モンスター退治、それはファンタジー世界の王道最初はゴブリンかスライムからだと思うのですが、いきなりオークなのですかモンスター退治、それは困難を伴う試練オークに負けたら困難では済まないのですよ、負けるつもりはありませんがモンスター退治、それは命を奪う事命を奪うという事がどういう事であるのか、たとえそれが害獣であっても「…うーむ、やはりオークなのですか。」「うわ、よりにもよってオーク?最低。」オークという亜人は、人に積極的に害を成す為モンスターと呼ばれます。特性はよく知られているのが、人の子供が食料的な意味で大好きで、大人も捕って食う食人習慣なのですが、私たちのパーティにとって都合の悪い習性は別にあるのです。オークにはメスがいません。ではどうやって繁殖するかというと、人の女性を使って繁殖するのですよ、なんというエロゲ生物。女性は連れ去られたが最後、死ぬか助けられるかするまでオークの子供を生ませ続けられるという悲惨な運命が待っているのです。私たちのパーティーは才人とギーシュを除いて後は全部女性。あの世界最低の下品生物を一匹残さず殲滅しないと、貞操の危機なのですよ。「ジゼル姉さま、どうですか?」「うーん、見た感じでは祠の周辺に4匹いるのが全部ね。 藪とかに隠れていなければ、だけれども。 祠の中にもいるかもしれないけれども、流石にそこは見られないわ。」バグベアーは空をふよふよ飛べるので、偵察にはうってつけなのですよね。ジゼル姉さまは使い魔のバグベアーのアレンと視覚を共有して、上空から偵察をしてくれているのです。UAVで上空から偵察を行うようなものなのですよ、いやはや便利なのです。「オークの配置は?」「配置も何もないわ、集まって肉食べてる。 鹿ね…鹿を素手で引き千切って食べてるわ。」鹿ですか、人とかでなくて良かったのですよ「鹿を引き千切るとか…すげえ莫迦力だな、勝てるのかそんなのに?」「戦争に赴くなら、こんなものでは済まないのですよ。 正直な話、私もこのまま帰りたい気分ですが、村から報酬を頂く約束をしてしまった手前、このまま帰るわけにはいかないのですよ。」私は表情を引き攣らせる才人に、なるべく平然としているように気張りながら答えたのでした。「ですよね、モンモランシー?」「だ…だって、困っている人がいるなら助けてあげる、その代わり報酬をもらう。 宝探しのついでにモンスター倒して村人に喜んでもらって、ついでに報酬貰えれば私達も嬉しいでしょ? 報酬っていっても食料だけど…。」赤貧貴族は抜かりが無いのですね。ちなみに依頼は近隣の祠にオークが居付いてしまったので、被害が出る前にどうにかして欲しいというものなのです。「領主の館に行って監督不行き届きを目の前で可憐に口ずさみながら右手を出せば、まあびっくりそこには大量の現金が…なんて事になるので、別に村人から報酬を貰う必要は無かったのですが?」「発想が真っ黒過ぎるのよ、貴方は!」モンモランシー、あんまり大声出すとオークに気付かれるのですよ。「失敬な、報酬というのはある所から取れるだけ分捕るのが筋なのですよ? どうせ、オーク退治に兵の1つも寄越せないような駄目領主なのですから、せいぜい金くらいは出させるのですよ。」「な、情け容赦ないわね、ケティ。」「勉強代だと思えば安いものなのですよ。」トリステインの貴族は、結構な確率で領民の大事さが今ひとつ理解できていない者が多いのですよね。学院で教えれば良いのですが…学院ではそういう実務的な事は教えないのですよね。貴族である以上は魔法の勉強なんかよりも、こちらの方が余程大事なのですが…今度、学院長に進言してみた方が良いかも知れないのですね、またキュルケを使って。「…さて、取らぬ狸の皮算用はこのくらいにして、どうやればあの豚面に簡単に勝てるかを考えるのですよ。 タバサ、何か作戦はありませんか?」「ん、ある。」タバサはこくりと頷いたのでした。「あの祠は元々始祖を祀っていた祠で、参道は完全な一本道。 そしてオークの思考は基本的に単純。 簡単に勝つには連中の通り道を限定させて落とし穴を掘れば良い。 餌になるものがあれば、連中はわき目も振らずに一目散に向かってくるから、予め用意した落とし穴に落とす。」