それは何年か前 チラシの裏に書いた夢
シャア・アズナブル
私は1STの時から年下の女の子が好きで、若い子をよく口説いた。
ララァが亡くなった後はハマーンを抱いて、ハマーンが榊原ボイスになったらすぐに地球に行った。
自分の限界を知ったのはエゥーゴの時だった。
カミーユやシロッコはニュータイプ能力が凄くて、機体もずっとチートで、 自分の百式と比べたらぜんぜん違っていた。
己の行くべき道を決める時が来た。
現実に続き2次元まで腐っていく現在について心の中のララァに相談したら、
「自分のやりたい事をやりなさい。でもガンダムさんだけは中の人がやらないって言ってるからやめなさい」 と言われた。
だから私はこう言った。
「子供たちの楽園を作りたい」
ララァは苦笑いしていた。
黒のカリスマと呼ばれるネット世界の住人たちには「お前の傍にはハマーンがおるから絶対に無理やぞ」と言われた。
それは解っていた。でも、将来は……。
――――誰の為に戦っているのですか?
「妹の為……だと思う」
全てを薙ぎ払うために、皆を守れる存在になりたかった。
死んだ妹に誓った夢は、世界を平和にする事
友人 レイ・ザ・バレル
「時々シンにこんな事を言っていたんだ。 これを言うとシンに怒られてしまうのだが……。『神様たちはお前の願い事だけは絶対に叶えてくれないと思う』 って」
レイの言うとおりだった。夢は最終話とファイナルプラスで、手から零れ落ちていった。
慰霊碑をバックにルナと歩きながら、本当に考えた。
もう諦めようか……
でも、あれは誓った夢だから。
もう一度、やってみる。
人生にはいろんなことがあって
―――――マユ、ステラ……やめろぉぉぉぉっっ!!!!
―――――議長、運命は一人一人が切り開くものだ!!
本当にいろんなことがあって
―――――ララァ・スンは私の母親になってくれたかもしれん女性だ!!
―――――赤い彗星と決別したからこそ、私はお前を認めない……! クワトロ・バジーナとしてお前を討つ!!
いろんな夢を諦めて
人は、大人になるのだろうか
五月五日
シン・アスカ VS シャア・アズナブル
「………大尉、これ何ですか?」
「暇だったから煽りV作ってみた」
頭痛を堪えつつ元先輩に眼前の映像について問うてみる。質問に対する返答はこのうえないどや顔だった。
画面の中では赤いパンツを穿いた大尉が 「俺はニュータイプだ!!」 と叫びながらブランからマウントを取ったり逆にアムロに上からパウンド浴びてKOされたりとはっちゃけている。
一方の自分はというとトレーニングルームの訓練風景や素人参加番組での騎馬戦で起きた乱闘の際にベローをハイキック葬した映像などが使われていた。
赤いアホ毛がチラチラ画面の上部に見えるから、多分ルナが撮った映像なのだろう。俺なんか撮らずに自分を撮れば良い目の保養になったのになぁじゃなくて。
「すげーやクワトロ大尉、あの神煽りVをここまでレイプできるとは。伊達に戦極でのナレーションをフルボッコされてないですね」
「あの時はいろいろパロディも頑張ったんだからそれは言わないでくれないか……って何だコレ? シンの方は真面目に作ってやったのにこの敗北感……」
テンションだだ下がりのシンの声に、シャアはぶつぶつ呟きながら不貞腐れる。もしかして自分に感謝の言葉でも貰えると思っていたのだろうか。
しいて一言言えるとすれば、その配役じゃクワトロ大尉1分ちょいで瞬殺されますよという忠告くらいなのだが。
「………戦いましょうか。でやああああ!!!!」
「………そうだな。ぬぅん!!!」
気を取り直して戦闘を開始。刃を交わすデスティニーとサザビー……ではなくナイチンゲール。
敵の得意な中~遠距離戦は捨てて接近戦に活路を求めたシンだったがシャアも去る者、年季の違いを見せつける。
自分とデスティニーの全力である対艦刀の連撃、その剣嵐を隠し腕のサーベルで流すように捌くその動きはまさに神業と呼ぶに相応しかった。
こっちのHPが敵仕様じゃないのを差し引いてもこの強さ、流石はオリジナル作品を差し置いてラスボスを張った男なだけはある。
「くっそぉ……。まさか、接近戦でもここまでの差があるなんて……」
「まゆちゃんカンフーで鍛えた格闘値は伊達ではない。しかし君の力はその程度なのかシン・アスカ!!」
「ちぃっ、これがUCを生き抜いた男の力かよ……!!」
やべぇこの機体も大尉もマジで強ぇ。つかこの人ここまで本気なのかよ。SRポイント取った記憶は無いぞ、いつこのステージHARDになった。
ドン引きするほどのロリコンはマダオ (まるでダンディという言葉から程遠いオルソンの略) だけで十分だってのに。
「それも当然だ。今の私には迷いなど無いのでな。―――そう、私シャア・アズナブルが世界を変革しようというのだよ、シン!!」
「クワトロ大尉……アンタに憧れていたのに。尊敬していたのに!」
「知らないのかい? 憧れは理解から最も遠い感情だよ」
「……もうアンタは、俺の知っている大尉じゃない!!」
マジで。
「ほう、では聞こう。君は私の何を知っている。君は私の何を理解できる。
ハーレム持ちなだけではなく、彼女たちへの挿入前には必ず先端に 「CHU ♡」 とハートマーク付きのキスをして貰えるリア充の君に一体私の何が分かる!?」
「なんでどいつもこいつも俺の性生活に詳しいんだよ!!」
