冒険は人の心をときめかせるものせっかくのファンタジー世界なのですから、ダンジョンの一つも潜って見るのが人情というものなのです冒険は男女を問わない夢とロマンハルケギニアにも結構いるのですよ、典型的なモンスター達が冒険といえば宝物見つかりますかね?見つかると…良いのですねえ…「ええとルイズ、それはいったい何を編んでいるのですか?」「せ…セーター?」何故自分が編んでいるものに疑問符がつくのですか。「どんなものを作っ…ええと、ヒトデ?」それは、セーターと呼ぶには、あまりにも変過ぎるのです。首を出す穴が無く、腕を出す穴も無く、体を入れる穴すら無く、そして編み方が大雑把過ぎなのです。それはまさにヒトデの縫いぐるみだったのですよ、しかも奇形の。「セーターよっ! 火メイジってのは同じ評価しか出来ないの? キュルケも同じ事言ってたし。」いやでもそれは、どう贔屓目に見てもヒトデの縫いぐるみくらいにしか見えないのですよ。遠慮無く言えば、毛糸の残骸なのです。「わたし、編み物が趣味なのよ。」「そ、そうなのですか…。」へ…返事に困るのですよ、それは。「なのにどうしてだか、さっぱり上達しないのよね。」それは一目瞭然でわかるのですよ。「ケティは…編み物出来る?」上目遣いでルイズは私を見上げるのでした。ううっ、すんごい可愛いのですよっ!ぎゅーってしたいのです、ぎゅーって!「いいえ、私は編み物はできないのです。 多少の繕いものくらいであれば出来るのですが。」「そう…なんだ。」ルイズがほうっと溜め息を吐いたのです。「あ…もしかして、誰かに教わりたいのですか? 編み物でしたら、エトワール姉さまが得意なのですよ。」「え?ううん、そういう事じゃなかったんだけどね。」慌てたようにルイズが胸の前で手を横に振っているのです。「でも確かに、このまま上手くいかないようなら、教わりに行くのも良いわね。」「エトワール姉さまはああ見えて結構厳しいので、きちんと教えてくれる筈なのですよ。」ええ、思わず記憶を無くすくらい、厳しく恐ろしく教えてくれるのですよ。記憶は無いのに、やり方はきっちり体が覚えているという、素敵な学習方法なのです。ちなみに私は断固お断りなのですよ。「…あ、毛糸がきれちゃった。 この色部屋に残っていたかしら?」そう言って、ルイズはベンチから立ち上がったのでした。えーと…私の記憶に何か引っ掛かりが…何か…何かが…あったような…?部屋に戻れば子供の頃書いておいたゼロ魔のあらすじメモが残っているのですが、そんな暇は無いのですね。考えている間にも、ルイズがすたすた歩いていってしまうのですよ。「あ、待って下さいルイズ、私も毛糸が見たいのです。」「へ?うん、別にいいけど、毛糸なんか見てどうするの?」わ…我ながら、理由が意味不明なのですよ。「え?いや、ひょっとすると毛糸が悪いのかな…と、思ったのですよ。」「でも、ケティも編み物出来ないんでしょ? 毛糸なんか見てわかるの?」我ながら苦しいこと極まりない理由だとは思うのですよ。正直な話、何言っているのだか、さっぱりわからないのです。「とっ、兎に角、見てみない事にはわからないのですよ?」「それもそうね。」そうは言うものの、頷いたルイズの顔は納得いかないような表情なのでした。私もわけがわからないのですよ…でも、何かがこの後起こるような記憶があるのです。「…思い出せないのが、もどかしいのですよ。」「え?何か言った?」思わず出た独り言に、ルイズが振り返ったのでした。「ルイズの力になれないかもしれない自分が、もどかしいと言ったのですよ。」「え?うん、ありがとう…。」照れるルイズの表情が超ラブリーなのです。ですから、騙してしまったのが後ろめたいのですよ。ルイズの部屋のドアを開くと、シエスタが才人の上に跨っていたのでした。「へ…?」こ…これは刺激的なのですよ。またですか、私の次はシエスタなのですか。たぶん何かのラッキースケベイベントのせいだとは思うのですが、半脱ぎのシエスタがルイズのベッドの上に横たわる才人の上で四つん這いになっているのです。うわ…ブラウスもブラも殆ど脱げかけなのですよ。何で意識せずに女の子の服をここまで脱がす事が出来るのですか、才人?