そう言って、タバサは才人を見たのでした。「貴方はこの中で一番動きが素早い、だから…。」「はいはいおっけー、俺が囮役ね。 はぁ…やっぱこういう役か、俺は。」「そう気落ちするな相棒、囮は重要だぜ?」才人は少し肩を落としましたが、デルフリンガーがそれを宥めて居るのです。「全部落とすのは無理だし、そこのちっこい娘っ子もそれはわかってる。 だから、残ったのを俺に斬らせ…。」「黙れ妖刀。」才人はカチンとデルフリンガーをしっかり鞘に仕舞ったのでした。「ギーシュ、貴方の役割も重要。 あのオークの体重で崩れるけど、人の体重なら崩れない大きな落とし穴を作らなくてはいけない…出来る?」「任せたまえ、子供の頃落とし穴といえばギーシュ坊ちゃんと呼ばれ、領民の心胆寒からしめた僕の腕前をとくと見るがいい。」それは単なる迷惑な悪戯坊主なのですが…まあ、役に立つならばそれで良しとするのですよ。「私達は可燃性の物質を錬金する。 ケティ、アルビオンで使ったナパームは、私たちでも作れる?」「なるほど、オークを穴に落として焼き殺すのですね。 穴の上からかける分くらいなら、皆の力を合わせれば何とか。 …というわけでギーシュ様、大きめなバケツを10個くらい用意してください。」何かハードを作るときには大活躍なのですよね、土メイジって。「…なんだか土メイジ使いが荒くないかね?」「その代わり、戦闘が始まったらモンモランシーやシエスタと一緒にシルフィードの上で休んでいてかまわないのですよ。」正直な話、オークを相手にするには対人戦闘に特化したワルキューレでは相性が悪いのです。フーケのゴーレムみたいなのであれば、それこそ突撃させて蹴散らすといった戦法もとれるのですが。「これでなんととか…と。」「終わりましたね。」小一時間程で何とか準備も終わりました。…しかし、オークというのは本当に食う襲う犯す寝るしかしない生き物なのですね。割と近くで作業しているにも拘らず、鹿に夢中でこちらに全く気付いていないとは。「ごめんケティ、私もう駄目だわ。 アレンと視覚同調させていたら、なんだか酔っちゃったみたいで。」3D酔いみたいな症状をジゼル姉さまが起こしてしまい、戦闘要員が一人減ってしまったのですが…まあ、何とかなります。「姉さまはギーシュ様と一緒にシルフィードで上空待機してください。 …ピンチになったら助太刀お願いします。」「わ、わかったわ。」ジゼル姉さまはこくりと頷いたのでした。「きゅい。」シルフィードは小さくひと鳴きすると、上空に飛び立ったのでした。「…さて、それでは才人、頑張ってください。」「オッケー、じゃあ行って来る。」そういうと、才人はオーク達の方に駆けていったのでした。「やっほー、おーい豚面の阿呆ども、今日もブヒブヒ元気ですかー…ってあぶねーな、おい! 当たったら痛いだろ、死ぬだろ!? このウスラボケ!死ね!氏ねじゃ無くて、死ね!」才人がオークを挑発し、なんだかわからないけど馬鹿にされた事だけはわかったオークたちが激昂、才人を攻撃しようとしましたが、才人はガンダールヴを発動させて難なくかわし、こちらへ向けて走り出したのでした。「やーい豚面、ピザでも食ってろデブ、バーカバーカ!」「ぴぎー!」「ぷぎー!」最近筋トレを欠かさない才人の動きはガンダールヴ抜きでも結構早いので、オークは才人に全く近づくことができないでいるようなのです。「おまたせ!」「お疲れさまなのです。」サイトが私たちの元まで走り寄ってきたので、とりあえず労いの言葉をかけておいたのでした。「たぶん、数匹は討ち漏らしますから、その分をお願いします。」「おうよ、相棒斬りまくってくれ、うひひひひひ。」「デルフ、おっかないっての。」いやしかし、デルフの過去にいったい何が…?原作ではここまで変では無かったような気がするのですが。「ぴぎゃー!」「ふんぎー!」怒りの雄たけびを上げながら、八匹のオークがいっせいにやってきたのでした。「鈍重そうに見えるのですが、案外足が速いのですね。」「そうね…で、オークが踏み抜かなかったら?」「楽ではないけど、私達ならやれる。」失敗すればオークの繁殖に貢献する羽目に陥るわけで、難しかろうが何であろうが殺らなきゃ犯られる状態なのですよ、いやはや…。「ぷんぎー…ぷぎ!?