干している、流石に今声を掛けるのは邪魔になるから、干し終わるまで待ってみる。
十分、二十分と経った頃には山のような洗濯物が全て干し終え、吊り下げられた洗濯物が風で揺れていた。
流石エリートメイド、これ位簡単にこなせなけりゃここではやっていけんってか。
とりあえず籠持ってぞろぞろ歩いていくメイドの一団に向かって、と言うかシエスタに向かって手を振る。
そんな俺に気が付き、手を振り返そうとしたシエスタが腕をすぐ下げる。
「……ん?」
ちらちらとこっちを見て、真っ直ぐに視線を向けようとしていない。
……なるほど、ピンクブロンドを見て俺だと判断したが、男子生徒と同じようなシャツとズボンを履いてるから別人と思ったのか。
仕方ないからおいでおいでと手招き、シエスタと周囲のメイドはざわめき始める。
もう一度手招き、そうするとメイドたちが恐る恐る自分を指差し始める。
俺はそれを見て首を振る、残念だけど君じゃないのよと否定。
次々と指差し首振りを繰り返して最後のシエスタ、ゆっくりと自分を指差したのを見て俺は大きく頷く。
名前を呼んでやればすぐ終わったんだけど、それじゃあつまらんぜよ。
他のメイドたちに急かされたのか、とことこ小走りで来たシエスタ。
「……あの、ルイズ様……でしょうか?」
「そうだよ、呼びつけて悪いね、シエスタ」
「……あの、ルイズ様?」
「Ja」
その通りだと頷く、声もちょっと変わってるし男物着てるし、俺っぽい別人に見えるのかね。
確証を得られないシエスタはおろおろして可愛いね。
「ちょっとシエスタと話をしたくてね、時間あるかな?」
「え、あ、はい」
戸惑いながらシエスタが頷く。
「裏のテラスにでも行こうか、そこならあまり人は来ないし」
「……分かりました」
……おお、横暴貴族に渋々従うメイドのようだ。
「不安? 私っぽい別の誰かとでも思ってる? 見た目とかそんなに変わってないと思うけど」
「……やっぱりルイズ様なんですか?」
「私以外に見える?」
「……いえ、でも……」
「ニーサンだからしょうがないね」
「……にーさん?」
よく分からないと頭を傾げるシエスタ。
「最近だらしねぇな」
「す、すみません……」
俺の一言にあわててシエスタが謝るが、違うと断りを入れる。
「いやいや、私がだらしなくてね。 とりあえずテラスに行こうか」
「はい」
俺が厨房の裏にある、俺以外の貴族は使わない平民専用と言って良いテラスへと歩き出し。
その後ろをしずしずとシエスタは付いてきた。
テラスに着くなり、シエスタは紅茶を入れてくると断りを入れて厨房へ。
俺は頷き、一つの白く丸いテーブルを選び、セットとなっている白い椅子に腰掛ける。
……うーん、そんなに別人かね。
背が伸びたり髪が短くなったりしてないんだけどなー。
そう思いながらポニテの後ろ髪を撫でてみる、……髪質悪くなったか?
