裏切りは背徳の匂い私、すっかり不倫キャラが板についてきているような?裏切りは覚悟の証ワルド卿はいかなる覚悟を持って、国家を裏切る事にしたのでしょうか?裏切りは報復と粛清で応じよマフィアも国家も、裏切り者は生かしてはおかないのですよ「さ…才人?」おっかなびっくりと、才人に声をかけました。才人に後ろから抱きしめられたまま、ベッドに押し倒されてしまったのですよ…。「…な、泣いているのですか?」才人の体から、定期的に伝わってくる微かな震え、これは嗚咽…なのですか?「ヒゲ野郎が、言ったんだ。 明日ルイズと結婚するってさ。」「それで、あっさり引き下がったのですか?」才人の腕の力が強まりました。少し…苦しいのですよ、これは。「それが一番良いと思ったんだ。 だって、婚約者と結婚するのが一番だろ、あのヒゲは間抜けだけど本気出すと俺よりも強いしさ。」才人にまで間抜け扱い…ワルドには少し可哀想な事をしたかもしれないのですよ。「才人の言っている事は、この世界的にはおかしくないのですよ。 でも才人は生まれ変わった私と違って、この世界の住民ではなく異邦人なのですから、完全に馴染んでしまう必要は無いのですよ。 婚約者がいたって、ルイズが好きならそうすれば良いのだと思うのですよ?」「でも俺、言っちゃったんだ『俺よりもワルドの方が強いから、ワルドに守ってもらえ。俺じゃお前を守り切れない』ってさ。 そうしたらルイズが、『あんたなんかケティの所にでも行けば良いのよ』って、言ってさ。 …んで、確かに考えたらケティのとこしか行く所無くて、ドアの前で待ってた。」ギーシュはスルーなのですね…。才人の腕が私に更に絡まって、力も籠り…プチっという音がしてマントの留め具が外れてしまいました。ぴ…ピンチ度がさらに上がったような気がするのですよ。「でも、才人はルイズを守りたいのでしょう、本当は。」「ケティ、俺は伝説の使い魔『ガンダールヴ』なんだってさ。」ええと…何で才人が体を動かす度にマントがずり下がって行くのですか。脱がしの天才なのですか、才人は?「ガンダールヴだというのはとっくに知っているのですよ。」「知ってたのか?」マントが、バサッという音とともにベッドから落ちてしまいました。ブラウス越しにで男の子に抱きつかれるだなんて初めてなのですよ。顔が見えていないからいいものの、私の顔は間違いなく真っ赤なのです。「ルーンを読めばわかるのですよ。 神の左手ガンダールヴ、『魔法を操る小人』という意味のルーンなのです。 ルーンの意味の割には得意なのは武器だとされているのですよね、今の才人と一緒なのです。」「うん、確かに俺はどんな武器でも取り扱えるらしい。 でもさ、その基本となっている俺はやっぱり素人でさ、どうしようもないくらい素人でさ、本職の軍人であるワルドと戦ったらあっという間にやられちまった。 酔っぱらっていなかったら、あの晩の戦いだって、あいつは大活躍していた筈だよ。」まあ原作どおり、ある意味大活躍だったでしょうね。私が酔わせて計画の中枢を潰したから、酔っぱらいが階段を転げ落ちるだけになってしまったわけですが。「だから…俺よりも、あのヒゲ野郎があいつのそばにいた方が良いんだ。」「私は、そんな事は無いと思うのですよ、あの晩も言いましたが、強くなればいいのですし。」い…今、ブラウスのボタンがプチっとかいって3つくらい外れたのですが…そういえば、脱ぐ時に面倒臭いから、強く引っ張ったら外れるようにボタンを改造していたのでしたよね…。…ではなく、いくらなんでもブラウスが脱げたら、才人が正気を保ってくれるのか自信が無いのですよ!「俺さ、強くなる為に旅に出ようと思うんだ。 そして、強くなりながら、元の世界に戻る方法を探す。」「旅なのですか、何処に行くつもりなのですか?」あ…またプチッと…って、だから何でブラウスがずり落ちていくのですか!?「ロバ・アル・カリイエとかいう場所があるんだろ? 取り敢えず、そっち目指してみようと思うんだ。 ここには手掛かりが無いみたいだし。」「そ…そんなっ、事は…んっ、な、無いのですよ…あ、あの、才人?」せ、背中に息が、息が直にかかってくすぐったい…って、何で既に半分脱げているのですか!?「何?」「わ…わざと脱がしていませんか? あっ…く、くすぐったいのですよ、やっ…やめ…んっ…てっ!欲しいのです。」何で才人が動くたびに、抱きしめられているにも拘らずどんどんブラウスが脱げて行くのですかっ!?「ぅおわぁっ!?な、何でケティ脱いでんの?」「ひゃぁん!?い、息をかけないで欲しいのですっ! 貴方が脱がせたのですよっ! 服を直したいので離して下さいっ!」