ぷぎぎぎっ!?」私たちの近くまでドスドスと走ってきたオークが落とし穴を踏み抜き、勢いあまって深さ6メイルある穴に落ちたのでした。ギーシュ曰く、「僕が本気を出せば、こんなもんさ」…会心の作なのだそうです。「ぷ…ぷぎ?ぷぎぎ!?」何とか落ちずにすんだ3匹が、いきなり土の底に仲間が引きずり込まれたのを目の当たりにして、混乱しているのです。…1匹だけですか、まあ一匹だけでも良しとするのですよ。取り敢えず落ちなかったオークですが、混乱しているうちに一匹くらいはやってしまいましょう。「せめて一瞬で絶命させてあげるのです。」炎に螺旋状の回転を加え、槍状に加工して貫通力を上げた魔法の改良版なのです。火と火と火を足し、更に細く、更に早く、更に鋭く、更に正確に…心臓を穿つ!「…フレイム・スピア!」白銀の光を放つ槍が、オークの巨大な体躯を維持するために鼓動する心臓を貫いたのでした。「ぷ…ぎ…。」自分に何が起こったのか理解できないまま、オークは絶命したのでした。彼らは奪うことしか出来ず、我々は奪われることを善しとしない。歩み寄りが出来ない以上、殺すか殺されるか…。「人に寄生しないと繁殖できないモンスターなんて、存在そのものが歪過ぎるのですよ。」存在そのものに人への純粋な悪意が感じられるこの化け物は、おそらく誰かが作ったものが野生化し繁殖したのでしょう。「さすがケティ、今度その魔法教えて。」「良いですが、あまり変な事に使ってはダメなのですよ?」「何か、子供にお小遣い上げるお母さんみたいな科白だな。」こんな巨乳で背の高い娘など、生んだ覚えは無いのですよ、才人。「ぶぎーっ!」「来る。」少々ふざけている間に、2匹のオークは正気を取り戻したようで、棍棒を持ってこちらに襲い掛かってこようとしているのです。「行くわよ、ケティ直伝…。」キュルケのファイヤーボールは高速で回転して、細く小さくなった代わりに白く発光しはじめます。「ファイヤー・ダガー!」貫通力高めのファイヤーボール改め、ファイヤー・ダガー。キュルケの放った魔法はオークの顔に突き刺さり、顔を炎で包み込んだのでした。空気を吸えなくなったオークは、崩れ落ちてのたうち始めたのです。「ウインディ・アイシクル!」そのオークにタバサの放った鋭い氷塊がいくつも突き刺さり、とどめを刺したのでした。「才人、あと一匹なのです。」「おう、やってやるぜ!」そう言いながら、サイトはデルフリンガーを鞘から抜き放ったのでした。「斬られる奴は、いねがああぁぁぁぁっ!」「何でなまはげ風!?」いや、まったくなのです。「遠からん者は音にも聞け!近くば寄って目にも見よ! おれの名前はデルフリンガー、魔剣デルフリンガー様だ!大事な事だからもう一度言うぞ、俺はデルフリンガーだああぁぁぁっ!」「持ち主より目立つってどういう魔剣だよ、剣ならもう少し慎みを持ちやがれ!」そう言いながら、才人はオークに斬りかかっていったのです。「だってよう、おれ殆ど出番が無かったじゃねえか? 科白が全然無かったんだぜ、あれ?俺空気?空気なインテリジェンスソード?とか、不安になっちまったんだよ!」「メタな事言ってんじゃねえよ!」才人はオークの棍棒を受け流すと、オークの腹に横一文字斬り込んだのでした。「うっひょおおぉぉ!おれ今とっても剣してるうううぅぅぅぅ! さあ、もっとずんばらりんといってくれ、おれが剣である事をを実感させてくれ、いけよやぁぁぁぁっ!」「言われんでもやるけど、きめぇ!」頭が二人の会話を理解する事を拒否していますが、色々と溜まっていたのですね、デルフリンガー。「ひどっ!包丁でも剣でも、使ってこそ道具だろ!?」「余所様の刃物はもっと静かだっ! それに武器は使わないに越した事はねーんだよ! そんな事を言っていると、包丁として使うぞゴルァ!」「そんだけは勘弁!」才人の剣がオークの足を切り落とし、オークは悲鳴を上げながら地面に崩れ落ちたのでした。「やっぱり命を奪うっていうのは、良い気がしないなぁ…。」「この状態で放っておかれる方がむしろ残酷ってもんだぜ、相棒。 さあさあ、ぶすっといけ、ぶすっと。」デルフリンガーに促され、未だもがくオークに才人は近づいて行ったのでした。