ラブコメ、それはこの世界を作った神が定めた世界の条理才人はガンダールヴ云々よりも、女の子とのエロハプニングに巻き込まれる能力のほうが脅威なのです。ラブコメに巻き込まれると災難何だかこう、この流れに逆らうのは間違いなのかもしれないような気もしてきたのです。ラブコメの王道はボーイミーツガールだからと言って、サブヒロイン化にはまだまだ抵抗するのですよ。「サイトさんがミス・ロッタとそんな爛れた関係になったら、私と結婚できないですよ! もしもサイトさんが貴族になっても、貴族様の愛人がいるんじゃ平民の私が嫁いだ時に滅茶苦茶肩身が狭くなるじゃないですかっ!」そう言って、シエスタが涙目でこちらを睨みつけるのです。だから、何で私が才人の愛人になる方向で事が決着しつつあるのですかっ!?「出来るなら私の村に来て一緒に葡萄畑を耕してと思いましたけど、サイトさんが領地を買うなら、そこで葡萄畑を作って二人のワイナリーにするのも良いですね! 銘柄はサイトシエスタ、二人の名前なんかつけちゃたりして! ああ私ったら大胆、言っちゃった、言っちゃった♪」そう言ってから、顔を赤らめてシエスタがくねりくねりと身悶え始めたのでした。残念ですが、今の才人は半分も聞いちゃいないと思うのですよ…。「ケティは断固、俺の愛人になるべきだと思います。 いつも俺の相談相手になってくれたり、困った時助けになってくれたり、身を挺しておとりになってくれたり、いつも俺が困った時に颯爽と現れ助けてくれて本当に感謝しているんだ。 だから、大金持ちになったらケティを愛人にして、贅沢三昧させてやりたいんだよ。 な、ケティもそう思うだろ?」論理が無茶苦茶なのですよ、才人。日ごろの感謝の気持ちに愛人って、お歳暮じゃあないのですよ…まあ、泥酔している人に論理を求めるのもどだい無茶な話ではあるのですが…そろそろ、キレても良いと思うのですよ、私は。「まあ今、とりあえず言える事は…なのですね。 もう一度、頭冷やすが良いのですよ、才人?」私が詠唱を始めると、サイトの周辺に無数の小さな火球が生成され始めたのでした。「へ?いや、ちょ、ま!」「バースト・ロンド!」「ふんぎゃああああぁぁぁぁぁっ!?」小さな火球が弾け、爆竹みたいな爆発が、才人の体の周辺で無数に発生したのです。某ドラまた魔道士娘が盗賊とかへの先制攻撃によく使った魔法の再現版なのですよ。「あががががが…。」「きゃーっ!サイトさんっ!?」ぶすぶすと煙を上げる才人に、シエスタがあわてて駆け寄っていったのでした。「しかし、宝…ねえ。 やはり見つかる気がしないのだが。」「…モンモランシ家は先代の干拓事業の大失敗が原因で現在は殆ど破産状態な上に、建国以来代々水精霊との交渉を行ってきた非常に大事な役目からも外されてしまったのですよね。」水のトリステインがまさかあのモンモランシ家を外すとはと、当時は大騒ぎになったらしいのです。「い…いきなり何かね?」「このままではミス・モンモランシは、どこかお金のあり余っている貴族の二男か三男を婿養子に迎えて結婚せざるを得ない状況に追い込まれつつあるのかもしれないという事を言ってみただけなのですよ。 でも、もしも宝が見つかれば、そして借金を返すか、かなり減らす事が出来たなら、それをギーシュ様が成し遂げる事が出来たとしたのなら。 あの名門中の名門であるド・モンモランシの当主になれるかも…なのですよ?」ド・モンモランシはハルケギニアきっての血筋の古さを誇る名門なのですよね。今でこそあんな感じですが、かつては水のスクウェアを何人も輩出していた血筋なのです。「まあ婿養子云々は兎に角として…ミス・モンモランシを助けてあげたいとは、思わないのですか?」「くっ…まさか、モンモランシーがそんな事になっているだなんてっ!?」ギーシュが頭を抱えてひざまづいたのです…いやまあ、実は事実に若干の誇張はあるのですよ?先代の散財っぷりを反面教師にしたのか、当代の当主は物凄く地味でコツコツした人であり、きちんと借金を返していっているので、生活こそ結構厳しいものの当面貸し手から無茶な返済を迫られる可能性は低い事とか。