「厄介なものだな、疲れからくる集中力の低下というものは……」
演説をしてから数日間、シャアは激務をこなしていた。睡眠時間は大幅に削り、様々な場所に足を運び、自分が結成した組織の運営に心血を注ぐ。
歴史を動かすのは老人ではない。ならば、自分は若い者のために世界を律する。
こういうものは最初の一歩が肝心なのだ。守りと攻め、どちらもしっかりと行って土台を磐石にする必要がある。少々の疲れなど気にするわけにはいかない。
まずは攻め。虐げられている少女たちを悪から救うべく剣を振るう。
若い者たちの手を汚すつもりは無い。その手を汚すのは自分だけで十分だ。
西へ赴いては火星の後継者と名乗る者たちをサザビー1機で殲滅、中の声の人がいなくなった少女の保護に成功。渋い声を出してたやつは結構強かったが、自分が相手では若干役不足だった。
東へ行っては釘宮を押し倒し致そうとしたヒゲのひろしをフルボッコ。そのままダンボールに詰めてさいたまの奥さんのところに着払いで送り。
北へ飛び立った際には舌を噛み切ろうとしたゲリラの少女を 「生きることを諦めなくて良い」 と優しく止めた後、その場にいた軍人を半殺し。
やっぱりこいつらもノンケを平気で喰う男の許へ送りつけ。
南にロリの気配を感じたかと思えば、プルそっくりの女の子や連合っぽい兵士に襲われた一家を助け出すと同時にその作者に画面暗転即死コンボと本気の脅しを入れ、
「イタコとか機能破壊とか男娼とか、ターンエーが評価良かったからって調子に乗ってマジすんませんでした」 と謝らせた。
そして守り。外からの攻撃に対する防御力を上げるだけでなく、傷ついた者たちの保護や心のケアに全力を尽くす。
地球からは超有名なネズミや顔を食べさせる正義の味方、小さなボールに押し込まれ主の変わりに喧嘩させられる小動物たちといった作品の関係者を集め、大々的な娯楽設備を製作・開放した。
そして兵に対しては組織の目標を明確にさせ、目的を一体化させることも忘れない。
「第2次Zではどの作品が追加されるかわからん。だから可能性がある作品には全て手を打つのだ。
早乙女アルトにはデート中のホットドッグに強力な媚薬を。シェリルとのフラグを強化してランカたんの貞操を守れ。
ジュドーと夜明けのヴァンはこちらに引き入れろ。そうすればプルプルズに妹、それとうぎゃーがゲットできる。
ルリルリは保護を名目にテンカワ夫妻ごと招けば事足りるし、アーニャたんはオレンジがキャンセラーを使った後に強だゲフンゲフン……保護する。それだけで良い。
なに? グレミーはどうするか、だと? ―――構わん、やってしまえ。ジョシュア・ラドクリフという青年を探し出してギュネイに随伴させれば、補正で間違いなく勝てる」
討伐軍の総大将に最近力を伸ばしてきた強化人間の名を挙げる。彼は友人が傍らにいさえすれば、かなりの力 (補正) を発揮する男だった。
そのあたりの事情も考慮して部下に命令を下すシャア。
矢継ぎ早に起こる質問も気にせず全ての質問に最高の答えを返す様は、まさに 「迷いを捨てたシャアが最強」 という言葉を裏付けるものであった。
「テンカワをこちらに招くのは危険すぎませんか? あやつはハーレム属性持ちです、幼女たちがヤツの毒牙にかかる可能性も」
「ハーレム野郎ほど結婚すれば浮気などしないものだ。そして昼食をテンカワ食堂で取ればルリルリに逢えるだろう。食事時にもたらされる萌え……良いとは思わんかね」
「クラン・クランの名が挙がっていませんが」
「彼女はスタッフの狙いがあざと過ぎる。候補からは外して構わんよ。……まあ、声くらいならかけても構わないし、君の好きにしたまえ」
「神楽耶様と天子様はどういたしましょう? それとナナリーたんは」
「最優先で確保しろ。どうせ苦労するのは寺田だ、シナリオに考慮などしなくて良い。彼女らのまわりにはロリコンとシスコンが多すぎるからな……。
それと神楽耶様の近くで陰毛みたいな頭の男を見かけたら遠慮はいらんからぶっ殺しとけ。また見てギアス」
「かしこまりました。直ちに」
納得顔の士官を下がらせ、シャアは考えにふける。まだまだ懸念事項はたくさんあるのだ。
カギ爪の男への対策はどうしようか。うぎゃーを童帝に懐かせるためにも時間を置いた方が良さそうだが、それでは彼女の初デートをあの爺に奪われてしまうことになる。
かと言って自分があの老いぼれを殺ったらヴァンを雇えないし。ヴァンが来なきゃうぎゃーも来ない。
その他には螺旋力の件もあるし、まだまだ課題は山積みだ。
「……ああ、私だ」
だが焦っても始まらない。シャアは目の前の受話器を取り、出てきた部下へと話しかける。
幸運にも自分たちが決起してからというもの、ネバーランドには多数の名有りキャラが職を求めて訪れてきた。
それぞれ目的や思惑があるのだろうが、その力が頼りになるのは間違いない。目標に向かって確実に前進しているのは確かなのだ。
だから、今はとりあえずできること、目の前の課題を一つずつ確実にこなしていくことが大事だろう。
「お客様が来たようだ。……丁重にもてなすとしよう」
例えば。
ネバーランドに迫ってくる、MSの大軍の相手とか。
「このMSの数、小競り合いってレベルじゃない。これはまた派手な戦いになりそうだね、兄さん」
「そうだな」
ZEUTHとネバーランド、両軍の衝突ポイントから離れたデフリ地帯。そこには戦いの行方を見守る1組の兄弟の姿があった。
その正体は言うまでも無く、上手く大戦を生き延びて次回作への出演の可能性を繋げたフロスト兄弟である。尤も出演できるかはガロード次第ではあるが。
「兄さん、この状況を上手く生かせないかな?」
「そう焦るなオルバよ。まだ先の大戦から時間が経っていない。
今動きを起こしたところでヤツらが結託するのがオチだ……今は情報収集だけに留まるべきだろう」
「そうだね……わかったよ、兄さん」
兄の言葉に納得し、とりあえず両軍の通信を傍受してみるオルバ。
ネバーランド陣営は総帥のシャアを筆頭に、ZEUTHを裏切ったとされるキラ・オルソン・カツ・ギャバン・ヘンケン。そして新たに加入したトビーにギュネイ・ガスと呼ばれる強化人間。