本当に気付いていなかったのですかっ!?「ごっ、ごめんっ!」才人は手をバッと離すと、バネ仕掛け人形のように勢いよく起き上がったのでした。「はあ…はあ、危うく無意識的に陵辱される所だったのですよ。」「うお、知らぬ間にケティがすげえ色っぽい格好になってる。」貴方のせいなのですよ才人、取り敢えず制裁を…。「ケティ、そっちにサイ…ト、え?」ノック無しでドアが開き、そこにはルイズが立っていたのでした。「何、してるの?」マントは外れてベッドの脇に落ち、ブラウスのボタンが外れて前が大きく開いている私と、その傍らに立つ才人。「い…いや、違うのですよ?」「違わないでしょ、ケティ。 違うなら、マント外さないでしょ?ブラウスのボタン外さないでしょ?」ルイズは表情を消したまま、淡々と状況を語ってくれました。確かにこの状況では、私と才人が情事に及ぼうとしているように見えるのですよ。しかも、誘っているのは私の方…なのですね。「ケティは凄いよね、ウェールズ殿下が亡命したらどうなるかというのを、一瞬で想定して教えてくれたもん。 確かに、殿下が亡命した場合、そうなる可能性は非常に高いと思うわ、私も。 だから…その頭で私を出し抜くのなんて、簡単だわよね? 二人とも、とても仲が良いから、怪しいかなとは思っていたのよ。 わたしがサイトにきつく当たって、ケティが慰めて、説得して、サイトはケティにどんどん依存するようになっていったわよね。 さっきの話でもわたしを説得するついでにわたしに執着しているワルドを焦らせて焚き付けて私と才人が居るときに面前で結婚しようだなんて言わせて、才人が諦めるように仕向けたんでしょ、ケティ?」「え…いや、それは全然別件なので…。」「嘘よっ!」ルイズの怒鳴り声に、私の反論は止められてしまったのでした。「サイトはあっさり諦めたもん、そしてケティの部屋に来たのよ。 これは諦めたサイトを慰める貴方っていう、最後の一手だったのかしら、ケティ? サイトはケティをわたしよりも信頼しているもの、尊敬しているもの、そんな相手が優しく甘く囁きかけてくれたら一発で落ちるわよね? 別にサイトじゃなくたって良いじゃない!何でサイトなのよ、何で私から、そんな巧妙な手で奪い取ろうとするのよ! 私がラ・ヴァリエール家だから、恨まれたくないって事なの!?」「違うのですよ、私は…私はただ二人がもっと仲良くなって欲しくて、ただその気持ちだけで頑張っていたのですよ!?」二人をフォローしようと動いていた事が、全部裏目に出たという事なのですか!?何でこんな事に…感情が昂ぶって涙が流れてきたのです。「嘘吐き、嘘吐き嘘吐き嘘吐き嘘吐きぃっ! ケティの言う事なんか信じない!信じられるわけがないわよっ! そのふしだらな姿が何よりの証拠でしょ! どんな言葉を百千万と並びたてようが、ケティはブラウスを脱ぎかけでそれをサイトに見せている、その姿はどうにもならないのよ!」「確かに私は見ての通りの扇情的な姿なのですが、これは不幸な偶然が引き起こした事故であって、決してルイズが考えているような事は…。」パチン!という乾いた音がして、私の左頬に鋭い痛みが走りました。「もう…言い訳は止めて、わたし何も聞きたくない。」「ルイズ…。」何故なのですか、言葉は通じるのに何故伝わらないのですか。「ルイズ違うんだ、ケティの言っている事は本当で、しかも原因は俺のドジで…とにかくケティはそんな事なんかしようとしていない、悪いのは俺なんだよ!」「ケティをずいぶん庇うのね、サイト。 そんなにケティが大事なの?ケティの為なら、悪者になる事も厭わないの?」 ええと…この時点でこんなにヤンデレていましたか、ルイズ?「そういう意味じゃねえだろ! 事実関係が全然違うんだって、わかってくれよ。」「錬金!」ルイズがいきなり私の近くにあった花瓶に錬金の魔法をかけました。「きゃぁっ!?」私は衝撃に吹き飛ばされて、壁に叩きつけられられたのでした。「ルイズ、ケティ!?」才人が慌てて私達に声をかけて来たのです。勿論、ルイズは軽く煤けただけで、傷一つ無いのですが。「いきなり何すんだよルイズ! ケティ、大丈夫か?」「くっ…私は大丈夫なのですよ、それよりもルイズを。」正直な話、目の前がグラグラ揺れているので、助けてもらえるのはありがたいのですが、そんな事よりも…。「だ、だって、ケティの方が大変だろ、今は。」「そ…そういう問題ではないのですよ。」ああもう、鈍い!これは私から言うわけにはにはいかないのですよっ!「ほら、私かケティかなら、ケティを取るじゃない、才人。」「当たり前だろ! ケティは怪我しているんだぞ!」そういう論理的な話ではないのですよ、才人。