新暦70年。この頃、ジェイル・スカリエッティは水面下で違法研究組織の結成を進めていた。
ミッドチルダ地上部隊は未だそのことに気付けず、切り捨てられた研究者たちを捕らえて回っている。
その中にはエスティマのいる三課の姿もあったのだが――
それはともかくとして、スクライアではユーノとアルフが腕を組みつつ眉根に皺を寄せていた。
それを見るキャロとフェイトは、どう反応したら良いのかといった様子だ。
「えっと……どうしたの? 二人とも」
「どうしたの、じゃないよフェイト」
「そうさ。これはちょっとマズイよ」
ユーノが応え、アルフがそれに続く。
二人の様子をフェイトの膝の上から見ているキャロは、可愛らしく首を傾げた。
「なにかあったんですか?」
「何かあったというか……もう無視できないというか……」
「いやー、アタシもユーノに言われるまで気付かなくてねぇ」
「いや、そこは気付こうよアルフ」
「だから二人とも、何を言ってるの?」
「……フェイト、ちょっとバリアジャケット姿になってみて」
「良いけど」
言われるままにフェイトはバルディッシュを握り締め、セットアップを開始した。
アルフと色違いのマントは今も変わらず、その身体を包んでいる――
「……もうそろそろデザインを変えた方が良いと思うんだ」
「……どこか変かな?」
「変っていうかマズイよ! 目に毒だよ!」
「そうなの?」
「そうさ! 例えば――」
そこまで言ったところで、アルフの指が跳ね上がりユーノの両目に突き刺さった。
しっかり瞼を閉じたため怪我はないし、アルフも怪我をさせるつもりはないが、それでも痛いものは痛い。
ソファーから転げ落ちてゴロゴロと悶絶する彼を余所に、アルフは溜息を吐く。
「もうフェイトもお年頃だからねぇ。悪い虫……というか害虫が湧くような格好をしているのもどうかと思うのさ」
「え、でもこのバリアジャケット、すごく動きやすいし……」
と、深く考えずに口にしたフェイトだが、徐々に頬が朱に染まってゆく。
基本的にバリアジャケットを着るのは戦闘中なので意識がそっちに向いているのだが、日常の中でこの姿になると、普段は意識の回らない部分に考えが及ぶ。
最初から気付けよ、という話だが、深く気にしてはいけない。
「じゃ、じゃあこうするのはどう!?」
と言って、フェイトは慌てた様子でマントで身体をすっぽり覆った。
てるてる坊主のような姿になるが――
「……それはマズイ、フェイト。マント下がどうなっているのか知っている人からしたら、色々なものが倍増する」
と、涙目になったユーノが身を起こしつつ指摘して、彼女は余計に顔を赤く染めた。
頭の中に色々な――そう、昔のことが浮かび上がってきて、加速度的に顔が熱くなる。
PT事件でバリアジャケットをボロボロにして戦っていた自分。
闇の書事件でエスティマに抱き付いたこと。この格好で。
スクライアの仕事をこんな格好でこなしてきたこと。
……すごくえっちだ、これ!