会話を聞く限りそれ以外にもまだ隠し玉があるらしい。
対抗するZEUTHの方はシン、アムロ、カミーユ、ロラン、エイジ、レイといった面々。旗艦はタリアとデュランダル、そしてラクスの乗船したミネルバ。
アクシズにはモブしかいないので、おそらくは彼らが主力といったところか。
アクシズの艦隊はミネルバの指揮下に入り、ハマーンはキュベレイで陣頭指揮を執ることに決まった模様。
助っ人を最前線に送るわけにはいかないという言葉に、真っ先にシャアをぶっ飛ばしたいから邪魔すんなという副音声が聞こえたZEUTHたちは黙ってその言葉を呑んだようだ。
というかやっぱりこの戦いの原因は痴話喧嘩なのか。敵ながら彼らに同情してしまう。
「ネバーランド陣営の小隊が100、ハマーン派の残党・ZEUTH連合の小隊が50足らずというところか」
「数もそうだが戦力が違いすぎる。ZEUTHに勝ち目は無さそうだよ、兄さん」
蒸しパンをコーヒーで幸せそうに流し込みながら、両軍の数を数えるシャギア。聞いた通り単位は小隊なので、MSの数の差は150機以上だ。
今回は理由が理由なので自分たちが援軍に入るなんてこともない。そのまま力押しで勝負が決まるだろう。
「さて。それはどうかな……それはそうとオルバよ、そこのチョココロネ取ってくれ」
「食べすぎだよ兄さん。太るよ?」
かっこよく先読みするのはいいが、それならそれでかっこつけ続けて欲しいとオルバは思う。近所にあるパン屋が美味しすぎて、何かと理由をつけつつ世界の破壊を半ば断念している我が兄。
だめ、このままじゃ世界の破壊やめちゃう……くやしい!! パクパクッ!! 今のこの人を一言で表すとそんな感じ。
いやー新商品のチョココロネうまいわーとパンをパクつく隣の男を視線から外し、オルバは思った。
そろそろ兄離れしよう。
「この雰囲気……あれはハマーン・カーンかな」
両軍が立ち止まってにらみ合いを続けるなか、キュベレイが軍の1番前に出る。周囲に放たれるビリビリとした殺気。女帝のテンションは間違いなくMAXだ。
そのままキュベレイはネバーランド軍の最後尾にいる紅い機体に向ってビームサーベルを伸ばし、大きく横に振る。
そして次の瞬間、死神すら道を譲ると思うくらいの恐ろしい声で咆えた。
『ハァァァァ………うるぁぁぁぁ!!!!!』
『『『『『『 オオオオオオオオオッッッ 』』』』』』』
「はじまった………っ!!」
ハマーンの咆哮と共にZEUTH・アクシズ連合軍が襲い掛かる。
ここに、多元世紀史上最も激しく、最もアホらしい戦いの火蓋が切って落とされた。
「ハマーンさんが見えなくなっちまった……みんな、行くぞ!!」
「おう!!」
もの凄い勢いで突っ込んでいったキュベレイが敵の大軍の中に呑まれたため、シンの声と共にZEUTHたちは進撃を始めた。
ハマーンは有象無象に簡単にやられるような人間ではないが、それでも所在が分からなければ他の兵の士気に影響してしまう。一刻も早く合流する必要がある。
しかしこの数、なんとかならんものか。前に進むのも一苦労だ。
「カミーユ、左だ!!」
「わかってる!!」
アロンダイトでギラ・ドーガを切り捨てつつ遠くにいたΖに目を向けると、サーベルを持った黒のリックディアスが体当たりのように突っ込んでいたところだった。
シンの声に反応したカミーユが軽く避けると、ぞのまま浮遊していた隕石に衝突して爆発する。……っておいちょっと待て。
「あの爆発の大きさ、ダミーじゃない!?」
「特攻ってことなのか!? ちくしょうあいつら、そこまでロリコンに命懸けてんじゃねえよ!!」
巨大ロボットが格闘戦までこなす昨今、隕石に衝突して撃墜なんてアホな話は無い。つまりこれは向こうにとって納得済みの攻撃だということを意味している。
予期せぬ爆発の炎に驚愕するZEUTHの面々。そして仲間の爆発に動揺した様子も無く突っ込んでくるネバーランド陣営。
まさかここまで覚悟を決めているとは思わなかった。クワトロのカリスマについては知っていたつもりだったが、これほどのものなんて想像できるわけがない。
そして戦場において最も恐ろしいのは死兵だということを、ここにいる全員が身をもって知っていた。
「皆気をつけろ。こいつら雑魚じゃない……!!」
「モブとは言え相当の手練れです……気迫で技量の差を埋めているみたいですね」
ロランの言う通りいつも戦うモブ兵とは格が違う。 強さ的には 「踏み込みが足りん!!」 とファンネルを切り払う位のレベルだ。
ハマーンさんは本当に精鋭部隊を持っていかれたんだなぁ。
「くっそぉ、上手く距離を保ちやがって!!」
こんなにモブ兵の練度に差があるのなら、アクシズ兵の力を当てにするのは危険だ。ZEUTHが1機でも多く敵を引きつけるしかない。
そう判断して勢い良く突っ込んだまでは良かったものの、ネバーランド兵はデスティニーとの接近戦を避け連携を取りながら距離を保ってきた。
射撃には射撃でとライフルを乱射するシンだったが敵の数が多すぎる。
このままじゃジリ貧だ。まだ始まったばかりだというのに、エネルギー度外視で戦わなければまずいのかもしれない。
そんな弱気になりかけたシンの周囲をファンネルのバリアが包む。そして続けざまに放たれたライフルによって数機のギラ・ドーガが爆散した。
そのままデスティニーに背中を預けるνガンダム。
「シャアとの一騎討ちまでは命張ってでも守ってやる!!」
「いや待ってくださいアムロ大尉、なんで俺が大尉とタイマンしなきゃいけないんですか!!」
アンタかハマーンさんが決着つけるんじゃないのか普通。いや確かに以前 「俺が止める」 みたいな事言ったけれども。
それとも何か、そんなに今回のロリコン全開なあの人と絡みたくないというのか。
勘弁してくれ。あの人の存在自体がロリコンなんだから、今更あの突き抜けた痛い姿なんて気にしなくてもいいじゃないか。
それがあんたのライバルの本性じゃないか。パワーダウンしたところをタコ殴りしてやればいいじゃないか。
できることならなるべく俺は関わりたくないんだ。
「ぼやぼやするな。行くぞシン、道は俺が開く!!」
「聞けや!!」
絶対俺の思考聞こえてるだろニュータイプ!!
