「うぅ…また憂鬱な朝が来たの…」
私の名前は高町なのは。最近明日が嫌になってきている普通の小学3年生です。
今日はいつも通りの朝ですがそれ故に憂鬱です。こうやって憂鬱な明日を運んでくるなんて神様はなんて酷いんでしょうか。信じていませんけど。
「今日こそ世界が変わっていますように…」
毎朝の日課になっている神では無い何かへ変態的な世界の終焉をお祈りをして着替え、私は1階に降りました。
「おはようお父さん、お母さん」
「おはよう」
「おはようなのは。もうすぐ朝ごはん出来上がるから、恭也と美由希を呼びに行ってくれない?」
居間に向かい、いつも通りに朝から水音をぴちゃぴちゃと響かせながら熱烈に絡みあって…無い…だと…!?
い、いや、落ち着くの高町なのは。朝から激しくプレイングなうな状況はほぼ毎日ではあったけど、今まで何回かは性的な事をしていなかった事はあったはず。そう、どうせいつも通り食事の方が危険になっているに決まってる。
あれ、でもお父さんもお母さんもちゃんと服を着てる? 普段はお父さんは下半身はモロ出しにしてる筈だし、お母さんも棒とかパール的な物とかをぶっ挿しながらの作業だった筈。こ、これはもしかして…
…はっ、だだ駄目なの高町なのは! この程度で期待なんて持っちゃいけない。裏切られた時の反動が物凄い事になってしまうの。まだ、まだ判断材料が足りない。ここで安易に希望を持って浮かれるのは愚か者の所業なの。
「…なのは、どうかしたの?」
「はっ!? な、なんでもない…えっと、呼んでくるね!」
まるで『普通の母親であるかの様に』怪訝そうな表情でこっちを見るお母さんの視線から逃げる様に、私はお兄ちゃんとお姉ちゃんの居るだろう道場へと向かって走り出す。
おかしい…あまりに不可解な光景だったおかげで目端に映ったものを確認しただけだったけど、お母さんが作ってた朝食にも不審な点は見られなかった。
それだけじゃない、比較的マシとはいえおかしな事が多く書かれている筈の新聞も、何故か政治だとか普通のニュースみたいな堅苦しいものばかりだった。ありえない。全然ありえないの。
「もしかして、本当にもしかする…? いや、まだ、もう少し色々確認してからなの」
もしかしたら全部たまたまなのかもしれない。そう考えながら道場の前まで来る。普段ならお姉ちゃんの狂笑とかお兄ちゃんの嬌声とか人を殴打する打撃音が聞こえてくる筈の道場に。
緊張して心拍数が上がってきているのを何とか落ち着かせて道場の扉を開く。そして目に入ってきた光景は…
「はっ!」
「甘い!」
お兄ちゃんとお姉ちゃんが互いに竹刀を持ち『おかしな点の見当たらない剣術稽古』をしているものだった。
「ん、なのはか。という事はもうそろそろ朝食の時間か」
「そっかー。んー、今朝も良い汗かいた!」
「ありえない…」
「どうしたなのは?」
「え? あ、ううん、何でもないの! …先に戻ってるね!」
思わず漏れ出した言葉はどうやら完全には聞き取られて無かったらしかった。少しだけ安心しながら、しかしこの健全にも程がある光景にどこか恐怖を覚えて私は逃げる様に道場から飛び出した。
…健全? そう、健全な剣術の稽古。何もおかしい所なんて無い普通の光景。おかしい所が無い? 普通? 普通って何だっけ?
これは私の中の普通の状況。ごくごく普通の家族で、ごくごく普通の環境。でも私の過ごした状況での普通は私にとって異常な環境だった筈。いつ以上が普通になったの?
いや、これはそもそも本当に普通なの? 今までは本当に私と世界の普通が逆だったの? 世界の普通と私の普通が違ったのならこの状況は? 世界が普通なら私は異常なの?
「何、これ…なんだろう…」
毎朝私が何者かに願っていた、平和に過ごせる筈の普通の世界。それが叶えられたかもしれない状況なのに、私の心の中からは恐怖や不安ばかりがどんどん湧き出している。
自分が正常? 世界が異常? 自分が異常? 世界が異常? 何が何だかわからない…わからないけど、とりあえず、いつも通りの行動パターンで生活する事にする。難しいことを考えすぎて頭が混乱している時は、ただ毎日行っている行動に身を任せてゆっくり状況を整理するべきなの。
ただの思考放棄の可能性もあるけど、現状だと何もわからないし不安にしかならないから。
朝食はごくごく普通の料理ばかりだった。一応作っている時に最後の方だけとはいえ監視してみたけど不審な点は存在していなくて、勿論白濁とした謎の液体とかちぢれ毛なんかも入っていない。
それでも使っている食器や調理器具は過去にそういうものを調理したものの筈なので、結局私はいつも通りに自分専用の調理器具で自分の分を作って食べた。家族の皆が不思議そうにしてたけど…あんたらのせいなの!