「仕方が無い…お互い様なんだから恨んでくれるなよ…上手く当たれ、南無八幡大菩薩!」才人はそう言うと、オークの首を刎ねたのでした。「うぅ、命を奪うのは後味悪いなぁ…。」「まあ、何回か繰り返せばなれるって、大丈夫だよ相棒。」「…慣れたくねえよ、こんなの。」それには私も同感なのです。「さて…あとは穴の中のオークなのですね。」「オークとはいえ、無抵抗なやつまでを焼き殺すの?」…なのですよねえ、少し気が引けると言えば気が引けるのですよ。「ナパームを残しても仕方が無いのですよ。 穴の中のオークにとどめを刺してから、シルフィードに頼んで死体を全部穴の中に放り込み、ナパームを注いで燃やしてしまいましょう。」そう言ってから、穴の中のオークに向けて呪文を唱え始めたのでした。「ケティだけにやらせるのはしのびないわね。 私もやるわ。」「私も。」罪悪感は若干分散しますかね、これは?「きゅい~、きゅ~きゅいい~。」流石のシルフィードもオークの巨体は重いのか、三体目を引きずって穴に放り込んだ時には少々疲れたようなのでした。「少しもったいないですし、いっそオークを食べますか、シルフィード?」「きゅいきゅいきゅい!」シルフィードは頭を三回縦に振ったのでした。…そうですか、食べたいのですか、オークを。「冗談なので、本気で反応されても困るのですよ。 あとで村の人に羊を一頭売ってもらいますから、それで勘弁してもらえませんか?」「きゅい!」シルフィードは大きく頷いたのでした。先程から思い切り会話が成立していますが、話さなければ良いというものでもないのですよ、シルフィード?「ナパーム流し込み終わったぜ、ケティ。」「わかりました…炎の矢。」炎の矢がナパームに引火して、オークの死体を焼き始めたのでした。「では、祠に行ってみましょうか、ここの宝は?」「えーっとねえ…《アガーウルの卓布》ですって、なになに…テーブルにかければ何でも好きな食べ物が出て来る?」本物なら、久しぶりにカレーライスかラーメンでも食べたいのですよ。「本物ならば素晴らしい宝物なのですね、何でそんな便利なものを村の人が一切使っていないのかが不可解なのですが。」まあたぶん、ガセなのです。祠の中に入ってみると、案の定そこには朽ちる寸前のボロ布が大事そうに仕舞われていたのでした。「これが《アガーウルの卓布》かよ…。」ボロ布をつまみながら、才人ががっかりしているのです。「…取り敢えず、そこにある石のテーブルにかけて試してみるのですよ。 そうすれば偽物か本物かわかる筈なのです。」「おう、わかった。」そう言って、才人は《アガーウルの卓布》を石のテーブルにかけて椅子に座りました。「ハンバーガー、カレー、ラーメン、牛丼、寿司、パスタ、グラタン、ラザニア…何でも良いから出てこーい!」才人の声は虚しく祠の中に響き渡ったのでした。「…さて、きちんと仕舞い直して村に帰りましょうか。」「…そうだな。」やはりガセでしたか。まあ、一発目から当たるとは思わないのですよ。「お初にお目にかかります、ウェスト子爵。 私達はフロンド傭兵団と申します。 私は団長のケティなのです、よろしく。」全員制服ではなく、普通の服に着替えて、ここの領主である子爵に会いに行ったのでした。とは言え…場合によっては軽く脅す必要もあるので、念の為に軽く変装したのです。あと、団長を誰にするかで、問答無用で私に押し付けられてしまったのですよ。…私はキュルケに押しつけたかったのですが。「これはこれは、可愛らしい傭兵団であるな。 …して要件とは何であるか?」「始祖の遺品を祀ると言われる祠にオークが居ついていると村の者に聞き退治してまいりました…領主であるならば、これに見合う対価をお支払いになるべきかと思われるのですが、いかがでしょう?」まあ要するに治安維持の押し売りなのですよ。「ぬぅ…あのオークどもを倒したのであるか。 見れば年若いがほとんどがメイジ、倒せるのも道理であるな。 しかし吾輩は頼んでいないのである。 勝手にやったのはそなたらであり、吾輩が払う義務は無いのである。」珍妙な喋り方をする人なのですね。「民は城、民は石垣、民は堀、情けは味方、仇は敵なりなのです。 領主が領民が困っている時に助けなければ、領民の働く意欲は失せ、税収も減ってしまうのですよ。 