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No.7038の一覧
[0] リリカル in wonder Ⅱ【完結】[角煮](2010/05/11 14:32)
[1] カウントダウン5[角煮](2009/03/07 02:30)
[2] カウントダウン4[角煮](2009/03/12 10:38)
[3] カウントダウン3 前編[角煮](2009/03/30 21:47)
[4] カウントダウン3 後編[角煮](2009/03/30 21:49)
[5] カウントダウン2[角煮](2009/03/30 21:46)
[6] カウントダウン1[角煮](2009/04/25 13:06)
[7] カウントダウン0 前編[角煮](2009/05/06 20:21)
[8] カウントダウン0 後編[角煮](2009/05/06 20:23)
[9] sts 一話[角煮](2009/05/06 20:33)
[10] sts 二話[角煮](2009/05/20 12:15)
[11] 閑話sts[角煮](2009/05/20 12:15)
[12] sts 三話[角煮](2009/08/05 20:29)
[13] sts 四話[角煮](2009/08/05 20:30)
[14] sts 五話[角煮](2009/08/05 20:27)
[15] sts 六話[角煮](2009/08/09 11:48)
[16] sts 七話[角煮](2009/08/28 21:59)
[17] sts 八話[角煮](2009/08/20 21:57)
[18] sts 九話 上[角煮](2009/08/28 21:57)
[19] sts 九話 下[角煮](2009/09/09 22:36)
[20] 閑話sts 2[角煮](2009/09/09 22:37)
[21] sts 十話 上[角煮](2009/09/15 22:59)
[22] sts 十話 下[角煮](2009/09/25 02:59)
[23] sts 十一話[角煮](2009/09/25 03:00)
[24] sts 十二話[角煮](2009/09/29 23:10)
[25] sts 十三話[角煮](2009/10/17 01:52)
[26] sts 十四話[角煮](2009/10/17 01:52)
[27] sts 十五話 上[角煮](2009/10/17 01:51)
[28] sts 十五話 中[角煮](2009/10/21 04:15)
[29] sts 十五話 下[角煮](2009/11/02 03:53)
[30] sts 十六話 上[角煮](2009/11/10 13:43)
[31] sts 十六話 中[角煮](2009/11/19 23:28)
[32] sts 十六話 下[角煮](2009/11/27 22:58)
[33] ENDフラグ はやて[角煮](2009/12/01 23:24)
[34] ENDフラグ チンク[角煮](2009/12/15 00:21)
[35] ENDフラグ なのは[角煮](2010/01/15 15:13)
[36] ENDフラグ フェイト[角煮](2010/01/15 15:13)
[37] sts 十七話[角煮](2010/01/08 19:40)
[38] sts 十八話[角煮](2010/01/15 15:14)
[39] sts 十九話[角煮](2010/01/21 20:26)
[40] 幕間[角煮](2010/02/03 21:17)
[41] sts 二十話 加筆 修正[角煮](2010/02/03 21:18)
[42] sts 二十一話[角煮](2010/03/10 23:25)
[43] sts 二十二話[角煮](2010/03/11 19:00)
[44] sts 二十三話[角煮](2010/03/12 17:41)
[45] sts 二十四話[角煮](2010/03/13 18:23)
[46] エピローグ[角煮](2010/03/14 20:37)
[47] 後日談1 はやて[角煮](2010/03/18 20:44)
[48] はやてEND[角煮](2010/04/18 01:40)
[49] 後日談1 フェイト[角煮](2010/03/26 23:14)
[50] 後日談2 フェイト[角煮](2010/03/26 23:14)
[51] フェイトEND[角煮](2010/03/26 23:15)
[53] 後日談1 なのは[角煮](2010/04/19 01:27)
[54] 後日談2 なのは[角煮](2010/04/18 22:42)
[55] なのはEND?[角煮](2010/04/23 23:33)
[56] 後日談1 チンク[角煮](2010/04/23 23:33)
[57] 後日談2 チンク[角煮](2010/04/23 23:34)
[58] 後日談3 チンク[角煮](2010/04/23 23:34)
[59] チンクEND[角煮](2010/04/23 23:35)
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[7038] sts 十五話 下
Name: 角煮◆904d8c10 ID:4dc5c200 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/11/02 03:53
ど、どうしよう……。

目の前でバツの悪そうな顔をしている部隊長――エスティマ・スクライアの顔を見ながら、ティアナはどうしたものかと途方に暮れていた。
特に考えごとがあるわけでもなく――悩みはしているものの答えが出ない状態だ――ふらふらと隊舎の周りを歩いていると、話をしているなのはとエスティマを見付けた。

流石に顔を合わせたら挨拶をしなければ、と思い近付いたのだが、二人は話に集中していてティアナに気付いていなかった。
話の邪魔になるから顔を出すこともできず、かといって立ち去ったところを見られて話を中断させては悪い。
そんなことを考えてずっと動けず、なのはが去ったタイミングで自分も、と思ったらエスティマに彼女は見つかってしまったのだ。

ど、どうしよう……。

再びティアナは胸中で呟いた。
そんなつもりはなかったけれど、なのはとエスティマの話をついつい聞いてしまったのだ。
隠れていたというのもあるが、その上盗み聞きしてしまったこともあって、酷く居心地が悪い。

……部隊長と八神小隊長って、そんなことに――って違う!