「アルフ、ユーノ、もっと大人っぽいバリアジャケットを作らないと!」
「だからそう言ってるのに……ん? 大人っぽい? なんだかすごい語弊があるような……」
はわわ、と慌てふためきながら、フェイトはその場にしゃがみ込む。
取り敢えず普段着に戻ったら、という突っ込みは誰もしない。
結局この騒ぎとも言えない騒ぎは、エスティマが送りつけてきたstsデザインが採用されて終わることになる。
なのはとお揃いにするだとかなんだとかで二転三転したのはまた別の話。
――ちなみにクロノは、エイミィとデートで忙しかったため蚊帳の外であった。
新暦71年。ジェイル・スカリエッティは違法研究者たちを纏め上げ、遂に結社が形となる。
あとは戦技披露会と被せたテロが勃発すれば、ミッドチルダは混乱の渦中へ突き進むことになるだろう。
それはともかくとして、ある日の八神家。
リビングに揃っているのは、女性ばかりだ。
はやてにヴィータ、エクスにシャッハ。女性と言えるか微妙なリインフォースⅡも、いるにはいる。
五人はテーブルに座りながら、はやての煎れた飲み物を口に運びつつ、今日集められた理由を彼女が口にする瞬間を待っていた。
茶菓子を囓りつつ雑談を終え、一段落すると、ようやく彼女が口を開く。
「……さて。そろそろ今日の本題に入ろうと思うんやけど、ええかな?」
「真面目な話?」
「うん。大事な話や」
ヴィータの問い掛けに頷くはやての表情は真面目そのもの。
いったいどんなことが告げられるのかと、全員は背筋を正し――
「エスティマくんの女性の好みについて、考えてみようか」
「……エクス、ヴィンデルシャフトのオーバーホールの件ですが」
「ああ、はい。急いでます。頑張っているのでこれ以上のデスマは本当に……」
「私は大真面目やで!?」
一瞬でだらけきった二人に声を荒げながら、口をとがらすはやて。
その様子にシャッハは額に手を当て、天を仰いだ。
「……そんなこと気にしなくても良いじゃありませんか」
「そんなことやない! これは私の人生設計に関わる大事な案件や!」
えぇー、と白い目になるエクスとシャッハ。シャッハはともかくエクスはそれで良いのか、守護騎士。
「大丈夫だって、はやて」
「そうですよー」
「気休めは止して、ヴィータにリイン。いつぞやのアルザスへ行ったときに発覚した、エスティマくんの年上好きは無視できひん。
年上になるのは物理的に不可能やから、他の好みを把握して、もっとアグレッシブに攻めへんといつまで経っても今のままや」
「だから大丈夫だよ。だってはやて、アイツの胃袋握ってるじゃんか」
「それだけじゃなくて、家事もですよー」
「エスティマさんの下着を洗ったのも一度や二度じゃないでしょうに」
「もう家族ですよ家族」
ヴィータ、リイン、エクス、シャッハは呆れた様子でそれだけを言った。
それでも釈然としない顔で、うう、とはやては唸る。
「ってゆーかー、これで逃げ出したらもう、食い逃げ犯が土下座するぐらい神経図太いぞアイツ」
「エスティマさん、リインを介してはやてちゃんと間接ユニゾンしてますしー」
「リイン、それは何か間違ってます。……まぁ、羞恥心らしい羞恥心もあまり残ってませんしねお互い」
「というか、男の子の趣向を女で話し合うのはどうにも……そうだ、ロッサに聞いてみましょう」
「ああ、あかん。もう聞いてみたんやけど、『男は女の子を分け隔て無く愛する生物なのさ』とか言ってたわ。
つまりは節操なしってことで、全然役に立たんかった」
ヴェロッサ哀れ。割と偉いことを言っているのに、しかも本人は本気で言っているのに、御覧の有様だよ。
「ともかく! まず細かいところから埋めていこうか!
