伝説は、遠くにありて思うもの虚無の系統なんて、地球で例えればUFOやUMAみたいなものなのです伝説は、遠くにありて思うもの己が、家族が、その渦中に置かれるだなんて誰も想定していません伝説は、遠くにありて思うものでは、伝説が現実になったら。己は、そして家族はどうするのでしょう?「・・・昔ね、お母様がとある親友にこう言われたらしいわ。」フォルヴェルツ号の甲板に立ち、遥か彼方からやってくるそれを見ながら、ルイズはポツポツと喋り始めました。「な、何でしょうか?」「賞で罰を取り消してはいけない。信賞必罰の原理原則は堅く守らなくてはいけないって。 お母様はその言葉を凄く大事にしていてね。 悪い事をしてそれを挽回する行為をしたとしても、悪い事に応じた罰は必ず下して、然る後に挽回に対するご褒美をくれるのよね。」そう話すルイズはいつもと違い真っ青で、しかも大量の冷や汗をかいています。わかりやすく言うと、かなり怯えているのです。このように怯えを表に出すルイズというのは、今まで見た事が無いのですが・・・。「良い話ですね。」「ケティは同意すると思ったわ、これをお母様に言ったのってマリー・・・つまり過去に行った未来のケティらしいし。 でもねケティ。お母様はわたしのお母様なの、繊細にして大雑把なの、手加減一発岩をも砕くの、細かい融通とか凄く苦手なの。 そういう細かい気配りとか融通は、お父様が己の胃袋を犠牲にしながら全部やってたの。 そんな人に信賞必罰をきっちりさせろとか言うとね・・・。」ルイズの視界には稲妻光り豪雨を降らせる積乱雲と、その下で轟々と回転する大竜巻・・・ゲリラ豪雨トルネードとでも言えばいいのでしょうか?。風のスクウェアで水のトライアングルという、伝説の英雄に匹敵する大メイジが作り出した天災級の魔法が広がっています。竜巻に稲妻に豪雨って、ちょっとした要塞でも壊滅してしまうのではなかろうかという気がするわけなのですが・・・アレを一人で出来てしまうあたり、本当に『人型の天災』と言われただけはあるのですよ、烈風カリーヌ。「あの有様なのよ、責任取ってよケティ。」「日照りの地域で積乱雲だけ呼び出したら、きっと大喜びされるでしょうね・・・。」風と水を操る事で、本来の風系統の特徴である《器用な事が出来るけど、広範囲攻撃が苦手》というのを完全に克服してしまっています。現役の頃は《戦場で出会ったら天災に遭遇したと思って諦めろ》とか言われていたらしいですが、まさか行使する魔法そのものが天災とは・・・。「あばばばばばばばば・・・。」「はわわわわわわわわ・・・。」「アイエエエエエエエ・・・。」モンモランシー、ギーシュ、マリコルヌの三人は、既に戦意喪失状態なのです。「け、ケティ、どうする?逃げる?」「逃げろったって何処に逃げろというのですか、ジゼル姉さま?」迫り来る巨大積乱雲を眺めつつ、私は言葉を続けます。「フォルヴェルツ号の速度で、アレから逃げるのは無理です。」「・・・じゃあ、どーすんだ?」私達の話を聞いていた才人が、私に尋ねて来ました。「運命に身を任せましょう。 もうど~にでもな~れ☆」正直な話、あんな天災に手の打ちようなんか無いのです。「うわー!ケティが豪快に匙投げたー!?」「もうだめだ!おしまいだー!」私が諦めた途端に総崩れとか、どうなっているのですか・・・。「ええい、うろたえるなぁ!出来る事はあります!私たちはフォルヴェルツ号より退艦!」「おおっ!そこから反撃か!?」私がそれっぽい事を言った途端に、皆の士気が持ち直しました。ううむ・・・あまり良い傾向ではありませんよね、コレ。「・・・この船を守るの?」「・・・高いですからね。」何だかんだで一番荒事慣れしているタバサにはわかったみたいです。あとコルベール先生も、安心したように胸を撫で下ろしています・・・現物、まだこれだけですからね。「箒用意!」『了解!』タバサ以外の全員が、甲板においてあった箒を持って並びました。最近すっかり皆に忘れられて遺失魔法と化しつつある箒を使った飛翔魔法《フライ》を使って空を飛ぶわけなのです。レビテーションの浮力は《フライ》より上ですが、スピードが遅いですからね。ちなみにタバサも、箒を持っていないだけで並んでいますからね。タバサが持っているのは、杖の契約を目出度く終え、かつゴージャスな細工の施されたハルバード・・・タバサが言うには《取り敢えず代え》だそうです。打撃力が思いっきり向上したような気がするのは、私だけでしょうか・・・タバサも私もルイズも皆メイジなのに、物理攻撃力ばかりが上昇するというのはどうなのでしょう?「では、ルイズは私の後ろに、才人はタバサの後ろで。」「へーい、頼むぜタバサ。」「ん。」昔と違ってルイズもフライ使えるようになっているはず・・・なのですが、《フライ》を行使する際に加減が上手く行かないようでして。前に《フライ》を使ったら「ふんぎゃー!?」とか叫びながら物凄い勢いで天高く上昇して行って、帰ってきた時には「空が黒くて・・・昼なのに星が・・・星が・・・息が・・・目が飛び出るかと・・・」とか、虚ろな顔でぶつぶつ呟いていました。