今のはルイズの観測気球で、女の子のプライドをかけた勝負でもあったのです。でもルイズ、才人はどちらが好きかなんて事よりも、どちらがより大変かを判断して行動するに決まっているではないですか。頭に血が上り過ぎですし、何よりそれでは完全に才人に恋する乙女なのですよ?「さよならサイト、あんたはケティと一緒にいればいいのよ。 私はワルドと結婚するわ。」「ま、待ってくだ…。」手を伸ばしたものの、それは届かずルイズは部屋を去って行ってしまいました。「何なんだよ、あれ。 わけわかんねえよ。」「わけわからなくても何でも良いから、早くルイズを追いかけるのです。」結構激しく体を打ったのですね、これは痣になるかもしれないのです。「いやだってケティ、動けるのか?」「今立ち上がるのは困難ですが、少し休めば大丈夫なのです。 ですから、早く追いかけるのですよ、手遅れにならないうちにっ!」正直そろそろ意識を失いそうなので、とっとと出て行ってもらわないと、才人がルイズを追いかけるチャンスを失ってしまうのです。「わ、わかった、行ってくる!」才人は部屋から走り去って行ったのでした。「何とか、ベッドに…くっ、至近距離であれはきついのですよ、ルイズ。」ですがベッドによじ登る事はかなわず、力尽きてベッドの下に倒れこんでしまったのでした。床が…冷たいのですよ…。そうして、ゆっくりと意識が暗転していったのでした。「う…ぐっ!?」鈍痛とともに目が覚めたのでした。私の傍らでは何故か才人が椅子に座って眠っているのです。…ルイズの説得に失敗したのですか。この部屋に戻ってきた時に倒れている私を発見し、ベッドに運んでくれたのですね。「夜が明けてしまっているのですね。 もう時間が無い…才人、起きるのです!」才人を揺り起こしたのでした。「んぁ…ケティ、胸が…こう、プルンと柔らか…。」「地獄に落ちるのです。」私は迷う事無くデルフリンガーを持ち上げて、才人の頭にぶつけたのでした。どういう夢に私を出演させているのですかっ!「んごっ!? なっ、何だ、いったい何が!?俺の桃源郷が一瞬で!?」「ぐっ…目は覚めたのですか、エロ使い魔?」デルフリンガー持ち上げたら、背中に激痛が走ったのですよ。「ケティ目が覚めたのか、良かった。 昨日はごめん…俺のせいで。」「いいえ、私をベッドに移してくれてありがとうございます、才人。 昨晩はあの後どうなったのですか?」まさか、あのような収集のつかない事態になるとは、想定外にも程があるのですよ。「ルイズの部屋を何回もノックしたけど、開けて貰えなかった。 待っていようかとも思ったんだけどさ・・・。」「それで、諦めたのですか?」これは…話が余計にややかしくなりそうなのですよ。「一旦ケティの部屋に戻って相談しようと思ったら、ケティがベッド脇で倒れていて目を覚まさないし、心配でそれどころじゃあ…。」「そういう時は私をベッドに運んだ後でもいいから、何度でもチャレンジしなければ駄目なのですよ。 …でも、心配してくれてありがとうございます。」はぁ…本当にお人好しなのですね、才人。好きな女の子を放って置いてでも倒れた私の傍に居るとは。「え?お、おう…別に大した事なんかしてねーよ。」「それはさておき、才人に聞いて欲しい事があるのです。 実は…。」才人にも今回の件の情報をそろそろ渡しても良い頃なのです。「ワルドが裏切り者だって、何で言わなかったんだよ!?」「言ったら才人は絶対顔に出ていたのですよ。 情報というものは、秘匿する人数が少なければ少ないほどいいのです。 キュルケ、タバサ、ギーシュ様にも詳しい情報は知らせずに配置について貰っているのですから。」 情報を知らせないのは、なるべく事態をコントロールし易くする為でもあったのですが…まさか、私と才人の仲がここまで疑われていたとは。「スクウェアクラスの風魔法には『偏在』という、分身を作り出す非常に使い勝手の良い魔法があるのです。 ラ・ロシェールの埠頭に酔っ払いが現れたでしょう? あれがワルドの偏在だったのですよ。」「あの酔っ払いが…、成る程、あの時ワルドも確かに泥酔していたな。 しかし、そんな方法で俺達を騙そうとしていたのかよ。」しっかり騙されていたくせに、『そんな方法』は無いのですよ、才人。「…汝は、始祖ブリミルの名に於いて、この者を敬い、愛し、そして夫とする事を誓うか?」礼拝堂に近づくと、浪々と結婚宣誓の文句を読み上げる王太子の声が聞こえてきました。「よっしゃ、間に合った! ル…もが、もが…。」ルイズを呼ぼうとした才人の口を手で塞ぎました。「静かにするのです。 ルイズがワルドに何かを尋ねようとしているのですよ。」