『レンネンカンプ』の付属機器のバッテリーの寿命が来たら死ぬ
この事実が判明した後、最初に行われたのはバッテリー寿命の調査
その範囲は開発関係者に留まらず、生産に関わった偽装請負社員にまで及ぶが
『バッテリーの寿命?そんもん知るか!!俺はバッテリーじゃないんだ!』
「3年位は持つんじゃねーの?まぁ、携帯から外した中古使ってるのも
あるらしいから、一概には言えないと思うけどね。まぁ、関係ないし」
大した情報を得ることも出来ず、最悪の状況にあることが確認できただけであった
短納期を最優先したため付属機器に使われた小型バッテリーは
メーカ-も性能もバラバラで画一的な対応が難しいだけでなく、
携帯などに使われていた中古品も一部で流用されているため
いつ、だれが、どこで頭がフットーしてもおかしくない状況だった
この『レンネンルーレット』と称された笑えない状況を打破するため
稼動中の付属機器の小型バッテリーを交換する試みが
特務機関ジオバンニに所属する技術者達の手によって行われようとしたが
脳波をパネェ状態にする装置であり、バッテリー部分をいじることは
プレイヤー達の生命を危険に晒す事にも繋がる為
稼動状態の付属機器のバッテリーを交換するという延命案は断念される
道化の仮面を被った死神の鎌はプレイヤーの首に深く食い込んでいる・・・
■新米魔法剣士■
前日のダメージから復活したヘインは履歴書を片手に
再び食詰めと一緒にハロワを訪れる。
本当はもう二度と来る気はなかったのだが
食詰めにニヤニヤ顔で無職と言われてちょっとだけムキになって
VRPGの定番花形職業『魔法剣士』になって
食詰めの鼻を明かす気満々になったのだ
その結果、起こる悲劇に気付く事も無く
■■
『42番でお待ちのヘインさーん!』
チッ、また同じ娘かよ!別の担当の方が良かったのに
まぁ、いいや!今回は履歴書も用意したし、スキルシートもある
いつでも面接に行ける状態だ!問題ないぜ!!
『ヘインさん!ぶつぶつ言ってないで早く来てください!』
「はいはい、今行きますって!」
『ふむむぅ・・・・、なるほどなるほど、ぷっ、ぷぷぅ・・・』
おいおい、人の履歴書見て噴出すってどういう子だよ
失礼極まりないぞ!ちょっとガツンと言ってやらないといけないな
「人の履歴書がそんなに面白いのか?仕事探して必死になってるのが笑えるのか?」
『えっと、ゴメンナサイ。そんなつもりじゃないんですけど・・・ぷっぷぷぷ
ダメッ!もう我慢できないあはァッアハハッハウフフ、職業希望が魔法剣士なんて
大学生にもなってなりたいのが魔法剣士って!もうだめ♪お腹痛くて死んじゃいます』
なにこの羞恥プレイ?っていうか後ろで待ってる奴も笑い噛み殺してるんじぇねぇ!
もういっそのこと大笑いしてくれ!そっちのほうがマシだ
『あいつの夢は大きくなったら魔法剣士になることだってよ』って感じで大笑いしてくれ
畜生!なんだか本当に畜生!!俺なんかもう職業ミジンコか一生無職でいいよ
『ごめんなさい。えっとヘインさんはププッ・・、魔法剣士がご希望ですね
一応、紹介状は発行しますから、これを持って帝国魔術師局にでも行けば
多分、面接を受けられると思いますよ。なんか如何わしい団体らしいですけど
頑張って魔法剣士になって下さいね♪じゃ、転職するときにまたど~ぞ~♪』
うるせー二度と来るかこんなところ
魔法剣士に永久就職してやる!絶対転職なんかしない
こんな羞恥プレイは二度と御免だからな!!