何処まで行ったのか知りませんが、魔力が無駄に大出力ですからね、ルイズ。「うう・・・何で《フライ》だけは、相変わらず失敗するのよう。」箒に跨った私の腰にギュッと抱き着きながら、ルイズが愚痴っています。「行使自体は成功していますけど、コントロールに完全に失敗していますからね。」「それって、失敗じゃないの?」ルイズの疑問に私が説明をしたら、ルイズの不思議そうな声が背後から返ってきました。「広義の失敗ではありますが、ルイズの場合はそもそも箒が爆発していたわけですし。 行使が出来るようになったのであれば、後はコントロールするだけなのです。」「・・・そういうもの?」「そういうものです・・・では行きます、《フライ》!」発動ワードとともに私達の全身が軽くなり、フワリと浮き上がりました。、・・・箒で飛ぶ魔法と間違われている事が多いですが、箒だけが浮いたらお尻に箒の柄が食い込んで痛くて、魔法として使用できないのです。故に普通の《フライ》は箒を発動の中心として、乗った人ごと浮く魔法になっています。「《フライ》」「おお、浮いた!」タバサはハルバードに跨って、才人と一緒に飛び上がりました。ちなみにタバサみたいに長杖を使う人は、箒が必要ありません。何故ならコレ、元々は長杖で飛ぶ為の魔法で、現在一般的に使われている《フライ》は箒を杖の代替物として魔法を発動させているという経緯があります。だから実は箒じゃなくて、そこら辺の角材で飛んでも良いのです。ですが、箒は元々人が握りやすい大きさに柄が拵えてあり、かつ平民でも作れる大量生産可能な品である為に数が揃え易いので使い易くて、掃除に使うので生活空間に普通に置いてあるという特徴があります。なので、皆だいたい箒を使っているというわけなのです。ビバ・工場制手工業(マニュファクチュア)。「《フライ》」ジゼル姉さまは銃を構えた姿勢で、サーフボードに乗るみたいに箒の上に立っています。ジゼル姉さまは《フライ》で飛びながら銃を撃って狩りなどをしていたので、《フライ》を矢鱈と器用に行使出来るのですよね。なにげに、トリステインで一番器用にフライを扱えるのではないでしょうか?『《フライ》』他の人は、私と同じく極普通の《フライ》。可も無く不可も無く、普通なのは良い事なのです。皆が皆面白い事が出来るわけじゃあありませんからね・・・一応コモンとはいえ風属性なせいか、ギーシュが一番下手だったりするのは内緒です。私達はフォルヴェルツ号から発艦し、積乱雲とその発生源の元へと近づいていきます。「カリーヌ殿!カリーヌ殿!お鎮まり下さい!」「カリンと呼んでって言ってるでしょ、マリー!」私の呼びかけに、そんな返答が来たのでした。「いや、しかしですねカリン。貴方をその呼び方をしていたのは飽く迄も未来の私なのですが?」「それ以上ごちゃごちゃ言うなら、お仕置きレベルをもう一段回引き上げるわよ?」カリーヌがそう言うと同時に、積乱雲が更にもうもうと大きくなり、雷がスパークし、竜巻も更に更に大きくなります。うーむ・・・対峙した敵軍が烈風カリンの進行方向にそって消し飛ばされていったというのは、誇張でも何でもないのでしょうか、ひょっとして。「その上があるのですか!?」「何言っているのよ、貴方だって魔法衛士隊では似たような大規模破壊を何度もやらかしてたでしょ?」周囲の視線が私に集中します。「過去の世界でわたしのお母様と一緒に、一体何やらかしたのよケティ・・・?」そんなルイズの妙に冷静なツッコミが、私の背後から聞こえてきます。「み、未来の私の事を言われても、何が何やらさっぱりですよ、カリン!?」「きーっ、騎士ではない謎の会計係が魔法衛士隊員として戦闘した記録を残す訳にはいかないとかで、大規模破壊は貴方がやったのも含めて何時も何時も全部私のせいになっていたのに!」ちょ、烈風カリンの伝説の一部は、私なのですか!?己の事ながら、本当に何をはっちゃけやらかしているのですか、未来の私!?「あ~・・・何か凄くケティがやりそうな手口だな。」「ん。私の任務でも、全部私がやった事にされた。」ああっ、何か私が既に色々とやらかしているかの如く。「タバサの任務に関しては、あのデコにも話は通していましたけどね、実は・・・。」「デコ?」タバサの問いかえしに、唇に人差し指を添えてニッコリほほ笑んでみます。「秘密、タバサにとっては愉快ならざる真実かもしれませんが・・・聞きたいですか?」流石にデコと言われたら、この件に鈍いタバサでも気づいちゃいますよね?まあ、もう北花壇騎士団の仕事をする必要もないので、タバサが気づいても別に構わないのですが。イザベラは不本意かもしれませんが、事前にこっそりバラしておけば、急に心を入れ替えて働きますとか無茶なこと言い出さなくても済みますしね。「ん・・・。」「・・・では、後で貴方をこっそり応援していた者達の話をしましょう。 貴方が実は一人ぼっちでなかった事を、もう知っても良い筈ですから。」まあそれよりも、それよりもなのです。