そう、ルイズはワルドを夫とするかという問いに答えようとせずに、ワルドをじっと見つめているのです。「…ワルド、貴方が私に執着する理由は何?」「いきなりどうしたんだい、ルイズ?」花嫁衣裳に身を包んだルイズは、ワルドをじっと見つめているのです。「わたしが貴方に執着されるような要素が、どう考えても何処にも無いのよ。 魔法が使えなくて、痩せっぽちで、強情で、癇癪持ちで、暴力的で、どう考えても貴方に釣り合う女じゃないのよね。 狙いはラ・ヴァリエールの爵位と領地? でも、貴方が欲しいものが、そんなちっぽけなものには見えないのよ。 貴方の瞳の奥に垣間見えるもう一人の貴方は、もっと貪欲で、もっと多くのものを求めているわ。 教えて、貴方は私の何が欲しいの?」「な…何を言っているのだか、私は君を愛して…。」.ワルドが驚愕で固まりますが、ルイズはさらに言葉を続けます。「私を愛しているのなら、こんな戦場のど真ん中で結婚式を開こうとなどしないわ、ワルド。 貴方は私の何かを欲しがっていて、それを手に入れるために結婚しようとしている。 だから、ケティは貴方を焦らせて、本性を出すのを待っていたんだと思うわ。 生憎、ケティはそれだけじゃなくて、サイトも狙っていたみたいだけど。」…だから、それは大いなる勘違いなのですよ、ルイズ。「そういえば、ミス、ラ・ロッタは?」「サイトの前で服を脱ぎながら誘惑しようとしていたし、才人も犬みたいに盛っていたから、魔法でふっ飛ばしてやったわ。」大いなる誤解ですし、なにより才人はそこまで無節操ではないのですよ、確かにスケベなのですが。「そんな事はどうでも良いのよ! それよりも私の何が欲しいのか答えなさい、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド!」「…世界だ。」呟く様にワルドがそう言った途端、ワルドを取り巻く空気が変わったのでした。「世界だよルイズ、僕は世界が欲しいんだ。 世界は腐っている、だから僕のものにして、僕が正しく導くんだよ、ルイズ。」「ワルド、貴方頭がおかしいの? 私なんかを手に入れたって、世界は手に入ったりしないわ。」ルイズの声が、訝しげなものに変わったのでした。「いいや、君を手に入れる事が世界を手に入れることの第一歩なのさ、ルイズ。 君はガンダールヴを召喚した、それこそが君の才能の証明なのだからね。」「ワルド卿、君はいったい何を言っているのかね?」ワルド…いきなりマッド系にならなくても良いのですよ。断言しても良いですが、今のワルドを見たら子供が泣くのです、絶対に。王太子もワルドの豹変には顔を引き攣らせているのです。「ガンダールヴを召喚したのは、記録に残る限り後にも先にも始祖ブリミルのみ。 そしてルイズ、君は四系統魔法のいずれもを使えない。 では、それにどういう意味があるのかという事だが、僕が言わずとも自ずと結論へと繋がるだろう? 君は始祖ブリミルに劣らぬ、伝説級のメイジになれる素質があるという事だ。 それを持つ君を手に入れる事が出来たならば、僕は世界を手に入れる為の第一歩を踏み出せるんだよ!」「私の属性が虚無だと言いたいの? ありえないわ、コモンスペルの一つすらまともにこなせない私が、虚無? 寝言は寝てから言うものよ、ワルド。 私がサイトみたいな伝説級の使い魔を召喚できたのは単なる偶然よ、しかもまともに繋ぎ止めて置く事すら出来ずに、サイトは出て行ってしまったわ。 そして、私なんかよりも遥かに優秀なケティと…あのケティがっ! まさか権謀術数張り巡らして私の使い魔を奪うだなんてっ!」奪っていないのに、何でそんな事を言われなければいけないのですか。…なんだか、腹が立ってきたのですよ。「サイトは、あの優秀な使い魔は、私なんかよりも遥かに相応しい主に鞍替えしたのよ? こんな私が虚無だなんて、空でも落っこちてこない限り、絶対に有り得ない事だわ!」空が落ちてくる事は決定なのですね、短い人生だったのです。「…才人、才人、こーっそりとワルドの後ろに回ってください。 ワルドの虚を突いて切りかかって欲しいのです。 出来ますか?」「…おう、わかった、何とかやってみる。」話がヒートアップしている間に、仕込みを済ませるのですよ。ちなみに、キュルケとタバサとギーシュは、今頃アルビオン下部の崖の突き出した部分に潜んでいる筈なのです。正午丁度にヴェルダンデでここまで来てもらうという手筈になっているので、穴を抜けて一気に脱出するのですよ。「兎に角、私は世界なんて手に入れる気は無いし、虚無の属性でもないわよ。 そんなありもしない妄想で私と結婚していたがっていただなんて、幻滅したわワルド!」