『もう一丁!』
『まだ! まだ早い!』
『逝ける逝ける!』
『字が違う!』
『ある意味有ってるから問題ない!』
『アッー!』
水を限界まで汲んでいた桶を、才人は倒した。
ダバァー、びしょ濡れである。
『惜しい、幻の3段目までもう一歩』
『一個ずつ運ばしてください……』
タイトル「使い魔の一日は、多分大変」
ギーシュとの決闘騒ぎから10日。
安い秘薬を三つと、教師の水メイジの治療であっさり治った才人。
重く見えた傷は、全くそんな事はなかった。
『これで小遣いが浮いた』
原作にて大怪我した才人に、ルイズはトリステイン魔法学院に常備してある最高級の秘薬を使った。
値段?
『ふぅ……』
な位の代物。
いくらトリステイン有数の大貴族のラ・ヴァリエール公爵家三女でもこの金額はないだろ、と。
具体的に言えば4桁の金額、トリステインの一般市民10人が1年遊んで暮らせるほど。
下級貴族だと3人ほど遊んで暮らせるか、中級だと1人、上級は無理だな。
ラ・ヴァリエール公爵家は上級の中の上級、最上級に位置しますので出そうと思えば簡単に出せる金額です。
しかも、小遣いで。
日々の積み立ては大切です、覚えておきましょう。
5桁の額を貯金していますが何か?
『朝食を作ってもらえる事に感謝して労働だ!』
『さすがにこれは無いわ……』
桶を重ねて運ばさせようとしたり、縦3メイル、横4メイルほどまで積み上がった薪を1時間で全て割らせようとしたりするルイズに、才人はぶつぶつと文句を言った。
才人は外で薪割りや水運び、俺は食堂の厨房で軽やかに皮むきとか。
俺は女の子、才人は男の子、そう言う事だ。
「おう! 頑張れよ、『我等が剣』!」
「ええ、まぁ、任せてくださいよ……」
ため息を吐きながらも、薪割り斧を持つことによってガンダールヴが発動して馬鹿らしい速度で薪を割っていたりする。
その才人の背中を叩きながら、元気良く励ましたのはこの魔法学院のコック長であるマルトー。
300人ほどの生徒とそれを講義する教師の胃袋を満足させる、料理の一手を、厨房を取り仕切る四十過ぎのおっさんである。
食堂調理場に従事する調理師は50名ほど、料理を運ぶ為に出入りするメイドも含めれば100名を超える学院内最大の仕事場と言える。
そこの長として、きびきびと一人一人細かく指示を出し、次々と料理を完成させていく。
「マルトー、皮向けたわ。 次は?」
「さすがルイズ様、てめぇら本職の癖して負けてんじゃねぇぞ!」
「さーせん! 親方ァ!」
マルトーやら、担当を持つ調理師には及ばないが、下っ端を遥かに凌駕する優雅さと華麗さと軽やかさを伴って皮むきする俺は早い。
「それじゃあ、あの果実の皮をお願いしますぜ」
「わかったわ」
今の時代、男でも料理位出来ないと結婚できないぜ?