ついでに言うと、モンモランシーの父親はトリステインにおけるポーション製作者としてそこそこ有名な水のスクウェアであり、膨大な借金さえなければ今頃かなり裕福に暮らせているはずの収入はあるのだという事とか。「宝を手に入れれば、必ずやミス・モンモランシはギーシュ様を見直してくれるに違いないのです。 それに、義を見てせざるは勇無きなり…なのですよ?」「むむむ…よし、僕はやるぞ!僕の蝶が困っているのだ、僕がやらずに誰がやる!」やる気になってもらえて結構なのですよ。「諸君、行くぞ!」「ふわぁ…待って欲しいのです。」ギーシュが勇ましく声を上げるのと同時に、私の口から欠伸が出たのでした。「今日はもう遅いのですよ、もう寝ましょう。 出発は明日の午前中の授業が終わってからの方が良いのです。」今日は一日中キュルケに連れ回されたせいか、疲れて眠いのですよ。「えー?いいじゃない、今からでも。」「私達はアルビオンに行った時、やむを得ないとはいえ数日間学校を無断欠席しているのです。 もう一度やったら、今度は何かの制裁を課される可能性が高いのですよ。 ですから、出かける前に少し根回しをする必要があるのですよ、キュルケも少し手伝って欲しいのです。」眠いということ表明したら、急速に眠くなってきたのですよ…。「なるほど、わかったわ。 トイレ掃除とかさせられたら嫌だし、しょうがないわね。」「わかっていただけたようで、何よりなのです。 では皆様、おやすみなさい。」眠気で頭がぐらつくのですよ、私は眠気にはとことん弱いのですよね。翌朝目が覚めると、タバサの抱き枕にされていたのでした。何か苦しいと思ったら、タバサが私の上にしがみついて寝ていたのですよ。いくらタバサが小柄で華奢とはいっても、それなりの重さはあるのです。「むー…さすがに朝っぱらからお風呂は開いていないのですよね…。」昨日はあのままベッドに直行だったので、お風呂に入っていないのです。眠るタバサを何とか引き剥がしてベッドに寝かしつけてから、くんくんと自分の臭いを嗅いでみたりしてみます…流石に自分の臭いはわからないのですよね。…臭いとか思われたら、思わず自決できる年頃なのですよ、私は。取り敢えず何とかしなくてはいけないのですね。「濡れタオルで体でも拭きましょうか。」そうと決まれば早速行動なのです。桶を手に取りドアを開け、廊下を抜け階段を下りて、井戸がある場所まで歩いていくと、シエスタが居たのでした。「おはようございます、シエスタ。 マルトーさんの許可は取れましたか?」「おはようございます、ミス・ロッタ。 サイトさんの手伝いをすると言ったら、理由も聞かずに一発で許可が出ました!」あの人はキス魔なところを除けば、非常に豪快で良い人なのですよね。「ところでミス・ロッタは、こんな所に何の御用ですか?」「昨夜お風呂に入れなかったので、体を拭くための水を汲みに来たのですよ。」ついでに朝に水を一杯飲むと、頭もスキッと冴えるのです。「ああ、では水は私が汲ませていただきますわ。」シエスタはそう言うと私から桶を取り上げて、井戸から水を汲み始めたのでした。「シエスタ、私にも水を一杯いただけますか?」「あ、はい、どうぞ。」木のコップに水を注いでもらい…一気に飲み干すべし!「んぐんぐんぐんぐ…ぷはぁっ!」ああおいしい。この一杯から私の朝は始まるのですよね。「はい、水を汲みました。 部屋までお持ちしますか?」「いいえ、それには及ばないのですよ。 ではまた後で会いましょう。 午後ヴェストリの広場で待ち合わせの予定なのです。」部屋に戻り、パジャマを脱いでパンツ一丁になり、タオルを水に浸し、絞ってから体を拭き始めたのでした。ちなみにタバサはまだ眠っているのです…布団に抱きついた状態で。「ふぅ、体を拭くだけでも結構気持ち良…。」その時、いきなりバタンとドアが開いて、才人が入って来たのでした。「御免なさいっ!」才人はいきなり床にひれ伏して土下座を始めたのです。謝るなら、入ってくるな、なのです…が、才人はそのまま誤り始めたのでした。