「そう簡単にやらせはしない……いや待て、あの艦は」
混戦の中、前方の戦艦に向ってΖガンダムのハイパー・メガ・ランチャーを構えるカミーユ。しかしその艦の姿に見覚えがあった。
即座に通信を繋げて話しかけてみる。もしかしたら退いてくれるかもしれないし。
「ヘンケン艦長!! 貴方はこんなことをする理由は無いでしょう、ロリコンじゃないんだから!! 一体何故彼らに与しているんですか!?」
「お前がそれを言うのか、カミーユ」
そう、狙いの先にいるのはラーディッシュ。自分たちの仲間だったヘンケン・ベッケナーの艦である。
ネバーランドに付いたのは知っていたが、話せばきっとわかってくれるだろう。
そう期待して話しかけたカミーユだったが、意外にもヘンケンの反応は拒絶気味だった。何か理由があるのだろうか。
「……何があったんですか?」
「最終決戦の直前。俺のパソコンに一通のメールが届いた。
戦いが終わってから開こうとその時は気にしていなかったが、終わったあと開けて見て驚いた。差出人は 『黒のカリスマ』。
その中には、多数の並行世界の俺の詳細があった」
なるほど、あの人を混乱させることが上手い変態の置き土産か。
きっとあることないこと書いていて、ヘンケン艦長を惑わすような内容なのだろう。
「………並行世界には、いろいろな俺がいた。
エマ中尉を庇いながら、迷い無く死んだ俺。プロポーズが成功しかけていた俺。恋が実り、結婚に向かって動き出した俺。……どの俺も、幸せそうだった」
まあそういう奇跡のような世界も探せばあるよな。
それでそれで?
「全て読み終わったとき俺は思った。………今の俺の様はなんだ。何故この俺は幸せじゃないのか!? カミーユ、何故だと思う!?」
ああ、そういうことか。他の世界の自分に嫉妬する心をあの変態に突かれたとそういうことか。
まあそれにしても相変わらず面倒くさい人だ。第一幸せじゃない理由なんて一つしかないだろうに。
「コンバトラーかダンクーガを強制的に連れて行ったくせに幸せになったのがマズかったんじゃないですか? だからその皺寄せがこっちのヘンケン艦長に来たんですよ、きっと」
「違う!!」
間違ってないと思うけどなぁ。
「カミーユ、全てはお前がいたからだ!! 他に何人も女がいるのに、何故彼女に手を出した!?」
「別にエマさんも同意の上でしたし、ヘンケン艦長に言われる筋合いはないと思うんですけど。あの人も喜んでくれたんですよ?
『こんなのはじめて』 とか 『絶対にまたしましょうね、他の人には内緒よ』 とか。終わった後お掃除されながらおねだりされて、結局3ラウンドめまでいったし。
………そう言えば、ヘンケン艦長のことは全然話題にならなかったな」
「うおおおおおっっ!! 言うな、聞きたくない!!!」
友人たちが聞いたら 「鬼かこいつ」 と言われそうな発言を悪意無しで返し、カミーユはライフルを構える。
どうやらこれ以上の交渉は時間の無駄のようだ。早く突破しないとその分シンやロランたちに負担が掛かってしまう。サクッと突破しよう。
「わかりましたよ、やればいいんでしょ?」
そう判断した次の瞬間、カミーユの纏う空気が変わる。いつもの軽薄な女誑しの空気から絶対的な捕食者のそれへと。
そして高機動で周囲を飛び回り瞬く間に周囲に展開していたネモ部隊を撃墜、ラーディッシュにもライフルを数発打ち込んだ。
「ぐあっ……お、おのれ~~~!! ええい、主砲発射用意だ!! 目標は前方のΖガンダム!!」
周囲に浮遊するネモの残骸。爆発で揺らぐブリッジ。
その光景にヘンケンは怒りに燃えた目で眼前のΖを睨みつける。しかしΖに動じた様子は無い。
「全力で撃った方が良いですよ? ラストチャンスかもしれませんから」
動じるどころか余裕に満ちたカミーユの言葉。いくら主人公とはいえこの至近距離で戦艦の主砲を受ければひとたまりもないだろうに。
そこまで自分とこのラーディッシュを馬鹿にしているというのか。
もう許せん。我慢の限界を超えたヘンケンは自ら主砲の照準を合わせ、叫んだ。
「なめるなーーーー!!!!」
まるでヘンケンの怒りが伝わったかのように、ラーディッシュの砲口から光が放たれる。それは猛烈な勢いでΖガンダムに近づいていき――――
「 喝 !!!」
その寸前で、Ζガンダムが発動させたサイコフィールドによって掻き消された。
「ば、馬鹿な……」
「昔仲間だった俺の経験から察するに………ヘンケン艦長。貴方はもしかして、まだ」
冷たい空気。まるで自分に見せ付けるかのようにゆっくりと、戸愚呂100%じゃなかったウェイブライダーに変形していくΖガンダム。
おそらく変形が終わった時に止めを刺すのだろう。
「自分がやられないとか思ってるんじゃないですか?」
背筋が凍りつき、自分の口から格が違うという言葉が漏れる。
そしてもう、自分が勝つ可能性は皆無だということをヘンケンは悟った。それは良い。認めざるを得ない。
所詮自分はスポット参戦が良いとこの脇役おっさんだ。このまま派手に散るのがキャラ的に相応しいのだろう。
だが、そんな自分にもまだ望むものがある。
多くは望まない。一太刀で良い。この余裕に満ちたガキに一太刀浴びせたい。
せめて傷の一つでもつけて苦しめてやらねば気がすまない。
その為に覚悟を決めた。運良くヤツの次の攻撃は突撃だ。必然的にラーディッシュに接近することになる。
その時にこの自爆スイッチで、タイミングを合わせて自爆するのだ。
この作品はギャグメインだから生き残れる可能性は皆無ではないという甘い予測もある。しかし腐っても自爆スイッチだ、押せばまず自分は死んでしまうだろう。
だがそれで良かった。もう今の自分はクワトロ大尉辺りに 「ヘンケン。君が生んだこの刹那、無駄ではなかった」 とか言って貰えるだけで良い。
だからこの男に一撃を。自分の命を懸けて――――
「それじゃ、行きますよ!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、まだ早いぞ!?」
突っ込んでくるウェイブライダーの姿に慌てて自爆スイッチを押すヘンケン。その様は自分が妄想していたかっこよく散る渋い中年の姿に程遠かった。