逆に、民が困っている時に積極的に手を差し伸べる領主であれば、領民は領主の為に積極的に働いてさえくれるのです。 民の収入が増えれば、民からの税収も増える…情けは人の為ならず、成した事の報いは何であれ必ず廻り廻っ返ってくるのですよ。 私達は子爵が将来損害を受ける事を未然に防いだのですから、その報酬はあってしかるべきだと思うのです。」「ぬ…そう言われるとそんな気がしてきたのである。」甲陽軍鑑の一節からパクってみたのですが、意外と効くのですね。「しかし、当家はあまり金が無いのである。 とりあえずいくら欲しいのであるか、言ってみるのである。」「5000エキューほど。」思い切り吹っ掛けてみるのです…とはいえ、これでもメイジ主体の傭兵団にしては、若干安い値段ではあるのですが。「そ、そんなに払ったら吾輩は明日から領民よりも貧乏になってしまうのである。 もう少しまかりならぬのか?」…どんだけ貧乏なのですか、この子爵は。よく見れば屋敷の中は雑然としていて、使用人では無くガーゴイルと思しきものが動き回っているのです。まさか、ガーゴイルの買い過ぎで?「では、4980エキューで。」「おおそれは随分と安…安くないのである! そんな数字のマジックのは騙されないのであるよ。 に、2500エキューでどうであるか?「4500エキュー。」「2750エキュー。」「4250エキュー。」「3000エキュー。」「3980エキュー。」「わかったのである、そのくらいであれば。 …って、あれ?」サンキュッパに引っかかるって、どんな気持ちなのです?ねえどんな気持ちなのですか?「わかりました、商談成立なのですね。」「ちょ、待つのである! 吾輩、何か物凄く騙された感じが…。」こういう価格表示って、この世界には全く浸透していないので、意外と引っかかるのですよね。「ありがとうございます、子爵。」そう言って、私は右手を出したのでした。「もう少し値段こうしょ…。」「ありがとうございます。」少々ゴリ押してみるのです。「…話を聞く気がまるっきり無いのであるな?」「一旦頷かれたのですから、値段交渉は既に終了したのですよ。」別に傭兵稼業で食べていく気は一切ありませんし、そもそも正規料金より安いのですから、そろそろ観念するのです。「とほほ…これでは暫くガーゴイルが作れないのである。」ひょっとして、この人はガーゴイル製造者なのでしょうか?趣味でガリアのガーゴイルを買い過ぎた人だと思っていたのですが。「今あるガーゴイルを売れば、新しいガーゴイルを作れると思うのですが?」「…そう言えば、そうなのであるな、すっかり失念していたのである。 この超・天・才!ウェスト子爵の手製ガーゴイルであればあああぁぁぁぁ!高値で売れるのは必至なのでああああぁぁぁぁるううぅぅぅぅ!」い、今頃気づいたのですか…あと、いくらテンションが上がって来ても人前で絶叫するとキチ○イと勘違いされるのですよ。使用人を全部ガーゴイルに置き換えるくらいですから、かなり腕は良いようなのですが、それ以外がアホみたいなのです…。「確かに、倉庫に置いておいたガーゴイルをいくつか売り払えば軽いものなのであるな。 素晴らしい助言を戴いたのである、これは感謝せざるを得ない。 エルザ!エルザ!金庫の金を全部持ってくるのである!」「わかったロボ~。」そうすると、館中に張り巡らされていると思しき伝声管から返事が聞こえて来たのでした…ロボ?暫くして、巨大な金庫を抱えたガーゴイルが走って来たのでした。「おお、珍しく素直に言う事を聞いてくれたのであるなエルザ、さあその金庫を…ぐはぁ!?」ええと…子爵がガーゴイルが投げつけた巨大金庫に轢かれたのでした。子爵は錐揉み回転を起こしながら2~3回バウンドして、力無く横たわっているのです。「あっはっは、引っかかったロボ。」「珍しく言う事を聞いたと思ったら、これなのであるか…。」力無く横たわりながら、子爵は呟いたのでした。しかし、珍しくってどういうガーゴイルなのですか、それは。「しかぁし、吾輩はこのくらいではへこたれないのである! 金庫に確か…もってけ泥棒、なのである。 ぐふぁ…5000エキュー、確かに渡したのである。」「い、良いのですか?」