ゲーム内での死に様々なペナルティが課されることは
多少はゲームを嗜んだことがある人間の間では常識である
良くある物としては、お金が半分になったりアイテムを失うなどである
当然、VRPG『レンネンカンプ』にもデスペナルティは存在する。
だが、その内容を語る前に『レンネンカンプ』における死の定義を説明しよう。
■レンネンカンプは二度死ぬ・・・■
『レンネンカンプ』の死は2つの種類が存在するのだ
一つ目はよくある生命活動の停止による死
簡単に言えばライフポイントが0になる事によって起こる死である
もう一つの死は何かというと、『レンネンカンプ』を象徴するかのような死である
それは手鏡を巧みに操るのが見つかったり、風呂場への偵察等が発覚した際に起きる
そう、『レンネンカンプ』では社会的な死が生物学的な死と等価に扱われているのだ
この死に関するクソみたいなルールは、
秩序を重んじる製作責任者の性格が色濃く反映された結果生まれた物である
もっとも仮想世界において社会的な死という概念を導入した本人が
『レンネンカンプ事件』という社会的な重大事件を起こし
仮想どころか、現実世界で社会的に死んでしまった現実を見せられると
運命の皮肉さを思わずにはいられない。
■デスペナルティは終わらない■
『レンネンカンプ』の世界におけるデスペナルティは
そのほかの奇抜というかクソなゲームシステムやルールと比べて
多少は厳しく感じるものの至極真っ当な物であった。
その内容は死亡したら即強制ログアウトさせられ
最後にログインした状態に全て戻るというペナルティに
そ所持金とアイテムが0になるという有難くないおまけ付くといった
単純でありがちなペナルティが課せられるだけ
この取説に書かれた基本的なルールが初期の電プチに匹敵する最も残酷な結果を
多くの人々に与えることになるのだが、それを予想できた人は残念な事に皆無であった・・・
■壊れた日常■
仮想世界での一ヶ月に過ぎないが、ここまで長期間ログアウトができない状況が続き
更に次々と動かなくなったプレイヤーも目撃されるとなれば
不安や恐怖によるパニックが多くのプレイヤー達の間で起こる
最初はOPイベントかなにかだと強がっていた人々も
『何かおかしいのではないか?』『説明責任が果たされていない』等々
不安を押し殺すことが難しくなりつつあった。
当然、ヘインと食詰めもこの喧騒に無縁ではいられず、
多くの人々と同じように大きな不安と恐怖に襲われる
■■
『困った事になったな。どうやら初期不良という現象ではなさそうだ』
なにこの子は真顔で怖い事を言ってるんですか
Vゲームの世界に閉じ込められるなんて、そんな使い古されたネタは
厨房時代の痛い妄想ネタ帳にでも書き綴ってるだけで良いんですよ
「まぁ、ちょっとサーバーの調子がおかしいだけだろ?直ぐに復旧メ-ルが
送られてくるから大丈夫だって、現実との時間差で遅れてるだけだと思うぜ」
『最初は私もそう考えていた。いや、そう信じていたかったの間違いだな
復旧メール以前に、不具合報告のメ-ルが全く送られてこないというのは
異常だとは思わないか?すでに現実でも7時間以上経っているというのに』
あぁ、今更いわれなくても分かってるよ!!
多分、ログアウト不能エラーの復旧目処がどうこうってレベルじゃ無い位に
ヤヴァイんだろ?混乱を最小限に抑えるために普通はあるはずの
運営側からのアナウンスも無く、全く音沙汰なしの現状
その上、サポートセンターに連絡しようとしても全く通じない
どうやら、みんなの言う通りで中と外のアクセスが完全に切れちゃったんだろう
ほんと勘弁してくれよ。初めてのヴァーチャルネトゲでこんな目に遭うし
柄にも無いことする破目になるわ、ほんとツイてないよなぁ・・・
「確かに今の状況は最悪に見えるし。そうじゃない可能性も十分ある
だけど、どちらにしても俺らが何かを出来るわけじゃないだろ?