ぐるぐると頭の中が回るティアナ。
そんな彼女とは対照的に、エスティマは困ったように苦笑していた。

「……聞かれちゃったか」

「え、あの、その……ごめんなさい」

あう、と小さく溢して、ティアナは小さく頭を下げる。
気にしなくて良いよ、とエスティマは苦笑を続け、溜め息を吐いた。

「ここなら誰にも聞かれないって、俺もなのはも思っていたからさ。
 聞かれたくないのなら、念話でもなんでも使えば良かっただけだし」

「いえ、そんな……」

「けど、あまり他の人に言いふらさないでもらえると助かるかな」

「……はい」

ティアナが頷いたのを見て、それじゃ、とエスティマは踵を返そうとする。
するとティアナは、

「あの……!」

と、自分でも分からない内にエスティマを呼び止めていた。
声をかけられたエスティマは、意外そうな表情で振り返る。
その中に鬱陶しそうな色が混じっていて、しまった、とティアナは唇を噛んだ。

なのはさんとの会話を聞いていたのだから、少しは察しなさいよ。
そんなことを思うも遅い。

「どうした?」

「あ、いえ、その……」

「……ここじゃなんだし、出ようか」

エスティマはそういうと、林を抜けるために歩き始める。
彼についていきながら、ティアナはどうして呼び止めたりなんかしたんだろうと、考え半分後悔半分といった様子で脚を動かした。

林を抜けると、風雨にさらされて痛んだベンチが見えてくる。
エスティマがそこに座ったのを見ると、彼から少し離れたところにティアナは腰を下ろした。

そっと、ティアナはエスティマの横顔を覗き見る。
考えごとをしているのだろうか。目を細めて、じっと地面に視線を注いでいる表情は、迷っているように見えた。

そんな風に悩むエスティマの姿にティアナは驚いた。
彼女にとってエスティマ・スクライアとは雲上人のような存在で――だからこそ、そんな人として当たり前の様子を見せていることが意外だった。
悩みらしい悩みなどなくて、なんでもできる超人――そんなイメージを抱いていたから。

「あの……」

「……ん?」

「大変なところを呼び止めてしまって、すみませんでした」

「……いや、良いんだ。
 大変だっていっても、問題自体はそう難しいことでもないし」

「そうなんですか?」

「……要は、俺がどうしたいかだしね」

また、苦笑い。難しくないとはいっても、簡単に答えを出せるようなものではないのではないか。
もしくは答えが決まっていても、それを実行することが嫌でたまらない、など。

……他人の色恋沙汰に首を突っ込むのは悪趣味よね。

いってしまえば他人事だ。しかも、外野にとやかく言われて良い気分がしない類の。
面白半分ではないといっても、首を突っ込んで良いことと悪いことがあるだろう。
気になりつつも自制して、ティアナはなのはとエスティマの会話を忘れることにした。

そして、首を突っ込んで欲しくないのはエスティマもなのか。
彼は話題を変えるように、強引に話を振ってきた。

「そういえば、ティアナ」

「はい」

「この間の事件から、気が滅入っているみたいってなのはに聞いてるけど、調子はどう?」

「……えっと」

どう答えようか。大丈夫です、と適当に流そうかと考えるも、

「……あまり、良くありません」

素直に自分の状況を吐き出した。
なぜそんなことをしたのか――それはきっと、誰かに話を聞いて貰いたかったからだろう。
自分の悩みを理解してくれる人はあまり多くはないだろう、と彼女は思っている。

スバルは自分のことで手一杯な上に、仲が良いからこそ言えないこともある。
悩みを打ち明ければまず相談に乗ってくれるだろうし、おそらくは一緒に頑張ろうと言ってくれるだろう。
それを有り難いとは思う。しかし、それでは根本的な解決にならないのだ。

エリオやキャロには不安を溢すことなどできない。
プライドの問題もあるし、あの二人を困らせるだけで終わってしまうような気もする。

ならば、なのはに――それも一つの方法だろう。
けれど、同じ相談に乗って貰うのならば、ティアナはエスティマを選ぶ。
それは憧れているということもあるし、この人はどんな答えを教えてくれるのだろうという好奇心も。

