2586万7277人・・・これは『レンネンカンプ事件』と後に称される
史上最大のネットゲーム事件に巻き込まれた被害者の最終的な数である。
そして、この事件は一つのネット事件として
史上最大犠牲者を生み出したことでも知られている
■ポチっとな・・・■
『レンネンカンプ』による最初の犠牲者が生まれたのは
システムサービスの開始から1時間07分32秒を経過した後だった
被害者は栃馬県在住の渋沢卓也君(仮称8歳)
そう彼はゲームを終了する前に、人生を終了してしまったのだ。
■■
「タックン~♪ごはんよ~、早くおりてらっしゃい~」
被害者の母親、里美(仮称28歳)は夕食の準備が整ったので
食事が出来たことを2Fに居る息子に少し大きめな声で告げる
だが、いつものように返事はなかった
ゲームが大好きなタックンは家に帰ると直ぐに『リアルファイト』に興じて
仮想世界にトリップしているため、
夕食が出来た事を知らせる母親からの呼びかけに答えないことは日常茶飯事であった
「もうタックンたら、またゲームばっかりやってるのね
勉強もしないで毎日ゲームかインターネットばっかり!」
何度呼んでも返事をしない息子に里美はぷんぷんしながら階段を登り、
タックンの部屋の前に立つとドアをノックもせずに開け放つ
そこには予想通りの光景が広がっていた
タックンは今日も『リアルファイト』に飽きもせず接続していた
「ほんと困った子なんだから、1時間以上遊んだらだめって何度も言ってるのに!」
それは何度も繰り返し行われたプロセス
呼びかけに応えない子供に、それを叱るため『リアルファイト』を切る母親
それはありふれた日常の一コマになるはずだった
「ポチっとな」
電プチに怒った息子が『ひどいや母さん!』と直ぐに飛び出してくるはずだった
そんなどうしようもなくかわいい息子の小さな額を
ちょっぴり強めに小突いて小言を言うだけで良かった。ただそれだけで・・・
■ゲームの終わり■
いつまでも出てこない息子に業を煮やした里美は『リアルファイト』の扉を開け、
ヘルメットのような物を被って横たわる自分の息子を揺さぶる。
なんどもなんどもなんどもなんどでも・・・
少しして帰宅した夫が2階の子供部屋に足を踏み入れるまで
泣きじゃくり半ば狂乱状態で動かなくなった息子を揺さぶり続けた・・
■
放心状態の妻から何とか事情を聞きだした夫の良行(仮称32歳)が
救急救命センターに連絡した時、彼の息子は既に息を引き取っていた。
この時点で、同様のケースが全国各地で起こっていた
被害者は全て『リアルファイト』で『レンネンカンプ』をプレイし
外部からの強制終了によって即死していた。
事態の深刻さに人々が気付き、メディアを通じて警鐘を鳴らすまでには
千人以上の生贄を要し、その多くは未成年者であった。
この未曾有の事件は話題のヴァーチャルゲームによる事件であったため
半ばパニックのような錯綜した報道が事件発覚後、数時間足らずで飛びかうことになる
当然、レンネンカンプ社の本社ビルにはマスコミや野次馬達が
事件の原因を知るため大挙して押しかけていた。
『レンネンカンプを利用者から多くの犠牲者が出ていますが
これは付属機器の不具合が原因なのでしょうか?回答してください!』
『未だに一人もログアウトしていないという情報もありますが
これは事実でしょうか?今後も犠牲者は出ると見てよいのですか?』
『レンネンカンプ出てて来い!オラー!!』『私の息子を返して!かえしてよっ!』
本社ビルは既に収拾がつかないほど混乱していた
怒りや悲しみ好奇といった様々な感情を持って答えを求める人たちは
一分一秒経つ毎にその数を膨らましていき、警察が出動する事態にまで発展してしまう
■
最大2500万の犠牲者・・・・
この途方もない事態に『リアルファイト』や『レンネンカンプ』を認可した管轄官庁
また、これらの商品群を日本の新たな産業として育成支援するため
『仮想世界関連製品並びに付属製品に対する助成支援に関する法律』を成立させた
与党に対して野党から激しい批難が寄せられる事になる。
『政府の規制緩和によって安全性が疎かされ、利益を追求主義に走った結果だ』と
この追求に対する政府及び与党代表としての国会答弁において首相は
『私は法案成立には反対だった濡れ衣を着せられても困る!
