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No.7187の一覧
[0] のび太 VS ゴルゴ13[かるめん ](2009/03/14 12:42)
[1] のび太 VS ゴルゴ13 ACT2[かるめん ](2009/03/14 12:44)
[2] のび太 VS ゴルゴ13 ACT3[かるめん ](2009/03/26 23:25)
[3] のび太 VS ゴルゴ13 ACT4[かるめん ](2009/03/26 23:28)
[4] のび太 VS ゴルゴ13 ACT5[かるめん ](2009/03/26 23:24)
[5] のび太 VS ゴルゴ13 ACT6[かるめん ](2009/03/30 01:22)
[6] のび太 VS ゴルゴ13 ACT7[かるめん ](2009/04/06 01:48)
[7] のび太 VS ゴルゴ13 ACT8[かるめん ](2009/04/14 00:27)
[8] のび太 VS ゴルゴ13 ACT9[かるめん ](2009/04/24 01:18)
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[7187] のび太 VS ゴルゴ13 ACT6
Name: かるめん ◆6f070b47 ID:53a6a4cf 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/03/30 01:22
瞼を開けた時、少年が最初に目にしたものは鉄骨が絡み合った見慣れない天井。
そして、

「のび太くん、気がついたのかい!」

見慣れた大きくて、青くて、丸い頭だった。
ぼろぼろと涙をこぼす友人の顔を見るうちに、ぼやけた思考が徐々に焦点を結び始める。
そういえば、さっきまでたいへんなことが起きていたような気が……。
次の瞬間、建築中のホテルに入ってから起きた出来事が、特急列車のように脳裏を駆け抜けた。
突然、蘇った恐ろしい記憶に、体が電気を流されたみたいに跳ね起きる!

「う、うわあ、ドラえもん、どうしてここに! あ、あの男の人はどこへ行ったの!?」

のび太の顔を覗き込んでいたドラえもんは、頭をぶつけられそうになって、慌てて後に下がった。
少年が混乱している以外、特に異常がないことがわかると、安堵の代わりに怒りが頭をもたげてきた。

「そりゃ、こっちのセリフだよ、のび太くん! また説明の途中で道具を持ちだして! やっとの思いで見つけたと思ったら、血まみれで倒れているんだもん! びっくりして心臓が止まるかと思ったよ。教えてよ。ここでいったい何があったのさ?」

ドラえもんの言葉にのび太は、顔をしかめて唇をかんだ。
もともと少年は、人に説明をするのが得意な方ではない。
その上に、このホテルの中で起きたことは複雑すぎてどこから話せばいいのか見当もつかなかった。

とりあえず、掌で自分の身体を触って、調べてみた。
信じられないことに、目立つような傷はほとんどなかった。
さらに信じられないことに、自分はまだ死んでいないようであった。

肩と手の傷が治りかけている理由は、ドラえもんの脇に置いてある『お医者さんカバン』を見た時にわかった。
しかし、あのギラーミンみたいな目をした男、あいつは自分に銃を向けた相手を見逃すようなタイプには見えなかったのに、何故……。

『ここで何が起きたのかは、私がご説明いたします』

不意に澄んだ声が、ドラえもんとのび太の間にわだかまっていた沈黙に割り込んできた。
驚いた二人が声がした方向、のび太の手首の方に目を向けると、

「き、君は、サポートAIなの?」
『はい、余力がないため、不本意ですが、こちらのアバターでお話をさせていただきます』

リストバンド型の道具の上に浮かんだ、少女の立体画像がぺこりとのび太に頭を下げた。



  のび太 VS ゴルゴ13 

    ACT6「着弾」


「サポートAI、君がついていながら、どうしてのび太くんに怪我をさせたんだ! なんで僕に連絡をしてくれなかったのさ!」

顔を真っ赤にして激こうするドラえもんに、サポートAIは申し訳なさそうに顔を伏せた。

『申し訳ありません。訓練生に負傷をさせたのは、私の責任です。でも、私はあなたへの連絡を怠っていたわけではありません。こちらが送った通信はすべて妨害されたのです』
「通信の妨害? そんなバカな。この時代に僕たちの通信をジャミングできるような装置なんかないはずだぞ」
『外部からジャミングを受けたわけではありません。連絡を妨害したのは……私がシミュレーションのために再生したクァール猫なのです』
「クァール猫って、僕が狩りの獲物に選んだあの黒豹みたいな生きもののこと?」