「あああああんた達…。」「きゃ、申し訳ありませんっ!」声に気付いてそちらを見ると、ルイズが攻撃態勢の猫の如く身を屈ませたのを私の目が捉えたのでした。何らかの危険を察知したのか、シエスタは素早く起き上がって、ベッドから飛び降りたのです。「なにを…。」「失礼しましたっ!」ルイズの体が才人に向けて矢のように放たれたのです。それと入れ替わりにシエスタがドアから出て行ったのでした。「しているのよっ!」「ちょ、ま!これはごか…げふぅっ!?」ルイズの全体重を集中させた掌底が、起き上がった才人の腹に突き刺さったのでした。相変わらず、どこかで修行したのかと思うくらい、芸術的な身のこなしなのですよ。「ぐぁっ!?」才人はベッドから吹き飛ばされて、壁に叩きつけられたのでした。「で!?」「うぐ…。」ルイズは床に転がり落ちた才人に近づくと、頭を踏みつけたのです。「何をしていたの、あんた?」「むぐ…ち、違うんだ、これは色々な不幸が積み重な…むぎゅぐ!」言葉を続けようとしたサイトの顔を、ルイズが踏み躙ったのでした。「言い訳はいいのよ、あんたあのメイドと、私のベッドで何をしていたのかって聞いているの。」「いやシエスタがご飯を持ってきてく…むぐぁっ!?」ルイズが才人の顔を更に踏み躙ったのです。こ、これは流石に可哀想なのですよ…ルイズが怒る理由もわかるのですが、それでもこれは。「ル、ルイズ、そのくらいにしてあげて欲しいのです。 サイトの話を聞いて…。」「ケティ、これは私とサイトの問題なの、黙ってて!」こ…これは、完全に頭に血が上ってしまっているのですよ。「サイト、あんたは私のベッドであんな事をしていた、そうよね?」「だから、それにはりゆ…ぐみゅっ!?」「やめるのですっ!」私はルイズの体に抱きついて、サイトから引き剥がしたのでした。「ケティ放して、ケティ! こいつは使い魔のくせに、主人である私のベッドであんな事してたのよっ! あなただって、自分のベッドであんな事されたら許せないでしょ、だから放しなさいっ!」「放さないのですっ!怒りはごもっともなのですが、やり過ぎなのですっ!」私だって、好きな人が他の女と自分のベッドでイチャイチャしていたら頭に血が上るでしょうが、だからこそこの場で唯一冷静な私が止めないと!「兎に角話を聞いてくれよルイズ、あれは誤解なんだって!」「誤解でベッドの上であんな体勢になるわけが無いでしょ!」ですよねー…ではなく!たぶん今のあれは偶然の産物なのですが、それを論理的に説明する方法を思いつかないのですよ。ラブコメ主人公体質なんて、どーやって説明しろと!?「いやでもあれは不可抗力で…。」「言い訳なんか聞きたくないわ、もういい、もううんざり! 出て行きなさい!」そう言って、ルイズは部屋の出入り口を指差したのでした。「話を聞けよ!」「言い訳なんか聞きたく無いって言っているでしょ、出てって!もう二度と姿を見せないで! 貴族の部屋を一体なんだと思っているのよ、あんたなんかクビよク・ビ!出てけええぇぇぇぇっ!」ルイズのその言葉を聞いた才人の表情が、酷く傷ついたものになったのですが、激昂したルイズは気付かないようなのです。「ルイズ、それは言い過ぎなのですよっ!」「…わかったよ、出て行けばいいんだろ。」才人は立ち上がると、出入り口に向かって歩き始めたのでした。「そうよ、わかっているじゃない。 とっとと出て行って、二度と顔も見たく無いわ。」「…同感だよ、ルイズ。 じゃあな!」バタン!と、大きな音がして、勢いよくドアが閉まったのでした。足音が、次第に遠ざかっていくのです…。「行っちゃった…。」ルイズがそう呟くとともに、ぐにゃりと全身から力が抜けたのでした。「わわ、ルイズ、しっかりしてください!」慌ててルイズの体を支えてベッドに横たえ、ふと床を見ると雫が垂れているのが見えたのでした。「酷い…酷いわ、こんなのって無い。」「でもルイズ、私の時の件もありますし、今回もあの時のような事が起きたのでは?」そう、私の時の事を引き合いに出せば良かったのですよね。冷静なつもりでしたが、やはり私もかなり焦っていたようなのです。「ケティ、常識的に考えて。 