「な・・・何にせよ、この災害を何とかしない事にはどうにもなんないわね。」私の腰にしがみついているルイズが、余程母が怖いのか物凄い勢いで震えています。「ワレワレハ、ウチュウジンダ~。」とか、出来ちゃうくらい私にも振動が伝わっているのです。「アホな事をしていないで、打開策を教えてくれよケティ?」「わかりました。とても度胸の要る行為ですから、皆さん覚悟してくださいね。 これより全速力で、あの竜巻の中に突っ込みます!」私はそう言うと同時に、急加速して竜巻に突撃を開始しました。「ま、待て、それで何になるって・・・ああもう、タバサ!」「ん。」しかしタバサは動きません・・・私のやる事をガッツリ理解してくれたようですね。そう、この件に関しては、実のところ私とルイズだけで十分なのです。「ななななな、何をしてるのよケティ!?」「要するにアレは罰なのですから、率先して飛び込めば早く終わるでしょう? 嫌な事は、とっとと終わらせてしまうに限るのです。」「あれー!?お母様を倒すとか、エルフみたいに口先で騙すとか、そういう事じゃないのー!?」「殺意は無いでしょう。死なないならどうとでもなります。」半殺しの目に遭わされる可能性大ですが、まあ仕方がありません。「お母様のやる事なら、だいたい何時もちょっと間違えて死にかねないわよ!?」「大丈夫大丈夫、死んだらルイズに王位押し付けたい姫様の野望が砕け散るくらいですし。」「じょ、冗談じゃない!こんな所に居られないわ! わたしは逃げさせて貰うわよ!」貴方はミステリー小説で2番目か3番目に死ぬ人ですか、ルイズ?「はっはっは、何処に逃げようというのですか~?」「うぐ・・・。」そう、ここは箒の上で、上空数百メイルの空の上。流石のルイズも落下したらただでは済まない気がします・・・人型の落下痕から、ギャグみたいに無事な姿で這い出してくる可能性もあるのが怖いですが。「そーれ、いっきますよー☆」「ぎにゃああああああぁぁぁぁぁぁ!」「ちょ!?何やってるの!?」全速力で私とルイズを乗せた箒が竜巻の中に突っ込みます。なんか最後に、カリンの滅茶苦茶焦った声がしましたが、無視で。「うひゃあああああああああっ!?」「あばばばばばばばばば・・・。」強烈な風に浚われて、箒ごと呆気無く吹き飛ばされる私たち。猛烈な雨と風に翻弄され、箒に必死に捕まる以外に成す術もありません。大自然の前には無力ですと言いますか、これ無理・・・あひゃああああああああぁぁぁぁ!「きゃーっ!や、やめやめやめーっ!!」そんな声がした後に、風と雨が唐突に止みました。「う・・・うごごごごご・・・こ、これはきつい・・・。」「ふにゃにゃ・・・目が・・・目が回るわ・・・。」私はズブ濡れでグチャグチャになりながらも、何とか箒の体勢を立て直します。し・・・死ぬかと思いましたが、何とか賭けには勝ったようですね。魔力による風と水の精霊の拘束が解けたお陰か、空はすっかり快晴。良い天気なのです。「ななな、ななななななな何で自分から竜巻に突撃するのよう、マリー!?」「ほ・・・ほほほほほほほ。」昔の魔法衛士隊の隊長の格好をしてグリフォンに跨った人物が、マスクを外しながら動揺を隠せない様子で私達に声をかけてきました。取り敢えず、余裕っぽく笑っておきます・・・ああ、しかし、目が、目が回るのです。「る、ルイズ・・・大丈夫?」「ふにゃ・・・だ、大丈夫です、お母様。」フラフラになっているのか、弱々しいルイズの声が背後から聞こえてきます。いくら物理的にも魔法的にも異常に頑丈になったとはいえ、三半規管までは強化されていないようなのです・・・成程成程。「矢張り母子の情は覆せませんよね。 自ら魔法を制御して娘を折檻するならば兎に角、自分の制御に無い状況ならば止めるだろうと思いましたが、思った通りでした。」「ぐぬぬ、謀ったわねマリー・・・。 久しぶりだけど、貴方はこういう謀(はかりごと)が得意だったものね・・・。」「ほほほほほ・・・。」未来の私がどんなんなのかさっぱりですが、基本的な性格は変わっていないのでしょう。ま、たかだか数年で人格が大幅に変容していたら、いったい何が起こったのかという話になりますが。「お、お母様もケティにおちょくられた経験が?」「私だけじゃなく、ピエールもよ!」「お父様もっ!? ああ、ひょっとしてヴァリエール家は、ケティにおちょくられる運命の元に生まれたの!? ひょっとして、私の子供もケティにおちょくられるのかしら!?」親子代々私におちょくられ続けるとか、とんだ名門ですねー。あと私、そんなにしょっちゅう人をおちょくっていたでしょうか・・・?「ちい姉様をおちょくったりしたら、許さないんだからねっ!」「私に病弱で柔和な女性をおちょくる趣味はありませんよっ!」私だって、おちょくる人は選ぶのですよ。そんな儚げな人をおちょくったりしたら、私が完全に悪者ではありませんか。私は悪者呼ばわりされても一向に構いませんが、自ら進んで積極的に悪者になる気は無いのですよ。「コホン・・・で、魔法を自ら解除した上で、その対象である娘と和気藹々とおしゃべりしているという事は、『お仕置き』は終わりという事で良いですか?」