二次元派だからと言って反対して騒ぎになったこともある』
と三次元に対して興味が無い事を唐突に宣言し、日本は終了しました。
■
一方、タイヤの分離自立走行が可能な高性能自動車以上の欠陥品を
製造販売したレンネンカンプ社及び製造下請会社の社員達は途方にくれていた
短納期と低コスト重視しすぎた付属機器の欠陥による電プチ時に
頭がフットーすることによって死亡する問題だけでなく
予想以上の利用者数の増加に対応するため
急遽増設したゲームシステムサ-バーのトラブルによって
仮想政界からのログアウトも不可能になっていた。
プレイヤー達は死ぬ以外に仮想世界から戻る術を失ったのだ
『現在、社内にて確認中です。確認取れ次第発表させていただきます』
「攻略方法についてはお答えできません!昨日から寝てないんですよ!!」
最悪の事態に、通り一遍等の言い訳を永延と続ける経営陣
この絶望的な状況の中レンネンカンプ社の代表取締役レンネンカンプはハジケた
マスコミに向けて昨今の仮想ゲーム業界に対する自説をぶちまける記者会見を開き
取材陣の前で好物の魚が詰まった弁当を平らげ、焼酎も注文して飲み干し
『別れの焼酎だな』と一言述べると本社ビルに戻る
本社ビルに戻ったレンネンカンプは自室に篭り
部屋に置かれた『リアルファイト』に自分の名を冠した『レンネンカンプ』を差込み
自らが生み出した出口のない仮想世界へと旅立った。
追い詰められた男の自殺と言ってよい逃避であった
■のらりくらり紀行■
外の世界と100倍以上の時間差がある『レンネンカンプ』の世界は
クソ過ぎるという点を除けば平穏そのものであった
そんな状況の中、ヘインと食詰めは一先ず帝国プレイヤーの始まりの街
帝都オーディンに向けてダラダラと歩きながら向かっていた
やはり長すぎる時間と言うのも厄介な物で
膨大な時間を利用して勉学や資格取得に励むぞと考えていた人たちも
少々だらけてしまい、ヘイン達と同じように思い思いの人々と
他愛のない世間話に熱中したりと、本来の目的を一旦置き去りにしていた
また、厨ニ設定を完膚なきまでに叩き潰された人々は
再起動するための時間がしばらく必要としており、なかなか動き出さなかった
■■
まったく、変な奴に目をつけられたもんだ
正直、これ以上関わった所で俺にメリットは・・多分ないかな?
適当なことを言って分かれるとしよう。
「もう俺が教えることもないし、後はもっと詳しい奴にでも聞いてくれ
何だかんだで現実・仮想世界関わらず、かわいい女の子はチヤホヤされるから
俺について来なくても大丈夫だ。さっき言った注意事項だけは守れよ
じゃ、もうこの広い世界じゃ会うこともないかもしれんが、またな!」
『あぁ、色々と世話になった。少々寂しくなるが仕方ない
そうだなこれもなにかの縁、良かったら私とフレンド登録を・・』
「だから!女の子は軽々しくフレンド登録とかしたらだめだって!
よく知らない男にそんな事して勘違いでもされたら面倒だろ?」
『そうか・・・』「そうなの!」
まぁ、ちょっとかわいそうな気もするがこれで良かったんだろう
どうせなら最初は気楽なソロプレイとやらを満喫しようと思ってたしな
とりあえずは、試験勉強はほっといて自由気ままに遊び呆け様
なにしろ時間だけはクソみたいにあるからな!
