女の幸せとは何か。
大金。身を覆う装飾。やりがいのある仕事。地位や名誉。その問いに対して答えは人の数ほどあるだろう。
だが女の一番の幸せとは、真に愛する者と添い遂げることではないだろうかと私ハマーン・カーンは思うのだ。
ガラではないことを考えているとはわかっている。
しかし完璧な人間などこの世にはいない。他人より秀でたところがあれば、逆に劣ったところもある。だが人はその足りない部分を誰かの存在で埋めることができる。
自分の弱い所を預けられ、そして最後には自分を暖かく包んでくれる人がいるのなら。これ以上の幸せは無い。
「コホン。……行くか」
そして自分もその幸せを逃がすつもりは無い。ハマーンは深く息を吸い込み、覚悟を決める。
眼前の敵、ソファでテレビをつけながら漫画を読みふける金髪の男に強い視線を向けた。
これから赴くのは自身の人生の中で尤も予測のしにくい、それでいて退くわけにはいかない困難な戦いである。
「シャア……そ、それは面白いのか」
「ん? ああ、これか。最近忙しすぎて買うばかりで見ることなく溜まっていたからな。
漫画やアニメーションなど子供の見るものだとばかり思ってはいたが、見ていると不思議とリラックスできる。まんざら馬鹿にしたものでもない」
「そうか……」
雑誌を見ながらそう言ってはいるが、彼は何だか元気が無い。テレビからは生き残りたい生き残りたいと不吉な言葉も聞こえてくるし、話はまた今度にしたほうが良いだろうか。
いやいや待て待て何を弱気になっているのだ自分は。そんな弱気だからいつも失敗するのだ。
半同棲まで持って来た (実際はハマーンの通い妻状態) のだから脈はあると思う。後は勇気を出してガツンとした止めの一撃でも決めればカタはつく筈なのだ。
今の私たちはさしずめパオフゥとうらら。居心地は悪くないが、目標はたまきちゃんとただしくんである。声的に西澤夫婦も悪くは無いが、離れている期間が長そうなので次点ということで。
だから覚悟を決めろハマーン・カーン。牙を突きたてるのだハマーン・カーン。
「な、なあシャア。一つ提案があるのだが」
「どうした」
もう逃げ場は無い。勝利を目指して前に出るのみ。
さあ今こそ燃え上がれ私のニュータイプ能力よ。なんなら小宇宙でもSEEDでもいい。それが今日の勝利に繋がるのならば。
「そ、そろそろ私たちも関係を進展させてみないか。具体的には、その……し、式の日取りとか、何人欲しいとか……」
「…………そうだな」
ぱたんと読んでいた本を閉じ、サングラスを外してハマーンの前に立つクワトロ。
自分を見つめるのは真剣な目。茶化すことなどできそうもない表情。なのに何故だろう、周囲の空気はチャーミーグリーン。
その様子はいつもの自分たちのそれではない。
勝つか。勝つかハマーン・カーン。自分は人生最大の賭けに勝ったのか。
「薄々気がついてはいたのだが」
「う、うむ」
自分の耳が赤くなっていく音が聞こえる。心臓は破裂しそうだ。なのに蛇に睨まれた蛙のように自分の身体が動かない。
いや、むしろ蛇に食べられたがっているのだろうか。肩に手を置かれた瞬間びくりと生娘の様に身体を震わせるハマーン。
ええとキスの時は鼻で息するんだっけ今日の下着は良いやつだっけメイリンの言ったように縞パンでも履いてギャップ萌え狙えば良かったかもしれんがああしまったゴム買ってない――――
テンパった頭からは理性が抜けていき、いつしか思考は一つの言葉に集約されていく。
優しくしてください。
「どうやら私もそろそろ年貢の納めど 『ランカ、シェリル!! お前たちが俺の翼だ!!!』 ――――何だと!?」
「な、なんだ? 急に変な声を出して」
テレビから聞こえてきた声にクワトロの様子が一変する。そして次の瞬間ハマーンを放って階段から落ちて死んだライバルの父親の様にテレビにかじりついた。
画面から聞こえてくるのは釣り合いの取れてない2人の女性の声。君は誰とキスをする? どっちでもいいわそんなもん。
それよりシャア、さっきの言葉の続きを聞かせて欲しいのだが……聞いてないなこいつ。まあいい、ここは遠足の夜の如くいずれ訪れる幸せまでの時間を満喫しよう。
そう思い直し、今までの威厳を次元の彼方に吹き飛ばしたかのようにでへへと表情を崩すハマーン。人生の賭けに勝ったのだ、今日ぐらいは心の鎧を脱いでも良いだろう。
そしてついに物語が終わった。ならば次はこっちのターン。よっしゃ来い、できれば情熱的かつ感動的な言葉を頼む。
「シャ、シャア。先ほどの続きを……」
「昨今の業界は一体どうなっているというのだ。それでなくともTo Loveるが打ち切りとは言えハーレムエンドだったというのに」
作者に何が起こったのか知らないクワトロの愚痴。心なしかその目には怒りの色が見て取れる。
む、むう。怒っているのはわかったが、告白はまだか? もうこうなったら贅沢言わずに普通の言葉でもいいのだが……。
こちらはすぐにでも 「その言葉、まっていました……」 と言う準備はできているのだから。そして同じ未来、さしずめバージンロードを歩みはじめる覚悟も完了している。
ぎぶみーゆあぷろぽーず。
「まさかどうせアルシェリに落ち着くからランカたんは大丈夫だろうという私の予想が外れるとは……。もう一刻の猶予も無い!!!」
「なんだ、どうしたのだシャア」
いつまでたっても幸せの瞬間が訪れず困惑し始めた彼女をよそに、クワトロはサングラス片手に髪を掻き揚げる。現れたのは今までに無い精悍な表情。
オールバックのシャアも悪くないなぁと思わず頬を染めるハマーンに、クワトロは意を決したかのように言葉を放った。
「私が天に立つ」
「何を言っているのだ貴様は」
「どうしたんだよお前ら、元気ねえぞ?」
「そんな事はないよ。実際ここの味噌汁旨いし……」
「ただ、もっと精が付くものが食べたいです……」
両手を合わせた後食事を取り始める少年たち。机に座っているのはシンとエイジにロランの仲良しコンビ、人呼んでアスカファミリーである。
現在の時刻は朝。食堂は朝食時間ということもあって非常に混雑しているが、いつも端っこにある机を利用する3人にとっては大した問題ではない。
昨夜精を搾り取られ朝から元気の無いシンとロランを心配していたエイジだったが、シン達が食事を取るうちに元気を取り戻してきたのを見てほっと溜息を吐いた。