「妄想じゃない!君には稀有の才能があるんだ。 欲しいんだよ、君の才能と能力が!」そう言いながら、ワルドはルイズににじり寄って行きます。「僕はいつか君に言っただろう? 君はいつか、始祖ブリミルに劣らぬ優秀なメイジに成長できると! 君はまだその才能を自覚出来ていないだけなんだよ!」「ワルド…貴方疲れているのよ。」どこかで聞いたような台詞なのですね、ルイズ。「子爵、もういいだろう、もう止めたまえ。 君はフラれたのだから、ここは貴族らしく潔く…。」「やかましい、黙ってろ!」王太子がワルドを諌めようとしましたが、ワルドに一括されてしまったのでした。「ルイズ、なあルイズ、何度も言うが、僕には君の才能が必要なんだ! 頼むから、僕のものになってくれ!」「ワルド、ねえワルド、何度も言うけど、そんな才能は私には無いってさっきから断言しているでしょ! 私を一番分かっているのは私なの、いい加減夢見るのは止めて現実を見て!」ワルドがルイズの腕を掴もうとしますが、ルイズはそれを巧みに避けまくっているのです。…なにやら妙な攻防戦になりつつあるのですね。「君の事を誰よりも知っているのは僕だ! 君がまだ気付いていないその才能を僕が目覚めさせてあげるから、僕のものになってくれ!」「つまり私じゃなくて、私のありもしない才能が欲しかったのね、ワルド。 私を何も見ていないとは思っていたけれども、それがこんな馬鹿馬鹿しいにも程がある理由だったなんてね。 そんなものは無いし、未来永劫私が目覚める事も無い代物だわ。」ちなみに、ワルドはルイズをさっぱり掴む事が出来ないでいるのです。風が柳の葉を捉える事が出来ないように、ワルドの手はルイズの腕を肩を掴もうとしては、寸前で見切られ空を切っているのです。流石は肉体言語で語るメイジなのです。格闘家もびっくりな、見事な身のこなしなのですよ、ルイズ。「君には才能がある、それをぼ…ぐはぁ!」「誰が喧しいだと、どの口が黙っていろだと、この不敬者!」王太子がワルドに思いきり蹴りを入れたのでした。いい感じに入ったのか、ワルドがくず折れたのですよ。「ウインドボム!」「ぐぁっ!」ワルドの放ったウインドボムが、王太子を吹き飛ばしました。「僕がここまで言っても駄目なのかい、君には通じないのかい、ルイズ?」「当たり前でしょ、貴方の誇大妄想になんて付き合っていられないのよワルド。 そんな理由で結婚するだなんて、金輪際御免だわ!」ワルドの嘘臭い笑顔に、ルイズがしかめっ面で返したのでした。「この旅で…うごぁ!?」「駄目で冴えないフラれ虫の分際で、アルビオン王太子である私を吹き飛ばすとは何事か!」今度は王太子の放ったウインドボムがワルドを吹き飛ばしたのでした。…なんという空気読めない攻防、二人とも風メイジなのに。「誰が駄目で冴えないフラれ虫だ! ウインド・カッター!」「風の障壁よ! おのれ、この私に刃を向けたな!?」ワルドの放ったウインド・カッターを、王太子が風の障壁で防いだのでした。そろそろ…出番なのですね。「…仕方が無い、この旅の目的の一つは諦めるとしよう。」「目的…?」ルイズが訝しげにワルドに問い返します。「ああ、今回の旅に於ける僕の目的は三つあった。 一つは、君を手に入れる事。」「下手糞な勧誘だったわ。」まあ、私がワルドの見せ場を全部潰したのですけれどもね。おかげでワルドが倒したのは才人だけという、単なる迷惑キャラになっているのです。「ぐっ…も、もう一つはルイズ、君が持っているアンリエッタの手紙だ。」「姫様を呼び捨てに…まさか。」…さて、出番なのですね。「三つ目は…うおっ!?」「有象無象の区別無く、私の魔法は許しはしないのです。」私が放ったファイヤーボールが、ワルドの杖の魔力光を消し飛ばしたのでした。「道化如きに殿下をやらせはしないのですよ、ワルド?」有視界誘導で飛んでいくファイヤーボール…狙撃できるのは良いのですが、普通のファイヤーボールを連射した時並みに精神力を使うのです。今回は仕方が無く使いましたが、燃費が悪過ぎなのですよ、これ。「貴様は、ミス・ロッタ!? 道化とはどういう事だ!」「レコン・キスタの黒幕も知らずに踊る馬鹿は、道化呼ばわりがまさにうってつけなのですよ。 アンドバリの魔力は虚無では無いのです。」出番を計っていたとはいえ、何とかタイミングを合わせられたのですよ。「殿下、こやつが動いたという事は、叛徒ども動き始めるという事なのです。 トリステインの不始末はトリステインがつけるのが本分。 殿下は我々に構わず、行って下さいませ!」「わかった!ミスロッタ、ここまでの協力重ね重ね感謝する!」