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No.5043の一覧
[0] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ [ゲルトマー](2009/02/06 02:49)
[1] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ プロローグ[ゲルトマー](2008/11/29 16:38)
[2] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第一話[ゲルトマー](2008/11/30 04:11)
[3] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第二話[ゲルトマー](2008/12/09 01:54)
[4] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第三話[ゲルトマー](2009/06/03 05:15)
[5] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第四話[ゲルトマー](2008/12/31 21:36)
[6] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第五話[ゲルトマー](2009/01/13 01:52)
[7] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第六話[ゲルトマー](2009/01/26 04:17)
[8] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第七話[ゲルトマー](2009/02/06 02:46)
[9] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第八話[ゲルトマー](2009/03/16 02:08)
[10] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第九話[ゲルトマー](2009/05/18 05:58)
[11] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第十話[ゲルトマー](2009/06/03 05:30)
[12] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第十一話[ゲルトマー](2009/10/11 21:24)
[13] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第十二話[ゲルトマー](2013/03/28 01:57)
[14] 人物紹介(オリキャラ・設定拝借キャラ・オリ設定追加キャラのみ)[ゲルトマー](2013/03/28 02:26)
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[5043] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第十一話
Name: ゲルトマー◆4a699184 ID:b04667f4 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/10/11 21:24
11月10日 国連横浜基地 ブリーフィングルーム


 帝都城内の一角が騒がしくなる少し前、横浜基地ではヴァルキリーズに対するブリーフィングが行われようとしていた。
 壇上には既にみちるが立っており、ブリーフィング時に使用する資料と機材のチェックを行っている。
 武はヴァルキリーズとスクリーンの双方を見渡せる位置――部屋の後方からスクリーンに向かって右前方に、椅子を完全に横に向けて座っていた。椅子にやや浅めに腰掛け、背もたれに体重をかけ、その腕を組み、瞼は閉じられている。これで顔が下を向いていれば寝ているのかと思うところだが、武は時折目を開いてはみちるやヴァルキリーズに視線を向けているため、寝ているのではないようだ。
 ヴァルキリーズの面々はそんな武の様子に何となく圧力を感じて落ち着かない様子だが、みちるはそんなことにはまるで頓着した様子はなく、準備を終えるとヴァルキリーズに向きなおり口を開いた。


「―――ブリーフィングを始める。
 本日、佐渡島ハイヴに属する旅団規模のBETA群の移動を感知した。各局はこの不審な動きをするBETA群の目的を本土上陸のための移動である可能性が高いと結論付けている。予測上陸地点は新潟周辺、予測上陸時間は明朝0600前後と見られている。
 この情報に対して日本帝国は、予測される本土上陸に対抗するため新潟周辺に防衛基準態勢2を発令。帝国本土防衛軍第12師団並びに第14師団は既に戦力を集結させ始めている」


 スクリーンに表示される新潟周辺の地図。
 そこには既に帝国軍第12師団と第14師団の部隊の展開ポイントも表示されている。


「任務を説明する。今回の任務は二つ。
 一つは生体BETAの捕獲。捕獲の際には特製の麻痺弾を使用する。これについては各員にマニュアルが配られることになっているため出撃前に確認しておくように。
 もう一つは皆予想しているとは思うが、白銀大尉が発案した新型OS「XM3」の実戦試験だ。性能は皆知っての通りだが、実戦では思わぬトラブルが発生する可能性もある。充分に気を付けて臨むように。なおこれは帝国へのプレゼンテーションも兼ねているため、戦闘データの一部は帝国に提供する。あくまでXM3の実戦での有用性をアピールするための試験だ。下らん見栄を張ろうとして無様な真似はするなよ。これらの任務に優先度の違いは無いが、便宜上前者を任務A、後者を任務Bと呼称する」


 みちるスクリーンの地図を拡大する。沿岸部からはそれなりの距離がある地点にヴァルキリーズを示すエンブレムが表示され、その周囲には帝国軍の部隊が展開していることを示す記号が表示されている。