「うーん・・・。」カリンは首を捻って考え込んでいます。「罰は罰として、きちんと罰すべきよね、マリー?」「陛下の命令という形で許可を貰ってる案件に、罰も何も無いのですよ、カリン。」カリンの顔はどこかで見たような胡散臭い笑顔。具体的に言うと、鏡でよく見ます・・・つまり、私がよく浮かべる類の笑顔なのです。「ああ、成程・・・そういう事ですか。」ですよね、ここまで迎えに来たという事は、事情も知っていますよね。原作展開と違って、許可無き国境破りでは無い事も当然知っているわけで。知っていれば流石に怒らないですよね、でないと任務になりませんし。「謀り(たばかり)ましたね、カリン。 貴方は娘を折檻する融通ゼロな母親であるかのように装い、私達を驚かせようとした・・・違いますか?」「うははははは!とうとうやったわ、マリーを騙せた! マリーに何度も何度も何度も何度も何度も騙され続けて、やっと一矢報いれたのよ!」烈風カリン、満面の笑みでガッツポーズなのです。しかし過去に行った未来の私は、烈風カリンなんていうとんでもないメイジを何度騙していたのですか。・・・まあ何と言いますか、この言動を見るに、カリンの素の性格はルイズにかなり似ているようですね。「だから、ルイズごと竜巻に突っ込んだ時に驚いていたのですね。」「流石に親子の情を利用されるとは思いもしなかったわ。 酷いわよ、あれは。」カリンはぷんすか怒り始めました。いやまあ、確かに親子の情を利用するというのは最低な気はします、しますが・・・。「雷鳴と竜巻と積乱雲引き連れてやって来るメイジの方が、余程酷いような気がするのですが。 都市攻撃魔法でしょう、今のは?」「でもあれ、貴方が教えてくれた魔法の理論で組み立てた呪文よ?」目の前が軽く暗くなりました・・・未来の私は、烈風カリンに何を教えちゃっているのですか。「積乱雲を起点に竜巻と稲妻を作り出す《スーパーセル》。 少ない魔力で今までよりも効率良く大規模な魔法を行使する技術なんて考えた事も無かったから、実際にマリーの言う通りに魔法を組み立てて行使した後に起こったあれこれには、何度もびっくりさせられたものよ。 それまでは小規模な竜巻しか起こせなかったのに、マリーの言う通りに魔法を行使したら要塞を破壊できる竜巻が作れちゃったのだもの。」いやまあ、ある程度科学的に魔法を組み立てた方が、より少ない魔力で強力なものを行使できるというのに気づいたのは私ですが。確かに私なのですが、それにしたってとんでもない威力なのですよ。元の出力が桁違いだからこそ、出来る魔法なのでしょう。ゲルマニアでは《烈風カリンに出会ったら天災か何かだと思って諦めろ》と、恐れられるを通り越して諦められているらしいですが、本当に天災を作り出していたのですね。「あー、ケティ・・・うちの国の要塞、何度かカリン様に木っ端微塵に破壊されてるんだけど。 あれ、貴方の入れ知恵のせいだったのね。」ああっ、私に話しかけてきたキュルケの顔がなんか怖い!?「フッ・・・技術への飽くなき探究心が戦争にて花開くとは、かくも残酷な事なのですね。」「格好つけても、誤魔化されないわよー? 私もいくつか強力な魔法を教えて貰ったから、まあ良いのだけれどもね・・・やっぱり、媚薬でも嗅がせてお父様の部屋に放り込もうかしら?」だぶるぴーす展開再び!?いやいやいやいや・・・冗談ですよね、うん。カリン様に先導され、私たちはヴァリエールの城館へと到着したのでした。トリステインでもラ・ヴァリエール公爵領の周辺はガリアの影響を強く受けており、その関係で城館もガリア様式のものになっています。「お帰りなさい、皆。 よくぞ無事に帰りました。」我らが主君、喪服の女王。別名《トリステインの黒狐》とか、単純に《黒女王》とか。貴族社会だけではなく、庶民にもその真っ黒さが伝わりつつあるアンリエッタ女王陛下・・・つまり、姫様が我々を自ら出迎えてくれたのでした。ちなみにやる事は割と真っ黒ですが、為政者としては割と真っ当なので、臣民からの支持は相変わらず高いのです。「はい、姫様。我ら一同、一人も欠けること無く友を連れ帰る事に成功いたしました。」私達は全員跪き頭を垂れて礼をしつつ、そう報告したのでした。昔はこういう時には才人が取り残されて一人戸惑っていましたが、今はぎこちないながらもきちんと礼が出来ています。こちらの社会に、彼も馴染んできているということでしょう。「シャルロット・エレーヌ・ドルレアン大公公女でありますね? 卿には一度会った事があります。 あの時は別の名を名乗っていましたが、今でも?」「はい陛下、今はタバサと名乗っております。 陛下もどうか、そうお呼び下さりますよう。」うーむ、矢張りタバサの礼は綺麗ですね。今度、時間があったら特訓して貰いましょう。綺麗な礼は、見るものを圧倒する効果がありますから、身につけておいて間違いはありません。「さて、皆、そろそろ面をお上げになって・・・と言うか、顔見知りしか居ない場所でずっと臣下の礼とか面倒臭いから立ってよーし。」