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No.5043の一覧
[0] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ [ゲルトマー](2009/02/06 02:49)
[1] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ プロローグ[ゲルトマー](2008/11/29 16:38)
[2] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第一話[ゲルトマー](2008/11/30 04:11)
[3] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第二話[ゲルトマー](2008/12/09 01:54)
[4] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第三話[ゲルトマー](2009/06/03 05:15)
[5] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第四話[ゲルトマー](2008/12/31 21:36)
[6] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第五話[ゲルトマー](2009/01/13 01:52)
[7] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第六話[ゲルトマー](2009/01/26 04:17)
[8] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第七話[ゲルトマー](2009/02/06 02:46)
[9] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第八話[ゲルトマー](2009/03/16 02:08)
[10] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第九話[ゲルトマー](2009/05/18 05:58)
[11] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第十話[ゲルトマー](2009/06/03 05:30)
[12] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第十一話[ゲルトマー](2009/10/11 21:24)
[13] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第十二話[ゲルトマー](2013/03/28 01:57)
[14] 人物紹介(オリキャラ・設定拝借キャラ・オリ設定追加キャラのみ)[ゲルトマー](2013/03/28 02:26)
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[5043] Muv-Luv ALTERNATIVE ~Until the vanishing day~ 第六話
Name: ゲルトマー◆4a699184 ID:b04667f4 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/01/26 04:17
 10月25日 1800 帝都城


 帝都城内の一室。そこでは10人ほどの男女が話し合っていた。
 話題の中心となっているのは一人の男。


「―――その人物は確かに“白銀武”と名乗っているのだな?」

「はい、こちらに資料がありますのでご覧ください」


 男の言葉に答えた女は、脇に置いてあった鞄から資料を取り出し、机上へと置いた。


「ふむ、どうやら間違いなさそうだが―――」

「横浜の牝狐が用意した駒か、はたまた・・・。どちらにせよ放置しておくわけにはいくまい」

「新たに誰か派遣する必要があるかな? あそこには既に月詠がいるだろうに」

「しかし月詠中尉の本来の任務は彼の者の守護。それに加え香月女史の動向の調査までこなしているところへ、更に白銀武の調査とは、流石に負担が大きすぎるかと思われますが」

「どうかな? 報告を見る限りでは“白銀武”は牝狐の直属のようであるし、月詠の負担もそれほど増えんと思うがな」


 話題の中心がずれていると感じた一人の女が軌道を修正する。
 論ずるべきは“白銀武”の調査についてであり、月詠真那中尉の任務遂行能力など今はどうでも良いのだ。


「・・・なんにせよ、“白銀武”の調査は行う事になるでしょう。問題は―――」

「―――いや、派遣しよう。牝狐に借りを作ることになるが、放置しておくわけにもいかぬだろう」


 女の言葉を半ば遮る形で結論を出したのは集まった男たちの中でも一際威厳のある巨漢だった。


「よろしいので?」

「うむ。まあ殿下に御裁可いただく必要はあるが、この会での方針としてはそれでよかろう。―――和臣、人選はお主に一任する」


 その男は、この会合が始まってからというもの一切言葉を発していない者に話しかけた。


「・・・了解しました」


 和臣と呼ばれた男は、あたかも感情がないかのように全く表情を動かさなかった。


「うむ、頼んだぞ。―――では、これにて散会とする」


 威厳のある男の言葉で会合は終わり、その場にいた者たちは各々退室していった。





 会合が終わると、威厳のある人物から和臣と呼ばれた男は、同じく会合に参加していた別の男と連れ立って歩いていた。
 彼らは共に帝国斯衛軍に所属する軍人である。
 和臣と呼ばれた男―――不破和臣大佐は第8斯衛機甲大隊長の任にあり、共に歩く男―――名を御守静馬と言う―――は斯衛機甲第6大隊長であり、少将という地位にある。