あんな偶然が二度も三度も起きはしないわ。」「いやでも、可能性が無いというわけでは…。」そういう偶然が二度三度と起きるラブコメ主人公体質なのですよ、才人は。何というか、奇跡を起こす男?「きっと今日だけじゃないのよ。 あの娘をこの部屋に連れ込んで、私のいない間にいつもいつもいっつも!あんな事をしていたんだわ! 私の知らない間に、このベッドでっ!」才人にそんな度胸があったら、間違いなくシエスタの前にルイズが餌食になっている筈なのですよ。「ケティ、ごめんなさい、一人にさせて…。」細かく体を震わせながら、ルイズはそう言ったのでした。「でも、こんな状態のルイズを一人ぼっちにするのは…。」「ありがとう、でも今は一人になりたいの、お願い。」冷却期間が何れにせよ必要…なのですね、これは。「…わかりました、また来るのです。」そう言って、私はルイズの部屋を後にしたのでした。…その後、部屋に帰って昔したためたあらすじメモを見てみると、下手糞な字で《才人がシエスタと抱き合っていてルイズに追い出される。どうやって関係修復したのか覚えていない》と書いてあったのです。「む…昔の私のバカーっ!全っ然参考にならないのですよーっ!」もっとちゃんと思い出しておけば良かったのですよっ!3日後、ルイズの部屋の前にキュルケがいたのでした。「どうしたのですか、キュルケ?」「ルイズが3日も部屋に籠もっているから、流石に心配になって見に来たのよ。 聞いたんだけど、ダーリンとメイドがルイズのベッドで抱き合っていたんですって、ダーリンもなかなかやるもんだわね、うんうん。」キュルケが大したもんだという風に、腕を組んでうんうんと頷いているのです。「…そこは、感心する所なのですか?」「男は度胸と甲斐性よ! 使い魔の身で、ご主人様のベッドでそんな事をする度胸に惚れ直したわ、本気で手を出しちゃおうかしら? あと特定の相手がいない限り、女を口説いてベッドに連れて行くのは男の甲斐性のうちよ。」ううむ…ゲルマニアの常識には、ついて行き難い壁があるような気がするのです…。「ルイズには私なりに発破かけておいたから、あと数日かければ確実に復活するわ。」「確実…なのですか?」自信たっぷりに言い放つキュルケに、思わず首を傾げてしまったのでした。「こう見えてもね、なんだかんだ言って付き合い長いのよ、私達。 フォン・ツェルプストーが挑発して、今まで元気にならなかったラ・ヴァリエールは居ないんだから。」「な…成る程、それは効き目がありそうなのですね。」それは元気になるというよりも、怒り狂っているのでは?というツッコミは止めておくのです。「ルイズのほうは対策うったから…後はダーリンなんだけど、見つからないのよね。 ケティは何処か知ってる?」「…まあ、知っているといえば知っているのです。」シエスタに聞いたら、ヴェストリの広場の五右衛門風呂の隣りにテントを張って生活しているそうなのです。ルイズに言われた言葉がかなりショックだったのか、酒に逃避しているようなのですよね。「これで場所はわかったわね、後は…。」「後は?」キュルケは才人を元気付けるのに、どんな秘策を使うのでしょうか?キュルケがやる気になっているのも珍しいので、やる気になっているうちに頑張ってもらうのです。「王都に買い物よっ!」「何でですかっ!?」何で買い物っ!?「良い考えがあるのよ。」「良い考え…なのですか?」「そうよ、急ぐからタバサの助けがいるわ。 タバサはいつも通り貴方の部屋よね?」もう既に、私の部屋のオブジェと認識されつつあるタバサなのです。朝起きると私の隣りで眠っていますし、着替えの服も下着も私の部屋の箪笥に入っていますし、最近は毎朝起きたらタバサの髪を梳くのが日課になっていますし…ええと、ひょっとして既に同居人というか、部屋の主の座をを乗っ取られた?まあ、それでも良いのですけれどもね。何というか自然と世話を焼きたくなるのですよ、タバサって…ハッ、これが王者の血なのでしょうか!?…ええ、わかっているのです。単に私が可愛い物好きなだけなのですよ、どうせ。「タバサ、私達王都に出かけるの、だから手伝って?」「ん。」