せいぜいやれる事は適当にモンスター狩ったり、図書館で勉強して
本来の目的を果たしながら待つこと位。まぁ、云々考えても仕方が無いし
昼飯でも食いに行きますかね?腹が減るのだけは現実と変わらないからな」
『卿の言が正しかろう。それと気遣いには感謝する
少しだが気が楽になったよ。卿はやさしい男だな』
■
最悪の予想図を前に沈みかける中、ヘインはちょっと男の子しちゃって
食詰めを冗談めかした感じで昼食に誘い気を紛らわせようとするも
役者としては一歩食詰めには及ばず、
彼女の澄んだ笑顔と素直な感謝の言葉による返し技で
逆にしどろもどろにされ、いつもよりセレブなランチをご馳走する破目になる
仮想世界に閉じ込められて不安にならない者などほとんどいない
二人と同じように多くの人々も焦りや不安に色づけされた恐怖を感じていた
そして、その恐怖が誤解と楽観に彩られた大きな悲劇を生むことになる
■きっとログアウトもできるはず・・・■
何度繰り返しても実行されないログアウト
何度問い合わせをしても繋がらないサポートセンター
質問に質問で返すNPC、逆切れをするNPC・・・
一度も送られて来ない運営からの報告メール
やがて、多くのプレイヤー達は運営による事態の早急な解決は出来ないと諦め
様々なアプローチでログアウトを試みようとするようになる。
そんな機運が高まる中、プレイヤー同士の情報交換や相談から生まれたある方法が
ログアウトへの最短ルートだと信じられ、多くの者がそのルートを選択する
そして、その楽観と誤解によって作られた方法は彼等にこう呼ばれる
デ ス ア ウ ト
ただ、残念な事にこの言葉は直ぐに違った意味で使われるようになる
そう、本当のデスペナを象徴する残酷な言葉として・・・
■
「デスペナで強制ログアウトってことは自殺すればよくなくない?」
『その発想はなかったwおまえ天才だな!』
[では、さっそく私と空を飛びたい人は中央の塔へ]
『いいなそれ!大量ヒモなしバンジーってパネェっすね!』
{いや、普通にモンスターにヤラれたらいいんじゃ?}
〔お前の意見は詰まらん!またくもって詰まらん!弾けろよw〕
そう、レンネンカンプのデスペナにある強制ログアウトは
取説にしっかりと書かれおり、多くの人々が知る『仮想世界の常識』だった
そのため『デスペナ使えばログアウトできるんじゃね?』説は
碌な考証もなく安易に最良で最短の解決方法と目され
仮想世界という閉ざされた環境とシステムエラーの情報が
殆ど皆無という状況にも助けられながら多くの人々の支持を集め
短期間で数十万規模の自殺実行者達を生み出すことに成功する
その犠牲者の数は、事件発覚後にログインした『後発組』の人々から、
ログアウトできないエラーを誰一人越えられなかったという事実を知らされるまで
楽観と誤解に後押しされながら増え続けた
彼らは『取説』などという今や信頼性の全く無くなったものをアテにした結果
『レンネンカンプ』における真のデスペナに気付くことが出来なかった
この仮想世界で死者に与えられる本当のペナルティはシンプルだった
ただ、永遠に実行されない強制ログアウトを死ぬまで動かずに持ち続けるだけ
なにも難しいことなど無い。ただ静かに終わりを待ち続ければ良い
■後発組■
回収されなかった『レンネンカンプ』とその付属機器を用いて
事件発覚後も入場することだけ許された仮想世界に来訪する者達がいた
後 発 組
何も知らずに仮想世界に捕らわれた先住者と比較され、彼らはその名で呼ばれる
彼等の多くは開発責任者と同じで現実逃避をしようとした人々だったが
それ以外の理由で『後発組』になる人々も僅かながら存在する
そして、彼らが死を覚悟して危険な仮想世界に足を踏み入れる理由は
その理由はジャーナリストとして真実を知りたい。