「……もう二度とあんなミスを犯さないように、とは思っています。
 けれど、本当に犯さないのか……そんな風にどうしても考えてしまって」

「……怖い、か」

「……はい」

「身も蓋もない言い方だけど……それはもう、開き直るしかない」

「開き直る?」

「とはいっても、俺の経験則なんだけどね。
 開き直って今の自分を飲み込んで……それで騙し騙しやってゆくしかない、かな。
 走り続けていれば、その内に答えも出る」

そういったエスティマの横顔は、どこか懐かしんでいるように見えた。

「教訓、ですか?」

「そうだね。
 ……ずっと、そうやってきた気がするよ」

「……少し、意外です」

「何が?」

問われ、ティアナは言葉に詰まってしまった。
自分にとってエスティマ・スクライアとは、悩みごとも何もなく、常に前を向いて進み続け、厄介ごとを解決している――そう、ヒーローのような人だったから。
そんな風に見ていたからこそ、ごく有り触れた経験則を語られたことが意外だったのだ。
が、そんなことを口にできるわけがない。

「あの……その……なんでもないです。すみません」

消え入るような音量で呟いたティアナ。
耳元までが微かに赤くなっていて、そんな彼女にエスティマは首を傾げる。

「……まぁ、何事もやってみなければ分からない、かな。
 思い通りに物事が進むことなんて、そうそうないんだ。
 試行錯誤を重ねて頑張っているのは、皆一緒だよ。
 それこそ、俺やなのは……それに、ティアナもね」

そうだろう? といわれ、ティアナはエスティマの言葉を咀嚼しながら頷く。
そんな当たり前のことを言われるだなんて、思っていなかった。
この人ならばこの人なりの、明確な答えがあるのではないかと期待していたからだ。

けれど帰ったきたのは、超人的で理解不能なものではなく、当たり前のものだった。
エスティマがそんな答えを寄越したことに、微かな落胆と多分の驚きを、ティアナは感じていた。

「……その試行錯誤の成果が出たのなら、逃げちゃいけないんだ。
 そのためにずっと走ってきたんだから」

呟き、エスティマは手で口元を押さえながら、ぶつぶつと。
彼が何を口走ったのか、ティアナには聞き取れなかった。
けれど、聞き返そうとは思わない。深入りしてしまうのは悪いだろう。
いつの間にか相談に乗ってもらう形になってしまったが、元々エスティマも悩んでいたのだから。

……考えごとのお邪魔になるなら。
そう思ってティアナは腰を浮かせ、

「……ティアナ」

「ひゃ、ひゃい!」

変な声が出た。

「少し、身体でも動かしてみる?」

「えっ……っと……」

「お互い、あんまり悩んで根を詰めてもしょうがないからね。
 ドア・ノッカー、貸してくれるか? 気分転換に触りたいんだ」

「あ、はい!」

弾かれたように、ティアナはポケットから待機状態のドア・ノッカーを差し出すと、エスティマに手渡した。
彼はそれを起動させると、グリップを握って手に馴染ませる。
そしてカートリッジが装填されていることを確かめると、彼はくるくるとデバイスを手の中で回した。

その一連の動きを、ティアナはじっと眺める。
元々の持ち主であるエスティマがドア・ノッカーを持っている。
長く自分と共にあった相棒が他人の手に握られている光景は、どこか不思議なものだった。
それも、他の誰でもないエスティマに。

そこまで考えて、ティアナは我に返る。
今日の自分はぼーっとし過ぎている。こんなんじゃいけない。
自分もクロスミラージュを起動させ、身体に篭もった熱を吐き出すように息を吐いた。

「……うん。そうだな。
 せっかくこのデバイスを持ってるんだし、ちょっとした小技を見せようか」

「小技、ですか?」

「ああ」

なのはには内緒でね、と付け加えて、エスティマは薄く笑う。

「なのはが一等嫌う戦い方……俺なりの戦い方
 突撃戦術の一種だね」














リリカル in wonder












とぼとぼとスバルが隊舎の周りを散歩していると、ふと、視界の隅で魔力光が瞬いた。
なんだろうと顔を上げて、空から徐々に薄れてゆくその色に、スバルは目を細める。

橙色と山吹色。その二つの魔力光を、スバルは良く知っていた。
なんでその二つが――そう考え、深く思考するよりも早く身体は動いていた。

息を弾ませ、アスファルトを蹴り、スバルは魔力光が瞬いた場所を目指す。
一分も経たない内に彼女はそこへたどり着くと、目に入ってきた光景に、思わず怒声を上げた。

「何をやってるんですか!」

林の中では、相棒であるティアナが後頭部にデバイスを突き付けられた状態で立ち竦んでいた。
彼女が手に持つクロスミラージュは銃口の下に魔力刃を生み出した状態。
近接戦闘などできないティアナに何をさせて――

スバルに怒声を浴びせられた二人――否、エスティマは、目を見開いた状態で固まっていた。
しかし、すぐに困った風な笑みを浮かべると、突き付けていたドア・ノッカーを下ろす。