ええと、私が行くのは、もう決定事項なのですか?「そろそろ。」数分後そう言って、タバサは私の部屋の窓を開けたのでした。「きゅいいいいぃぃぃ!」「来た。」シルフィードの鳴き声が聞こえたのです…は、早いのですね。「乗って。」「それじゃあ、お邪魔するわね。」「失礼するのです。」私たちは窓の下に飛んできていたシルフィードの背に飛び乗ったのでした。「王都。」「きゅいきゅいいぃぃ!」私達はシルフィードの背に乗って、凄まじい勢いで王都に向かう事になったのでした。今度、勲章の年金が出たら、肉の塊を奢ってあげるのですよ、シルフィード。三十分ほど経った後、王都トリスタニアに到着した私達は【虎の巣穴(ル・ルペル・デ・ティグレ)】と、書かれた看板が下がった書店の前に来たのでした。「…同人誌でも買うつもりなのですか?」「ドウジンシ?何それ? ここは知る人ぞ知る魔法書店よ。 魔法使い達が自費出版で書いた魔法書とかを売っているの。 変わったものとかも結構あって、タバサが良く来ているのよ。」「ん。」やはり同人誌屋ではありませんか…っと、思わず日本語が出てしまっていたようなのです。しかし、魔法の同人誌屋とは、トリステイン建国以来の王都トリスタニア恐るべしなのですね。「ここで何を探すのですか?」「宝の地図よ。 ここの古書コーナーにおいてあるのよ。」どういう古書コーナーなのですか、それは?店内は明るく整理されていながら、置いてある本の内容はカオスそのものなのです。何なのですか、【トライオキシンの作り方】って、脳味噌喰われても知らないのですよ。キュルケとタバサの後を着いて行き、古書コーナーに辿りついたのですが…。『特売品』と書かれたワゴンに、古地図と思しき巻き物が大量に陳列されて居るのです。「ねえケティ、この地図を見て、これをどう思う?」「すごく…胡散臭いのです。」同人誌屋で宝の地図…。しかもいったい何なのですか、『オ○ーナ』って?「キュルケ、まさかなのですが、良い考えとは…。」「宝を見つけて一攫千金。 ダーリンお金持ちになって、ルイズを見返すでござるの巻。」眩暈が…。「どうしたのケティ、急によろめいたりなんかして?」「よ…。」これは、なんと言えば良いのか…?「よ?」「よろめきもするのですよっ! 何なのですかそれは!?」クイクイとブラウスの袖を引っ張られたので振り返ると、タバサが居たのでした。「騒いじゃ駄目。」タバサにそう言われて見回すと、迷惑そうな視線が私に突き刺さっているのです。「タバサ、忠告してくださってありがとうございます。 …静かに、なのですね?」「ん。」タバサはこっくりと頷いたのでした。「しかしキュルケ、こんな本屋の古地図にまともな物があるのですか?」「どうせ当たる確率は低いんだから、どこで買っても同じよ、こういうのは。」 0.000…01%と0%では、数の上では微かながらも、実質的には物凄い違いがあると思うのですよ。あと、提案したくせに実はまるっきり探す気無いのですね、宝。たぶん、飲んだくれている才人を引っ張り出し、元気になって貰う為の口実なのでしょう。何歳になっても、男の子は冒険と聞けば心がときめくものなのです。前世の名残なのか、実は私も嫌いでは無かったりするのですよ、冒険。「近くに私が知っている魔法アイテム屋があるのですよ、後でそちらにも行きましょう。」実は前回来店した時、『龍の羽衣』に関する文献を確認した魔法アイテム屋なのです。「あ、そこも実は行く予定だったのよ。 流石にここだけじゃねえ?」「そう思うのなら、こういう所は始めから外しておいて欲しいのですよ。」ここにあるのは間違いなく全部、的中確率0の古地図なのです。「まさかまさかのまぐれ当たりっていうのも、あるかもしれないじゃない? それにここの古地図、すごい安いし。」「…キュルケ、古地図を安さで選ばないで欲しいのです。」キュルケのゲルマニア的な発想には、時々着いていけなくなる事もあるのですよね。「ゲルマニアって、不思議。」「私も同感なのですよ、タバサ。」不思議の国ゲルマニア、こんな変な人達の皇帝はもっときっととんでもなく酷い変人なのです。