「ねえ、父さん。今度の休み、どこいくつもり?」
「んー?いやどうすっかなぁ…一日あるしなぁ…」
「久しぶりのデートなんだから、もっとやる気出して欲しいな」
「親子でデートとか…それにエリオとキャロの休暇はまだ決まってないのか?」
「うん、今忙しいんだって」
「そうか…んじゃあ二人だなぁ…六課解散してからなのはは元の…いやまあ少しは遊びに来てくれるようになったか」
「うん、はやては昔と同じだけど、ヴィータちゃんもちょっとは来るようになったかな?」
「そうか…まあフェイトと二人で出るのも久しぶりだし、ミッドの新しい水族館とかどうだ?」
「!いい」
「そうかそうか、目玉は全長160メートルの水槽で、特殊クリスタルでまるで海の中みたいだそうだ」
「へえ…父さんはなにかみたい魚とかは?」
「そうだなあ…まあなんでも、かなぁ?でっかい魚とか泳いでそうだからそれみたいかなぁ?フェイトは?」
「私はイソギンチャクかな?」
「フェイト、それは魚類じゃない。そしてその意味深なチョイスはなんなんだ、なんなんだよ」
「?色とか綺麗なだけだけど?あ!仕事いそがなきゃ、ティアナ待ってるし。それじゃあ父さん、帰ったら決めよう?」
「あいよ、気をつけてな」
――――旦那と娘?の憂鬱――――フェイトルート
「フェイト!フェイト!」
連絡を貰って即飛び出した、用意したのは車のキーだけ、サイフは辛うじて持っていて助かったと思ったのは、駐車場の『有料』の文字を見てからだった
「すいません、親族の方ですか?」
「父です!」
「…いまは冗談を言ってる場合じゃないんですが」
「父です!まぁ養女ですが、フェイトは」
「そう…ですか」
「それで先生、フェイトの具合は?」
担当医だと紹介された、俺より一回りは上に見える医者に問いかける
「…今のところ、危険な状態としかいえません」
「症状は?リンカーコア関係なら俺も少しは手が出せるかもしれません」
「いえ、問題は出血が多すぎたこと。それと外傷が大きすぎてそのショック症状です」
「具体的には?」
担当医は後ろの空間パネルを操作すると、色々なカルテを出してくれた。殆どが医学用の言語なので分かりにくいが
「…左手が…」
「ええ、前腕部から撃たれ、切り落されています」
「…殺傷指定ですか?」
でなければ、ここまでの外傷はない、くそ!何言ってやがる!『外傷によるショック』と言われただろうが!冷静になれ、俺!
「はい、捜査中に指名手配のテロリストと遭遇戦があったと聞いています」
「…そうですか…他の傷は?」
「空戦だったので、墜落の衝撃で頚椎と背骨に傷があり、それも危険な物です」
「…具体的に、命の助かる確率と後遺症を教えてもらえますか?」
「命については全力を尽くします、どうも管理局からも人手が出されるようなので」
「その連絡をしてきた人の名前は?」
「ヤガミ…とか仰られたそうです」
そうか…流石だはやて
「それで…後遺症については手術が終わらないとどうとも言えませんが」
「はい」
ごくり、と喉が鳴る。素人の俺が見てもそうだろうな、とやな推測しか浮かばない
「左手はある程度諦めて下さい、それと…頚椎と脊椎の方で障害が出た場合、下半身不随などの可能性が…」
あとはよく覚えていない、気が付いたら泣いているヴィータとシグナムがいて。手術中の赤ランプが消える寸前には元六課のフォワードやはやて達が勢ぞろいしてた
「…山本さん」
「あ?」
「元気…出してください」
「ああ」
「…ずっとそればっかりですよ」
「ああ」
正直、もう口を動かすのもきついくらい参っていた。あのスカリエッティ事件最終戦での痛みですら、ここまで俺を打ちのめさなかった
「あ…先生!フェイトちゃん!フェイトちゃんは!?」
ぼうっと。気が付けば12時間は経っていたらしい手術は終わったらしい
「手術は成功です、もう大丈夫ですよ」
「…!よかった…山本さん!よかったですね!」
なのは、まだだ
「…?ヤマモトさん?どうしたんです、成功ですよ!」
エリオ、ちょっとまってろ
「…先生、それで後遺症のほうは?」
「…術後暫くしてでないと判断はつきませんが」
「大体でいいです」
