「敵もさる者か。流石はZEUTH、外から見るとこれほど恐ろしい敵はいないな」
コクピットの中で腕を組んだまま、目の前の光景をみつめるシャア。
ここは最終決戦の地であるネバーランド宙域。一騎討ちで全ての決着をつけるべく、この地に辿りつく者を待っている最中である。
そして画面の中の様子を見る限り、もうそろそろ誰かが現れる可能性が高そうだった。
いや、誰かではない。この場に来るのは間違いなくシン・アスカだ。
戦争を何よりも否定する彼のことだ、立ちはだかる壁を飛び越えこの戦いの根源である自分を止めるために現れる。
いや、彼の戦う理由はそれだけではない。身内に甘い彼のことだ、おそらくは
「ハマーンのために、か………」
アクシズの首領である元恋人の名が口に零れ落ちる。グレたミンキーモモの異名を持ち、スパロボに参戦すれば女性キャラ最強の座をいつもかっさらっていく彼女。
あれでも昔はツインテールな萌えキャラで可愛かったのだが、いつから榊原ボイスに変わったのだろうか……何、ハマーン様は昔からあの声に決まってる?
オーケーわかったそこまで言うならケロロ軍曹の運動会の話でも見て来い。そしてサンドイッチ作ったときの声を聞いてから話し合おう。
人間には向き不向きというものがあるということを実感できるから。
『ナイター、一緒に行くと言っただろう!!』
『すまん』
『花火大会も行くと言ったではないか!!』
『申し訳ない』
『私とミネバ様の浴衣姿、見たくないというのか!?』
『………ごめん、ミネバ様のだけちょっと見たい』
『ばか!!』
思い出すのは別れの情景。いくら自分が貫くべき道を見つけたとはいえ、泣きそうな声で別れを拒む女性を振り切るのは良心が痛んだ。
いいかげんロリからは卒業して彼女の為に生きるという選択肢もあったはずだ。しかし自分は彼女よりも夢を選ぶ覚悟を決めた。自分に嘘は、つけない。
それでなくてもTo LOVEるがモモのせいで今やばいことになっているのだ。 『もし』 とか 『たら』 とか 『れば』 とか、そんな思いに惑わされている場合ではない。
自分が選んだ一つのことが、自分の宇宙の真実だとどっかの兄貴も言っていたし。
まあお互いの年齢を考えずに時かけっぽく別れたのは後悔しているが。
「はいそこ油断しない!! 次危なかったらケルベロスで敵ごと援護しますからね!!」
「くっ、ルナマリア……余計な真似をするんじゃないわよ!」
「みんな、シン君をネバーランドまで連れて行きましょう!! 道は私たちが」
「よーし。それじゃステラ、私たちはシンに迫る敵を止めるぞ!!」
「うん! ……シン、いけーーーっっ!!!」
画面の中では未だにZEUTH無双が続いている。
なんだかんだ言いながらも背中を預けて協力し合っているエマとルナマリア。ナウティラス・カーバーでギラ・ドーガを切り裂きながら大きな声を上げるセツコ。
そして彼女のその声にガイアとストライクルージュが応え、デスティニーの道を作るように敵の群れに飛び込んでいく。
ZEUTHの数はそこまで多くは無い。しかしどいつもこいつも一騎当千の強者である為、前線のモブたちは為すすべなくやられていった。
「……何を笑っているのだろうな、私は」
いつの間にやら唇の端が上がっていたことに気付き、シャアは思わず自嘲の言葉を呟いた。
軍を率いる立場としては、当然誰もこの地に辿り着けずに自軍が勝利するのがベストではある。そうすれば自分の夢にまた一歩近付けるのだから。
しかしパイロットとしての自分に未だ未練を残している己は、ZEUTHの誰かがここに辿り着くのを望んでいる面もあるのは事実だった。
「だが、笑ってばかりもいられないか」
戦況があまりに一方的過ぎる。これは何か手を打たないとまずい。これ以上損害を広げられるとネバーランドという夢は文字通りKAGEROUの如く消えてしまう。
それだけは許すわけにはいかないので、シャアは目の前にあった受話器を取りダイヤルをまわした。えーと、千、十、丸と。
「もしもし、私だ。どうやら君たちの出番のようだから、今すぐ出撃を……なに? 今ハンバーグ食べてる? そこをどうにか来てくれないかな」
元ネタの記憶もあやふやなまま電話で増援を呼ぶシャア。その数秒後ネバーランドからいくつかの光が飛び立ち、戦場へと飛び込んでいく。
ZEUTHが一騎当千なら彼らもまたそうである。きっと戦果をあげて、最低でもアクシズの雑魚を狩って撤退まで追い込んでくれるだろう。
シャアはその光景に満足そうに頷き、次なる一手を打つ事に決める。今度はネバーランドの通信室に連絡を取り、一般市民に戦闘の様子を見せるよう指示した。
この作戦のためにネバーランド軍の兵士はそれぞれ自分の機体にひらがなで名札を付けている。なのでそれを見た幼女たちは知り合いのおじさんの名をみかけたら応援してくれるだろう。
自分たちの数は総勢500機足らず。この戦場限定ならともかく、これから戦うべきこの世界にとっては寡兵に過ぎない。
しかし幼女の声援を受けた彼らは一騎当千の古強者になる。ならばネバーランド軍は自分と彼らとで総力50万と1機の軍集団となる。
消失のクオリティの高さにエンドレスエイトは斬新な手法だったとごまかされている馬鹿共を叩き起こそう。
髪の毛をつかんでゼーガペインの売り上げを見せつけ、どんなに出来が良くてもループ物はDVDが売れないことを思い出させよう。
よりにもよって男アイドルなんか入れやがったナムコに恐怖の味を思い出させてやる。
ダンテの設定全てを変えてデビル名倉イなんかにしやがったカプコンの連中に我々の軍靴の音を思い出させてやるって少し落ち着け私。
素数を数えて落ち着くんだ。1、3、5、7、11、13、えーと17……19もだっけ……に、にじゅう……よっしゃもう落ち着いた。終了だ終了。
まあ何はともあれこれでまだ戦いの行方は分からなくなった筈だ。
しかし手を打ったら自分のすることがなくなってしまった。これから何か動きがあるまでどうしよう。
あれだけかっこつけてタイマンだと叫んでしまった今となっては、戦場に戻るのもなんだか恥ずかしいし。
しばらく悩んでいたシャアだったが、そのうちポケットから携帯を取り出し呟いた。暇な時はこれに限る。
「……モバゲーでもするか」
いい大人の、モバゲー。
「あのロリコンめ、せっかく流れが変わりかけてたってのに……。まだこの大軍とガチのぶつかり合いしなきゃならないってのかよ!!」
目の前は敵が7分に宇宙が3分。そんな絶望的な状況を前に、ランサーを振り回してMSを多数撃墜しながら毒づくエイジ。彼が怒るのも無理は無い。
せっかく仲間たちが援軍に現れてくれたかと思いきや、数分後には戦場に敵を応援する幼女たちの声が溢れて戦況がまったくの五分に戻ってしまったのだ。
それでなくても名有りキャラとの戦いまでエネルギーを温存しなきゃならないってのに、余計な真似をしやがって。
クワトロに怒りを覚えつつも不機嫌なまま戦いを続けるエイジだったが、不意に聞き覚えのある声が聞こえてきたため思わず眉間の皺を無くす。
あれ、この声良く聞く声なんだが。主にサンジェルマン城で。
「あ、あれゴッドグラヴィオンだ!! 遠くにソルグラヴィオンがいるからこっちは……やっぱり!! エイジさま、私たちはここですよ~!!」
「あと、すこし」
「きゃ~!! がんばってください、エイジさまぁ!!」
「ってお前ら、最近サンジェルマン城にいないと思ってたらそこにいたのかよ。……まあいいや、ちょっと待ってろ。
いいかげん城のみんなも心配してるだろうし、これが終わったらすぐ迎えに行ってやっからな!!」
「「「 は~い!!! 」」」
Σグラヴィオンの姿、つまりお気に入りの兄貴分であるエイジを見つけたちびメイド3人組が喜びの声をあげる。
戦場に響くその楽しそうな声、ネバーランドにいたからといって特に何かあったわけでもないようだ。まあヤツらの目的が聞いた通りならば当たり前の話ではあるが。