ぶっちゃけ、目の前の5000エキューよりも、吐血している子爵の方が気になるのですが。「このハイパーウルトラデラックス超・天・才!である吾輩のガーゴイルであれば、何処にだって売れるのであるよ。 取り敢えず…こいつを景気付けに5ドニエくらいで売り払って金に換えるのである。」「はっはっは、冗談は存在だけにするロボよ。」そう言って、女性型のガーゴイルは子爵の腕を捻り上げているのです。「あはははは…それでは貰うものも貰いましたし、退出させていただくのです。」「痛い痛い!その極め方は外すか折る気であるな? お願いですからやめるのであ…ぎゃー!」何か鈍い音がしたようなのですが、気づかない事にしておくのですよ…。数日後、私達は何度かの宝探しついでのモンスター討伐を済ませ、《宝物》と対面していたのでした。「ブリーシンガメル…でしたか?」たしか、似たような名前の首飾りは元の世界の北欧伝承にもあったのですね。首飾りの為に醜い妖精に抱かれたという、どんだけなのですかという感じの女神の話に。「ボロッボロねえ…。」「どう磨いても、値打ちものには見えないわね。」「駄目ね、これは。」「ゴミ。」「祭の露店で売っているおもちゃの方がまだ綺麗だな。」「僕の錬金で青銅製に変えるかね?その方が売れそうだ。 重さ単位いくらの金属屑的な意味で。」皆の的確な評価が…確かにイミテーションとかそういうレベルじゃないのです。「また…駄目だったか。」才人は落ち込んでいるのですが、副収入の方がえらい事に。「代わりにモンスター退治の押し売りで、この通りなのです。」シルフィードの背に乗せられた箱に入った大量のエキュー金貨、たぶん6~8万エキューはあるのですよ。爵位は無理ですが、小さめの屋敷付き領地なら普通に買える金額になってしまったのですよね…ちょっとした小遣い稼ぎのつもりが、とんでもない事に。メイジ主体の傭兵団の相場としてはかなり安めだったせいなのと、なんだかんだでモンスターには迷惑していたらしく、皆が文句を言いつつもホイホイ払ってくれたのですよ。「ここは王家直轄領なので、押し売りには行けないのですよね。」「あなたなら、後で王家に直接請求に行きそうだけど?」キュルケがそう言います。失敬な、いくらなんでも姫様に直接請求に何か行かないのですよ、正体がばれてしまいますし。「しかし、ケティが魔物退治の押し売りを思いつかなかったら、とんだ骨折り損の草臥れ儲けになる所だったねぇ…。」「正直な話、私自身もここまでうまくいくとは思っていなかったのですが。」ギーシュがしみじみと呟いたのに、私も思わず返答してしまったのでした。「でも、モンスター退治って意外と儲かるのね。 何だか私、モンスターが金貨に見えてきたわ。」どうも、領民の為にモンスター退治を行うという発想事態があまり無かったみたいなのですよね。モンスターに畑を荒らされたり村の人間がさらわれたりしても、余程の事が無い限りはあまり気にしていなかったようなのです。かなり迷惑だとは思っていたようなのですが、モンスターに領地を奪われるわけでは無いので、その付属物としか考えていない領民にまで手が回らなかったという…。なのに何で私たちが退治すると報酬がもらえるのかというと、例の甲陽軍鑑の一説を引用などしたりして、言いくるめ…もとい説得しているからなのですよ。「取り合えず、一旦拠点に戻りましょう。 シエスタが料理を作ってくれているはずなのです。」「そうね、かなりまさかな拠点だけど。」ええ、本当にまったくもってその通りなのです。「まさか…ワルド卿の館を拠点にする事になるとは。」野宿は嫌だとブーたれる貴族の坊ちゃん方をどうにかするのに探し出したのがこの館。ちょうど古地図にある宝の隠し場所がいっぱいある地域が重なっている地域に行きやすい場所にあったのです。シルフィードに乗って上昇すれば、ラ・ヴァリエールの領地も見えます。不名誉印を刻まれた家紋を見て驚いたのですよ、ここがド・ワルドの館だったとは。ベッドなどは布団も残っていたので、シエスタがあっという間に眠れるように仕上げてくれたのですよ。「はい、ご飯が出来ましたよ~。」そう言ってシエスタが出したのが、肉や山菜の入ったスープなのでした。「おお、うまい、これは何という料理なのかね?」