「昨晩言った事は酒の勢いでついというかなんというか…本当に御免っ!」なるほど、どうやら私がどういう状態であるのかには気づいていないようなのですね。取り敢えず着やすいので、もう一度パジャマを…。「…って、うぉわっ!? 何で裸っ!?」「馬鹿ーっ!」何で人が手を伸ばした一番無防備な時に、狙っていたかの如く顔を上げるのですかっ!?「炎の矢!」「あんぎゃーっ!?」記憶していませんが、おそらく数百本の炎の矢が才人に殺到した筈なのです。「んー?」爆音に目が覚めたのか、寝起きのボケボケの顔で、タバサが起きて来たのです。「黒焦げ?」「タバサ、治癒をお願いします。」「ん、わかった…。」頭をゆらゆら揺らしながら、タバサは才人に『治癒』をかけ始めたのでした。「裸?」「体を拭いていた最中だったのですよ。」タバサはぽけーっとした表情のままでなるほどと言いながら頷いているのです。「天罰?」「いっそ記憶を無くしてくれればいいのです。」タバサが倒れている才人を指差したので、頷いておいたのです。才人のラブコメ主人公体質は、本当にどうにかならないものなのでしょうか…?「いやはや…。」土下座をして、微動だにしない才人を見ながら、溜息を吐く私なのでした。「…昨日は散々愛人呼ばわりをしたうえに、今日はレディの部屋にいきなり乱入なのですか。 しかも殆ど全裸の姿までばっちり見るとは…。」「本当に、心の底から、申し訳ない。 伏して、伏して、お詫び申したてまつります。」敬語のボキャブラリーが少なかったのか、何故か時代劇言葉になって才人が謝っているのです。「はぁ…。」なんというか、溜息を吐く以外に手が無いと言いますか。「もういいですから、顔を上げてください、才人。」「え、いやでも。」偶然なのも悪気がまったく無いのもわかっているのですよ。制裁はしましたから、これ以上才人を痛めつける必要は無いと判断するのです。…そうは言いませんけれどもね。「いいですから、出て行きなさい。」「え…?」そ、そんな捨てられた子猫みたいな目で私を見ないで下さい、才人。親しき仲にも礼儀あり、まして男女の仲ならば…最近の才人はちょっと私に近づき過ぎなのです。ここらでちょっと強めに怒っておかないと、友人としての関係が続けられそうにありません。「で、でも、許してくれていないのに。」「出て行きなさいといっているのです。」だから、そんな捨てられた子犬みたいな目も駄目なのですよ!「ごめん、この通り、だから許してくれよケティ!」「ゆ…。」なんだかなぁ…私も大概に甘いかも知れません。「…許してあげますから。」何なのですかね…こういう感情って。「ほんとうかっ!?」まさか…まさか、この私が男の子に萌える日が来ようとは。なんというか才人って気弱げになると、小動物みたいな雰囲気を醸し出すのですよね。「い、いいのですよ…本当は許したくありませんが、そこまで言うならしょうがありませんから、許してあげるのです。」「あ、ありがとうケティ! このまま絶交されたら、途方にくれていたところだったぜ。」我ながら、何というツンデレ台詞。しかし、ハーレム系ラブコメ主人公侮りがたし、これからもいつこんな不意打ちを受けるかわからないのですよ。「友達といえど男女なのですから、これからはきちんとノックをするのですよ?」「わかった、こんなヘマはもうしないと誓うよ。」サイトは笑顔で頷いたのでした。ううむ、才人の顔がキラキラ輝いて見えるのです無茶苦茶なジゴロ属性なのですね、才人。頼むからそれを私に使ってくれるな、なのです。そういうのは全部ルイズに使うのですよ、ルイズに。「で…では、また後で会いましょう。 集合場所はヴェストリの広場なのですよ、お忘れなく。」「おう、わかった。 じゃあまた後で!」そう言って、才人は部屋を出て行ったのでした。「…このままどんどんサブヒロイン化されるのでしょうか、私は?」できれば遠慮したいところなのです。私が才人に抱きついて、『しゅきしゅき才人、しゅきしゅき~♪』とかやっているところを想像するだけで、軽く泣けてくるのですが。