黙って、ドラえもんとサポートAIのやり取りを聞いていたのび太が、横から声を上げた。
ドラえもんは困惑した顔で何度かパチパチ瞬きした後に、

「シミュレーション用のデータが君の邪魔をしたというのかい。そんな話、聞いたこともないぞ……」
『クァール猫は、ただのデータ以上の存在でした。もともと生身でもネットにダイブインする力を持っていたあの獣は、データー化されると同時に一種の電子生命体になっていたようです。詳しい経緯は、現在分析中ですが……クァール猫はまず、再生されるたびに、私の中にウィルスを流し込み、惑星の地軸の傾きや大気密度のような重要度の低いデーターの中に自分の記憶領域を作ると同時に情報ネットを形成していたようです。それから、そのネットを使って集めた情報をもとに、ワクチンウィルスを無効化する攻撃用のワームウィルスを作成。今回の再生をきっかけに、冬眠させていたワームを一斉に活性化して私の機能を奪い取り、基底現実に自分をダウンロードさせたのです」

のび太はサポートAIが口にする専門用語を一つとして理解できなかったが、ドラえもんは彼女の話を聞くうちにもとから青かった顔色がますます青ざめていった。

「あ、あの『黒い破壊者』が、今野放しの状態で実体化してる、というのかい! それって最大級のサイバーハザードじゃないか!!」

歯の根も合わぬほどぶるぶると震え始める。
今にも建物の影から黒い魔獣が飛び出すのではないかと周囲に視線をさまよわせる。
ポケットの中に手を突っ込み、慌てて武器を取り出そうとするが……。
例によって例の如く、出てくるのはラーメンのドンブリ、空っぽの缶詰、穴のあいた長くつなど、役に立たない代物ばかり。
電子頭脳がショートしそうな焦りに、ドラえもんが泣きそうな声で叫んだ。

「ヤマタノオロチや牛魔王の時とまったく同じじゃないか! これだから、モンスターボールやヒーローマシーンを開発した会社の製品は信用ができないんだ!」
『クレームは、製品(プログラム)じゃなくて開発者(プログラマー)にどうぞ。後、その会社の製品を三回も、しかも中古品で買ったのはご自分だってこともお忘れずに。……ところで、クァール猫の襲撃に備える必要なら、もうありませんよ』

ネズミに遭遇したようなドラえもんの有様に、慌ててどこかに落としたショックガンを探していたのび太が手を止めた。

「え、それってどういうことなの?」
「順を追って説明いたしましょう。クァール猫が私の機能を奪って実体化したころ、マスターは銃を所持した不審者に遭遇しました。硬直状態で睨み合っていたお二人を見つけたクァール猫は、漁夫の利を狙って、貴方がたを戦わせようとしました。そして狙い通り、打ち合いでマスターが気絶し、不審者がショックガンでひどいダメージを負った後に、クァール猫は姿を現したのですが……」



■   ■   ■



―――劫、と音を立てて風が鳴いた。

鋭い爪で床をえぐりながら、黒い四肢が大地を蹴る。
右から左へと跳び、左からまた右に、と見せかけて爪でブレーキをかけた後に天井へと跳びあがる。
黒いシルエットが残像を残しながら、縦横無尽に通路を駆け回る様は、さながら古の忍者が分身の術を使っているかのようだ。

獅子は一匹のウサギを狩るのにも全力を惜しまないという。
しかし、クァールが凄まじい機動力で距離を詰めているのは、むしろその逆。
弱り切っている獲物に、実力差を見せつけ、その絶望を煽ろうとする嗜虐性によるものであった。

だが、ゴルゴは魔獣の凄まじい身体能力を目にしても、少しも表情を変えない。
疲労感に歯を食いしばりながらも、指は跳ねまわるクァールにぴたりと照準を定めていた。

クァールが不愉快そうに鼻面にしわを寄せた。
なぜ、こいつは俺を恐れない。
なぜ、こいつは泣き叫ばない。
なぜ、こいつは他の三人みたいに体中の穴から体液を垂れ流しながら、無様に這いまわらないのだ!