「エイジ、また首にキスマークがついてますよ。見たのが僕たちだから良いですけど、他の人には嫉妬されますから見られないようにしてくださいね?」
「またテセラさんだろ? 一緒にいたの見たぞ。お盛んなこって」
「お前たちが言うか……それにお前が見たのは見間違いで昨日はクッキーだよ。テセラは一昨日の夜だ」
テセラは赤い髪のオペレーターメイド、一方クッキーは同じく赤い髪の戦闘メイドである。遠目だったので間違えたらしい。
そういえばエイジより背が高かったような気もするなぁ。あんまり覚えてないけど。
「それなんですけど、テセラさんって凄く真面目な人なのによくエイジは落とせましたね。カミーユに感化されて何か彼女の弱みでも握ったんですか?」
「アイツと一緒にされても困るんだけど……最近のテセラってこないだサンドマンじゃなかった義兄さんがアヤカと結婚してから元気がなくてさ。
心配になったんで普通に慰めてあげてたらなんだかそういう流れになっちまって。軽く誘ったらあっさり部屋に付いて来るもんだから、俺も退くに退けなくてさ。
あれじゃまだマリニアの方が落としにくかったよホント。彼女の時は酒の力借りたし」
まあ今では酒も何もいらないし、そもそもそれも大したことじゃないと言わんばかりにシンとロランの言葉を流すエイジ。その仕草には貫禄と言って良いほどのものが漂っていた。
それにしても、ついにオペレーター3人娘を制覇したのか。流石はメイドマイスターの名で呼ばれているだけのことはある。
「もてもてですね、エイジは」
「そんなんじゃねえよ」
エイジはそう謙遜しているが一線を退いたサンドマンからグランΣを譲られてからというもの、彼のメイド漁りに拍車がかかったのは事実だ。
だがエイジ曰くメイドたちの憧れであったサンドマンが所帯持ちになったので性の対象が自分に変わっただけで、カリスマが無く気軽に誘いやすいからそうなっただけとの事。
斗牙は琉菜 (周囲に知れ渡っていた為今更乗り換えることができなくなった) やエィナ、友人としてよく話すようになったリィルなどが傍にいるため、今更新参者が割り込めないのだそうだ。
実際関係を持ったメイドの大半が、エイジとの関係について火遊びという認識しかもっていないらしい。
モテだした初期はかつてナニを見られて笑われた復讐と称して 「マリニアを立ちバックでヒイヒイ言わせてやった」 とか 「トリアをレンチで愛撫した」 など戦果を調子に乗って語っていたエイジだったが、
最近では彼女たちにとっての自分の立ち位置を悟ったのか、自らを自嘲気味に 『サンジェルマン城の肉バイブ』 と呼んでいる。
まあそれでも彼女たちから慕われているのはわかっているので、腐ることは無いらしいが。
ちなみにカミーユはそんな彼をめっちゃ羨ましがってた。 「家族が大金持ち、なんでもしてくれるメイド、最強クラスのロボット。あとはメイドたちが自分にメロメロなら完璧じゃないか!!」 だってさ。
そんな頭の悪いご主人様全肯定ハーレムなんぞいらんだろうに。
「あ~、死ぬかと思った」
噂をすればと言うわけではないけれど、丁度良いタイミングでカミーユが食堂に入ってきた。
何だか服が乱れているが、女とヤってたとかそういう関係の話でもなさそうだ。むしろ喧嘩でもしたのかという感じ。
「何があったんだよカミーユ」
「おはようエイジ。いや、セツコさんたちがちょっと……」
「セツコさんだと? お前もしかして……ってわけでもなさそうだな」
一瞬眼つきを鋭くしたエイジだったが、シンが大した反応を見せていないので態度を改めた。流石にカミーユも Tomorrow never knows をやるほど外道ではない。
そもそも昨日シンは3人と、いつものごとく朝までドッグファイトしていたのだ (エロローグ参照) 。彼女たちにそんな体力的余裕も時間もあるわけがない。
それにヤツはクロスオーバーを狙うよりも自分のテリトリーをじわじわと広げるタイプであるため、サラやレコアさん、ベルトーチカといった同作品コンプが最優先課題だろう。
他作品の女性にするのは精神的なセクハラくらいである。
「実はさ、俺も何でこうなったかわかんないんだけど……」
説明を始めるカミーユ。死ぬかと思ったなんて言ってるし、どうせまた修羅場でも起こったのだろう。聞くほどの価値はなさそうだ。
でも別に聞きたくないから黙ってろとか言わない辺り、まだ3人はカミーユに甘いのかもしれない。
「サラ、綺麗だよ。……君の体の奥までウェイブライダー突撃したい」
「カミーユったら、他に女の人がいるのに……悪いひと」
昨夜カミーユは長い期間のアプローチの末ついにサラを陥落させる事に成功し、そのまま自室のベッドへと彼女をご招待。
シロッコにはそこまで開発されていなかったのかその反応は初々しく、甘いひとときを過ごすことができた。
だが次の日の朝。
「カミーユ、覚悟はできてるわよね? ……サラ、一応何をしていたか聞いておこうかしら」
案の定と言うか何と言うかそれが他の女たちにバレていたらしく
部屋から朝帰りしようとしたサラと入り口から彼女を見送ろうとしたカミーユの2人は、ファ・フォウ・エマのハーレム要因たちに囲まれることとなった。
「私たちの存在を知っていながらカミーユに手を出すとはね。シロッコに開発された身体が疼くなら、大人しくカツあたりで我慢して処理すれば良いのに」
「泥棒猫は泥棒猫らしく、こっそりビクビクしながら日陰を歩けばいいものを……さあその口で答えなさいサラ。この部屋で一体何をしていたのかを!!」
ムッ。上から目線の彼女たちに、思わず眉間に皺を寄せるサラ。
我慢できなくなったのか、逆ギレ気味に声を荒げる。
「そんなに聞きたいなら教えてあげましょうか。彼に……カミーユに抱かれていたんです。 えっちです!! SEXです!!」
「SEXですってぇぇぇ!!!」
FOREVER LOVE FOREVER DREAM
溢れる想いだけが 激しく せつなく
「時間をうめつくす」
「それはX JA○ANだってば」
マイク片手に危険なボケに走るフォウ。ピアノ伴奏までしてフォウに付き合っておきながら何事も無かったかのようにつっこむファ。
SEXSEX恥ずかしげもなく言いやがってカミーユは絶対カンチって呼ばせねえからなとキレるエマ。
そんな彼女たちがあまりに険悪な雰囲気だったため (とこれ以上の危険なボケを止めるため) 、丁度その時近くを通りがかったセツコたちがカミーユを無視してサラを助けに入ったものの