この厨房に通い始めてからもう1年ほど経過している。
最初は『原作に出てくるキャラを取り込んでおこう』とか思ってきたわけだが。
想像以上の慌しさに何か手伝える事は無いかと聞いたら。
『貴族様のお手を煩わせるなど……』
『手伝わさせなさい、命令しちゃうわよ?』
ゴリ押し。
それ以降朝手伝うようにしている、食堂で出す料理とは別に作ってもらうんだからそれも有りだろうと思う。
使い魔召喚の日からの数日は、色々とやることがあったために手伝っては居なかったが。
シュルシュルリと、1枚に繋がった果実の皮が量産されていく。
今ではこうだが、初めの頃は凄まじいほど不器用だった。
『クッ!』
『あわわ、ルイズ様のお手が危ない……』
趣味が編み物の癖して恐ろしいまでに手先が不器用。
なんつーか、自分の意思に反して指先が勝手に動くのだ。
『コイツ……、(勝手に)動くぞ!!』
とても……辛かったです……。
矯正するためにかなりの時間を要した、今では勝手に動かず、綺麗に剥ける様になった。
……編み物はそうでもないが。
『やっと……オワタ』
最後の一本を叩き割り、背後には積み上げたのは高さ2メイル、横5メイルに並べられた割れた薪。
よくやった、と自分を褒めてやりたい。
ガンダールヴのルーンにも感謝しなくては……、無かったら3倍以上の時間が掛かっていただろう。
腕で額の汗を拭い、割れた2本の薪を積み上げたところに。
『ほら』
飛んできた布、と言うかタオルに包まれた瓶を受け取った。
『喉渇いたろ、包んであるタオルで汗拭け』
振り向いた先には、ルイズが朝日を背に立っていた。
『マルトーに報告してきな、朝飯はシエスタが部屋に持ってきてくれるってよ』
『ああ、わかった』
解いて瓶コルクを力ずくで抜き、口を付ける。
『うめぇ……』
汗をかいた後の水分おいしいれす^q^。
汗を拭いながらも喉を潤した。
その言葉を聞いたルイズは、少し笑って踵を翻した。
『先戻ってるなー』
後ろ手に手を振りながら、朝日を一身に受けるルイズ。
その全身は眩しいほど輝いていた。
「おやっさーん、薪割り終わりましたよー」
「もう終わったのか、さすが『我等が剣』!」
「親父さん、その呼び方止めてくれ」
「ルイズ様はもう行ったのか」
「とっくに」
「……なあ、我等が剣よ」
「だからそれ止めてくれって」
「なら、サイト!」
「なんっすか」
妙に暑っ苦しいと感じる才人。
それもそのはず、先の決闘で貴族を打ち倒した才人は学院で働く平民たちに大きな動揺を齎した。
無理だと思われていた『平民が貴族に勝つ』、それを成し遂げたのだから平民たちから大変な人気を獲得していた。
別の言い方をすれば『スカッとした』、それに尽きる。
全体的に良い感触を持たれていない貴族たち、平民平民と見下し、あまつさえ先のギーシュのように『躾がなっていない』と言って危害を加えるのだ。
これで好感触を持たれるはずが無い、ドMなどならありえるかも知れないが……この学院で働く平民たちにそんな変態は居ない。
「お前さんの御主人様、どう思うよ? 平民で使い魔だからって叩かれたりしてねぇか?」
マルトーが聞きたかったのはルイズの事。
ルイズも平民たちが嫌う『貴族』、そう言った事も才人にしているんじゃないかとマルトーは心配したのだ。
「まさか、親父さんは俺よりルイズのこと知ってるんじゃないんすか?」
「そりゃあそうだがよ……」
才人が言った通り平民たち、特に厨房周りの者たちは断然才人より接した時間が多い。
ほぼ全ての学院の平民たちから嫌われる貴族の中で、唯一と言って位プラスの感じを持たれているルイズ。
それでもなお、無意識層まで刻み込まれた『貴族』と言う存在が、ルイズを怪訝に見てしまうのだ。
「あのルイズを見て、他の奴らと一緒に見てるなら、俺は親父さんたちに失望しちまうよ」
才人の言葉を聞いて、ばつ悪そうに顔をそらす親父さんたち。
精神を構築する元が大きく違うルイズ、ハルケギニアの貴族と日本人の平民。
文字通り異星人ほどの違いがあり、平民として見下すことが出来ないで居るから、今の日課のごとく手伝いをしているのだ。
『原作キャラを取り込む』と言う狙いがあったとしていても、必要以上にやさしくする意味が無い。
現に才人が呼ばれる以前から、平民に手を上げる貴族を止める事なんてしょっちゅうあった。
「てか、ルイズが貴族だか平民だかで人を見下すなんてすると思わない」
才人の言葉は信じすぎだろう、と思わなくも無かったが。