 二人は先ほどの会合において、話題の中心であった人物、“白銀武”について話していた。


「“白銀武”か・・・。どう思う、和臣?」

「さあ・・・。触り程度にしか聞いたことがないから何とも言いようがないな。静馬さんは?」

「いや、俺も詳しい事情は知らんな。士朗ならもう少し詳しく知っているのかもしれないが・・・」

「・・・なんで静馬さんが知らなくて兄貴が知ってるんだ?」

「士朗が知っているという確証がある訳じゃない。ただ、士朗は確か部下だったはずだ」

「へぇ・・・」

「まあこの話題はいい。大将から人選を一任すると言われたが、候補くらいは絞れているのか?」

「いや、まだこれっぽっちも。大人数を送るというわけにもいかないだろうし、候補は限られてくるけどね」



 静馬と別れ自室に戻った和臣は、端末の画面に斯衛軍衛士の資料を幾つか表示させて横浜基地に送る人間を選ぼうとしていた。

 まず人選の第一条件として、確かな能力を持つこと。そもそも能力がなければ調査など不可能なわけで、これを抜かすことなど考えられない。またこれに付随して、何らかのトラブルに巻き込まれたとき、自分の判断で切り抜けられなければならないため、判断力・危機察知能力も重要だ。

 第二に、人格。これも絶対に必要だ。無駄なトラブルを起こすような人間を派遣して横浜基地との関係が悪化しようなどと言う事があれば、事は人選を担った自分の責任問題などでは済まされず、国家の大事にまで至る可能性がある。
 そもそも斯衛に人格的に問題がある人間など居ないはずであり、本来このようなことは考える必要は無いはずだが、斯衛は将軍を守護することをその存在の第一義とする。そのため、任務遂行能力と将軍家に対する忠誠さえあれば、その他の面はかなり度外視されているのが斯衛の現状なのである。任務遂行に差し障りが在る程問題がある人間はいないはずだが、慎重に慎重を重ねて選ばなければならない。

 第三に―――これが一番の問題なのだが―――全てにおいて自分が信頼できる人間であること。
 今回の任務には細心の注意を払うことが要求される以上、自らが確かだと思う人間を選ぶ必要がある。能力と人格は資料を見ればある程度は知れる。しかし帝国正規軍に比べて斯衛軍の規模が小さいとはいえ、隊長格同士でもなければ、自隊以外の人間の能力や人格に信頼がおけるかどうか、確証などあるわけがない。そして、それらを調査して確認するような時間はない。ならば必然的に自分の知己から選ぶことになるだろう。
 だが、大隊長ともなれば現役の知己などそれこそ皆大隊長や中隊長と言った、抜けた時に問題が出る人間ばかりだ。そうなると候補者自体が相当限られてくる。となれば―――


「うん、やっぱりあいつしかないな」


 和臣はひとりごちると、提出する文書の作成に取り掛かった。









 10月26日 早朝

<<御剣冥夜>>


 ―――夢を見ていた

 私は夢の中で学生だった。訓練校の制服とよく似た学生服を着、訓練校の仲間たちと同じ学校に通っていた。

 通学路を歩く私の隣には二人の学生がいた。

 一人は女性。長い髪をリボンでまとめた、非常に可愛らしい女性だが、私の身近にこのような女性は居ただろうか?

 もう一人は男性。顔がぼやけていてはっきり映らないが、先日赴任してきた白銀大尉と似ているように思われる。

 その男性は何か喋っているようだがはっきり聞き取れない。


(――――夜)


 何と言っているのだろうか。聞き返そうとしても声が出ない。


(―――冥―)


 どれだけ声を出そうとしても、私の喉は音を出すことすらない。目の前の人物たちと何か話したいことがあるような気がするのに、声が出ない。やきもきする私の耳に、はっきりとした男性の声が飛び込んできた。


(―――冥夜)


 その声が聞こえた瞬間、私の意識は急速に覚醒へと向かって行った。







 目覚めた私の視界に映ったのは天井だった。


(―――ここは?)


 考えるまでもなく、宿舎内の自分の部屋だ。だが、もう慣れたはずだと言うのに、何処となく違和感を感じるのは何故だろうか。
 おそらく目覚める直前まで見ていた夢のせいだと思うが・・・。


(夢・・・?)