スイッチを押したところで艦がすぐに爆発するわけではない。そして早く爆発しないとカミーユにダメージを与えるタイミングに間に合わないのだ。
迫る機影をみつめながらヘンケンは念じる。早く、爆発よ間に合ってくれ。
間に合え。
間に合え。
間に合え――――
「ラーディッシュは、虚名にあら、うわあああああっっっ!!!!」
間に合いませんでした。
「行けっ、ファンネルたちよ! あのガンダムを……大佐の敵を討ち果たしてくれ!!!」
「手強い……ちぃっ!!」
アムロのνガンダムに迫るのは、強化人間であるギュネイ・ガスが駆るα・アジール。
機体のスペックの差ともかくパイロットの技量の差は歴然としているが、それを感じさせない動きでアムロに襲い掛かる。
予期せぬ強敵に戸惑いが生まれたアムロは、いつものように敵を倒すことが出来ない。
「慢心も、油断も、容赦もしない!! 俺は大佐の為にお前を討つんだ!!」
「何故だ、何故あんなロリコンにそこまで忠誠を誓う!? というかロリコンたちによる国を作るなんて恥ずかしくないのかお前たちは!!」
「忠誠を誓う理由……? そんなの、あの人が尊敬に値する人だからに決まっているじゃないか!!」
「嘘を吐け! どこがだ!!」
ギュネイ・ガス。本来ならば彼はシャアに反目気味な名有りキャラその1に過ぎなかったはず。ジョッシュも傍にいないようだし、自分が苦戦する理由は無いはずだ。
そう考えながらライフルを連射するアムロに向かってギュネイは理由を語りだした。
「嘘じゃない!! そう、あれは俺がクェスに30回目のデート申し込みを断られた日だった……」
回想は良いけどなるべく短めで頼むな。
「こんな所に呼び出して、話とはなんだ? ギュネイ」
「大佐、俺に一つ教えてください。大佐はクェスをどうするつもりなんですか!? そして自分の傍に置いて、一体何をさせるつもりなんですか!?」
あのときの俺は、クェスにフラれ続けて心がとてもすさんでいた。そして彼女に慕われている大佐が憎たらしくて仕方なかった。
だから妬み混じりに問いかけた。特に理由が無ければ彼女から距離を取れと。もし下心があるのならロリコンだと言いふらしてやろうと。
大佐を貶したところで彼女が振り向いてくれるわけでもないのに、感情の赴くまま問い詰めた。
だが、あの人の答えは自分の意表を突くものだった。
「クェスに何をさせるのか。そして彼女をどうするのか、か………それはお前次第だな。
私が何のためにお前を、クェスと共に私の近くに置いていると思っているんだ?」
「え? 俺次第って……それに今の言葉、どういうことです!?」
「今の彼女は精神的に幼く、そして尖っている。
彼女がおしとやかになるには、今のままだとおそらくあと数年は必要だろうな。さしずめ18、9といったところか」
とりあえず彼女に対して下心とかが無いのはわかったが、この人の言う話の内容が掴めない。
クェスの今の性格とこの話と、一体何の関係があるというのか。
「ま、まあ確かにそれくらいの年齢にならないと大人しくならないかもしれませんね。でもそれがどうしたってんです!?」
「ギュネイ、ここまで言ってもまだわからないか……ならば言い方を変えよう。年齢と共に恋の熱が冷めたとき、彼女の傍には誰がいるんだろうな?
私はその少女が、自分を今まで温かく見守り続けていた男性の存在に気付くと踏んでいるのだが。
そしてそのくらいの年齢になれば、もう君と並んでも十分釣り合いが取れるんじゃないのか? 例えば、バージンロードとか」
「た、大佐!? それはもしかして」
この時になって初めて気付いた。
俺は何かとこの人を眼の敵にし続けていたが。
「私は、君たちと義理の親子になりたいと思っているのだよ」
この人はずっと、俺の事を見守ってくれていたんじゃないのだろうかと。
「俺たちにはもう、親と呼べる人はいない。だがあの人は、そんな俺たちの親になってくれると言ってくれた!!
俺は……俺はあの人がどれだけ俺たちの事を考えてくれていたのかがわかっちゃいなかった!! くだらない嫉妬で、あの人の本当の姿を見てなかった!!!
だから命を懸けるんだ!! あの人の為に!! 負い目とか償いの心とかじゃない、俺自身がそうしたいと思ったから!!
アムロ・レイ、お前を止める事でなぁぁぁぁッッッ!!!!」
「落ち着け、君はシャアに騙されているだけだ!!」
電波な女を押し付けただけじゃないのかそれは。しかもその話、クェスがおしとやかになる頃には大人になってるからいらないって言ってるようなものじゃないか。
つかむしろお前らの娘を狙われてるように聞こえるのは俺の気のせいか。
「大佐はロリコンじゃない!! もしロリコンであったとしても、ロリコンという名の紳士なだけだ!!!!」
「言ってて恥ずかしくないのか!? ええい、たかがロリコン1人、軽く突破してやる!!」
「ここから先は行かせない……ッッッ!!!」
「νガンダムは伊達じゃない!!」
仕切りなおしとばかりに戦いを再開する両者。アムロも本気になったが、今のギュネイはそれでも簡単にどうにかなるような相手ではなさそうだ。
目の前しか見えないバカは御しやすい。しかし、いざその視界に入って正面衝突した場合、これほど厄介な相手はいなかった。
無双要員であるアムロが食い止められている今の状況、ZEUTHにとっては致命傷に近い――――
「あのギュネイという青年、流石だな。あのアムロ大尉を1対1で食い止めているとは」
「そうですね。クワトロ大尉が目をかけるだけはあります。これなら此方も楽ができそうです」
「でもラーディッシュ堕とされちまったぞ? あのおっさん 「カミーユは絶対に殺す」 って大きい事言ってたのに、あっさり返り討ちだし」
「フ、ヘンケンはネバーランド陣営でも一番の小物……大した影響は無いさ」
ギュネイの動きに感嘆するオルソンの声を聞き、キラはとりあえず言葉を返す。そんな自分たちの隣でヘンケンの敗北を呆れた目で見つめているのはトビーとギャバン。
この場には自分を始め、ネバーランド陣営の主要メンバーが軍の中央の位置に集まり戦況を眺めていた。