そういって逃げを潰す、自分でも悪趣味だとは思う。この人はよくやってくれてる、疲れている今無理をいうもんじゃないとは分かるけど
「私はフェイトの父です、出来ることは出来るだけしたい。其の為には早めに心の準備をしておきたい」
「…リハビリによっては分かりませんが、右手は動かない可能性があります」
「…!そんな…」
ヴィータか?そうか…下半身じゃなく右にきたか
「左手はどうなりました?」
「縫合はしてあります、リハビリによっては…」
「分かりました、疲れているところ申し訳ない」
「…そんな…フェイトさんはなにも悪くないのに…」
「私が…私が今回もちゃんと補佐に付いていれば…別行動なんかしなければ…」
キャロ、世の中そんなもんだ。ティアナ、それはフェイトの指示だったんだろ?もう気にするな
「そうか…皆、うちの娘の為に集まってくれてありがとう。でも今日はここまでで帰ってくれ、それぞれの生活があるだろうし。またなにか進展があったら連絡させてもらう」
「…山本さん…わかった、それじゃあ私らはこれで帰らしてもらうわ。どっちにしてもここで出来ることはもうないしな」
すまんな、はやて。暫くはフェイトも麻酔で起きないだろうし、また連絡はさせてもらうよ
「…とう、さん?」
「おはよう、フェイト」
手術が終わって8時間、この病院にきてからもう一日以上たっている
「とうさん…?」
どこか、夢を見ているような目でぼんやりと呟く
「ん?どうした?」
「…私、腕ある?」
「…あるよ」
ぐっと我慢してそう答える
「でも、ぜんぜん、感覚、ないの」
「そうか、左手はちゃんと繋げて貰ったよ」
「左…そうだ、私狙撃から…女の子を守って…」
「そうらしいな、市街地でのテロだっけ?」
「うん…あれ?私、それで…落ちて…」
「フェイト、眠いんじゃないか?」
「うん…きっと眠い…」
「じゃあ、寝なさい。父さんはここに居てやるから」
「ん…ありがとう父さん…」
そういってフェイトはまた、夢の中に帰っていった
「…ラスト、秘匿通話開け。通話先は八神はやて二等陸佐」
そして、俺は目が覚めた事を告げ、それを皆に伝える事などを頼んでから、ゆっくりとフェイトの寝顔を見続けた
「…ごめんね、いつも…重いでしょ?父さん」
途中数日空けてしまったが、それ以外は毎日ここで付きっ切りだ。いつもといわれても困るが
「リハビリだぞ?これくらい当然だろ?」
あれから3ヶ月、術後がよかったので始めたリハビリは、左手が中心になっている。
それは、やはり頚椎の傷で右は殆ど絶望的だと診断されたからだ
それでも左がそこそこになったら、また右もリハビリの量を増やすつもりではあるが、効果は薄いだろう
「…あ」
左で握っていたボールを落として、それを拾おうとしてバランスを崩してしまう。いまさっきみたいに俺に寄りかかったりしてはしていないが、ボールまでは手が届かない
「ほら、フェイト」
「うん…父さん…」
現在ほぼ両手が使えないフェイト、それでも。少なくても俺の前では泣き言も、恨み言も一切漏らさない。ただ『ごめん』が口癖になってしまったが
「ん…んん…ふぅ!」
体中から汗をかき、小さなボールを握り締めるが、その手のひらを逆さにしてしまったら落ちてしまうほどの握力、いや。0は無いといったほうが正しいか
「はぁはぁはぁ…」
「ほら、水。ちょっと休憩しよう、オーバーワークはよくないしな」
「ん…でももうちょっと…」
「いいから、父さんの言うこと聞きなさい。そんなに無理にやるもんじゃないよ、なのはじゃあるまいし」
ゆっくりと体を拭いてやる、いまのフェイトは一人では何も出来ない。基本的に看護士さんがやってくれるが、俺も出来るだけするようにしてる
どちらにせよ、数ヶ月したら通院生活になるだろう、その時に慌てても駄目だしな
「今日はなのはは…?」
「ああ、ヴィヴィオの世話と部屋の掃除」
俺は勿論、ヴィヴィオの事もありなのはも長期の休暇を申請した。俺は親族の怪我なことと、六課関係からの圧力ですんなりと取れたが…
「…なのはのやつ、一年以上休暇とか楽に取れるってどういう生活してたんだ…」
遊休溜まりすぎである、半年とか馬鹿みたいな申請して怒られるどころか、事務局が泣いて『ありがとう!ついにですか!』って…労働組合にどんだけ怒られてたんだろう?