最初におっぱいのサイズ!」
「……どうせ男なんてみんな大艦巨砲主義だよ」
「うわー、ヴィータちゃんがやさぐれた風に言うと説得力あるですよー」
「んだとリイン!」
脱落者二名。はやての話をそっちのけで、二人は言い争いを始めてしまう。
それにめげず、はやては続きを話す。
「じゃあ、おっぱいは大きめってことで仮決定。
髪の色とか人種とか!」
「ベルカ系の女が好きなんじゃ、とザフィーラが当たりをつけていましたね」
「そうなのですか?」
「ええ。確か彼が上げた女性の名前は、上司の方とカリムさんとあなたでしたよ」
「あらあら」
さりげに自分を外しているエクスと、ませてるなぁ、と苦笑するシャッハ。
それを目にして、はやての不機嫌具合が加速する。
「……これは保留。次や」
「はいはい」
「性格とか髪型はどうなんやろ」
「そこら辺はさっぱりですね。彼の周りには色んな人がいますから。
エスティマさんと仲の良い女性といえば……主ぐらいしか思い付きませんよ?」
「そ、そか。照れるなぁ」
不機嫌な表情を一変させて、はやてはにやけ顔になった。
そこから惚気が始まり、げんなりする一同。
そうして三十分後に我に返るはやてだが、話が前に進んでいないことに気付き頭を抱える。
「……あかん。何も分かってないようなもんや」
「……もう面倒だからアイツの情報端末で画像検索かけようよ、はやて」
「……それだっ!」
ナイスアイディア、とテーブルを叩くはやてに、それぞれ困ったような笑みを浮かべる。
そしてエスティマ宅にはやては受け取っていた合い鍵で乗り込み、情報端末で画像検索をかけようとしたのだが――
プライベート用情報端末の隠しフォルダを開けようとし、三度失敗。警告音と共にHDがプログラムに従って昇天なされた。
父親エスティマ、シグナムの情操教育に悪影響を与えないよう――自分のおかずを知られないよう――自決も辞さない覚悟であった。
自決したのはHDだが。
帰宅したエスティマははやて達をあまりの気まずさから怒るに怒れず、クロノへと愚痴電話を入れる。
が、クロノはエイミィとの乳繰り合いで忙しいため三分で電話は切られてしまうのであった。アーメン。
新暦72年。結社のテロによりミッドチルダ地上の管理局施設へ壊滅的な打撃が与えられ、クラナガンは日々再興の喧噪に包まれていた。
クラナガン郊外では連日のように結社と管理局が小競り合いを続けており、スタートから劣勢へと追い込まれている地上部隊はどこも余裕のない状態になっている。
それはともかくとして、とある休日。
クラナガンの繁華街近くにあるファミリーレストランのボックス席で、エスティマとユーノは頬杖を着きながら溜息を吐いていた。
ちなみに、目は死んでいる。
本来ならばここにはもう一人の青年がいるのだが、彼は急な用事ということで帰ってしまった。
二人で残されただけならば別に腐る必要などこにもないのだが、その急な用事というものが二人を死んだ魚の目にしている。
「すまない、エイミィに呼ばれたんだ」
「また今度誘ってくれ」
クロノの声真似をしながらブツブツと呟く二人。
見た目が整っているせいか、陰鬱とした雰囲気がより一層強調される。
「……あの野郎、付き合い悪いからこっちから誘ってみれば」
「しかも、また誘ってくれとか。向こうから呼ぶ気はゼロってわけだね」
『それは流石に穿ちすぎではありませんか?』
そこまで言って、二人は同時に溜息を吐く。
ちなみに、二人がここまでグロッキー状態でやさぐれているのはクロノが途中で帰ったからではない。
クロノが帰るまで話していた惚気話が突き刺さっているのだ。
最初の方は興味本位で耳を傾けていた二人だったが、時間が経つにつれて胃の腑に形容しがたい何かが溜まりに溜まっていた。
「女ができるとあそこまで変わるもんか……いや、知ってたけどさ。
それでもクロノまでああなるとはなぁ」
「なんだろう。付き合い始めたときに祝福したのが、今になって間違いだったんじゃないかって思い始めたよエスティ」
「同感」
『どこまでやさぐれているのですか』
再び溜息を吐くと、エスティマはボタンを押してウェイトレスを呼ぶ。
間延びした電子音が鳴ると、一分も経たない内にオーダーを取りに来た女性へ注文を言い、テーブルに突っ伏した。
「この後どうする?」
「カラオケ行こうぜカラオケ」
「好きだなぁ。ま、良いけど。……ねぇ、エスティ」