現在の状況は五分と五分。3倍の数相手に奮闘するZEUTHたちの姿は尊敬に値するが、名有りキャラである自分たちが入ればそのうち決着がつくだろう。
「なら今のうちにこちらも敵の主軸を叩きに行くとするか。バルゴラ2号機、俺について来い。あのヒゲを……ロランを殺りに行く」
「∀かよ……まあ月光蝶さえ気をつければなんとかなるか。じゃあ2人とも、そういうわけだ。俺はギャバンのおっさんに付き合ってくる」
「ならば俺はグラヴィオンを相手にしよう。スーパーロボット相手に防御主体の機体では危険だしな」
「なら僕はここの守備につきます。3人とも気をつけて」
飛び立っていく3つの光を見送るキラ。果たして彼らのうちの何人が帰ってこれるか。
グラヴィオンを機動性で撹乱できるであろうオルソンはともかく、大きな事を言っていたギャバンは役に立たないだろう。
馬鹿にしてたヘンケン艦長と比べてもカミーユ憎しがロラン憎しに変わっただけで強さ的には変わりが無いし、何よりあの人ひらめきも不屈も持ってないし。
戦闘は実質トビー中尉のバルゴラ2号機対ロランの∀ガンダムだった。こう見てみると結構厳しい。
「まあ、正直全員やられても特に問題は無いんだけどね」
自分がここでZEUTHを止めれば良いだけなのだから。そう思いながら戦場に視線を戻し、遠くで奮戦する1機のMSを眺める。
真紅の翼に巨大な剣、デスティニー。そして
「シン・アスカ、か……」
自分の後を継ぎ、そして最終決戦の相手の筈だった少年。しかしその運命は歪められ、自分にとっては取るに足らない相手となった。
だから原作では主役を奪ったこともあって、IFルートの存在なんて歯牙にもかけなかった。別にそれぐらいは良いだろうと。
どんなに2次で頑張ったところで、それが本編に影響することはあの負債の場合まず無いのだから。
そう思っていた。そう見下していた。
けれど。
けれど。
もう、流石にそうやって上から目線で彼を見ることはできなくなってしまったのだ。数週間前に、議長となったラクスの仕事の関係で再びZEUTHに出向いたあの時から。
その理由とは何か。そんなもの、一つしかない。
乳だ。
「うわー、もう腰に力が入んないわよぉ。今夜もシンの部屋、行こうと思ってたのに……シンのばか」
「来てもいいよ。ルナ相手なら俺、いくらでも底無しになれるし。な?」
「ばか。そのうち絶対に赤ちゃんできちゃうんだから……」
「あの2人、ラブラブですね。さわやかでうらやましいですわ」
「……ラクス、それ本気で言ってるの?」
例えば居住区の隅にあった誰も近づかない倉庫。目をとろんとさせたルナマリアがシンの左腕をその豊かな胸で強く抱き締めながら、膝をガクガクさせて出てくるのを見たとき。
自分の傍らにいたのは貧乳。
「シン、いつも気持ちよくしてくれるお礼に、ステラのおっぱいで挟んであげる。いっぱい出してね」
「ありがと。でも無理はしなくていいからな……くっ、凄く柔らかいのに張りがあって………」
「んしょ、んしょ。んっ」
「うわぁ、顔に似合わずステラさんは積極的ですわね。……キラ、何故今私の胸を見て溜息を吐いたのですか?」
「………別に」
例えば医師が席を外した医務室。ステラが椅子に座ったシンに跪きながら、嬉しそうに自慢のバストでご奉仕をしようとしているのを見たとき。
自分の傍らにいたのは貧乳。
「シン君、お願いだから今は腰を動かさないで。イッちゃったばっかりで身体中が敏感になってるから……ヒッ!? ちょ、乳首も吸っちゃだめ! そこがいちばん」
「ちゅうっ、ちゅぱ、れろれろ……かぷ」
「~~~~~~~~ッッッ!!!!」
「すごい、セツコさんがビクビク痙攣してますわ……あんなに顔を真っ赤にして、涎まで垂らして」
「憎しみで人が殺せたら………ッッ!!」
例えば誰もいない夜のMSデッキ。対面座位で合体したまま絶頂を迎えてビクビク震えるセツコに対し、そのまま美巨乳にしゃぶりついて彼女を連続で絶頂させるシンを見たとき。
自分の傍らにいたのは貧乳。
そしてつい最近まで、3人のミサイル持ちがいろんなコスプレをしながら入れ替わり立ち替わりたまには一緒にシンの部屋へ突入するのを目の当たりにし続けたが。
「ああぁぁぁっっ、 シン、シン!! ほんとに愛してる、愛してるからぁ!! どんな事だって、していいから……だからもっと突いてぇ!!」
「シン君、舌出して。キスしよ、キスぅ……ちゅ、ちゅぱ、れろ、んぅ」
「ひゃん!! シンそこだめ、そこは違うところ!! あっ、そこに指入れちゃだめって言ってるのに。ステラ、はずかしすぎる……」
「3人とも、最高だよ。 明日は休みだし、今夜はみんな眠らせないからな……!!」
「4人とも凄いですわね。ただドアが半開きなのに気付かないのはどうかと思いますが……」
「……どうして僕は、こんな所にまで来てしまったのだろう。どうして……」
やはり自分の傍らには貧乳しかいなかった。しかもマグロ。
「………ラクス、今夜は僕たちもあんな感じで燃えて」
「ごめんなさいキラ。今日はわたくし、女の子の日なんですの」
「わかった、ごめんよラクス…… (この間もそう言って断ったじゃないか……) 」
薄暗くてここからではシルエットぐらいしか見えないが、スタイル抜群の美女3人を相手に酒池肉林しているシン。
それに対して自分は貧乳の恋人に夜の営みを断られ続け……。
「ルナ、俺もう出すよ? 何処に欲しい!? 顔、胸、くっ、ふんっ、返事が無いなら中にっ!!」
「あああっ、もうイク!! なかに、中に出して……っ!!」
「やだ、だめだめだめっ、シン君の指すごい!! あはぁっ、そんなところ、そんなとこ弾いたらっ!!!」
「ステラ、また噴いちゃう!! また噴いちゃうよぉ!!」
「「「あああ~~~~~っっっ!!!!!」」」
その日、初めて僕はお酒を飲んだ。
「お客さん、もうそのへんにしといたほうが」
「うるさいな、ほっといてよ。僕の金で飲んでるんだから誰にも文句は言わせないよ。……それよりもおかわりはまだなの?」
バーのマスターの心配する声を制し、差し出されたドライ・マティーニを一息で煽るキラ。そのままカウンターに身体を預けて力無く溜息を吐く。