そういって、王太子は走り去っていったのでした。「三つ目の目的は…何でしたか?」「ぐっ…僕の作戦を尽く妨害していたのは、やはり君か。」ワルドが私を殺意の籠もった視線で睨みつけてきました。…正直な話、表情を冷静に保っていられるだけでも奇跡なのですよ。「私?いえいえ、このような小娘一人が全てを見通すなど不可能なのですよ。 我々、なのです。」「我々だと?」乗ってくれてありがとう、なのですよ。「《オレンジ》とでも覚えておいて欲しいのです。 我々はどこにでもいて、全てを見ているのですよ。」《オレンジ》という名前の通り勿論全部ハッタリなのですが、この時点で殆ど知りえない情報を流した上で私をほんの手先だと表明してあげれば、敵の目はそれを探す事に向く筈なのです。なにせ、私はたった15歳の小娘なのですから、黒幕がいるほうがむしろ普通なのですよね。「ウインド・ブレイク!」「きゃあああぁぁっ!」ワルドの魔法がルイズを吹き飛ばしたのでした。いきなりだったせいなのでしょうか、ルイズが気絶してしまったのです。「…では、話を聞かせてもらおうか、ミス・ロッタ?」「な…あぅっ!?」いきなり後ろから声がしたと同時に、強い衝撃で吹き飛ばされたのでした。「風は偏在するのだよ、ミス・ロッタ? 君も潜んでいたかもしれないが、私も偏在を一体、予め潜ませておいたのだ。」「くっ…意識を逸らした隙に。」やはり、戦闘にはいまいち向かないのですよ、私は。「散々道化として踊らせた男の前で、這い蹲る気分はどうかね?」私を見下ろしながら、ワルドの偏在がせせら笑います。ぐっ…ムカつくのです。「レディを這い蹲らせて悦に入る変態を見る気分は、這い蹲りながらだろうが立ちながらだろうが大して変わらないものなのですよ。」「何だと!この口の減らない小娘がぁっ!」「ぐっ!?」ワルドに思いきり腹を蹴飛ばされました。「かはっ…っぐっ!」「恐怖と衝撃は人を正直にする。 答えて貰おうか、レコン・キスタの黒幕とはとは何者だ?」女の子の腹を思いきり蹴るとは、紳士の風上にも置けないのですよ。「そ…それを知った所でどうするというのですか? 道化という結果は変わりはしないというのに。」「…まだ足りぬか、ではこれでどうだ?」ワルドの杖が魔力の光を纏い…私の右肩を突き刺したのでした。「あああああああぁぁぁぁぁぁっ!」「答えろ、レコン・キスタの黒幕とは?」このままでは殺される…さ、才人は何処に?いくら一度死んだからといって、もう一度死ぬのは嫌なのです。才人、早く来てください、才人、才人、才人、才人…。「才人おおおぉぉぉぉっ!」「離れやがれ、この下種野郎!」「ヒャッハー!人だ、人が斬れるぜうひひひひひ!」「な…!?」袈裟斬りにワルドの偏在が切り捨てられ、元の風に戻ったのでした。…それよりもデルフリンガー、貴方がおっかな過ぎるのですよ。「くっ…お、遅いのですよ。」「御免、ルイズをワルドの見えない所に移していたら、遅れちまった。」ワルドの注意を逸らすのには成功していたのですね、良かった。しかし…右肩が痛い上に全く動かないのです。骨までやられているのですね、これは。「話は全部聞いたぜ。 ルイズはあんたを訝しがってはいたが、別に嫌っちゃいなかった! 子供の頃慰めてくれた、優しい人だったからって…それをあんたは!」「おおっ!心が震えてるな!もっと心を振るわせろ、そうすりゃ相棒はもっともっと強くなる! そして、目の前のヒゲを切らせてくれ!」才人は物凄い速さでワルドに切りかかって行ったのでした。そして黙れ妖刀、なのです。「月日と数奇な運命の巡り合わせが、私を変えた! 既に時は過ぎ行き、今更私は元には戻れないのだ!」「あのまま放っておけば、殿下とルイズの二人とも殺す気だっただろあんた! なんで子供の頃から知っている女の子をいとも簡単に殺そうと出来るんだ!?」才人の剣がワルドに受け流されているのです。ここは才人がワルドを圧倒できる筈…まさか、まだ心の震えが足りない!?死ぬかもしれませんが…ここで全員死ぬよりはましだと考えるしかないのですか。私が死んだって、物語は本来の道筋に戻るだけなのですよ。だからこそ、過度な干渉は謹んで来たのですから!「ファイヤーボール!」「くっ…死に損ないが小賢しい! ウインドカッター!」ワルドの風の障壁に私のファイヤーボールは弾かれ、逆にワルドの放ったウインドカッターが、私を切り裂いたのでした。「きゃああああぁぁぁぁぁぁっ!」「ケティ!?」「む、娘っ子!?」服が切り裂かれ、血が飛び散ったのでした。これは、いくらなんでも死ぬかもしれないのですよ…。「才人、後はおねが…い…。」めのまえが…くら……。