「……ティアナ、悪かったね。
 それじゃあ、俺はこれで」

「……はい」

エスティマからドア・ノッカーを受け取ったティアナは、何かを言いたそうにしながらも彼の背中を見送った。
それとは対称的に、スバルは早く行けと急かすような視線を。

そうしてエスティマの姿が見えなくなると、ティアナは苛立ち紛れの溜め息を吐いた。

「……あのね、スバル。何やってるも何もないでしょうよ」

「けど……」

「デバイス突き付けられてたって、あのままズドンと撃たれるってわけじゃなかった。
 ……神経質になりすぎよ」

「……けど」

けど。そんな風に言い逃れをしようとしているスバルに、ティアナは片眉を持ち上げる。
自分に非があると分かったらすぐに謝れるのは相方の美徳だったはずなのに、と。

スバルもまた、分かっていた。
そんな騒ぎ立てるようなことをしていたわけじゃないということぐらいは。
しかし、ずっと考え込んでいたこと――家族のこと――に関わっているエスティマの姿を見て、どうしても大人しくしていることができなかったのだ。

薄々とだが、スバルはティアナがエスティマをどういう風に見ているのか知っている。
自分がなのはを見ているのと、同じように。憧れを抱いているのだろうと。

そのことに関して、お互いに不干渉にしようと暗黙の了解が立っていた。
スバルとティアナでは、エスティマへの認識が違うのだから。

しかし、それが分かっていても、スバルは我慢ができないのだ。

「……ねぇ、スバル」

「何?」

「いくら相棒っていっても、踏み込んじゃいけない線引きがあるって思うわ。
 けど……それが問題でギクシャクするのなら、もうそれは解決すべき問題よ。
 戦闘機人と戦い始めて、アンタがどんな気持ちなのかは分からない。
 ……きっと話を聞いたところで、完全に分かってあげることはできないわ」

「……なんでいきなり、そんな話をするの?」

「いい加減、見てられないからよ。
 さっきだって……ま、それは今の私もなんでしょうけどね」

そこまでいって、二人は黙り込む。
スバルは踏み込まれても良いのか――そう考えているし、ティアナは踏み込んでも良いことなのかと考えあぐねている。

そんな風に考え込んで、先に口を開いたのはスバルの方だった。
ずっと内に溜めていて、ようやく話せる相手ができたからだろう。

「……私のお母さんのこと、覚えてる?」

「ん……ええ。殉職したって」

殉職、と言葉を口にしたティアナの声は、どこか沈んでいた。
嫌なことを思い出させたかも、と思いながらも、スバルは先を進める。

「その殉職したときに所属していた部隊は、首都防衛隊第三課。
 部隊長の古巣で――お母さんが死んだ戦場に、あの人はいたの」

「……そう。そういうことだったの。
 でもスバル、それは――」

「……逆恨みだって?」

「……ええ。悪いとは思うけれど。
 だって――」

「そんなことない」

ティアナの言葉を遮って、スバルは断言した。
言葉は強く、どんな反論も聞かないと言外にいっているように。
そんなスバルの様子に、ティアナは眉根を顰めた。

「……なんでそうなるのよ。
 首都防衛隊っていったら、ミッドチルダ地上部隊の中でも火消しをやってた精鋭で……。
 酷い話だとは思うけれど、犠牲が出たってなんらおかしくない任務をこなすところじゃない。
 それは、今の私たちだって同じ。ううん。災害救助部隊の時だって、殉職する局員がいなかったわけじゃない。
 それが分からないアンタじゃないでしょう?」

「違う……」

「何よ」

「あの人は、お母さんを助けられなかったって、自分で……」

「だからそれは、助けられない状況だったんじゃ――」

「違うっ!」

再び、スバルはティアナの言葉を遮る。
きつく目を瞑った彼女の脳裏には、情景のおぼろげな記憶が蘇る。
それは、いつぞやの戦技披露会だったり、結社の設立が宣言されたテロであったり。
前回の戦闘で戦闘機人を圧倒した記録映像であったり。

「あの人は私たちと違う……エースやストライカーって呼ばれる魔導師なんだよ!?
 華々しくて、持て囃されて――そんな風に戦える人が、どうしてお母さんを助けられなかったの!?
 それなのに、ギン姉やお父さんは……!」

スバルは叫びを上げる。
彼女の脳裏には、クイントを助けられなくてすまなかったと謝る、いつかのエスティマの声がずっと残っている。
濃く後悔の滲んだ、ただ謝り続ける声。
その言葉には、もっと上手くできたはずだった、という意味が乗せられているようで――