たぶん常に自爆装置を持ち歩いていて、常に踊ったり祈ったりしていて、初対面でいきなり『その通り、私がこのゲームのラスボスです。さあ、カモン!カモン!』とか言い出す人なのですよ。姫様はもしもレコン・キスタが停戦協定を破らなかったら、そんな人の所に嫁ぐのですね。…ああ、お可哀相に、姫様。「ほらほら、あなた達も選んでよ!」「…はぁ、行きますかタバサ。」「ん。気が進まないけど。」それから私達はワゴンに突き刺さった高くても数スゥ、安いのになると50ドニエなんていう、ゴミみたいな値段の古地図を買い漁る事になったのでした。「いやー買ったわね、何か気分がスカッとしたわ!」「結局、ワゴンごと買い取る事になったのですね…。」「その方が賢明。」あのワゴンにある殆どの古地図を買い占める勢いでしたから、ワゴンごと買い取った方が賢明なのは確かなのですね。…ひょっとして、この胡散臭い地図の示す場所全部を回るのでしょうか?「じゃあ、次はケティお勧めのお店に行きましょうか?」「別に、お勧めというわけではないのですが…。」たぶんきっと、もう少しまともな本や古地図が置いてある筈なのです。まともな魔法書にはあまり期待していませんが、古地図ならもう少しまともなものもある筈なのですよ。…と、思っていた時期が私にもあったのです。「こっちでもワゴンセールなのですか…。」またあるのですよ、『オプー○』。「…ああ、何年か前にこの国で宝探しがブームになった事があってね。 その時の在庫だよ、それ。」店主の人が、私の呟きに気付いて答えてくれたのでした。「そういえば、そんな事もあったような?」何年か前に我が家の領地に無謀にも侵入してこようとした何人かが、山の女王にかなり過激な方法で追い返されたという話は聞いた事があるのです。確かに我が家の領地は歴史だけは古いのですが、遺跡とかの話は聞いた事が無いのですが。我が家が遺跡といえば遺跡なのですけれども、きちんと改修もしていますし、大昔の部分なんて土台くらいしかないのですよ。いったい何を探しに来たのだか…。「1つ20ドニエで良いよ。」「や、安っ!?」さっきのお店よりも安いのですよ。「どうせ全部スカだからね。 そこに置いておいても邪魔なだけだから。」ぜ、全部スカって、言い切ってしまって良いのですかっ!?「気に入った!ワゴンごと買ったわ!」これ…全部シルフィードに乗るのでしょうか?「きゅいー…きゅいー…。」「頑張って。」数件を回った後、鈴なりになったワゴンをぶら下げて飛ぶシルフィードの姿があったのでした。いくつかの魔法グッズ屋でワゴンごと古地図を買い漁るキュルケの姿は、トリスタニアの都市伝説になるかもしれないのですよ。『怪奇、古地図を買い漁るゲルマニアの女』とか。ちなみに、『竜の羽衣』に関する文献も見つけたので、買って混ぜておいたのです。「きゅいー…。」紙束とはいえど大量にあるので流石に重いのか、シルフィードが辛そうになってきたのです。「あと数分で学院なのですから、頑張ってくださいシルフィード。 マルトーさんに、餌のお肉を暫くの間多めにして貰えるようにお願いしてあげますから。」「きゅい!きゅいきゅい!」元気になるのは良いのですが、それでは人の言葉を理解できるのがばれるのですよ、シルフィード。月が天高く上り、夜もすっかり深けた頃、何とかヴェストリの広場に降り立つ事に成功したのでした。「おんにゃはばからー!」「そうさ、女は莫迦なのだよ。 モンモランシーとはキスしただけだし、ケティは押し倒してその後の記憶は無いけど、何もしていない筈なんだ。 だって後頭部にでっかいこぶがあったし…って、何かね?」サイトのテントに入ると、酒瓶に埋もれたギーシュの胸倉を才人が掴んでいたのでした。「なんらと、けてぃになんてことをするのら! おれだって、まちがえてぐうぜんおしたおしてはんうぎにしたことしかないろに!」何の話をしているのですか、何の…。「ケティを押し倒して脱がしただって! このケダモノめ、その行為万死に値する、けっと…の前に、1つ聞きたい。 どうだったかね、彼女の…その、体は? あの歳のわりに出るとこは出て、引っ込んでいるところはひっこ…ひぃ!?」