「何?」
「エスティは彼女とか作らないの?」
「冗談。俺が彼女とか作れるわけないだろ。そういうユーノは?」
「……仕事ならともかく、女の人ってあんまり得意じゃないから」
「良く言うよ、女好きの癖に」
「それはエスティもだろ」
『昼間から不健全な話をしようとしないでください』
お互いのHDに何が入っているのか大体把握している仲なので、深くは突っ込まない二人だった。
注文したアップルパイが届くと、エスティマはナイフでそれを切り分けようとする。
が、切れ味が悪かったのか顔を顰めると、彼は魔力刃を形成してパイを手際よく分割した。
「少しもらうよ。しっかし器用だなぁ。皿切れてない?」
「大丈夫大丈夫。……で、だ。
前々から気になってたんだけど、アルフとはどうなってんの? 仲、良いんだろ?」
「良いけど、別にそういうのじゃないし……」
「言葉を濁したな兄貴。それが答えになってると思ってOK?」
「僕のことは良いだろ? エスティはどうなのさ。
なのはが、八神さんと同棲同然の生活をしているとか言ってたけど」
「それは、だな……」
「言葉を濁したね」
「俺のことは良いだろ」
『お二人とも、私の話を聞いていますか?』
エスティマはアップルパイを口に押し込むと、無理矢理話を打ち切った。
というか、この天然奥手とヘタレは、受け身なのが悪いのだと何故気付かないのだろうか。
そしてずっと無視されているSeven Starsはむくれたようにチカチカと光っている。
「……お互いモテないなぁ」
「そうだねぇ」
「空から女の子とか降ってこないかなぁ」
「降ってきて欲しいねぇ、巨乳な子」
「……大艦巨砲主義はもう古いぞユーノ」
「声が大きいだけのマイノリティー意見なんか知らないよ」
『ただ今の時刻は午後三時。そういった話をするのは、日が暮れてからでもよろしいのではありませんか?』
淡々と突っ込むSeven Starsを無視し、尚も話は続く。
余談だが、偶然ファミレスにやってきたオーリスさんに話を聞かれ、エスティマが中将に小言を言われるのは別の話。
新暦72年。エスティマがユーノとファミレスで腐っていた頃、スカリエッティのアジトではナンバーズが作戦の打ち合わせを終えて雑談をしていた。
勢揃いとまではいかないが、ウーノ、ドゥーエ、まだ稼働していないセッテを除く全員がテーブルを囲んでお茶を楽しんでいる。
話題がある程度尽きた時だ。すっかり冷め切ったミルクティーをちびちびと呑んでいるウェンディが、思い出したように口を開いた。
「そういえばクア姉」
「何?」
「クア姉は彼氏とか作らないんスか?」
「……いきなり何を言うのかしらこの子は」
可哀想な子を見る目をウェンディに向けるクアットロだが、生憎この場ではマイノリティー。
面白そうだと思ったセインが眼を細め、会話に加わる。
「そういえばそうだよねぇ。いないの? メガ姉」
「いないわよっ! というか、男とか必要ないでしょう、私たちには!」
「けどクアットロ、前期組なのに一人だけそういう話がないし」
ポツリと呟いたのはディエチだ。
言われてみれば、とその場にいる中期、後期組のナンバーズは思わず頷いた。
ウーノはスカリエッティの秘書。というか、奥さん。
ドゥーエは言わずもがな。
トーレとチンクは首ったけの相手がいる。トーレの方はベクトルが違うような気がしなくもない。
しかし、クアットロは――
「……行かず後家っつーんだったか?」
「行かず後家!?」
スポーツドリンクを飲んでいたノーヴェの発した一言に、クアットロは目を見開く。
しかし、口元をひくつかせながらも、なんとか落ち着こうする辺りは流石か。
だが、
「ロマンスのロの字もないよね、クア姉」
「まぁ性格悪いしクアットロ」
「言いたい放題言ってくれて! 第一、まだ行かず後家って言われるような年齢じゃないわよっ!」
「どうせ行き遅れになるだろ」
「弄ぶことはできても、それだけじゃあ無理っスよねぇ」
「ああもう、そんなことに構っている暇はないでしょうが!」
ダン、とテーブルを叩くも、一向にクアットロ弄りを止めようとしない妹たち。
ゲラゲラと笑われて、いい加減クアットロの怒りが有頂天。
「うっひゃー、怖い怖い。チンク姉、こんなクア姉に一言お願いします」
「ん?……ああ、別に良いんじゃないか? そういうのは、時期が来れば勝手に始まるものだ」