彼女たちを連れて帰ることも目的に追加しつつも、無事な姿になんとなくホッとしたエイジ。操縦桿を握りしめる手に再び力を込める。
「よーし、お前ら今から手加減なしでいくぞ……ってなんかやる気なくしてんな」
「そんな……我らの女神が……太陽がぁ………」
「そうだよな、所詮本当のおにいちゃんキャラには勝てないよな。ポッと出のモブである俺らじゃ彼女たちのおにいちゃんにはなれないんだよな。もう欝だ死のう」
「人の夢と書いて儚い……なんだか悲しいな」
しかしそんな彼とは裏腹に、眼前の敵たちは士気を著しく低下させていた。具体的に言うと気力50くらい。
気合を入れて突貫しようとした矢先のこの光景に、流石のエイジもなんだか戦いにくくなる。
「いや、敵の戦力低下は悪い話じゃないんだけど……なんかいまいちやる気を出しにくいな」
「あきらめんなお前ら、希望の灯は絶やすな!!!」
「いやもういいよ。どうせ みんな大人になる」
「なんで……なんでそんな事言ったぁ!? お前!!」
「やめて………もうやめてよ!!」
ためらいどれくらい僕を試しますか? 果て無きモノローグをバックに仲間同士のぶつかりあいすら始めたネバーランド軍。グラヴィオンのことなんか誰も気にしちゃいない。
思わずここを突破して自分があのロリコンと戦う羽目になるんだろうかと危惧したエイジだったが、1人の男の声をきっかけに敵は落ち着きを取り戻した。
それは彼らにとって希望を意味する名前(ワード)。
「しっかりしろお前ら!! オルソン先生のご尊顔を思い出すのだ!!」
「「「 !!! 」」」
そう。スパロボ界の高橋ジョージ、もしくはヤンキー先生の異名を持つオルソン・D・ヴェルヌの名前である。
あんなにダサいグラサンをつけるというハンデを自らに課しても、幼い頃からの刷り込みのみで友人の実の娘をゲットしたというリビング・レジェンドの存在は、
彼らにとって希望以外の何物でもなかった。
「そうだ……そうだよな! あの人だってあの趣味の悪いグラサン装備のまま上手いこと誑しこむことが出来たんだ、俺たちだって!!」
「ああ。確かに厳しい状況ではあるが、可能性はゼロじゃない。希望はまだ捨ててはいけない」
「この戦いさえ切り抜ければな!!」
「わかってくれたか。……いいか、みんな。小五とロリでは単なる犯罪だが、二つ合わされば悟りとなる。そのことを忘れるな!!」
「つまり小五くらいの子がストライクゾーンの俺は、既に悟りを開いていると言うことだな!!」
心の炎を再点火したロリコンたちがグラヴィオンに視線を戻す。
我不迷。そんなモブたちの意識を感じ取ったエイジは再び戦闘態勢に入った。最後のヤツだけは確実にぶっ殺しとこう、そう覚悟を決めて。
ついでにほっと溜息も一つ。良かった、クワトロ大尉と戦わずにすんで。
「さあ来いグラヴィオン。此処から先、簡単に通れると思うな!!」
「ちびメイドたちの世話は俺たちがやる。彼女たちには 『彼は遠い所に行ってしばらく帰ってこない』 とでも言っておいてやるさ!!」
「ああそうかよ。じゃあこの場にいる全員、その妄想を抱いたまま溺れ死ぬ事になっても――――」
「いや、君の相手は彼らではない」
エイジの言葉を打ち切るように、新たな声が会話に参加する。聞き覚えのあるこの声は確か―――
「ゴッドΣグラヴィオンの紅エイジ。お前の相手はこの俺だ」
「「「 オルソン先生!!! 」」」
今話題に上がったばかりのオルソン・D・ヴェルヌその人であった。モブたちを庇うように立ちはだかり、彼らを他の戦場へと移動させる。
サイズ差からいって彼らと一緒に戦っても卑怯ではない筈だが、どうやら自分との一騎打ちがご希望のようだ。
「小細工なしの1対1。まずは君から好きなように仕掛けてきたまえ」
「随分と余裕だなオイ……。じゃあその余裕を無くしてやるよ、マダオ (マジで駄目人間なオルソンの略) のおっさん!!」
自分の技量に自信があるのだろう。スーパーロボット相手に先手を譲るマダオ。
挑発めいた言葉にいつもの自分ならすぐ突貫するところだが、エイジはその言葉に甘えてゆっくりとランサーを構えた。
自分からハンデをくれるというなら甘えよう。結果的にそれが勝敗を決めたとしても余裕ぶってハンデをあげた者が馬鹿なのであって、貰った自分が気にすることではない。
それにリアルロボットとスーパーロボットの戦いはひどくシンプルだ。スーパー系が自慢のパワーで捻り潰すか、それともリアル系がそのスピードで掻き回して蜂の巣にするか。
お互い一長一短ある噛み合わせである以上、正面からのガチンコでも必ず勝てると慢心するつもりはなかった。
「フ、その生意気な言葉を後か……あれ?」
そんなエイジに対し、どうせ命中率は低いだろうとたかをくくって反撃は何にしようと考えていたマダオ。しかし目にしたものを見て思わずサングラスがずり落ちた。
その口から零れ落ちるのは掠れた声。なんだこれは。命中率が100%になっているんだが。
「行くぜ!! 必中、それから熱血も!! グラヴィトンランサァァァ!!!」
いや、オーガスとグラヴィオンのサイズ差で精神コマンド付随させた攻撃とか反則だから。確かに掛かって来いって言ったのは自分だけれども。
直感をかけて、いやせめてハイパージャマーくらい付けておけばよかったとそれまであった余裕を投げ捨て、マダオはエイジに告げる。
「………前言撤回、させて貰ってもいいかな?」
「却下」
つまりは死ねと。
ついさっきまでは想像すらしなかった絶望的な状況に、オルソンはかっこつけた数秒前の自分を深く憎悪する。気をつけよう。注意一秒、怪我一生。
現実から逃避したくて思わず目を閉じた。その瞼の裏に映るのは走馬灯のように過ぎていく過去の記憶。
親友であり同士であるクワトロとの友情の記憶である。
『最近調子はどうだ? 俺はそこそこだ』
『そのグラサン変だぞ』
『ヒック、それであの時、桂のやつがよ~』
『そのグラサン変だぞ』
『綺麗な夕焼けだな、何か叫んでみるか。馬鹿野郎~~!!!』
『そのグラサン変だぞ~~!!!』
『サングラス取ってコンタクトにしたんだが、似合うだろうか?』
『………誰だ君は』
『俺、アテナとそろそろ結婚するかもしれん。当然その時に初夜も』
『死ね』
そんな熱い友情を過去のものにしてしまう自分を、強敵を前に友を残して逝く己の力不足を呪う。
「……ああ、友よすまん。お前を残して散ることになるとは……」
「グラサンが黒いからって前が見えてないのか? 今の話、どこをどう見ても友情なんかなかったんだけど………まあいいや、グラヴィトン・ブレイク!!」
「そして幼女たちを前に、紅エイジのかませ犬として散っていくことになるとは」
自機に迫る巨大な刃を絶望と共に見上げるマダオ。機体は動かない。都合よく赤い機体の援護射撃とかきたりしない。
グラヴィオンの強烈な一撃を防ぐものは、拍子抜けするほど何もなかった。
「エルゴ・エンド」
エイジの声と同時に爆散する愛機。意識を失うその瞬間、マダオは確かに耳にした。
勝者の凱歌を。それを讃える天使たちの美しい声を。
「ふつくしい……なんつってな!!」
「「「 キャー!! エイジさまぁ!!! 」」」
無念………。
「無駄だよレイ。君の力は確かに凄い、だけど技量も機体性能も僕の方が上だ!!」
「くっ……! もういい加減バカなことはやめるんだキラ・ヤマト!!」
交錯する火線。飛び交うお互いのドラグーン。ストライクフリーダムとレジェンドが1対1の戦いを繰り広げている。
戦っている理由が理由なので身内の恥を晒すまいと説得を頑張るレイだったが、キラにはそれを受ける気は無いようだ。
戦況は贔屓目に見ても若干フリーダムが有利。性能的に当たり前と言えば当たり前だが。
「バカなことなんかじゃない!!! これが僕の夢! 僕の望み! 僕の業!
……僕はもう、これ以上苦しみたくないんだ! いつかは……やがていつかはそれなりの大きさに成長したおっぱいを触れると……!!
そんな希望的観測に踊らされ、いったいどれだけのヤリたい盛りの時期を溝に捨ててきた!? どれだけの精子をティッシュに無駄死にさせてきた!?」
「知るか!! だいたい胸だけが女性の全てというわけではないだろう」
「それが君に解る? 何が解る!? 解らないさ!! 童貞の君には!!!」
童貞呼ばわりされこいつマジでぶっ殺してやろうかという怒りを押さえ込むレイ。落ち着け、落ち着くんだレイ・ザ・バレル。熱くなっては勝てるものも勝てなくなる。
中央を守るキラさえいなくなればネバーランドまで一直線なので自分にかかる責任は大きいのだ。そうやすやすと負けるわけにはいかない。
「ラクス・クラインはどうした!! 仮にも恋人がいるんだ、そこで満足しておけ!!」
「彼女の歌は好きだったけどね……だけど現実 (まな板→2年後→まな板) は歌の様に優しくは無い!!」
確かに彼女にはもう成長の余地はないので絶望する気持ちはわからないでもないけれども、キラにとってそこまで悲観することだというのか。
正直自分にはおっぱい星人の考えることはわからん。
ふと思う。ギルはキラにミーア・キャンベルを差し出していれば、ラクス・クラインなんかに負けなかったのではないだろうか。
偽者バレで役目がなくなってたミーアはヒロインポジへ。キラは彼女のナイスバディを思う存分貪って幸せ。そしてギルは駒がヘタレ1択のラクスに勝利するだろう。
シンも逆補正から解放されてヘタレに勝つのは間違いないし、自分はムウ・ラ・フラガと長き因縁の話にもっていけた。ルナマリアもそのぶん描写が増えるに決まってる。
なんというWIN-WINの関係。このデスティニープランならみんなが幸せになれたかもしれない。
「確かにそうかもしれない。あのヘタレにミーアさんのフラグを放るなんて悪手を打つくらいなら、僕がもっと有効活用できたんだ。
年増の女艦長の尻なんかじゃなく、ピチピチのアイドルの際どいショットを視聴者の皆さんにプレゼントすることができた筈。伊達に土曜6時にフレイとのシーンを流してないからね。
あの今にも襲ってくださいと言わんばかりの格好の彼女を、生脇をレロレロしてきょぬーをムニムニして衣装を引っ張って下を食い込ませてガッツでガッツンガッツンいけたんだ。
彼女の耳元に甘い保志ボイスで 『君は君だ、彼女じゃない』 って囁きながら運命に抗えたんだ。
でもいくら叫ぼうが今更!! これが定めなんだ!! 腹黒貧乳を正義と信じ、キャラが解らぬと逃げ、陽電子を知らず、他の人の苦言からは引かず!
そんな脚本家ごっこ・監督ごっこの果ての終局だ!!
そう、僕にはあるんだ! この宇宙でただ1人、全ての巨乳を貪る権利がね!!」
「キラ・ヤマト、そのネタそろそろやめろ」
心を読むなバカ。それとラウネタはいいかげんムカついてきた。少ししつこいぞお前。
心の中のラウも 「殺っちゃいナ♪」 とGOサインを出していることもあるし、いい加減潰すか。キャオラァァァと叫びながらの前格でも見舞って。
そう考えながらフリーダムから放たれたカリドゥスをシールドで受け止めるレイだったが、その威力に思わずバランスを崩してしまった。
当然その隙を逃すキラではない。両手に持ったライフルを連射して意識を自分に向けつつ、背後から止めを刺すためにドラグーンをレジェンドの後方へ廻す。
「大体なんで僕ばかり止めてシンやカミーユは止めないんだ!!
シンなんかカウガールなステラとロデオプレイしたかと思いきや、次の晩には婦警なルナマリアさんと手錠プレイしてるんだよ!? しかも攻守交替で何ラウンドも!!」
「別に俺は他人のプライベートまで干渉する気は無い。しかしお前の場合はシンと違って場所と相手が……しまった!!」
レイがそのドラグーンの存在に気付いたのは、今まさにそのドラグーンがビームを発射しようとする瞬間だった。
このタイミングでは避けようがない。敗北を認識し思わず舌打ちをするレイ。
しかし、そんな彼の眼前で紅いビームの刃がドラグーンを切り裂いた。
「誰だ!!」
誰だも何も、言った本人もZEUTH側の応援だということはわかっているだろう。手中の勝利を掠め取られ、機嫌を損ねたキラが怒気を含んだ声で叫ぶ。
自分も今のタイミングは終わったと感じていたところだったのでその気持ちはわからないでもない。
しかし助けに来たのが選りによってこいつとは。素直に喜べないレイは思わず溜息を吐く。
その視線の先、長く伸びたビームサーベルを構えているのは。
「後からノコノコ出てきて主役気取りかカミーユ?」
自分のライバルにしてUC最高のニュータイプ。カミーユ・ビダンが搭乗するΖガンダムにほかならない。
「なら聞くけど。アレがメインイベントに相応しいと?」
アレって。一応俺たちの世界の主人公なのだが。まあ、敵キャラとしては確かに格が落ちるか。
巨乳の元娼婦相手に筆下ろしした、キラに良く似た青年も敵としての扱いはすごい微妙だったことだし。
「言われてみれば……確かにそうだ」
並んで進みながら距離を詰めていくレジェンドとΖ。ドラグーンの放ったビームをサーベルで文字通り叩き落しながら前に出る。
その高度な操縦技術を前に、思わずキラも声を震わせた。
「僕に勝つつもりなのか?――――スーパーコーディネイターの、この僕に」
「気付いている筈だキラ・ヤマト。今の貴様には負債による補正はない。純粋な技量だけで俺たち2人を止めることはできない」
「レイ、言うだけ無駄だ。身体で気付かせないとな」
そう言うや否や、右と左に分かれて飛び込むレイとカミーユ。ビームの豪雨で迎え撃つフリーダムだったが彼らを抑えられるわけもない。
しばらく奮戦していたものの、最終的には2人が同時に放ったビームサーベルの斬撃によって大きく吹き飛ばされる。
形勢逆転。王手をかけられたのはキラの方だ。
「くっ、このままじゃようやく僕が見つけたデスティニープラン、 “ 子供たちは総帥が世話する、だから若妻たちは僕と遊ぼう ” が………ッッ!!!」
ドラグーンを全て失い、あちこち小さな爆発を起こしながらもまだ立ちはだかるフリーダム。
その沈みかけた機体を支えるのはもはや執念である。枯渇した大地しか手に出来なかった男が、初めて肥沃な大地を手にすることが出来たのだ。
まだ負ける訳にはいかない。まだ倒れるわけにはいかない。こんな小さな自分にも、すぐにラクスに洗脳されてた自分にもくすぶってるものがある。
「そう、意地があるんだ!! 男の子にはぁ!!!」
そうだろう君島と顔も知らぬ親友を想い拳を握るキラ。その気合はラウ=ル=クルーゼを撃破した時の比ではない。精神が肉体を凌駕し、尚もその場に存在し続けていた。
しかし古今東西、悪が栄えたためしは無い。
主人公キャラとライバル兼友人キャラが格好良く構えた時点で決着が着くと相場が決まっている。
「本来なら強敵への止めはスイカバーで決めるところだけど……レイ、今回だけはお前に合わせてやる」
「カミーユ、こういう時に言う決めゼリフを知っているか?」
「……フッ」
レイの言葉に不敵に笑うカミーユ。
そして2人は次の瞬間、お互いのビームライフルを重ね合わせて叫ぶ。
「「 “ ジャックポット !! ”」」
2つの銃口から放たれた紅と蒼の光。絡み合うような螺旋の軌跡を描き、フリーダムを貫いた。
「裸エプロンが………旦那との電話の最中にするいたずらがぁぁ……」
「品のないセリフだ」
「お前は魔界にでも沈んどけ」
2人がそう言葉を吐き捨てた瞬間、フリーダムが巨大な爆発を起こす。
どうせキラのことだから死んではいないだろうが、少なくともこの戦場で復活することはないだろう。そう判断したレイは、深い溜息を吐いて頭上を見上げた。
別にその目に何かを映したかったわけじゃない。ただ目の前の光景を直視したくなかっただけで。
「泣いてるのか、レイ。同じ作品の仲間がこんな死に方して」
「………俺は原作じゃ奴らの踏み台だぞ。そんな端役は泣かないもんさ」
流石はニュータイプというべきなのだろうか。カミーユが自分を気遣ったような声をかけてきた。
助けて貰いもしたし、感謝する想いが無い訳ではない。しかし今は、彼に自分の弱さを見せたくはなかった。
ぶっきらぼうに言葉を返すが、彼はそれに対して何も言ってはこない。おかしいな、いつもなら 「助けてやったのにその言い草は」 って感じで軽い口喧嘩くらいにはなるはずなのに。
そう思ったがその疑問はすぐに解消した。そういえば今回の戦いは彼も似たような立場だっけ。首謀者はあのロリコンだし。
「そっか……でも。事実上の主役がこんな醜態を晒して、作品のために涙を流す踏み台キャラもいるのかも」
「……かもな」
ほんとに泣きたい。俺は原作じゃあんなやつの言葉に流されてフルバースト喰らったというのか。ギルを撃ったというのか。
いややめよう、この世界の自分には関係がないことだ。気にし過ぎてはいけない。
「ところで――――」
会話を打ち切り、Zが唐突にライフルを連射する。自分たちに襲いかかろうとしていたヤクト・ドーガが数機、光弾に貫かれて爆散した。
いつのまにやら大勢の敵が自分たちを包囲している。悲しんでいる暇はなさそうだ。
「これから忙しくなりそうだな、お互い」
「……まったく、やってくれる。でも今は思い切り暴れたい気分だ。こういうノリは嫌いじゃない」
背中を合わせてサーベルを抜き放つ2機。呼吸を合わせて踊り掛かった敵をまとめて一刀で切り捨てる。
そう、今は悲しむ時間じゃない。八つ当たりの時間だ。
「世界の理不尽さに絶望しすぎて――――狂ってしまいそうだ!!!」
そのまま戦闘を再開するレイとカミーユ。今の彼らはこんな雑魚どもに落とされるわけがないので余裕に溢れていた。
カミーユにいたってはエンディングテーマが終わるまでに100機落とそうと必死なほどである。
「絶対に、絶対に100機倒すんだ……。例えレイの命を無駄にしてでも!!
この流れでいけば、スペシャルエンディングはカウガールステラと婦警ルナマリアと何かのコスプレセツコさんによる回想シーンになるに決まってるんだから……!!」
「お前を少しでも見直した俺が馬鹿だった」
もうなんでもありだなお前。
「人の命を大事にしない人とは、僕は誰とでも戦うと言ったでしょう!! お前ら退がれぇぇぇっっ!!!」
「黙れロラン、お前だけはぶっ殺す!!」
「やめろ馬鹿ヒゲ、月光蝶の間合いは絶対に入るな! 近接戦闘は俺に任せりゃいい!!」
バルゴラに乗って部隊を率い、トビーはギャバンのボルジャーノンと共にロランの∀ガンダムと戦っていた。
たった1機相手に一進一退とは情けなく感じないでもないが、正真正銘の化け物である∀相手では善戦以外の何物でもないだろう。まあロランもその辺りの力はセーブしてるとはいえ。
ZEUTHの増援も数自体は少ないことだし、後は他の部隊が敵の旗艦でも落としてくれれば向こうも撤退してくれる筈。そしてその痛手でしばらくはネバーランドに侵攻はしてこまい。
そう判断し、とりあえずは作戦通りの現状に満足するトビー。
しかしそんな彼らの許に一つの知らせが入った。キラ・ヤマトの駆るストライクフリーダムの撃墜である。
「FREEDOM!? こんな序盤で!?」
「そんな……ここらでちょっと根性を見せてやるところなのに……」
「我らロリを愛でるまで死んでたまるか戦線にもついに名有りキャラの脱落者が!!」
「落ち着けお前ら。まだ慌てるような時間じゃない」
シャアを除けば最高の戦力であるキラの戦線離脱。大幅な戦力ダウンは避けられないため、兵士の動揺や士気の低下も無理は無い。
しかしトビーは大した動揺もせずに周囲の混乱を鎮める。どうせこんなことになるとは思っていたのだ。それは何故かって言われても大した理由じゃないんだけど。
「やっぱマグロ食ってたやつはこんなもんか」
そう言ってばっさりとキラを切り捨てるトビー。いやーでもそう偉そうに言ってたFINAL WARSだってかっこよかったのドン・フライだけですよアレ。
そんなことを考えてるうちに目の前の∀が翼を広げ始めた。あれは月光蝶か。やべー手加減かけてないみたいだしあんなもんくらったら一撃で沈んじまう。
あわてて自分に直感をかけ、傍らのパートナーに視線を向けると
「はは、甘いな。そんな月光蝶なんかで俺のソシエ嬢への思いが折れるとでも思ったか、ロラン?
裏を返せばそれはお前が俺の事を恐れてるってことだろう? ソシエ嬢を取られるかもって思ってるわけだろう?」
現実逃避してた。そういやコイツひらめきも不屈もないもんな。
だから前に出んなって言っておいたのに。
「そうだ、そういうことなんだろう。ポジティブだ、ポジティブなことだけ考えろグーニー!!
この状況で一瞬でもネガティブなことを考えてみろグーニー!! 原作の無駄死にの二の舞グーニー!!」
「おい何恐怖でトチ狂ったこと叫んでんだ。とっとと逃げろよ」
「その声は! ワトソン!! ワトソンかァァ!! よりによって金田一の事件の犯人みたいな奴が助けに来やがった!!」
「それじゃ明智さん探してきますね」
「嘘、嘘ぴょーん!! 高遠じゃなくて良かったグーニー!!」
さっきから一緒に戦ってたってのにもう俺のことを忘れたのか。めんどくせー、超めんどくせー。助けようとする気も起きねー。
と言っても助けようとしたところで装甲の厚い∀は半端な攻撃では落ちないので、自分に出来ることはもう無かったりする。
なのでトビーはギャバンの戦死を受け入れることにした。えーと故人ギャバン・グーニーは本編でも多元世紀でも見せ場の無い芳忠ボイスの無駄遣いキャラとして……ん?
「あれ、でもあのコースじゃ味方のサイコガンダムにも命中しそうなんだけど……」
回避の為に月光蝶の通過コースを確認すると、黒く巨大な機体がその範囲内に入っていた。その正体はブラックドールとも呼ばれているサイコガンダム。
おそらく精神コマンドでもかけて囮に使ってたのだろう。そう思いつつ機体の持ち主の声を拾ってみると
「ポジティブだ ポジティブな事だけ考えるんだグエン。この状況で一瞬でもネガティブな事を考えてみろグエン。全てを失った原作の二の舞いグエン!!」
「ここにも馬鹿がいたよォォォォ!!!」
もうやだこの戦場。とっとと世話して貰ってるピーター・サービスに帰ってメールちゃんに会いたい。
ロリの国を作るがぜよと龍馬ちっくに誘われてホイホイ付いてきてしまったが、「今ビール飲んでる最中だからパス」 と断った隊長に倣っとけば良かった。
「ほらローラ、ここにこんなに大きな声で僕たちの愛を祝福してくれてる人がいるよ!! さあ、幸せなうちに僕と一緒にモロッコに行っていろいろと取っちゃおう!!」
「違ぇよバカ!! なんだ? こんな戦場で笑いに奔るバカは人を腹立たせるバカばかりか!?
なんだかな……凄い疲れてきちまった。かったるいし、もういいや」
お前はその役に立ってない耳でも取ったらどうだという思いとともに、トビーは戦線離脱することを決意する。
もう戦えない。龍馬の顔に字幕が掛かった時くらいにテンションが落ちてしまった。いや序盤の時点で 「福山、香川に喰われてるぞ」 とは思っていたが。
ネバーランドには未練があるが、どうせクワトロ大尉がボスという時点でハマーン・カーンにボコられて終わるオチは見えているのだ。
この戦いの後残っているのなら客として行けばいい。
「嫌な女!! お前がいなければソシエ嬢の側にいられたのに!!」
「僕は男です……ローラ・ローラじゃないんですよーーっっ!!!」
背後の声を無視し、トビー・ワトソンは帰途につく。
ピーター・サービスに帰ったらきっとメールちゃんが笑顔で迎えてくれるだろう。そしたら自分はそんな彼女を抱き締めて髪や耳の裏をくんかくんかしよう。
ランドの旦那は怒るかもしれないが、その時は目の端に涙の一滴でも見せれば何か辛いことがあったと深読みしてくれるだろう。
もしかしたらメールちゃんも嘘泣きしている自分を胸で抱き締めてくれるかもしれない。そしたら彼女の生脇もくんかくんかしよう。薄い胸を額でぐりぐりしよう。
「……帰ろう。あるべき場所へ」
そう、僕にはまだ帰れる場所がある。こんなに嬉しいことはない……!!
「やらせない。通さない。お前を大佐の許へは行かせはしない!!!」
「Iフィールドか……厄介だな」
所変わって此方はアムロとギュネイ。α・アジールとνガンダムが長時間に亘る死闘を繰り広げていた。
すぐにZEUTHが攻めてきたためジョッシュやプロとは出会うことはなく自身の補正強化はできなかったギュネイだったが、シャアとの会話で既に迷いは無くしている。
そして同時に驕りも消し去ったため、今の自分の実力も正確に把握していた。これから己が何を為すべきなのかも。
自分と大佐ではその器に大きな差があり、そして目の前のアムロ・レイはその大佐の宿命のライバルと称される男だ。どう逆立ちしても自分では敵うまい。
ならば自分が大佐の為にできることは只一つ、敵が撤退するまでの時間稼ぎしかない。人並み外れた技量を持つ大佐やアムロが鯛だとするなら、自分は鰈だ。泥に塗れよう。
純粋な火力はα・アジールが上だしこちらにもIフィールドはある。格上相手とはいえ、無理な話ではない筈だ。
「いい加減にしろ! 大体お前たちが他人の子供の心配しても意味無いだろう! その力、もっとマシな事に使ったらどうだ!!」
「アムロ、やっぱりあんたは幼女たちの現実を知らないんだな……。世間にはな、バカ親という存在がいるんだぞ!!
本気で子供のことを考えているのか怪しい、愚かな大人たちが!!」
予想外の苦戦に焦れたアムロの声。気付けばギュネイは叫び返していた。
自分たちの戦う目的。大佐の真摯な想い。「マシな事」ではないとは言わせない。
「子供の良いところは自分の教育のおかげと自画自賛し、問題が発生したら自分以外の誰かのせいとモンスターペアレント。
そんな常識もまともな思考も無い頭だから、天使と書いてえんじぇると読ませるような名前を付ける、馬鹿な事しかやらない!!」
「四方から電波が来る……?」
愚かなのは少女たちをハーレムに引きずり込もうとする2次元の作者たちばかりではない。世の中の大人も信頼できる者が少なくなってしまった。
大人はかつて子供だったとはいえ、最近は子供の精神をもったまま成長せずに年齢だけ重ねる大人が増えている。
果たしてそんな頭の悪い連中に、明るい未来に満ちている子供たちを任せていいものなのか。否、良い訳がない。
「しかし自己陶酔の果てに付けた名前を 『お前の親がそんな名前だったらどう思う』 とか 『年取った時の子供の気持ちも考えろ』 という正論に追い詰められていくから」
口からメガ粒子砲を放つがあっさりと回避された。お返しとばかりに連射されたビームをかろうじてIフィールドで防ぐ。
やはり長くは抑えられそうもない。敵の撤退は、まだか。
「バカ親たちはそれを嫌って、 『DQNネームを非難する人の方が不快』 『人様の名付けに口出すな』 と逆ギレする? ……だったら!!」
「……だったら、なんだ? それがお前たちの戦う理由になるのか?」
しばらく黙ってギュネイの言葉を聞いていたアムロだったが、彼の主張が終わると静かな声で言葉を返した。
冷たいその目は彼の心境を一言で表している。お前らが言うなと。
「だから俺たちがそんな愚かな大人たちから幼女を守ろうと言っているんだよ、アムロ!!」
「……お前たちが守るだと? ふざけるな、目を血走らせて幼女を凝視するお前たちがか!?」
「こんな世界じゃ子供たちの貞操がもたん時が来てるんだ、それを―――――ライフルを捨てた!?」
口論の最中に投げ捨てられたライフルに一瞬目を奪われる。ギュネイが自分のミスを悟った時には既にバズーカの砲口が此方を捉えていた。
しまった、口論に意識を割きすぎた。そう気付いたときにはもう遅い。
νガンダムのバズーカから4つの弾頭が放たれ、α・アジールの四肢を撃ち抜く。そして駆け抜けながらビームサーベルを居合いの様に抜き放った。
機体の頭部を切り飛ばされたのか画面が全て黒く染まり、そして続けて起こった爆発によってギュネイ自身の視界も暗くなっていく。
「エゴなんだよ、それは」
「何、あっ……!」
力の均衡が崩れればあとは一直線。それまでの長い戦いが嘘の様に、決着はあっけなく着いた。
敗者には、何も残すことなく。
「現れたばっかりの所を悪いけど、落ちてもらうわ。狙いは完璧よ!!」
「フ、あの言葉を使ったということは自軍の誰かに誤射するはず。恐れることはってうわぁぁぁぁぁ!!!!」
「デビットがやっぱりやられたーーー!!!」
「あの人何しに来たんだよ。フィクサー1でどうかなる相手か?」
「しんくー!! しぃぃんくぅぅぅーーーっっ!!!」
「て、天子様、お美しい……がふっ、永続調和……」
「おい、美形のにーちゃんが血を吐いて倒れたぞ!! 病気かなんかじゃないのか」
「あ、そいつほっとけ。どーせ死なねー、死ぬ死ぬ詐欺はいつものことだから」
「しんくー……シンクー!! ウィー!!」
「天子様がウエスタンラリアットを!? あのチン毛みたいな頭のヤツ大丈夫か?」
「あ、そいつはとどめ刺しておいて。いても何の役にも立たないから」
「やりたい放題だなこいつら」
真紅の翼を大きく広げ、漆黒の宇宙を駆け抜けるデスティニー。目の前に広がるフリーダムでカオスな戦場は、見ているだけで気が滅入ってくる。
クワトロ大尉とのタイマンは正直気乗りしないのだが、もしかしたらこの空気に浸るよりはマシなのかもしれない。
「集中しなさいシン、今の貴方には敵を気にしている暇は無い筈よ」
「そうね。カミーユやロランたちが名有りキャラを引き付けてくれてるんだから、急いで行かないと」
「まあそれはそうだけど……てかなんでみんな此処にいるんだ?」
とりあえず誰も現在の状況に触れないので自分で突っ込んでみる。
それでなくてもZEUTH・アクシズ連合は数で負けてるのに、デスティニーの周囲にいるのはバルゴラ・インパルス・スーパーガンダム・メタス・ギャブラン・森のくまさんの6機。
自分の恋人であるルナマリアとセツコはともかく、カミーユ絡みの面々が自分の周りにいるのは何故なんだろう。
「え? そりゃだって、ねえ……ほら3人共、他の所行きなさい。この面子じゃ貴方たちは戦力外なんだから。あっちの端っこの辺りなんかかなり苦戦してるわよ?」
「エマ中尉こそ。ロングライフルは後方からの援護射撃で活きる武器です。持ち味を生かす事こそ戦場での正解ですよ?」
「それを言うならファが下がるべきだと思うんだけど。メタスじゃ戦力にならないんだから大人しく修理要員として働いた方が」
「安心しなさい。今の私はハロを2つ付けてるから、ちょっとやそっとじゃ落ちないから」
なんという無駄遣い。
とりあえず話を聞いていてわかったことは、別に彼女たちは自分を守りたくてこの場にいるというわけではないということ。彼女たちにとって重要なのはこの場にいることらしい。
答えを求めてルナマリアとセツコを見ると、2人とも微妙な表情をして首をすくめた。呆れたようにも見えるその様子、つまりはカミーユ絡みの内容と言うことだろう。
その事を問いかけようと口を開きかけた瞬間に次の敵が現れ戦闘に入る。数は7小隊、結構多い。しかもどんどん周囲の敵が集まってくる。
それだけ目的地が近いということか。
「シン、貴方は先に行きなさい!! ここは私たちが仕切る」
「エマさん!? 急に何を……」
「いいから早く行きなさい!!」
「シン君、ここは任せて先に行こう? 私たちも続くから」
「うん……いや何なんですかこのテンションアップは」
シンを襲おうとしていたグフを蹴飛ばし、いつの間にかスーパーガンダムからMK-2に戻したエマが叫ぶ。その背後ではフォウたちによる気合の入った叫び声。
敵が現れた瞬間テンションが上がり皆自分に注目しろと言わんばかりに暴れまくるその姿に、流石のシンもなんとなく彼女たちの思惑がわかってきた。
おそらくカミーユにとってのヒロインだと皆が認めるくらい存在感を増したい、もっとざっくり言うと目立ちたいということなのだろう。
そのためには戦場の端っこで数少ないモブ相手にチマチマやるより中心で無双してた方がより効果がある。
つまり現在の状況を条件に表すとこうだ。
勝利条件:デスティニーをネバーランドに到達させる。
敗北条件:①キュベレイの撃墜。 ②デスティニーの撃墜。 ③アクシズ軍の戦力が50%以下になる。
①はまずありえない。③は戦場が広いため、何処で戦っても大して変わりは無い。となると注目すべきは②である。
敵もZEUTHの撤退を目論んでいるだろうから、当然デスティニーへのマークはきつくなる。密集する敵MS。膠着する戦線。
そこで突如、無双を開始する女性パイロット。
あれは誰なんだ? 知らないのか、Ζガンダムのヒロインでカミーユの彼女だよ。なにー、あいつの彼女ってあんなに強いのか。そんな流れが狙いなんだろう。
カミーユ相手に外堀を埋めるやり方は通用しないが、それでもやらないよりはマシだし。
「それじゃ、俺たちはもう行きますから。……気をつけてくださいね」
「自分の心配をした方が良いわよ。あんなんでも赤い彗星って言われたほどの男なんだから」
「了解です」
とりあえず状況は把握したので安心して後を任せることにする。
バルゴラに手を引かれ宙域を離脱するデスティニー。その背後ではルナマリアとエマ中尉が通信で何やら話し合っていた。
あの2人まだ喧嘩しているというのか。もういい加減仲良くしたらいいのに。
「ルナマリア!!」
「なんですかエマ中尉」
「絶対に、男たちに責任を取らせるわよ」
「……余計なお世話ですよ」
しばらく睨みあっていたが、不意にニヤッと不敵に笑い合う2人。どうやら自分の心配は余計なものだったらしく、いつの間にやら宿敵と書いて友と読む流れになっていたようです。
そして飛び立つインパルスを見送り、MK-2は視線を再び前に戻す。その眼前には長銃を構えている黒いブレイズザクファントムの姿。
「その顔、何だかムカつくのよコラァ……」
私こそがヒロインじゃあというフォウたちの叫び声をバックに、ゆっくりとザクに近づいていくエマ。その声には何故か怒りが込められている。
そしてついに怒りの声をあげ、敵を撃つべく飛び込んでいった。
「私は 『狡猾で残忍な金髪の色黒』 が大嫌いなのよ!!」
すんませんエマさん。そいつ、迂闊で残念なやつです。
「ハイ・ストレイターレットで道を開きます。それまで援護をよろしく!」
「ルナ、セツコさん、それを撃ったら早く仲間と合流してくれ。もう付いてくるのはここまででいいから。これ以上深入りしたら2機だけで孤立することになる」
「それを言ったらシンだって孤立しちゃうでしょ。 あんなロリコンどもに遅れは取らないから、素直に護衛されてなさい。
セツコさん、この場は私が抑えるからその後はよろしくね」
「ちょ、何言ってるんだルナ。内容こそアレだけど、ここは間違いなく戦場なんだ。ここから後は俺に任せりゃいい」
1機で突っ込むので自分の心配して下さい (意訳) というシンの言葉。心配してくれるのは嬉しいが、流石にそれは空気読めてないんじゃないだろうか。
素直に一騎討ちできるとは限らず、敵がまだ策を残してる可能性だってある。シンならばそれすら突破しそうだが、それでもその後クワトロ大尉と戦うのは無謀だ。
そもそもなんでシンが大尉と戦う必要があるのか。ここが戦場だと言うのなら、シンだって傷付く可能性があるというのに。
「馬鹿言わないで。それを言ったらシンだってあんな化け物と一騎討ちする理由はないじゃない。なんで自分から危険に飛び込もうとしてんのよ」
「確かに周りの連中に乗せられた部分はあるけどさ。でも、俺には託されたものがあるんだ。
ぶっちゃけ扱いはぞんざいだったけど……それでも 『行って来い』 って託されたからには頑張らないと」
想いを託されてそれぞれに送り出されたというよりは藤田東にフラッシュパスされるサッカーボールのような扱いではあったが、それでも多くの仲間が自分の身体を銃口の前に晒してくれたのだ。
ハマーンさんのこともあるし自分が戦う条件は揃っている。それが逃れられないものであるならば、他者から強制されるのではなく自分から向かっていきたい。
シンのその言葉を聞いたルナマリアはビームライフルを連射しながらデスティニーと背中を合わせ、背後のシンに語りかけた。
「そっか……うん。やっぱりシンを選んで良かったわ」
「は? なんだよ、唐突に」
不意打ちの愛の言葉に、それを聞いたシンが思わず面食らう。久々に見た彼氏の幼い表情。あまりに無防備すぎてゾクゾクしてしまった。
戦闘中にサカってる場合ではないので楽しむのは数秒にしておいたが。
「でもね。心配してくれるのは嬉しいけど、鳥は大空を舞ってこそ初めて美しいと思うのよ」
「……すまん、俺バカだからもっとわかりやすく言ってくれると嬉しいんだが」
つまりどういうことだってばよと言わんばかりのシンに思わず溜息を吐く。こんにゃろ、言葉の意味なんて今までの流れでなんとなく把握すればいいのに。
そういう鈍感なところも含めて愛しいと感じる自分は既に末期なのだろう。
この愛しい鈍感男に自分たちの思いをわからせるため、ルナマリアは大きな声で叫ぶ。こうなりゃヤケですよ。
「エマ中尉たちだけじゃなくて私たちにも、好きな男の子の前でかっこつけさせろってこと!! おーけー!?」
ちょっと直球過ぎただろうか。ヤケで言ったとはいえ少し恥ずかしくなってきた。
でもまあ画面の中の嬉しそうな顔がその対価であるならば、十分元は取ったと言っていい。
「……わかったよ。でもわかってるとは思うけど、無理しちゃ駄目だからな。お前がケガでもしたら本気でヘコんじまう」
「約束してあげるわよ。付きっきりの看病は魅力的だけど、シンがヘコむんじゃ可哀想だし。それじゃセツコさん、シンをよろしくね」
「ええ、必ずネバーランドまで送り届けます。私たちの旦那様を」
「うん」
そう言うと、バルゴラとデスティニーはネバーランドへ向けて飛んでいった。
ルナマリアはエクスカリバーを両手に握り、2機を追おうとする敵の前に立ちはだかる。
「さてと……月並みな言葉だけど。此処から先は通さない」
刮目し覚悟せよ数多の病人ども。
汝等が目にするは巨大な聖剣。
青き鋼鉄の巨人に身を宿した、汚れなき月の聖母。
―――ここに。
終わりにして絶対不落の、真なる守り手が存在する。
「ネバーランドこらぁ!!! お前ら、もしルナを一瞬たりとも痛め、泣かせる様な事があったら!! 我魂魄百万回生まれかわろうとも、恨み晴らすからなぁぁ!!!」
「……なに言ってんのよ、ばか」
もういいから自分の心配してなさいと思わないでもないのだが、嬉しくないわけが無いのでとりあえず素直に照れておく。
敵の先頭は青いKMF。何とか様の為にとか、愛する誰かの名前を叫んでいるようだが正直どうでもいい。
「………行ってこい。マイダーリン」
恋する女は無敵なのだ。ここから先へ行こうという者は、たとえ神様だって殺してみせる。
「セツコさん、急ごう!!」
「ええ! ……いや、向こうもそう簡単には行かせてくれないみたい。隠れてないで出てきたらどうですか!?」
「なに!?」
誰かの存在に気付いたセツコがガナリー・カーバーの銃口を右に向ける。その先のデフリ地帯には何もいない……いや、いた。
デフリの陰から姿を現したのは強行型アクエリオン。アルファということは麗華さんか。
「……待ちくたびれたわ」
「貴方ですか。この戦いに途中参戦してからずっと、私に視線を向けていたのは」
「気付いていたの? まあ、そういうことになるわね」
どうやら他のエレメントは乗っていないようなので、1人で操縦していらしい。グレンさんが乗ってた敵バージョンのアクエリオンか。
しかしなんでまた。わざわざ1人でこの場にいる辺り、ガチで戦いに来ているようだが。
「なんで麗華さんが……ロリコンとは程遠い所にいるじゃないですか。どうしてネバーランドになんか与しているんです」
「別にネバーランド云々に興味は無いわ。ただ、貴方の隣にいる人は必ずネバーランドの敵に廻るだろう……そう思っただけよ。
かつての私は不幸を極めると誓った。だから彼女とはどうしても決着をつけなければならないの。
そしてセツコ・オハラを倒して、多元世紀最高の不幸キャラと呼ばれたい」
そんなもん目指してどうするよ。そう突っ込みを入れたかったシンだが彼女の気迫がそれを許さない。
強い視線の先にはバルゴラの姿があった。とりあえず麗華の狙いは自分ではなくセツコの模様。
「……シン君、先に行って。この人は私がやるから」
「わかりました」
今の言葉の何処に引っかかったかはわからないが、カチンときた表情で臨戦態勢に入るセツコ。
それに巻き込まれるのは嫌だったので、シンはこの場を後にすることに決める。射程範囲まで近づいてもアクエリオンに反応はない。
どうやら本気で自分に興味は無いのだろう。ならばセツコさんも応える気まんまんだし、好きにすればいい。流石に生きるか死ぬかまでの戦いはしないだろうし。
とりあえずシンは、道を開けてくれたお礼に一言だけ忠告しておく。
「麗華さん。アンタ外れクジ引いたぞ」
「………さて、どうかしらね」
飛び立つデスティニーの背中をぼんやりと見送り、セツコと麗華はようやく視線を合わせる。
この場に残されたのは女2人。不幸の宿命をその背に背負った、儚いという言葉から最近離れつつある2人の美女だけ。
ゲーム本編ではまったく絡まなかった夢の対戦カードがここにっ。
「私と戦うのは、不幸を極めるためなんですね?」
「何なら他の理由でも構わないわ」
まだ他に理由があるというのか。そう言いたげなセツコの目を見つめて麗華の独白は続く。
「ZEUTH内で 『不幸だ』 と呟いても、同情された試しがない。なんかおかしいなと思ってたら、その場にはいつも貴方がいた。もしくは勝平君」
「はあ……。でも、不幸って人と比べるようなものじゃないと思いますけど―――」
要するに私怨も混ざっているということらしい。セツコの呆れたような言葉を遮ると共に、アクエリオンがバルゴラに襲い掛かった。
インパクトカノンとレイ・ピストルの火線が交差し、PSG量子反応砲とグローリー・スターがぶつかり合う。
武器の威力やセツコの小隊長能力などデータだけ見ればバルゴラの方が優位に思えるが、実際に戦うとサイズ差の問題もあってそう簡単にいくものでもない。
アニメ本編を見てわかるように、アクエリオンだってかなりの高機動なのだ。しかも麗華個人の格闘スキルもかなりのもの。
一瞬でも隙を見せた瞬間勝負が決まるということを、お互いが理解していた。
「あんまりソワソワしないでな虎縞ビキニつけたまま彼氏の部屋から丸一日出てこなかったりするあなたが、不幸っぷりで私より上に行くなんて十年早いのよ!!」
「な!! ……そ、そんな挑発にひっかかると思って」
「浅い知識で物まねするからシンの反応も微妙だったのに、それに気付かないで幸せそうに喘いでいたのは何処の誰!?
な~にが 『ダーリン、私もうイクっちゃ』 よ。大体ラ○ちゃんの一人称は私じゃなくてウチなのに」
「言うなぁぁぁっっ!!!! ……ハッ、しまった!!」
「隙有り!! 喰らいなさいセツコ!!」
技量と機体性能にそこまで差が無いのなら、勝負を分けるのは集中力。長期戦に持ち込むのを嫌った麗華はそこを突くことに決めた。
全回線を開き、セツコの清楚な外見とは裏腹にベッドの中ではとことん貪るタイプであることやイタい失敗談を戦場へと流す。
夜の生活を全軍にバラされ集中力を乱すセツコ。その事自体は無理も無いが、敵の手に乗せられたと気付いたときにはもう遅かった。
当然その隙を逃す麗華ではない。名前の由来が全然分からない必殺技・昇竜天雷で蹴り飛ばし、そのまま死に体となったバルゴラに高速で接近する。
続く一撃は何か。そんなもの、一つしかない。
「不幸最低拳 (不幸のどんぞこ) ……桶の底を抜けぇぇぇぇぇ!!!!」
不幸を断ち切るのではない。己の不幸の格を見せ付ける。
渾身の力を込めた右拳をまともに受けたバルゴラは、勢い良く浮遊していた戦艦の残骸に突っ込んだ。
そのままの姿勢で敵の反撃を待つ麗華だったが、瓦礫に埋もれたであろうバルゴラに動きは無い。
勝った。自分の不幸の一撃がセツコの不幸の力を上回ったのだ。
勝敗が着いた以上命まで奪う気は無い。呆気ない決着に若干拍子抜けしたものの、それでも幾分かは満足した麗華は踵を返し、次の標的であるソシエの許へ向かう事に決めた。
セツコに比べれば格は落ちるが、若い芽は摘んでおかないといけないし。
「フン、何がスパロボ史上最も不幸な主人公よ。私の不幸と比べれば、そんな称号……なっ!?」
勝ち誇った声は背後で起こった爆発によって容易くかき消された。それが誰によってもたらされたものなのかは言うまでも無い。
バルゴラ・グローリーが瓦礫を吹き飛ばし、戦場に舞い戻る。
その光景を前にそれでこそ我がライバルなんて余裕のある言葉は吐けなかった。直撃させたのは自分の最強の一撃。ダメージを換算すると1万以上は軽い筈である。
なのに、その装甲にはかすり傷一つ残ってはいない。
「これが不幸最低拳? ………そっかそっか」
「た、足りないのならもう1回! でやああああああっっっ!!!」
もう一撃。渾身の力を込めた拳は今度こそ確かにバルゴラを捉えた。
しかし相手は微動だにしない。殴りつけられた頭部を少し傾けるだけ。
「………ふふっ」
静かに笑うセツコの声に、本能が恐怖を覚える。
麗華はその恐怖を振り払うかのように、幾度も拳を叩きつけた。
「くっ、来るなぁ!! 不幸最低拳!! 不幸最低拳!! 不幸最低拳!! 不幸のどん……そんなっ!?」
「どんぞこどんぞこって……。落とし穴に落ちても、廊下でコケても、必ず隣の王子様がラッキースケベ無しの無償で助けてくれるあなたの。
本命のシリウスさんとキープ君のグレンさんだけじゃ飽き足らず、劇場版じゃアポロ君にまでちょっかい出してるあなたの。
一体、何処が不幸なんですか? 最低ってそういう意味での最低なんですか?」
何発かは成すがままに拳を受け続けていたバルゴラだったが、受けるのにも飽きたのか繰り出されたアクエリオンの左拳を掌で軽く受け止める。
不幸不幸とさっきから黙って聞いていれば。壱発逆転篇でアポロと至近距離で仲良くランラン歌ってフラグをばら撒くほど余裕のある貴方が一体何を言っているのか。
シリウス死亡済みの創星神話篇では、アポロにコナふっかけるばかりかピエールにまで助けて貰ってた貴方の何処が不幸なのか。
そう言うセツコに思わず気圧される麗華。気が付けばいつのまにか両機の大きさが同サイズになっていた。馬鹿な、不幸の力を吸ってハイパー化でもしたというのか。
巨大化したバルゴラがそのまま掌をゆっくりと閉じると、アクエリオンの拳がくず鉄のようにポロポロと崩れていく。
「不幸自慢にも限度があるでしょうが……ね? ――――――はぁっ!!」
「あうっ!!」
ガナリー・カーバーでもなくレイ・ピストルでもない。何の変哲も無いただの右ストレート。
しかし不幸最低拳と同じ原理で、己から湧き出る不幸なオーラを右拳に込めているためその破壊力は尋常ではない。
吹き飛んだアクエリオンのコックピット内に、動作不良を表す項目が幾つも浮かび上がった。
「そ、そんな……。私が不幸という自分のフィールドで、ここまで一方的に……」
いくら序盤の敵でも雷属性の敵にサンダガを放ったところで吸収されてしまうように、本来不幸属性をもつ自分ならば不幸の力を無効化できるはず。
しかしそれすらもできないということは、この子の不幸レベルは自分のそれとは次元が違うということなのか。
「確かに "今の私" は幸せですよ? 自分たちの関係は変わってるとは思いますしシン君を独り占めしたくなる時は結構あるとはいえ、4人でいるのは本当に楽しいから。
でも "これまでの私" が幸せだったかと言うとそうでもないです。少なくとも麗華さん程度の不幸な人に大したこと無いって言われるほどじゃ……」
手をブラブラと振りながら、巨大化したバルゴラがアクエリオンへと近づいていく。
その蒼い機体の背後に、一瞬死神の姿が見えたのは気のせいだろうか。
「ないですね」
もはや勝敗は決した。ラオウを見下ろすケンシロウの如き目に、麗華は自分の敗北を悟る。
よく考えれば当たり前のことだった。むしろなんで自分はそれに気付かなかったのか不思議なくらいだ。
戦災孤児で昔の記憶は無し。
隊長が目の前で死亡。
淡い恋心を抱いていた先輩も目の前で死亡。
上記の2人を殺した男にリアルでボッコボコ。
先輩は実は生きていた → んなわけねーだろバーカ
スフィアの影響で五感が無くなっていく。
平行世界の隊長と先輩を返り討ちにするハメに。
頼りにしてた仲間は、実は最初から自分を騙してました。
そして、
ア サ キ ム
「やっべ、この子本当に不幸だ。私よりも」
何故自分はこれに勝てると思っていたのだろう。
麗華の最後の思考は、バルゴラが放った回転蹴りによって途絶えた。
「どうもクワトロ大尉。お待たせしました、と言っておきましょうか?」
ここにくるまで随分時間が掛かってしまったが、ようやくクワトロ大尉の許に辿り着いた。
戦いの流れはZEUTHが優勢になってきているにも関わらず、彼の表情からは焦りなどを見ることはできない。
「そうだな、随分と待たせてくれたものだ。……まあおかげで季節外れの花火を楽しませてもらったがね」
花火とは戦闘中の爆発のことだろうか。それともただ気分で言ってみただけか。
一つだけ言えるのは、自分はこんな事で生きている実感ってやつを感じたくないということぐらいである。
「どうせ他の連中はZEUTHの皆が倒します。だから後は貴方だけですよ、クワトロ大尉。
こんな争いなんてすぐに止めて、大人しくハマーンさんの許へ戻ってやったらどうですか」
ここでダラダラしていてもしょうがないので、そう言って降伏を勧めてみた。無論シンだってクワトロが本気で嫌がっているのなら無理強いするつもりは無い。
しかしこの騒ぎが起きるまで外から見ていて、彼ら2人の雰囲気はかなり良い感じだったのだ。きっとゆっくり話し合えばお互いが納得する結論が出るだろう。
もし戦ったとしても、自分がこれまで温存しておいたSPを出し惜しみなく使えば十分対応は可能な筈だ。
真紅の機体はハンパなく強そうだが、自分のデスティニーだって原作ルートではHP6万近くのボス機体である。同じMSである以上そこまで差はあるまい。
ただ、一つだけ気になることが。目の前のこの機体、自分が想定してたサザビーという機体と形状が違うのだが。
「随分と余裕だね、シン。君はこのナイチンゲールのHPがどれだけあるか知っているのかい?」
ってこれがナイチンゲールだったのかよ。いつの間に乗り換えていたと言うのか。
こんな機体を開発していたという情報は誰も掴んでおらず、先ほど現れていたときも遠目だったため、自分はサザビーと見間違えていたらしい。
しかし今はそんなことはどうでも良かった。
絶望的な次の言葉に、意識を全て持っていかれたから。
「16万や」
なん……だと………?