姫様はそう言うと、パンパンと手を叩いたのでした。「お、センキュー、姫様。 いやー、慣れない体勢だから息が詰まっちまった。」「ご苦労様、今回も活躍したみたいね、サイト。 ケティから一足先にザッとした報告書を貰ったわ。」姫様が才人の背中をポンポンと叩きながら労っています。んー?姫様も才人も根は砕けた所がありますけど、こんなに親しげでしたか?「オレが戦ったところって、そんなにありませんでしたけどね。 ケティがエルフを舌先三寸で倒したし。 いや~、思い返すもあのエルフは可哀想だった・・・。」「《百戦百勝は戦争において最善の手ではない。戦わずして敵に勝つのが、最善の手である》・・・って奴ね。 ケティに書かせた《戦略の覚書》に書いてあったわ、うんうん。」姫様は何か納得いったという表情でうんうんと頷いていますが・・・。わかる人はわかると思いますが、はい、その通り。「あは~・・・。」「ケティが何だか気まずそうに笑ってるわ・・・。」このくだりは、孫子の兵法の謀攻篇からパクリましたよ。凄いですよね、紀元前の中国人。そして無茶言いますよね、姫様。軍人でも何でもない私に戦略論書かせるとか・・・前世の私がそっち系の知識聞き齧っていなければ、到底書ける代物ではありませんでした・・・。ま、要約すると《通信は迅速かつ正確に》とか、《平時から情報工作を怠るべからず》とか、《攻めるつもりなら事前の政治工作は入念に》とか、《後方に物理的・政治的な打撃を与えた方が前線が弱って楽》とか、《強力な軍の運用には強靭な補給線が必要》とか、そういう基本的な事を書きました。「あれ書かせる時に、渋ったものねえ・・・私以外が読むの禁止されたし。」読む人が読めば、戦略爆撃を思いついてしまいますからね、あれ。飛行機はありませんが、船が空を飛ぶ世界ですから。やろうと思えば航空戦力の砲爆撃による戦略拠点潰しという、戦略爆撃の概念が出来上がってしまいます。・・・まあ、もうアルビオンで一度やってしまったわけですが、特務艦隊の活躍は今のところガリアやゲルマニアなどには漏れていないようなのです。長年国境線を左右させる規模の戦争しかしておらず、双方ともに傷つき過ぎる前に手打ちする為、戦争は基本的に《決戦》的な発想で行われているのが幸いしているようなのです。対アルビオン戦のような国力を賭けた全面戦争は、今までは例外中の例外でしたから。・・・まあ、アレが全面戦争だったのは、悲しいかな我が国とアルビオンだけだったという話もありますが。「あれはかなり急いで書いたものですし。 他人に見せるのは勘弁してください・・・。」「ド・ポワチエ卿に見せたら、《女性の軍務禁止に例外措置を用意しろ》って言われたわよ? アルビオン戦の時にも思った事だけれども、貴方軍人も出来るのね。」すげー、私じゃなくて過去の天才軍人達やっぱりすげーのです。私は完全にカンニング済みですからね。しかも理論だけ聞き齧った状態で実践を伴わないわけですし、比べるべくもありません。そんなんでも現役の軍高官に注目されてしまうのですから・・・って。「何でド・ポワチエ卿に見せているのですかーッ!?」サラッと流しそうになりましたが、本職に読まれてるー!?「そんな事を言ってもね、ケティ?私は軍人じゃないから戦略とかについてはからっきしなのよ。 私が貴方の書いたものの中身がどうであるのか評価するには、一人くらい口の堅い高級将校に見せる必要があるわ。 その点、ド・ポワチエ卿は信用できるのよね、自他ともに認める非積極的で保身的な人間だもの。 彼なら、秘密を漏らせば己の身に何が起きるのかしっかりと理解して、秘密を墓まで持っていける。」「ぐぬぬ・・・。」私の知る限りでも、ド・ポワチエ卿は非積極的で保身的な人間なのです。その上、アルビオン戦までの彼は高級軍人としても敢闘精神に欠けると言われて決して高い評価ではなかったのですが、非積極的な戦いをさせたら一級品という物凄くわかりにくい名将であることが発覚しました。優秀な怠け者な上に、飽く迄も怠け者を貫きつつ勝つという、本当に訳の分からない人なのです。ド・ポワチエ卿って、原作ではこんな人ではなかった記憶があるのですが、一体何がどう食い違ってしまったのやら。「さて・・・雑談は取り敢えず後にしましょうか。 シャルロット王女の身柄を確保する任務、大儀だったわね。 シャルロット殿下・・・いえ、タバサ。貴方の使い魔を抱っこさせて貰っても良いかしら?」「ん、こんな青い猫でよければ。」「こんなのとか猫呼ばわりとか、酷いのねお姉さま! シルフィは誇り高き風の王、大空の主たる風竜・・・。」タバサはひょいっと青い猫の姿をしているシルフィードを持ち上げて、姫様に手渡します。「ん、どうぞ。」「んー・・・モフモフだわ。」姫様はシルフィードを抱っこしつつ、シルフィードの背中や喉を丁寧に撫で始めたのでした。「ごろごろごろごろごろ・・・。」ただの猫ではありませんか、どう見ても。「もふもふ・・・話がまた逸れてしまったわ。 まずは皆に星を返します。