「サブヒロイン?」寝起きで髪が爆発したままのタバサが不思議そうに私を見ているのです。「…タバサもいずれ思い知る事になるのですよ。」「よくわからない。」わからなくて結構なのです。わかっていても避けようが無いのは、今の件でよくわかったのですよ。「さて…と、椅子に座ってくださいタバサ。 髪を梳かします。」「ん。」タバサは椅子にちょこんと座ったのでした。午前中の授業が終わり、私とキュルケは現在学院長室の前にいるのです。「…そんなわけで、色仕掛けよろしくお願いしますキュルケ。」「私、その為だけに呼ばれたの!?」キュルケの問いに、こくりと首を縦に振ってあげた私なのでした。「私の色仕掛けでは学院長ですら引っかからないのですよ、こういうものは得意な人がやるべきなのです。 そんなわけで、頑張って下さい…ちなみに、学院長は尻フェチなのです。」「本当に心の底から、どうでもいい情報だわ。」そういって、キュルケは肩を落としたのでした「とは言え、学院長を落とすには必要な情報なのですよ?」「ううっ…大事な何かを無くしそうだわ、私。」剣を色仕掛けで値切ったくせに、何を仰る兎さんなのです。「大丈夫なのですよ、天井の染みを数えている間に終わるのです。」「天井の染み…。」うーむ、キュルケのテンションが下がってきたのですね、これはまずいかもしれません。「来年、我が家唯一の男子が学院に入学するのです。 名前はアルマン、自慢じゃあありませんが、美少年なのです。」そう言って、アルマンの肖像画を見せてみたりするのです。周囲に散々美少年だの何だのと言われていたので、たぶんキュルケにも美少年に見えるでしょう。アルマンが言うには昔の私をお手本にしているのだとか…何なのですか、それは。「あらまあ、本当に美少年。」「良ければ、来年紹介してあげるのですよ。 美少年も結構好きでしょう、キュルケ?」ええと…キュルケから何か妙なオーラが…。「ありがとうケティ、何だかとっても気分が盛り上がってきたわ。 うふふふふ…羞恥に身悶える美少年…初物を調教…ぐふふふふふふふふ。」ええと…やっぱり紹介するのやめて、なるべく接触できないようにしましょうか?果てしなく不安になってきたのですが…まあ、取り敢えずキュルケのテンションが最高潮に達しつつあるので良しとしましょう、良しと…。来年にはコルベール先生と仲良くなっている筈ですし。「…失礼します、学院長。」「ミス・ロッタと、ミス・ツェルプストーではないか、どうしたのじゃ?」そう言いながらも、学院長の視線はキュルケの胸の谷間なのです。…実に扱いやすくて非常に結構な事なのですよ、キュルケは少し災難なのですが。「ご褒美を戴きたいなと、そう思ったのです。」「褒美とな? フーケの件であれば、王室から出た筈じゃがの?」威厳の篭った声なのですが、キュルケが隣で『うふーん』とか体をくねらせながら踊っているセクシーダンス姿に視線が釘付けなので、目が全く合っていないのですよ。しかし、何故セクシーダンス…?「学院からは? 確か、我々は学院のメンツを守る為に行った筈なのですが?」「その件であれば、先日の無断外泊で帳消しになっておる。」声こそ何とか威厳を保っているのですが、顔はスケベ爺と化しつつある学院長なのです。「先日の件、学院長はご存知であると、姫様から聞き及びましたが?」「はぁ、よく聞こえんのう?歳かの?」すっ呆けるのは良いのですが、頬は紅潮し、目もにやけ、鼻の下が伸びきっているのですよ、学院長。「…キュルケ。」「知っていらっしゃるわよね、オールド・オスマン?」「うひひひ、もちろん知っておる…ハッ!?」そこで正気に戻るとは、やはりオールド・オスマン。侮れないかもしれないのです…もちろん冗談なのですが。「知っているのであれば、もちろん私たちがアルビオンでいったい何をしてきたかも知っているのですよね?」「う…むう、抜かったわ、ワシとした事が。」いいえ、いつもあなたはそんな感じなのですよ、学院長。「そうであれば、合わせてご褒美を戴きたいのですが?」「…いったい何がほしいのじゃ、言ってみなさい?」