最近欲求不満気味なファ・フォウ・エマや寝不足の上囲まれ余韻を汚されて不機嫌なサラにとっては、つやつやにこにこ幸せそうなセツルナステラの存在は感情を逆撫ですることとなり
結局カミーユを放置したまま2手に別れての不毛な口喧嘩が始まったのであった。
「何がしたいんだこのアホ毛がコラ」
「うっせー卑猥な頭しやがってコラ」
「んだコラ、タココラ!!」
「何がタコだコラ!!」
ゴツゴツ額をぶつけ合いながら睨み合い、コラコラ問答するルナマリアとエマ。
その脇では、セツコとサラが対峙していた。間に流れるは冷たい空気。
「聞いた話によると、貴方には以前好きだった男性がいたそうじゃないですか。いなくなった途端他の男に移った挙句そのうえ清純派を気取るなんて恥ずかしいと思いませんかオハラ少尉?」
「確かにサラさんの言う通りですね。子犬のように慕っていた男性をあっさり乗り換えて、今度は彼女持ちにちょっかいかけるなんて私にはできそうも無いですし」
「ぐっ……、貴方にそれを言う資格があるとでも!!」
「手を出したのは3人一緒で、当時は彼も私もフリーでした!! 私は自分を客観的に見ることができるんです、貴方とは違うんです!!」
「言ったな……不幸ぶって同情した男を引き寄せることしかできないくせに!!」
この光景を目の当たりにしたステラは思わず溜息を吐く。
武闘派同士ぶつかり合うルナマリアとエマ。女子高の校舎裏並みにネチネチした女の戦いを続けるセツコとサラ。いつもの自分たちは一体何処へ行ったと言うのか。
みんな仲良くが信条のステラとしては、友達である2組がいがみ合う様は見ていて苦しい。
「なんで喧嘩なんかするのかな。ステラなら、好きな人の傍にいれればそれで良いのに」
「離しなさいフォウ!! 殴るッッ……あのカマトト娘を殴るッッ……」
「ちょっとファ、ベアは駄目よベアは!! あの子、幼いところがあるんだから!!」
おいテメー今なんつったと言わんばかりにファがステラに詰め寄る。α外伝で修羅場を発生させた彼女としてはそんなことを平気で言われては立つ瀬が無いのだろう。
ステラを妹のように可愛がっているフォウが止めているが、このままではそう長い時間は抑えきれずファのベアナッコォが――――
「みんな美人だし、特にフォウなんかすらっとしてて綺麗なのに」
「乳が無くて悪かったなぁコラぁ!! 今時の萌えキャラとして生まれたあんたにはわからないでしょうよ!!」
「フォウ落ち着いてー!! ベアは駄目なんでしょ!!」
さらりと名前以上のコンプレックスを刺激されたフォウがステラに詰め寄り、今度はファが抑える側となった。ちくしょう誰かターンエー持って来い、私の月光蝶を見せてやるから。
富野作品に最近のアニメによく出るような巨乳を期待してはいけないのは定説である。あのハゲ自分はオープンスケベのくせに。
ぎゃあぎゃあと騒ぎながらそこらのモブキャラが場に居合わせたら発狂するんじゃないかというくらいの殺気を撒き散らかす6人プラス1。
そんな彼女たちの争いの隙を突いて、そもそもの原因であるカミーユはその場から離脱して此処に来たのであった。
争い合う彼女たちを放置したまま。
「なんでこんな事になったんだろう………」
「気づけよ」
本当に聞くんじゃなかった。深く後悔しながら肩を落とす3人。つかもうサラまで落としたのか。釣った魚にエサをやらないタイプとは言え、流石にペースが早すぎるだろ。
このままではレコアを落とした後、ベルトーチカに照準を合わせて初代トライアングラーこと技の1号 (アムロ) と戦いを始めるのも時間の問題か。
「セツコさんたちが止めずに通り過ぎてれば良かったんだよ。皆まとめて俺の部屋に引き摺り込んで、それで問題が終わるんだから。
ただ俺も皆の目の前でそんな事をするのはどうかと思ってさ。女性陣の立場ってものもあるだろうし」
「どうしますこのクリーチャー?」
「2学期のフカヒレみたいな扱いでいいんじゃね?」
「つまり何かあるたびに殴り倒してオチをつけた雰囲気にもっていくんですね? でもリアルなイジメって正直やりたくないんですけど」
つよきすに2学期はありません。ついでにアニメも。
つかいくらカミーユがアホとは言え、変態っぽいキャラとりあえず殴っとけば笑いが取れるなんて認識は甘すぎるにも程がある。NOBにはそれがわからなかった。だからきゃんでぃは滅んだ。
こっちもその事をわかってて同じ轍を踏むことは無い。そう思いながら彼らに向かって口を開こうとした瞬間、スピーカーから流れた放送によって遮られる。
『シン・アスカ、カミーユ・ビダン、紅エイジ、ロラン・セアックの4人は至急、ミーティングルームに集まってください。繰り返します――――』
顔を見合わせる4人。ミーティングルームってことは近く戦闘があるということだろうか。
それならそれで自分たちだけが呼ばれる理由にはならないと思うが。
「おい、今の聞いたかシン」
「耳を悪くした覚えは無いな。ただ俺たち4人が呼ばれる理由が思い浮かばないけど」
「至急って言ってましたし急いで行った方が良いでしょうね。ほらカミーユ、早く食べちゃってください。量は多くないでしょう?」
「ちょ、無茶言うなよ。今来たばっかりなのに」
カミーユが食べ終わるのを待ってから走る4人。ミーティングルームに着いた時には丁度見知った顔が部屋に入ろうとしている所だった。
ZEUTHの少年たちにとっての優しい兄貴分、そしてスパロボの初代トライアングラーことアムロ・レイである。
νガンダムのお礼をしに月まで行ったところ、案の定ファンを自称する女性メカニックをゲットしてしまったらしい。そのお陰で最近は胃薬が手放せないとか。
「どうしたんですかアムロ大尉。こんなところ用事が無ければ来ないでしょ」
「いや、俺も急に呼び出されてな……正直最近の自分の周りは忙しすぎてそれどころじゃないんだが、そういうわけにもいかない。何せ集めた人物が人物だ」
「誰が僕たちを呼んだんですか?」
集めた人物が人物とな。アムロさんが焦るほどの人と言えば大していないと思うのだが……。
「あまり状況の把握は出来ていないんだが、我々を集めたのはどうやらアクシズのハマーン・カーンらしい。
大戦が終わってから彼女はシャアと行動を共にしていた。その彼女がZEUTHに召集をかけたとなっては俺が黙っているわけにもいかないだろう?」
つまり今回の話は逆シャアがベースということですね、わかります。