これまでのルイズの言動は、才人の信頼を得るには十二分に有った。
「気分悪くさせてすまねぇな、才人」
「……?」
「俺たちはルイズ様も貴族だって見ちまったよ、ルイズ様は身分関係無く見てくれているのによ」
喉から搾り出したような言葉を呟いたマルトーを、才人は目を丸くして見た。
今では様付けで呼んではいるが最初の方はかなり嫌がっていた、しかし他の貴族に聞かれると厄介なことになるのでしょうがなく認めた。
何か用入りの場合は口添えをしてもらったし、職場に不満な箇所があれば学院長に言って直してもらったりしていた。
大抵の貴族は『平民を付け上がらせる』と反発したが、『付け上がってるのはお前らだろ、ボケが!』と猫かぶりの口調に変換して一喝したのも記憶に新しかった。
勿論その前に、『環境の質が上がる』と丁寧に説明したが。
「なんだよ親父さん、分かってるんじゃないか」
このマルトーの発言を聞いていたら『べ、べつに皆が心配なわけじゃないんだからねっ!』とノリノリで言いそうなルイズである事は違いない。
「サイトを心配しただけだっての」
「さすがサイトさんです!」
「さすがに我等の剣は格が違った!」
「なぁなぁ、サイトの剣はどこで習ったんだ?」
「酒持って来い! 酒!」
厨房に居た全員が才人を囲み、わいわい騒ぎ出した。
一瞬で押しつぶされる才人。
「何やってるの、貴方たち?」
その囲いの外から響くような声、未だに帰ってこない才人や、朝食を持ってこないシエスタを心配に思い。
厨房に足を運び直せば、喧しい一団が出来ているじゃないか。
俺も混ぜろ! あ、酒はいいから。
「ルイズ様ァ」
と酔っ払っていた何人かのメイドが絡みつく。
「ちょッ!」
「るいづざまぁーすでぎですー」
酒に酔って、仕事はどうした!
「なぁに、大丈夫ですよ。 なんたって私たちにはルイズ様が居ますし!」
この野郎! そこまで面倒見きれアッー!
「きゅるきゅる」
そんなやり取りを、窓の外から見ていた赤い影がひとつ。
ノートを眺める、授業内容は素通り。
次の原作展開を日本語で書いてあるノートを眺めながら、細部について思い出しながら書き綴る。
次は何だっけ……、間違いなく『土くれのフーケ』だろうが何か忘れている気がする。
危険はあったか……? 勿論俺ではなく才人の。
「むにゃ……」
隣ではいびきこそかいてないが、鼻提灯を作りそうなほどぐっすり眠っている才人。
生徒なら起こすだろうが、使い魔の居眠りは禁止されている訳ではない。
朝の一騒動で飲んだワインが効いているのだろう、あの時はひどい目にあった……。
絡み付いてきたメイドがブラウスやプリーツスカートを引っ張ってくるので、皆の前で下着姿を晒してしまった。
やってられん。
「サイト……」
横目で見ながら考える、才人、才人、才人……。
うーむ、思い出せん。
少なくとも才人が危険になる事は、決闘、フーケ、その二つしかなかったはず。
危険が無い物だとしたら、『ガンダールヴの左腕』位かな。
無理に思い出す必要有るか……? と考えていれば、ノソリ、と動く燃えるような赤い皮膚を持つヒ○カゲ、じゃないフレイムと視線が合った。
幅もでかいから通路の邪魔になるんだよなぁ、モン○ターボールで収納できりゃあ良いんだが。
「………」
「………」
フレイム……、キュルケか。
才人を誘惑してルイズが乱入するんだったか。
「きゅるきゅる」
バッ、と勢いを付けてキュルケに向かって振り向く。
同じような速度でキュルケが顔ごと視線を逸らした。
ばればれだっての……。
フレイムは今だ視線を向けてきている、主従契約能力で使い魔の視線で見ているのだろう。
ノートにペンを走らせる、その書いた文字をフレイムへ見せた。
【永遠に愛し通すならどうぞ】
フレイムは走って逃げた、そこはかとなくキモい。
「ハッ!?」
才人が目を覚ましたときには、教室でたった一人であった。
『さて、偵察に行きますか』
「偵察?」
『そ、ちょっと色々あってなー』
そう言ってルイズはベッドに座り、杖を取り出した。
『むぅ』
一言唸ると、メイド服を纏う、見知らぬメイドが現れた。
いたずらで顔の部分を才人に変えてみたりする。
「うえ!? 何で俺の顔になるんだよ」
『ちょっとした出来心だ』
本当は朝の罰、酔っ払い集団と化したマルトー以下料理人&メイドの一団に襲われた際に、笑ってばかりで助けてくれなかった才人への罰。
そして才人は嫌そーな表情、これだけで許してやる俺は中々寛大だった。
