常夜の異界に包まれた『星黎殿』。
一人の少年が、その偽りの夜空を眺めていた。
名は、坂井悠二。
「‥‥‥‥‥‥‥」
あの時、“狩人”に『トリガーハッピー』で撃ち抜かれた時。
不思議なほど時間が流れるのが遅い感覚。
燃え盛る銀の炎に包まれながら、一つの邂逅があった。
『お前は、“この戦いを、いつか”と望んだ』
黒い自分。それに応える、自分。
(‥‥そう、か)
『“お前だからこその望み”を、抱いた』
(‥‥僕だから、こそ?)
言葉ではない何かが、『彼』の事を教えてくれる。
『お前こそ‥‥お前こそが、相応しい』
(貴方と、僕‥‥)
『この余と共に歩む、ただ一人の“人間”よ』
そう認めてくれた『彼』を、自分も受け入れる。
(‥‥そう、僕は貴方を望んだ)
『共に‥‥』
(行こう)
二人の言葉は、声として同時に発せられた。
「『大命の王道』を」
「‥‥‥‥‥‥」
そして、彼と共に歩む、この道に自分は今、立っている。
『後悔、しているのか?』
(いや、“これ”は僕が望んだ事だ。それに、一人じゃない)
『ふっ、そうでなくてはな』
覚悟は、とうに決めたから。
「‥‥‥‥‥‥‥」
『星黎殿』の広い廊下を、二人の男女が歩いている。
『三柱臣(トリニティ)』の二柱、“千変”シュドナイと、“逆理の裁者”ベルペオルである。
「では、坂井悠二の『星黎殿』の滞在を許す。いいね?」
「今さらだな。あいつがいなければ『大命』など叶うはずもない。第一、ヘカテーがな」
もう、誰もが理解している。ヘカテーから坂井悠二を取り上げれば、今度こそ“壊れて”しまうであろう事を。
「今さら悋気も無いだろう。みっともない」
『参謀』の意地悪な言葉には、鼻を鳴らして返す。
「わかっている。好きにさせるさ」
ヘカテーのあの姿を見た後に、どうこうと文句をつける気などなかった。
「どう転んでも‥‥その先に在るものを守るのが俺だからな」
「あっ、こんなトコにいた!」
「悠二!」
悠二のいるテラスに、少女が二人やってくる。
ヘカテーと平井である。
今、ヘカテーは自分が傍にいてあげないだけで不安らしい。すぐさま飛びついてくる。
酒保からこっそり抜け出すべきじゃなかったかも知れない。
「考え事? “悠二”」
ヘカテーの前でもその呼び方をする平井。何だか楽しそうだ。
「?」
ヘカテーはまだ“そこまで”気づいてはいない。
前より仲良くなったのか、などと思っているのだろう。
「‥‥‥‥‥‥」
そう、一人じゃない。きっと、叶えられる。
「ゆかり」
平井の手を取り、ヘカテーが抱きついているのと反対側の自分の右隣に来させる。
「え? え?」
“ヘカテーを悲しませるつもりはない”平井は、悠二のその行動にやや慌てる。
しかし、悠二は今、三人並んで話したかった。
「ヘカテーも、ゆかりも、“今からの事”に、付き合ってくれる?」
しつこいと思われるかも知れないが、これが最終確認のつもりだ。
「はい」
迷い無く応えるヘカテー。
「ずっと一緒って、言ったでしょ?」
少し、むくれて応える平井。
そんな二人が嬉しくて、また勇気が湧いてくる。
自分の大きすぎる願いも、叶えられる自信が湧いてくる。
「ゆかり」
「うん」
「ヘカテー」
「はい」
今度は確認ではない。ただ、名前を呼びたかった。
母にまた会う日、その時は‥‥今までとは違うはずだ。
誓う。遠い彼方に在る『彼』に、傍らの二人の少女に、そして‥‥世界に。
「“この世の本当の事”を変えてやる」
少年は、少女は、戦って、傷ついて、失って、進んで、それぞれの望みを見つけた。
彼らの望みは、果てなく大きい。
これから戦うのは、異界の住人ではなく‥‥
この世界、そのもの。
決意の旅路、それは一つの終結を迎える。
そして‥‥‥
THIRD STAGEへ?
(あとがき)
今までこの作品を読んで下さった方々、誠にありがとうございます。
ここまでやってこれたのも読んでくれたり感想くれたりした皆様のおかげでございます。
上にあるように、第三部も考えておりますが、完結後の読者様方の印象次第、という面も多分にあります。
一部に比べればキリもいいですから。
THIRDがなくても、番外編みたいな形のは必ず出す予定です。そしてTHIRDがないと決定した場合も、Sに真・最終回を一話、投稿させてもらいます。
希望者次第ではXXX板にも番外編を出す気もあります。
では最後にもう一度、今まで本当にありがとうございました。
THIRDをやるにしてもまずは番外編からになると思います。
その時の再会を心から願っております。