情報駄々漏れじゃないかくそったれ。
確かに毎回して貰ってるけれども。セツコさんとラ○ちゃんの格好でエッチしたこともあるけれども。
カウガールはすっごいぶるんぶるんしててまさにロデオって感じだったし、婦警さんの取調べや手錠を奪い取って強引にってシチュも素晴らしかったけれども。
なんでアンタたちがそれを知ってるんだよ。誰だ、誰が情報をリークしたんだ畜生め。対ルナマリア用の兵器 「遺憾の意」 を発動させた程度ではすまさんぞ。
「常に修羅場なカミーユと違ってセツコたちに仲良くさんとうぶんされている君の存在は、子供たちの思想に悪い影響を与えかねないからね。
本当は最終決戦の後の1対10も参戦するつもりだったのだが、あの時ハマーンがこっそり私の服の裾を掴んでいたりしていなければ君は……む」
「振り払ったりはしなかったのか……さりげなくデレは見せるくせに攻略までは許さないとかまさに外道だなオイ。
というか、そうやってまだあの人を大切に思ってるんだったらもう1回……どうしたんですか」
フラッシュエッジには隠し腕。ファンネルにはパルマフィオキーナの連射。ライフルを連射すれば謎のエネルギー切れを起こしメガ粒子砲を撃ったらパワーダウン。
下世話な話をしながらも最終決戦に相応しい激戦を展開する2人。しかしシャアの余所見と共にその動きが止まる。
その目に映るのは自軍 (ZEUTH) の快進撃。分かりきった展開であり特に気に留めるほどのことでもない筈だが……ああ、あの人か。
「いくぜ……グランナイツのみんな、最終合身に入る!! エルゴフォーム!!!」
「早く帰って鍋の時間にしようよ、エイジ」
「月光蝶を使います。コックピットだけは残しておくので安心してください。尤もその後のフォローはしませんが」
「まさかのキラ戦法」
視線の先では輝く蝶と炎の鳥が翼を広げ、立ちはだかるMSの群れを呑み込んでいた。
リアル系とスーパーロボット系の必殺技による夢の競演。それは良い。斗牙が鍋奉行に目覚めつつあるがそれはどうでもいい。
気にするべきなのはその奥の方。キヨシ役の人。
「カンチガイするな!! “カミーユ”ぅ!! 俺は暴れたいから暴れてるんだよォ!!!」
「知らないのか!? “レイ”ィ!! 俺が暴れてるのはお前が、嫌いだからだ!! バカヤロウ!!!」
「行け、フィンファンネル!! ……チッ、たまんねーな俺の仲間たちはぁ!! バカの上に素直じゃねーからよ!!」
「………」
「………」
アムロさん何してはるんですか。アンタだけが頼りだったのに。
「……もう、ZEUTHには常識人キャラっていないのかなぁ?」
「……そうだな。それにしても此方の幹部は皆、敗れてしまったようだ。アムロは槍持った雑兵で囲めば一瞬で終わると思ったのだが」
常識人キャラを返上し、ついにアムロまでボケに入る現状。これには流石のクワトロ大尉も苦笑い。
でも小山田さんの事は言ってやるな。
「だから言ったじゃないですか、他の連中はZEUTHが倒すって。……ネバーランド (貴方の夢) もここまでですよ」
「ここまで? 馬鹿な、まだ始まってもいない。―――私の夢はまだ、終わってはいない!!!」
「うおっ!?」
アムロへの嘆きで僅かに心を通わせていた2人だが、シンの一言にシャアが纏った空気が変わる。
まだ粘るのかこの人は。いや、この人だからこそこの局面でも粘るのだろう。なんてったって己の才覚一つで国を支配していた者達への復讐を完遂させた男である。
このぐらいの逆境なんて逆境と言えないのかもしれない。
次の瞬間には急に素早さを増したナイチンゲールがデスティニーの懐へ入り込み、サーベルを叩きつけた。
「そうだ、少女を愛でたいという願いが綺麗だったから憧れた!」
叩きつけるのは斬撃だけではない。己から生まれ出でる強い意志。
それはZEUTHの重鎮クワトロ・バジーナでもネバーランド総帥シャア・アズナブルのものでもなく、キャスバル・レム・ダイクンという1人の男の叫びなのだろう。
正直この人のこんなカミングアウト、一生聞きたくは無かったが。
「故に大人の女性と交際することに対し、自身からこぼれおちた気持ちなどない。これを虚言と言わずなんという!!」
ないのかよ。
「愛を交わす女性は成人でなければならないという、強迫観念につき動かされてきた。
それが苦痛だと思う事も、自分にとって破綻していると気付く間もなく、ただ女たちの間を走り続けた!!」
「最低だよこの人!!」
「だが所詮は偽物だ。そんな愛では何も萌えられない。
否、もとより、何処に萌えるべきかも定まらない―――!!」
繰り出されるシャアの苛烈な攻撃によって戦況は再び劣勢になった。シンはナイチンゲールの猛攻を切り払いや分身などを用いてかろうじて捌く。
だがこのままではジリ貧だ。いずれ必ずその攻撃がデスティニーを捉えるだろう。今の自分にできるのは、援軍が来るまでクワトロ大尉をこの場に引きつけておくぐらいである。
そう、あそこから自分たちの戦いを眺めているカミーユたちが来るまで……っておいコラ何やってんだお前ら。
「シンが押されている……いや、このまま続けば負けは明白でしょうね。でも、シンならきっと逆転してくれると僕は信じてます」
「いやいやいや、根拠無しでそんな期待してやるなよ。なんかないのかレイ?