「…父さん」
「ん?どっか痒いところでもあるか?」
「…ごめん、父さん」
「気にするな、ほら林檎いるか?俺食うけど」
ひょいと果物籠から取り出して、ぺティナイフでするすると皮を伸ばしていく
しかしまあ、この差し入れの減らないこと減らないこと。もう見舞い客が一日10人以上とかくるから受付で特定の人以外は『リハビリ中なので』と断って貰うのだが、これだけは押し付けられるので減らないんだよな
「…しかし、伝説の三提督まで来るとはな…出来たぞ、ほら、あーん」
「…あーん」
小さく、一口大にした林檎を口にいれてやる。いつもはうっすら顔を赤らめるのに今日はその気配がない
「どうした?フェイト」
「…私ね、この動かない両手」
こくり、と喉を可愛らしく鳴らして飲み込むとぽつり、と呟いた
「凄く、嬉しかったの」
「…え?」
「…ごめんね、だって、こうなってしまったら。父さん、独り占め出来るから…」
そういってこっちを見たその目は。俺の、昔よく知っていて、今知らない眼だった
「フェイト…お前…」
「前にね、なのはと約束したの。父さんと、どっちが付き合っても恨みっこなしだって」
「え」
そりゃあなのはもそうなんじゃないかな、とは思っていたけど。いつの間に?
「それでね、いま、なのはが父さんのお嫁さんみたいになってるじゃない」
うん…そう見えるかもな、病院にもよく来てくれるし。俺が帰るとヴィヴィオと待っていてくれる
「でもね、でもそれでいいと思ってるの。私こんなに父さんに迷惑かけて、嬉しくなってる悪い子だから」
違う、フェイト。これは俺が好きでやってることだ
「だからね、父さん、ごめんね」
私、もう無理だとおもう
「無理…?」
「うん…もし手が動けるようになって、家に帰って、なのはが迎えてくれて、私の居場所が無くなってるの見たら」
私、きっと壊れちゃう
そう、顔を伏せることなくそう呟いた
「…もう、無理なんだよ。こんなに優しくしてくれて、それを覚えちゃったから。こんなの忘れられないよ」
「なにが…無理なんだ?こんなの普通だろ」
「ううん、父さんはきっと悪くないんだよ」
「?」
そういって華やかに、長い病院生活で解れた髪の毛を揺らしながら微笑んだ
「私、フェイト・テスタロッサ・山本は、山本正が男性として好きです」
「…フェイト…」
凄く眩しくて、窓の外の光のせいか、まるでフェイトの放つ光と、太陽の光が合わさって。消えてしまうような儚さがあって
「はっきり言って、駄目なら駄目って。そうなら私の事は忘れて、二度と私の前に出てこないで」
「…それで、お前はどうするんだ?忘れられないんだろ?」
「…分からない、嘘じゃないけど。忘れる努力する、でもやっぱり無理だったら」
…ずるいと思うけど、死んじゃうと思う。きっと
「…本当にずるいな、これで断れないじゃないか」
「そう?父さんはそれでも断れる人だとおもうよ」
「お前地味に酷いな」
そういって苦笑する、でもさらにフェイトには苦笑させられた
「ううん、父さんも私と同じだから。重いと思ったらどんな物でも切り捨てられる人だから」
………はっ……そうか、お前は見えるのか。俺が歪んでるのに気が付いたのか
「そうか、やっぱりばれるか。10年も過ごせばそんなもんか」
「ううん、アルフは気が付かなかったみたい」
ああ、そうか。そういえばフェイトが今みたいになった時にアルフはなにも感じなかったな
「そういえばそうかもな、俺はフェイトが今みたいになった時が一番危なっかしく感じてたけどな、お前は俺に似たのか」
「違うよ、元々私はこうだった。ただそれを隠すのを父さんに習っただけ」
「同じだよ」
そうだっけか、フェイトは俺と同じか。なんでお前を拾ったのか分からなかったけど、十年来の謎が解けたよ
「だから、父さんに今聞きたいの。私の命なんか天秤に乗りもしないならすぐに忘れてくれると思うから、代わりになのはが居てくれる今聞きたいの」
「…そうか、そうだな。俺はそういうやつだった」
フェイトやなのはに会う前の十代、他人の命なんかどうでもよかった。どうせ何秒かに一人生まれる命なんかどうでもいい、最後に頼れるのは自分身を守れるだけの暴力だけだ、そう信じてた。そしてそれを狡猾に隠して生きていた
分からないように、バレないように。人当たりのいい人を演じて、敵を作らないように敵を消した
父さんや母さんは理不尽な暴力に巻き込まれて死んだ。アレを目の前で見れば、言い訳じゃないが誰だって多少は歪むだろうさ
「そうだ…父さん、断るのなら、お願いがあるの」
「返事聞く前にか?」
「うん、今思いついたの。断るならそのナイフ。私に頂戴」
「…ああ、そうだな。そうなったら記念にやるよ」
「ちゃんと指紋は拭いとくから」
「やな心使いだな」
こいつは両手が使えなくてどうやって使うのだろう?冷静な頭で考えるとすぐに6通りほど考え付いた
口に咥えて床に顔面ダイブとか。確実性を増やすなら口と、麻痺は左手の前腕からだから、左肘もつかってガムテープでもナイフに巻いて固定して首でも掻っ切るか?
「…フェイト、お前が治るまでは言わないつもりだったんだけどな。俺って背負うの基本的にいやなんだよ」
だから、俺は返事をしようと思う、ここで悩むことじゃない。俺は即座に切り落とせるやつだったじゃないか
「うん、私もそう。必要なものの為に私も背負うものは減らしたい、でもそれじゃあ生きていけないから、父さんみたいに仮面を被って背負った振りをしてる」
今回はちょっとそれが過ぎちゃったみたいだけど、と変わらない顔ではっきりと言い切る
そうだな、俺もそうだ。どうしても譲れないものはある、それを守る為にはそれ以外を捨てるのが当たり前だとおもっちまう。それでもうっかりいい人の仮面でうごいちまうけどな
「それでな、はやてにな。ちょっと頼みごとしたんだ」
「父さん、答えは」
「急ぐな、まあ、依頼はお前が目を覚ました時にしたんだ、通信記録がこれだ」
そういって履歴ウィンドウを見せた。そこには三ヶ月前に秘匿回線を使った、と記録されている。それを見せると裏ソフトでログから完全に消した
「それで、これだ」
「これ…?」
茶色い染みのついたプレート。三分の一ほどが割れて欠けているが、カードくらいの大きさだろう。それをポケットから出して見せた
「お前の左手の仇だ」
そう短く言ってポケットに仕舞った。これは重要な証拠だ、フェイトに見せた以上。これはどこかで処分しよう、パーツごとにバラして粉砕かな
「父さん…?」
「仇は、俺が取った。お前はの事はもう俺が背負っているんだ。まあ直接いうとそういうことだな」
「…!父さん!」
「正さんと呼べ、夫婦で父さんはちょっと早いな」
苦笑してそう訂正すると、もう一言いわなきゃいけないな、これは男としての譲れないところだろ?
「そうしようと思ったのは三ヶ月前。お前に言ってないとはいえ、先に決めてたのは俺だぞ?」
ああそうだ、元娘になんかプロポーズされてたまるか。俺が先だって教えてやらないとな
「…父さん!父さん!父さん!!」
「呼び方変えたくないならそれでもいいけどさ」
昔から変わってなかったらしい俺とそっくりな最愛の女性に、俺はゆっくりと影を重ねて行った。
何、今相手は抵抗出来ないだろうしな?かまわないだろ?
あとがき
地味に病んでみたんですが、ここにくるまでのボツが3個
1、全員で六課解散の日に山本取り合い、病んだフェイト無双で糸冬
ボツ理由:わかり易すぎ
2、なのは刺される!犯人は!?いち早く気が付いたはやては騎士達に情報が行かないように奔走、そしてティアナと久しぶりに再会した山本の前で惨劇が…!
ボツ理由:火サスの見すぎだ。あとこれだと普通に最後いいとことってくのはやてじゃん!w
3、「父さん、エリオとキャロが仕事先で片親だって言われたらしいの」「んじゃ結婚するか」
ボツ理由:3秒じゃん…!
PS 次は誰だろ?ヴィータ?スバル?数の子か?
PS2 まぁ、山本がフェイト拾った理由とか、どこかおかしい奴だってのを暴露
PS3 これら「旦那~」シリーズはそれぞれのIFなので、混ぜると危険
PS4 混ぜると殺意とか色々沸きます