『土くれのフーケ』
俺好きなんだよなぁ。
なんつーか来るものがあってな、イザベラとかも好きだぜ?
痛いのは嫌だから、暴力無しで口論してみたいわ。
……俺ってMかなぁ。
タイトル「演技は疲れるよな?」
「知ってるだろーが、おらぁデルフリンガーってんだ。 宜しくな、相棒」
「俺はヒラガサイト、ルイズの使い魔やってるんで宜しくな」
「私の名前はルイズよ、どうせ名前全部覚えなさそうだし」
「そんなになげーのか?」
「デルフの3倍位ね」
「そりゃーなげぇ、覚えらんねーわな」
6千年も存在してりゃ、要らん記憶消さんと駄目だろうな。
……忘れてるんじゃなくて、切欠で思い出すようになってるようだが。
「それで娘っ子、なんで俺の事知ってるか教えてくれるんだろ?」
「教えるかどうか『考えてあげる』と言ったのよ?」
「なら考えた結果は?」
「教えない」
「……娘っ子ぉ、そりゃあひでぇぜ?」
「私は嘘をついてないわよ? 使い手に振るわれるんだから我慢なさい」
「なら、いつかで良いから教えてくれ、それなら良いだろ?」
「そうね、私が墓にでも入ってからでいいなら」
「……相棒、おめぇの御主人様は性格わりぃな」
「………」
「否定しなさいよ」
二人と一本は、馬に乗って学院の帰路に着く。
その上空、眺めるのは風竜に乗る二人、タバサとキュルケ。
「……ねぇ、タバサ」
「………」
「ルイズの事、どう思う?」
「……不可思議」
「タバサでもそう思うわけね……」
考えれば何かとおかしなルイズ。
貴族に有るまじき言動、先の暴漢どもとの戦いで見せた動き。
そして、音も無く、私やタバサの背後をいとも簡単に取ったルイズ。
ルイズたちが戦っていた場所と、私たちが隠れていた場所との距離も結構開いていた。
どう考えても、速過ぎる……。
「そうね……、サイトも気になるけどルイズも気になってきたわね」
何かあると、感づいたキュルケはニヤリと笑う。
タバサは街に来る時と同じように本を読み続ける。
「タバサも気にならない?」
「………」
「そうよね、タバサも気になるわよねぇ」
気になるのかならないのか、返事を返していないのに勝手な解釈をするキュルケ。
だけど、気にならないと言えば嘘になる。
どうやって背後に回りこんだか、その一点限りだが。
「うーん、サイトにちょっかい掛けつつルイズも……」
ぶつぶつと呟くキュルケ、余りこちらに迷惑を掛けないなら手伝っても良い。
「………」
本の内容を読み解きながら、もう一つの思考で考えていた。
二人が、ルイズと才人が学院に付いた時には日が完全に落ちていた。
今からでもマチルダを監視できるか……?
『今日も探るか……』
『今日も?』
『確か今日動くはずだ、それに出くわすのは俺たちだからな』
『どんな奴?』
『30メートルはあるでっかいゴーレムを使うメイジな』
『30って……、あのキザギーシュが使ってた奴みたいな?』
『あれのでかい土人形バージョンだな、あれだけのゴーレム生成技術ならスクウェアに届くかもしれんが』
『そんなのどうやって倒すんだよ』
『ドカンと一発、な』
『ドカン?』
『そ、ドカン』
ドカン? 爆弾でも使うのかと考える才人。
正直そんなにでかい奴なら、切りつけてもさほど効かなさそうだし。
一発で吹っ飛ばすようなものを使うんだろう、と考えていた。
「だから、俺にもわかる様に喋ってくれよ!」
「良いじゃない別に、わかろうがわかるまいがデルフには殆ど関係ないんだし」
まぁ、デルフが虚無関係の、原作にも出てきていない設定を話すならば教えてあげても良いが。
恐らくそれは無いだろうなぁ、と思い直す。
それこそ『シャイターン』やその『門』、『大災厄』がどんな事であったのかなど知りたい事など山ほどある。
だが、知っているであろうデルフは封印されていると言って良いほど、記憶は無くなっているし……。
始祖の祈祷書のような、必要になったら内容が読めるようになると似た感じでは有るが。