怒りでパワーアップする勝利の呪文とかさ。足を180度回転させられそうなイメージしかないけど」
「駄目だ、手を出すなエイジ。シンはまだ負けてはいない! それよりカミーユよ、シンに対して激励の陣を!!」
「そうだな。よしみんな、激励の陣だ!!」
「「「 おう!! 」」」
カミーユの号令と共に4機が立ち位置を変える。一時的に分離したグランΣの肩の上にレジェンドが、同じくゼータの肩の上に∀が乗るこの体勢、これはまさしく激励の陣だ。
確かにその光景は壮観ではあるが―――
「「「「 勝負を捨てるなシン・アスカーーーー!!!! 」」」」
応援いらないから助けろや4バカ。
つかフェニックスにニンジャをぶつけるような真似すんな。
「ちくしょうこいつらアテにならないじゃんかよ! さっき俺をハメたばっかのこいつらに、少しでも期待した俺が馬鹿だった!!」
「おいあんな事言われてるぞ。アイツがあそこまでテンパるってことはよっぽど勝機を見出せないんだな。どうすりゃ勝てるんだろう」
「そうですね……修行編に入る時間は無いですし。大尉がサイコフレームを身体に取り込んで、顔面を両サイドに割ってくれれば勝機も見えてくるんですが」
「かませ犬化させるわけだな。こうなったらカミーユ、お前シンに最後の月牙でも教えて来い。斬魄刀の真似するの得意だろリングディンドン」
「喧嘩売ってるなら買うぞリングディンディンドン」
友情ってなんだろう? 最近頭の中をこの言葉が占めることが多かったりする。
とりあえずボケばっかりでまともな人間を友人にしなかった過去の自分を問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。
「なに、心配はいらないさ2人とも」
「アムロ大尉? 劇場版じゃまさかのかませキャラだった大尉が何を?」
「1番輝いてたのが漫画でザエルアポロ倒した時ってのがなんとも」
「ぶっ殺すぞお前ら」
もう中の人ネタはやめて欲しいんだがというシンの想いが届くこともなく気ままなフリートークを始める5人。つかこいつら本気で俺を助ける気が無いようだ。
さっきの流れだってクワトロ大尉が空気読んで攻撃を止めていなければ、今頃俺は宇宙の藻屑になってもおかしくなかったというのに。
「もういい、わかったからシンへの声援を続けてやれ。彼にはもう既に手を打ってある。少なくとも一方的にやられる事は無い筈だ」
「おお! 流石はアムロさんや!! これでシンは勝つる!!」
「やっぱνガンダムは伊達じゃないんだな!!」
「中の人が伊達のキャラに利用されてたけどな!!」
「だからそこあんま触れんな」
すんません大尉、そいつらに構う必要はないから続きを早く。俺にも……てかむしろ俺に詳しい説明してください。
今の俺は大尉たちが助けに来てくれないから現在進行形で大ピンチなんです。急がないと―――
「……もうちょっとだけ、待って貰うわけにはいきませんかねクワトロ大尉」
「十分待った方だと思うのでね。―――次で決めよう」
いや、もう遅いか。
「これは……この温かさはなんだ……!?」
次で決める。シャアがそう覚悟を決めた瞬間、周囲をひどく温かいものに包まれた。
例えるならばたくさんの手が自分の背を押しているような。人の優しさを形にしたならば、これの事を言うのだと感じてしまうような。
「そうか。そういうことか」
少し考えるとなんとなく予想がついた。
敗北へ流され壊滅していく自軍。それでも消えない想い。誰に託すかなんて決まっている。
この光は彼らの意思なのだ。若干オカルトめいているが、ここはジ・Oが動きを止める世界である。それぐらいは十分在り得た。
『大佐、いや総帥。俺の…俺の力を、吸って下さい』
「この感覚はギュネイ? そうか……君も敗れたか」
『はい。ですが、総帥が健在な限りネバーランドに負けはありません。どうか……勝利を、掴んでください』
「わかっているさ」
どこか遠くから放たれたギュネイの思念が頭に響き、自分を包むぬくもりが強くなる。
彼との過去に思いを馳せる前に、今度はボロボロのボルジャーノンがナイチンゲールに一瞬だけ隣接した。
そして精神コマンドが発生し自分の感覚がクリアになる。
これは直撃か。ということはこの機体のパイロットは
「ギャバンか……」
『情けない姿で悪いな。大したものじゃないが、せめて俺の直撃を使ってくれ。そして、ヤツらを……』
自分を励ますギャバンの声は最後まで放たれることはなかった。
その事を悲しむ暇もなく、シャアの視線の先には宇宙を漂うオシャレなサングラスが映る。それから聞き慣れた声が聞こえたような気がした。
『リタイアしてしまってすまないが……シンには先ほど分析をかけておいた。……じゃあ、先に行ってるぜ』
「オルソン!? ……クッ、君の犠牲は無駄にしない」
別にオルソンはシンに分析なんてかけてないし、そもそもあのかっこいいサングラスはオルソンのものな訳がないのだがそこはそれ。
まぁグラサン=オルソンみたいなもんだし、既に己に自己暗示をかけたシャアにはそんな現実は不必要だった。
そして自分に呼びかけるのは志半ばで倒れた仲間たちだけではない。ナイチンゲールに搭載されているサイコ・フレームが共鳴を起こしている。
緑の光が機体を包むように集まり、手にしているサーベルに収束していった。
――――ロリが認められるかどうかの瀬戸際なんだ!! やってみる価値ありますぜ!!
――――アグ○スの戯言など知ったことか!! あいつ自分の豪邸売ってからでかい口叩け!!
――――悪いねZEUTH、俺どうやら本物のロリコンだったらしくてさ。あいつの体を知っちまったら、てめぇらなんざ薄汚くて抱く気にもならねぇんだよババァ共!!