特に気にくわないのが、男の目つきであった。
あの目、鋼のように堅く、冷たく眼差しは何か切り札を隠し持ったものか、恐れを知らない愚者だけが持ち得るものだ。

クァール猫が苦手とするものは、自分のエネルギー干渉能力が通用しない原子破壊銃。
そして、敏感な感覚器官を麻痺させ、『電波酔い』を起こす大量の電磁波だ。
そのどちらも、あの男は備えているようには見えないが、ここは念のために……。

普通の動物で言えば、耳がある所に生えた巻き毛状の器官から青い火花が飛ぶ。
クァール猫を取り巻く空気の分子が振動し、目に見えぬ力場が黒い巨体を取り囲んだ。
エネルギー干渉能力によって生み出されたこの防御障壁は、ほぼあらゆる攻撃を無効化する。
突き破るためには最低でも原子破壊銃か、宇宙船の主砲並みのエネルギーが必要。
無論、鉛の塊を火薬で飛ばすような原始的な武器などは物数にも入らない。

男がついに手に持った小さな武器の引き金を引いた。
クァール猫は、これから襲ってくるであろう一撃に対して身構えた。
しかし、何も起こらなかった。
拳銃の撃鉄が雷管を叩いても、爆音が轟くことはなく、銃口が火を噴くこともなかった。
ただ金属と金属がぶつかり合う音がむなしく通路の中にこだました。

突然、爆笑したいような衝動が腹の奥から込み上げてきた。
そして、黒い魔獣は腹の中にたまった感情を咆哮として吐き出した。
自分の武器の弾も数えられないか、この猿は!!
こんな奴を警戒して力場まで使った自分が、可笑しくて腹ただしかった。

もう、これでわかった。
こいつは怖がることもできない、ただの馬鹿だ!
愚か者から恐怖を得ることはできないが、代わりに温かな血潮とカリウムで埋め合わせをしてもらおう。

気がつけば、獲物はもう目の前、後ちょっとで爪と牙が届く距離にいる。
これ以上近づけば、力場がこの貧弱な生き物を弾き飛ばしてしまうだろう。
獲物を存分に引き裂くために、クァール猫は周りに張り巡らした防御壁を解除し―――


ズキュウ――――ンッ!!!


次の瞬間、轟音とともに右の視界がいきなり消滅した。



■   ■   ■



ゴルゴ13は、今までクァール猫のような生き物を見たことはなかった。
もちろん、この黒豹のような生き物にバリアーを張る能力があることも知らなかった。
だから、ゴルゴはクァール猫の目を、その瞳の中に浮かぶ見慣れた知性の光を読み取ろうとした。

死を覚悟した生きものは、その目に何とも言えぬ色合いを帯びるという。
黒い獣の目にはそのような色合いは毛ほども浮かんでいなかった。
金色の瞳の中にあったのは、絶対的な優位に立つ者だけが持ち得る驕りと侮蔑だけ。
そして、肌に伝わるかすか空気の振動から、ゴルゴは異変を察知した。
何か目に見えない壁のようなものが、自分と獣を隔てている!

