ふと、半年前を思い出す。いや、ふとじゃないな。
「なあ、はやて?」
「なんや?正さん」
「その言い方ももう終わりだな」
「…そやな、そうゆう事になっとるな」
はぁ、と白い息が出る。真っ黒なコートからもう一本マルボロを出して、思うことをそのまま出さないように、口に栓をした
「…はい」
カキン、と音を立ててジッポーで火が灯され、緩やかに紫煙がため息と共に吐き出される
「…慣れたなぁ。お前吸わないのに」
「んーまあこういうのって憧れてたんや」
なんか、夫婦っぽいやろ?まあ私はもう親のことなんかまともに覚えてへんのやけど、と陰りなく返してくる姿が逆に痛々しい
「そういやあそう言ってたな」
だから愛用のジッポーを渡したんだっけか。健気なそんな所にうたれて
「おかげで休憩の度にお前探さなきゃいけないけどな…」
でも、それを不思議と面倒と思わなかった。まあ本数減っちまったけどな
「でも、これも返さんといかへんね」
そういって銀色の塊を差し出してくる、そこには躊躇いもなく。動揺も感じさせない
「そうだな…フェイト達は?」
「気ぃきかせてけえへんよ…それにしても最後までデリカシーないなぁ」
こんなときに他の女性の名前だすのはどうなん?って言われてもな
「そりゃ分かってたことだろ?」
「この半年で更に痛感したんやけどな」
「そりゃすまん」
ふぅぅ。更に白くなった息を虚空に吐き出す
「短い間だけど、茶番につき合わせてすまんな、減刑のためとは言え」
「もう…それは私がやりたいからやったんや。何度もいったやろ?」
「そうだっけ?」
「そうや」
ふぅぅ…
そして二人は黙り込み、流れる白い息の中、深夜を告げる時計だけを見つめ続けていた
「…3,2,1,0…これで約束は果たしたんやな」
「すまないな、元山本夫人」
「ええんよ、元旦那」
―――――旦那と過去の憂鬱――――はやてルート
「山本さん」
「んー?ああ…なんだはやて」
だた苗字で呼ばれるだけで走る違和感、夫婦ではまず使わない。今では違和感を感じるようになった呼び方
「何度もいったんやけど…こうなったのは私のせいや、あの時護衛を頼んだのは私、最善を果たしたのが山本さん」
「違う、何度もいったけど、あれは俺のミスだ、あいつがそこまで加速するとは読めなかった俺が悪い」
ああ、俺みたいなのが読み違う。それは致命的なミス、そんなの何度も話し合ったろ?
「違うんや、それでも…それでも。今だからもう一度言うんやけどそこは譲れへん」
「だが、それでも俺の罪だったはずだ。緊急時とはいえ」
そうだ、法務局もそう判断したじゃないか。傷害罪、殺人未遂。どっちでもだ
「それに、それを俺は受け入れた。当然だ、分かっててやったんだ。俺にはそれ以外はなかった」
いまだに思い出せるあの瞬間、あの
「テロリストを血祭りにあげた時には」
「…でも!」
ミッドでは魔導師には厳重な法がある、障害や殺人に対する、だ。当たり前だがクリーンを売ってる魔法でそれを厳刑で縛らないわけが無い。そのせいでテロリストでさえ非殺傷が基本なのだから
「あの時、俺が止めれない。そう判断したから殺傷指定で魔法を殺す気で頭部に放った、そうしなければ任務が達成出来ないと判断したから」
「…それは」
そこに在るのは明確な殺意だ
「相手は高ランク魔導師、俺では圧縮して貫通出来ても一撃で止めれない」
俺のレアスキルで圧縮すると相手の魔法防御を貫通しやすくなるが、威力自体は減る。当然だ、バットで殴れば相手は死かもしれない、それがピックのような鋭いものなら?
貫通はする、当たり所が悪ければ致命傷だるう、だが血や外傷に強ければそのまま戦闘できるのは当たり前だし、ライフル銃のスナイパーが頭部を狙うのはそういうことだ
そして非殺傷だとダメージは与えられてもそれが致命傷になるかは相手次第。そして何度も言うが、相手は事前調査に上らなかった違法高ランク魔導師
俺と接敵して即座に転進し、はやての目の前に飛び出たそんなやつを一撃で止める。俺にはそうする以外手はなかった
「…もう、変わらへんのやね」
「この話はもう平行線だって決着ついてるだろ?」
もう一本、口に咥える
「そうやったね…それでも、調査を鵜呑みにして。休暇中だった山本さんに付いてきてもらったのは私や」
「それも事実だがな」
そして火が点かないことに疑問を感じる
「だからって、減刑の為に結婚とはな、しかも反則の」
そして半年振りに自分の手に火を点ける道具が渡ったことを思い出し、しばし点けるかどうか迷ってからマルボロを戻した。なんとなく味気なく感じたからだ
「そういうたって、他に方法がなかったんやからな、リンディ提督なんかも手をかしてくれはったし」
この傷害事件の場合、かばった相手が近親者だった場合、かなりの罪が減る。まぁミッドでは当然なのだそうだが…地球にも近いものがあるんだっけか?
