2001年 10月22日 柊町 白銀武自室
白銀武が瞼に光を感じ目をあけると、そこにはよく見なれた天井があった。
「俺の部屋・・・か?」
そう、よく見なれた天井だ。
これまで17年間、それこそ毎日のように見上げた天井のはずだ。
「・・・?」
だというのに違和感があるのは何故だ。
先ほどまで見ていた夢のせいだろうか。
―――ろくでもない夢だ。
突然わけのわからない化け物がいる世界に放り込まれ、軍に入り、戦術機を操縦して、かけがえない仲間を手に入れて・・・。
自分の居場所が見つかったと思ったら地球が放棄され、愛しい人と別れて、戦って、死んで。
―――そしてまた同じ世界に放り込まれた。
何度繰り返しただろう。
同級生たちと戦友という絆で結ばれて。時には恋人になって。そして失って。
死んだはずの冥夜の姉、悠陽に出会い、A-01の皆とともに戦い、本来なら知りあうこともなかったはずの多くの人たちに巡り合った。
地球が放棄されるときがあった。その前に自分が死ぬ時があった。
英雄と呼ばれることがあった。外道と呼ばれることがあった。
それらすべてを覚えている。夢にしてはハッキリしすぎだ。
(そう・・・、夢のわけないよな)
あれは現実だ。どういう理屈かは覚えていないが、確か夕呼の理論――因果律量子論で説明できるはずだ。
何度も何度も、記憶と経験を受け継いで繰り返した。きっと今回も同じだ。
時計は八時を指しているというのに純夏は起こしに来ない。冥夜もこない。
仮に二人が俺を置いて学校に行ったのだとしても、月詠さんが起こしに来るはずだ。それすらない。
(外に出てみればはっきりする)
そう、日常の感覚ならこれは異常な事態だと考えるはずだ。ここが「元の世界」ならば当然起こるはずのことが起こっていない。
制服に着替え、階段を降りる間に頭が澄み渡っていく。
日常から非日常へ。非日常から日常へ。
一体どちらが日常で、どちらが非日常なのか。
玄関を開けた俺の目に飛び込んできたのは荒涼とした瓦礫の街、―――まぎれもない“日常”だ。
純夏の家を押し潰している撃震を眺めていると頭の中に声が聞こえた。
誰の声でもない、今までに何度も繰り返してきた白銀武自身の声だ。
―――よく戻ってきた、さあ、また始めようじゃないか
そう、“始める”のだ。
たとえどれ程同じことを繰り返していたとしても、それは断じてやり直しなどではない。
やり直しだなどと考えることは今までの世界で死んでいった仲間への侮辱だ。
仲間を侮辱する気持ちなど微塵もない。
胸にあるのは一つの想い。
―――地球を、この世界を、愛しい人を、全て護ってみせる
自分にあるのはその理想だけ。
それさえあれば、自分は何時までだって進んでいける。
―――たとえその道を進んだ先にあるものが、数限りない破滅だけだとしても