しかし、どんなに頑丈な防壁を張り巡らせようが、獣の目的が自分の血肉である限り、食らいつくその瞬間は必ず壁を解除するはずだ。
怖いのは人間を遥かに超えた野獣の反射神経と機動力、たった一発しかない弾を当たる寸前に避けられては何にもならない。
この二つを封じるために、ゴルゴは一つ罠を仕掛けることした。

両手で銃を構えるふりをして、回転弾倉を一発だけ指で巻き戻した。
案の定、拳銃の弾が切れたと思いこんだ獣は、警戒心を失ってまっすぐこちらに突っ込んできた。
そして、肌を震わせるあの奇妙な波動が消えた瞬間、ゴルゴは見事に敵の右目を撃ち抜いたのだ!

銃弾が意識を断ち切った後も、クァール猫の体は慣性の法則に従って空中を突き進んだ。
重力の力を借りてしゃがみこみ、時速60キロで飛んでくる黒い巨体から辛うじて身をかわした。
剛腕が頭をかすめ、髪が千切られ、皮膚が引き裂かれて、血を渋く。

ゴルゴとすれ違ったクァール猫の体は、着地もできずに床に激突した。
ぶつかった反動で宙に浮き上がり、コンクリートの欠片をまき散らしながら、転がっていく。
ようやく回転が止まった時には、地面には長さ6メートルに達する血と破壊の痕跡が残されていた。

背後で起こっている破壊の音を聞きながら、ゴルゴは床に膝をついた。
酷使し続けた全身の細胞が、速やかな休息を要求している。
だが、本能よりも深く染みついたプロの常識は、敵の死を確認せずに休むことを許さなかった。
振り返って、獣の死体を視界におさめようとしたその時、


がりっと、爪がコンクリートを噛む悪夢のような音が響いた。


目と鼻の先で、死んだはずのクァール猫が緩慢に起き上がろうとしていた。
右目のあったところにぼっかりと開いた穴から、血まみれの脳がぼとぼと零れおちている。
ゴルゴにとって誤算だったのは、完全生物であるクァール猫の頑健さであった。
リボルバーの弾は魔獣の瞳を撃ち抜いたが、一撃で命を奪うほどの深処にまでは到達できなかった。
そして、クァール猫の常軌を逸した執念と生命力は、脳の半分を失っても、死を寄せつけなかった。

ぴくりとも動かぬ下半身を、前足と両肩に生えた触手で強引に前へ引きずっていく。
たった一つだけ残った金色の瞳から、吐き気を催すほどの強烈な怨念が噴き出していた。
もはや、血肉など一欠けらも要らぬ!
すべてに代えても、お前を地獄へ連れて行く!

普通の人間なら恐怖で発狂しそうな光景を前に、ゴルゴは冷静に拳銃の弾込めを始めた。
だが、リボルバーの装弾はオートマチックの銃に比べてかなり面倒くさい。
新しい弾を入れるためには、左側面についているラッチを操作して、回転弾倉のロックを解除しなければならない。
その後、銃を上に向けて回転弾倉から使用済みの空薬きょうを振り落とし、新しい弾丸を弾倉の中に詰めなおす。
シリンダーをもう一度、もとの位置に戻してようやくリボルバーの弾込めは完了する。

六発の弾丸を一度に装填できる「スピードローダー」を使っても、かなり時間のかかるこの作業をゴルゴは一瞬でこなした。
だが、予備弾の装填が終わった瞬間、クァール猫の触手がリボルバーの銃身に巻き付いた。

間一髪、手を離す!
ゴルゴの指が離れた直後に、リボルバーが獣の触手の中で永遠に使えない鉄クズと化した。
利き手を守ることが出来たが、手に持っていたたった一つの武器を失ってしまった。

バネのように力を溜めたクァール猫が、無手となったゴルゴに躍りかかる。
後ろに退けば触手に巻きつかれる。
左右に逃げれば前足の爪に切り裂かれる。
上に跳べば、鋭い歯が並んだ大顎が待ち構えていた。

八つの方向の内、七つまでふさがれたゴルゴは、最後の逃げ道を目指して、体を前へ投げ出した。
床の上を前転しながら、触手も、爪も届かない唯一の場所、クァール猫の懐の中に飛び込んだ。
そこへ押しつぶそうとするかのように、黒い巨体が圧し掛かってくる。

左腕の肘を獣ののど元におしつけ、背中と腰と足の力で300キロの重量を支える。
空いた手には、ゴルゴの右手には―――


―――転がっている時に拾ったのび太のショックガンが握られていた!!