皆と共に部屋に入ると壇上にはハマーンが立っていた。席に既に着いているのはラクス・クラインとカガリ・ユラ・アスハ。
でもそれだけだ。他に席についているのは一部のスタッフくらいで自分たちとの共通点が見当たらない。顔を見合わせる5人にハマーンが声をかける。
「お前たちで最後だ。早く席に座れ」
やっぱこんだけなのか。とりあえず話を聞かないと状況が把握できない。
素直に席に着くと、壇上のハマーンが再び口を開いた。
「皆、良く集まってくれた。忙しい中集まって貰って感謝している」
「それはいいんですけど、なんでこの面々なんですか? プラントのクライン議長やオーブのアスハ代表まで集まって」
「それを今から言うところだ。早速だが、此方の映像を見て欲しい」
ロランの声を遮り、手元の機械を弄るハマーン。大画面に映像が浮かび上がる。
画面の中に現れたのはアナ姫と、アクシズの君主であるミネバ・ラオ・ザビ。大勢の群衆の前に2人揃って立ち、目の前のマイクで大きく叫んだ。
『わたしたちは』
『このような所に』
『『――――来とうはなかった!!!!』』
ウオオオオオオオと地鳴りのような歓声が画面の中で響く。うん、何ですかコレ。
「間違えた、アクシズ大運動会の映像ではないかコレは。ちょうど開会宣言のところだな」
何をやってんだアクシズは。
「……一応、続きを見るか?」
「なんでさ」
「いや、この後の親子二人三脚でミネバ様と1位になったのでな。あの時ミネバ様は本当に喜んで、そんな笑顔が凄く可愛くて……」
「もういいですから」
画面の端でクワトロ大尉が拳を突き上げたまま真っ白に萌え尽きてるのが気になるが、まあそんな事はどうでもいい。
ハマーンが手元にある計器を少し弄ると、映像が切り替わった。映っているのは髪をオールバックにしたクワトロ。何やらアクシズ兵たちの前で演説でもするようだ。
『アクシズにいる全ての人たちよ。剋目せよ!! ―――――私は悲しい』
そう言うや否や悲しげに視線を落とすクワトロ。
流石決めるところは決める男、演説する様はかっこいい。なんだかんだで女性に人気があるのは分かる気がするな。
『今の世界には悲しみが溢れている。私にはこの現状を許すことができない』
彼の言う事を否定はできない。ZEUTHも頑張ってはいるものの、それぞれの軍の残党の蜂起などで世界から完全に争いが消えたわけではなかったから。
それに人々の先の戦いでの傷が癒えるには、まだしばらくの時間が必要だった。
『諸君もうすうす感じていることと思うが、私はかつてシャア=アズナブル…そしてキャスバル・レム・ダイクンと呼ばれた男だ』
その言葉にアムロの表情が凍りつく。
名前バレもそうだがこんなに自信の溢れた表情のクワトロがその事を口にするということは、ガチで反乱を起こしたということに他ならない。
だが戦いは避けるべきだ。争いの果てに傷つくのは、結局力を持たない人だけ。どんな大義名分をかざしたとしても許されることではない。
それにかつて約束したのだ自分は。もし大尉が人類に絶望して戦いを始めたときは、自分が止めると。
だから例えこの人がこんなに悲しんでいたとしても――――
『かん○ぎ。T○ LOVEる。マク○スF……これだけ言えば分かるだろう。
貫通発覚、うやむやハーレムエンド、まさかの2股宣言。我々はこの短い期間に数々の悲しみを抱えてきた。
だがいつまでも悲しんでばかりはいられない。悲しみに浸る暇があるなら、涙を拭って前へ走るべきなのだ。
諸君に問いたい!! ナギ様が中古であると分かった今、我々がすべきことはなんだ!! 声高に作者へのバッシングを繰り返すことか!! 単行本を引き裂いてネットに晒すことか!!
違う!!!
我らに残された希望、ミネバ様やアナ姫などの貞操を全力で守ることこそが!! 我々に残された唯一の道である筈だ!!
また、都合のいい言葉に騙されて2股をかけられないように、彼女たちに貞操観念の教育を徹底的に行うべきなのだ!!』
………。
『教育の結果、高みから男を見下ろす典型的な高貴ツンデレになるという懸念もある。その後自分を特別扱いしないだけがとりえの大して美形でもない男に喰われる可能性も否定はできん。
いや、ツンデレに育つならそれでも良いのだ。彼女たちが美しいあり方を残したまま、相応しい男性と幸せになれるのならば。
だが昨今のツンデレは男性に理不尽な暴力を振るったあと、さあ今からデレだからオタども食いつけと言わんばかりのあざとい外道ばかり。
M字開脚でパンツを見せつけ胸を当ててんのよ、挙句の果てには顔面騎乗。君たちはそれで良いのか!? この子達が将来、そんな存在に堕ちたとしても!!
そのくせSEKKYOというつまらん戯言や中途半端に苦労した過去などを格好つけてほざく頭の足りないガキにマンセー発情するような、そんな雌豚に堕ちたとしても!!
否!! 断じて否だ!!! そんな事を認められるはずが無い!!!』
大尉力入れ過ぎだよほんと。アンタ原作でもそこまで演説に力入れなかっただろ。よっぽど少女たちが主人公補正のみで落とされる作品にキレてんだな。
『ここで私は誓おう。このスイートウォーター改め “ネバーランド” に、子供たちの楽園を作る事を。
そして彼女たちを育てきり、好きな人を聞いたら 『も、もう!! お父さんの鈍感!! なんで気付かないの!?』 と言うような1人前の女性に育て上げたとき!!
――――――私は父ジオンの許に召されるであろう!!』
『『『 ウオオオオオオオオオオ!!!!!!! 』』』
テレビの中に映る観衆たち (男ばっかり) が熱い咆哮をあげる。
聞いてるこっちは福盛があっさりサヨナラ満塁ホーマーされた時の気分であるが。もしくはテレビ版エヴァの最終回を見た後のような。
空虚。一言で表すならまさにその言葉である。
画面の中ではクワトロによる戦意高揚のための演説は一段落ついたようで、彼は今後の具体的な方針などを語りだした。
『無論、新しい人材の発掘にも力を入れているのは言うまでもない。男しかいないパイロットという部署にはプルとプルツーやアーニャたんを配置する予定だ!!
戦場でのお耳の恋人は無論我らがルリルリ。16歳バージョンを連れて来て艦長という手もある。中の人がいなくなった少女もいるが五感の共有はオリ設定だから気をつけろ。
そしてネバーランド専属の歌姫、戦闘中のバックミュージック担当・もう1人のお耳の恋人としてランカたんを!!
