「ッォオオオオオ!!」
『敖の立像』の咆哮と共に、立像全体に陽炎が渦巻く。
いや、陽炎のように見えるそれは、炎。
この世で生み出された唯一の徒が持つ、『無色』の炎。
「ッバォオオオオ!!」
それに対する群青の炎狼と化したマージョリーが、狼の体中から千にも及ぶ凄まじい数の炎弾を放つ。
ドドドドドォン!!
巨大な『敖の立像』を、さらに呑み込むほどの炎の海に、しかし‥‥
「おまけぇ!」
以前とは違う。これほどの力を発現しながらも理性を保つマージョリーは、狼の口から、燃え盛る立像に炎の津波を放つ。
が、
「っ!」
その炎の中から、立像の鋼の左腕が伸び、狼の首を掴む。
さらに、右腕を振り上げる。その右腕の肘から先が、ガチャリと、『芯』だけ残して少し外れ、その『芯』が高速で回転する。
すなわち、
ギュィイイイン!!
(ドリル!?)
炎の狼の頭部が貫かれ、後退するが、マージョリー自身がいるのは胸部である。炎が再び、狼を形作る。
しかし、今のでこの炎狼の衣でさえ防御しきれない攻撃力が証明され、相変わらず、焼かれた鋼の鎧は、修復され続けている。
全くもって厄介な相手だった。
ドォオオオオン!
突如として、立像に『虹』が炸裂し、爆発する。
それによって穿たれた穴も、修復され続けてはいるのだが‥‥
「遅くなったのであります」
「遅刻姫」
「随分と派手な戦装束だな」
「結局、これが何なのかは聞き出せなかった」
「うむ。しかし、もうそれを考えている余裕はあるまい。即刻破壊するのみだ」
後続の徒達の相手をしていたメリヒムとヴィルヘルミナ。そして、一度やられた後、敵の主格の一人を葬ったシャナ。
頼もしい味方の参戦である。
「ドォオーミノォー! 今度はアレです! あの『必殺技』をやるんですよぉー!」
「はいでございますです教授!」
フワフワと『敖の立像』の周りを浮かぶ教授とドミノがはしゃぐ。
うっとうしい、まずはあっちから‥‥
(?)
鋼の巨人が、一つの構えをとる。
左足をやや前に出し、右手は縦にビシッと真っ直ぐ。左手は横にビシッと真っ直ぐ。その、右腕の肘と、左腕の指先が接触している。
(あのポーズ、どっかで見たような‥‥?)
いや、ポーズなどどうでもいい。『無色』の炎が、莫大な存在の力が、右手に集中しているのがわかる。
「皆! 避け‥‥」
「デュワッ!!」
マージョリーの呼び掛けを遮るように『敖の立像』が吠え、光り輝く『ビーム』が襲い掛かる。
「う、ああああ!!」
"それ"は炎狼の衣を易々と貫き、中にいたマージョリー自身の右腕を"消し飛ばす"。
あまりの痛みに、炎の狼は霧散し、失った右腕の肩を押さえるマージョリー。
「大丈夫でありますか!?」
すかさずヴィルヘルミナが受け止め、その裸身をリボンで包み、白いスーツを着させると同時に、右腕をきつく縛って出血を止める。
「う、うう‥‥‥」
痛みに悶えるマージョリーは、しかし、強靭な精神力で顔を上げる。
ドォオオオオン!!
凄まじい爆発音に、『敖の立像』の『必殺技』の破壊の跡に目をやる。
「嘘‥‥でしょ‥‥」
そこには、この街の十分の一ほどはある面積が、消し飛んでいる、圧倒的な破壊の跡があった。
「っうわ! 凄い揺れるな。早く何とかしないと」
こちらは『敖の立像』内部、坂井悠二組である。
「平井さんも、師匠に抱きついてる場合じゃないよ」
「だって♪ リャナンシーさん本体がこんなにラブリーだったなんて♪」
「頬擦りはやめたまえ。それに、君は何故またミステスになっている?」
「そ・れ・は、坂井君に食べられ‥‥‥」
「だからその言い方はやめてくれ!」
「??」
こんな風にふざけているように見えて、悠二とリャナンシーはこの『敖の立像』の機能一つ一つを自在法で無効化、あるいは反転させ、平井とヘカテーはそんな二人を邪魔するリトル・ドミノ・ブラザーズを迎撃している。
ちなみにヘカテーは平井の「坂井君に食べられた」発言を、全く言葉通りにしか理解出来ないので、何だか軽い悠二の反応の意味がわからない。
「おっ?」
悠二が、存在の力の流れる、この『敖の立像』の"血管"に当たる部位を発見する。
ちょうどいい。フリアグネ相手にも結構使わされたから頂いておこう。
平井やヘカテーも消耗しているはずだ。
「まさに! ェエークセレント! ェエーキサイティングにしてっ‥‥‥セェクシィー!!」
『敖の立像』の必殺技を目にし、教授のテンションはピークに達している。
全くもってやかましい。
「さーらなるスペシャルデバイスを、起動ー!!」
言って、UFOに付随している機械をいじくる。
そして、
「ッォオオオオオ!」
『敖の立像』の背に、銀色の翼が生まれていた。
「封絶の外に、飛び出すつもり!?」
「心配、いらんだろう」
シャナの懸念に、メリヒムが冷静に返す。
その根拠は、『敖の立像』が羽ばたき、向かう先にいるヴィルヘルミナ。
ギュィイイイイン!