「ちぇ、相棒と娘っ子だけの秘密ってわけかよ」
「そうね、今の貴方じゃ間違っても教えられないわ」
「そうだぜ、秘密だ秘密」
デルフはベラベラ喋るタイプではないが、才人と似てうっかり喋りそうな感じがする。
念には念を、気を付けるだけなら幾らでも出来るし危険なものは出来るだけ取り払うか。
てか、才人と共有する秘密は『俺が誰か』、『ある程度の展望を知っている』位だろうが、なにを嬉しそうにしてるんだか。
馬小屋へ赴き、一室に入れ、一撫でしてから紐を解く。
『先に風呂……入っとくか』
『あー、そうしたい』
『何時も通り頼むぜ』
『任されよ、入れてくるな』
そう言って、風呂小屋へ走り出した才人。
「さてと」
見送ってから自室へ歩き出す、これからマチルダを監視しなければならない。
何時に動き出すかわからない為、長時間集中しなければならないだろう。
それに取られる精神力も半端じゃないだろう、明日の分も残しておかなければいけないな……。
「辛い夜になりそうね……」
「───よね、ルイズの部屋って」
自室前に来てみれば、部屋の中から聞き知った声がする。
ドアに手を掛ければ当然鍵は閉まっておらず、開ければ燃えるような紅髪と、凍ったような蒼髪の少女たちが居た。
「何してる訳?」
「あら、ルイズ。 遅かったじゃない」
「風竜と比べられたくないわね」
馬の数倍の速度で飛ぶ風竜、どう考えてもキュルケ達より早く学院に着けると思えない。
ところで、早くシルフィードの変身した姿見たいなぁ。
あのアホっぽい所とか良いと思うよ、タバサが杖で叩く所も良いと思う、うん。
「それで、何か用?」
「安心して、ルイズに用が有って来た訳じゃないから」
「安心したわ、サイトは外に居るからさっさと出て行ってちょうだい」
「あら、そうなの?」
「そうなのよ、タバサも自分の部屋で読んだ方が静かでしょう?」
そう言ってタバサを見る、タバサもこちらを見たが1秒も経たずに視線を本へと戻した。
「………」
動く気無し? もしかしてキュルケは剣を買ったのか?
「……いえ、ルイズに用は有ったわね」
「……何よ」
「そう、これよ!」
後ろ手に隠していたのは……、やっぱり剣か。
かの高名なシュペー卿の剣ではないが……、才人に選ばせるつもりか?
ここもバタフライ効果、物が変わっているが原作であるルートには沿っている。
「サイトにプレゼントでもする気?」
「おーい、水入れてきたぞ、ってなんでキュルケが?」
「サイトォ! これ、貴方のために買ってきたから使ってちょうだい! そんなボロ剣よりこっちの方が良いわよ!」
デルフが飛び出して文句を言おうとしたが、才人が抑えて黙らせた。
「うおッ……、なんか派手だなぁ」
おっさんの武器屋で見たシュペー卿の剣よりは劣るが、中々美しい装飾が施されたもの。
見栄え重視かと言われば、NOと答えられるような無骨さも備えていた。
しかし、才人から見れば、昼に見た剣と同種の様であると感じているようだ。
「持ってみればわかるでしょう、良い剣なら貰っておけば良いし」
「うぃ」
そう言って才人は柄を握る。
シュペー卿の剣と同じように、1秒ほどで眉を潜めた。
「いや、これ……、かなり良い剣だと思う」
ほぉ、キュルケの見立てか、おっさんのお勧めか。
どちらにしろ才人が言う通り良い物なんだろう。
「でしょう? 1000エキューもしたのよ!」
うわぁ……恋のためなら大金もいざ知らず、か。
ツェルプストーの家訓は凄いな……、俺だったら絶対買わないぞ。
「良かったじゃない、サイト。 良いもの貰えたわね」
「これだけの物なら早々刃こぼれとかしないと思うよ」
「それじゃあ決まりね」
「……何がよ」
「サイトに剣二本なんて要らないでしょう?」
……そう来たか、となるともうフーケは動き出してるか。
あーくそ、儘ならねぇ。
こんな会話してるならもう動いてるだろうな、マチルダの生足見逃した!