大切な人に再び会いたい、救いたいといった強い想いによってであった
煌く黄金のような金髪と燃え盛る真っ赤な炎のような赤毛を持つ二人の少年も
そんな強い想いを胸に閉ざされた世界に飛び込んだ『後発組』だった
彼等のような『後発組』も『レンネンカンプ事件』を語る上で
欠かせない要素となるのだが、それはもう少しだけ先の話になる
■最高に短い365日■
全く、街の彼方此方に倒れている人間が、頭がフットーした人間か
デスペナで永久に動けなくなった奴等だと思うと恐ろしくなる
俺自身もいつ同じ様になるか分からんし
・・・と、深刻になるはずだったんだけど
付属機器のバッテリーが三年位持ったら
頭がフットーするのが感覚的には300年後なんだよね
ちょっと、緊迫感に欠けちゃっても仕方ないよな
なんか、ログアウトできないって知ってから既に300日ぐらい経って
『後発組』からのどうしよもう無さそうな情報がポツポツ入ってくると
正直、なんとか帰還しようって気も無くなって来るんだよね
いや、馴れって怖いね~。いまじゃ殆どの人が『帰還』を諦めて
それなりに『レンネンカンプ』世界を愉しんでます。
俺もなんだかんだで食詰めと一緒に狩りに励んで
レベル上げしまくってるし、使える魔法もど~んと増えてちょっと楽しくなってるしな
まぁ、このまま平穏な日々が続くなら暫く帰れなくてもいいかな、なんてね
なわけねーっつううの!!!!おいおいミソがフットーするってどうよ!!
熱いの?痛いの?大丈夫なの!!!ふざけんじゃねーよ!!殺すぞ口髭!!
それにもう300日越えって何よ!!現実でも三日以上ぶっ続けゲームって
どんだけ廃人なんだよってレベルだぞ!
現実世界に二年後に帰還しましたが
ある意味人生は終了しましたって状況だったらシャレにならんぞ
食詰めなんか下手したら中卒の上に貧乏だぞ?ほんと終了じゃねーか!
そもそも大学の試験をなんとかするために来たのに
もう終わってるじゃねーか!!もしかしなくても留年確定か?俺終わったの???
『落ち着けヘイン。喚いてたところで状況は好転などしない
それに外でも必死になって対策を練っているんだろう?
時間も現実では数日経っただけ、まだ慌てる時間じゃない』
分かってるけど、偶には取り乱したくなるんだよ畜生・・
こんなに長い期間クソゲーをやるとは思ってなかったからな
焦って自殺して動けなくなるのよりはマシな状況だとは思うけど
『同感だな。動けない彼等の精神の均衡が、どれだけもつのかが心配だな』
怖いこと真顔で言うなよ・・・
■
仮想世界の時間は余りにも長すぎた
現実の時間の流れとの差は彼等の感覚を狂わせるだけでなく
精神の均衡もゆっくりと狂わせて行く
ましてや、目的も何も無いという手詰まり状態である
普通で有り続けることの方が難しいと言える
この状況がもう少しだけ続いたらヘインや食詰めを含めた
多くの人々は狂人になるか廃人になっていたかもしれない
事実、既に狂人になっている者も僅かながらいた
だが、そんな状況を一転させ、人々に生きる目的や希望を与える救世主が現われる
この狂った仮想世界でちょうど一年が経つ頃、
ウェルカムメ-ル以来の運営側からのメッセージが全てのプレイヤーに届いたのだ
『大魔王レンネンカンプ』の挑戦状が!!!
皮肉な事に彼等に生きる目標と希望を与えることになったのは
この事件を引き起こした開発責任者でもあり、
レンネンカンプ社代表取締役、いや『大魔王レンネンカンプ』その人であった
巨大な立体フォログラムに映しだされたメタボ体形の中年男性は
『大魔王レンネンカンプ』として、重々しく口を開き衝撃的な事実を告げる
『レンネンカンプ』の序章は終わりを迎え、いま本章が始まる・・・
・・・ヘイン・フォン・ブジン伯・・・電子の小物はレベル34・・・・・
~END~