「…管理外とはいえ、いやだからか、婚姻届を出した日を遡らせるとはね」
管理外とはいえまったく管理局が放置しているわけではない。でないとエイミィは海鳴市に住めないし、フェイトたちはそれを利用してアパートを借りていた
「…まあ、そのせいで半年の観察処分、甘いよな」
「山本さん。高ランクやないけど、それが普通やからね。元々フェイトちゃんやヴォルケンリッターが無事なのもそのせいやし」
司法取引もあった。この半年ははやてとともに身を粉にして戦いまくった、それが管理局への奉仕だそうだ
「まぁ…それ以前にテロリストに対して甘すぎるとは思うけどな。声高に歌いすぎなんだよ、クリーンって」
馬鹿馬鹿しい、そんなんだからテロリストが後を絶たないんだよ
「お陰でお互いバツイチだ、俺はいいが…お前は20そこそこだってのに」
「大丈夫やって、最悪アコーズ査察官とかが貰ってくれるっていいてたし」
「モテモテだな」
「モテモテやで」
もう一度、少し湿ったタバコを咥える。口から一度戻したこいつは今どう思っているんだろう?無性にそれが聞きたくなった、だがこいつは職人気質らしく黙して語らない
「まあ、あの牢で『結婚したから、口裏あわせ頼むで?』って言ったときのあの顔、それ見れただけでバツイチになった価値はあるわぁ」
「そうかよそうかよ、二度としねぇから良く思い出しとけ」
「うん、この半年。一度もせぇへんかったしな」
「まあ、長かったような」
短かったような
「色々あったからね」
フェイトとなのはなんかの元六課は先に説明してたけど、なんとなく距離を置いてしまったし。保護監督をしてたナンバーズには死ぬほど暴れられた
「…いいさ、いい思い出だ」
「ん…なのはちゃん達はこの後で会いたいってウチに集まっとるよ」
そうか…ここ数ヶ月殆ど話しもしてないが…
「だろうと思ったよ、お前の考えなんかこの半年で分かりきった」
「ふふふ…じゃあ、これで言いたいことわかるん?」
そう言って片手を、指を揃えて突き出した
「簡単すぎるな…それよりフェイト達の方を当てる方が意味があって楽しいぜ」
そういって離婚届を受理させた。との報告を空間ウィンドウで出して見せる
「そう」
「これだろ?」
そういってキン、と金属音を響かせて手の中のものを跳ね上げて、純銀をちっこいはやての手に投げ渡す
「…やっぱりリングやないんやね」
「当たり前だ、だいたい離婚したろうが」
そういってそれをすぐにそれを使ってくれる
「…銀なんだから、それで我慢しろ」
「はいはい、甲斐性ないなぁ」
ゆっくりと純銀の、すっかりはやての手垢の付いたジッポーでタバコを味わう、ああそうだ、この味だよな
「なあ、正さん。賭けにせえへん?」
「いいぜ。だが賭けにならんだろ」
「それが問題やな、じゃあ横断幕があるかどうかできめへん?」
「くっくっく…いいね?俺はフェイトが絡んでるしな。せっかくだから有るに賭けるぜ」
「なのはちゃんが止めたに今晩のメインディっシュや」
「いいだろう、んじゃあ確かめにいくか?」
「そやね」
そういって微妙に離れて歩き出す、この半年の暗黙のルール。近づく為にはタバコを咥える
『再婚おめでとうの幕を確かめに』
「まったく…最低半年は無理だっていうのに、馬鹿かあいつらは」
そういって俺はきっちし半年後。離婚してからの金を貯めて、ジッポーじゃない結婚を示す印を薬指宛てに送った。直になんか渡してやるもんかよ、相棒になんかな
あとがき
はやて分が足りなかったのでカットなってやった、作者の脳内のはやてはこんな感じ。結婚してから分かる相手の価値とかあると思うんだ
PS だれも望んでない感じの初外伝。
PS2 だが後悔はしていない、短いが渾身の力を込めた力作である
PS3 だが思っていたのから見ると半分もあらわせてないな…このへんが限界なのか