再び繰り出されるドリルパンチ、しかし、
ギュルッ!!
全く異常な事に、時計塔そのもの巨体を持つ『敖の立像』が、地に向けて"投げられて"いた。
ただの力任せの攻撃など、『戦技無双の舞踏姫』には通用しない。
地に叩きつけられた『敖の立像』に、さらに、
「っはああああ!!」
シャナによる灼熱の紅蓮が放たれる。
異常に高熱な炎を受け、しかし『敖の立像』は立ち上がる。
「ッォオオオオオ!」
焼かれた鋼の再生が、幾分鈍っていた。
そして再び、あのポーズをとる。
狙いはシャナ、その後ろは、御崎市の北。
佐藤と吉田が避難している、御崎神社の方向。
(あ‥‥‥)
片腕を失い、力を消耗した事で戦線から離れていたマージョリーに、戦慄が走る。
「デュワッ!!」
放たれる『ビーム』。それを、"避ける"シャナ。
その後ろは‥‥
「誰か、"止めてぇ"!!」
力の限り叫び、それは味方に、一瞬のうちに悟らせる。この『戦場』に在る、一般人の危機を。
「っはあ!」
『敖の立像』のビームに立ちふさがるのは、真名の通りの『虹の翼』を広げるメリヒム。
阻むのは‥‥
「っはああああ!!」
『虹天剣』
虹とビームがぶつかり、せめぎあうが、しかし、
(圧し、負ける!)
圧倒的な破壊力を誇る『虹天剣』が、圧し負けていた。
それを悟り、メリヒムは剣筋を変え、
「っおおお!」
ビームの、"軌道を変える"。
ドォオオオオン!
再び大爆発が巻き起こるが、その破壊の範囲に、御崎神社は含まれてはいない。
そして、
(さっきより、弱い?)
破壊の跡も、先ほどの一撃より弱まっていた。
ビームの威力のみではない。
ヴィルヘルミナに投げられた辺りから、妙に動きがぎこちな‥‥‥
ガァアアアアン!!
そんなメリヒムの思考の最中、『敖の立像』の胸に、"内側から"穴が空き、炎が吹き出す。
色は、"銀"。
その穴は修復されず、中から人影が四つ、飛び出してくる。
「待たせてごめん!」
まず第一声、謝る坂井悠二。
しかし今は、そんな場合ではない。周囲の面々も、すぐに促す。
「情勢の分析は?」
「あの、『敖の立像』の再生機能と強化機能は崩しました。あとは壊すだけです」
ヴィルヘルミナに訊かれ、悠二は実にシンプルに答える。
そう、もう下準備は済んでいる。そのための時間は、マージョリーやヴィルヘルミナ達が稼いでくれた。
「あの穴から、今まで『立像』が溜め込んでいた存在の力が漏れだしています。あれを使って、思い切りやりましょう」
『あとはもう壊すだけ』、それを訊いた時から、皆もう準備万端で構えている。
この一撃に、全身全霊を込める。
「行くぞ!!」
悠二の掛け声に応えるように、
「消し飛べ!」
メリヒムの『虹天剣』。
「燃えろ!」
シャナの紅蓮の大太刀。
「っはあああ!!」
ヴィルヘルミナと、傷を押して放ったマージョリーの特大の桜と群青の炎弾。
「「『二重星(ゆカテー・コンビネィション)』!!」」
ヘカテーと平井の、水色と翡翠の流星群。
そして、
「喰らえ!!」
悠二の放つ銀炎の大蛇、『蛇紋(セルペンス)』。
それら全てが同時、一斉に、『敖の立像』に放たれる。
「ッオオオオオ!!」
「ッノォオー!!」
「おたすけー!」
教授とドミノを乗せたUFOは、その爆発の余波で、また何処かへと吹っ飛ばされ、
『敖の立像』、この世で生まれた初めての徒は、その自我さえほとんど目覚めないうちに、この世から消えた。
革正を望む徒達の夢を乗せた存在。その完成を信じて死んでいけた事が、彼らの唯一の救いであったのかも知れない。
(あとがき)
うーん。ノリって大事だと思うんですよ何事にも。
というわけで、今日バイトないし今日中にもう一話行けるかも知れません。
その時は、感想返信は二話まとめて行わせてもらいます。
次話、エピローグ。