■
散々な扱いにさすがのヘインはプンスカしてハロワを後にし
さっさと帝国魔術師局で魔法剣士になって
溜りに溜った鬱憤を外のフィールドに棲むモンスター達に
ぶつけようと固く決意する。
一方、同じように履歴書を持って求職活動を行った食詰めも
ヘインと同じ魔法剣士を職業に選択し、彼の後ろに付いていく
飯の種を逃す気はさらさら無いという意思表示である
そう、世界で一番うまいのはただ飯なのだから
もっとも、それ以外にも付いていく理由が、このころから生まれ始めていたのだが
それに彼女が気が付くのはもう少しだけ先のことであった
■冒険の始まり■
帝都の中央官庁街の一角にある帝国魔術師局
ここは魔術師や魔道士、魔法剣士などの魔法関連職業に就く為に
必要な手続きが主として行われている。
ハロワで散々苦労した二人も紹介状を持って帝国魔術師局に訪れたのだが
予想した厳しい面接試験や実技試験といった物は一切なく、
登録用紙に必要事項を記入して8000帝国マルクもする
法外な値段の印紙を貼るだけで、あっさり魔法剣士になることが出来た
針の山で指一本で逆立ちを一日するような試験もなく
あっさりと他のVRPGで花形の魔法剣士に見事就職することになったのだ
地獄の沙汰も金次第と言うことであろう。
なお、なんらかの職業に一度就いてしまえば
辞表を出さない限り、基本的に職業は変わることは無く
レベルの上昇と同時にその職業に見合った能力及びスキルが向上していく
実にシンプルでありがちというか、手を抜いた感を否めないが
下手に凝り過ぎてクソになるよりは余程マシであるため
プレイヤーの多くがこのシステムに肯定的であった
■■
『ファイボン!ファイボン!!見ろよ食詰め!手から火の玉がボンってしてるぞ!』
まったく、小さな子供でもあるまいし、はしゃぎ過ぎだな
手から火の玉が出るなどといった非常識さは逆に
これは所詮、仮想世界であるが故に実現できたことだと気付かせ
プレイする人々を興醒めさせるのではないだろうか?
『なに言ってるんだ?既に魔力切れになってる奴が
そんなこと言っても全然説得力が無いんだよ!』
「いや、私はVヴァーチャルゲームどころかゲーム自体を体験したのが
今回が初めてだからな、勝手が分からずに、試し撃ちをし過ぎただけだ
確かに、多少は魔法という物が使えることに興奮した事は否定しないが」
『なっ!やっぱ興奮したんだろ?隠すな隠すな俺もVゲーム初めてだから
やっぱ興奮しちゃったんだよな~だって手から火の玉が飛び出るんだぞ』
まったく、人を茶化すか喜ぶのか、どちらか一方にすれば良いのに・・・、本当に忙しい男だ
だが、ここまで無邪気で楽しそうな笑顔を見せられると、
本来の目的を少しだけ後回しにして仮想世界で遊ぶのも
そう悪くはないと思えてくる
幸いな事に時間は無限とも思えるほどあるし、
仮想世界を少々愉しむ程度の猶予は十二分にあるはず
それに、この無邪気な笑顔のお人好しにもう少しだけ世話になるのも悪くない
退屈とは無縁でいられるだろうし、食詰める心配も無いからな
『どうかしたんか?急にニヤニヤしだして、なんか面白い物でも見つけたのか?』
「あぁ、実に興味深いモノが見つかったよ。私の目の前でね」
■■
目の前で?なんか俺の後ろにいるのか?ってモンスターが二匹も急接近!?
やばい、すでに俺も食詰めも魔力切れだ。魔法の力を失った魔法剣士・・・
クッソタレ!モンスターの野郎共はこの瞬間を狡猾に狙っていやがったのか
ファッキンモンスター!!オーイエーだぜ!!
『ヘイン、冗談を言っている場合じゃ無さそうだ。前の二匹は恐らく陽動
左右後方からも二匹ずつ此方に接近している。このままだと包囲される』
ノリが悪いぞ!とりあえずこういう場合のRPGのセオリーは、
地道に倒せる敵から順番に倒すこと、無理せず逃げたほうが徳ってことだ
まずは前にいる角が生えた鶏みたいなモンスターをぶった切って
そのまま全力で逃げるぞ!このまま待って囲まれてタコ殴りにされるのは勘弁だろ?
『ほぅ、三方からの迫る敵の包囲が完成する前に各個撃破を図って離脱か
なかなかどうして、卿も考えているではないか、それで行こう悪くない』
失礼な奴だな!いっとくが俺は考えなしの能天気馬鹿じゃないからな
だいたいホイホイとよく知らない俺に付いて来ちゃうお前のほうが・・・
『すまんが話は後にしよう・・・、先に行くッ!!』
って、おい待てって!!いきなり勝手に突撃して置いてくな!
こちとらタダのグータラ大学生だってことを分かってんのか
現役のガキんちょと違って体力あり余ってねーんだよ!!
■■
うん、楽勝でしたね。やっぱ街の直ぐ近くにいるようなモンスターなんか
良く考えたら花形職業の魔法剣士でもある
ヘイン様ご一行の敵になる訳がなかったんだよね~♪
前の二匹どころか、追いかけてきた左右の四匹も楽々と狩っちゃいましたよ
食 詰 め が 一 人 で
ほんと見ていただけであっという間に終わりました。
いや、正確にいうと途中で腰を抜かしてほとんど動けませんでした
だって、いくら仮想世界だからってリアル過ぎなんだよ!!!