「……はぁ、で、キュルケはどうしたい訳?」
「決まってるでしょう、サイトにそんなボロ剣は似合わないから捨てちゃいなさいって事よ」
「──! ───!!」
デルフが暴れてるよ、なだめるのは才人に任せれば良いか。
「残念だけど、サイトは二本同時に扱えるから問題は無いわ」
「そういう話じゃないわよ、片方が豪華で、もう片方がボロ剣なんて駄目よ、見栄えって大切なんだから」
だから片方だけにしろって?
ガンダールヴなら両手に別の武器持って戦えるんだから、わざわざ戦力ダウンしてまで一本に縛る必要ないだろ……。
「……どうしたい訳?」
「さっき言ったじゃない、そっちのボロ剣を捨てなさいって」
「……1000エキュー出すから引いてくれない?」
「お金の問題じゃないわ」
恋の問題か!
はぁ……。
「わかったわ、勝負しましょう」
「ふふ、決闘ね!」
「違うわよ! 剣を木に吊ってから、先に魔法でロープを切った方が勝ち、なんてどうかしら?」
「あら、良いのかしら。 ゼロのルイズが魔法で勝負なんて」
「負けるつもりならこんな提案しないわよ」
内心疲れてしょうがなく勝負する事になり、4人は中庭へ向かった。
まるで自分が立つ場所こそ地面だと言いそうな感じに、本塔の宝物庫外壁に立つフーケ。
「ふざけてるわね、こんな厚さじゃ私のゴーレムでも壊せそうに無いか……」
物質構成に秀でた『土』の系統のフーケ、足の裏で厚さなど測ることは造作も無い。
それ故に高い防御力に気が付き歯噛みする、それほどまでに強固な宝物庫。
「ここまで来たんだ、あきらめるわけには──」
言葉を区切って即座に飛び降りる、レビテーションを掛け、着地の衝撃を散らして中庭の植え込みに身を隠した。
身を隠した理由、それは4人の存在。
「ここら辺で良いかしら?」
「ええ、そうね」
ばっちり本塔の外壁が見える、恐らくどっかの茂みでフーケが見ているだろう。
ここはルートをこなしながら勝負に勝利する、それが一番だろう。
「うーん、いい木が無いわね……、!」
キュルケが気づいて上を見上げる、そこには物を引っ掛けやすそうなでっぱりがあった。
あんな高い位置から才人はぶら下げられたのか……、ルイズとキュルケ、とんでもないな……。
見れば50メイルは有りそうだった。
「あそこに引っ掛けましょう、タバサ、お願いね」
柄にロープを結ばれて、出っ張りに引っ掛けられた二本の剣。
双月の光に照らされて、この距離でも形がはっきり見える。
「使う魔法は自由、ハンデで私が後攻で良いわよ」
「そう、先攻を譲ったのを後悔しない事ね」
魔法を使えないからと言って舐めている、見下す事がどれほど危険か教えてやろうじゃないか。
「エオルー・スーヌ・フィル……」
小声で爆発の呪文を唱える、狙いは本塔の壁とデルフのロープ。
「行きなさい! ファイアボール!」
チカチカと光る玉が走ったと思えば、両方のロープが千切れ、本塔の壁が爆発した。
「……私の勝ちね」
最後ファイアボールにしたから狙い通り当たらなかった……のか?
まぁ、千切れたし俺の勝ちだろう。
有耶無耶にもしたいし、見てるんだろう? 壁にひび入れてやったんだからさっさと出て来いよ、フーケ。
「……いえ、これは再戦でしょう? 両方千切れ──」
そう言い掛けて、俺とキュルケの背後に巨大なゴーレムが現れたのは。
助かった……、もっと早く出て来いよ!