■
フレンド登録を断られ、ちょっとシュンとした感じのする
食詰めを余所に初のVネトゲでテンションがあがったヘインは
意気揚々と最初の街、帝都オーディン観光に興じる
なお、レンネンカンプではプレイヤー間の交流レベルとして
他人・友人・恋人・結婚の四段階が設定されている。
1つめの他人は
何も登録していない状況を表したもので、Mを付け足すと肉親になるが
この世界では付け足す機能は残念ながらついていない
2たつめの友人は
お互い合意の上で登録するもので、その手順は下の二つの関係も同様である
また、フレンド登録をする事によって友人になると
ゲーム場のどこにいるかが分かる、専用音声チャットでお喋りが出来たりするようになる
3つめの恋人登録をすると
ネット世界で恋人かよwという有難いメッセジーに加えて
友人関係には無いお互いのステータスが見ることができるようになる
両者が同意すればアイテムに限ってはすることが共有できるようになる
最後の結婚登録をすると
『何も言えねぇ』と諦められるだけでなく、運命共同体になり
アイテムやお金の共有に止まらず、他のプレイヤーとのチャットの盗み聞きも
特定の条件を満たせば可能になるなど、修羅場の発生率が高めに設定されている
この他にも様々な特典が隠されてたり、付与される予定ではあるが
現状で判明していることは上に書かれている
どこのVネトゲであるよう特典だけであった。
■■
『ここはオーディンの街です』
じゃ、とりあえず酒場か宿屋に行きたいんで場所を教えてください
『『ここはオーディンの街です』
いや、それはさっき聞いたんで、俺が聞きたいのは・・『ここはオーディンの街です』
うん、こういう無駄に腹が立つネタだけはしっかりやってるのがムカつくね
まぁ、かわいい顔したNPCだから許してあげよう
乳の一つや二つはモンデタヨ山形しちゃうけどね!
そ~れ、スイカップをぱふぱふしちゃうぞ~♪
『キタねぇー手で触ろうとするんじゃねぇ!!』
グゴアyァッ・・アベレシィ!!イタッイタイデスゥ~!!
ほんとすんませんすんませんでした!!
『はぁ?スマンで済んだら警察はいらんじゃろぉお!!
誠意を見せて貰わないとなぁ・・分かりやすい誠意という物を』
いきなり200帝国マルク取られたとです。
まぁ、爵位特典か何かで残り7万5876帝国マルクもあるからいいけど
周りの奴等がニヤニヤ見られたのと
肩を叩かれて慰めらたのが少し辛い
てか!お前らも顔に痣作ってんだから同類じゃねぇか!
■
『レンネンカンプ』は一応全年齢向けに作られたソフトであったため
NPCに対するセクハラは厳しく制限されていた。
そういうことを要求する場合は、年齢認証が必要な大人の店で愉しむか
最低15万帝国マルク以上支払ってあるいみ治外法権の
Vハウスを購入して家で愉しむしか方法はなかった。
公の場で公序良俗に反する行いをすれば
ヘインのように厳しい制裁を受けるのがこの世界のルールであった
もっとも、親父であるレンネンカンプが開発情熱を注いだことも会って
そっち方面の親父臭いジャンルは無駄に充実していた
こういう点もあってか、死んでも構わないから『レンネンカンプ』の
世界にログインしたいと言う人が事件後も後を絶たないのかもしれない
■オカネガ無い■
『いらっしゃいませ!一泊お一人様450帝国マルクになります!』
元気のいい受付NPCの告げる値段は疲れきった旅人達の
疲労を更に増大させる物であった。
その値段はプレイヤー初期所持金が基本的に1000帝国マルクであることを
考えるとかなりの厳しい値段であった。
もっとも、爵位身分で初期所持金がべらぼうに多い上に
爵位持ちの裏スキル効果による自動領地収入によって
一日何もしなくても3000帝国マルクが加算される
ヘインにとってみればクソみたいな値段であったが
もっとも、ヘインのように金銭面で好条件の者がいれば
逆に同じ事をしても100分の1、1000分の1しか
収入が得られないような不幸スキル持ちや
奴隷・派遣・丁稚・練習生などの悲惨な身分の人たちもいたため
全体のバランスは何だかんだで取れていた。
また、才覚さえあればその状況からいくらでも抜け出せるチャンスはある
中でも後に頭角を現すフェザーン所属の2名の相場師は
レンネンカンプ世界で経済金融に関わる者で
知らない者がいないほどの勇名を馳せる
一人目は擬似的な三人思考で確実に勝てる銘柄を選ぶ
ミスターストロングバイ!ウォーレン・パペット!!