「……チンク、余裕だ」
「流石チンク姉は格が違ったっス。クアットロより若いのに」
「そんなに歳はとってないでしょうがっ! 歳はっ!」
「うわ、後家が怒った! みんな逃げるよー!」
「待ちなさい! 弄ばれたままなんて許すもんですか!」
蜘蛛の子を散らすように逃げ出す中期組。
ちなみに勝ち組であるチンクとトーレは、二人でお茶を飲みながらやれやれと溜息を吐いていた。
新暦73年。ゼストがスカリエッティによって切り捨てられた研究施設からアギトを助け出したりなどの動きがあった。
一方で、管理局地上部隊と結社の抗争は、一つの山場を迎えている。
建造途中であるアインヘリアルの破壊を計画したスカリエッティによって、すべてのナンバーズが初めて同時展開。
果たして、首都防衛隊第三課はアインヘリアルを守りきることができるのか――
それはともかくとして、クラナガン沿岸部上空。
アインヘリアルを守るように敷かれた防衛ラインでは、ナンバーズⅢ、Ⅷ、ⅩⅡの三体がエスティマと対峙していた。
息を切らせ、両手でSeven Starsとカスタムライトを握りながらエスティマはこの場をどう切り抜けるか、マルチタスクを駆使して考える。
分割された思考の中にはいつものように自爆系の案がある辺り、彼も懲りてない。
「一騎打ちではないのが残念ですが……ここで終わりにしましょう、エスティマ様!」
「ほざけ。ここで終わるのはお前の方だ!」
ISのテンプレートが瞬き、オーバーSクラスの魔力が三つ、夜空を極彩色に染め上げる。
エスティマはカスタムライトのカートリッジを炸裂させ、三度のリミットブレイクで一人ずつ潰してやると覚悟を決め――
「エスティマさん、お待たせですよー!」
――今にも激突しようとしていた空気をぶち壊す存在が転移してきた。
トーレは焦れた視線を、エスティマはジト目を。オットーとディードは首を傾げ、リインフォースⅡへと目を向ける。
「……リイン、何しに来たんだ」
「Seven Starsから通信があったのです。崖っぷちです、ピンチです、デンジャラスです、って。
なので、はやてちゃんに助けに行ってあげてって頼まれたのですよ」
言われ、思わずエスティマは口ごもる。
確かに、今の自分は尋常じゃないピンチ具合。ユニゾンすれば今よりもずっと有利に戦いを進められるだろう。
しかし、どうしても引っ掛かることが一つ。融合事故だ。
どれだけ安全を保証されても、半端ない――目覚めたら男に言い寄られていた――トラウマに思わず足踏みしてしまう。
ちなみにナンバーズは、律儀にユニゾンを待ってくれている。
だが、エスティマも分かっている。あまりにも分が悪いこの状況を打破するには、リミットブレイクを使用するか、それ以上の何かがなければいけない、と。
拘りを一つ捨てれば、勝てるかもしれない。それは酷く甘美な誘惑だ。
「……リイン、ユニゾンするぞ」
「最初っからリインはそう言ってるですよ! それじゃあユニゾン、イン!」
リインフォースがエスティマの体内へと入り込み、ユニゾンが開始される。
Seven Starsとリインフォース、エスティマの思考がリンクし、サンライトイエローとはやての魔力光である白がマーブル模様を描く。
リインフォース介してはやてからの魔力供給を受け、Seven Starsのフレームがその輝きを増して――
『あ、エスティマさん、すごいダメージが溜まってますねー。
リインが治してあげるですよ』
「ちょ、馬鹿! ユニゾン中に余計なことするとバグる――」
そして案の定、バグった。
光の繭が弾けると同時に姿を現したのは、エスティマにとって悪夢でしかない存在。
その名は、
「――横っぴぃーす! 外道リイン、再・臨・っですよー!」
ピースサインを横に構えた、外見だけならフェイトそっくりのリインがナンバーズにウィンクを飛ばす。
そんなポーズを取って、片手に持っているのはハルバード。ミスマッチな外見はどう見てもコスプレにしか見えません本当にありがとうございました。
「……相手があれでは、もはや用はない。私は帰る。後は頼んだぞ、オットーにディード」
「……ボク、あれの相手はしたくないんだけど」
「待って二人とも。あれを無視してアインヘリアルだけでも壊さないと、そろそろクアットロが憤死する」
「むっ。何やら邪険に扱われている気配。しかしこれはきっとチャンス!