身体中を包むのは敗北感。心のどこかで見下していた相手に圧倒的な実力差を見せ付けられたのだ、無理も無いと言えた。
無論自分だって彼女持ちだ。羨ましがるばかりではいられない。
しかしいくら彼女たちとラクスではスタイルという圧倒的戦力差があるとはいえ、それでも夜にいろいろ燃えてくれれば。
美脚とかおへそとか生腋とか持ち味をイカしてくれれば、自分もナンバーワンよりオンリーワンとか自身に対して言い訳が出来たのだが……
「今の僕は、幸せなのかな」
プラントを統べるラクス・クライン議長の恋人にしてFAITH。オーブ代表の弟にして准将。そして最高のスーパーコーディネーター。
今の自分は周囲が羨む肩書きなど腐るほど持っている。10人に聞いて10人が幸せだと答える境遇にあると言えるだろう。
しかし、本当にそうなのだろうか。ならばこの胸に巣食う虚無感はなんなのか。
エッチはたまにしかさせて貰えず、しかもラクスはそっち方面があんまり好きじゃないのかほぼマグロ状態。バックも騎乗位もさせて貰えず、する時はオール正常位。
そのくせ浮気なんてもってのほか。
昔はそれでも満足してた。彼女の僅かに染まる頬やちょっとだけ乱れる吐息でズキューンと己のチョモランマを難攻不落状態にしてた。
だが今はどうだろう? ZEUTHの主人公格の多くは複数の女の子とフラグを立て、アスカファミリーに至っては全員がハーレムを築いている始末。
アスランすらメイリンさんと毎晩ハッスルしてると言うのに、今の自分は聖人君子面してリビドーと戦い続けているしかないのだ。いつからこんなに差がついた。
昔はメイリンの 「でもアスランさんってちょっと早いかも。迅速持ちって皆そうなのかな」 という猥談を盗み聞きし溜飲を下げていたが、今はそんな事では気を楽にできない。
いいじゃないか多少早漏でも。何でも言うこと聞いてくれる年下の女の子のツインテールを引っ張りながらバック決めることができるなら。
やっぱり自分はフレイと添い遂げるべきだったのか。初めて寝たときでも彼女は立派に育ってた。
自分より年下だったし、まだ成長の余地は十分あっただろう。初めてだったのにマグロじゃなかったし。
まんぐり返ししたときにあの強気な顔が羞恥で染まったときにはもう、ブブゼラを吹きながらカズダンスを踊りたくなったくらいだし。岡ちゃん川口じゃなくてカズでも良かったじゃん。
しかし今の自分の恋人はラクスなのだ。あの関東平野を連想させる平坦な胸板では、両側から自分のレインボーブリッジを封鎖なんてできません室井さん。
バルトフェルドの部屋でかつてのラクスの偽者、亡くなったミーアさんの映像を……あの巨乳や股間、生腋を見たときに思わず 「こっちにチェンジで」 と呟いた自分を誰も責められまい。
僕たちがもっと早く出会っていれば、ラクスが撃たれた後で 『影武者ラクスクライン』 的な重厚かつエロティックな話になったというのに。
「はぁ……」
溜息が零れる。カウンターに顎をつけたまま視線を上げると、バーテンダーは諦めた表情でジンの瓶を手にした。
キラは差し出されたカクテル・グラスを手に取り、口に含もうとしたところで
「隣、いいかな?」
背後から声をかけられた。どこかで聞いたような声だが正直興味は無い。
空いているのでご自由に、とだけ言葉を返すと声の主はありがとうと自分に礼を言って席に座った。
「ウォッカマティーニを。ステアでなくシェークで……それと、彼と話したいことがあるから少し外して貰ってもいいかな」
「かしこまりました」
どうやらこの客は自分に用事があるらしい。そのときになって初めてキラは隣の男に視線を向ける。
髪型が変わっていたりサングラスが無かったりで気付きにくいが、この人はまさか
「クワトロ、大尉……?」
「ひさしぶりだな。今日は君に、是非ともお願いしたいことがあって来たんだ」
「僕にお願い?」
「ああ……」
そして大尉の話は始まった。それは決して長いとは言えない、時間にすると数分程度のもの。
だけど深い、とても深い内容だったと思う。
思いを同じくする者たちを集めて幼女たちの理想郷を作る。そのために力を貸して欲しい。文章にすると僅かに1行だが、言葉の外に感じた想いは十分伝わった。
子供に興味の無い自分でも、彼の情熱に一瞬だけ 「まあ手を貸すぐらいのことはしてもいいかな」 と思ったほどだ。
でも。
「……申し訳、ありませんが」
申し訳ないが性癖の問題上進んで力を貸すことはできない。そして何より、今の己は自分の頭の蝿を追えていないのだ。
冷たい言い方だが、他人の世話を焼くなんて余裕はなかった。
それにこの人は強い。自分の力が必要だとは思えない。
「そうか」
クワトロも今の自分が傷付いていることに気付いていたのか、問い詰めることはしてこない。だが諦めるつもりもないようだ。
まあはるばるこんな所にまで来て、収穫ありませんでしたなんて簡単に結論付けるわけにもいかないのだろう。
手土産も用意しているのだがねと呟いた後、唐突に自分に問いかけた。
「実は、私が築いているものには致命的な欠点があってね」
「……欠点?」
「キラ。君は、少年少女が幸せにすくすくと育つにはどんな環境が望ましいと思う? 一般論でも構わない」
いきなりの質問に面食らってしまったが、少し考えるとすぐに答えは出てきた。そんなものは結構シンプルな答えだ。
暖かく幸せな家庭。楽しい娯楽。仲が良く切磋琢磨できる友達といろいろな事を知る集団生活。好意を抱く異性。挫折しない程度に難しく、答えを導き出した時に喜びを抱くような勉学。
キラがそんな解答を口にすると、シャアは我が意を得たりといった表情で頷いた。
「その通りだ。そしてその全てが我がネバーランドにはある。……君が一番最初に言った解答を除いて」
「え?」
幸せな家庭。確かにそれは外部からではどうしようもできまい。
でも彼は先ほどの説明で言っていた。ネバーランドに所属する大人はみんなロリコンで、子供たちを対象とした娯楽施設も十分用意していると。
外が楽しければ家庭の中にもそれが連動するだろうに。
「人は自身が幸福に満たされてこそ、他人に優しくできる。その真理の前には大人も子供も関係ない。だがネバーランドではどうだ?