最初に倒した一羽は食詰めが剣で喉を容赦なく掻切って血をドバーってさせるし
剣を振った隙を突いて襲い掛かってきたもう一羽が頭の角で突き刺そうと
食詰めに突っ込んできたけど、剣の柄から外した片手で角を掴んで地面に叩き落として
動きを一旦止めてから首を容赦なく足でグチャリと気道をぶっ潰して返り討ち・・・
後の四匹については思い出したくないというか
正直、見ていられませんでした。野鳥の会も真っ青な殺戮劇でした
■焼き鳥ふぁーちゃん■
『レンネンカンプ』の悪癖の一つとしてある中途半端なリアル思考のせいか
戦闘でのダメージ描写は全年齢対応Vゲームにも関わらず
現実とほぼ同じ描写であった。
そのため、戦闘後の光景はクビチョンパに脳汁が出た死体が転がっているなど
目を背けたくなるほどグロかった
生と死をリアルに表現したいというレンネンの強い想いが反映された結果であったが
かわいそうや気持ち悪いといった理由でモンスター狩りに行けない
行っても怖気づいて狩れないプレイヤーを続出させる。
ただ、『はじめ人間オフレッサー』やその仲間達などの、
一部の脳筋殺戮プレイヤー達はよりグロくエグイのを求めて
日夜殺戮虐殺行為に明け暮れていくようになる
また、食詰めのように殺生を行うだけでなく、
ちゃんと死体を捌いて食材として有効利用する人々も僅かながら居たが
当然、そんな者を求めていないプレイヤーの方が圧倒的に多く
この拘りの大自然の摂理を訴える表現方法は、
製作者の期待とは裏腹に大不評を得ることになる。
■■
血を抜いて、皮を剥いで内臓を取り除く
身を叩いて肉を柔らかくするとか
なんとなく聞いたことはあるけど
目の前でやられると結構ショッキングのモノです
それに『鶏だったものの肉』っていうアイテム名も
なんか生々しくていやだな。
まぁ、一番の問題は血塗れで黙々と作業を続ける
食詰めの姿がどん引きする位に怖いってことかな
『どうした、腹の虫が疼くのか?もう少しで捌き終わる
後は火を起こして焼くだけでいい。一応、調味料もあるぞ』
「あぁ・・・、ほんとたのしみだなぁ~、あはは嬉しいなぁ~」
なんか別の意味で腹が疼くというか胸が疼いて
食欲が刺激される前に、吐き気に襲われとるとです
いや、生まれながらの食詰めだとは思ったけどコイツどんだけ野生児なんだ?
かわいい女の子は50センチ以上もある鶏を捌いたりしないだろ普通
近所の小学校の鶏や兎とかコイツ喰ってないだろうな?
ちょっと、お兄さん心配になってきましたよ。
『卿には一宿一飯以上の恩を受けているからな、多少は借りが返せそうだ』
うん、多分みんなが見惚れる位の笑顔なんだろうけど
返り血と血塗れの剣で肉片を切り分けている光景と合わせると
恐怖以外の感情が湧いてきません。
さすがにお腹が空いても人間はバラバラにしないよな?
■
初めての戦闘をなんとか無難にこなした後
食詰めのワイルドクッキングにドン引きのヘインであったが
意外に焼いた鶏の肉が旨かったのか、もぐもぐと結構な量を食し
調理した者を満足させていた。
一生懸命調理した物が美味しそうに食べられるのが嬉しいのは
この世界でも変わらないようである
また、何だかんだで6体のモンスターを倒した二人は
レベルが一つ上がる程度の経験値と幾らかの帝国マルクを手に入れていた
ただヘインが手に入れた500帝国マルクに対して
食詰めが手にしたのはスキルの効果もあって5帝国マルク硬貨一枚だけであった
食詰めが自活できるようになるにはまだまだ時間がかかりそうである
■
ヘインと食詰めは帝都オーディンの宿屋を根城に
何日か街周辺のフィールドで狩に励んでレベル上げを行う
レベルがあがると共に使える魔法が増えることに
ヴァーチャルゲ-ム初心者のヘインが嵌ってしまったのだ
一方、食詰めの方は正直二日目ぐらいで飽き始めていたが
食料調達という実益と無邪気にはしゃぐヘインを揶揄するという
別の愉しみ方で『レンネンカンプ』をそれなりに満喫していた
もし、このまま二人が何も知ることが無ければ
このそれなりに幸せな仮想世界での生活は続いただろう
だが、この仮想現実世界によって生み出された事件は
悲惨な現実を二人だけでなく、全てのプレイヤーに突きつけようとしていた
『レンネンカンプ』の世界が生まれて4日が過ぎた頃
最初の犠牲者が自らを生みし者の手で冥府へと送られたのだ・・・
これは悲劇の序幕にすぎない、以後、同じような犠牲者は更に数を増し
ログアウト出来ない状況と合さって人々の不安を煽っていくことになるのだ
平穏な日々は終わりを迎え、疾風怒涛の季節が到来しようとしていた
・・・ヘイン・フォン・ブジン伯・・・電子の小物はレベル4・・・・・
~END~