Seven Stars、トランザムりますよ!」
『……Zero Shiftです』
「む……うお、なんだこれは!?」
士気がガタ落ちしたナンバーズに向かって突撃するリイン。
割とワンサイドゲームな動きをしているのはユニゾンのおかげなのか、コミック力場でも働いているのか。
そして困ったことに、スペックだけは高いリインはナンバーズを撃退してしまい、意識を取り戻したエスティマは怒るに怒れないのであった。
新暦74年。アインヘリアル防衛戦は引き分けで終わり、この戦いの消耗で、聖王教会はミッドチルダ地上部隊に本格的な援助を始めた。
辛うじてメンバーは欠けていないものの、満身創痍となった首都防衛隊第三課。
部隊長であるエスティマは、遂に専属医師から出撃禁止を言い渡され、Seven Starsを没収される。
今のままでどこまで戦うことができるのか。暗い雰囲気の漂う第三課に、聖王教会から鉄槌の騎士が派遣され――
それはともかくとして、とある休日のこと。
ミッドチルダにあるハラオウン家に、エスティマとユーノが訪れていた。
フェイトが引き取られていないためハラオウン家は海鳴ではなく、ミッドチルダにあるのだ。
インターフォンを押して聞こえてきたのはリンディの声。
お久し振りです、と声をかけて家に上げてもらうと、二人はクロノの部屋へと向かった。
ちなみにリビングでは、エリオが熱心に戦技披露会の録画映像を見ていたりする。
邪魔するのも悪いのでそっと二階へ上がり、ドアを開いた。
この部屋で二人が……とか考えると大変入りづらいのだが、そこら辺は考えないようにしているエスティマとユーノである。
部屋の中は整理整頓されているが、床に詰まれた本のせいで一見汚く見える。
それでも、本の表紙は漫画などではなく実用書だったりする辺りクロノらしい。
「……よくきたな、二人とも」
「元気ないなぁ」
「で、なんなんだ? いきなり呼び出したりして」
「いや、最近疎遠になっていたから、会いたいと思ってな」
クロノに対する視線は、なんか言ってるよコイツ、といったもの。
二人はクッションを受け取ると腰を下ろして、お互いに顔を合わせた。
なんで呼ばれたと思う?
会いたいだけじゃないよね。
念話ではなくアイコンタクトでそう語る。エスティマとユーノの中でのクロノ評はデフレスパイラルに陥っているのだった。
彼女ができてから蔑ろにされれば、そりゃー当たり前って話である。
「エスティマにユーノ。最近、どうしてた?」
「特に何があるわけでもないけど」
「うん。いつも通り」
「いや、そんなことはないだろう。仕事はともかくとして、プライベートはどうだった?」
「何かあったかなぁ……ああ、そうそう。こないだ、なのはがランク試験でSS+になったって知ってる?
あん畜生、そっちもランクアップ試験を受けたら、とか焚き付けてきやがった」
「フェイトはこの間、Sになったんだよね。エスティの方はどうなの?」
「試験受ける暇がここのところなかったしなぁ。ま、良いとこSS-かS+ってところじゃない?
俺、なのはより戦闘継続時間とか短いから」
「戦闘以外のスキルが多くてもそこら辺は魔導師ランクに反映されないからねぇ」
「まーな。事務方のスキルがなのはより多い分、なのはより先に昇進させてもらったけど。あんだけ働いてやっと一等陸尉だ。
執務官がエリートって言っても、やっぱり士官学校出てないとこんなもんかもしれない」
「ここから昇進するのが大変になるかもね。……ま、エスティには丁度良いんじゃない?
給料と一緒に責任も上がるもんだし。階級に押し潰されてもおかしくないもんなぁ」
「む、どういうことだよ」
「そのままだって」
ほとんどユーノとエスティマばかり喋り、クロノは愛想笑いをしながら話を聞きに徹している。
……なんかおかしい。
調子が狂う、と二人は首を傾げた。
「……で、クロノ。お前は何かなかったの?」
「……ん、僕か」
「そうそう」
おそらく、クロノにも話したいことがあると思っている二人。
外ではなくわざわざ家に呼んだ辺りから、余計にそんな感じがする。
ちなみに、エスティマとユーノがハラオウン家に遊びにくるのはこれが初めてであった。
「そういえば、エイミィさんとの結婚とかどうするの?」
「そ、それは……だな……」
エスティマが適当に話を振った瞬間、クロノが目に見えて狼狽えた。
目を逸らしてどもったり。わざとやっているんうじゃないかと思えるほどだ。
なんかあったな。
別れ話を切り出されたとか?
再びアイコンタクトを交わし、首を傾げる二人。
敢えてクロノを放置して、言いたいことを言わせてみようと黙ってみた。
すると、
「……なんだか、最近エイミィがよそよそしいんだ」
「ほうほう」
「話をしようとしてもはぐらかされたりとか――」
と、そこから始まるクロノのトークショー。
穿った聞き方をする二人には惚気話にしか聞こえない不思議。
ついに破局か、とクロノの不幸を楽しみはしないのだが、どうせすぐ仲直りするっしょー、と話半分に聞いている。
「……二人とも、僕の話を聞いているのか!?」
「聞いてる聞いてる」
「聞いてるよ勿論」
「君たちは……」
と、そこまで言ったところで、クロノの情報端末が音を上げた。
ちょっと待ってろ、と二人を手で制すると、彼はボタンを押す。
ウィンドウに映ったのはエイミィの姿だった。
うわぁ居心地が悪い、と思う二人だったが――
『あ、エスティマくんとユーノくんもいるんだ』
「どうも。お久し振りです」
『久し振り』
そう応える画面の向こうのエイミィは、何か考え込むように顔を伏せた。
彼女はすぐに顔を上げると、二人に向けた視線をクロノへと向ける。
やけに真剣は表情をしている。
『あのね、クロノくん。大事な話があるの』
「あ、ああ。なんだエイミィ」
『……子供が出来た、って言ったら、どうする?』
「……は?」
瞬間、クロノの動きが固まる。
それはエスティマとユーノもだったのだが、他人事である分クロノよりも回復は早かった。
そして意地の悪い笑みを浮かべ、
「おめでとう、エイミィさん!」
「おめでとうございます!」
『え、あ……』
「ちょ、お前ら……」
「よっしゃあ、ユーノ、俺はリンディさんに報告しに行ってくる!」
「分かった。僕はフェイトたちに連絡するよ」
「おま、ちょ、落ち着け君たち!」
ウザいことこの上ない二人の反応だが、この場はクロノが圧倒的に不利。
そして結局、クロノはこの日を契機として年貢を納めることとなった。
結局は幸せそうなクロノだったが、次はお前らの番だ、とエスティマとユーノに言った時、間違いなく恨みが滲んでいたりしたのは気のせいではない。
それはともかく。
結婚式に出るので、とエスティマが休暇を貰いにいったとき、オーリスの機嫌が悪くなったのだが、それはしょうがないのかもしれない。
年齢的に。