「お待たせしました」
どこと無く手触りが悪くなっているような自分の髪、手櫛で梳いていたらカップとポットを載せたトレーを持ったシエスタが戻ってくる。
「失礼致します」
いつもより余所余所しく、何処か畏まった仕草でカップに紅茶を入れていく。
「シエスタのも注いで、注いだら座ってくれ」
出来るだけ重々しく言う。
「はい……」
頷いて同じようにカップへと紅茶を注ぐ。
シエスタは紅茶を注ぎ終わり、断って俺の向かいの椅子に座る。
「………」
俺は真っ直ぐとシエスタを見る。
シエスタはどこか視線が泳いで真っ直ぐ俺を見ていない。
「……シエスタに話したい事があるんだ」
「……な、なんでしょうか」
「……俺、かなり迷ったんだ。 本当は話しちゃいけない秘密の事、でも……」
もう一度、視線を細めつつシエスタを見つめる。
「もう限界だ、ずっと我慢してきたんだから打ち明けてもいいよな?」
「……えっと、それは一体……?」
「……シエスタ、俺のことどう思ってる?」
「……え?」
肘をテーブルの上に乗せ、顔の前に指を組む。
いわゆるゲ○ドウスタイル、少しだけ顔を俯けて上目遣いになるように見る。
「……はっきりと聞きたい、俺の事をどう思ってる?」
「……そ、それは……」
唐突の事でシエスタは顔を俯かせて、何かぶつぶつ言っている。
「俺さ、男なんだ。 本当は女じゃないんだ」
「……へ?」
「とある事情があって女の子の振りしてたんだ、でも本当は男」
紅茶が注がれたカップを取って口を付ける、いつも通り美味いね。
「女の子に見える魔法を掛けてたんだ、でもそれを止めた理由はどうしてもシエスタに聞きたい事があったからなんだ」
カップを置いてシエスタを見つめ。
「シエスタ、俺のこと好き?」
CV・鎧の弟。
「そ、そんな事!」
「俺の事好きか嫌いか、それを聞きたいから男に戻ったんだ」
「……な、なんで」
「俺とシエスタが初めて出会った時のこと覚えてる? 一目見たときからシエスタのこと可愛いなぁって思ってたんだ」
「な、ななな!?」
ガタリと立ち上がったシエスタの顔が見る間に赤くなっていく。
……脈ありなのか、俺も立ち上がって歩き出す。
「なぁ、シエスタ、俺の事どう思う?」
「……ル、ルイズさまはおんなのこであります!」
「だから男だって、ほら」
シャツのボタンを一つ一つ外しながらシエスタに歩み寄る。
「何してるんですか!?」
キャーキャー言いながら顔を手で押さえる。
「何って、男だと証明しなきゃいけないからさ」
ボタンが全て外れ、シャツが開く。
横からは見えないが、正面からは胸が見えている。
「確か俺が気を失ったまま帰ってきた時、シエスタが世話してくれたんだろ? だったら俺の体見たんだよね」
ナイチチとは言え膨らみはある、だが今は完全に無い男の胸だ。
ジリジリと下がるシエスタ、俺は歩いてどんどん近寄る。
「ほら、よく見て」
後退るシエスタよりも速く歩いて近づいて、顔に当てられている手を取って自分の胸に押し当てる。
「これが女の子の胸か?」
「……あう、あうう……」
流石に下はアウト、胸で勘弁して欲しい。
「聞かせて欲しいな、シエスタの気持ち」
もう後ろは無い、シエスタの背後は壁だ。
「じょ、冗談で……っ!?」
左手は後ろの壁に当て、足をスカートの上から、シエスタの両足の間に割り込ませるように当てる。
身長差の関係から俺はシエスタを見上げ、シエスタは俺を見下ろしている。
「こんな背の小さい男は駄目か?」
「……ぁ、ルイズさ──」
そうして大きな、陶器が割れる音が響いた。
その音がした方向を見れば、俺とシエスタの中間位の背の娘。
ブラウンブロンドとでも言えばいいのか、鮮やかな茶色と金色の中間と言った髪色の、足の治療費を出して治させたメイドさんだった。
「あわ、あわわわ……」
「マ、マリー!?」
「あわー!」
恐慌したように震えていたマリーと呼ばれた少女は、変な悲鳴を上げて走り去っていった。
壁に寄り掛かるシエスタと、壁に手を当て迫っているような俺、しかもシャツを開けさせてだ。
邪推しても仕方が無い、シエスタはマリーを追おうとするが俺が邪魔で動けない。
「……あわーって、凄い声だな……」
「そ、そんなこと言ってる場合じゃありません!」
「それもそうだ、本命が来たようだし」
「え?」
そう言ってシエスタから離れ、シャツのボタンを留め始める。
「ルイズ!」
左手にデルフを掴んだ才人が息を切らして現れた。
立ち止まった慣性で、そのなかなか大きな胸がブルンと揺れた。
「……サイトさん?」
「……あ」
「フヒヒ」
「な、なんですかそれは!?」
もしかしたらシエスタと同レベルの胸部装甲、こいつを剥がすのは苦労するだろうなぁ。
とか思いながら俺はテーブルに戻って椅子に座る。
「ル、ルイズに変な薬を飲まされたんだよ!」
となかなか可愛らしい声で才人、もう女の子でいいんじゃない?