物凄く納得いかない心境のまま早々に朝食を食べ終わった私は、ともかく情報を得る為に外出する事にした。春休みだから学校が休みだけど、今日みたいな事になるなら授業があった方が情報収集が楽だったのに…本当に、何がどうなってるんだろう。
突然の世界の変化に頭がついていけないまま海鳴を歩き回るけど、全裸でブリッジしてるおばさんも居なければブロック塀の穴に向かって前後移動しているおじさんも居ない。
「本当の本当の本当に、みんなまともになったの? 信じてもいいのかな?」
そろそろお昼の時間になるので昼食の為に翠屋へ向かっています。散々確認した結果よくわからない恐怖や不安が倍増しましたが、それでも世界が正常化? したかもしれないという点は間違いないみたいなの。
まだ安心出来る程信用出来てないけど…それでも、例え予防線を張りながらの生活でも、少しずつ信用していかなきゃいけないんだと思うの。きっと。
まだたったの数時間しか経ってないから難しいんだけど。
翠屋に到着した私は昼食にオムライスを食べる事にした。
普段なら自宅に帰って自分で作っていたのにわざわざ翠屋に来た理由は、仕事風景とお客さんにおかしい所が無いか確認するのと、まずはお母さんの作る料理を信じる所から始めてみようと思ったから。
実際お母さんが作ってくれたオムライスに何ら異常は見当たらないし、お客さんにも全然変な所は無い。相変わらず普通過ぎて疑心暗鬼になりそうになる程なの。
これは少しずつ慣れていかないと無理なんだろうなぁ…
「はぁ…物凄く時間が経った気がしてたけど、まだ午前中だったんだなぁ」
時計を見ると丁度あと数十秒で12時になる時間だった。あちこち出歩いて悩んで怖がって色々確認してたせいかかなり長い時間が経った気がしてたけど、まだたったこれくらいしか経って無かったんだ…
私これから暫くは毎日すっごく疲れちゃうかもしれない。そう考えながらぼーっと時計を眺めていたら、その時計が三つの針が頂点で重なって昼の12時になった。
―――瞬間。
「ウェーイ!!」
「俺は自由だぁぁぁぁーーー!!!」
「やらないか」
「ン゛ギモ゛ヂィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛!!!!」
「あひぃ…ふあぁ…」
今まで見ていた光景が幻覚だったかの様に、一瞬にして周囲は変態だらけの世界に変化した。
「…え?」
いやいやいやいや、待て、待って冷静になるの高町なのは。騒いだり嘆いたりするのは後でいいから何がどうなってるのか知る必要があるの。もしかしたら周囲の状況に耐え切れずに私が勝手に世界を歪めて解釈しちゃってたのかもしれないし、夢だったのかもしれない。そうだと周りに当り散らすのはいけない事なの。
確認…そう確認しないと! お、お母さん!? いったい何がどうなってるの!?
「どうって…んっ、今日はエイプリルフールでしょぉ…?」
お父さんに後ろから貫かれながら言ったお母さんの言葉が全ての答えだった。
エイプリルフール。私の知ってる知識では、一日のうち午前中にはちょっとした嘘を言ってもいいという日の筈だった。というか、実際去年まではそうだったと思うの。
何で今年はこんな事になってたの? イジメか嫌がらせか何かなの? そんな想いが私の心を駆け抜けて。
「…にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
流石に限界を迎えました。
その後全速力で走って自宅へと戻り、そのまま不貞寝。その後一週間の間自室に引き篭もりました。
―――
nano:マジ無いの
疾風:わたしは午前中誰にも会わなかったから気付かなかったわ
nano:マジあり得ないの マジで
nano:危うくお母さんにスプーン刺しそうになったの
疾風:nanoちゃんには悪いけど、変に希望を持たなくて良かったわ…本当に
nano:もうどうでもいいの 皆死んじゃえばいいの
疾風:あかん…本気でやさぐれとる…
―――
いや違うんだよ遅刻だった訳じゃないんだよ。ほら、ちょっと夕方に寝落ちしたら11時半になっちゃってただけで、その…俺は悪くねぇ。悪くねぇよ!悪いのは睡魔だよ!