ギーシュはそこでようやく私がテントにやってきていたのに気づいたのでした。「ギーシュ様、才人…少し頭を冷やすといいのですよ?」「ええと…冷やすというよりもむしろ燃やされるような気がするのは気のせいか?」これから訪れる運命を認めたくないのか、才人は軽口で私を宥めようとしているのです。「ひ、冷やすなら、そこにいるタバサ嬢の方が適切なような気がするのだがね?」そう言って、私の後ろ隣に立つタバサを指差すギーシュなのでした。「屁理屈はこの際どうでも良いのですよ。 炎の矢!」『ぎにゃああああああぁぁぁぁぁっ!』物理的な衝撃を上げた炎の矢が、二人をしこたま打ち据えたのでした。「…酔いは醒めたのですね?」「はい…。」「申し訳ございませんでした。」少し焦げて煤けたギーシュとサイトが、土下座の体制で謝っているのです。「制裁は、これくらいにしておくのです。 本題に戻るのですよ。」「ダーリン、私達良いものを持ってきたの。」キュルケがそう言うと、タバサが風の魔法でテントのボロ布を吹き飛ばして、こんもりと山になっている古地図のスクロールをでーんと二人に見せたのです。…殆ど二束三文な値段だからといって、調子に乗って少々買い過ぎたかもしれないのですね。これに載っている場所に全部行ったら、学校に通えなくなって私達は素行不良で退学なのですよ。「…何これ?」「古地図なのです。」正確には古地図っぽく加工した地図だと思うのですが。「こんなもんを何に使うんだ?」「ダーリン…いいえサイト、あなたここでずーっと飲んだくれているつもり?」キュルケは急に真顔になると才人に尋ねたのでした。「え!?いや、流石にそんな気は無いけど…気持ちに踏ん切りがついたら、帰る方法を見付ける旅に出ようかなと思っていたし。」「帰る方法?」キュルケ達が不思議そうに首を傾げたのでした。「才人はロバ・アル・カリイエ出身らしいのですよ。」「そ、そう!俺はそのロバ何とかって所から召喚されて来たらしくて、帰り方がさっぱりわからないんだよ!」私のフォローで何とか取り繕う才人なのです…が、『ロバ何とか』って全く覚える気が無いのですね。「そういえば、聞いた事があるような気がするわねえ…うんうん、やっぱり丁度良かったわね。 そんなどこにあるのかさっぱりわからない場所を探すなら、道中の路銀が必要になるわ、違う?」「そりゃまあ、そうだな。」才人はコクリと頷いたのでした。「なるべく大金が必要になるわ。 もし、帰れなかった場合の資金も必要ですもの。」「確かに、そうだな。」珍しいくらいキュルケがまともな事を言っているのですよ。これは、明日は大雨なのですね。「もしも、もしもよ?帰れなかったら、貴方はどうするの?」「え?いや、どうしよう?」才人は困った表情になって私の方を見たのでした。「私に助けを求められても困るのですよ?」「う…困ったな、どうしよう?」だから、私に助けを求められても、フォローのしようが無いのですよ。「だったら、貴族になってみない? 貴族になればある程度生活に潤いも出来るから、腰をすえて故郷を探すならうってつけだと思うわ。」「なれんの? 俺メイジじゃないし、無理っぽいんだけど。」まあ、周りを見れば貴族は全部メイジですし、確かにこの国では無理なのですよ。「キュルケ、この国では平民は領地を持つことも公職につくことも許されていないぞ? そういう法の無いゲルマニアならとにか…ああ、そういう事かね?」「そういう事、この国で貴族になる事に拘る必要はないのよ。」キュルケに質問している最中にキュルケが言いたい事を理解したギーシュに、キュルケがうなずいているのです。「ゲルマニアは平民が貴族になる事は珍しいけど無いわけじゃないわ。 お金とコネさえあれば、ゲルマニアでは領地と爵位を買い取る事は別に難しくないもの。」「ゲルマニアは土地だけは捨てるほど余っているのですよね。 少しはトリステインにも分けて欲しいものなのです。」なにせ、あっちの世界で言う北東ヨーロッパ全土なのですよ、ゲルマニアの国土は。「そういう節操の無い事をするから、ゲルマニアは野蛮だって言われるんだよ、キュルケ?」「節操を保って衰退するのはただの馬鹿だわ、ギーシュ。 