顔が元に戻り、優雅に部屋の外に出て行く幻像メイド。
「なぁ、偵察って何だよ」
『この学院内で動き回ってる奴が居るんでな、そいつを監視しておこうかと』
『……泥棒でも居るのか?』
『ほお、よく分かったな』
『当たった……』
まぁ、色々と見せ場作りもあるけどな。
『まぁ、気にするほどでもない。 盗ませないからな』
『……ルイズがそう言うんなら』
衛兵にもで言った所で取り合わないか、あっけなく逃げられるだろうし。
学院の教師は盗まれてからも、誰一人取り返しに行こうとしないしな。
オスマンとコルベール以外は口だけな存在だったりする。
学院本塔の宝物庫へ向かう階段を降りるのは深緑の髪を持つ、メガネを掛けた知的美人っぽい妙齢の女性。
その女性が会談を降りきると、少し開けたスペースの先に巨大な鉄の門が重厚としていた。
まさに鉄塊、明らかに人の力では開けられない重さの扉。
さらに人の胴ほどもある太い閂が掛けてあり、同じように人の頭部ほどもある錠前がぶら下がっていた。
「いつ見てもでかいねぇ……」
鉄壁、その言葉以外に合わないほど存在感が有った。
見上げつつ、手首を振ると30セントほど伸びた魔法の杖が現れた。
「まぁ、とりあえずは……」
女性、ミス・ロングビルは錠前に向けて魔法を唱える。
開錠<アン・ロック>の魔法を完成させ、錠前に放つが。
「やっぱり無駄かね」
普通の鍵なら文字通り鍵が開くだが、一向に外れる気配が無い。
「次は……」
閂、ではなく門を見る。
唱えるのは錬金、物質変化の魔法を完成させ放つが……。
「チッ、これもダメかね……」
自信はあったんだがね……と呟く。
ミス・ロングビル、その魔法の実力はトライアングルクラスも有るのだがこの門の前の防御力では無意味な代物であった。
トライアングルクラスの魔法を防いだのは、スクウェアクラスのメイジが掛けた『固定化』。
その魔法の効果は文字通り固定化、魔法を掛けたその時の物質状態を維持し続ける魔法。
それは周囲からの干渉が無い限り、永遠とそれを維持し続ける物。
たとえ周囲からの干渉があったとしても、その固定化の魔法を上回る力でなければ簡単に弾かれる。
故に、この門に固定化を掛けたメイジは、ロングビルより優れたメイジである証明だった。
「さて、どうしよう──」
と、呟いた時、先ほど自身が降りてきた階段から足音が聞こえてきた。
瞬時に杖を縮めて、ポケットに収める。
「……おや? ミス・ロングビルではありませんか」
「これは、ミスタ・コルベール」
「ミス・ロングビルはこんな所で何を?」
「ええ、実は宝物庫の目録を作るようオールド・オスマンに仰せ付かったもので」
ニッコりと笑ってコルベールを見つめる。
「はぁ、また大変な仕事をお受けしましたな、ミス・ロングビル」
大変な仕事、この宝物庫には数百から千ほどの道具が収められており。
見るだけでもかなりの時間を要する事は間違いない。
「オールド・オスマンはいかがされたので? 鍵ならオールド・オスマンが持っていたはずですが」
「ええ、そうなのですが……、あいにくご就寝中なので」
「なるほど、オールド・オスマンは一度寝ると中々起きませぬからなぁ」
うんうんと頷きながらコルベール。
「急ぎの仕事ではないので問題は有りませんが、出来るなら一通り見ておきたかったのですわ」
「ふむ、なら後で私もオールド・オスマンの所へ向かいましょう」
「助かります」
頷き、また微笑むロングビル。
コルベールは軽く笑い歩き出す。
「ああ、ミス・ロングビル」
立ち止まって振り返る。
「ご昼食はもう済まされたので?」
「いえ、宝物庫を覗いた後で頂こうかと思ってたのですが」
「ならばご一緒いたしませんか? マルトー料理長と知り合いでしてね、平目の香草包みなど──」
「ミスタ、この宝物庫はとても立派なつくりですわね」
「え、ああ、そうですな。 王家の物にも匹敵するほどだと聞いておりますよ」
「王家? それは何とも……」
あいやー、露骨過ぎる話題の修正だなぁ。
コルベールもついつい流されんなよ。
二人が宝物庫前で会話しているその通路、壁際にじっとして動かない存在があった。
先ほどルイズが作り上げた幻像メイドであり、文字通り壁と同化して存在を欺いていた。
「ええ、この門は単体のメイジでは開けられないでしょうな。 何人ものスクウェアメイジが集まって設計した物らしいので」
「それはそれは、ミスタ・コルベールは物知りでいらっしゃいますね」
褒め殺し?