「な、なにこれ!?」
定番な驚き方をするキュルケ、即座にその手を取り駆け出した。
「呆っとしてないで、さっさと走りなさい!」
何十トンも有りそうなゴーレムが歩くたびに地面が揺れる。
目標はやはりひびが入った本塔の壁か。
空ではタバサがシルフィードで旋回していた。
才人は勿論俺達の後に続きながら。
「でけぇ!」
その大きさに驚いていた、30メイルもあるゴーレムをほぼ真下から見上げればでかいと感じるだろうに。
「あんな大きなゴーレムを操れるなんて、多分トライアングルかそれ以上あるメイジね……」
大正解、あれだけの奴は早々作れないだろう。
ゴーレムが進む方向と、その90度違う方向へ駆ける俺達。
「ふぅ……この距離なら」
まぁこっちには来ないだろう。
来てもらったら困るが。
巨大な土ゴーレムが本塔の壁の目前と迫る、既にその腕は変質し始めている。
あれだけの量を鉄に錬金するなんざ、本当に良いメイジだな……。
「あそこ……、宝物庫!?」
と仰々しく驚いてみれば、キュルケも同じような驚き方をしていた。
拳を振り上げたゴーレム、放ったパンチが壁に減り込んだ。
まぁ原作どおり、壁に穴開けて、何かを持って逃げ出しましたよ、フーケさん。
さて、見張る必要全く無くてよかったぜ。
無駄に精神力使わなくて済んだし、さっさと風呂入って寝るか。
「逃げるわよ、追いかけなきゃ!」
「私達じゃ無理よ、風竜に乗ってるタバサにお願いしないと」
多分見つからず逃げ切るだろう。
ゴーレムを土に戻した後、その土の下を、錬金で穴でも掘って逃げたか。
「タバサァー! 追いかけてぇー!」
タバサが軽く杖を振って追いかけ始める風竜、ズンズンと足音を鳴らして学院の外へ逃げていくゴーレム。
その後、やはり逃げ切ったフーケ。
明日学院長に呼ばれるし、帰ろうか。
「『破壊の杖、確かに領収いたしました。 土くれのフーケ』か、してやられたのぉ」
翌朝、学院教師とそれを目撃した4人……貴族どもから見れば3人だが……集まり、宝物庫外壁の穴を見つめていた。
「土くれのフーケ!? この学院に忍び込むとは、薄汚い盗賊め!」
「衛士は何をしていた! これだから平民は!」
ともう突っ込む気も起きない言い草に、精神的に疲れるわ。
呆っと喚いている教師、では無く壁に開いた穴を見ていた俺。
やっぱ虚無は反則的だな……と考えていた。
「──ス・シュヴルーズ! 昨日の当直は貴女ではありませんか!!」
ハッ、と気が付けば苛められていたシュヴルーズ。
「わ、私は……」
良いから、さっさとどうするか決めてくれ。
と意思を込めてオスマンを見る。
「これこれ、余り女性を苛めるものではない」
「しかし!」
「ミセス・シュヴルーズを責めて破壊の杖が戻ってくるとでも?」
「戻って気はしませんが、責任の在りかを!」
「……ふむ、なら責任の在りかを決めておこう」
「そうです! ミセス・シュヴルーズ──」
「この中でまともに当直をした者は手を上げると良い」
そう、俺の視線が届いたのか。
オスマンが緩やかな口調で言った。
「どうしたのかね? 責任の在りかを示すならば、誰がきちんと当直をこなしていたか調べねばならぬだろう?」
ほう、やるな。
誰も上げなかった教師陣の中で、たった一人だけ手を上げた。
「ほっほ、コルベール君はちゃんとこなして居ったか」
「万全、とは行きませんでしたが……」
髪が薄い頭をかきながら、遠慮がちに上げた。
衛士に確認すれば恐らく証言を貰えるだろう。
コルベール先生、まじめで良かったなぁ。
「ミスタ……なんだっけ?」
「ギトーです!」
「ミスタ・ギトー、君に責任を追求する権利はあるかね?」
「うっ……」
「有るとしたら、こなしていたコルベール君位かのぉ」
「オ、オールド・オスマンは責任を追及でき──」
「残念ながら、わしでも出来はせぬだろう。 わしもこの学院に賊が入るなどと、思いもせんかったからのぉ」
深く頷き、視線をコルベールへやるオスマン。
「ミスタ・コルベール、君になら責任追及を任せれると思うのだが……」
「……いえ、そんな事をしている場合じゃないかと」