声の威厳こそ戻りましたが、キュルケが『ほらほらお尻み・え・る・か・も~』とかやっている方に視線は釘付けなのです。「1週間ほどの休暇を戴きたいのです。」「むう…仕方がないのう、わしが何とかしよう。」声にだけ威厳を持たせても全く意味が無いのですよ、学院長。目が充血して、鼻の下が伸びきったその姿は、他の生徒には見せられないのです。「では、一筆お願いします。 文句は『これを持つもの達に一週間の休暇を許可する』で、お願いするのです。」「うむ、わかった。」学院長は『これを持つもの達に一週間の休暇を許可する。オールド・オスマン』と書いて、私に渡してくれたのでした。「ありがとうございます学院長。では帰りましょうか、キュルケ?」「そうね、もう踊り疲れたし。」「ああ、もう帰ってしまうのかの…?」学院長の未練たっぷりの姿を尻目に、私達は学院長室を後にしたのでした。本当に学院長は色仕掛けさえできればチョロいのですね…高濃度色気発生装置のキュルケがいればどうとでもできそうなのです。「…計画通り。」ニヤリっと、思わずほくそ笑んでしまう私なのでした。「その笑み、怖いんだけど?」ううっ…的確なツッコミが心に痛いのですよ、キュルケ。「…と言う訳で、一緒に来て欲しいのですよ、ミス・モンモランシ?」「嫌よ。」せっかく休みを差し上げるといっているのに、断るとは学生らしからぬ態度なのですね、モンモランシー?「こういうときは、一も二も無く頷くべきなのですよ、常識的に考えて。」「…何処の常識よ、何処の?」はぁ…これだから真面目な学生は困るのです。「学生の常識なのですよ、学生たるものそれがどんな原因であろうと休みが来たら『ヒャッハー!休みだ、休みだぜぇヒャハハッハァ!』と喜ばなくてはいけないのです。」「いくら楽しくても、そんな世紀末的な喜び方はしないわよ!」デルフリンガーはそんな喜び方をしていましたが。まあ、喜び方の表現は兎に角として、インフルエンザが原因の学校閉鎖でも、休みとなれば学生はドキドキワクワクと楽しいものでしょうに。「いけませんねえミス・モンモランシ、 学生として貴方は枯れているのですよ。 考えてみてください、私がなぜ貴方を誘うのかを。 貴方が行かないと、私やギーシュ様も一緒にこの休暇で1週間ほどの旅路につく事になるのですが、それでも良いと言うのですか?」「それは駄目っ!」よし、かかったのです。「実はですね…私達は宝探しに出ようと思っているのです。 宝が見つかれば一攫千金なのですよ? 例えば、ド・モンモランシの先代当主がこさえた借金を、如何にか出来るかも知れないのです。」「宝って…まさか昔に流行ったアレ? あるわけ無いじゃない、あれだけ探し回ったのにも関わらず、誰も見つけられなかったのに。 始祖の残した秘宝でしょ?確か、ミョルニルとかいう。」…思わぬ所に何故かやたらと詳しい人がいたのですよ。「あ、あれ?ひょっとして初耳?」私の温い視線に気づいたのか、モンモランシーが少し焦った顔になったのでした。「し…しょうがないじゃない、お爺様が干拓事業失敗でこさえた借金返すのに手を出したのが宝探しで、私も散々地図探しにつき合わされたんだから。 お爺様が《宝探しは男のロマンと借金返済を両立する最高の仕事ぢゃ》って、最後の宝探しに行ったきり、行方不明になってもう6年になるわね…。」なんというか、色々とご愁傷様なのですよ、それは…。おそらく、宝探しで余計に借金が増えただけだったのだと思われるのです。「な、何でそんな生温かい視線をこっちに向けるのよ。 ああもう、みんな貧乏が悪いのよっ!」さすが赤貧名門貴族ド・モンモランシなのです。没落っぷりが他の追随を許さない展開なのですよ。「お爺様が散々探しに行っても見つからなかったものが、一週間程度の冒険で見つかるわけがないわ。 …で、でも、怪我して直す人が居なくちゃ可哀相だから、着いて行ってあげる。」「素直にギーシュ様が心配だから行くと言えばいいのですよ…。」思わずポロっと言ってしまったのです。「そ、そんなんじゃないって言っているでしょ! 