ギーシュが美味しさに目を見開いて、シエスタに尋ねているのです。「ヨシェナヴェっていって、タルブの郷土料理なんです。 入っているのは皆さんが冒険に行っている間に捕って来たウサギと、山に生えていた野菜やキノコです。 私のひいおじいちゃんが最初に作ったらしいんですけど、凄く美味しいので今では村中に広まっているんですよ。」肉は入っていますが、味は…ええと、この味わいは何となく醤油っぽいような?いやでも何となく違うのですね。「このヨシェナヴェにはどのような調味料を?」「塩とショッテュールっていう、魚から作った調味料を使っています これもお爺ちゃんが考え出したもので、使うと何でもタルブ風料理になっちゃうんですよ。」しょっつる…でしょうか?シエスタの曾祖父は秋田出身?いやそれよりも、タルブの食文化がシエスタの曾祖父に席巻されているっぽいのですよ、『使うと何でもタルブ風料理』って。シエスタの曾祖父は余程料理上手だったのですね。ううむ…ひょっとしてシエスタの曾祖父は軍人になる前は料理人だったのではないでしょうか?シエスタの調理を見せて貰ったのですが、出汁に乾燥させた魚を使っていましたし、何となく和食の香りが。「なんだか日本を思い出すなぁ…。」ヨシェナヴェの味に感動している才人をみて、シエスタがガッツポーズをしているのです。…何故、私に向かって見せつけるようにするのでしょうか?何故鼻で笑いますか…ムカッとしたのですよ、流石に。「…ショッテュールを上手く使えば、魚の照り焼きとかも作れそうなのですね。 魚醤なので、独特の臭いを消す必要はありますが。」「え?まじ!?テリヤキバーガーは?」才人がハンバーガー、特にテリヤキバーガーが好きなのは前に聞いているのですよ。「取り敢えず照り焼きのタレを作らなくては始まらないのですが…そうですね、作る事が出来ればそんなに大変では無いと思うのです。 マヨネーズは作れますし、ハンバーグも作れない事は無い筈ですから。」「な、何でも協力するから、作ってくれよ、絶対に!」才人のきらきらというか、ギラギラした視線が…そんなに食べたいのですか。「わかりました、頑張ってみますから、そんなに近づかないで欲しいのです。」そう言いながらシエスタの方を見てみると、エプロンの裾を掴んで悔しそうにしているので、フフンと笑ってみました。「…って、何を張り合っているのですか、私は。」シエスタについつい乗せられてしまったのですよ。面倒ですが、フォローしますか。「シエスタ、そのショッテュールの使い方を一番理解しているのは貴方なのです。 私だけではなく、貴方に活躍してもらわねば困るのですよ?」「え…あ、はい、頑張りますっ!」…だから、何で挑戦的な視線を送ってくるのですかシエスタ。貴方が張り合うべきはルイズであって、私ではないのですよ?「…ねえ、シエスタ? そのヨシェナヴェなんだけど、レシピ教えてくれないかしら?」モンモランシーがシエスタにそう話しかけたのでした。「はい、いいですけど…これ様々な山菜を使うので、材料が山林にしか無いんですけど。」「私を誰だと思っているの? ド・モンモランシは薬師の家系でもあるのよ、山に分け入って植物を採集するのは薬師の基本。 薬の材料を採集するついでに料理の材料も揃えられるなら一石二鳥だわ、お金もかからなそうだし。」さすが赤貧貴族、ケチくさ…もとい、しっかりしているのですね…ん、違う?ひょっとして…?「さすがモンモランシー、僕がヨシェナヴェを気に入ったのに気付いて、僕の為に作ってくれるのかい?」「ち、違うわよ、私は安い材料でこんな美味しい料理が作れるなら家系の足しになると思っただけ!」学院のご飯はただなのですよー?「ああモンモランシー、僕の蝶。 君の、その奥ゆかしい所が、僕は大好きだよ。」「違うんだったらっ!」そう言いつつもモンモランシーの顔はにやけているのです。成る程、ギーシュのためだったのですね…って、何でモンモランシーまで勝ち誇ったような表情でこちらを見るのですか?「火の系譜は情熱の系譜、あなたもなかなかやるわねえ、ケティ?」「当家の火はそんなものでは無いと何度も…。」ニヤニヤしながらワインを飲むキュルケを軽く睨みつけてみたりしたのでした。