「おうおう、確かにそうじゃ。 そんなことは後回しにして、今は奪われた秘宝をどう取り戻すかじゃて」
「はい、一刻も早く取り返さねば」
「うむ、それで、犯行の現場を見ていたのは君達かね?」
やっとこさ、視線がこっちに向いた。
「はい」
「良かろう、見た事を詳しく説明したまえ」
一歩前へ出て、見た事全てを話す。
「巨大なゴーレム、30メイルは有るかと言うゴーレムが現れて、宝物庫の壁を打ち抜きました。 その後壊れた壁の中に入って何かを持ち出してました、黒いローブを被っていたので男か女かわかりませんでしたが、恐らくトライアングル級、もしかするとスクウェア級のメイジだと思われます」
ざわりと、スクウェア級と聞いて動揺する教師陣。
ここの教師は殆どがトライアングル、スクウェア級となるとオールド・オスマン以外……居るけど。
殆どが実践をこなした事のない、型だけを持つ素人なメイジで間違い無し。
有るとしたらコルベールぐらいか。
オスマンのランクは恐らく想像だがな。
「厄介じゃのぉ、ミス……む? ミス・ロングビルはどこへ行った?」
「ミス・ロングビル? おかしいですね、この騒ぎで姿を見えないとは」
「うーむ、何処へ……」
「オールド・オスマン!」
噂をすれば影がさす、緑の髪の当人が現れた。
はいはい、頑張った頑張った。
「申し訳ありません、オールド・オスマン。 調査をしていたら遅れてしまって……」
「調査とな?」
「はい、盗賊のフーケが入ったと聞き、今まで調査しておりました」
「ほほ、仕事が速くて助かるのぉ」
ひげを撫でながら笑うオスマン。
つかこの対応、ロングビルがフーケだと知ってそうだ、狸爺め。
「近隣の農民に聞いたところ、それらしい人物を見かけたと」
「ほ、居場所がわかったのかね?」
「はい、恐らくは。 学院から徒歩半日、馬で4時間ほどの森の廃屋に入っていく、黒のローブを着た人物を見たそうです」
ありえん(笑)。
『黒のローブ』と言ったのは今さっきオスマンに聞かれた時だ、それ以外では一度もローブを被っていたとか、その色は黒だったとか喋っていない。
聞いてたにしたって、徒歩半日、馬4時間の森って、穴が開いているのに気が付いたのは日が顔を出したとき位だぞ? 往復すれば単純に倍だし。
どう考えても無理だろ、夜中に発見して調査しに行ったとしても、先にオスマンやら教師陣に報告するのが筋だろ。
わざわざ奪われたの黙ってた意味が有った、キュルケもタバサもさほど重要じゃないらしく、報告しないで一晩過ごしてたし。
盗んだ手並みは良いが、あんまり頭良くないぞ? その行動。
「ならば早く王宮に報告して──」
「それはならんぞ」
「何故です!」
声張り上げすぎ、ギトー。
耳が痛いわ。
「無能の烙印を押されるじゃろうなぁ」
呟くように行ったオスマン、その言葉にギトー他教師陣が停止する。
「この問題、我等だけで解決せねばならんだろう。 降りかかった火の粉を払えんで何が貴族か、確実に無能などと評価されるじゃろうな」
こっちを見るなよ。
まるで俺が能無し……、そういや俺は能無しで通ってるんだったか。
「反論は?」
誰もが声を出さない、プライドなんぞに固執する貴族じゃ間違いなく反論できないだろう。
「ならば、捜索隊を編成するかの。 我ぞフーケを捕らえて見せると、秘宝を取り戻して見せると言う者は杖を上げよ」
「………」
やっぱり居ないか。
スクウェアかもしれないメイジにトライアングルが挑むとか、普通に考えれば無謀だわな。
オスマンやコルベールなら行けるだろうが、二人とも行かないだろう。
オスマンはここの指揮があるし、コルベールは戦闘をしたくないと考えてるだろうし。
「居らぬのか? 何故じゃ? 無能ではないと払拭できるのじゃぞ?」
誰だって死にたくわないわな、そう思って杖を上げる。
「ミ、ミス・ヴァリエール!?」
シュヴルーズが驚いて声をあげる。
他の教師も同様に驚きで目を剥いていた。
「あ、貴女は生徒なのですよ!?」
「誰ぞ杖を上げないじゃ有りませんか、ならば現場を目撃した私が行くしかないと思いますが?」
「し、しかし……」