飽く迄も、怪我したら可哀相だから行ってあげるのよ!!」あー…はいはい、わかったのですよ。「ぬっ、温い視線で見るなーっ!」「おほほほほ♪ それではまた、ヴェストリの広場で会いましょう。」「ばかーっ!」モンモランシーの罵声を背に、私は悠然と歩き去ったのでした。「ここに立つ、私の心境はまさに鉄木。」そのこころは『木(気)が重い』なのです。コンコンとノックしてみますが、返事がありません。ルイズは現在引き籠り中なのですよ、今頃部屋でパソコンに向かって某大型掲示板で《リア充氏ね!》とか、書き込んでいるのです。勿論、嘘なのですよ、そもそもパソコンありませんし。「ルイズ返事をして欲しいのですよ、そこに居るのはわかっているのです。」へんじがない、ただのしかばねのようだ。…ではなく、だんまりを決め込むつもりなら、こちらもそれ相応の手段を講じるのですよ。「ドアを開けますよ、ルイズ。 ちなみに不服は受け付けないのですよ。 アンロック。」問答無用でアンロック、もちろんキュルケの真似なのです。「ルイズ?」布団がこんもり丸くなっているのですよ、ずーっと寝ているのですか。「ルイズ~?」布団をぺらっとめくってみると、憔悴しきったルイズがいたのでした。「はい、口開けてー?」「へ?もごっ!?」ルイズの口を開けて、マルトーさんに頼んで作ってもらっておいたクックベリーパイを、勢い良く突っ込んだのでした。「ふっふっふ、憔悴しきったあなたには、マルトーさん謹製のクックベリーパイの魔力から逃れる術など無いのですよー?」「もっふ、ふっもも!ふも!?ふも、ふむ、むふ~♪」驚き、怒り、陥落、喜悦の順で、表情が変わっていく様は、なかなか見ものだったのですよ。「すっごく美味しい!もう一個ちょうだ…じゃなくて、何しに来たのよ、ケティ?」「正気に戻るのが、意外と速かったのですね。 まあ遠慮せずに、もう一個行くのですよ。 はい、あーん。」そう言いながら、フォークで小さくクックベリーパイを切って刺し、ルイズの目の前に差し出したのでした。「ぱくっ、むぐむぐ…悔しいけど、空きっぱらの私が、この誘惑に…ぱくっ…むぐむぐ…堪え切るのは不可能だわ…ぱくっ、むぐむぐ…。」私がフォークに刺して差し出す、ルイズが食べる、また差し出す、また食べる…のサイクルが何度か続き、いつの間にかクックベリーパイは丸ごと一個無くなっていたのです。かなり空腹だったようなのですね、まさか全部食べきってしまうとは。「…で、何の用なのかしら?」ルイズはクックベリーパイを食べきると再び布団を被り、その中から甲羅に隠れた亀の如く私に尋ねたのでした。「…亀?」「そう、亀よ、わたしはドジで鈍間な亀なの。 自分の気持ちに気づいた時には色々手遅れだったなんて、とんだドジ亀だわ。 そんな亀だから籠るのよ、ずーっとこんな風にうじうじしていればいいんだわ、わたし。」…何と言いますか、似た者主従なのですね。「ずーっとうじうじしているつもりなのですか?」「そうよ、ずーっとうじうじしているの。」暗い部屋にずっと籠もって布団の中にいたら、そりゃあネガティブシンキングから抜け出せないのですよ。「そうなのですか…実は私、才人と一緒に旅行に行く事にしたのですが。」「な、何ですって?」布団の中から、何やら慌てたような声がするのです。「アルビオンの件でオールド・オスマンに頼んだら、一週間の休みをくれたのですよ。 それで、折角なので旅行でもしようかという話になったのです。」「婚前の男女が二人旅だなんて、はしたないわよケティ?」怒気のこもった声が、布団の中から聞こえてくるのです。「貴方、やっぱりサイトを…。」「私だけではないのですよ、シエスタ…サイトに跨っていたメイドも来るのです。」布団がビクンと震えたのでした。「な…な…なっ!?」「キュルケも来るのですよ? そろそろ本気を出すつもりらしいのです。」またまた布団がビクンと震えたのでした。「実はあの後才人とあのメイドに聞いたのですが、やはり事故だったそうなのですよ。」「…嘘。」「才人に真顔で嘘つけるほどの狡賢さは無いのです。 