「我々は上陸後の第一次迎撃をすり抜けてきたBETAを相手にまずは任務Aの達成を目指す。捕獲したBETAが一定数に達し次第麻痺弾の使用を停止、通常弾へと切り替え任務Bへと移行する。任務A達成の過程で、不測の事態により捕獲作業の継続が困難になった場合、直ちに作業を中断、速やかに任務Bに移行する。
 任務Bについては任務Aの終了後に追って連絡があると言う事だが、恐らくはその場に留まって流入してくるBETAの迎撃を行う事になるだろう。
 我々が展開するポイントはここだ。BETA群の予測上陸地点である角田山周辺からは結構な距離があるが、上陸が始まればどこから敵が来ても不思議はない。絶対に気を緩めるな。―――説明は以上だ。何か質問はあるか?」

「補給や支援砲撃は受けられるのでしょうか?」

「補給に関しては通常通りだが、支援砲撃に関しては期待するな」

「帝国へのデータ提供と言うのは具体的には?」

「操作ログやカメラ映像、出撃前と出撃後での機体の損傷度など、おおよそ戦術機に関連するデータの殆どを提供するものと考えて構わない」


 一通りの質問に答えると誰も手を上げなくなった。しかし、何人かの視線が武を向いていることに気付いたみちるは、武へと水を向ける。


「白銀、お前からは何かあるか?」

「俺ですか? ……えと、もしかしたら気になってる奴も居るかも知れないが、一応俺も出撃する。だが俺は捕獲任務には関わっていない。俺は戦域全体を転戦することになるから、ヴァルキリーズと再合流するとしても任務Bに移行した後になると思う」

「白銀大尉の任務も帝国へ提供するためのデータ収集なのでしょうか?」

「その通りでもあるし、間違ってもいる。帝国へのデータ提供はヴァルキリーズがメインだが、俺の目的は種を蒔くことだ」

「種……、ですか?」

「そうだ。要は宣伝だよ。新型OSがあれば第二世代機でもここまで動けますよって前線の連中に教えてやるのさ。XM3の存在を公にするわけにはいかないから、変な動きの戦術機が居たって噂が広まるって程度だろうけどな」

「……?」


 武が話を進める中、ただ涼香一人だけが武の言葉に違和感を感じた。涼香が違和感の原因を探ろうとしている間も、会話は進んでいく。


「ちょっと聞いた? 『俺の目的は種を蒔くことだ』だって……。なんかかっこつけてる感じしない?」

「やめなよ水月……。聞こえちゃうよ?」


 ひそひそと小声で遙に話しかける水月。当人は聞こえないように喋っているつもりだが、言うまでもなく武には聞こえている。武と水月の距離はそれほど離れている訳でもなく、そもそもブリーフィングルームはそれほど広くもない。単に他の人間と話をしているから無視しているだけである。


「なるほど。つまり白銀はXM3の価値を釣り上げようと言う訳か」

「それは二次的な要素ですけどね。俺はXM3を世界中に広めたいと思っています。その第一歩が今回の任務です。正体不明の戦術機の噂が帝国上層部まで届いた時、XM3の情報を教えてやれば結び付ける人間が必ず出ます。そうなればXM3の試験導入やトライアルの実施が早期になされる可能性も出てくるでしょう」

「そんなに上手くいくでしょうか?」

「正直に言えば絶対上手くいかないと思う」

『ええええ!?』

「自分で信じてないってどうなのよ」

「水月……、やめなって……」

「だがまあ俺の経験から言うと、何事にでも言える事だが、物事の巡りをスムーズにするためには仕込みはしておくべきだ。非合法の活動をしている訳でもないし、やっておいて決して損は無い。―――話は変わるが、速瀬中尉は帰ってきたらシミュレータールームで俺と個人面談な」


 流石にしつこいと感じた武の言葉が向けられ、遙の心配は現実のものとなってしまった。
 武の言葉は額面どおりの意味ではない。それが面談の名を借りたしごきであることは明白で、それを分からぬ水月ではない。


「だから言ったのにぃ……」

「ぐっ……!」


 悔しげに顔を歪めて呻く水月。
 ここで終わればまだ水月は悔しいと思うだけで済んだかもしれないが、武には終わらせる気など毛頭なかった。


「今の実力差で二時間の一対一なんて、俺なら心が折れるね。これは新手の虐めなんではなかろうか?」

「……でした」

「え、何? 聞こえないけどなんか言ったか?」

「ぬぐぐっ……! ……申し訳ありませんでした!」

「素直でよろしい。……でも個人訓練はやるから。伊隅大尉、作戦終わったら速瀬中尉借りますね」

「ああ、構わない」

「ちょ、大尉! ……くぅ~!」


 武に良いように翻弄される水月という普段通りの図式が展開される中、何に違和感を抱いたのか気付いた涼香が手を挙げる。


「……白銀大尉、よろしいですか?」

「ん、ああ」

「先程白銀大尉がおっしゃられたことがどうも引っかかっているんですが……。もしかして大尉はF-15で出撃されるおつもりなのですか?」

「そうだけどなんかおかしいか?」

「……私は十分おかしいと思いますが、理由を伺ってもよろしいですか?」

「うん、まず第一にインパクトが違うな。第二世代機で通常ではありえない三次元機動を目の前でやられれば嫌が応にも印象に残るだろう。
 第二は今後の展開の面から考えてのことだ。XM3の特性的に考えれば現状では第三世代機が一番マッチするが、どの国家であろうと主力は第一世代機や第二世代機だ。そこに第三世代機のデータだけ持っていっても『はい採用』とはいかない。
 主な理由はこの二つだが、これで良いか?」


 確かに第三世代機よりも第二世代機、もっと言えば第一世代機でのプレゼンテーションを行うことがXM3採用への近道だろう。実機訓練で目にしたF-15の機動は、武の技術を考慮に入れても通常ならあり得ないものだ。だからF-15でデモンストレーションを行う事の利点は涼香も理解している。だが……


「……もう一つだけ聞かせて下さい。何故今回それを行おうと思われたのですか? ヴァルキリーズに白銀大尉を含めたメンバーならともかく、第二世代機単機でそれを行うのはあまりにリスクが高すぎると思うのですが……」

「今回BETAの襲来予測がたてられたのは偶然だ。次の偶然を期待したり襲来BETAの概数すら分からない偶発的な襲来で実施するよりも、漠然とではあるがBETAの概数も上陸ポイントも分かっている今回に実施する方がいい。加えて言えば、次に実戦があるとすればそれは恐らく間引き作戦になるだろう。今回よりも圧倒的に危険度が増した戦場で、『謎の戦術機の噂を広める』なんて悠長なことをやっている余裕は流石に無い。
 そして単機である理由だが、俺が皆との連携訓練を行っていないことに尽きる。何時もやっている訓練だって、結局は俺は単機で動いて皆のフォローに回っているだけだからな。そんな奴が居てもむしろ皆が背負うリスクが増える。だったら単機の方がいい。……宮城中尉、これで良いか?」

「……分かりました。ありがとうございます」

「なら俺からはもう何もありません。伊隅大尉」

「……他に何かある者はいるか? ―――居ないな。ならばブリーフィングはこれで終了とする。各自、出撃時間までに機体の調整をしておくように。解散!」

「敬礼!」


 ヴァルキリーズのメンバーが表情を引き締めてブリーフィングルームを出ていく中、一人涼香だけは立ち去らず、部屋を出ていく武の背中を見つめていた。
 武の言葉に涼香も納得している。理解もしている。だが拭いきれない違和感がある。その原因が分から無かったために引き下がりはしたが、実際の所まるで納得していないのだ。


(……白銀、武)


 自分が抱いている違和感は一体何が原因なのか。白銀武と言う人物はどういう人間なのか。
 部屋から自分以外居なくなった後も、涼香はしばらくの間ブリーフィングルームで考えこんだままだった。









11月11日 0532 新潟県 第二次防衛ライン 帝国技術廠第三装備試験中隊待機地点


 帝国技術廠第参開発局が製作した試作機は二種五機。今までにも数度の対BETA実戦試験を経ている機体ではあるが、今回のように大規模戦闘が予測される戦場での試験は初めてである。開発者も試験機搭乗者も共に両機の性能に疑いを抱いていないとは言え、実戦では何が起こるのか分からない。誰もが気を引き締めて戦闘開始を待っている、はずであったが……。


『ふぁ~あ……、ホントに来るのかよ。緊張感も続かんわな、これじゃ』

『緊張感がどうのと言うのなら、まずはそのみっともない欠伸をやめろ』

『そんな無理言っちゃいけませんよ近衛中尉。金城中尉はあれで緊張感を維持しているつもりなんですから』

『そうそう、金城中尉が普通の衛士らしくするなんて無理ですって』

『……要、なんか俺の扱い酷くないか?』

『恭平には一度普段の自分を省みてみる事をお勧めしますよ』


 スネーク4――金城恭平中尉が大欠伸をかきながらぼやくと、他の隊員がそれに対して次々と言葉を返す。
 初の大規模戦闘での試験であると言うのに、試験中隊の隊員たちはまるで緊張しているようには見えない。彼ら自身に緊張感は無論あるが、実戦だからと言って固くなるような者は居はしないのだ。第三装備試験中隊の隊員は皆、前線において幾度も実戦を経験している者ばかりである。試験機での実戦も経験している彼らからすれば、普段と違う試験だからと言ってガチガチに緊張する理由など存在しない。

 とは言え、実戦前だと言うのにこれほど弛緩して見えると言うのは一種異常だと言えるだろう。彼らがこうも弛緩しているのには色々と理由があるのだが、現状、大きな割合を占めているのは今回の任務について、非常に重要なある事柄故である―――。






 第三装備試験中隊の隊員たちが雑談をしている中、中隊長である葛木緋彦大尉は慣れ親しんだ撃震のハッチに腰をかけて煙草を銜えていた。煙草は米大陸で栽培されているため、今となっては倉庫に保管されていた分しか残っていない本場中国の茶などに比べればはるかに手に入りやすい。とはいえ、それでも中々に貴重な代物である。合成物など天然物の味を知っている人間からすれば吸えたものではない、と緋彦自身は思っている。
 しかしながら天然物などそうそう手に入るはずもなく、今吸っている物も何か月も前にまとめて手に入れた物のうちの一つだ。開封してから相当な時間が経っているため風味など殆ど残っていないが、“天然物を吸っている”という事実だけで相当に幸福な気分になれる。
 この幸福感を感じれるのも帝国が米国をたてる方針を取っているからだ。今の帝国の方針に諸手を挙げて賛成できる物ではないし、正直に言えば米国のやり口はあざと過ぎて気に入らないが、米大陸で生産されている天然物が他の国々に対して比較的手に入りやすいという、その一点だけは評価していいと思っている。


 だがBETAの襲来もないまま時間が過ぎ去ってしまってはその幸福な気分にも水が差されると言うものだろう。ここに展開してすぐに一本吸った。今吸っているのが二本目だ。天然物は何か重要なことがある時にしか吸わないと決めている。だからどれだけ遅くなっても戦闘が起こるのならばそれで構わない。だがこの調子では、戦闘が発生する事も無く無意味に貴重な天然物を消費しただけで終わってしまう。それは良くない。非常に良くない。


(やはり前回の間引き作戦には無理をしてでも参加するべきだったな……)


 元々『大蛇』も『禍津日』も試験機であるために調整が難しい。そのため、突発的に発生する従来の防衛作戦に最初から参加することが難しく、『大蛇』などは試験機完成から一年にも及ぼうと言う現在も大規模戦闘での試験を行えていない。共に大火力支援機と言う性質が強い機体である以上、小規模戦闘でその真価を発揮することは困難で、大規模戦闘での実戦試験は機体の発展の上で必須とされてきた。だからこそ、不確定にも程がある情報にも関わらず、試験機全てをこうして持ち出して来ているのだ。
 だと言うのに、到着から一時間近く経過しようとしている現在まで何も起こっていない。夏海博士から情報の出所を聞いてはいるが、それは情報の真偽を判断する根拠となり得るものではなかった。どちらかと言えば、余計に怪しいと思うようになった。色々と知っている自分でさえ―――色々と“知っている”からなのかもしれないが―――そうなのだ。出所さえ知らない隊員たちが今一つやる気にならないのも無理からぬことだろう。


(―――まあ、俺よりも“知っていそうな”のもいる事はいるが……)


 第三装備試験中隊の面々は皆、来るかどうかも定かではないBETA群を待つことに飽き、退屈を持て余している。より正確に言えば、BETAの襲来などないという雰囲気になりつつある。


(……さて、どうなることやら)


 雑談に興じる部下の声を聞きながら、緋彦は銜えていた煙草に火をつけた。
 夜が明けきるまではまだもう少し時間がある。徐々に明るくなりつつある空を背景に、緋彦は自らが吐き出した紫煙を眺めていた。


「―――彼誰時、か。相手が何者なのか分からなくても“何なのか”は分かるな」

『? 大尉、何かおっしゃいましたか?』

「いや、独り言だ。気にしなくていい」


 部下に適当に返しながら、元の重さから考えるとかなり軽くなった煙草の箱の中身を覗く。残り二本しか入っていない。


(……確かあと1箱残ってたはず、だよな)


 コネがあるため煙草などのちょっとした嗜好品は、他の物に比べればまだ手に入りやすい方だ。が、このところの風潮のおかげで少しやり辛くなっているらしい。反米国の風潮自体は全く問題ないのだが、唯でさえ手に入りにくい天然物がさらに手に入りにくくなるというのは少し困る。

 空は薄闇を通り越して明るくなりつつある。地平線に太陽がさしかかり、夜明けから早朝に変わろうとしているのだ。
 そんな中、緋彦のヘッドセットに通信が入る。


「何だ」

『長谷川です。大尉、確認されました』

「……分かった。状況を」


 CPである長谷川中尉の一言で、第三装備試験中隊の弛緩した空気が一変する。
 今の状況下で目的語を言わずに確認されたと言えば、それはBETAの侵攻しかありえない。


『未だ戦闘中の部隊はありませんが、敵第一陣と第一防衛線の接触は数分以内と予測されています。またこれに伴い、新潟周辺に展開中の全部隊に即時戦闘態勢への移行命令が下されています。
 敵予測上陸地点は角田山周辺。上陸後は関東平野方面へと進む可能性が濃厚です』

『んっ、んん……、っと。ようやく来たか。逢引にこれだけ遅刻してくるとは、俺とは気が合いそうにないな』

『恭平、少し黙っていろ』

『はい、ごめんなさい』





「……そうだな、……連中が上陸し始める前に姫ノ城山まで移動する。ここなら周りのフォローもしやすいだろう。
 ――隊形を鋒矢弐陣(スピアヘッド2)に変更する。周防を先頭に、右に樹下・近衛、左に深山・如月だ。中央には俺が入る。金城と霧生は俺の後方につけ。
 状況次第では魚鱗弐陣(スケイル2)もあり得る。くれぐれも冷静に対応しろ。―――周防!」

『了解しました。楓、琴子、行きますよ。遅れないように』

『了解です』『りょ~かいです』


 周防機が飛び出すのに合わせて次々に飛び出していくスネーク隊の機体。その姿は戦術機部隊としてあまりに異様だった―――









 三十分後 新潟県 五ヶ浜 東南東1km地点


 帝国軍司令部が上陸予測地点として算定した場所。角田山の周辺には低標高の山が多く存在し、その山々の間を縫うように僅かながらのなだらかな平地があった。上陸直後の迎撃、第二次迎撃に駆り出された部隊の多くは、その山々の稜線に沿うように展開していた。
 帝国陸軍第12師団に所属するコメット中隊も、そうした第二次迎撃に配された部隊の一つである。上陸直後の迎撃に配される部隊と言うものは、敵に出血を強いるだけの力があることが大前提である。無様に蹂躙されるような部隊を配しても味方の士気を下げるだけであり、練度の低い部隊は基本的にそんな任務に就くことは無い。そもそも、帝国の対BETA戦線の最前線に配される部隊の練度が低いことなどあり得ない。
 最前線部隊であるという点を加味しても、コメット隊の練度は間違いなく高い。だが、幾ら練度が高かろうが、圧倒的な数の差の前には錬度の差など些細なことでしかない。帝国軍の誰しもが、コメット隊を含む第二次迎撃部隊の多くが二度と基地には戻れないであろうことを理解していた。

 コメット隊はこの新潟において、最も不運な部隊の一つである。しかしそれと同時に、最も幸運な部隊の一つでもあった。





<<コメット中隊>>


 帝国本土防衛軍、第14師団所属『コメット隊』の指揮官である中村明美大尉は、表面上は普段通りの指揮を取っているが内心では焦燥感に駆られていた。それと言うのも、彼女の部隊が受ける圧力が既に限界に近付きつつあるからだ。

 今回の作戦において、あまりに広がった上陸予測範囲に対応するため、帝国軍は薄く広く部隊を展開して

いる。そのため、上陸したBETAの数から最も圧力を受けるであろう地点を割り出し部隊を集結させてから反攻に転じるという手間が必要になってしまった。それでも、普段ならば実際に侵攻が始まるまでその兆候すら掴めないのだから、今回は既に迎撃準備が取られていたのだから相当に恵まれていると言えるだろう。

 ―――しかし、それはあくまで帝国と言う国家にとっての話だ。

 BETAの上陸が始まれば部隊を集結させることが出来るが、それが完了するまでの間に実際の上陸地点に展開した部隊が受ける圧力はかなり大きくなる。更に不幸なことに、支援砲撃部隊の展開地点が実際の上陸地点よりも若干ずれており、支援部隊は最大火力を発揮することが出来ないでいる。その火力を眠らせている部隊が砲撃開始地点に再集結するまでにはまだしばらくかかるだろう。それはつまり、本来支援砲撃によって削減されるはずのBETA第一波の圧力をもろに被ることになるという事だ。

 情報の不足からくる小さなずれが重なった結果、コメット隊とその周辺部隊の受ける圧力は到底抗し得るものではなくなりつつある。


『くそがっ! 殺しても殺しても減りやしねえ!』

『死ね、化け物ども!! 死ね、死ねぇ!!』

(……このままなら間違いなく全滅する)


 自分たちが配置された場所はBETAの主要上陸地点にかなり近いため、受ける圧力は現在展開している部隊の中でも特に大きい。
 BETAと直接戦闘する機甲部隊には損害が出る。それは大前提だ。無論どの隊もその損害を可能な限り少なく、出来るならばゼロにしたいと望んでいるし、そのための努力も惜しんで居ない。だが、それでも最前線で戦闘する部隊の損害は必ず出る。
 ならば自分がすべきことは損害を可能な限り抑えるように指揮することなのだが、現状では指揮だけでどうこう出来る問題でもない。


『コメット9が孤立しているぞ! 誰か援護しろ!』

『了解!!』


 全機が戦闘可能な状態なのは救いと言えるかもしれない。損害もなく、弾薬が尽きたわけでもない。戦おうと思えばまだまだ戦える。だが、戦えば戦うほど、自分達は避けようのない破局に突き進むことになるだろう。
 蓄積される肉体的な疲労。仲間が減っていくことによる精神的な負担。戦闘機動を行う事で徐々に蓄積される機体への負荷。補給をする暇もなく、徐々に減少していく弾薬。それらが頂点に達した瞬間、コメット隊は文字通り“全滅”する。


『くっそぉ、戦車級に取りつかれた!! 誰か頼む!!』

『今引きはがす! 動くなよ!』


 後方には別の機甲師団がいるではないかと言われるかもしれないが、彼らに求められているのは別に自分たちをを支える事ではない。彼らの主な役割は戦線から漏れ出たBETAの後始末であり、第14師団が全滅した場合には代わりとなって戦線を押し戻すことだ。彼らの出番は基本的に戦線が崩壊する前と崩壊した後であり、“崩壊しようとしている”現在の状況では彼らは漏れ出るBETAを叩く以外の任務に就くことは出来ない。
 結局のところ、自分たちの部隊が崩壊しそうになった時に援護をしてくれる部隊があるとすれば、それはやはり第14師団の部隊以外にはない。しかし、他の部隊は戦域全体に散っており、半数以上の部隊は最前線で死闘の真っ最中だ。残りの部隊も最前線の迎撃をすり抜けたBETAの対処に忙しく、それなりにでも余裕がある部隊も数えるほどしか無いはずで、崩壊しかけている部隊への援護など望むべくもない。つまりは自分たちを救うためには自分たちで何とかするしかないのだ。


(……くそっ、どうすれば良い。どうすれば誰も死なずに作戦を終える事が出来る……?)


 戦闘中にそれ以外の事に気を取られると死ぬ。そんな事は分かっていた筈だった。分かっていたからこそ今まで生き残ってきたのであり、これからも生き残っていく筈だった。しかし―――


(ッ!?)


 気付けば右側面から要撃級が間近に迫っていた。要撃級の特徴であるその巨腕はその体の前にはなく、既に振り上げられつつあった。
 気は抜いていなかった筈だ。確かに隊員を生きて返す方法を考えてはいたが、思考中でも目は敵の位置を確認し、腕は敵を打ち倒すために動いていた。


(馬鹿な、何時の間にこんなに近くに……。回避……、間に合わない?)


 回避しようにも腕が反応しない。染みついた経験も体を動かしてくれていない。思考だけが加速し、体が追い付いていない。そう考える間にも要撃級はその巨腕を振り下ろす準備を終え、今にも振り下ろそうとしている。

(―――ああ、私は死ぬんだ)


 諦めでもなく、絶望でもなく、ただそう思った。目の前に迫る事実をありのままに受け入れる心境。悟りとはこういうなの心持だろうか。

 この国を守りたいと思い軍に志願し、今まで帝国の盾として、また剣として戦ってきた。その事に後悔はない。今何か思いのこす事があるとすれば、部隊の皆を置いて先に逝くことだろうか。
 思考は加速しても、その中で口を開くことさえ出来ないとは情けない。恐らく最後になるだろう言葉も告げられないとは。


『! 大尉、危ない!!』

(もうちょっと、生きていたかったかな……。みんな、あとはよろしくね……)


 自分が死ぬ事を理解し、覚悟を決めた瞬間、迫りくる要撃級は何処からか飛来した砲弾によって“引き裂かれた”。


「え……?」

『コメット隊、衝撃に備えろ』


 呆然とする暇もなく通信が入り、それから殆ど間をおかずの着弾。戦術機が使用する砲弾では通常あり得ない爆発が起こり、爆発による粉塵が治まったときには、コメット隊の周囲にひしめき合っていたBETAの多くが死体となって転がっていた。


『こちらは帝国技術廠第三装備試験中隊、スネーク隊だ。そちらの被害は?』

「技術廠の試験部隊だと……? なぜこんな処に?」

『それについては―――』

「い、いや、済まない、無意味なことを聞いた。こちらは数機が損傷しているが、行動不能な機体はない」

『……コメット1。ここは我々が支える。一度補給に戻れ。HQからの許可も出ている』

「了解した。――コメット全機、スネーク隊が支えてくれている間に一旦後退する。急げ!」

『りょ、了解!』


 明美の言葉に従いコメット隊が後退を始めると、それを待っていたかのように、スネーク隊はコメット隊がそれまで展開していた場所に展開していった。
 ちらりと見えた姿だけだが、相当に変な部隊だった。撃震が装備しているやけに巨大な砲や体中に盾を装備した様な戦術機もそうだが、八本脚に加えて腕まで持つ戦闘兵器など見たこともない。いや、最後の物だけはよく似た物を見たことがある。さっきまで目の前にいた“あれ”だ。


(あれが技術廠の新造試験機……)


 機体を翻した際に聞こえた甲高い音が耳から離れない。恐らく主機の駆動音なのだろうが、今までに聞いたことのない音だ。帝国で使用している撃震とも陽炎といった戦術機とも違う。
 僅かな間しか触れていないというのに、その姿と音が脳裏から離れない。
 今までに聞いたことのない駆動音は、あまりに異質な姿と相まって、化け物が咆哮を上げているようにしか思えない。

 大体何故あんな姿をしているのだ。多足、巨大な前腕、その力を誇示するかのような巨体。―――あまりにも人類の敵に似過ぎている。あの姿にするどんな理由があるというのだ。


(……あれを私が使う? ……とても想像出来ない)


 そもそも、使える代物なのかどうかも分からないのだ。今はそんなことを考える場合ではない。

 今考えるべきなのは、この作戦をどうやって生き残るかだ。後退して弾薬と推進材を補給するまでは良い。その後、まともに戦闘機動を取れる機体がどれだけあるかが問題だ。“今はまだ”全ての機体が動けているが、ただそれだけだ。恐らく、中隊中半数は本来ならば整備を受けなければならないレベルの筈だ。下手すれば半分どころか全機ともに整備が必要な状況という可能性もある。そんな状態の部隊が再び前線に出たとて、一体何が出来るのか……。

 ……ともかく、今は一刻も早く後退して補給を済ますことだ。そうしなければ戦うかどうかの選択も出来ないのだから。
 二個小隊程度の部隊が発しているとはとても思えない爆音が背後から轟く中、中村明美大尉はきつく操縦桿を握りしめることで不安を押し殺していた。



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