確かに子供たちは青春や娯楽にぶつかる壁をみつけ、可能性の翼を大きくしていくだろう。父親たちも仕事をしながらそんな子供たちを見つめ、ハァハァできるだろう。
だが家族というものはそれだけではない。そう、母親も満たしてやらねば幸せな家庭を築くことはできないのだ。
そしてネバーランドには、そんな彼女たちの心を満たすものがない」
「――――!!」
盲点だった。確かにそれは真理だ。
楽しく遊んできた子供と仕事で心が満たされた亭主。帰ってきた彼らの幸せを継続するには、それと同じくらい満たされた妻の存在が必要なのだ。
「幼女目当てに楽しそうに出勤していく夫や青春真っ盛りの子供たちを見送ったあと、残された妻たちは何を思うのだろうな。
面白くも無いワイドショーや再放送のドラマを眺めつつ、掃除に洗濯、食事の準備。たまに仲間うちでママさんバレーやカラオケ。家事を頑張っても夫に褒められることはまず無い。
そして今日もまた、テレビの中で若い男と乱れる中年女優を羨ましそうに眺め続ける。……こんなものが幸せに繋がるわけがない」
「……!! まさか!!」
彼の言いたいことに気が付いたキラが、驚きの声を上げる。
「そう。君には彼女たちにアバンチュールを体験させて欲しい。自分が女なのだと再認識するくらいのを」
「そんな!! 僕に男娼じみたことをしろっていうんですか!? いくらラクスが貧乳で僕がフェロモン溢れる女性に飢えているからといって、言って良い事と悪い事が……!!」
「だが君がしたい事、そして君が望むもの。――――それは、君自身が一番良く知っている筈だ」
「だけど……わかるけど。貴方が言うこともわかるけど! でも!!」
仮にも彼女持ちに言って良い言葉ではない。激昂したキラが詰め寄る。
しかし、その動きは目の前にかざされた写真つき名簿によって止められた。
「20代前半の若妻から、フェロモン溢れる30代中盤までの美人ばかり……君ならば選り取りみどりだろうな。
ちなみにそれ以上の年代については君が心配する必要は無い。デビッド君やジョ…ジョゼフ君だったかジョースター君だったか忘れたが、そっちの担当もいるし」
その名前はひょっとしてジョナサンじゃなかろうか。そう思いながら受け取った名簿をパラパラとめくるキラ。
D、F、C、D、E、G……馬鹿な、ここまでの逸材がこんなに揃うとは。そのオールスターっぷりは山王工業OBの比ではない。
「こ、これは……」
「無論彼女たちを本気で愛せというわけではない。むしろ彼らの家庭を壊すなんてもってのほかだ。君は日中の彼女たちに潤いを与えてやるだけ。
夕方、疲れきった夫や子供に最高の笑顔をプレゼントするためにね……もちろん、君自身の幸せもそこには含まれている」
「僕自身の、幸せ……」
気付いていたのだろうか、この人は。
誰にも言えなかった僕の悲しみに。
「ああ。脚本の被害者は君ばかりじゃない、君は幸せになっていいんだ。
……負債の趣味を押し付けられた、マグロなラクスのまな板ではもう限界なんだろう?
無理をしなくてもいい。巨乳を抱いて溺れ死んでもいいんだ、君は」
「ああ………っ!!!」
幸せになってもいい。そんな優しい言葉に思わず膝が折れた。名簿を抱きしめ涙を零し続けるキラの肩に、シャアは優しく手を置く。
その姿はCEでは最後まで見ることができなかった、子供を導く大人の姿。キラはごしごしと目を拭い、シャアの顔を見上げる。
「一緒に戦おう」
「…………はい!!」
差し出したクワトロの右手を、両手でしっかりと握り締める。視線が合って、おもわずはにかんだ微笑を見せる2人。
離れた場所では、その光景に感動したバーテンダーが鼻を啜りながら目じりをハンカチで拭っている。
そうして自分は、ネバーランドに所属した。
「ふん、ふっ、ていっ!! どうしたの? そんな顔しちゃって、感じてるんでしょ!? いつもより凄いって、旦那より凄いって言え!!」
「ここ、凄いことになってるね奥さん。……口に出さないとわからないな。何を? 何処に!? 夜露死苦!!」
「ほら早く歌わないと、もう歌が始まってるよ? それともマイクは下の口に持っていこうか? こっちの方がぴちゃぴちゃ元気な声出してるし」
「2人ぐらいじゃダメですよ、ここのブロックは3枚つかないと。じゃないと僕のアタックは止められませんよ?」
「キラくんすごい!!」 「奥様がたああああああああっっっ!!!!」 「キラ君私も!!」 「奥様が、たあああああああっっ!!!!」
そこから先は天国だった。シャアが用意した名簿の女性は精鋭ばかりであり、しかもちょっと突付いただけであっさりと落ちた。
熟れた身体を持て余していた人には望み通り最高の快楽を与えてやったし、青春をもう一度体験したいという人には丸1日気分転換のデートに付き合い、ロマンチックな流れでホテルに連れ込んだ。
カラオケに行って嬌声をマイクで大きくしたり、ママさんバレーのコーチとして合宿に行き、夜に1対10くらいの大乱交を行った。
夫への引け目でなるべく乱れまいと思う女性を自分のテクニックで陥落させるのも楽しかった。
十分すぎるほど実った豊穣の大地を堪能した。総統も思わず叫ぶくらいオッパイブルンブルンだった。
「やっとみつけた僕の居場所。それを奪う者を僕は許さない」
意識を戦場に戻す。
目線の先にはシン、カミーユ、ロラン、エイジ。モブではなくメインキャラでハーレムを作っている男たちが遠くで暴れている。
そして彼らによって作られた空間に、アクシズの部隊が大挙して押し寄せてきた。
名無しキャラを何人喰った所で彼らにはまだ届くまい。そう、彼らが王者だとするならば、今の自分は挑戦者なのだ。
だから未だに勝利は掴んでいない自分は、まだこの楽園を失うわけにはいかない……!!