「……ねぇ、スバル。
 確かに部隊長やなのはさんたちは、すごい人だと思うわよ」

静かな、しかし、冷え切っているわけではないティアナの声で我に返った。

「けど、それは魔導師としてで……あんたが思うほど、完璧な人なんかじゃないと思うわ」

「完璧な人だなんて……」

「思ってるわよ。……そうじゃなきゃ、さっきみたいなことはいわない。
 そうでしょ?
 ……私も、ついさっきまではそんな風に思っていた。
 けど、違うのよ。どんなに立派でも、強くても、あの人たちだって私らと変わらないただの人。
 私たちと似たようなことで思い悩むような」

「……だから、なんだっていうの?」

「許せ、なんてことはいわないわ。アンタやナカジマ家の人の気持ちは、私には分からないから。
 けど、もうそろそろ折り合いをつけたらどうなの?
 部隊長だってミスぐらいするわ。しかも……お母さんが亡くなった時期の部隊長って、今の私たちよりも年下でしょう?
 しょうがない――」

「しょうがなくなんかない! お母さんが死んだことは、仕方がないことなんかじゃない!」

「……ごめん。不謹慎だったわね」

息を弾ませ、涙さえ浮かべて叫びを上げるスバルから、ティアナは視線を外す。
どうしたものかと頭を掻くと、気付かれないほどに小さな溜め息を吐いた。

そして考えながら、ゆっくりとティアナは口を開く。
エスティマとナカジマ家の間にある溝がどれほど深いのか、ティアナには分からない。
けれど、今のままだとスバルはどんどん歪んでいってしまうのではないだろうか。

友人としてそれは見過ごせない。
なんとかして――とは思うものの、ティアナには冴えたやり方が分からなかった。
兄のことで自分が立ち直ったときは、周囲の励ましと、時間と、自分自身で、という要素が大きかった。
もし自分と似たような境遇ならばアドバイスの一つでも出来ただろうが、スバルと自分は違う。

だから、答えらしい答えをスバルに向けることはできないだろう。
けれど、

「……ねぇ、スバル。
 アンタが部隊長を許そうとしないのは、まぁ良いわ。
 けど……それでアンタはどうしたいの?」

「……え?」

「なんとなく分かるわ。
 アンタが部隊長を怨み続けているのは……お母さんのためなんでしょう?
 私が執務官を目指しているのと同じ、感傷よね」

「ティアは、私とは違うよ。立派に――」

「同じよ。故人に捕らわれてるって点ではね」

言っていて自分にも突き刺さる言葉だ。
酷く居心地が悪い。そんな気分を味わいながらも、ティアナは先を続ける。
それが、相棒のためになるのならと。

「……たまに、思うのよ。
 故人のためって思っても、それは結局私たちが気持ちの整理をつけようとしているだけなんだってね。
 それが悪いとは思わない。だからアタシだって、今でも未練たらしくお兄ちゃんの夢を追ってるわけだし。
 ……けどね。死んだ人は哀しみもしなければ、喜びもしないのよ。
 ……ねぇ、スバル。お母さんのことは関係なしに……部隊長を怨み続けて、アンタは幸せ?」

「……それは」

「言いたいことはそれだけ。じゃあね。
 ……消灯時間までには、戻ってきなさいよ」

踵を返し、ティアナはスバルを置いて歩き出す。
そんな彼女の背中を眺めて、スバルはふっと視線を落とした。

「……幸せなわけ、ないよ」




















「……根深いな」

『そう思うのならば、なぜ本当のことをいわないのですか?』

「それで良くなるとも思えない。
 混乱させて余計に悪くなる可能性もあるし、嘘だと思われるかもしれないしね」

『そうですか。失礼しました』

スバルたちのところから立ち去り、ゆっくりと歩みを進めながら、俺は胸元のSeven Starsを一撫でした。
おそらく、コイツ――Seven Starsも薄々とは分かっているんじゃないだろうか。
そうでなければ、今、声をかけてくることもなかっただろう。

どんな言い訳をしようとも、結局のところ、俺はまた何かを台無しにするのを怖れているのだと。
だから完全に大丈夫だと思えるまで、嘘をつかないだけで隠し事を増やし続ける。
そんなの、慎重とは違う、臆病なだけだ。

……けれど、それももう限界だろう。

歩き続けた先にあるのは女子寮。
宵闇の中で、部屋に灯った明かりで自己主張している建物。

ここにいる彼女と、いい加減に決着をつけなければならない。
もしこのまま彼女を悲しませたままならば――大切にしている彼女は、きっと俺から離れていってしまう。
……欲張りな上にみっともないと、分かってるさ。