《才人視点》ケティが赤い飛沫を飛び散らせながら、崩れ落ちるように倒れていった。「ケティが…嘘だろ、おい。」「…聞きそびれたか。 まあ良い、調べればどうとでもなる。」そう呟くワルドの声が遠い、俺の足元が急に落とし穴に変わったような感覚。ケティが…ケティが…なんで。俺の事を助けてくれようとしたのか?俺が押されているから、不甲斐ないから…っ!「貴様らの頭脳だったあの小娘が倒れては、もはや何も出来まい? 一緒にあの世に送ってやるから、感謝するんだな!」「喧しいっ!」ワルドの動きが酷く鈍く見えるけど、そんな事はどうでもいい。緩慢に動くあいつの杖を軽く払い飛ばしてやって、俺はケティの元に駆けつけた。「ケティ、ケティ!?」ケティを軽く揺すってみたけど、意識が戻らない。肩から腰に掛けて正面から斜めにざっくりと斬られている。浅く呼吸はしているけど、この出血が続いたらヤバい!?早く水メイジか誰かに見せないと!「私を無視するなああぁぁぁっ!」「喧しいわ髭帽子!」ワルドがまた突っ込んできたので、軽く払い飛ばしてやった。「ぐぁっ!?な…何故いきなりそんなに…?」「知るか、てめえが遅くなっただけだろ!?」わけがわからないけど、何だか強くなったからOK!「おめえはガンダールヴだ! ガンダールヴの力の源は心の震え、怒り、悲しみ、喜び…何でもいいから心を震わせる事が出来ればおめえはどんどん強くなる!」「何だかわからんけど、要するに怒ればいいんだな!」ワルドに追撃を掛けようとしたが…居ない?「これが君の本気だったとはな…見誤っていたよ。 ミス・ロッタに言い含められていたのかな、本気を出すなと。 まあ、もはやどうでもいい事ではあるな、彼女はもうすぐ死ぬ。 さて…私も本気を出すとしよう。 風の魔法は最強だ、それが何故か見せてやろう。」何時の間に移動していたのか、倒れたケティの近くにワルドは立っていた。「ユビキタス・デル・ウインデ…。」ワルドが呪文を唱えると、いきなりワルドが4人に増えた。「さっきケティをやった奴か!?」「左様、先程のはやられてしまったが、私と偏在合わせて四人。 どちらが勝つか、さあ試そうか!」そう言って、ワルド×4が切りかかってきた。「何だよ、このチート魔法は!」一気に4人になるとか無茶苦茶だぞ!「おいデルフ!伝説の剣なら、何か技は無いのか、技は!?」「魔法を吸い込めるだろ?」「そんだけかよ!つかえねー!」魔法なら、斬れば吸い込めるかもしれないけど、この数に一気に切りかかってこられたら防ぎきれなくなるっての!?「使えねーとか言うなぁ!」「実際使えねーだろ、この状況じゃあ!」このままじゃあジリ貧だ。時間が経てば経つほど、ケティを助ける時間が無くなる。「ファイヤーボール!」「ぐぁっ!?」いきなり、ワルド(偏在)が、爆発四散した。これはケティじゃなくて…。「ルイズ、目を覚ましたのか!?」「やったっ!命中したわ!」さっきのケティの光景が蘇る。今のワルドは…やばい!?「逃げろルイズ!」「え?」「ウインドカッター!」ワルドが放ったウインドカッターを、ルイズは柱の陰に隠れる事で避けたが、余波で吹き飛ばされて倒れた。「てめえ、ルイズまでええぇぇぇぇぇっ!?」先程の光景が蘇る。ルイズまで血を流して倒れるなんて、そんなのは絶対に許せねえ!目の前が怒りで真っ赤に染まる!考えられるのは…あいつを倒す事!「更に速度が上がっただと!?」「るぅああああああぁぁぁっ!」ワルドがもっと遅くなって見える。「くっ!どうして死地に帰ってきた!? お前の事を平民と蔑む貴族の娘を助けに来たとでも言うのか!」「婚約者を殺そうとするヒゲ野郎に答えることじゃねーよ! そんな事よりも、てめえをブッ倒してさっさとケティを助け無いといけねーんだよ!」このままだと、ケティが死んじまう!助けられっ放しなのに、まだ何も返していないのにっ!「二人の女の間でふらふらふらふらとっ! どのみち貴族と平民では恋愛など成立しない事が理解できぬようではなっ!」「別にふらふらなんかしてねえよっ! ルイズといるとドキドキするし、ケティといるとすっげえ落ち着くってだけだっ!」押し倒しておいてなんだが、これが恋なのかはわかんねーよ、特にケティの場合。「ルイズもケティも俺が守る、それだけだっ!」「よーしいいぞ相棒!もっと心を振るわせやがれっ! そしてもっと俺にあのヒゲを 車斤 ら せ て く れ !」黙れ妖刀。「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」「なっ!?」偏在を切り捨てると、デルフに吸い込まれて消えた。ルイズが一体爆破したので、後2体!「私が平民に手も足も出んだと、ありえん!」