会話が進み、ある程度コルベールが知っている情報を引き出した後、コルベールと別れたロングビル。
会話内容に『破壊の杖』や宝物庫の弱点などが聞き取れた。
俺が開けようと思えば簡単に開けれるな。
幾らあらゆる呪文に対抗できるよう作られていたとしても、存在しない虚無魔法までは考慮されていまい。
門でも、外壁でも、どちらでも良いので『爆発』で破壊、中に入って盗み出す。
その間に誰か駆けつけても『イリュージョン』で自分か、あるいは相手の目を誤魔化せば完全犯罪の完成です。
……もしルイズが、虚無魔法に目覚めてから犯罪者にでもなったら手がつけられなかったな。
「巨大なゴーレムね……、今夜確かめてみるかしら」
独り言は危険ですよ、『マチルダ』。
外は夜、巨大な双月が辺りを照らす。
『さて、また偵察に行ってくるか』
『またかよ』
『犯人が動くんでな』
『なぁ、大丈夫なのか?』
『何が』
『ばれたりしないのか?』
『ばれたりする訳ないだろ』
ちょっと考えれば分かりそうだが。
『誰も知らない魔法で、作り出す幻像も俺じゃない違う奴を基にしてるし、攻撃されても痛くも痒くもない』
触れられないから捕まる事もない。
自分自身であるから喋る事もないし、危険ならすぐにでも魔法を解除すれば良い。
凄まじいほど隠密性があり、これほどまでに密偵に優れた魔法はないだろう。
『ばれる要素は?』
『……無い』
『だから裏で動き回れると言う訳だ』
何か元気ねぇな。
才人にはこれから良いことが起きるかもしれないってのに。
……起こったら、だが。
『サイト、廊下をうろついていれば良いことがあるかもしれないぜ?』
『……何が?』
『女の子』
『……女の子?』
作り上げていた、窓から飛び出していく黒いフードをかぶった幻像メイド、映画のワンシーンみたいだな。
それを見送ってから。
『ハーレムに入るか分からんが、女の子が誘いに来るかもしれん』
「まじっすか!?」
喜び叫んで飛び出していった。
……煩悩め。
意識を集中して幻像に視線を合わせた。
ロングビルを見つけ、監視したがその日は動かなかった。
才人がドアを開けて戻ってきた。
ぶつぶつと呟きながら自分のベットに座った。
「何か疲れた……」
『どうした、何かあった?』
「有ったけど……、無かった」
誘惑イベント自体は起こったが、妖しい雰囲気にはならなかった様で。
『元気出せ、明日武器でも買いに行こうぜ!』
「この前の決闘で使った奴は?」
『借り物だから返した』
「借り物だったのか……」
『こっそり拝借してきたから、返さんと不味いだろ』
「それは……、そうだなぁ」
『フレイムが居るからってネグリジェ一枚は寒いと思わないか?』
「ルイズって全部知ってたんだったよな……」
才人はがっくりと落ち込んだ。