正直なところ、まだ気持ちが整理できたわけじゃない。
今のままで彼女と顔を合わせても、また傷付けるだけかもしれない。
どうなるかなんて分からない。

けれど――

『……はやて。聞こえてるか、はやて』

念話を彼女へと向ける。
けれど、待ってみても返事はない。
少しだけ躊躇いながら、俺は念話を続ける。

『話がしたいんだ。外に、出て来てくれないか?』

送ってみたものの、やはり返事はない。
じっと立ちながら彼女からの念話を待つも、応えてはくれない。

会ってくれない……のか。

胃に重いものが溜まるような感覚が、じっとりと広がる。
彼女がどんな状態なのか、どんな気持ちなのかなのはから聞いておいて、俺は何もできない――

「……違う。やってないだけだ」

手を握り、爪の食い込む痛みで自分自身を叱咤激励する。
はやてが会ってくれないのならば、会いに行くだけだ。

『フェイト』

『ん……兄さん? どうしたの?』

『頼み事があるんだ。力を貸して欲しい』

『それはかまわないけど……』

おそらく、妙に切羽詰まった俺からの念話を変に思っているのだろう。
困惑しているフェイトの顔が容易に想像できた。
それに思わず苦笑する。

『頼みづらいことなんだけど……』

『うん』

『その、だな……』

『うん』

『……女子寮に入れてくれ、寮母さん。
 はやての部屋までで良いんだ』

『……えっと、スクライア部隊長。
 女子寮はその名の通り、男子禁制なのですが』

『駄目、かな』

『……むぅ』

あんまりに非常識な頼み事に、溜め息が聞こえてきそうな念話が返された。

『……なんでそんなことを頼んできたのか、説明してくれるよね?』

『うっ……』

今度はこちらが言葉に詰まってしまう番だ。
頼み事をする立場なのだから、説明するのが筋……だとは、分かっているけれど。

『しろと……いうのなら……』

気恥ずかしいこともあるし、常識外れなことを頼んでおいてそんなことを、といわれる気がして、理由をいうのを躊躇ってしまう。
フェイトはそれを察してくれたのだろう。
少しの間をおいて、彼女は念話でわざわざ溜め息を吐いた。

『ふぅ……まぁ、良いけれど。
 今回限りだからね?』

『悪いっ、恩に着る!』

『期待してますっ。
 まったくもう……ちょっと待ってね。今、そっちに行くから』

念話を終えると、いつの間にか浮かんでいた額の汗を手の甲で拭う。
……もし駄目だったら、魔法使って侵入する羽目になっていたのかもしれない。
色々と面目丸潰れなことにならなくて良かったよ。

さっきまでの気合いの入った思考はどこへ行ったのやら。
情けないことこの上ない自分自身に嫌気が差すも、俺らしいといえばらしいか。

女子寮の前で黄昏れてると、五分も経たない内にフェイトが姿を現した。
寮母さんのトレードマークであるエプロン姿のフェイトは、俺を見付けると、もう、と唇を尖らせた。

「本当はこういうの、駄目なんだからね?」

「……うん。分かってる」

「分かってて頼んでくるんだから、よっぽどのことなんだろうけど」

着いてきて、とフェイトに先導され、俺たちは女子寮の裏へと回る。
そして誰も見ていないことを確認すると、俺は変身魔法を発動させてフェレットへ。
フェイトのエプロンに飛び込むと、そのまま女子寮の中へと進み始める。

まずバレない……とは思うものの、普段は絶対に入れない施設の中に入ったからか、酷く居心地が悪い。
途中でフェイトと擦れ違った局員が声をかけてくる時なんか、思わず身を固めてしまう。

階段を上がり、二階、三階、と進んで、フェイトの脚が止まる。
今度は局員に話しかけられた、という風ではない。なら、

『着いたよ、兄さん』

『ん、インターフォンを』

指示に従い、フェイトの白い指がインターフォンをゆっくりと押し込む。
けれど、響くのは電子音のみで、はやてが出て来ることはない。
外出している、というわけではないはずだ。そう思いたい。

『……ねぇ、兄さん』

『……ん?』

『兄さんは、さ――』

『ああ』

先を促すように聞いたけれど、フェイトはそこから先の念話を送ってこなかった。

「なんでもない」

それだけいうと、はやてが出てこないと思ったのか、フェイトはポケットからマスターキーを取り出すと、それをカードスリットへと。
ランプが点滅して鍵が開いたことを確認すると、フェイトは俺へと手を差し出す。

白く、綺麗な手に乗ると、そのままフェイトは俺をドアの隙間からはやての部屋へ。
音を立てずに扉が閉められると、視界が闇色に染まった。

その中で、俺はフェレット姿から人間へと戻る。
カーテンは締め切られているのか、外からの光も届かない。
目が慣れたところで、きっと何も見えないだろう。

「……はやて、いるよな?
 寝てるのか?」

一歩踏み出すと、微かなはずの床の軋みが、大きく部屋の中に響いた。

「いきなりごめん。けど、どうしてもはやてに会いたかったから――」

「……何しにきたの」

ぽつり、と投げかけられた言葉に足が止まる。
どう返したら良いのか。それを考え、息を吸う。

「……話をしに」

「……もう、エスティマくんは私と話すことなんかない。
 そうやろ?」

「……なんでそんなこというんだ。
 明かり、点けるぞ?」

そういって行ったことは、魔法の行使。
暗闇の中だったし、男子寮とは微妙に造りが違うせいか、電灯のスイッチがどこにあるのか分からなかったから。

遺跡発掘の時に使われる照明魔法――俺の足元にミッドチルダ魔法陣が広がると、誘導弾のようなスフィアが浮かび上がり、部屋の中を照らす。

明るくなった部屋の中、はやてはソファーに座って俯いていた。
彼女の傍にあるテーブルには、手つかずのまま冷え切った紅茶が置いてある。
どれだけの間こうしていたのだろう。

カーペットを踏みながら進むと、不意にはやては立ち上がった。
そして、近付く俺から逃げるように、表情を一切見せず部屋の奥へと。

「はやて」

「……っ」

名を呼ぶと、彼女は息を飲む――違う、しゃくり上げるような吐息を漏らして、そう広くもない部屋の中で駆け出した。

「はやて!」

追うように俺も駆け出し、追い着いて、後ろから彼女の右腕を掴んだ。
けれど、

「嫌や……!」

まるで熱を持った鉄に触れたように、はやては大袈裟な動きで俺を振り払おうとする。
けれど、俺は掴んだ腕を放さずに――すると、はやてはずっと俯けていた顔を上げて、ようやく俺へと視線を向けた。
充血した目に、腫れた目元。うっすらと目尻に浮かんだ涙は、ついさっきまで彼女が泣いていたことを教えてくれる。

「えっ……エスティマくんと話すことなんか、なっ、なんもない」

「……あるよ」

「あるわけない!」

「だから、あるって――」

「だって、今更やないか!」

俺の手を振り払って、はやてはそのまま、俺の胸元に掴みかかってくる。
両手で上着の襟を掴むと引き下げて、唇が届きそうなぐらいに顔を近付ける。
そうして届いたのは、小刻みに弾んだ彼女の吐息だった。
必死に決壊するのを耐えている、低く、くぐもった。

「なぁエスティマくん、知ってるか?
 あの廃棄都市での戦闘が終わって、こうやって二人っきりになるの、初めてなんやで?」

「……ああ」

「エスティマくんにとってあの戦闘機人が……大事な……人だってこと、分かってる。
 けど、だったら、私はなんやの?
 ……ねぇ、エスティマくん。
 私はエスティマくんの、なんなんや?
 幼馴染み? 同僚? お友達?……きっと、そこら辺やろ?」

そこまでいって、はやては震える口元を無理矢理に歪める。
自虐的な形に弧を描き、強い視線を俺へと注ぐ。

「ずっと、あの戦闘機人にかまけてたわけやしな」

「……ごめん」

「……なんで謝るん?」

「それは……散々、はやてのことを大切だって言っておいて――」

「それが分かっているなら、なんで!?」

叫びと共に、襟を掴んでいた手がより一層、引き下げられた。
それで体勢を崩して、俺に釣られてはやても一緒に床へと倒れ込む。

引き倒された上にはやてを庇ったこともあって、背中を打ち付ける。
一瞬息が詰まるも、胸板にかかる重みですぐに我へと返った。

はやては馬乗りになって、俺の胸に手を突きながら俯いている。
前髪に顔が隠れて、どんな表情をしているのかは分からない。
けれど、噛み締められた――しゃくり上げるのを必死に隠しているであろう口元は、引き結ばれている。

「……はやて」

名を呼ぶと、はやては怯えるように肩を縮ませる。
胸板に置かれた手は、今度はシャツを握り締めた。その際に立てられた爪が布越しに肌を擦って、僅かな痛みが走る。

「私は……」

零れるように――ぽたぽたと制服を濡らす水滴と共に――言葉がゆっくりと紡がれる。

「……私は、エスティマくんの傍にいられるならそれで良かった。
 あなたの横顔が見える場所で、苦しいことも楽しいことも何もかも、一緒に……。
 けど……それが邪魔になるんなら……って」

「邪魔なわけ……!」

「邪魔になってるやないか……!
 エスティマくんと一緒にいられるのはただ一人で――今、そこにいるのは私? 違うやろ!?」

ぽたぽたと、少しずつシャツが湿ってゆく。

「ねぇ、知ってる? 私、エスティマくんのことがずっと好きやったんやで?
 エスティマくんが思っているよりも、ずっとずっと。
 エスティマくんが気付くのよりもずっと前から!
 子供の頃からずっと近くにいて――けど、それだけでも私は満足やった。
 他の誰よりも一緒にいられるから……せやけど、歳を取って、傍にいるだけじゃ満足できなくなって……。
 けど、求めたらきっとエスティマくんの迷惑になるからって、我慢して……!
 だ、だかっ、だから……わた、わたしっ、私は……!」

遂に嗚咽を堪えられなくなったのか、形にならない言葉が洩れ始める。
そんな彼女にどんな言葉をかけて良いのか分からなくて、俺は投げ出していた手で、シャツを掴むはやての手を握った。
手を包まれたからか、怯えるようにはやては身体を震わせる。

「……嫌やった。
 ……傍におるのは私なのに、エスティマくんが他の誰かを見るのが嫌で嫌でたまらない……!
 せやけど、そんな風に嫉妬する自分も嫌で……!
 気持ちが空回りしてるんやないかって、不安になって……!
 それで……それで、エスティマくん、本当は私のことどうでも良いって思おてるんじゃないかって……」

「……そんなことない」

「分かってる! けど、しゃあないやんか!
 エスティマくんは、一度も―― 一度だって気持ちを態度に表してくれたことなんてなかった!
 大事にしてくれてるのかもしれない。けど、私は、それだけじゃ……!
 不安になっても、しゃあないやんか!」

嫌なのに、と消え入るような声を。
はやてはそのまま倒れ込むようにして、俺の胸元へと倒れ込んでくる。
もう嗚咽を我慢しようともせず、わんわんと泣き声を上げる。
まるで子供のように。

こうやって、肌が触れ合うほどに近付いてようやく分かったことがある。
身を縮ませて泣きじゃくるはやて。彼女の肩は、酷く小さい。
この子が小柄だというのもあるだろう。それは分かっている。けれど、そんな当たり前のことが、酷く胸に突き刺さる。

……ずっと着いてきてくれたってこともあるんだろう。
だから俺は、はやてを強い子なんだとどこかで思っていて――

こんな風になるまで彼女を放っておいて、苦しめた。
熱い衝動のようなものが、彼女の涙で濡れた部分を中心にして、じわじわと広がってゆく。

けれど、同情なんかで彼女の気持ちに応えたくはない。
俺は、自分がどんな人間か分かっているつもりだ。
気持ちの整理を付けていない今の状態ではやてに流れるだなんて――それは、何か間違っている。
この考えは、きっと堅物や潔癖性といわれる類のものなのだろうけれど。

はやての手を包んでみる右手を解いて、そっと、彼女の髪に触れる。
なぞるようにゆっくりと動かして、そのまま後頭部をゆっくりと撫でた。
左手は、彼女の背中へと。脆い硝子細工を扱うよう、慎重に。
このまま強く抱き締めてしまったら、壊れてしまいそう。そんな印象が、今のはやてにはあったから。

「……はやて」

返事はない。けれど、彼女が小さく頷いたのは分かった。
ひょっとしたら、それは身じろぎをしただけなのかもしれない。
確かめず、俺は先を続ける。

「俺は不器用な奴でさ。
 今ここで、はやての気持ちに応えてやることはできない。酷い話だとは思うけれど。
 ……はやて。もう少しだけ、時間をくれないか?」

「……いや」

「……そっか。
 ……けど、ごめん。今は、はやての気持ちに応えられないよ」

「酷いやんか……」

「そうだね。
 ……その代わり、今日はずっと一緒にいるから」

「……なんの解決にも、なってへん」

「そうだね」

「分かってて……そんなこと、いわれて……っ」

呟き、はやては俺の胸板に、顔を強く押しつけた。
ぐりぐりと額を擦って、溶け合いたいというかのように。
そんな彼女を俺は抱き締めることしかできない。しようとしない。

お互いに黙ってくっついたまま、寒さを逃れるように、俺たちはじっと時間を過ごした。
もしかしたら途中で眠っていたのかもしれないし、ずっと起きていたのかもしれない。

気付けば、いつの間にか照明魔法はその効果を失っていた。
真っ暗で、肌寒さを感じる中、寄り添ってそれらを堪え忍ぶ。

微かに聞こえてくるはやての吐息と体温。
彼女も同じものを感じているのだろうか。
そんなことを考えながら酷く曖昧な時間の流れを過ごして、いつの間にか、カーテンの隙間からは明かりが零れ始めていた。

「……もう朝やね」

「……そうだね」

どちらからともなく身体を起こして、そっと、お互いに手を離す。
名残惜しさを感じているのは、きっと、俺もはやても一緒なんじゃないか。

はやては目元を擦ると、すん、と鼻を鳴らし、おずおずと視線を向けてくる。
そして視線を彷徨わせながらも俺へと向けると、どこか弱々しい笑みを浮かべた。

「……決めたわ」

「ん?」

「もう、私からエスティマくんには、何もしない。
 もう、こんな気持ちになりたくないから。
 ……けど、もし――もし、私のことを想ってくれるのなら……」

そこから先を、はやては口にしようとしない。
……いや、口にさせてはいけないんだろうな。
させてしまったら、今日――いや、昨日の繰り返しになってしまうだろうから。

「ああ。その時は、俺がはやてを迎えにいくよ」

「……うん」

小さくはやては頭を振った。
そして、寂しさを滲ませながら、小さく呟く。

「……うん。待ってるからな」




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