「今回は、てかげん無しだ!!!」
ドラグーン。カリドゥス。クスィフィアス。そして両手に握ったビームライフル。
それらを雄叫びと共に敵に向かって放つ。アクシズの部隊は7小隊はいたはずだったが、光の消えた後には1機も残っていなかった。
そう、ファサリナさんや人妻シギュンに紅月カレン、シェリル・ノームといった保志登場作品による巨乳ハーレムを作るまで。
僕は戦い続ける。
「流石はキラさん、半端ねえ……!!」
フリーダムによるハイマットフルバーストにより、調子に乗って前に出たアクシズ部隊の前衛があっさりと沈められてしまった。
クワトロ大尉への道に立ち塞がる最後の壁。CEの聖剣伝説の異名は伊達ではない。
このままでは敗北は必至だと思った瞬間、ネバーランド軍の動きが止まった。
何があった。彼らの視線は自分たちの背後にあるが。
『おい!!!』
「なんだ……?」
何故か動揺し始めるネバーランド軍。不思議に思って背後を振り返ると、2方向から接近する部隊の姿があった。
向かって右側から進んできたのはグランフォートレスを中心にした部隊。先頭にはスーパーガンダムやメタス、ギャブランに森のくまさん。なぜかパラス・アテネやソルグラヴィオンの姿まで見える。
反対の方向からはソレイユを中心にバルゴラ・ガイア・インパルス。他にもストライクルージュやカプル、サイコガンダムにちょっと動きが心もとないリ・ガズィまでいる。
そして2つの軍勢は一つに合流していった。誰が乗っているのかなんて言うまでも無い。
「なんでカミーユのピンチに、あなたたちまで来るのよ」
「え?」
「私たちの見せ場でしょうが」
変形したギャブランとメタスがバルゴラに並びかけ、フォウとファがセツコに毒づく。
「なあステラ、ルナマリアとセツコに内緒で教えてくれないか?」
「なあにカガリ?」
「シンのってさ……どれくらいのサイズ?」
「えっとね、これくらい。あ~~ん」
「うわ、ちょっとそれ結構なレベルだなってこらステラ、そんな表現の仕方しちゃいけないんだぞ。手とか指でやらないと」
CEの金髪コンビが猥談をしながら宇宙を駆ける。
「エイジ様、ご無事ですか? 早くこの戦いを終わらせて、この間の店に2人で行きましょう」
「ぱよ、今日のエイジ様は私が予約入れてるのにぃ」
「マリニア、チュイル!! 今は戦闘中です、そういった話は今すべきではないでしょう!? それにエイジ様は一昨日の晩、今夜は私の為に空けておくと約束してくれたのに」
「宇宙はまだ戦場で、安全が確保されたわけではないわ。 エイジ様の身辺警護は私の役目だから、ベッドの中まで一緒にいないと」
「クッキーさんはドアの外で警護してれば良いじゃないですかぁ」
「だめよ、今日こそは私のメンテナンスをしてもらうんだからね!」
メイドたちが予約合戦を開始する。
「ルナマリア、せいぜい背後には注意しなさい。油断してると連ザ2で貴方と組んだプレイヤーと同じ目に合わせてあげるから」
「自分の髪型の心配したらどうですか?」
武闘派の2人がいがみ合う。
そして彼女たちは戦艦の射程範囲ギリギリのところで行軍を止め、戦場を見回した。
いきなり出没した彼女たちに呑まれたのか、戦闘を停止したまま息を飲む両軍。そんな視線の集まる中、スッとバルゴラ・グローリーが前に出る。
そしてボロボロなZEUTHの面々を見たあと、全回線を開いて叫んだ。
「私たちの旦那様に、結構な真似してくれるじゃないですか!!」
戦場に響くセツコの声。どちらの援軍かようやくわかったのかその声にネバーランド陣営が動揺し、逆にZEUTH・アクシズ連合は気力を取り戻した。
自分たちもそうだ。愛する人が自分の危機に助けに来てくれたなんて、こんなに嬉しいことは無い。
「みんな、来てくれたんだな……アスハ、なんでさっきから俺ばっかり見てるんだ?」
「俺関連の話って、夜の話題しか言われてねえんだけど。今日あたり自宅にでも帰って、ユミと飯を食いに行こうかなぁ」
「別に良いだろうエイジ。俺には恋人はいないから、話題にも上がっていない。それに比べればマシだと思え」
「助けに来てくれたんだから良しとするべきだろうな、常識的に考えて……ってロラン大丈夫か? 顔が凄い青いぞ」
青い、いや蒼い顔をしたロランにカミーユが声をかける。
「ねえカミーユ、確認しときたいんですけど。……ギャブランに乗ってるのはフォウさんですよね?」
「乗り換えは無かった筈だから、そうだと思うけど」
「それともう一つ。あの援軍には僕たちに少なからず好意を抱いてるヒロインの方たちしかいないわけですよね」
「まあ、そういう流れっぽいよな。斗牙やとりあえず付いて来た的な連中はともかく」
そういやエイジ、斗牙にプロポーズされてたっけ。いやもちろん本気じゃないだろうとは思うが。
レコアさんは多分、1人ぼっちじゃ寂しいからとかそんな理由だろうけど。いや大尉との元鞘狙ってるのかな?
何にしてもロランがこんなになる理由は思い浮かばない。
「フォウさん以外であのブラックドールに乗ってて、僕たちの誰かに好意を抱いてる人って言ったら……」
「……………ドンマイ」
なるほど納得した。ガチホモ参戦にヘコんでんのかロランは。
ってか誰だよアイツ連れて来たの。
『ZEUTHの諸君!! ネバーランド宙域まで来い。そこでタイマンだ!!』
セツコの言葉に返すように、何やら熱くなっている大尉の声が宇宙に響く。そして真紅の機体は撤退していった。
おそらくは今の言葉通り、タイマンを張る相手が来るのを宙域で待つつもりなのだろう。
「タイマンは良いけど、誰が行くんだよ。ハマーン・カーンの姿は見えないぞ?」
「アムロ大尉も今戦闘中だ。そんな余裕は無さそうだな」
「カミーユが修正してやればいいんじゃないか?」
「いや、俺はシンを推薦する」
ふざけんな。なんで俺なんだよ。
「あ、俺も賛成。前に大尉を止めるって言ってたんだから、言葉通り止めてこいよシン」
「俺もだ。カミーユがラスボスを倒すかっこいい所など見たくもないしな」
「このSSの主人公はシンですし」
「そういうことだ。それに何より」
「何より……?」
まだ理由があるのか。そんな自分に向かって4機のロボットが指を刺す。
そして、声を合わせて言った。
「「「「 お前が1番大尉に近い 」」」」
「お前らが下がっただけだろうが!!!」
そんな理由で俺なのかよ。
渾身のツッコミは華麗にスルーされ、それぞれ散らばっていく友人たち。ちょ、お願いだからちょっと待って。
「まあまあ、セツコさんだって頑張って前に出たんだ。ここはシンが答えてやるべきだろう?」
「お前は出来る子だと信じている。アカデミー時代から見てきた俺が言うんだ、間違いない」
「いざとなったら援護に行きますから」
「見せ場だぜ、見せ場。思いきりかっこつけてきな!! 最終決戦の時だってギャグばっかりやってた俺たちを置いて、1人でキメてたじゃないか」
エイジ、お前あれまだ根に持ってるのかよ。つかあれはお前らがギャグに奔っただけじゃないか。
でもまあ負い目であることには変わりない。仕方ないので受け入れる。
納得はできないけどな。
「わかったよ、俺がやりゃあいいんだろやりゃあ!! だが今に見てろ、いつの日かお前ら 「じゃあなシン」 って行くなぁ!!」
友情なんて大嫌いだこんちくしょう!!!!