その言葉を聞いて杖を上げたのがもう一人。
「ミス・ツェルプストーまで!?」
「ヴァリエールに負けていられませんわ」
そういうと思ったよ。
それじゃあ……。
「ミス・タバサも!?」
まぁゼロのルイズと親友のキュルケだけを行かせるような冷たい子じゃないしな。
「タバサ、あなたは行かなくても良いのよ?」
「心配」
まぁ、なんてやさしい子……、とか言い出しそうなキュルケ。
『……心配何かじゃない』、ツンデレタバサなんてありかもしれん。
「ほっほっほ、ならば3人に任せるとしよう」
「オ、オールド・オスマン! 危険です、生徒達だけで行かせるなど!」
「誰も行かぬのじゃろう? ならば彼女等に任せるしかあるまい」
そうオスマンは区切って。
「それに、彼女達は優秀じゃ」
タバサを見て。
「ミス・タバサはその年で『シュヴァリエ』の称号を持つと聞いておる」
文字通り天才だな、この時点でスクウェアに片足突っ込んでそうだし。
「本当なの? タバサ」
小さく頷く、なんか可愛いな。
そのまま視線を横にずらすオスマン。
「ミス・ツェルプストーは優秀な軍人を多く輩出する家の出じゃ、それの彼女自身トライアングルでかなり強力は炎を操ると聞いておる」
それを聞いてオスマンを見て微笑むキュルケ。
そして、最後。
「ミス・ヴァリエールじゃ、彼女の才は今だ開いては居らぬが……」
またも視線を横にずらして才人を見る。
「皆も知っている通り、彼女の使い魔は先の決闘。 あのグラモン元帥の息子である、ギーシュ・ド・グラモンに勝ったではないか」
魔法を使えない平民でありながら、魔法を使う貴族のギーシュに勝った。
それだけで箔が付く代物だと誰もが気づいている。
「『メイジの実力を見るなら、使い魔を見よ』、皆が知っている格言じゃ」
それだけの使い魔を召喚した俺はTUEEEEEEEEEE! な訳で。
「この3人に勝てるものは居るかね?」
捜索隊を募った時と同じ、誰も前に出ない。
文字通り実力者で無いと早々勝てんよ。
「居らぬな? ならば、彼女等に任せる。 ミス・ロングビル、済まぬが馬車の手配を」
「はい」
それからはとんとん拍子、馬車を用意して、キュルケのフレイムは置いていく事になって、ロングビルが御者を買って出て、5人で出発して。
うーん……、どうするかと馬車で揺られながら考えていた。
その隣ではキュルケが才人の腕に絡みつき、何か話していた。
……取り込むか? マチルダを。
その一点、彼女が登場するのはアルビオン行きの港でほぼ最後だと言えるだろう。
後の巻じゃもう出て来ないような台詞言ってたような気がする。
破壊の杖じゃ色々下手踏んでたが、基本的には有能なんだなよなぁ。
確か、ティファニアとか孤児の子供達を養うために盗賊やってるんだったよな。
となると金で釣れるか? あるいはティファニアたちの事でも話して脅迫もありか……。
まぁ、とりあえず取り込む方向で行くか……。
「────ングビルは学院長の秘書なのでしょう? 御者など他の者にやらせれば良かったのに」
「オスマン氏は身分に拘らない方なので、御者は直接見た私が案内した方が早く付けるでしょうし」
「貴族じゃない? 差し支えなければ教えてもらえませんこと?」
そう聞いたロングビルは一瞬、誰も気が付かない時間視線を尖らせた。
「その……あまり話したくは……」
「いいじゃないの、教えてくださいな」
「キュルケ、余りしつこくしないの」
「なによ、ちょっと知りたくなっただけでしょ」
「断ったのに?」
「……お喋りしようと思っただけよ」
しつこい女は嫌われますよ。
もうキュルケの評価を落としてるマチルダだろうが。
薄暗い、生い茂る木々の草々が日の光を遮っている。
その森を進む馬車、進んで数分もすれば馬車では通れない茂みと小道が見えた。
「ここからは徒歩で行きましょう」
さーて、けっこう時間たったけど無事に着いたな。
マチルダ籠絡を考えてた、金で釣ってティファニアで止めを刺す。
最初からこれ一択だった気がするが……。
「見えました、あの小屋です」
思いっきり廃墟だな、窓ガラス割れてるし。