そしてもう一人はいたずらの天才とも呼ばれる
ミスター通過危機!ジョージ・ゾロリ!!
この二人に加えて
フェザーン自治領主として名を馳せる事になるアドリアン・ルビンスキーの
三人が『レンネンカンプ』世界の経済界に強い影響を与えていく事になるのだが
それはもうしばらく先のことであった・・・
■■
他人の振りをすることにしよう。
そう、彼女と俺は歩む道が違うのだ
彼女が宿屋の前で⑩⑤①の三つの帝国マルク硬貨を
哀愁を漂わせながら見つめていても俺には関係ない話だ
下手に同情して半端な施しなんかしてしまったら
彼女を『ネット乞食』や『クレクレちゃん』に
ジョブチェンジさせてしまうかもしれない
そう、買う気の無い捨て犬や猫に餌をやっちゃだめなんだ!
ぐう~ きゅるるぅ~
あぁああああああ!!なんだよ!ほんといくつもある宿屋で偶然の再会って
このクソゲーはなんか三文芝居発生機能付きかなんかなのか!
「ファー、偶然会ったのも縁だから一緒に飯でも食うか?
部屋もお前の分一泊分くらいなら取ってやってもいいぞ」
『あぁ卿か?どうやら気を使わせてしまったようで悪いな。
私が最初に得たスキルはどうやら金と縁がなくなる効果らしく
正直、困り果てていた所だった。有難く申出を受けさせて貰う』
まったく、なにが『あぁ、卿か?』だよ!!
めちゃくちゃ、かわいそうな子オーラ出しまくってアピッて
その上、飢餓状態の子供のような希望のない目でガン見してただろ!!
白々しいんだよ!!
『ヘイン!まずは食事にしよう。さっき良い店をつけたんだ
一先ずはそこで私たちの今後について話す事にしようか?』
「食詰め!何かってにパーティ組んだみたいな会話してんだよ」
『なんだレンかファーと呼んではくれないのか?』
「だから本名は軽々しく出すなって何回言ったら分かるんだ!
それにニヤニヤ笑いながら言うな!そんな古典にも乗らん」
『すまん。この世界がリアル過ぎて現実との区別が中々付けられなくてな
勝手なお願いだとは承知しているが、もう少しだけ構ってはくれないか?』
こいつ、ぶっきらぼうな口調だが出来る
さりげなく、しなだれかかりながら脇腹辺りの服を少し引っ張る
この高等テクニック!その上、古典的芸当ともいえる斜め45℃に
首を傾げながらの上目遣い!!!
クセー!!こいつは計算クセー!!ゲームのスキルだから食詰めだって?
違うね!!こいつは生まれながらの食詰めだ!!
飯や宿代がタカれると分かったら容赦なくタカる本物の食詰めだ!!
「ちょっと位の間だからな。直ぐに生活費稼げるようになるんだぞ
おれが飯やら宿代面倒見てやるのはそこまでだからな、わかったな」
『あぁ、それで構わない感謝する』
■
こうして始まった二人の冒険の一日目が終わる
まだ、ログアウトできない。突然動かなくなったプレイヤーと言った
恐ろしい事実が噂にもなっていない平穏な一日が終わった
現実世界では一時間も経っていない仮想世界の一日が
・・・ヘイン・フォン・ブジン伯・・・電子の小物はレベル1・・・・・
~END~