あと、家紋の入った品々もね。」姫様がそう言って左手を上げるとヴァリエール家の女官がやってきて、私達に星の飾りが入った留め具を返してくれました。それを受け取った途端、才人とタバサ以外の全員が、思わずホッと溜息を漏らします。私も深く溜め息を吐いてしまいましたよ・・・これが無いと、貴族としての扱いを公式に受けるのは困難になってしまいますからね。これで私達は、野良メイジから貴族への子弟へと正式に復帰したことになります。「・・・何で、ヴァリエール家から女官を借りているのですか、姫様?」「ホホホホホ・・・ちょっとしたお茶目の結果という奴ね。詳しくは後で話すわ。 それとこれは、細やかなご褒美。」そう言いながら、姫様は女官からバッヂを受け取って私達に見せます。困難な任務をこなした者に送られる百合十字杖章という勲章に似たデザインですが、百合十字杖章の百合はトリステインの国章にして国の花である白百合なのです。一方で、そのバッヂの百合は黒色・・・恐らく黒曜石を加工して嵌め込んだのであろうデザインになっています。つまり、よく似ていますが別の意味を持った勲章ということになります。「それは・・・百合十字杖章でございますか?」「ええ百合十字杖章よ、特別製のね。」ギーシュが尋ねると、姫様はにっこり笑って頷きます。「これはあまりおおっぴらに出来ない特殊な作戦に関わった者に出す為に作った百合十字杖章。 表には出せないけれども、トリステインの為に戦った者に渡す勲章よ。 安直だけど、黒百合十字杖章という名前。貴方達が初めての叙勲者になるわ。」「そ、それは誠に光栄にございます! 初めて作られた勲章の最初の受勲者が僕達とは・・・ぶ、武門の誉れだ!僕ぁ、僕ぁ今、猛烈に感動している!」ギーシュは感動しきりだおしで、感極まったのか泣き出してしまいました。でもアレですよね。勲章の性質上、どんな任務で貰ったのかは話す事が出来ませんよね、これ。黒百合十字杖章はアンタッチャブルな任務の証であり、決してその任務が何であったのかは明かされない・・・とか書くと、格好良いでしょうか?あとついでに言うと、黒百合って生乾きの雑巾みたいな頭の痛くなる臭気がするのですよね。どうでも良い話ですが、群生地に行くと綺麗なのに、とてつもなく臭いという稀有な光景に遭遇出来ます。ま、黒百合の臭いって知らない人が多いですし、黙っておきましょう。臭いは兎に角として、花は綺麗ですから。「こんなに喜んで貰えるだなんて、勲章を作った甲斐もあるというものだわ。 ではギーシュ・ド・グラモン、貴方にこの勲章の一番最初という栄誉を授けましょう。」「え、ええっ、ぼ、僕なんかが・・・。」挙動不審気味に、ギーシュが私達にキョロキョロとした視線を送ってきました。初めて作られた勲章の初めての叙勲者・・・ギーシュなりたそうです、めっちゃなりたそうなのです。その微笑ましい姿に私達一同皆揃って《ええんやで・・・》といった感じの笑顔を浮かべてしまいました。「ギーシュ様は今回リュートをかき鳴らしましたし、笑いに新風を引き起こしました。 あと、タバサの新しい杖をでっち上げたりもしました。 勲章を与えるに足る立派な活躍なのです。」「ふむ・・・よく考えたら、僕ぁ武門の生まれなのに今回含めて全く戦っていないような気がするのだけれども、これはひょっとして気のせいかね?」ギーシュ・・・とうとうソレに気づいてしまいましたか。風や火の系統がいっぱい居るので、土の系統が主系統であるギーシュは、基本的に後方要員なのですよね。「ギーシュ、貴方はアルビオンに出兵したじゃない? あの空飛ぶ島で散々戦ったでしょ?」「ん?おお!これは一本取られたね!あっはっはっはっは! 我が可憐なる蝶、モンモランシー。その通りだ、僕はきちんと戦っていたよ!」朗らかに笑いながら、ギーシュはそう言って満足そうに相槌を打ったのでした。ちなみにそのシーンは、諸般の事情により省略されていたりしますが、気にしてはいけません。「ではギーシュ・ド・グラモン伯爵公子。貴卿の栄誉を讃え、ここに黒百合十字杖章を授与します。」「は、ははーっ!光栄の至りに御座います! くううぅ~っ、初めて作られた勲章を陛下の御手ずから一番最初に賜る・・・この上無き名誉にございます。」「そう言ってくれると、授与した私自身も嬉しいわ。ありがとうグラモン伯爵公子。 では、着けてあげるから胸を張りなさい。」「は、はいっ!」姫様は勲章を箱から取り出して、ギーシュの胸に取り付け始めました。おー・・・姫様の頭を見下ろすギーシュの顔が赤くなっているのです。そして鼻がヒクヒクしています・・・あれはたぶん匂いを嗅いでいるのですね。姫様、あんな性格なのに無駄に色気がありますし、無駄に凄く美人ですし、何より無駄に良い匂いがしますからね。私は女だからさっぱりですが、何かフェロモンとかも出ているかもしれません。原作でもそうでしたが、本気で迫ればあの鈍い鈍いとても鈍い才人ですら堕ちかけます。男を狂わせる魔性の花なのですよ、姫様は。