なに? 歌姫といえばラクス・クラインではないか、だと!? ―――フ、そういえばそんな者もいたな。だがあえて言おう!! そんな女はカスであると!!』
カスは言い過ぎであるが、流石にシンもフォローすることはできなかった。プラントの群衆にとって最近のラクスは終わってしまった人のイメージが強い。
今の彼女は何者か (実はクワトロ) によって行われた情報操作によって、 「ラクス? プ、あの女としてのウリの無い、ただの武闘派電波だろ?」 と言わんばかりに人気が落ちていたのだった。
ガンダム○ースやアニ○ディアの編集長に言い付けておいた、人気投票の投票数の水増しも役に立たないほどに。
「やはりあれはこの方の仕業だったのですね? 許すわけにはいきませんわ!!」
「ラクス落ち着け!! 仕方ないだろ? ガンダムエースの発行部数で1万5千票獲得なんて現実味が無さ過ぎたんだよ!!」
「離してくださいカガリさん!! あの男にノースリープ着せて右胸部分だけ毟ってワンショルダーにして 『お前クワトロだろ』 って言ってやりますわ!!!」
「殿、殿中でござる!! 殿中でござる!!」
「止めないでください!! 武士の情けと、武士の情けとおぉ……!」
バカ義姉妹ではなく純粋なバカ2人は放っておいて。
なんであの人はこんな事をしたんだろう。
「どういうことなんですか、アムロ大尉」
「俺にもわからん。どっかに頭のネジでも落っことしたんじゃないか」
それは俺も思ったけどさ。なんでこんなもん作ったのかって話で。
自分の意思を貫くために力がいるなら、ZEUTHを強化する方が無難だろうに。
「まあ、要するにロリコンのロリコンによるロリコンの為の組織を作ったということだろう。ノンケに引かれても邪魔になるんだろうし」
超わかりやすいわぁその説明。
「今の奴らは愚連隊だ。幼女は今泣いているんだとか言いながら圧制に苦しんでいる地域を侵略し続けている。抑制の途絶えた力は放置するわけにもいかん。
しかし情けない話だがアクシズの戦力の半数以上、それも精鋭ばかりをシャアに奪われてしまってな……。恥を偲んで力を借りに来た。
現在のZEUTHに余裕があまり無い事は知っている。だから少数精鋭としてお前たちを選んだわけだ」
なるほど。突撃役にスーパーロボット枠のエイジと切り払いや分身、PS装甲など防御スキルを数多く持つ自分のデスティニー。
援護や突撃をオールマイティに行えるアムロとカミーユ。そして反則的なMAP兵器 『魂+月光蝶』 を持つロラン。
確かに自分たちなら1機につき10小隊は相手にできるし、大軍を招いてはアクシズの物資が不足することも考えられるから納得の編成ではある。
え、もっと行けるだろって? 連続ターゲット補正ってのがあるんだよ。相手がワイドフォーメーションだと一気に落とすのも難しいしな。
それよりも言っていることは理解できたのだが、自分たちを呼ぶほどのことだろうかコレは。大尉を説得すれば良いだけの話だし。
そんな疑問が浮かんだのでハマーンに質問してみる。
「でも、別に悪いことはしてないんじゃないですか? そりゃあ交渉もなしに他の軍の支配下にある地域に突入するのは良くないと思いますけど。
民衆にも悪い印象は持たれていないみたいですし、上手にコントロールできれば何も問題は」
「最初は私もそう思った。何せ過半数以上の者がシャアに加担したのだ、無視するわけにもいかなかったしな。
私は内政にまわりシャアに軍の全権を委譲する、だから私の所に戻ってきて欲しい。私にはお前が必要だ。全軍の前でそこまで言った。………だが。だが!!!」
机に拳を叩きつけるハマーン。哀れな机は木材に還った。
そして部屋に響くのは咆哮。
「何が 『サボテンが花をつけている……』 だァァァァ!!! あの男、人に一世一代の告白を2回もさせた挙句、意味わからん言葉で断りおってェェェェ!!!!
もう絶対に許さん、首にこの鎖でも巻きつけて引き摺って帰ってやるわァァァ!!!!」
「落ち着くんだハマーン!! 鎖を振り回すな、危ないだろって痛ぁ、めっちゃ痛っ!!」
「アムロさんがやられたーー!!!」
「お下がりください!! お下がりください!!」
現在ハマーン様がチェーンを振り回しながら大暴れ中ですので、しばらくお待ちください。
「ハァ、ハァ、ハァ………。と、ともかく、私があのロリコンを捕らえるのに協力して貰いたい」
ハマーン・ザ・ブロディの大暴れも一段落し、負傷者の治療が終わったところで会議はやっと本題に戻った。
ここに来るまで随分長かったなぁオイ。
「事情はわかりましたし協力もしますけど、もういいんじゃないですか? ハマーンさんはよく頑張りましたよ。
もうクワトロ大尉のことは諦めて、他の男を探した方が良いと思いますけど。美人なんだから引く手あまたですよ、きっと」
彼らとはもう生きている場所が違う。ロリコンはロリコン、一般人は一般人。無理して一緒にいたとしても、向こうが性癖をカミングアウトした以上結局はどちらかに負担がかかるだけだ。
そんな事をハマーンに言ってみるシンだったが、彼女の答えは
「そ、それは……」
もじもじ。
「いや、優秀で必要な人材であるのは間違いないことだし、他勢力に引き込まれてはやっかいなことになるし………」
自分に言い聞かせるように言い訳を始めるハマーン。だめだこりゃ。
「その辺で勘弁してやれよシン」
「エイジ」
ポンとシンの肩に手を置いてきたのはエイジ。こいつも自分と同じ気持ちなのだろう、やれやれといった表情である。
「見たまんま、おもいっきり未練たらたらなんだから。あの性格じゃ他の男なんか当てが無いんだろうし」
「男運の無い嫁き遅れってのは執念深くて良くないよな。まあ同じUCのよしみでどうしてもって言うなら相手してやってもいいけど。あ、でも年齢差がネックだな」
「カミーユ、ハマーンさんはまだ20代前半ですよ。……そりゃあ、確かにそうは見えませんけど」
「そこになおれや俗物どもがァァァァァ!!!!!!」
さらに10分後、床に両手を付き肩を震わせているハマーンの姿があった。傍らでは鎖で吊るされた3人がぶらぶらと揺れている。
今は流石に哀れに思ったシンが肩に手を当てて慰めている最中である。
「私は……嫁き遅れなどでは………」
「ハマーンさん落ち着いて。まずは次元力を解明して、ロリっ娘になるところを目指しましょう」