「こ、声も……、ルイズ様! 一体どういう事ですか!?」
「そのままよ、私は男になって、才人は女になっちゃっただけ」
「……え? なんですかそれ……」
「シエスタ、俺の事好き?」
出来るだけ自然に笑ってシエスタにさっきの続きを聞く。
「俺は好きだよ、どっかの貴族にシエスタが連れて行かれたら無理やりにでも連れ帰すくらいにね。 サイトももしシエスタが無理やり連れて行かれたら連れ戻すでしょ?」
「……そりゃ連れ戻すけど」
「サイトちゃんかっこいー」
「ルイズくんもかっこいいよな! だからいい加減戻してくれよ!」
「なんで? 放って置けば勝手に戻るんだしいいじゃない」
「それじゃあ駄目なんだよ! あいつらが……」
と才人が言いかけて、遠くから聞いた事のある声で才人を呼ぶ声が聞こえた。
「……おっぱい星人たちに遭遇したわけね」
「あいつら俺だってわかってるのに胸揉ませろとか!」
なん・・・だと・・・。
ギーシュたち見境無さ過ぎだろ、妬んで才人の胸掴んだ俺が言えなさそうだけど、下心じゃないからいいよね!
とりあえず解除薬をポケットから取り出して、シエスタが注いでいた紅茶に一滴垂らす。
「はい」
カップが乗ったソーサーを手で押して才人に勧める。
何でギーシュたちに才人の胸を揉ましてやらなくてはいけないのか、つかギーシュはモンモン居るだろ、チクるぞ。
「これで! ……熱っ!?」
ゴクリゴクリとそれなりに熱い紅茶を一気に飲み干した才人から、ボフンとピンクの煙が湧き上がって元の男に戻る。
「な、なんですかそれー!?」
卑怯な胸が消えて、元のぺったんこに戻ったのを見てシエスタが声を上げる。
「シエスタ、座りなさい」
「ル、ルイズ様、一体何なんですか!?」
「気にする必要は無いわ、シエスタはシエスタのままで居てちょうだい。 ほら、座って」
シエスタに性転換薬飲ましたらどうなるのか興味はあるが、スカロンみたいに筋骨隆々になったりするかもしれないから知らないままで居よう。
「まったく、慌てふためくシエスタは本当に可愛いわね」
才人は才人で、解除薬が入った紅茶を飲み干してからすぐ走って行った。
胸部マッサージを要求したおっぱい星人どもに報復を掛けに行ったんだろう、現に遠くから悲鳴のようなものが聞こえるが無視。
「そういう事言わないでください! 私の純真を弄ぶなんて、ルイズ様ひどいです!」
「弄んだつもりは無いわよ。 私は本当にシエスタのことを好きだし、男だったらお嫁さんにしたい位よ」
それを聞いたシエスタは、なぜか喉を詰まらせたような声を漏らす。
可愛くてスタイル良くて家事も完璧、貴賎関係無かったら求め得る中でかなり良い女じゃないかね。
そんなシエスタに好かれる才人は果報者だな、立場交代してくれねーかなー。
「……じゃあさっきの男だというのはやっぱり冗談だったんですね!?」
「残念ながらね。 今は体が男になってるけど、後三十分もすれば元に戻るわ」
残念無念、まぁ永遠に効果が出続けたりするんならそもそも作らなかっただろうけど。
色々問題あるんだよ、政治的な奴とかさ。
「もう一度聞くけど、私のこと好き?」
「……好きです。 で、でもそれはルイズ様だから好きなんですよ? 男とか女とかじゃなくて、ルイズ様が好きなんです!」
シエスタは胸の横に、握った手を持ってきてなんか力説。
あらら、そう言ってくれると嬉しいね。
「良かった、シエスタたちから嫌われるのは嫌だからね」
貴族どもからは何て思われようと気にしないが、シエスタたちから嫌われたりするのは嫌だと感じる。
なんと言うか親しみやすいせいか、平民寄りな感覚だからだな。
シエスタに笑い掛けて、残る紅茶を一口。
あー、平和だなぁ。
遠くからまだまだ聞こえる悲鳴を耳にしながら、シエスタと紅茶を楽しんだ。
*あとがき*
描写していない部分はご想像にお任せ、女体化才人の声とか。
本編すすんだら別のキャラ絡ませてまた書く、アンアンとかテファとか。