まあ国家統合の権威としては、見てくれが良いに限るといえばそうなのですが、色気が有り過ぎるのが難なのですよね、色気が。子作りするには良いのでしょうが、当の本人が現在は恋愛よりも仕事というワーカホリックな人ですし・・・ままならないものですよ、ええ。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」おおう、モンモランシーがデレデレしているギーシュを鬼の表情でミテマスヨー。あれはアレですね、今夜あたり一服盛られるかもですね、ギーシュ。「さて、次はサイトゥ・ヒリガル・・・で、発音は合っていたかしらケティ?」「才人・平賀です、姫様。」「サイ・・・サ・・・発音しにくいわ、どうやって発音してるのよ、貴方は・・・?」「どうやって発音しているのかと言われましても、慣れですとしか。」実は私も恐らくトリステイン語訛りになっていると思うのですが、前世の記憶の御蔭で姫様たちよりはマシなのです。「いや、俺の名前がこっちの人には発音しにくいのは身に染みてわかってますんで、サイトーでもサイ・サイシーでも、好きに呼んでください。」才人の名前を呼んでいると認識されれば、自動翻訳されますしね。コントラクト・サーヴァントって、便利な呪文なのですよ。「そう、ではサイト・シュヴァリエ・ヒラガ。貴卿の栄誉を讃え、ここに黒百合十字杖章を授与します。」「まあ、今回は大した事はしちゃあいません。 今回一番戦ったのはたぶん、ケティの舌です。 最初は尊大だった耳の長いオッサンが、どんどん焦り顔になって行きましたからね・・・。 ところでエルフって、本当に強いんですか?」才人の持つエルフのイメージが、ただの騙された可哀想な人になっちゃってますね・・・。このままでは拙いので、あとでエルフに関する集中講座でもやりましょうか。「強い筈よ。トリステインとガリアとアルビオンとゲルマニアが出せる限りの戦力を出して、数十万の軍を編成して聖地奪還に挑んだにも拘らず、歯が立たなかったのですもの。 他にも要因はあるとは思うけれども、やはり実力の差というのが一番大きいと思うわ。 だからこそ、ケティは舌先三寸でその力の殆ど全てを使えなくした・・・その代わり戦って倒すという選択肢も完全に捨てたのだけれども。」「はい、その通りなのです。」《攻撃しなければ一切攻撃しない》という言質を取った以上、こちらから攻撃するという選択肢もまた存在しないという事になります。それ故に、どちらも相手を傷つけられないという、しょうもない硬直状態となったのです。 ビダーシャルが要らん知恵を働かせたお陰で、虎の子のスタングレネードが・・・ううっ、ジワリジワリと大事なコレクションを失った悲しみが私の心を痛めます。この恨み・・・何時か晴らす。「じゃあ、勲章つけるわね・・・。」才人も姫様の色香に惑わされているらしく、顔が真っ赤なのです。「うぎぎぎぎぎ・・・。」そして例によって、ルイズが激怒しています。うっすらとオーラの如く魔力がルイズの体表面を覆い、ピンクの髪の毛が光りながらユラユラと揺らめいていて・・・何か微妙にキモいです、それ。さようなら才人。貴方は良い友人でしたが、姫様の色気が悪いのですよ・・・完全にとばっちりですね~。たいむごーずばい。打撃音や何かがひしゃげる音が響きつつも、勲章の授与式は終わりを迎えようとしています。最後は私の番なのです。「さて、勲章の授与はこれで終わり・・・っと。」一番最後、私に勲章を付けてくれた後に、姫様はひと仕事終えた顔で額を拭いました。・・・まるで、血祭にあげられた才人を見ないようにしているかのように。「あがが・・・死ぬ、死ぬから、ホント死ぬから、俺でも!」「ひひひ姫様にデレデレするなんて、不敬、不敬だわ!」ルイズのハイパワーで何度殴られようがあっという間に人の形に戻る才人・・・見つめなくても良い現実が、そこにはあるのです。その晩、私と姫様は、ヴァリエール家の面々と才人が集まった部屋にやってきたのでした。なんで私が姫様と一緒かといえば、正式な王室付き女官がお忍び故に実は私とルイズしか居ないからであり、かつルイズは実家に帰還中なので、姫様の世話は私の役目という事になるからなのです。女王ともなると、使用人の身分にも格が必要になります。最低限、男爵以上の家格が必要になるのですよ。私だけでは心許無いので、モンモランシーも報酬で釣って手伝って貰っています。モンモランシ家なら家格は余りあるほど十分ですし、なにより彼女は伯爵令嬢です。ちなみに姫様がなぜ完全に一人かといいますと・・・なんでもヴァリエール家の所有する商船に一人で乗って、こっそりここまで来たのだとか。今頃マザリーニ枢機卿は胃を押さえているでしょうね。せっかく《太った鶏》にまでなったのに、《鶏の骨》に逆戻りしているのではないでしょうか?まあ、急激に太ると体に良くないですし、ダイエットだと思ってもう少し我慢してもらうとしましょう。「それでは、ケティより予めある程度までは聞いていた事だとは思うけれども、王家としても正式にルイズの秘密をヴァリエール家に明かす事にします。」