「シン、それ何のフォローにもなっていないぞ」
「すまない少年、私の味方はお前だけだ……。あの時の事黙っといて良かった……」
「そんな言葉で立ち直るな」
アムロのツッコミを気にした様子も無く、ハマーンは虚空から薔薇の花を喚び出してシンに与える。シンはその薔薇を手に頷いたあとハマーンの体を支え立ち上がらせた。
迷惑をかけるな。気にしないでください、仲間でしょう? フ、そう言えばそうだった。
笑顔を交わし友情を芽生えさせる2人。感動の名場面キタコレ。
ちなみにこの時2人の間に結ばれた友情がプラント・アクシズ間の奇跡的な友好条約に繋がるのは、もう少し先の話である。
「大丈夫ですよ。そこまで想いを貫けるなら、きっとあの人にまで届くはずです。でなきゃ戦いの後に一緒にいたりなんかしないだろうし」
「そう言ってくれるのは嬉しいが……もう1回行っても 『2度あることは3度ある』 になるだけなのではないだろうか……」
「 『3度目の正直』 って言葉もあるじゃないですか。それにどうせ、もう大尉以外の男を狙う気は無いんでしょ?」
「あ、ああ。この体、一度決めた男以外に許す気は無い」
「何だか古臭いこと言ってるなぁ。そりゃあそういう女姓の方が周囲からは受けが良いんだろうけどさ」
2人の会話に割り込む声。
いつの間にか鎖から脱出したカミーユがするりとハマーンの背後に身体を寄せる。
「だいたい一人の男の為に操を守り続けるってのはよく聞くけど」
むにゅ。
「つっぱってんじゃないよ。―――――気持ちいいんだろ?」
ぐちゃり。
「時が見えるよ、ララァ……」
「カミーユ? あれ、こいつ息してなくねぇ? てかララァって誰だよ」
「おーい、いま寝たらそのまま起きれなくなりますよーー? めんどくさいから僕たちは助けたりしませんからねーー?」
「いや、もういっそのこと止めを刺そう。今の発言俺はちょっとムカついている」
優しさに溢れた友人たちの声。そして雨の様に降り注ぐアムロのフットスタンプの前に、カミーユの命の火が消えかけていく。
というかどうやって拘束を解いたのだろうか。こいつら時々すげーな。
「私は……しつこい女なのだろうか………」
「大丈夫ですって。強引と傲慢は紙一重なんですから、惚れさせたもん勝ちです。気にせずどんどん押して行きましょう」
「ありがとう少年、お前と出会えて良かった……。借りはいつか必ず返す。次に女子トイレで出くわしたら、ドアの上からコンドームとバイアグラ放ってやるから……」
「そこあんま触れんな」
ちなみにこの時2人の間に一段と強く結ばれた友情のおかげでプラントはアクシズからの援軍を受け、急に出現した宇宙怪獣の襲撃をしばらく持ち堪えることに成功するのだが、まあそれは別の話である。
「出たー!! アムロさんの48のロリコン殺しのひとつ!!」
無視無視。
説明の続きしません? というシンの言葉に元気を取り戻したハマーンは頷き、画面を操作する。
そこに映ったのは敵の主戦力と見られる者たちの名前。その大半は見たことが無い名前ばかりだが、自分たちが知っている名前もいくつかあった。
「オルソン・D・ヴェルヌ、カツ・コバヤシ、キラ・ヤマト、ギャバン・グーニー、ヘンケン・ベッケナー……マジですかこれ」
「つい最近、セツコの元同僚とか言うトビー・ワトソンの加入も確認された。それにニュータイプと遜色ないほどの強化人間もいるようだ。ギュネイ・ガスだったか」
「結構なメンバーだな、これは……。カツ以外は」
返り血を拭うアムロの言葉に思わず頷く。 しかしオルソンとギャバンはまだわからないでもないが、キラやヘンケン艦長は何故あんな勢力についたのだろうか。
それにワトソン中尉も。別世界の彼とは言え、グローリー・スターを放ってまでする事ではない筈。
あとでセツコさんに話してみた方が良いかもしれない。
「ハマーン、これは我々とアクシズ軍の残存兵力だけで何とかなるのか? 向こうには大軍の他に今言った面々がいるんだ、俺たちが加わっても苦戦は免れないだろう。
しかも相手はあのシャアだ。君がZEUTHに援軍を頼むことは想定の範囲だろうし、ZEUTHは我々くらいしか援軍に出せないということも知ってる筈だ」
「アムロ・レイ、貴様の言うことにも一理ある。だが心配するな。こういうこともあろうかとザフトからも助っ人を呼んでいる」
部屋の入り口に視線を向ける。ドアが開かれ新たな人物が入ってきた。
「紹介しよう、ミネルバ隊を率いて参戦してくれたギルバート・デュランダル前議長だ」
「皆、よろしく頼むよ」
「今回再び皆さんと共に戦いたいと思います。よろしくお願い致します」
紹介する声に会議室のドアが開き、デュランダル前議長とタリア・グラディス艦長が姿を現した。
議会の連中を脅して退職金代わりにミネルバをタリアやクルーごと奪い 、現在ではそこで研究室と政府から依頼された兵器の運用試験を行うことで生計を立てているデュランダル前議長。
名有りキャラには甘くモブキャラに厳しいアニメ界の例に漏れず、旦那と離婚したタリアを息子ごと招いて今ではレイを含めた4人で幸せに暮らしているらしい。旦那さんマジ涙目ですよ。
テロメア関係やコーディネイター同士でも子供ができやすくする研究に今取り組んでおり、議長をやってた時以上に生き生きとしている。
そうだ、このメンツがいるならレイもいる筈――――あ、いた。
再び吊るされたカミーユを 「そういやよくも本編じゃ俺の出番取ってくれたな」 とブツブツ言いながらサンドバックのように殴っているところだった。左ボディのキレが半端ねぇ。
「ミネルバにはそこにいるラクス・クラインも同乗するとの事だ。それとZEUTHに対する礼は後で必ずする。
……他に質問は無いな? では解散だ。作戦開始は1時間後、諸君の健闘を期待している」
そう言うとハマーンはミーティングを切り上げ部屋を後にした。
1時間後とは随分と急な話だなぁ。まあアムロ大尉の考えが当たっててZEUTHとの合流が読まれていると言うのなら、時間を置いては不利になるばかりだ。無理も無いか。
とっととパイロットスーツに着替えて機体のチェックをしないといけない。いやその前にセツコさんたちと話をするのが先かな。
急ぐように仲間たちを促そうとしたが、ロランが女首領2人に話しかけたので仕方なく足を止める。まあキラさんの情報くらいは仕入れといてもいいか。