クァール猫の弱点は、感覚器官を狂わせる大量の電磁波であった。
ドラえもんは、ショックガンに人を殺す力はないが、頭にだけは当ててはいけないと言っていた。
そして、今ゴルゴは右手に握りしめたショックガンをクァール猫の空っぽの眼窩に突き刺し、銃口を直接脳に押しつけて、大出力の電磁波であるショックパルスを―――撃った! 撃った! 撃った!

引き金を引くたびに、青い閃光がクァール猫の目と口の中から飛び出した。
凄まじい咆哮が鼓膜を破らんばかりに轟き、生臭い緑の涎が顔に降りかかる。
やみくもに振り回される触手は触れるものすべてを破壊し、気絶しているのび太を掠って、その顔の隣りにある床を粉々に打ち砕いた。

永遠のように長い一瞬が過ぎた後、暴れまわっていた触手がついに力を失い、咆哮は途絶えた。
慎重に銃を引き抜いて、後ろに下がると、クァール猫の巨体が音を立てて、地に沈んだ。



■   ■   ■



サポートAIの報告が終わった後も、ドラえもんはしばらく言葉を忘れたように沈黙していた。
もともとでかい口が、驚きの余り、人が通れそうなほど大きく開かれていた。

「そんな、バカな。あの『黒い破壊者』を、ジャンボガンや熱線銃で武装した特殊部隊だって殺せるかどうかわからない相手を……火薬式の銃とショックガンで倒しただって!」
『機械の私が、このような表現を使うのは不適切かもしれませんが、あれはまさに悪夢のような光景でした。しかし、あの男がクァール猫を倒してくれたおかげで、私は奪われていた機能を取り戻すことができました。
 目を覚ました私は、不審者から訓練生を守るために、気絶したマスターの上に周りの風景そっくりに加工した立体映像をかぶせたのです』
「それじゃあ、君が僕を守ってくれたの?」

感謝の言葉を述べようとしたのび太を、立体映像の少女は複雑な表情で制した。

『そうであったら、よかったのですが……残念ながら、事実は少し違います。マスターが消えたことに気づいた後、あの男は貴方がいた場所にショックガンを撃ち込みました。もし、立っていたら、ちょうど足か腰がある位置です。私はとっさに光線が何も無い場所を通り過ぎたように立体映像を作ったのですが、ショックガンの射線が立体映像の磁場に当たって僅かに横にずれてしまいました』

少女の手が部屋の一角を指差した。
視線を向けると、確かにショックガンが命中した時にできる黒く焼け焦げた跡があった。

『……たった5ミリ程度の違いですが、男はそれだけで立体映像の存在に気づいたようでした。人間が肝を冷やすという感覚を、あの時初めて味わいましたよ。しかし、あの不審者は何故か、その後何もせずに、この場から立ち去りました。マスターがいたと分かっていたはずなのに……逃走の時間を惜しんだのか、それとも体力の消耗を警戒したのか。本当に、貴方たち炭素脳の考えることは不可解イイイイイィィイイイイイ』

突然、少女の映像が縦や横に歪み始めた。
砂嵐のようなノイズが、耳障りな音を立てて空中を飛び交う。
ドラえもんとのび太は慌てたが、どこから手を施していいのか分からない。
斜め45度の角度で叩くか、と腕を振り上げたその瞬間、少女の画像が復帰した。