椅子に座った姫様は、そう言ってラ・ヴァリエール公爵とカリン、そしてエレオノールとカトレアに視線を向けるのでした。「はい、陛下。妻よりある程度は聞かされております。故に覚悟は出来ております。」「うちのおちびの秘密って・・・お父様、一体何ですの?」ヴァリエール公爵とカリンはわかっているようですが、エレオノールには話していなかったらしく、彼女は首を傾げています。「ルイズの秘密・・・私も聞いておりませんわ。」カトレアにもやはり話していなかったようで、彼女も首を傾げているのです。ちなみにカトレアはふんわりと柔らかい表情を常に浮かべている、ふんわり系お姉ちゃんキャラなのです。あと非常にボンキュッボンとグラマラスな体型でして・・・ルイズが憧れる気持ちもわかりますが、こうなるのはたぶん無理じゃないのかな~・・・とか思ってしまいます。父親からの遺伝が多めに発現しているのでしょうね、これは。カリンはスラっとしてますし。スラっと。「おちび・・・ぷぷ~っ。」「フンッ!」「ぐはぁ・・・ッ!?」ルイズの肘打ちに、力無く崩れ落ちる才人。雉も鳴かずば撃たれまいに・・・何をやっているのですか、貴方は。「おちびとか、酷いですわエレ姉様・・・。」「おちびはおちびよ、おちびルイズ?」美人なのに性格が苛烈過ぎて彼氏の一人もまともに出来ない永遠の独身が、なんか言ってやがりますね~。え?私が怒ってる?私は笑顔ですよ、笑顔。「エレ、静かに。」「は、はい、お母様!」そんなエレオノールも、カリンの短くもドスの効いた一声でビシっと固まってしまったのでした。流石は伝説の英雄。私と話す時には少女のような仕草さえ見せてくれますが、〆る時はビシっと締めるのですね。「2人は初めて聞くのね・・・サイト、契約のルーンを2人に見せてあげて。」「うっす。」才人は姫様の言葉に頷くと、左手の甲に刻まれたガンダールヴのルーンをよく見える位置に持ってきたのでした。「エレオノール殿は、確かルーンが読めたわよね?」「あ、はい・・・《魔法を使う妖精(ガンダールヴ)》と書いてあるのがわかります。 って・・・が、ガンダールヴぅっ!?」エレオノールはそう叫んでガタッと立ち上がり、才人に歩み寄ると左手を掴んでルーンを凝視します。アカデミーでは虚無の系統に関する知識は基礎教養に入るらしく、ガンダールヴという文字を読めば、だいたい事情はわかってしまうのですよね。「ま、ままままま間違いないわ、が、ガガガガンダールヴって、ガンダールヴって書いてある!」非常に動揺というか、ほぼ錯乱の域に入った表情で、エレオノールは才人にキスでもするのではないのかといった勢いで詰め寄ります。「ルイズの使用人!このルーンは本物なの?貴方、使い魔なの?ガンダールヴなのっ!?」「え、ええ、そうです。」エレオノールの剣幕に気圧されるように、才人はコクコクと頷いています。「ああ成程・・・成程ね、陛下が仰っていた秘密というのは、つまりそういう事で。 ルイズがまともな魔法が使えなかったのも、つまりそういう事で・・・なんて事、なんて事なの。 アカデミーで確かに勉強はしたけれども、まさか、こんな。 我がラ・ヴァリエール家も確かに王家に連なる家だけれども、まさか王家直系ではなく当家から生まれるだなんて。 いいえ、当家だけで急にこのような事態が起きるとは考えにくいわ。 そうだわ、ド・マイヤールの家系を調べてみる必要があるわね。きっと王家のご落胤か何かか・・・。」「え、ええとエレ姉さま、どういう事なのかしら? アカデミーに行っていない私には、全くわかりませんわ。」少し困ったような表情を浮かべながらもカトレアはおっとりとした口調で、ぶつぶつ呟きながら考え始めたエレオノールに尋ねています。「あっ、御免なさい。衝撃があまりにも強くて思わず考えこんでしまったわ。 カトレア。貴方は体が弱いから・・・あまりびっくりしないで聞いていてね?」「は、はい、あまりびっくりしないようにいたしますわ・・・それで、ルイズに一体どのような秘密が?」カトレアの問いにエレオノールは頷き、そして姫様の方を向いて口を開いたのでした。「いと貴き陛下にあらせられましては、ご機嫌麗しゅう。 早速ですが、お伺い申し上げます。 此度の秘密の内容は、ルイズの系統に関する話で御座いますね?」「ええ、そうよ。」エレオノールの問いに、姫様はゆっくりと頷きます。「では続けてお伺い申し上げます。 その系統とは、伝説にのみ語り継がれる系統・・・つまり、虚無で有りますや否や?」「虚無!?」カトレアはそれを聞いて息を呑んでいます。流石のふんわり系お姉ちゃんでも、妹が虚無の系統だという事にショックは隠しきれませんか。まあそうですよね、気持ちはなんとなくわかります。なにせ目の前で庭の池からネッシーが出てくるような話ですし。「ええそうよ、エレオノール殿。 卿の予想の通り、ルイズの系統は虚無です。」姫様はルイズの姉2人に向けて、はっきりとそう言い切ったのでした。そして言葉を続けます。「つまり、トリステインの正統はルイズにあるという事になりますわ。」