「クライン議長とアスハ代表はなんでここにいるんですか? それにキラが敵方にいるみたいなんですけど」
「私はキラが 『人生で2度あるうちの2度めのチャンスが来たので帰る』 と書置きを残して行方不明になったので、手がかりを求めて此処に来ました。
キラが向こうにいる理由は分かりません。……もしかして仲間になるよう脅されたのではと」
「私は丁度ZEUTHに挨拶に来てたらラクスに会っただけだ。後は、ちょっと個人的な用事があって……」
そう言って僅かに頬を染めながら此方をチラチラと見てくるアスハ。ん、個人的な用事って俺絡みか? 全然心当たり無いけど。
「キラがいるらしいので作戦には私もご一緒させていただきます。あのグラサンには貸しもありますし……ハマーンさんがなぜあんな元グラサンにご執心なのかはわかりませんが。
それとあのオールバックの首殺ってきてくれたら、個人的に好きなだけ報酬を差し上げますわ。特にシンはお金が要り様なのでしょう?」
「マジでか。まあお金が無いのは確かにそうだけど……てかなんでデュランダル議長までいるんですか」
「もう議長ではなく只の研究所所長なのだがね、シン。それはともかくとして、今後の研究の為にお金が必要なのだよ」
「ギルは今月マジでピンチだったりするんだ」
つまりは金欠か。住居も兼ねているミネルバを売れば良いのにと思ったシンだったが、以前ミネルバに遊びに行った際に彼から聞いた言葉を思い出して口に出すのを止める。
家には子供たちの思い出が詰まるものだから、親ってのは家を必死で守るものなんだって。
「そんなことよりも早く行こうぜ。とっとと準備しないと時間が来ちまう」
「俺はセツコさんからワトソン中尉の話聞いてから行くわ。機体のチェックは一応昨日もしてるし」
「セツコに会うなら私も付いて行くぞシン。彼女やルナマリアに話があるし」
「それでは私も特に用事はないですし、ご一緒しましょうか」
「付いて来るんですか? ……まあ、別に良いですけど」
ラクスとはそこまで仲が良いわけではないが、今の自分はZEUTH所属であると共にFAITHでもあるのだ。そうつれなくもできない。
仲間たちと別れてラクカガと共にセツコたちの許へ向かうシン。通りすがった整備士に彼女たちを見たか聞くと、どうやらMSデッキにいるらしい。
パイロットスーツ持ってくれば二度手間にならなかったのになと思いつつデッキへの扉を開ける。耳をつくのは整備による機械音ではなく興奮した歓声。
「でえぇぇぇぇい、どうだぁセツコ! 苦しいだろう!?」
「「「 落・と・せ!! 落・と・せ!! 」」」
「ギブ? セツコギブアップ!?」
「の、のー!!」
特設リングの上でセツコをスリーパーで捉えるフォウ。ステラを鉄柵に叩きつけるファとサラ。エマは場外でルナマリアとエルボーの打ち合いをしている。
それぞれレオタードやタンクトップにスパッツなどの戦いやすい格好。何人かはオープンフィンガーグローブやレガースも着用している模様。どう見ても女子プロレスですありがとうございました。
レフェリーはロジャー、実況はブライト (中の人が天下一武道会経験者) 。解説は元大関スケコマシことアンディ・バルトフェルドがお送りします。
「ううっ……」
「ロープ、ブレイク! ほらフォウ離して。ワン、ツー!!」
足をロープに伸ばして何とかブレイクにもっていくセツコだったが、ストンピングを数発喰らったあと休む間もなく起こされる。場外にいたサラを呼び込み、セツコを羽交い絞めにするフォウ。
いかに彼女とはいえ2対1ではさすがにキツいか。アピール中のサラの隙を突く事もできない辺り、そのダメージは大きそうだ。
「もう見てられない、私も戦うぞ!!」
お、アスハが行った。
友人のピンチに、カガリは駆けた。
リング上で行われているのはセツルナステラ対カミーユハーレムのガチバトル。見たところセツルナステラが劣勢だ。人数が3対4なので無理は無いのかもしれない。
だがそれを言うならカミーユハーレムが数を減らせば良いだけなのだ。これはフェアな戦いではない、そう判断する。
カガリは激怒した。呆れた女どもだ、生かしてはおけぬ。
「CEナメんなやコラぁぁぁ!!!」
そう叫ぶや否や、カガリは飛び込むようにリングに入った。そしてセツコに止めを刺そうとロープに跳んだサラに対して宙を舞う。
カウンターのジャンピングニーをまともに叩き込まれ吹っ飛んだサラ。背後に振り返ると、セツコがフォウの動揺した隙を突いて彼女を投げ飛ばしたところだった。
「アスハ代表がCEチームに加勢したぞ!! これで勝負はわからなくなった!!」
「いや、あの気迫に満ちた目は……カガリじゃない、今の代表はKガリや!! これで勝つる!!」
観客の声をバックにハイタッチをかわす2人。これで数は4対4、互角である。つかセツコはどっちかと言うとUCの筈なのだがまあ細かいことは気にしない方向で。
「アスハ代表、よく来てくれました!」
「なんの、私たちは仲間だろ!? コレぐらいは当然のことだ!! ステラ行くぞ、私たち金髪コンビで攻勢に出る!!」
「うぇい、まかせんしゃい!!」
「今こそ総攻撃であります!! 一撃、必中!!!」
カガリが入った途端に形勢逆転、ワンモアブレス攻撃でチームCEが勝負に出た。
金髪コンビのダブルショルダータックルがフォウに決まり、続けざまにルナマリアがジャンピングエルボードロップを叩き込む。
そしてフォウの身体を引き起こしたセツコがストレッチプラムで完璧に捕らえ、アムロを修正したときのブライトさんくらい彼女の上半身を捻りあげた。
それを見たカガリは力強く頷く。あれなら完璧だ、いくらフォウが耐えようともこのままの流れで行けば勝利はそう遠くない。
この際だからZEUTHに来た用件を済ませておこう。リング外から助けに入ろうとするエマをエルボーで叩き落としながら、カガリは傍にいたルナマリアに声をかける。
「あの、ルナマリア……この間言ってた援軍の件なんだけど。もうちょっとしたらオーブの仕事の都合がつくから、お前たちがどうしてもって言うなら一緒にシンと戦ってやっても……いいぞ?
それでさしあたっては今日辺り、あいつのレベルを確認しときたいんだけど」
「ああ、あれ? すいません、昨日から今朝にかけてで決着つけましたからその話はキャンセルでいいですよ。ほら、肌がこんなにつやつや」
何、だと………?