最後のやつが参戦してくれれば間違いなく勝ってたと思うのだがスパロボもACEも未参戦ではしょうがない。
そのへんは緑川の頑張りに期待するしかないないのである。いろんな意味でこのタイミングではもう間に合わないが。破界篇とか。
「こういう時に言葉は役に立たんな。やはり人類は変革のときに来ているのか」
シャアは現在この戦場にいる全ての部下、いや同志に感謝する。この想い、ありがとうという言葉だけではとても足りるものではない。
そして感謝と共に自分の歩んできた道が間違いでないことも実感できた。ああ、私のこの想いは――――――
「――――――――決して、間違いなどではないのだから……!!」
答えは得た、大丈夫だよイリヤ。私も、これから頑張っていくから。
そんな想いのシャアだったが、不意に目の前のデスティニーを見て眉をしかめる。サイコフレームを装備していない筈の彼の機体にもサイコフレームの光が集まっていたからだ。
馬鹿な、妹絡みで素養はあったとはいえ、サイコフレームも持たぬ生粋のおっぱい星人の彼が何故。
まさかこんな短期間で彼も幼闘気 (ロリコニックオーラ) に目覚めたと言うのか。
「……フ、今更だな。相手が誰であろうと構いはしない。私はただ、貫くだけだ」
そう、相手どうこうは関係ない。ナイチンゲールは静かにサーベルを構える。
この身は既に自分だけのものではない。自分の背を押してくれる者たちへ、自分の背中を見せつけなければならないのだ。
情けない姿などしてはいられない。
「シャア・アズナブル」
さあ決着をつけようかシン・アスカ。
自分にはまだハマーンとの戦いが控えている。こう言っては悪いが、君は前座の中ボスに過ぎない。
しかしタイマンに応えてくれたことに関する敬意を表し、せめて全力で葬ろう。
「―――――推参 (おしてまいる)」
「こういうこともあろうかと、か……。アムロさん、あの時から俺に投げる気まんまんだったんだな」
緑の光が集まっていくナイチンゲールを見つめながら、シンは気の抜けた声を出す。
手は打っておいたという先ほどのアムロの言葉。記憶を辿ると怪しいのは出撃前のあの挙動。
まさかと思いつつスーツを探ると尻ポケットからT字の物体が出てきたのだ。
実物は数回しか見たことは無いが、これは確かにサイコフレーム。出撃前の尻叩きはこういうことだったらしい。
そして自分の周囲をサイコフレームが漂い始めると、目の前のナイチンゲールと同じようにアロンダイトに光が収束していく。
決着の時は、近い。
「次が最後の一撃だ。俺の全ての力をこの一撃に込める」
これで条件は五分と五分。あとは想いが強い方が勝つ。
「アンタがハマーンさんや俺たちを捨てた代わりに得た力全部……全部まとめて使ってかかって来い」
勝てないかもしれない。自分のそんな声が頭をよぎるが、今だけは全力で否定する。
「アンタの全てを壊して―――――俺が勝つ」
「……良い目だ。これはこちらも本気を出さねばやられるか」
あれだけのカミングアウトだ。言いたいことはよくわかった。けれどこちらにも退けない理由がある。
ならばどうするかなんて決まってる。2つの道が交差するのならば、己の道を貫き通し、相手の道を断ち切るのみ。
「アンタが正しいって言うのなら!! 俺を倒して!! 証明してみせろ!!!!!」
2機の周りを緑の光が渦を巻くように囲んでいる。おそらくこの場の力全てが敗者に流れるのだろう。
それはまさしく真竜の闘い。実力の拮抗した者同士のみが行える、バーン様すらやりたくないと言う最悪の決闘。
あぁ、最早何も言うまい
語るべき言葉ここにあらず
話すべき相手ここにおらず
漢、ただ前を向き、ただ上を目指す
ただ前を向き、ただ上を目指す」
ナレーション自分で言うなやこのロリコン。
「はああああああっっっ!!!」
「おおおおおおおっっっ!!!」
2つの光が擦れ違う。
その胸に袈裟切りの跡を残し、煙を上げているのはナイチンゲール。そして
「私の勝ちだ、シン」
「―――――ああ。そして、俺の敗北だ」
左腕と左脚、そして翼。
その全てが切り落とされたのは、デスティニーだった。
「紙一重の勝負だったな。一歩間違えれば立場は逆だった」
「………随分分厚い、紙一重ですね」
切り離されたパーツが爆発を起こし、デスティニーは後ろへと吹き飛ばされた。ゆらゆらと漂うその姿、もう戦う力は何処にも見られない。
勝敗を分けたのはほんの僅かの差だった。ほんの僅か、シャアの方が深く前に踏み込んだということだけ。
全てが終わった後では何の慰めにもなりはしないけれど。
「この場に置いて行くが、悪く思わんでくれ。……我が好敵手、シン・アスカよ」
「……ああ、もう好きにしちゃってください。負けた俺にはもう、何も言う資格はないですから」
「――――待て、シャア」
風間によろしく。そう敗北を受け入れたデスティニーに止めを刺さず、次の戦場へと移ろうとしたシャア。しかしその動きは新しい声によって止められる。
声の主は4つの機影を従えて、ナイチンゲールの前に立ちはだかった。
「次は俺だろう?」
MSの正体はUCの奇跡の象徴であるνガンダム。パイロットの名はアムロ・レイ。
ついに連邦の白い流星が、ジオンの赤い彗星の前に姿を現したのだ。
その声に含まれているのは怒り。なんだかんだ言いつつもアホな事をしてる宿敵が自分の気に掛けている部下を傷付けたのが気に入らないのだろう。
いや怒っているのは彼だけではない。その背後に他の仲間が続く。
「………アムロ大尉、親友の俺が先でしょう……?」
“ !? ”
「死ぬまでやってやろうか、この紅エイジさんがよ……!!」
“ !? ”
「クワトロ大尉、貴方は……今回は修正一発で済むと思ってんじゃないでしょうね!?」
“ !? ”
「皆さん……僕が行くって言ってるでしょう?」
“ !? ”
拓ちゃんがやられた爆音の如くブチ切れるアスカファミリー with アムロ。怒ってくれるのは嬉しいが、だったら早く助けに来て欲しかったとシンは思う。
まあともかく自分の戦いは敗北という形で終わってしまった。しかし、不思議と自分に敗北感は無い。
ロリと複数という違いはあれど、愛してはいけない人を愛してしまった。それは俺と何ら変わらないんじゃないだろうか。そう思えてしまったのだ。
だから彼の思考にまったく理解が出来ないわけじゃない。ガチンコもやった仲だし、本音を言うとそこまで本気なら好きにしろよという気分だった。
ただ、一つだけ悔いがあるとすれば。
「……ハマーンさんには、悪い事しちゃったな」
この騒動のもう1人の主導者。誰よりも女らしい女性。
怪我させないように大尉を捕まえてもう一度ちゃんと告白させてあげたかったのだが。赤い彗星が相手では、どうやら自分じゃ役不足だったようだ。
「我ながら少し情けないな。友人……って言っていいのかはわからないけど、そんな仲の人の助けになることすらできないんだから」
「そうでもないさ。よくやってくれた」
自嘲の声を見知った声が断ち切る。声の主は言わずもがなのあの女帝。
純白の機体を躍らせながら、戦場に推参する。