「ど、どうした、サポートAI! 大丈夫なの!」
『……失礼、あの黒ネコもどきが、残したバグのせいで画像と音声が乱れました。現在、容量の大半を傾けて、復旧に努めているのですが、まだ何時バックアップデータからクァール猫が復活するか、気の抜けない状態です。申し訳ありませんが、本格的なウィルス除去作業のため、冬眠状態に入ることを許可していただけませんか?』
「うん、わかった。未来デパートとメーカーには、僕のほうから連絡を入れておくから、ゆっくり休んでよ」
『クァール猫のデータをダウンロードした機種が、同じようなトラブルを起こす可能性がありますので、早急にお願いします。それから、マスター……』
「え、何?」

急に話の矛先を向けられたのび太が、戸惑ったような声を上げた。
サポートAIのアバターは一度頷き、真摯な表情で少年の顔を見上げて言った。

『のび太さん、あなたはもしかしたら、私の最後のマスターになるかもしれない人です。だから、よく聞いてください。あなたは私が思っていたよりも、はるかに強い人でした。が、不注意な態度が目立ちます。才能だけでは、立ち向かえないものがこの世の中にはいっぱいあります。もっと、身の周りにある危険に気を配ってください』
「それは今日、いやというほど思い知ったよ」

大人しくうなだれるのび太に、初めて浮かべる笑顔を向けて、

『それでは……これで今回のシミュレーションを終了いたします』

少女の幻影は跡形もなく姿を消した。
のび太は、サポートAIがいた空間をしばらく見つめた後に静かな声で、「ありがとう」と礼を言った。
顔をあげて、ドラえもんの方を見た。
青いネコ型は驚いたような顔で一歩後ろに退いた。

「ドラえもん、あの人たちはどこにいるの?」
「な、何のことを言っているのかな? 僕わからないよ」
「いいんだよ。知らないふりをしなくても。ギラーミンの時と違って、今度は何が起こったのか、僕全部覚えているから」

ドラえもんは、立ち上がろうとするのび太をなんとか押しとどめようとした。
だが、いつもは簡単に押し返せたはずの小さな体を何故か止めることはできなかった。
嫌な予感に胸を震わせながら、どうすることもできずにのび太の後を追いかけた。
自分の目の前をゆく背中が、ついさっき子供部屋から飛び出して行った少年のものとは思えない。
この短い時間の間に、のび太の中で何かが劇的に変わってしまったようであった。

のび太が探していたものは、あっさりと見つかった。
ドラえもんは、少年の目に触れないようにそれらを片づけたが、濃厚な血の匂いまで手をつけている余裕はなかった。
ゴルゴを追いかけてきた三人の男たちが、渇いた血だまりの中から、無念そうな顔でのび太たちを見上げていた。
のび太は、男たちの断末魔の表情を目に焼き付けた後、歯と歯の間から絞り出すようにつぶやいた。

「僕がこの人たちを撃ったんだ」
「え、それってどういうこと?」
「この人たちが銃を持ってやってきたから、体が勝手に動いた。それから、たぶん……あの男の人がこの人たちを撃ち殺したんだと思う」
「あ、あのさ。のび太くん。さっきから君やサポートAI言っている、あの男の人って誰なの?」

長い間、のび太はドラえもんの質問に答えなかった。
代わりに一滴のしずくが少年のほほを流れ、靴の上にしたたり落ちた。

「ガンマンだよ。二丁拳銃で悪者や怪獣をなぎ倒していた。ずっと、僕が、なりたかった……」

一滴、また一滴、しずくは連なり、やがては顔の上に涙の河を形つくる。
ドラえもんは、声も出せずに、ただのび太の泣くのを見ていた。
ドラえもんにとって、のび太の泣き顔は見慣れたもののはずだった。
だが、今まで一度も少年がこんな表情で泣くのを目にした覚えはなかった。

「く、くやしいよ。すごく、くやしいんだ。おかしいよね。今まで、今まで、テストで零点を取ったり、競走でビリになったり、ジャイアンやスネ夫にいじめられたり、くやしいことは一杯あったはずなのに、こんなにくやしかったことは……」

涙と鼻水を垂れ流し、顔をくしゃくしゃにし、時に大声をあげて……。
のび太という少年はいつも、自分の全身全霊をぶつけるように泣いていた。
しかし、今のび太の顔にはどんな表情も浮かんではいなかった。
仮面のような無表情の上を、機械的なリズムで涙が流れ落ちていく。