「ギーシュは絶対に駄目って言ってるでしょ、ケティ?」ジゼル姉さまが同行したせいなのか、ギーシュがずーっと気まずそうな表情のままなのですよ…いったい何があったのやら?「んー、でも、あのサイトとかいう平民の子もねぇ。 平民でもいいってわかったら、貴方の子分だった男の子達がどう動くやら…特にパウルとか。」「パウル…ああ、あれは思い出したくないのです。」あんなこっ恥ずかしい真似を良く出来たものなのですよ。ちなみにパウルは幼なじみの1人で、私よりも三歳ほど上なのです。「あいつ、ケティが学院に出かける前の晩に、延々三時間窓の外でケティに対する愛の詩を語り続けたんでしょ? ケティが平民解禁しましたって、手紙送っておく?」「頼むから勘弁して欲しいのですよ、それは。」本当に来られたら、学院にいられなくなってしまうのですよ、恥ずかしくて。「えー?でも彼、頭も口も良く回るし、ケティの右腕的な存在だったでしょ? あの歳で商会興して、うちの領の産物を売りさばいているみたいだし。」「パウルに商会を興すように言ったのは私なのですよ、領内領外の物流における便利負便利を調べてもらう為にやってもらっているのです。 あと、右腕に愛を語られても困るのですよ。」時々送られて来る報告書にまで口説き文句が書き込まれていると、流石にげんなりしてくるのです。私にとってパウルはとても頼りになる右腕以上ではないのですから。「やっぱり、ケティは私に甘えているのが一番なのよ。」そう言いながら、ジゼル姉さまは私の胸に飛び込んできたのでした。「これは甘えているのではなく、甘えられているというと思うのですが?」「まあ、どっちでもいいじゃない? んー…久しぶりのケティ分補給~♪」やっぱり甘えられている気が…ふと、裾がくいくいと引っ張られたのでした。「私も補給。」タバサまで私に抱きつき始めたのでした。…ぬぅ、少し暑いのですよ。「と…ところで、次の目的地なのですが、これなんていかがでしょう?」「ええと、何々《竜の羽衣》?」そろそろ良いだろうと思い、キュルケに《竜の羽衣》の地図と文献を手渡したのでした。「りゅ、竜の羽衣ですかっ!?」いきなりシエスタが大声を上げたのでした。「どうしたんだ、シエスタ?」「そ、それ、うちの村の宝物ですっ! 正確には私のひいおじいちゃんの宝物なんです。」心底びっくりした顔で、シエスタはそう言ったのでした。「でも、行ったらがっかりすると思いますよ。 結構大きいですけど、良くわからない代物ですから。 ひいおじいちゃんが言うには、それに乗ってロバ・アル・カリイエから来たらしいんですけど。」「空を飛ぶんだ…結構すごいわね。」ジゼル姉さまが興味深げに聞いて居るのです。「でも、一度もそれが空を飛んだところを見た事が無いんです、私。 ひいおじいちゃんの言う事は信じたいんですけど、やっぱり村の人達が言うようにひいおじいちゃんの妄想なんじゃないかなって思うんです。」「…またガセか。」才人が落ち込んで居るのです。「まあ、行ってみるだけ行ってみましょう。 そろそろ一週間が経ってしまいますし、タルブに寄れば美味しいワインも飲めるのです。」「本当に酒好きだな、ケティ。」呆れたように才人が私を見るのです。「以前シエスタと約束していたのですよ、タルブに行った時にワインを浴びるほど飲ませてくれると。 それに少々稼ぎ過ぎましたし、少し使っても良いじゃありませんか、打ち上げ的に…。」「飲兵衛。」ううっ、とうとうタバサにまで言われてしまったのです。「兎に角!行き先はタルブで決定なのです。 ここの拠点は引き上げますので、各自後片付けはきちんとしておくように、以上!」「すっかり大酒呑みになっちゃって、お姉ちゃん悲しい。」そう言って、ジゼル姉さまはワインをぐびっと呷ったのでした。「飲兵衛一族?」「ええ…そういう風に解釈してしまっていいのですよ。」どうせうちの一族はうわばみばかりなのですよ。翌日、タルブについた私達は、早速《竜の羽衣》を確認に行ったのでした。やっと零戦と、あの零式艦上戦闘機とのご対面なのですよ…感無量なのです。鳥居つきのその祠の扉を開けると、そこには零せ…。「え!?ちょっとまってください、これは…。」シエスタのお爺さんって、まさかあの世界の人なのですか!?