 夢の記憶は目覚めると急速に失われていき、今はもう殆ど覚えていない。しかし、とても懐かしい気持ちになったのは覚えている。胸が暖かくなるような。逆に胸が締め付けられるような。


「確か・・・昨日も・・・」


 昨日も同じような夢を見た気がする。いや、その前日、それ以前にも見たことがあるような・・・。

 夢は本人の願望や記憶を写し出すと言う。
 仮に、あれが私の願望だとする。だが願望だと言うのなら、何故願望を見て懐かしい気持ちになるのだろうか。
 願望ではないとするなら記憶なのだろうか。しかし、夢に登場した人物の中に、私の記憶にない少女が居た気がする。夢が記憶の反映であるとするなら、見知らぬ少女が登場する道理はない。

 記憶という可能性はまず無い。かといって願望という可能性も薄い。では一体私が見た夢は何なのか。いや、そもそも私は本当に夢を見ていたのか。何か全く別の物を見ていたのではないのか。


「・・・・・・」


 正体不明の怖気に襲われた私は、起床ラッパが鳴らされるまで寝台の上から降りることが出来なかった。









 同日 2000 香月夕呼執務室

<<白銀武>>


「香月博士、失礼します」


 執務室に入ると、博士はなにやら難しい顔でモニターを睨んでいた。入室したこちらを見ようともしない。それ以前に、部屋に入った人間が居る事にすら気付いているか疑わしい。


「博士?」


 再度声をかけてみたが博士は反応しなかった。どうやら予想どおり入室者にも気付いていないようだ。
 「だとすれば・・・いや・・・でも・・・」などと、何やらぶつぶつと呟きながら思索にふけっているだけだ。

 その後も何度か声をかけるが、やはり反応は無かった。
 こうなれば仕方がない。博士が気付くまでしばらく待たせてもらう事にしよう。





「―――? 白銀?」

「ああ、失礼させてもらってますよ」

「あんた何時入ってきたわけ?」

「大体・・・、30分くらい前ですかね。断わっておきますが、一声かけてから入室してますからね?」

「あ、そ。それで何の用?」

「バグ取り用のデータが取れたので持ってきました」


 本来なら昨日のうちに終わらせておきたかったのだが、千鶴の相談があったので昨日は殆どデータを取れなかった。それ自体は、自分にとっても望む所だったので悪いことではないのだが・・・。


「ふーん・・・。案外時間かかったわね。」

「ええ、本当は昨日のうちに終わらせたかったんですけどね・・・。
 あ、そうだ。OSの基礎データ収集なんですけど、神宮司軍曹を借りてもいいですか?」

「まりもを? ・・・そうね。どのみち働いてもらう気だったし、構わないわよ」

「ありがとうございます。OSのβ版は明後日くらいですかね?」

「そんなところね。―――そうそう、あんたに面白い話があるんだけど、聞きたい?」

「・・・面白い話?」


 嫌な予感がする。博士がこういう言い方をする時、それはまず確実に面倒事だ。さて今回はどちらになるか―――


「そ。今この基地には斯衛の小隊が駐屯してるのは知ってるわね?」

「ええ、第19独立警護小隊ですよね」

「今日帝国側から申し入れがあってね。『派遣している部隊に追加要員と戦術機を送りたいが構わないか』って。ま、原因はどうでも良いけど、あんたの記憶にあることかしら?」


 ―――予想どおり面倒事だった。


「・・・横浜基地への帝国からの増員が無かったわけじゃないですけど、この時期にってのは記憶にないですね。多分俺への監視でしょうし、今後のあちらの動き次第ですね」

「対応はあんたに任すわ。私に用があるわけじゃないでしょうし。―――OSの方はβ版が完成したら呼ぶわ。今日は帰りなさい」

「・・・分かりました。失礼します」




 月詠中尉がこちらに探りを入れてくる時期の目安は、吹雪と武御雷の搬入。つまり207隊の皆が総戦技演習を突破し、戦術機教習課程に移る頃だ。博士は帝国に恩を売る意味も込めて、増員の派遣は受け入れるだろうから、その頃には派遣された人物も横浜基地に来ている可能性は高い。
 新たに派遣されてくる人物はどう動くか。自分や博士の計画の障害となるような人間でなければ良いのだが・・・。


(ま、なるようにしかならんよな・・・)


 どれだけ考えても、現状では推論を立てる材料すら不足している。結局のところ、帝国側が先に動いている以上、受け手であるこちらはそれにあわせて不利にならないよう動くしかない。博士は予想どおり全部こちらに処理させようとしているし、予期せぬ手間を抱え込むのは正直面倒だから勘弁してほしい。

 武は、新たな面倒事を抱え込むことになった我が身の運命を噛み締め、うんざりしながら機密フロアを後にした。









 10月27日 2000 シミュレーターデッキ

<<神宮司まりも>>


 私は白銀大尉からの呼び出しを受けてシミュレーターデッキに来ていた。が、肝心の大尉の姿が見えない。


「白銀大尉?」

「神宮司軍曹か? 今ちょっと手が離せないから、悪いが管制室の方まで来てくれ」


 どうやら何か作業中らしい。呼び出された用件に関わるものだろうか?
 疑問を抱きつつも、私は管制室の方に足を向けた。


「その辺に座っててくれ。もうじき終わる」


 管制室に入ると、大尉はコンソールに向かって何か打ち込みを行っていた。こちらに気づいて声をかけはしたが、視線はモニターに向かったままだ。
 大尉の言葉に従い、私は手近な椅子を引き寄せて待つことにした。





「よし・・・と、これでいい。すまないな、呼び出したと言うのに待たせて」


 10分ほど経っただろうか。作業を終えた大尉はこちらに向き直って言った。


「いえ、それはいいのですが・・・。一体どういったご用件でしょうか?」

「ああ、そうそう。―――神宮司軍曹には新型OSの開発任務に着いて貰う」

「新型OS、ですか・・・? それは一体どういう――」

「今回軍曹が関わるOSは、従来機では実行が容易ではなかった挙動を、容易に実行可能にするために制作された。隠しても仕方ないから言っておくと、このOSは俺が香月博士に提案して作っていただいたものだ。要は俺の機動概念を誰であっても容易に実行可能とするためのOSだな。
 主な変更点は機体動作中にも入力を反映するキャンセルと、先行入力を可能とすること、特定の入力をすることで設定した動作を実行可能とすること、即応性の向上の四つだ。特に即応性は30%以上の向上を実現している」

「即応性が30%以上・・・?」


 信じがたい数字だ。従来型のOSだとその十分の一どころか、一%程度の向上でさえ快挙に近いと言うのに。
 だが大尉はさらに驚くべきことを口にした。


「ああ。今言った新型OSの四つの特性なんだが、戦術機に搭載されている従来型CPUでは実現不可能でな。実現するために高性能CPUを使用したところ即応性も向上したってだけの話だから、まあ即応性向上はおまけだな。
 重要なのは動作中の入力反映――キャンセルと先行入力、そして特定入力による設定動作実行の三つだ」

「その数字でおまけ、ですか・・・」

「そう、おまけだ。尤も、従来型のCPUでは動かないことを考えればおまけとも言い切れんのだが・・・。
 まあその話はいい。このOSが全軍に行きわたれば、衛士の死亡率を今の半分、上手くすれば三割くらいまで減らせると自負している」

「そ、そこまでのものなのですか?」


 30%の即応性向上が“おまけ”だなどと、誰が信じるだろうか。そもそも即応性の向上率自体信じれないに違いない。しかも衛士の死亡率を半減させるとまで言う。それを鵜呑みにすることは不可能だろう。



「数字には俺の願望も入ってるがな。従来型のOSと特性が違い過ぎるから、平均して数日から一週間程度の慣熟が必要だろうし・・・。それでも衛士の死亡率を下げることだけは断言できる。
 ―――とは言っても、実力も分からない衛士が発案したOSなんてそうそう信用できないと思う。だから、まずは俺の衛士としての実力、その目で見定めてほしい」





 大尉が私に見せたのは、模擬戦の映像だった。単なる模擬戦なら驚くに値しない。だがそれは私にとって―――誰であっても同じだろうが―――驚くしかない内容だった。
 12機の不知火がたった一機の不知火に敗れたのだ。しかも一太刀浴びせるどころか、弾丸の一発も掠らせることなく。
 まともな神経の持ち主ならまず映像が捏造されたものであることを疑う。映像が捏造されていないとなれば、次はシミュレーターのデータに細工が施されていたことを疑うだろう。

 だが、冷静に考えれば、この状況でそんなことはあり得ないと誰でも分かる。それを理解するために考えるべき情報は二つ。

 一つ 白銀武は戦術機技能教導官であり、今後彼の戦術機機動を目にする機会は確実にあるということ
 一つ 白銀武がこの映像を見せた意図は、自分に彼の実力を確認させるためであるということ

 この状況で捏造を行うことは、大尉にとって害となる可能性の方が遥かに高く、何の益も齎さない。私が映像の真偽を疑うということは、大尉が映像やシミュレーターに細工を施すに足る理由を考えなければならないのだが、そんな理由が存在するとは思えない。


「神宮司軍曹、何か感想は?」

「・・・大尉の実力に驚くばかりです」


 不敵に笑いながら問いかける大尉に対して、私は正直な感想を口にした。別に阿諛追従を意図しての言葉ではない。それしか口にできなかったのだ。
 こんなものを見せられて、飾り立てた言葉を口に出すことなど私には出来ない。


「それは良かった。この映像だけですぐに信じてもらえるとは思ってなかったからな」

「そんなことは・・・! 大尉が細工をする理由が私には考えられません。そんなことより、私はあの娘たちがこうも一方的に負けたことの方が驚きです」

「あれ、俺何処の部隊が相手か言ったか?」

「いいえ。ですが大尉は副司令の直属ですから、模擬戦をやるとしたら相手はA-01だということくらい想像がつきます」

「ああ、そりゃそうか・・・。
 ま、これは別にヴァルキリーズが弱いわけじゃない。今回は俺が圧倒的に有利だったってだけだろう」


 有利なのはどう考えてもヴァルキリーズのはずだが・・・。
 大尉の中では論理の帰結が出来ているのだろうが、私には少々―――いや、まったくもって理解しがたい。恐らく、大尉は自分の発言が理解されていないなどとは露ほども思っていないのだろうが・・・。


「ま、それはいい。次はOSに触れてもらうわけだが―――」


 大尉は急に言葉に詰まった。大尉程の実力の衛士が提案し、自信を持って推薦するOSの性能が相当期待できるのは誰でも理解できることだ。言い淀む理由などないと思うのだが・・・?


「―――期待していては申し訳ないんだが、今日軍曹に触れてもらうのはOSの最初期バージョンだ。基礎機動データ収集に使うβ版のOSがまだ完成していなくてな。すまんが、今日出来るのはOSの特性を理解して貰うことだけになる」

「・・・了解しました」


 ・・・成程、大尉は随分“誠実”な人柄のようだ。
 軍隊において理不尽な上官など極有り触れたものだが、大尉は理由もきちんと説明した上でこちらが納得して任務に従事できるよう心を砕いている。
 正直に言えば、大尉が私に心を砕く必要など一切無いと思う。だがそれでも、部下に対して心配りをし、かつ優秀な人間が上官であると言うのは、部下としては気持ちがいいものだ。少なくとも、今後下らないことに頭を悩ませる必要が無さそうだと言うだけで、随分ありがたい。


「・・・態々呼び出しておいて未完成版を使わせるなんて、申し訳ないと思ってる。だが、実際にデータ収集を始める前に、OSの特性を理解しておいて貰ったほうが良いと思っての呼び出しだ。今日は堪えてくれ」

「いえ、任務開始前にこのような機会を作っていただいただけでも感謝しています。こちらとしては不満などありません」

「そう言って貰えると有難い。―――じゃあ、始めようか」








『軍曹、さっきも言ったが、取りあえず慣れることを第一に考えてくれ。何かあればその都度説明するが、即応性が30%以上向上しているということだけは忘れるな』

「了解」


 慎重すぎるくらい繊細に。・・・いや、ここはいっその事普段通り動かした方がいいだろう。最初は新OSと旧OSの違いを体で理解することに集中した方がいい。
 そう判断すると機体を前進させるべく操縦桿を操作する。が―――


「―――なっ!?」


 単に前進しただけのはずが、無様にも転倒してしまった。
 機体のバランスがまるで取れない。私が不知火に乗っていたのは極短期間であり、さらにこの基地に移ってから使っていたのは撃震であるため、第三世代機搭乗のブランクが相当長いのは確かだ。それでも、普通に動かす程度の事に問題などあるはずがない。
 しかし、新型OSに転換した不知火の敏感さは、私が即時修正できる範囲を超えていた。いつも通りの感覚で動かしても駄目だろうとは思っていたがここまでとは・・・。


『―――やっぱり転んだか。今ので感じたと思うが、新型OSを搭載した不知火の不安定さは通常の不知火の比ではない。
 第三世代機の特徴である意図的な不安定さは機動性の向上を図ったものだが、新型OSを搭載した第三世代機はその長所が更に強化されている。慣れるまでは思った通り動かせないと思うが、一度慣れてしまえばそれまでとは逆に、まさに“思い通り”に動かせる。今のような場合は転倒中に次の動作入力を行え。転倒を回避した上で次の動作につなげられる』

「了解です!」


 その後、私は三時間にわたって動作練習を行った。その結果、私は新型OSの特性をほぼ完璧と言っていいレベルで理解出来たと思う。新型OSを知らない人間に説明しろ、と言われれば仕様書には書かれない部分でも説明できる自信がある。
 尤も、その理解の裏には白銀大尉の尽力があったからだ。大尉は私が“失敗を意図する入力”を繰り返すのを見て、その意図を理解してくださり、更には詳細な解説まで加えてくださったのだ。大尉からすればあくまでOS開発に必要だからそうしてくださったのだと思うが、戦場の様相を一変させかねないOSの開発に関われらせて頂いただけというだけで身に余る光栄だと言うのに、一足先にその特性から何から全てを知る機会を与えて下さったのだ。大尉には感謝してもしきれない。


『―――よし。そろそろ模擬戦にいってみようか』

「はい、・・・お願いします!」


 大尉の戦術機動。それだけで胸が高鳴ると言うものだろう。模擬戦の映像は、客観的に判断する必要があるため第三者視点になっている。そのおかげで大尉の機動の特徴は理解できたが、逆にどういう利点があるかは分かりにくかった。
 恐らく、頼めばヴァルキリーズ視点の映像も見せてくれるとは思うが、今はそんな場合ではないし、その必要もない。なにせ実際に大尉の不知火と対峙しているのだから、これから好きなだけ見れるのだ。直に相対した時、一体大尉の機動は私の目にどう映るのか・・・。





 小休憩を挟み一時間ほど続けた模擬戦は白銀大尉の圧勝で終わった。私は接戦どころかまともに勝負することも出来なかったのだ。元々OSに慣れ切っていない私が白銀大尉に勝つ道理などなかったが、これでは教え子たちを笑えない・・・。

 模擬戦を終えた私たちは、今は管制室で模擬戦の操作ログを見ている。大尉のログを見て気になった点を私が質問する。逆に大尉が私のログを見て指導する。


「大尉、ここの操作なのですが―――」

「ああ、ここは―――」


 非常に有意義な時間だ。
 この指導は、私の技量が上がるのと同時に、今後私が教官として訓練兵に伝えられる情報がより増えると言う事を意味している。

 新人衛士に常に付きまとう“死の八分”

 “死の八分”で命を落とす新人衛士がほんの少しでも減らせると思えば、大尉の言葉を一言一句たりとも聞き逃すことは出来ない。


「―――今日はこのくらいにしておこう。
 軍曹、今日は御苦労だった。やはり軍曹に頼んで正解だったな。α版でここまで動かしてもらえると思っていなかった」


 だが、内心はどうあれ、大尉が口にしたのは私への労いの言葉だった。


「ありがとうございます。――しかし大尉のように動かすのにはまだまだ時間がかかりそうですが」

「そんなにすぐ俺と同じ動きをされてしまうと、俺の立つ瀬がなくなるよ。
 まあα版であれだけ動かせるなら上出来だが―――。
 ―――だが、今日程度で満足していて貰っても困る。軍曹には娘たちを鍛えてもらわないと駄目だからな」

「勿論です。あの子達を一人前に「いや、軍曹に鍛えてもらうのは207隊だけじゃない」―――は?」


 ―――207隊だけではない? 今居る訓練兵は207隊だけのはずだが・・・?


「・・・これはまだ正式決定ではないが、軍曹には207隊の訓練終了後、特殊部隊へ異動して貰う事になると思う」

「それは、つまり・・・」

「その通り。軍曹の配属先の予定は、軍曹の教え子たちが在籍する国連横浜基地の最精鋭部隊、“A-01”だ」


 かつての教え子と同じ部隊で働くと言うのは、気心が知れている分やりやすいと言えばやりやすいが・・・。私の教官としての職務は何処に行くのだろうか?


「・・・では私の教官としての役目は終わりですか?」

「暫定的だがそう言う事になる。207の後に練成される予定の人間が居ないから、このままだと軍曹は宙ぶらりんの立場になる。しかし軍曹程の衛士を遊ばせておくのも旨くないからな」

「はぁ・・・」

「ま、別に教官としての役割がなくなるわけじゃない。さっきも言ったが、軍曹には俺がいない間はヴァルキリーズを鍛えて貰わないといけないからな」


 確かにそうだ。いくら大尉が圧倒的な技量の持ち主であったとしても、12対1で完敗した教え子たちが不甲斐ないことに変わりはないのだ。状況から来る油断があったのだろうが、油断が原因で彼女たちが死ぬようなことがあれば、私が彼女たちに伝えたことは全て無駄だったと言う事になる。そんなことは耐えられない。


「―――嬉しいだろ? 不甲斐ない娘たちを鍛えなおす機会が巡ってくるんだからな」

「―――ええ、とても」


 そう答える私は、自然と笑みを浮かべていた。


「間違っても、配属後の模擬戦ですぐ撃墜されました、なんてオチは止めてくれよ?
 マンツーマンで指導した軍曹がそんなことになったら俺の教官としての能力が疑われちまう」

「勿論です。教導隊の恐ろしさ、改めて教育してやりますよ」

「―――期待しているよ」



 後日、このやり取りについて白銀大尉と話した時、私が口角を吊り上げた獰猛な笑みを浮かべていたと言う事を聞いた。私がそういう表情を浮かべることがあるのは昔から言われてきて分かっていた事で、それについて今更どう思うでもない。しかし、白銀大尉に「“狂犬”らしい良い顔だった」などと言われた時は、流石に気恥しく、腹立たしさも相まって言葉が出てこず。黙り込むしか無かった。

 ともかく、明日からは忙しくなる。
 207隊の任官。新型OSの開発。双方の終幕が最高の形で訪れるよう、これまで以上に努力しなければならない。


(―――よしっ!)


 大尉と別れた私は気合いを入れ直すと眠気が訪れつつある眼をこすりながら、自室へ足を向けた。









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 10月27日 帝都某所


 私は今とあるビルの一室に居る。帝都に数多く存在する極ありふれた建造物の一つであるが、居住者がいないためこのビルは現在廃ビル状態である。
 その部屋には折りたたみ式の長机とパイプ椅子が数セット置かれている。勿論私が持ち込んだ物だ。

 何故か? 勿論資料を広げるためだ。資料と言う物は、やはり広げて置かれている方が雰囲気が出ると言う物だろう。


「・・・ふむ」


 私が眺めているのは一つの資料。その資料には一人の男の経歴が記されており、顔写真が添付されている。


「白銀、武・・・」


 10月23日、国連横浜基地に唐突に現れた男。以前の所属も横浜基地となっているが、経歴には不審な点が多い。長期間にわたって療養していたとあるが、帝国のデータベースには“白銀武”という人間が国連軍に志願した記録が存在しない。


 ―――パサリ


 香月博士の直属として着任していると言うことは、以前も博士の下で働いていたと考えるべきだろう。ならば所属していた部隊は博士の手駒たる精鋭部隊。それならば帝国軍にデータがないことも頷ける。


 ―――パサリ


 しかし、城内省に存在するデータはそれを否定する。“白銀武”という人間は既に死亡している。そして、関東圏には“白銀武”という人間は他に存在しなかった。そもそも、“白銀”という姓を持つ者など、そうそう存在するわけがない。


 ―――パサリ


 では横浜基地に現れた“白銀武”は一体何者なのか。死人は決して甦らない。つまり横浜基地に現れた“白銀武”は、過去に生きていた“白銀武”ではあり得ない。ならば考えられるのは―――


「―――手駒、か」


 “白銀武”という名を与えられた男。あの女傑が今になって態々用意した男だ。唯の手駒と捨て置ける人間ではないだろう。ならばこちらにも相応の準備が必要と言うものだ。


「ふうむ・・・。やはり手土産が必要だな」


 幾つか候補があるが何を渡したものか。



 ―――ここはやはり南米あたりが適当だろうか?

 







 ―――10月27日深夜、火災発生との報あり。
 場所は帝都の中心部から外れた場所に建つビル。居住者はおらず、無人であった。
 火災発生の報せ自体が遅れたこともあり、ビル内部に残されていた物品は全て焼失していた。
 ビル自体は全焼であったが周囲には人家が少なく、幸いにして人的被害は無し。
 付近に自然発火の原因となるような物は存在せず、放火と推測される。
 帝都警衛隊は出火原因の特定と同時に、付近で不審な人物の目撃情報が無かったか調べている。






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