ドラえもんは、人がどんな時にこんな顔をするのか知っていった。
真の絶望と悲しみを知った時、人は声をあげて泣くことすら許されないのだ。

自分の手から放ったものが決して的を外さないと分かった時……
その想いは、静かに少年の心の中で芽生えた。
けん銃王コンテストで優勝した時に、その想いは日の光の下で大きく葉を広げた。
一つ冒険を乗り越えるために、一つ戦いを勝ち進むたびに……
何時しか想いは枝と根を張り巡らし、大樹のごとく少年の心を支える支柱となっていた。

一度、拳銃を手にすれば、誰にも負けないという自信。
大人になった時に、この力を使って人々を守るヒーローになりたいという願い。
それは、全てにおいて人並み以下だった落ちこぼれが手に入れた唯一つの誇りだった。
それは、少年がいつも憧れをもって見上げ続けた切なく、美しい夢だった。

そして、今日のび太は自分の理想を体現したような男に出会った。
強く、格好良く、完璧な銃の使い手、ゴルゴ13。
しかし、少年の英雄は、姿を現すと同時にのび太の誇りと夢を無残に踏み砕いた。

今や、のび太にもわかっていた。
銃が結局、引金を引くたびに悲劇を生みだす人殺しの道具にすぎないことを。
少年の夢の行きつく先は、血ぬられた修羅の道行であった。

自分の存在意義を揺るがすような相手に出会った時、人が取れる手段は二つしかない。
築き上げてきたすべてを投げ捨てて地平線の果てまで逃げるか、或いは……

「くやしいよ、ドラえもん! こんなにくやしい思いをしたことは、なかった。だから、僕は……人を守る人間になる! あの人が人殺しならば、僕はあの人が殺した分だけ命を助ける。僕は―――」

空を見上げ、獣のように吠える。
夢を破られた苦しみ、誇りを奪われた痛み、なおもくすぶり続ける憧れ、今まで蓄えた感情を瞼に焼き付いている『あの男』の背中めがけて吐き出した。

―――僕は、人を殺さないガンマンになるんだ!!!

それはなんと現実味のない夢なのだろうか。
かなう望みはほとんど少なく、かなえたとしても報われる可能性は皆無に近い。
だが、ドラえもんは少年の言葉を否定したり、揶揄したりはしなかった。

長く、長い時を二人は一緒に過ごしてきた。
ドラえもんはのび太が、大人ですら音を上げるような苦難を幾度も乗り越えてきたのを見てきた。
大がつくほどの冒険を通して、のび太の中にどれほど大きな可能性が眠っているのかを知っていた。
そして、今少年の決意の固さを目にした後、

(のび太くん……どうやら、今度こそお別れの時がきたみたいだね)

ドラえもんはのび太の幼年期と自分の役目の終りが近づいたことを悟った。





***


あとがきのやうなもの

長い!
いやあ、今回は本当に長かったですね。
いつもは土日で二章を仕上げていたのですが、今回は一章しか仕上げることができませんでした。
決して、作者がさぼっていたわけではないので、悪しからず!

てなわけで……。
いよいよのび太の少年期も終わり、次回はのび太の成年期のお話が始まりました。
舞台はいっきに飛んで25年後、35歳になったのび太と??歳になったゴルゴ13が戦います。
ようやく、冒頭のあのシーンに話がつながるわけです。
のび太の息子のノビスケもちょっとだけでてきます。

ただ、心配のは成長したのび太はほとんど私のオリキャラだってことですね。
一応、映画の「ドラミちゃん、ミニドラSOS」に出てくる大人のび太がモデルなのですが、
……近所のレンタル屋さんにDVDがないことが発覚!
おかげで、ほとんど想像で書いてます。
私ののび太に違和感を覚える方もいるかもしれませんが、どうかその点はご容赦を!



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