「ハマーンさん、すみません……。俺、結局何も」
「もう何も言うな。……シン・アスカ、お前には心から感謝している。今後お前の身に何か起こったとき、私は世界を敵に回してでもお前との友情に応えるだろう。
だからもう十分だ。今は退がれ―――何をしている貴様ら、シンを早く連れて行かないか」
「了解、撤退します……みんな、悪いけどちょっと頼む」
「まあ後は本人同士に任せるしかないか……。レイ、シンをレジェンドに乗せてやれよ。爆発はしないだろうけど、流石に破損した機体に乗りっぱなしはシンが危ないだろ」
「わかった、いつ爆発するかも分からないしな……。ではカミーユは機体を頼む。気をつけて扱えよ」
ハマーンの命令に従い、半壊したデスティニーを連れて5機が下がる。
入れ違うように対峙するキュベレイとナイチンゲール。搭乗するのはUCを代表する2人のカリスマ。
メインイベントの準備は整った。
「降伏しろシャア。シンによってつけられたその傷では、このキュベレイと戦うことはできまい」
「確かにそうかもしれないな。だが」
ハマーンの気迫にシャアは思わず眉を顰める。彼女から発せられるプレッシャーはまるで暴風のよう。
しかしシャアには退く気は毛頭無い。渾身の力を込めて目に見えぬ壁を突破した。
「私はまだ、この世界への怒りを抑えることができない。私の拳が、私の上腕二頭筋が、私の魂が怒り狂っているのだ!!」
戦場に踏みとどまる。風は途絶えた。純白の機体まで大した距離はない。彼女がその気になれば数秒で戦いが始まるだろう。
ダメージを負ったナイチンゲールでは守勢にまわると持ち応えられそうにない。
故に。
勝敗はこの数秒で決せられる。
「来るか、シャア―――!!」
ハマーンの声が聞こえた。しかしそんな事を気にしている余裕は無い。
本来の機体性能ならばナイチンゲールが上回る。しかし手負いの今ではせいぜい互角、いやそれ以下だろう。
パイロットとしての腕なら迷いを無くした己に分がある。つまり技と体だけでは決着が着かない。
ならば勝敗を左右するのは精神力。想いの強い方がこの戦いに勝つ。
イメージしろ。最強の己を。
イメージしろ。目の前の相手を倒す力を。
イメージしろ。己の背後には、何があるのかを。
自分の未来に、何が待っているのかを。
―――――おお、あったかいご飯はこれが始めてだったり、ってミサカはミサカははしゃいでみたり!
―――――エ~ブリデイ、ヤ~ングライフ、ジュ・ネ・ス!!
―――――プルプルプルプルゥ~♪
―――――みんな、抱き締めて! 銀河の、はちぇまれ~~!!!
「ぬあああああああああああああ!!!!」
呼吸を止め、全ての力を右拳に叩き込む。身体中の血液が沸騰する。27の魔術回路を全てONにして叩き伏せる。BGMはEMIYAでよろしく。
残されたサイコフレームの光をナイチンゲールの右拳に集めるシャア。乾坤一擲のこの一撃、その気になれば原子すら砕けるだろう。
「まだその道を貫くのか、シャア。その夢の果て、終着駅は何処だ」
「ハマーン。戦いの終着駅は……ここだ!! ネバーランドシャイニングオーシャン……」
裂帛の気合と咆哮。
シャアは眼前のキュベレイに超低速のロケットパンチを放とうとして―――
「クワトロ大尉も、随分と甘いようで」
「………何、だと?」
背後から殺気。思わず振り返ると目の前には敵戦艦の姿。しまった、謀られたか。
砲門の中央部分には既に光が満ちている。この距離とタイミング、とても避けられるものじゃない。ニュータイプ能力で中にいる人間を感じた。
ブリッジ中央に視線を向けるタリア。頷きを返すデュランダル。来賓席で無駄に頑張っているラクスの種割れの意味についてはもう放っておいてやって欲しい。
手加減などするつもりは無し。彼らに共通している思いは一つ、赤い彗星を地に落とそうということだけ。
「しまっ―――――」
「焼き払え!!」
ハマーンによるクシャナ皇女ボイスが戦場に響き渡る。
そして次の瞬間、ナイチンゲールをタンホイザーの光が呑み込んだ。
「まだだ……まだ終わらんよ!!」
光が消えた後、その場に残っていたのは残骸と呼んで良いほどのダメージを受けたナイチンゲールの姿だった。
ボス仕様にまで高めたHPもイベント攻撃の前には何の意味も持たないと言うことか。むしろ良く生きていたと意外に思えるほどだ。
戦闘の継続など考えるだけ無駄。頭部と胴体の他に残されたのは拳のない左腕と飾りに過ぎない右足、そして逃げるためのブースターのみである。
「ヘルメットがなければ即死だった……」
説得力があるようでまるでない言葉を吐きながら、シャアは戦場を離脱にかかる。さりげなくパニくってるのかもしれない。
出撃した時には己のこんな姿など想定もしていなかった。
無論シャアも赤い彗星と言われたほどの男だ。此処までの戦いの中で油断や慢心など微塵もしていない。
だがシンとの激戦のあとに現れたラスボスオーラ全開のキュベレイを見て、思わず全ての意識をそちらに向けてしまった。
まさかそれを考慮した3段構えだったとは。意識の外からの攻撃には、流石のニュータイプも分が悪い。
そもそも調子に乗ってEMIYAまでかけたのがいけなかったのかもしれない。アーチャーってあの曲がかかったら敗北確定だし。
いやもう考えるのはやめよう。背後からファンネルが迫っている、今はそんな事を言っている場合ではない。
いけいけゴーゴーか。ニコニコバイバイか。一つ言えるとしたら、今の自分は千手ピンチということである。
「ええい!!」
ファンネルから放たれたビームが機体を掠める。機動力が低下した今となってはキュベレイのオールレンジ攻撃を避けるのは厳しい。
今はどうにかしているが、いずれ捉えられるのは目に見えている。
攻めに徹しないと勝てない。そう決意しメガ粒子砲を放とうと構えるが、画面には拒絶を表す言葉が記された。またパワーダウンかよ。
「これで終わりにするか、続けるか、シャア!!」
「そんな決定権がお前にあるのか?」
勝ち誇り自分に降る事を要求するハマーンの声。しかしまだ闘志は消さない。
生きている限りゼロではない。機体が動く限りできることはある。諦めたらそこで試合終了なのだから。
「……口の利き方に気をつけて貰おうか。いい加減私も堪忍袋の緒が切れるところだ」
「自分の意思ばかり押し付けて、勝手な事を!!」
ピキッ。
何かが壊れる音がした。発生源は目の前にいる女帝様。
これはまずい。虎の尾でも踏んだような、何かヤバいことをしちゃった匂いがプンプンする。死ぬか、死ぬかシャア。
「あ!? 何か言ったか? 言いたい事があるなら言えば良い。私も話を聞くぐらいはしてやるぞ。
ただし内容によっては最期の言葉になる可能性が大だがな。貴様はアクシズにとって反乱を起こした者なのだから、私の気分一つで絞首台からアイキャンフライだ。
それともそれが嫌だと言うのなら―――ここで朽ち果てるか? 月までドリブルドリブルしてやるのも良いかもしれん」
「ちょっと何言ってんのかわかんないです」
嘘だ。言葉の内容なんて嫌と言うほど分かっている。 月にッ! 着くまで!! 蹴るのをやめないッ!!
ほんとに死んでしまうなそんなことされたら。マシュマーあたりは幸福すぎて死んでしまう気がするが、生憎自分にはMっ気は全然無いのだ。
死ぬのなら東京ドーム一杯の幼女に囲まれながらジョニー・B・グッドを歌ってからにしたい。
「くっ!!」
「何処に逃げようというのだ。月は其方の方向ではないぞ」
ここからあそこまで何キロあると思ってるんだ畜生。一瞬で戦闘を放棄し、後ろに向かって前進だとばかりに駆けるシャア。
戦いはここで終わるわけではない。屈辱ではあるがネバーランドまで一旦撤退しよう。サザビーも置いてあるし守備部隊も残しているのでもう一勝負できる筈だ。
そう判断し逃げるナイチンゲールだが、キュベレイは立ち止まったまま追いかけようとはしない。
逃げながらもその事を疑問に思うシャアだったが、その疑問はすぐに晴れることになった。
自分の行き先に立ちはだかるのはミネルバ。タンホイザーはしっかりと此方を向いている。
「本当に残念だわ……申し訳ありませんが大尉、貴方はここでお終いなんです。
でも、その前に貴方にはオイタのことを謝って貰わないと。とりあえず、そこに跪きなさいな?」
「宇宙空間でどうやって―――」
「跪け。」
タリアの声と共に、ナイチンゲールの右足が撃ち抜かれた。放ったのは遥か遠くでロングライフルを構えたスーパーガンダム。
そして宙を漂う赤い機体を、ZEUTHの女性陣が告白に立ち会うウザい女友達の如く取り囲む。いやまああながちその表現も間違いではないのだが。
ちなみにネバーランド軍のモブ達はさっきのハマーンを見て速攻で撤退していた。助けに来る者などありはしない。
「心は……折れぬッッ!!!」
戦う術なんて何も無い。しかしナイチンゲールは拳の無い左腕を挙げてファイティングポーズを取る。
この女オオカミどもに屈するわけにはいかないのだ。そういえばオオカミって食べられるんだっけ?
「遊びは終わりですねクワトロ大尉。ネバーランドは娯楽リゾートとして他の人に経営して貰えば良いでしょう」
「そうね。私とカミーユの子供もいつか連れて来たいし」
「ファ、寝言は寝て言いなさい。せっかく映画館に来てくれた観客の前で無重力駅弁するような女が母親に相応しいわけないでしょう?」
「貧乳は黙ってろ」
「没個性女の分際で……!!」
「ZEUTHよ!! 私は君たちを蔑如する!!」
抗え、最後まで。シャアはいろんな意味を込めて目の前の女オオカミどもを否定する。
お前たちみたいな駄目な姿さらす女がいるから、幼女たちがその背中を見て育つんだろうが。
ツンの意味も知らずに暴力に奔る女が増えたり股開けば男が釣れると考える子ができるのだろうが。
個人が変わらないというのなら、その根幹たる世界を変えなければならない。その邪魔をする彼女たちの存在だけはは本当に――――
「勝者とは常に、世界がどういうものかでは無く、どう在るべきかについて語らなければならない!! 私は――――!!!」
「黙れ」
コックピットに響いたのは小さな呟き。
同時に身体中の熱が一気に冷めた。これは最終警告なのだと自分の本能が告げている。
「私は、『終わりにするか、続けるか』 と聞いている」
どうあがいても絶望と言わんばかりのハマーンの殺気。
それを目にして、シャアは腹を括った表情をする。その瞳に迷いは無い。男、シャア・アズナブルの姿をとくと見よ。
「返答なら決まっているさ」
そして、彼はその口を開いた。
「白アリ1号とお呼びください」
ほんとうに、ほんとうにありがとうございました。
「ああ~、良いお湯だぁ……。旅の疲れが取れるわマジで~」
「まったくだ。この温泉は女性の肌にも良いらしいから、まさに至れり尽くせりだなって熱っ何をするんだ!!」
手拭いを頭に乗せたまま、湯に浸かりはふぅと幸せそうな息を吐くシン。そして肩に湯をかける振りをして隣のバカの顔にお湯を飛ばす。
ここは地球にある温泉。名湯と名高い高級旅館の一つ。
当然1人で来る訳も無い。愛する彼女たちと休暇も兼ねた4人旅である。
「すごいねぇ」
「綺麗な夕焼け……感動しちゃう」
「まさに絶景ね。来て良かった!!」
立ち上がって柵にもたれながら、山々を紅く染めて沈んでいく夕日をみつめる女性陣。当然全裸なので綺麗な背中や色っぽいお尻が嫌でもシンの目に入る。
自分にとっての絶景は間違いなくこっちの方だ。今にもその姿勢のまま彼女たちの細い腰をしっかりと掴んでアロンダイトを叩き込みたいと思うくらい。
「何エロい目をしてんだよお前は。一応お前の隣にも金髪美人がいるんだぞ」
「お前は黙って帰れ」
なんだよーとふてくされるバカ姫は放っておいて、再びシンは3人を今度はNOT性的な目で見つめる。どうやら皆、今のところは満足してくれているようだ。
行き先を決める時点から旅行は始まっています。そう言って旅行パンフレットの山を彼女たちの前に置いたのは1週間前。
旅行に誘うなら自分がリードするのが普通だと分かってはいたが、こういうのは計画するときから楽しめるものだ。その楽しみを奪うことも無いだろう。
実際いろんなパンフレットを覗き込み、ああでもないこうでもないと行き先や泊まる宿を吟味していた3人の姿はとても楽しそうだった。
「ねえ……でも本当に良かったの? 私たちが決めといてこんな事言うのは何だけど、ここって料金凄く高いし、しかも2泊もするのよ?」
「金ならこの間の報酬たんまり貰ったし、FAITHの給料もかなり高くなったから心配は要らない。それに大したことは考えて無いよ」
「言っとくけど私はお金出さないからな。身体で払う気まんまんだから、むしろお前が金払う側だから」
「お前は呼んでないから帰れ」
つれないなぁ、今夜はサービスしてやんないぞーと拗ねる某国のバカ代表を無視してシンは彼女たちに優しく話す。つかお前のサービスなんぞいらんわ。
別に自分は無理してるわけじゃない。だからと言って彼女たちを逃がさないよう焦っているわけでもない。
戦いの内容こそ九回裏二死満塁からのサヨナラ敬遠みたいな微妙なものだったが、幼女の為に戦ったクワトロ大尉の姿を見て感じたことがあるだけ。
そう。ただ、自分は――――
「俺はただ、欲張りになろうって思っただけなんだ。皆に相応しい男になって、金も稼いで、楽しい思い出を沢山作りたいなって。
俺の傍にいて良かったって、みんながいつか心の底から笑ってくれるようにさ」
俺の大切な人を、俺の全力で幸せにしたい。
そう、その為に俺は今生きている。
「シン……!!」
「こらステラ、まだそれは早いわよ」
嬉しそうに笑うステラが抱きついてくる。右腕をミサイルで白羽取りされたシンは、思わず彼女を抱きしめそうになった。
湿った髪。水滴を弾く艶やかな身体。ルナマリアがステラを注意しなければ、間違いなくここでバトルが始まっていただろう。
仕方ないなぁと笑うセツコとルナマリアがステラを諭し始めた。
「この後はねステラ。美味しい夕食を食べて、お酒もちょっと飲んで。それで卓球やゲームで汗掻いちゃったりして」
「そうそう。そしてもう一度この温泉に入って汗を流したら」
「そっか。流したら――――」
色っぽい目でこちらを見てくる3人。
「「「 いっぱい楽しもうね? 」」」
このシン・アスカ。ご期待には――――全力で!!
応えれるといいのだが。
「フフフ……シン、私も期待しているぞ」
「アスハ、ちょっとそこの柵からバンジージャンプとかしてみないか? ロープ無しで」
「いいぞ。ただしお前の言うことも聞くんだからこっちの話も聞けよ?」
「やめい。ガチで死ねるぞ」
即答かよ。バカとは恐ろしい。
「いや、木に捕まればなんとかなるかなって」
「グロいオブジェになるだけだからやめとけ。それを逃れても間違いなく大怪我コースだろ。それぐらい気付け馬鹿おんな」
「いやまあそうなんだけどさ。お前が一言 『俺の心無い言葉でこんなになって……おわびに今夜は頑張るからな』 とか言ってくれれば、私もスゴいね人体できると思ったんだが」
「アンタ本当に混じりっ気無しの馬鹿だな」
ここまで来たら今夜はこいつも乱入してくるのだろう。しかし自分に彼女とする気はないし4人を相手にするほどの余裕もない。
ルナマリアが事の発端らしいので彼女に一任しよう。となると自分はセツコさんとステラに集中することになりそうだ。
なに? お前のアロンダイトがたった2人相手で満足するのかって? 馬鹿な、悟空とベジータが残ってるのに悟飯がいなくなったぐらいで無双ができるとか思ってるのか。
ちなみに俺はブロリー最強説なんて絶対に認めない。
「さっきから何勝手なことを言ってるんですか。シンは私たちのものです、代表にはあげませんから!」
「そうだルナ、もっと言ってやれ!!」
「確かにエクスカリバー君 (双頭バイブ) は持ってきたし一国の代表をめちゃめちゃにしてみたいってのはありますけどね。でも来ちゃダメですよ? 絶対ダメですよ!?」
「不安を煽る言い方すんな!!」
ダチョウ式拒絶術を使うルナマリアに一抹どころじゃない不安を抱くシン。ステラもセツコも自分が満足する分は必ず確保するタイプなので何も言ってくれない。
いやむしろルナマリアによる自分たちへの攻撃を、アスハを盾にして回避するつもりなのだろう。
自分もアスハにルナマリアの残機を少しでも減らして貰えばいいと考えなくもないのだが、こういうことに限って自分の思うままにはいかないのである。
「シン君、部屋に戻ろう? 夕日も沈んじゃったし」
「ごはん、ごはん~♪」
気が付けば太陽が沈んだ方角が微かに青いだけで、いつのまにか辺りは暗くなっていた。
のぼせてしまっても面白くないので、湯から上がることにする。また後で入れば良いんだし。
「いやほんと、何事も無い方が良いんだけどな……」
「うわお♪ シン、ほんとに凄いの持ってるのな」
「覗き込むなっつーのに」
バトルが開始されるのはあと数時間後だろうが、その時一体どうなっていることやら。
せめて明日の観光に廻す体力くらいは確保しておきたいんだが。
んで、結果。数時間後。
「も、もういいだろ? ここまで人をいじめたんだ、シンとは普通にさせてくれ……。そっちは私、経験無いんだよセツコ。話せば分かる」
「問答無用。恋人たちの逢瀬に割り込むんだからこれくらいのペナルティはないと。ローションだって使ってるんだから大丈夫ですよ」
「聞き分けの無い代表には、振動MAXで応えてあげましょうか。ステラ、スイッチ入れちゃって」
「うん♪」
「ちょ。ちょっと待て、自分たちは2周目に突入しておいて、私にだって少しくらい味見ひゃあああああっ!?
はあ、はあ、わかったそっちで良いから、言うから……ひぅっ! 言うからちょっと待ってくれ……あっ、ああっ!!」
布団の上では自分を無視して百合の世界が展開されてました。いやさっき4回戦が終了して休憩してるだけなんだけど。
あの清楚だったステラやセツコさんがSテラとかSコとか言われてしまいそうなくらいにアグレッシブに。ルナは女の子相手じゃ前からあんな感じだったけど。
一国の代表にトライチャージを決めてる彼女たちを見て、自分は本当に彼女たちを開発してしまったんだなぁとちょっと後悔。
ちょっとだけな。彼女たちの発言に不穏なものが混ざってたからそっちの方が気になる。
「すんません、俺に拒否権は無いんですか?」
「ステラはステラは振動を弱と強の交互にしてみたり」
「聞いてくれ」
俺のステラが壊れた。
「ん? んじゃシンの初めて散らしてみる? 私だってシンの初めての女になりたいし」
「そっちは一生守りきる予定なんで勘弁してください」
ルナはいつも通りだった。
「はぁ、はぁ、えーと……。さ、『捧げる』?」
「ホントに言ったーー!! シン、GOよGO!!」
「その後は私ねシン君。強めなの、よろしく」
「えー? セツコはさっき2回してた。ステラ、まだ1回しかしてないのに」
「だから話を聞いてくれって言ってんのに!!」
シンの泣き声は発情した女性陣のタックルに掻き消され、その晩彼らの部屋から声が途絶えることは無かった。
次の日の朝、シンがどんな状態で観光していたかは言わずもがな。
後にカガリはその日の事について語る。
快楽に流されてもう一つの処女を捧げると呟いた瞬間、4人のゴッドハンドが降臨して 『蝕』 が始まったと。
「「「「 全ては因果の流れの中に!!! 」」」」
「え、あれ? なんで皆俺に襲い掛かって……」
後にシンはその日の事について語る。
自分はゴッドハンド側だと思ってたら、1時間後には生贄になってて4人のゴッドハンドに貪られていたと。
「動いているのを感じる……なんだか不思議なものだなハマーン。この子はいつ生まれてくるんだ?」
「まだもう少し先ですよミネバ様」
青い空。風が心地良い高原。
ハマーン・カーンとミネバ・ラオ・ザビは、農業用コロニーの原っぱにシートを広げてピクニックを楽しんでいた。
後にネバーランド抗争と呼ばれた戦いから数年後。各方面からの援助を受け、現在のアクシズは大きな発展を遂げていた。
実質的な首領であるハマーンがZEUTHに触発され穏健派になったのもあり、軍事よりも内政に力を入れたのも大きい。
人口も大幅に増えた為居住区が足りなくなりまた食料の自給などの問題もあったため、放棄された戦艦やコロニー、近くの衛星などを利用してプラントに匹敵する国家を作り上げた。
イメージ的には動かないマクロス船団みたいなもんである。こっそり憧れていた変形機能については挫折してしまったが。
ZEUTHの力をバックに地球圏にもその存在を承認させ、かといって敵対行動も起こさず融和への道を歩んでいるため特に大きな問題も起きてはいない。
なので摂政であるハマーンと王女であるミネバが揃って休暇を取っても特に問題はなかったりする。
まあそろそろ本格的に産休を取らねばいけないので、代役を務めるであろう隣の男に再び本気を出させないといけないというのが今後の課題と言えば課題か。
「この子も大きくなれば、ミネバ様に仕えるに相応しいよう教育していくつもりです。その時はミネバ様も鍛えてあげてください」
「何を言っている、ハマーンは私の母同然だ。だからその子供なら私の兄弟みたいなものだ。鍛えるとかじゃなくて、一生大事にするぞ」
「ミネバ様………」
優しい主君の言葉に、思わず目頭が熱くなるハマーン。
今ならZEUTHの面々が必死になって守ろうとしていた理由が分かる。この幸せな時が続けばどれだけ素晴らしいだろう。
もうザビ家の復興などどうでも良い。プラントとの話し合いも最近外交官になったシン・アスカを介して順調に進んでいることだし、平和が一番だ。
「それで、何故シャアはあんなにもげっそりとしているのだ? 視線もうつろで心此処にあらずといった感じだが」
「安定期に入ったので昨日ちょっとはしゃぎ過ぎゲフンゲフン……いえなんでもありません。心配せずとも頭に赤い角でも刺してやればすぐさま復活すると思います」
流石に4回はねだり過ぎたかなぁと少し後悔するハマーン。いやしかしこの数ヶ月ご無沙汰だったのだからそれぐらいは当然だろうと思い直す。
最近寂しかったのは事実だし、何よりも自分はあの男の……そのなんだ、つ、妻なんだしごにょごにょ。
ミネバはそんな悩んだりでへへと表情を崩したりしている自国の摂政をしばらく見ていたが、その辺りは流すことに決めたようだ。
変なこと聞くんじゃなかったという表情を欠片も出さずにハマーンに再び話しかける。
「な、なんだかよくわからないがとにかく良い。それとハマーン、もう1回赤ちゃんの音を聞いても良いか?」
「今コップに水を注いでいる最中なので、もう少しお待ちくださいミネバ様……はい、いいですよ」
「うん!!」
「あ、そんなに強く抱きついてはこの子がびっくりして……ふふっ」
「おーい、聞こえているか~。早く生まれておいで。世界は光でいっぱいだよ」
「そうですね、本当に……」
世界は光でいっぱいか。確かにその通りだ。
コップの中の水を飲み干し、ハマーンは頭上を見上げる。
見上げた空は偽物に過ぎないというのに、どこまでも蒼く、遠く、高かった。
「生きていて、良かった……」
――――――そう。私は今、本当に幸せだ。
「可愛い子供たちが、できて……」
体育座りのままぶつぶつと言葉を呟き続けている金髪の男の傍らで、自らの主君の頭を撫でながらじゃれ合うハマーン・アズナブル (旧姓カーン)。
彼女の表情は、とてもとてもとても幸せそうなものだった。