「実際に負けてりゃ世話ねえんだよ!ヒゲ野郎!」一気に切り捨ててやる!「は、飛んだな?空は風の領域だ、愚か者めが!」「馬鹿はてめえだあああぁぁぁぁぁぁぁっ!」「うっひょおおおおぉぉぉぉ、斬りほうだぁぁぁぁい!」一閃…手ごたえはあったが?後、こええよデルフ。「くっ…まさか、この《閃光》が、遅れを取るとはな。」ワルドの左手が、落っこちていた。俺が…斬ったんだな。「《線香》の間違いじゃね? さあ、年貢の納め時だぜヒゲ野郎。」急に全身から力が抜け始めたけど、ハッタリかまさなけりゃあ殺されるな…。「まさか、何一つ目的を果たせなんだとはな…。 まあ良い、貴様らはここで死ぬのだから、大勢は変わらんだろう。」そう言うと、ワルドは浮き上がった。逃げるつもりらしいが、正直な話立っているのもきつい状況ではどうにもならねえな。「主人ともども灰になるが良い、ガンダールヴ!」そう捨て台詞を残して、ワルドは割れた天窓から逃げていった…。「な…何とかやり過ごせたか。」正直な話、あそこで反撃されたら命が無かった。何とか助かったけど…。「ケティ!?ケティ!?なんでこんな事に!?」ルイズの悲鳴が聞こえてくる。「ルイズ、ケティは?」「な…何とか生きているけど、どうしてこんな事に?」ルイズは顔面蒼白の涙目で、動かないケティを見つめている。「ケティはルイズ、お前の事を見捨てなかった。 俺達の事をずーっと心配していてくれたんだよ。」「ぐすっ…私、魔法であんな目に遭わせたのに…。」ああそういえば…ケティって基本的にあまり怒らないよな、確かに。急に、ルイズが魔法を唱え始めた。「何する気だよ?」「《治癒》で、傷を塞ぐの!」「言っちゃ何だが、爆死するだろ、それ。」とどめ刺してどうすんだよ。…と、その時、爆発音がして、埃が降ってきた。「きゃっ、な、何…?」「敵の砲撃が始まった…って事は、救援が来る!」さっきケティから聞いた話では、正午になると同時にギーシュがここに来る手筈になっていた。丁度、礼拝堂の地面がボコッと盛り上がって、目の前にギーシュとモグラが出てきたのだった。「助けに来たぞ、ケティ…って、死んでる!?」「縁起でも無い事言うな馬鹿野郎!」取り敢えず5発ほど殴った。「す…すみましぇん。」「ギーシュ、早いわよ…って、ケティ!?」穴から出てきたキュルケが、悲鳴みたいな声を上げた。「治療する、どいて。」「ちょ、タバサ!?」ルイズを押しのけて、タバサがケティに治癒を掛け始めた。傷が見る見る塞がっていく、これで何とかなる…か?《ケティ視点》「ん…ここは?」ここは…空?「なんともまあ、安易な天国なのですね。」「ケティ、目が覚めたの!?」目の前に、煤けて涙目のルイズがいました。いやしかし、全身が非常にだるいのです。ちょっと動きそうにありません。ああ…私はワルドのウインドカッターで斬られたのでしたね。「おはようございます、ルイズ。 ここは何処なのですか? 生憎体がだるくて動かしづらいので、教えて欲しいのです。」「ここはシルフィードの背中よ、貴方は今まで気絶していたの。 血を沢山失っているみたいだから、動かない方が良いわ。」動きたくても動けないのですよ。「ごめんなさい、ケティ。 サイトから一部始終話は聞いたわ。 制裁はきっちりしておいたから。」「ご…ごめんなしゃい、もうしましぇん…。」おお、何かの残骸かと思えば、よく見たら才人だったのですよ。「後、ケティの調子が戻ったらもう一度謝るから、その時に私も同じ目に遭わせて。」「…火魔法で吹き飛ばしたら、まず間違いなく全身火傷するのですが?」水や風なら兎に角、私が使えるのは『火』なのですよ。「う…覚悟するわ。 だ…大丈夫よルイズ、覚悟があれば何でもできるわ、できるのよ。」ルイズ、目が虚ろなのですよ。「殿下は…殿下はどうなさいましたか?」「俺が港に行った時、出航寸前でこれを渡された。」そう言ったサイトの手にあるのは、風のルビー…なのですね。「イーグル号はレキシントンに突き刺さって、大爆発したよ。 レキシントンは真っ二つになって沈んだし、周囲にいた船も飛び散ったナパームが引火して、何隻かが燃えながら落ちていった。 あれ、ケティの作戦だったんだって?」「ええ、そう…なのですか、殿下は本懐を遂げられたのですね。」「ああ、誰にも文句を言え無い、見事な最期だったよ。」安心したのです…また、眠くなってきたのですよ。「では、もう一度眠るのです。 暫く起きないと思うので、着いたら起こして欲しいのですよ。」そう言って、私はゆっくりと目を閉じたのでした。こんなに怪我だらけになって、姉さま達にどう言い訳しましょうか…気が重いのですよ。