狡賢さが無いというか、どっちかというとお馬鹿なのですよ。」実はシエスタにだけ聞いたのですが、シエスタも真顔で嘘はつけない性格なのですよ。私ですか?見ての通りなのです…自分で言っておいて嫌になりますが。「う…で、でも、あんな偶然そう何度も…。」「一度あることは二度あり、二度あることは三度あり、三度ある事は何度でもあるのですよルイズ。 一度起こったのであれば、同じ事が起きる確率はゼロではないのです。」確率論的には殆ど無茶な数字になるかもしれませんが、ラブコメ主人公属性はそれらの全てをひっくり返すのです。「私は友人として才人を信じますよ。 なのに、主人である貴方が才人を信じないのですか?」「一週間…だったわよね?」おお、行く気になったのですか?「一人で一週間かけてじっくり考える事にするわ、サイトの事とか色んな事を。 だからケティ、サイトがふらふらあちこちの女に盛ったりしないように見張っていてもらえないかしら? …って、どうしたの?」思わずずっこけた私を見て、ルイズは驚いたように声をかけてきたのでした。「そこは行く事を決断する場面でしょう…。」「ごめんねケティ。 でもわたし、もう少し考えを整理しないと、またサイトに当たってしまいそうなのよ、そんなの嫌なの。 だから、きちんと気持ちを整理する…駄目かしら?」むぅ…本当は一緒に行って、旅の中で仲を修復して欲しかったのですが。調子は大分戻ったようなのですが、出て行けといった手前、気持ちを整理する必要があるということなのですね。「…仕方がありません。 私を含めて他の女に才人がふらふら行く事は可能な限り止めるので、安心して欲しいのです。」「…ありがと。」布団の中から、感謝の言葉が聞こえてきたのでした。「では私は行きます。 一週間後、必ずなのですよ?」「うん、必ず一週間で気持ちを整理するわ。 行ってらっしゃい。」私はそういうルイズの声を背に受けて、彼女の部屋をあとにしたのでした。「ジゼル姉さま、エトワール姉さま、良かった一緒に居たのですね。」今回は姉さま達が一緒でも良いのですよね。「どうしたの、ケティ?」「何かあったのかしら?」姉さま達は、お茶を飲んでいる最中なのでした。「学院長から、このようなものを戴いたのです。」そういって、学院長のサイン入りの休暇許可証を見せたのでした。「一週間の休暇ねえ…どこに行くの?」「何人かで宝の地図を頼りに宝探しをする事になったのです。」そう行って、古地図を取り出して見せてみました。「宝探し、楽しそうね!」「うーん、私はちょっとそういうのはねえ。」ジゼル姉さまは顔を輝かせ、エトワール姉さまは興味なさげなのです。「私も行っていいの!?」「ええ、その為に休暇対象を思い切りぼやかしてもらったのですから。」いつもいつも置き去りでは可哀想ですしね。「やったーっ!今すぐ準備するわ、集合場所は?」「ヴェストリの広場なのです。」「じゃあ、準備してくるわ、ケティと一緒に大冒険っ♪」私だけじゃないのですよ、ジゼル姉さま。「…行ってしまったのですね。 エトワール姉さまはどうなさるのですか?」「私は遠慮しておくわ。 取り敢えず、ジゼルの面倒をしっかり見てあげてね。」エトワール姉さまはニコニコしながらそう言ったのでした。私がジゼル姉さまの面倒を押し付けられるのは、昔からなのですよね…。「だ・ま・さ・れ・たー!」ヴェストリの広場に集まると、モンモランシーがキレていたのでした。「おや、ミス・モンモランシ、どうしたのですか?」「どうしたのじゃないわよ! ぎ…ギーシュと二人っきりで旅に出るんじゃなかったの?」モンモランシーが、そう言って詰め寄ってきました。ちなみに、ギーシュの事を言い始めたあたりから、とっても小声なのです。「そんな事は言っていないのですよ。」「でもあなた、ギーシュと一緒に旅に出るって…。」ふっ…人の話はしっかり聞くべきなのですよ。「私は『私【や】ギーシュ様【も】一緒に』とは言いましたが、ギーシュ様とだけ一緒に旅に出るとは一言も言っていないのですよ?」「そんな細かい違いがわかるかぁーっ!?」