驚愕で開かれる瞳孔。自分もこんなことでSEED発動したくなかったが、なっちゃったもんはしょうがない。
「ちょ…そんな、それは無いだろ!! こっちは今夜辺りつまみ食いしてやろうかなって思ってたのに!! 噂のパルマを内心楽しみにしてたのに!! 汚されても良いように代えの軍服だって」
「ごめんなさい、このSSのタイトルって全体攻撃なんですよ。代表が入ったら4人になっちゃうでしょ? それにあの時は私も追い込まれてどうかしてたんですよ」
どうかしてたって今更言われても。
こっちはそれまで男がいなくても不自由してなかったのに、ルナマリアの救援要請という名の生々しい夜の被害報告で自分の女の部分を思い出してしまったというのに。
別にシンと付き合いたいなんていうわけではないが、既にスイッチの入ってしまったこの身体をどうすれば良いと言うのか。
「このアマ、ただでさえお前の妹のおかげで運命の出会いが勘違いの恋になっちゃったのに……そのうえ目の前でエサをちらつかせるだけかよ!!」
「代表とシンのカップリングじゃ需要がないでしょ。アスラン逃がして身体が夜泣きしてるなら、オーブ軍の女に飢えてるおっさんたちに相手して貰えば良いじゃない」
「ぬぬぬ……助けに来た友人になんたる扱いだ!」
許すまじホーク姉妹。
「ほら、バカなこと言ってないで合体技いきますよ!!」
そう言うや否や、フォウを救出に上がったファを捕らえてバックドロップの体勢に入るルナマリア。後は自分がSTOを仕掛ければ有名な合体技 「俺ごと刈れ」 の完成ではあるが、正直そんな気分ではない。
いや、刈って欲しいと言うなら刈ってやろう。ただし刈るのは2人まとめてではない。
「お前の命をなぁぁぁぁ!!!!」
「なんか急にCEチームの連携が乱れてきたなぁ」
シンの見た限りではさっきアスハとルナの合体技が誤爆したあたりだろうか、ギスギスした雰囲気になったのは。勝利する流れを掴み損ねたっぽい。
UCチームには武闘派がエマさんくらいしかいないため個々の実力はCEの方が上である。依然として優勢なのは変わらないが
「なんだ。同数だとUCチームが劣勢ではないか、情けない」
しかし、ここにありえない勢力が存在する。セツコ達が努力をもって高みへ上る常人なら、彼女はただ覇道を進むもの。
「仕方が無いな。ここは私自らが参戦して、勝利に導いてやるとしよう」
オーラを周囲にばら撒きながらハマーンがデッキに現れた。
まずいなこりゃ、今あの人に乱入されたら試合が終わってしまうぞマジで。シンもこの場にいる観客も見たいのは同じレベルの者たちの戦いであり、獅子が兎を狩るところなど見たくは無い。
今丁度4対4だから数が合わなくなるんでとハマーンを止めようとしたシンだったが、その前に彼女の歩みが止まる。
鋭い視線の先には道を塞ぐもう1人の女性の影。
「あらハマーンさん。おそらくそれは無理だと思いますわ」
「ほう、理由を聞いても良いかラクス・クライン」
「それはとても簡単な答え―――――私がこの場にいるからです」
なんかこっちでも戦いが始まったな。シンの眼前でUCとCE、2つの世界を代表する女性カリスマが対峙する。上着をバサリと脱ぎ睨み合う両雄。
ハマーンさんは摂政モードな軍服、ラクスは例の忍者もどきなコスチューム。2人とも実はノリノリなのだろうか。
「面白い。せいぜい私を楽しませてみるがいい、戦乱の歌姫よ」
「まず決める。そしてやり通す。貴方が相手とは言えその言葉を翻す気はありません」
いくらラクス・クラインでもハマーンさんの相手は厳しいだろう。いやメギドラオンでも連発してくれれば良い勝負ができるのかもしれない。
ビキビキと拳を鳴らすハマーン。近くにあったパイプ椅子を手に取り、ゆらりと構えるラクス。
オーラで両者の間の空間が歪んでいる。
そして近くにいた整備士が飲み物のカップを落とした瞬間、両者はリングに向かって横走りしながら攻撃を交錯させた。
「桜舞大回転、秒速五千糎!!!!」
「コンセントレイト!! そしてテンタラフー!!」
あ、負けたなこれ。
戦国BASARA並に観客を吹き飛ばしながら死闘を開始した女帝2人。人外の戦いには突っ込む気がなくなってきたので、シンはリングに視線を戻す。
ラリアットを避けられたアスハがサラに逆さ押さえ込みでフォールされたところだった。
「ワン!! ツー!! ス……」
あ~、アスハ返せ返せ返せあぶねー。
「よし、じゃあ行こうか、みんな」
プロレス観戦も終わり、作戦開始のため集まったシンたち。
試合の方はテンションがMAXになったハマーンさんによって9人がKOされたため試合を一時中断するというハプニングが発生したものの、
最後にはステラがサラからステラスペシャル (腕取り逆回って体落とし風投げ) の3連発でフォールを奪って勝利。
後は挑発・負け惜しみ等のマイクアピールをそれぞれがこなして次回への伏線を作り、それぞれインタビュールームや控え室へと戻っていった。
後で聞いた話だが、控え室ではアスハ革命と呼ばれる出来事があったらしい。会場にいたシンたちがそれに気付くことは無かったけれど。
ちなみにイベントはこの試合で終わりではなく、メインでは男の試合も組まれていた。
アスラン対桂によるヅラ取りマッチ時間無制限1本勝負が行われ、インフィニットジャスティスの異名を持つアスランが永田さんよろしく白目を剥きながら腕固めを決めたりして頑張ったものの、
いまいち観客の受けが悪く次回の興行に不安を残す形となったのは超どうでもいいことである。
「あ、でも俺結局3人に行って来るってこと言いそびれた」
「別にいいだろそれくらい。どうせ向こうはさっきの勝利に浮かれて酒宴でもやってるさ」
「シン、俺は先に行っているぞ」
ポンとシンの尻を叩きガンダムへと歩いていくアムロ。彼のこんな行動は珍しい。これが終わったあとは女2人による修羅場が待っている為テンパっているのだろうか。
まあいいや。
セツコさんたちとは話せなかったけどどうせ怪我するつもりもないし、さっさと帰ってこよう。
「よし、それじゃあのロリコンどもを止めに行きますか」
「今の俺に迷いは無い。お前の背中は守ってやる」
「ここは彼らに、女は腐りかけが一番美味しいということを教えてやらねばなるまいね」
「ギル~? ちょっとこっち来なさい」
迂闊な発言のせいで襟首を掴まれ、まるでドナドナの子牛のように引っ張られていく議長。雉も鳴かずば撃たれまいに。
「ここまでか………。シン、レイ。運命に打ち勝て――――――」
「ギル、それ言えば何でも格好付くと思ってるでしょう?正直困ります」
ほんとにな。
キュベレイの座席にもたれ、ハマーンは軽く息を吐く。目の前の画面に映っているのは5人の青少年。
ようやく自分の許にZEUTHからの精鋭が集った。これであの男に仕置きをすることができる。
スパロボの元祖トライアングラー、アムロ・レイ。
女の敵な俗物ニュータイプ、カミーユ・ビダン。
メイドマイスター、紅エイジ。
最近悪魔な執事にジョブチェンジ、ロラン・セアック。
アロンダイトとゴッドフィンガーを併せ持つ1人トライチャージこと、シン・アスカ。
ZEUTH時代にアンケートで集めておいた 『ぶっちゃけ死んだ方が良いやつランキング』 の上位陣を集めてみたのだが、どいつもこいつもエースばっかりなのはどういうことだろう。
ちなみにアスラン・ザラはすぐ味方を裏切るとデータが出ている為、駄目人間の筆頭であっても呼んではいない。キラ・ヤマトはむこうだし。
『我々の目標はクワトロ大尉、いやシャア・アズナブルの身柄の確保と所属勢力の解体だ。おそらく相当数の敵機体がいると思われるが……』
「何を今更説明している」
出撃前の作戦確認をしているのはアムロ・レイ。だが今更確認するほどのことでもない。
彼らは助っ人なのだから、此方の指示に従って戦ってくれさえすれば良いのだ。
『………かつての仲間と戦うのは辛いかもしれないが、既に向こうは交渉を拒否している。我々はこの騒乱を早期に沈め、世界の平和の為に』
「世界の為だと? それこそ今更だな」
『………』
度重なるハマーンの言葉に、アムロは通信をハマーンに譲る。そんなに言うなら貴方がやれ、そういう感じで。
「四の五の理屈はいらんのだ。さあ」
アムロ、エイジ、カミーユ、シン、ロラン。
モニターに映った彼らを再びみつめたあと、ハマーンは声を上げた。
「―――――準備はいいか。野郎ども」
WILD ROCK!!