領地を運営するのにも、政治的な駆け引きをするのにも、別に魔法の才能は必要無いのに、拘るほうがおかしいのよ。 メイジが平民を治めるという伝統に拘り続けた結果が、始祖以来の王家を滅ぼしたアルビオンや、東方領土(オストラント)の独立とゲルマニアによる併合によって起きたトリステインの衰退じゃない。 衰退に栄光も名誉も無いのよ、衰退は失政と制度疲労の結果でしかないわ。」この点には私も大いに同感なのです。武官なら兎に角、文官や政治家が魔法を使えても意味は無いのですよ。…まあ、平民に比べて数が圧倒的に少ないメイジが平民に埋没しない為には、ある程度は必要な措置なのでしょう。「えーと…なにやら小難しい話になっているけど、結局どういう事なんだ?」話の内容についていけなくなって、ポカーンと突っ立っていた才人が助けを求めるような視線を向けながら、私に尋ねてきたのです。「まあ要するに、ゲルマニアで領地と爵位を買って貴族になりましょうということなのですよ。」「なるほど、何か政治っぽい話になったから、思わず頭が理解することを拒否ったわ。」才人くらいの年の日本人なら大体そうだとは思うので、特に何も言う事は無いのですよ。「でもさ、俺金なんか無いぜ? 見ての通り、引きこもりホームレス高校生だし。」引きこもりホームレスとは斬新なのですね、才人。「だから探すのですよ、お金になりそうなものを。」「そうそう、その為に宝の地図をありったけ買い込んできたんだから。」ルイズと才人を仲直りさせるためとはいえ、無茶苦茶にも程があるのですね、この計画。しかし回りくどいというか…半分以上趣味と思い付きなのですね、キュルケ?「お金持ちになって貴族になれば、好き放題よ? あたしにプロポーズするもよし、お金をたくさん儲けてケティを愛人にするもよし。 ゲルマニアの法と秩序に引っかかりでもしない限りは、どこまでも自由。」「わ、ちょ、ちょっと、キュルケ、何をするのですか?」そう言いながら、キュルケが私ごと才人にしな垂れかかっていくのです。色仕掛けなのはわかりますが、何で私が愛人なのですか?「私たちみたいな美女に囲まれてゲルマニアで贅沢三昧よ?」「キュルケと結婚して、ケティを愛人に…。」だから、何で私は愛人ポジションなのですか…?「キュルケ、この古地図どこで買ってきたのかね? ものすごく胡散臭いのばかりなんだが…『○プーナ』? 何だね、これは?」「んー?ワゴンセールで売っていたのをワゴンごと買い占めてきたのよ。」だから、胡散臭いに決まっているのですよね。「そんなので宝が見つかるわけが無いじゃないか!? これはあれだろ、何年か前に流行った宝探しブ…ムガ!?」「お・だ・ま・り!」「んなっ!?」そう言って、ギーシュの顔を自分の胸の谷間に挟み込んだのです。「な、何をするのですか、キュルケ!?」「んー?口止め。」そう言いながら、キュルケはギーシュを解き放ったのでした。「中にはきっと必ず本物がある…違う?」「う…、うん、きっとキュルケのいう通りだよ。 これだけあれば、きっと本物があるはずさっ!」その前に垂れてきた鼻血拭け変態、なのです。「炎の矢。」「うぁちぃっ!ケティいきなり何を、あちゃ、あちゃちゃちゃちゃ、タバサ嬢助けてくれたまえっ!」「氷の矢。」「ぎゃあ!冷たい、冷た過ぎるっ!火傷に染みるうううぅぅぅぅ!?」ギーシュが何時かのようにのた打ち回っていますが、それは放っておくとして。「ケティが愛人で…毎日膝枕して耳掃除してくれたりして…いいなあ、良い、実に良い!ディモールト良しッ!」何が才人の脳内で処理されたのかはよくわからないのですが、私が愛人で本決まりな様なのですよ。「よっしゃ乗ったぜその話! 貴族になってケティ愛人化計画! 素晴らしい、実に素晴らしィ!」「いつの間にかあたしが抜けてるっ!? でもまあいっかぁ!兎に角ノってきたし、楽しくなりそうだわ!」そろそろ才人もひとつ盛大に燃やしたほうが良いのでしょうか…?「駄目ですっ!そんなの駄目ですっ!絶対に絶対に駄目ですっ!!」そう言って、いきなり現れたシエスタが才人に抱きついたのでした。はぁ…何というか、カオス度が更に上がってきたような気がするのですよ…。