モンモランシー再噴火。香水というよりは、間欠泉の方が似合っているような気もしてきたのですよ。「回復なら、タバサがいるじゃない?」「彼女はこのパーティでも屈指の戦力なのですよ。 彼女を回復薬に回すと、前衛が一人減ってしまうのです。」タバサは杖を使った格闘戦も出来ますから、実は数少ない肉弾戦力の1つなのですよ。まさにオールラウンダー、何でもこなせる万能戦力なのです。「ですから回復専門のメイジが欲しかったのですよ。」「確かに私は水のラインだけど…あまり休むと内職のほうが滞るのよね。」モンモランシーは水メイジの名門に生まれただけあって、才能はかなりのものなのですよね。あと数年もすれば水のトライアングルに届くでしょうし、いずれは彼女の父親もそうなように水のスクウェアに届くかもしれません。「まあ確かに、内職が滞ると多少困るかもしれませんが…。」実は彼女は趣味と実益を兼ねて、水の秘薬やら香水の調合やらを自室でほぼ休みなく毎日行っているのです。しかもそれを学院の生徒に売りさばいたり、余った分はトリスタニアの香水屋や薬剤店に自分で売り込みに行くのですよ。実家が赤貧で仕送りが一切もらえない彼女は、そうやって自分のお金を捻出しているのですよね。それだけ水魔法を使いまくれば、勿論魔法の研鑽にもなるので、彼女の実力は鰻登りに上がっていっているらしいのです。「…その代わり、ギーシュ様とイチャイチャできるのですよ。 暗い洞窟の中、抱きつくには絶好の状況なのです。」「それは…ギーシュが私やケティに抱きついてくるような予感がするんだけど?」いいではありませんか、結果オーライなのですよ。「私に抱きついてきそうな時には、それとはなしに貴方に誘導してあげるのです。」「何となく微妙だけど…わかったわ、騙されたのが多少癪だけど、その話に乗った。 でも、《治癒》だけならまだしも、水の秘薬を使うときはお金きっちり貰うからね?」さすが赤貧貴族、そこら辺はきちっと締めるのですね。「わかったのです、その分はキュルケか私がきっちり支払うのです。」「それなら全く問題は無いわ。」はぁ、水の秘薬って結構高いのですよね…精霊勲章がもう二つほど欲しくなったのですよ。「あら、ミス・モンモランシも来たの?」「モンモランシーって、呼び捨てでかまわないわ。 よろしくね、キュルケ。 ケティ、貴方もね。」そう言って、モンモランシーは私たちにウインクして見せたのでした。「人数はこれだけ?」現在ヴェストリの広場にいるのは女性で私とジゼル姉様とタバサとキュルケとモンモランシー、男性は才人とギーシュなのです。「後一人来るのですよ。」丁度その時、メイド服姿の少女が向こうから大きなバスケットを持ってやってきたのでした。「すいません遅れました! でも見てください、マルトーさんが皆さんにってお弁当作ってくれたんですよっ!」マルトーさんのお弁当…それは素晴らしい。「でかしましたシエスタ、大戦果なのです。」「あら、あのメイドも来るの?」不思議そうにキュルケが私に尋ねてきました。「料理や雑用が出来るものが一人くらいはいないと、私に負担が全部被さって来るのですよ…。」「成る程、考えてみればそうね。」キュルケがぽんと相槌を打ったのでした。「シルフィードへの荷物の積み込み終わったぜ、ケティ。」「早く行きましょ、ケティ。」才人達はシルフィードに荷物を積み込んでいたのです。「では行きますか、キュルケ。」「そうね、じゃあしゅっぱーつ!」キュルケの掛け声とともに、私達はシルフィードに乗り込んで行ったのでした。「ぎゅ!?ぎゅぎゅ!?」「キュルキュル…。」ヴェルダンデとフレイムは、大きいので留守番なのですよ。「ぎゅぎゅ~…。」「キュルル~…。」ヴェルダンデが涙を流しながらハンカチを振って私達を見送って居るのです。器用なモグラなのですね。数時間後…。「…あの祠が最初の目的地なのですね。」周囲には豚面の亜人オークの集落が出来上がって居るのですよ。はぁ…よりにもよってオークなのですか、この面子でオーク…早速気分が重くなってきた私なのでした。