どう見ても人が住める……、一時的な拠点だから住む必要ないか。
「さて、どうしましょうか?」
「基本は中にフーケが居たとして、誘き寄せて小屋の外に出たら一斉攻撃、でしょうね」
誰もが頷く、居なかった場合は秘宝を探してみる、それだけ。
で、索敵兼囮は才人で決まりとして……。
「それじゃあ、お願いね」
俺の言葉に才人が頷いて、剣を握る。
キュルケが文句言うからそっちの剣を握ってた。
デルフ、泣くなよ。
一足、軽やかに小屋へ近づき窓から覗く。
数秒覗いた後、腕を胸の前で交錯した。
居るわけないわな、本人が俺の直ぐ隣に居るわけだし。
「誰も居ないよ」
「罠……じゃなさそう」
タバサが『探知』の魔法を唱える、罠が無いと分かればそう言って中に入るタバサ。
その後にキュルケと才人が続く。
勿論俺はいろんな意味で魔法を使えないので外で待機、都合良いけど。
「ミス・ヴァリエール、私は辺りを警戒してきますね」
「わかったわ、気をつけて」
「はい」
杖を取り出し頷いて、森に入ってくロングビル。
さて、俺も……。
マチルダの背中を見ながら杖を取り出し振るう、最初から周囲と同化した幻像ルイズを作り出す。
『籠絡出来るかなぁ』
自信無さげに呟いてしまった。
地面が揺れた、フーケのゴーレムが周囲の土を基にして現れた。
俺はとっくに逃げ出している、ルイズが変なプライド出すから才人が危険になった訳だし。
「皆! フーケのゴーレムが出たわ!」
その声を聞いて飛び出してくる3人、間一髪小屋が潰される前に脱出できた。
ギリギリだったぞ、あぶねぇ……。
「フレイムボール!」
キュルケが杖を取り出して唱えた魔法、杖先から2メートルはある火球が飛び出しゴーレムへ直撃した。
「ッ、あんなの倒せないわよ!」
大してダメージを与えられない、与えるとしたらトライアングル以上の広範囲攻撃じゃないと駄目だろうな。
タバサの方も同様、殆どダメージを与えられないし。
「うおぉぉぉ!!」
やっぱりここは才人に頼るしかない、切り札的な存在だな、いろんな意味で。
疾風の踏み込みで肉薄してゴーレムの足をぶった切る、が数秒で再生した。
このサイズで再生能力つきか、精神力の消耗が大きいだろうがかなり厄介な存在だ。
才人もそれを理解しているようで、切る頻度が一気に落ちる。
さっさと切り札を使うか。
「タバサ! 『破壊の杖』を!」
滑空、すぐさま俺の前に下りてきて破壊の杖、と言うかロケットランチャーを受け取る。
そりゃあこの世界にこんな精巧で、軽くて個人で携帯できる大砲があるなんて想像も出来ないわな。
「サイト! これ使って!」
俺の叫びに気が付いた才人がゴーレムを振り切って、一気に戻ってきた。
「これって……」
「一発よ、外さないで」
「……分かった! 離れてくれ!」
それを聞いて飛び上がるシルフィードとタバサ、俺は才人の隣へ立つ。
才人がロケットランチャーを展開して狙いを付ける。
『これで終わりだ、フーケ』
「吹っ飛べぇぇぇ!!」
才人が引き金を引くとシュコンと、抜けたような音が鳴って飛び出したのは66mmHEAT弾頭、尾を引いて飛び。
寸分違いなく、ゴーレムの胸部に突き刺さって爆発した。
たーまやーって、威力おかしいだろこれ。
対戦車ロケランが、10メートル以上あるゴーレムの上半身を丸々吹っ飛ぶなんてありえん。
『凄いな……』
『凄い……』
いろんな意味で。
震えた、私のゴーレムの上半身が丸々吹き飛んだ。
なんて威力、まさしく破壊の杖に相応しい……。
使い方も分かったし、頂くとしましょうか。
そう思い笑って、茂みから出ようとした時。
「茶番はここまでで良いでしょう、もう飽きてきたからね」
背後から声が響き、反射的に杖を向けた。
居たのは木陰に立つ人、小柄で、暗闇で見えない筈の、鳶色の瞳がはっきりと浮かんでいた。
「何者です!?」
「うーん、素の口調で話してもらえないかしら?」
暗闇から現れたのは。
「ミス・ヴァリエール……?」
確かに先ほどまであの広場に居たはずだ。
一度も視線を外していないし、もしや偏在……!?
ほんの一瞬、横目で広場を見ると……。
誰も……居ない!?
