「メイド・イン・チャイナ!」
「で、ありますな」
「中国上陸」
「‥‥‥平井さん、何か違うと思うよ。」
坂井悠二一行、中国上陸。
一見冷静に見えるが、悠二とて少し興奮している。
初の海外なのであるからして。
「よっしゃ!、そんじゃ店を冷やかしつつ上海行くよー!」
「遊びに来たのではないのであります」
「使命遂行」
「情報収集ですってば♪、行くぞヘカテー!、シャナ!」
行って、ちびっこ二人の手を引き、駆け出す平井。
いつの間にか、シャナ"ちゃん"がとれている。
「‥‥‥平井ゆかり嬢が賢明なのか否か、時々わからなくなるのであります」
「破天荒」
「平井さんは馬鹿じゃないですよ。全部わかってて楽しんでるだけで」
疲れた風に呟くヴィルヘルミナに、平井の親友たる悠二がはっきりと応える。
「‥‥そうでありますな」
ヴィルヘルミナとて、平井と一緒に住んでいるのだ。ある程度、平井の事はわかる。悠二に言われて、納得する。
「僕らも行きましょう。平井さんじゃないけど、せっかくの中国だし、楽しまないと」
行って、三人娘を追い掛ける悠二。
仕方なくついていくヴィルヘルミナ。
(別に、私は中国がそれほど珍しいわけではないのでありますが‥‥)
(引率)
ティアマトーに言われ、観念する。
それに‥‥
"あの子"も、満更ではなさそうだ。
「小・籠・包!」
「おいしいです」
「メロンパンは?」
「メロンパンは日本が考えたらしいよ」
「甘いものばかり食べるのは感心しないのであります」
「糖分過剰」
「あ!、あの人チャイナ服!、可愛い〜!、私もいっぺん着てみたいなぁ♪」
完全に旅行気分全開ではしゃぎ回る平井一行(今、リーダーは完全に平井だ)。
シャナも振り回されている。
(ん?)
平井の視線の先、シャナは気付く。
『天道宮』にいた頃、ヴィルヘルミナに着させられた服だ、が‥‥
「ヴィルヘルミナ。あの服、戦闘能力の高い者が着用するものだって‥‥」
「その通り。彼女は自らの技量をわきまえず、あの服を着用している。あれは悪い例であります」
偉そうに語るヴィルヘルミナだが、実際は、シャナにチャイナ服を着せていた当時、人気アイドル主演のカンフー映画を彼女が見た、というだけだったりする。
「カルメルさん、嘘を教えちゃダメですよ」
「嘘なのですか?」
ヘカテーが無邪気に訊いてくる。
ヘカテーの想いを知り、悠二はなんとなくヘカテーと距離を置いてしまっているのだが、ヘカテーは気にせず悠二に近づく。
以前のヘカテーなら、悠二の態度を拒絶と思い、近づくのを躊躇っただろうが、今は違う。
フィレスのおかげだ。
『愛』を向けられる。自分の全てを求められる。それは恐ろしい。
それを教えられたからだ。
今、悠二は自分を嫌っているわけではない。
だから、避けない。
「うん。別に強い人しか着ちゃいけない服じゃないんだ」
ヘカテーが自然体である事で、悠二のわだかまりも融けていく。
「ってなわけで!、服買いに行こ、服!」
そして再び平井がはしゃぐ。
正式に依頼を受けるのはいつになるのか。
その頃の御崎市。
《『葉書の読み手』魔女理銅子!》
《その相棒、丸子師走!》
《《魔女理銅子の朗らか人生相談!!》》
《はい。今日から始まりました朗らか人生相談。
少年少女の青臭い恋の悩みから生きた化石の愚痴まで何でも相談に乗ります》
《ヒャーハッハ!、日本でこれやるのは初めてだなぁ。我が寂しき仲間外れ、マージョぶっ!》
《バカマルコ。何、本名出そうとしてんのよ。大体仲間外れって‥‥ブツブツ》
《拗ねてねーで仕事だ仕事》
《そーだったわね。んじゃ、一枚目の葉書、え〜と、『オセロ』さん》
《私には好きな人がいます。けど、その好きな人に接近してくる小動物がいるんです。
あまりにいつも一緒にいるからこの前、そのS君と小動物+αの後をこっそりつけてみたんですが、何故かS君と小動物が同じ家に入っていったんです。
これって、たまたまですよね?、その後、同じ事を何回か繰り返して、同じ結果だったんですけど、たまたまですよね?
あと、時々、朝に様子を見に行ってみたら、その家にメイドとか転校生が出入りしてたりするんですけど、それも全部たまたまですよね?
うん。たまたまだよ。大丈夫。きっと違う》
《何だこりゃ?、相談なのに自己完結してんじゃねーか》
《まあ、自己完結してるみたいだし、私から言える事は一つね。そんなたまたまはありません。もっと現実を見ましょう》
《俺からも一つ、ストーカーはやめとけ》
《と、いうわけで二通目〜、『シュガー』さん》
《映画の話なんですが、凄い力を持った女性の旅に、普通程度の力しかない少年がついてゆこうとするにはどうすればいいでしょうか?》
《‥‥‥なんか、どっかで聞いたような話だな。我が『葉書の読み手』、魔女理銅子》
《‥‥そうね。ま、世の中どうしようもない事なんていくらでもあるんだから、現実を受け入れなさい》
《おめえ、さっきからそればっかりじゃねーか》
《そんだけ夢見がちな子供が多いって事よ。んじゃ、三通目〜、メガネマ‥‥‥あれ?、もう時間?、というわけで、今回の『魔女理銅子の朗らか人生相談』はここまでです》
《二通しか読んでねーな。『葉書の読み手』の名もべそかくぜ》
《うっさいバカマルコ。中華食べに行くわよ。日本で我慢するから》
《ん〜じゃ、さっさと行くか。可愛い子分共を引きつれてなあ、ヒヒッ》
変なラジオ番組が放送されていた。
「‥‥‥‥‥‥」
中国のとあるホテルの一室。
悠二はベッドに寝転がっていた。
明日は上海に行き、依頼を受ける。
今日は結局、平井達と共に旅行精神全開で遊び回っていた。
いつも通りにひたすら楽しそうな平井であった。変わった事といえば一つ。平井が密かに悠二に告げた事だ。
『中国では坂井君は出来るだけ気配小さく抑えて。
あと、出来れば弱そうにしといてね♪』
言われなくても、無闇に気配を大きくするつもりなどないが、何故わざわざ自分だけに念を押すように言ったのだろうか?
そこまで信用がないのだろうか?、いや、何か引っ掛かる。
(‥‥‥そうだ)
今日一日感じていた違和感に気付いた。
平井が、"はしゃぎすぎ"なのである。
(まあ、いいや)
初の海外で舞い上がるのもわかる。
旅の疲れを癒すため、目を閉じて眠りにつく。
ちなみに、部屋割りは悠二、平井・ヘカテー、シャナ・ヴィルヘルミナである。
一人寝は久しぶりだ。
高校生の考える事じゃないな、と少し自分に苦笑した。
バスは走る。
ただのバスではない。
運び屋『百鬼夜行』の運転手、"輿隷の御者(よれいのぎょしゃ)"パラの輪廻、『温柔敦厚号』である。
その運転手も、乗客も、人間など一人もいない。
そのバスの最後尾。
「ふふ、この体、今までで一番使い勝手がいいわ」
金色の髪、袖無しの暗い赤のドレスを着た可愛らしい少女。
後頭部から一対の羊の角が生えている。
上機嫌らしい少女の言葉に、その隣、マントと硬い長髪、幾重にも巻いたマフラー状の布で顔を隠す、長身の男が返す。
「ふん。お前がその体を手に入れる手伝いをした俺の苦労も少しは考えてみてはどうだ?
あまつさえ、お前の付き添いでこんなバスに同乗させられるとは、やはり遺憾の一言に尽きる」
「その事ならもうお礼を言ったはずでしょ?
次の仕事があの『探耽求究』だからって、八つ当たりしないでくれる?」
ぶつぶつと喋る男にピシャリと言い放つ。
図星だったのか、男の不機嫌な空気が増す。
「いまだ、かの『教授』とは直接的な面識は無いが、伝え聞く所によれば相当な変質者であると聞く。
何故この俺がそのような者に雇われねばならんのか、これも我が生の因業と受け入れるよりないか」
いつまでもぶつぶつと愚痴る『友達』に、呆れたように少女は言う。
「何をカッコてけてるんだか。
何故も何も、貴方が酔っ払って、『俺のマグナム44は絶好調だ。どんな依頼でも受けてやる』とか騒いでオーケーしたのでしょう?、私は止めたわよ」
「‥‥‥これも我が生の因業と‥‥‥」
「し・つ・こ・い。それより‥‥‥」
男の言葉を遮り、少女は真剣な顔になってから訊く。
「本当なの?、その『零時迷子』を、あの『仮装舞踏会(バル・マスケ)』が追ってるって話」
その話の内容に、男はマフラーの下の表情を僅か陰らせる。
もちろん、気付かれてはいない。
「無論だ。この俺自ら、三眼の女怪に渡された式の打ち込みまでは済ませたのだからな」
「‥‥そう」
それを聞いて、少女の瞳は夢見るように輝く。
「私が手に入れる。手に入れてみせる。その"ミステスの体を"」
男は夢を語る少女の言葉を黙って聞く。
「そうすれば、きっとなれる。誰にも無視できない‥‥大きな、ちっぽけじゃない存在に‥‥‥」
「‥‥‥‥『仮装舞踏会』の狙う宝具に目をつけ、ただで済むはずもあるまい。
それほどの"ミステスの体"を手にし、そこで満足できんか。やはりお前は『哀れな蝶』だ」
男の、そんな侮辱の言葉を混ぜた『気遣い』を、少女は理解する。
理解して、しかし止まる気はない。
「貴方のような、強大な王にはわからないわ」
バスが止まる。
男と少女は降りる。
二人が目指すのは‥‥
日本。
「ギュウキさん。よかったのか?、あれほどの力の持ち主、いざという時の『盾』にできるかも知れなかったのに‥‥」
バスに乗っていた二十半ばの女、『百鬼夜行』の用心棒、"坤典の隧(こんてんのすい)"ゼミナが、バスのボンネット先端に掲げられている、木製の角張ったフードマスコットに言う。
「ああ。あれは多分、"壊刃"サブラクだ。あんなのを『使う』方がよっぽどおっかねえさ」
訊かれたフードマスコット、『百鬼夜行』の頭目、"深隠の柎(しんいんのふ)"ギュウキは応える。
「"壊刃"!?」
驚くゼミナに構わず、ギュウキは続ける。
「降ろしちまった乗客の事はいい。問題は‥‥」
「問題は?」
横から訊ねるパラ、同様にギュウキの言葉を待つゼミナに答える。
「どうも、フレイムヘイズがこの中国に入ったらしい」
餌には気付いただろうか?
早すぎても、遅すぎてもいけない。
ある程度の余裕を持たせた上で、焦らせる。
タイミングが鍵だ。
(あとがき)
感想が二百超えた!、PVが十万超えた!
テンション上がります。
久しぶりにも関わらず感想くれる方が多くて感無量です。
ここに無上の感謝を。