砕け散って崩れたゴーレムや、それを破壊したガキどもが見当たらない。
「ミス・ヴァリエール、貴女は……」
「私の事はどうでも良いわ、貴女と取引にしにきたのよ」
「取引……?」
「ええ、もう盗賊家業から足を洗わない? 『マチルダ』」
「ッ……!」
その言葉に電撃が走った。
「何故知っている!」
「皆そればかりね、『知っているから』としか答えられないわ」
「ふざけて!」
杖を振るう、私がマチルダと知っているからには消えてもらう!
呪文を唱え、発動させたのは『ストーンスピア』。
地面から瞬時にして突き出された石の槍、鋭利な一撃を持って桃色髪の少女の腹部を貫いた。
「……ねぇ、私は取引しに来たって言ったのよ?」
「なっ……」
確かに刺さっている、が何事も無かったかのようにすり抜けた。
偏在じゃ……ない?
「ねぇ、マチルダ。 このまま盗賊を続けても危険なだけよ? だからね──」
「黙れ!」
再度発動したのはストーンスピア、同じように鋭利な一撃が幾つも少女に襲い掛かるが。
「話を聞いてよね」
同じようにすり抜けた。
何故消えない! 確実に致命傷、偏在なら消えるはず!
本人にしても、確実に貫いてるにもかかわらず、全く外傷無く立ち続けるはずはない!
「くっ」
一歩、近寄ってくる。
本能的に、後退って居たとこの時気が付かなかった。
恐怖、言葉に表せばまさにそれ。
「近寄るんじゃない!」
「もう、人の話を聞けって」
そう言いながらも足を止める少女。
「近寄らないから、話聞いてよ?」
「………」
息を呑む、どうやってこいつから逃れるか、それだけを考えていた。
「ああ、言っておくけど逃げられないからね? 話を聞いて受けてくれないと」
……つまり、断れば殺すとでも。
「私的にはそうしたくないけど」
「……一応、聞いてやろうじゃないか」
「最初からそうしなさいよ」
呆れたように言った少女、その可愛らしい仕草がより恐怖心を引き出す。
「私は貴女に盗賊を止めて欲しい」
「……無理だね」
「そう言うと思ったわ、その代わりに私が雇うから、止めない?」
「……雇う?」
「そ、お金が必要なんでしょう? それなら私が出すからね、どう?」
「怪しいったらありゃしない、雇って何させる気だい」
「そうね……、情報収集でもしてもらいましょうか」
「何のだい」
「『レコン・キスタ』」
「……聞いたこと無いね、なんだいそりゃ」
「聖地奪還を掲げる馬鹿な人達よ」
「聖地……? 本気で言ってるのかい?」
エルフが居る聖地、過去幾度と無く連合軍が攻め立てて一度も勝てなかった戦い
どれだけ無謀か、考えれば分かる事だろうに
「そ、馬鹿ばかりだからね。 それに、少なくとも貴女の願いも叶うかもしれないわよ?」
「私の願いだって……?」
「うん、アルビオン王家の消滅」
「ッ……、何者だい」
「私の事はどうでも良いって言ったでしょう? 知りたければ命を代価に払いなさい」
愛らしい、人形のような瞳が急激に細まる。
心を突き刺すような……、こいつ……。
「年間1000エキューでどうかしら? 勿論エキュー金貨よ」
「……少ないね、大貴族様の三女ならもっと出しな」
「そうね、1500」
「まだまだ、このあたしを雇うなんて全く足りないよ」
「強欲ね、まぁ養っていくためには仕方がないと思うけど」
どこまで知ってる……、まさかあの子の事まで……。
「2000、良い情報持ってくればその都度別に出しましょう」
「……2000ね」
「悪くないと思うわよ? 情報収集が終わればまた学院で秘書続けても良いしね」
「確かに悪くはないね」
「でしょう? あなたにもしもの事が有れば……」
少女が一息付いて、私の最大の弱点を付いてきた。
「『ティファニア』が悲しむわよ?」
「ッッッ……!!」
「私だって彼女の泣き顔なんて見たくないわ、こっちにも色々事情があるしね」
全部知っている……?
「それで、どうするの?」
脅迫ね、なんて恐ろしい娘だよ。
「良いじゃないか、雇われてあげるよ」
「そう、それは良かったわ」
にっこりと、極上の、背筋が凍る笑みを浮かべた少女。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールだった。