飛行機、羽を持たない人間が空を飛ぶために作った機械ライト兄弟が発明してからあっという間に兵器として空を飛ぶようになったのです飛行機、禁断の扉を開いた機械第一次世界大戦で実戦に投入されて以来、戦争に革命を起こし続けました飛行機、それは男のロマン男のロマンは戦争と結びつく事がありますが、何故なのでしょう?「旧日本軍の戦闘機…かな? 見た事無いけど。」才人は困惑した表情でそれを見上げています。知らないのも無理は無いのですよ、この戦闘機は私達の歴史に実在しない物なのですから。「プッシャー式の二重反転プロペラ…。」これだけだと散花Mk.Bという線もあったのですが、搭載機銃が大きすぎるのです。「57mm機関砲が二基…こんなけったいなものがついているプッシャー式戦闘機は…。」シエスタの曽祖父はとんでもない世界から来たのですね。「知ってんのか、ケティ?」「ええ…この戦闘機の名は蒼莱、ジェット機並みの上昇速度と、見ての通り57mm機関砲という大砲がついた対戦略爆撃機用の戦闘機なのですよ。」この機関砲…この世界の船なら、数発で撃沈できるのではないでしょうか?「ええと…何で、ケティはこれが何だか知ってるの?」ジゼル姉さまの戸惑う声に振り返ると、変なものを見るような目で私を見る皆が居たのでした。「あ…。」なんという大失敗…あまりの事に我を失っていたのですよ。もしもばれた時の言い訳を予め考え、手段を整えておいて正解だったのです。「…仕方がありません、話せる事は話しましょう。 ジゼル姉さま、《場違いな工芸品》という言葉を知っていますよね?」「え…?うん、うちにあるあの凄い銃の事でしょ? たしか、モシン・ナガンだったよね?」モシン・ナガンM1891、ロシア帝国やソビエト連邦で使用されたボルトアクション式小銃なのです。 どこで何時入手されたものかは知りませんが、弾薬と銃本体が固定化をかけられて我が家の倉庫に眠っていたのを発見したのですよね。私が試しに皆の前で使って見せたら、この世界の火縄銃とは全然違う威力と命中精度と速射性に皆驚いていたものです。「…ああ、あの古文書に書いてあったのね、これ。」ジゼル姉さまは納得した様に頷いたのでした。私に前世の記憶があると言う事をばらさずに、あちらの兵器知識を解説する為にでっち上げた偽古文書が実家の書庫にあるのですよ。…里帰りした時に蒼莱も書き足しておかないといけないのですね、まさか紺碧世界の兵器まで呼ばれているとは予想外だったのです。「ジゼルも知ってるの?」キュルケが不思議そうにジゼル姉さまに尋ねたのでした。「うん、我が家にはこういうものに関する文献もいくつかあるのよ。 特にケティが見つけた本には、ここには存在しない筈の高性能な武器の情報が沢山載っているものもあったの。」「なるほど、ケティはそれを読んで覚えていたって事ね。」私以外の人が説明してくれれば、信用度も増すというもの。ジゼル姉さま、グッジョブなのです。「…で、《場違いな工芸品》って、何なの?」「うむ、そんな言葉もこんな物も、初めて見るのだよ。」まあ、普通の人は知らないのが当然なのですよね。「こういう、私達の国では製作不可能な精度を持った武器を指すのですよ。」「武器なの、これ!?」キュルケがびっくりしたように蒼莱を眺めます。「ええ、これは風竜よりも早く高く飛ぶことが出来、連射できる大砲を搭載した乗り物なのです。 …ただ、燃料がもう殆ど残っていないようなので、飛べなくなってしまっているようですが。」「燃料?」「ええ、ガソリンという非常に揮発性の高い油を燃やして動くのですよ。」しかし、これを飛ばすとなるとどれだけのガソリンを必要とするのだか…。「油で…コルベール先生がやっていて、サイトが興味を持っていたアレのようなものかね? あの蛇の玩具がぴょこぴょこ出る…。」「そうだよ、あれがもっとずっと改良されたのがこれだよ! 魔法が無くても空が飛べて、しかも魔法を使うよりもずっと早く高く飛べるんだ。」ギーシュの質問に、才人が答えているのです。「ケティ、ガソリン作れないか?」「ガソリンは私も多少なら作れますけど、飛行機を飛ばすほど作れといわれたら、精神力が待たないのですよ。 ギーシュ様やモンモランシーにも協力してもらえば、ある程度は何とかなるかもしれませんが…。」やろうと思えば蒼莱に使われていたであろう、あの当時の低オクタンなガソリンではなく、ハイオクガソリンだって作れるのですが、私はなにぶん属性が火なので、土メイジや水メイジのようにホイホイ錬金出来るというようにはいかないのです。「まあ確かに油なら錬金するのはさほど困難ではないから、ケティに見本を見せて貰えば作る事は出来るのだよ。」「水は土の次に錬金が得意な系統だし、油のような液体なら土系統よりも水系統の方が上手く出来るわよ。 私はラインだし、ギーシュよりもうまくやって見せる自信はあるわ。 もちろん、必要経費は貰うけど。」モンモランシーの絶対にただではやらないその姿勢、見習いたいものなのです。「もちろん働いた分の対価は分け前に乗せます。」「うん、それなら文句は無いわ。」モンモランシーはしっかりと頷いたのでした。「ええと、僕にも貰えるのかな?」ふむ…ギーシュへの報酬ですか。「ギーシュ様、私は今、貴方の助けをとてもとても必要としているのです。」「何か、企んでいるわね、ケティ?」両手をぎゅっと握って胸元に置き、目を潤ませながらギーシュを見上げてみました。モンモランシーは少し静かにして欲しいのです。「え?いや、ハハハ、でもモンモランシーが報酬を上乗せしてもらえるなら、僕も…。」「お助け下さいギーシュ様、貴方が頼りなのです!」そういって、私はギーシュに抱きついたのでした。女は度胸!でもこれはいくらなんでも大胆過ぎるのです、ドキドキするのですよーっ!か…顔に出ていませんよね?『なっ!?』「お願いします、ギーシュ様。 どうか私のために頑張って貰えませんか?」「な…なははははは、仕方がないなぁ♪ 僕の可憐な蝶のためならたとえ火の中水の中さ、頑張って見せるとも!」た…ただの労働力、ゲットなのです。ついでに意趣返しもできましたし…ね。「ななななな…。」ギーシュに抱きついたまま、唇をわななかせているモンモランシーの方を見て、ニヤリと笑って見せたのでした。昨日私を挑発した報いなのですよ?「ななななななな…。」…ええと、何で才人まで固まっているのでしょうか?「…あ、あの、ひょっとしてこれ、本当に空を飛べるんですか?」黙って話を聞いていたシエスタが、固まっている才人の腕を掴んで自分にぎゅっと押し付けながら、私にたずねてきたのでした。「ええ、飛べるのです。 燃料を補給して、簡単な滑走路を用意すれば何時でも。」蒼莱の足回りの事は流石に知らなかったのですが、不整地である草原に不時着しても問題がなかったという事は、それなりに頑丈に作られているという事なのでしょう。そうであるなら、草を焼き払って軽く地均しすれば飛び立つことは可能な筈なのです。「才人、何でシエスタのお爺さんがこれに乗っていたのか、知りたくありませんか? 才人?サーイートー?」「…はっ!?なんだ夢か、ずいぶんな悪夢だったぜ。」才人を揺さぶると、やっと正気に返ってくれたのでした。何やらよくわかりませんが、悪い白昼夢を見ていたようなのです。「ええと、何でシエスタが俺の腕に…。」「そんな事よりも、シエスタのひいお爺さんがどういう人だったのか、シエスタに聞かなくて良いのですか?」「そんな事って…。」何で才人に強く胸を押しつけるのですか、シエスタ?「そ、そうだシエスタ、シエスタのお爺さんの名前を教えてくれないか?」「はい、ゲンジュローといいました。 貴族でも無いのに名字があって、ゲンジュロー・ムラータと。」ゲンジュロー・ムラータ…ムラータ・ゲンジュロー…ムラタ・ゲンジュウロウ?…私の記憶が正しければ、確か佐々木何某とという名前だったような?「…シエスタのひいじいちゃんの遺品とか何か残っているか?」「ええ、レシピ帳と、包丁と調理器具と…そうそう、マルトー料理長はひいおじいちゃんの料理のお弟子さんだったんですよ。 私はそのコネで、学院に雇ってもらったんです。」料理の弟子?戦闘機パイロットで、なおかつマルトーさんの師匠になるくらい料理人としての腕も良かったとは…。「そうだ、ひいおじいちゃんが生前自分のお墓を作ったんですけど、誰もそこに刻まれた字を読めないんですよ。 あの《竜の羽衣》の事がわかるなら、あの文字を読めるかもしれません。」そういうシエスタに連れられて来たのが、村の墓地。そこの中央近くにひたすら周囲から浮いている日本風の墓石がどーんと鎮座していたのでした。「ええと…村田家代々の墓? ここに眠っているのは貴方の一族なのですか?」「はい、その通りです。 読めるのですかミス・ロッタ?」まあ、これでも前世日本人ですし、読めるのですよ。「ええ…これはロバ・アル・カリイエの文字の1つなのです。」もちろん真実を教える事は出来ないのですが。「海軍少尉村田源二郎ここに眠る。」「サイトさんも読めるんですか!?」墓の横に刻まれた文字を読み上げる才人をシエスタが驚いたように見ているのでした。「あぁ…うん、俺もロバ何とかの出身なんだよ。」そう言ってから、才人はシエスタをじーっと見ているのです。じーっと、じーーーーーっと…って、何故に徐々に顔が近づいていくのですか?「あ…あの、そんなに熱心に見つめられると恥ずかしいですわ。」「んー…シエスタってさ、髪の色とか肌の色とか顔の作りとかに、何となくひい爺ちゃんの面影があるって言われないか?」ああなるほど、シエスタの日本人っぽい所を探していたのですね。「え!?ええ、はい、よく言われます。」「うん、やっぱりな。 シエスタの容貌って何となく俺の郷愁を呼び覚ましてくれるんだよ。 その黒髪と瞳のせいなのかなって思っていたけど、確かに良く見れば他にも何となく日本人っぽい面影がある。」それにしても料理人で村田源二郎…どこかで聞いたような記憶が、ううむ。「わたし、ひいおじいちゃんの面影があるって言われるの大好きなんです。 ひいおじいちゃんはこの村の食を大改革して、それによってこの村を豊かにしてくれたんです。 今では皆がハルケギニア中に散っちゃいましたけど、ひいおじいちゃんが生きていた頃はここには料理人たちが己を磨く為の道場があって、お弟子さんたちが日夜切磋琢磨していたんですよ。 タルブワインがここまで美味しくなって有名になったのも、ひいおじいちゃんが色々と試行錯誤してくれた結果なんです。」料理人…道場…あ…ええと、とんでもない人物に一人心当たりがあるのですけれども。「こんな所で何をやっているのですか、味皇様…。」思わず天を仰いで額を押さえてしまったのでした。いやまあ、ハルケギニアに呼ばれてしまったという事は味皇じゃなくて、ただの村田源二郎さんなわけですが。しかし蒼莱のパイロットをやっていたのですか、紺碧世界の味皇様は。「わあ、懐かしい。 ひいおじいちゃんの呼び名を知っているだなんて。 味皇様(ラ・オンプルール・デュ・キュイジーヌ)なんて、久しぶりに聞きましたわ。」わぉ、こちらの世界でも味皇は味皇だったのですね。やっぱり、美味しい料理を食べると例の『う・ま・い・ぞー!』が出たのでしょうか?知っていたら、万難を廃してでも亡くなる前に会いに来たのに…残念な事をしたのです。しかし…あの味皇の血がシエスタにも流れているのですか。まあどうでも良いといえば、どうでも良い事なのですが。「ひいおじいちゃんの遺品をお見せしますので、私の家までいらしてください。」シエスタに案内されたのは、村で一番大きな建物なのでした。「こちらがひいおじいちゃんの遺品です。 …とは言っても、殆どの料理道具はお弟子さんたちが形見分けで持って言ってしまったんですけどね。」」一室に案内された私達は、村田源二郎さんの遺品と対面する事になったのでした。「これは飛行帽とゴーグルなのですね。 蒼莱に乗るのであれば、借りた方が良いと思うのですよ、才人。」シエスタが取り出したのは、飛行帽とゴーグルと皮のジャケットと、あとは一振の包丁なのでした。どれも手入れがきちんとされていたせいなのか、問題無く使えそうなのです。包丁は才人が持っていてもしょうがありませんが。「…これ、貰っていいか、シエスタ?」「はい、どうぞ。 実はひいおじいちゃんが遺言で、あのお墓に書いてある文字が読める人が来たらあの《竜の羽衣》や、その服や帽子を譲っても良いと言っていたんだそうです。 あと、竜の羽衣を《出来る事なら陛下の元にお返しして欲しい》って、そう言っていたそうです。 物知りなミス・ロッタは置いておいて、才人さんがあの文字を読めたということは、ひょっとして…?」シエスタの探るような問いに、才人は大きく頷いたのでした。「ああ、俺は君のひい爺ちゃんと同じ国から来た。」「…という事は、陛下というのは才人さんが元々いた国の王様ですか?」「うん、王様じゃなくて天皇陛下って呼ばれているけどね。」高校生にしてはそのあたりに厳しいのですね、才人?「才人の国は人口約一億二千万人、日本と呼ばれるロバ・アル・カリイエきっての大国なのだそうです。 メイジは居なくて、あの蒼莱みたいな機械と呼ばれるもので生活を成り立たせているのだそうですよ。 ねえ、才人?」「え?あ、ああ…おう。」才人、アドリブが利かないのですね。「一億二千万人って、どう考えてもハルケギニア全土の人口を合わせた数より多いじゃない。 数え間違いじゃないの?」モンモランシーが信じられないという風に、肩をすくめたのです。「日本には戸籍制度っていうのがあって、国民一人一人を生まれた時から国が登録しているんだ。 だから、数字に間違いは無いよ。」「…だ、そうなのです。」トリステインの人口がおよそ200万人弱、ハルケギニア全土の人口をかき集めても3500万人くらい。そこから考えると想像不能な人口なのは確かなのですね。「ルイズって、ひょっとしてとんでもない国の平民を召喚しちゃったのかしら?」「想像が困難なほどの大国であるのは確かなのですね。」まあ何にせよ重なる事の無い世界ですから、気にしても仕方が無いのですよ。「…ひっく。」その夜、シエスタの家族が酒宴を催してくれたのですが、少々飲み過ぎた感があるのです。村長であるシエスタの父が直々に腕を振るってくれたのですが、流石は味皇の孫というか、どの料理の絶品だったのです。タルブワインもかなり良いのを出してくれたらしく、まさに甘露なのでした。「良い月なのれすねえ~。」呂律も回らないとは、かなりキているのですね。ちなみに現在私は酔い覚ましがてらにタルブの草原でぼけーっと体育座りをしているのです。…実は足にもキているので、歩くのが困難なのですよ。「あれ、ケティ?」「ん~、才人? こんな所で何をしているのれすか~?」おおぅ…才人がぶれて見えるのですよ。「たぶんケティと同じ、酔い覚ましだよ。 隣に座ってもいいか?」「いいれすよ~。」私がこっくりと頷くと、才人は私の隣にストンと座ったのでした。「シエスタにさ、話したよ。 俺がこの世界の人間でないこと。 ケティがせっかくフォローしてくれたけど、シエスタには話しておかなくちゃって思ったんだ。 シエスタのひいじいちゃんの事だから、誤魔化したままでいたくなかったんだ。」「成る程~、確かにシエスタにはちゃんと教えておくべきなのれすね~。 道理なのれすよ~。」ハルケギニアでは『聖地』にある世界扉から出てくるものも一緒くたにロバ・アル・カリイエの産物にされているので、才人がそこから来たというのも別に嘘ではなかったのですが、まあ良いのです。しかし、このアホみたいな口調は何とかならないものなのでしょうか?「明日は滑走路の造成を行い~、ギーシュ様とモンモランシーにガソリンのサンプルを作ってもらうのれす~。 しょれから~、え~と~…。」しまったのです、考えたりしたから脳が限界を超えてしまったのですよ、瞼が重くなって、ねむ…。《才人視点》「くー。」ケティがしゃべりながらぱたりと倒れて寝ちまった…。しかし、本当に酒好きなんだな、ケティって。「おい、こんな所で寝たら風邪引くぞ、ケティ。」「んにゃー、にゃむ…むにゅ。」揺らしても、むずがるだけで起きる気配がぜんぜんNEEEEE!「おーい、こんな所で寝てたら、Hな事しちゃうぞー…?」「どーぞ、ごかってにぃ~…むにゃ、ワイン…。」何…だと…?「おーい、嘘じゃないぞ、本当だぞ、本当にやっちゃうぞ?」「うにゅー。」沈黙は承諾と受け取って良いのだろうか?これは神の与えた千載一遇のチャンスか、大人の階段を駆け上るチャンスなのか!?いやしかし、しかしだ…悪い予感がするんだな、これが。最悪のタイミングで最悪のハプニングが起きるに決まっているんだ、今までの経験から言っても。「やめとこ…ケティにまで絶交されたら、俺もう死ぬしか。 どう考えても、ケティは俺の事をただの友達だと思っている節があるしなぁ…いやまあ、ただの友達なんだけどさ。」ルイズの事は今でも好きだ、好きなんだけど…絶交されたままなわけで、しかもあれは単なる偶然で、なのに理由を聞いてもくれなかったわけで。「しかし、普段は大人びいた雰囲気なのに、寝ると随分無邪気な表情だな。」「うーん…ギーシュ…んぅ…。」やっぱし、ケティはギーシュの事が好きなのかなぁ?「あいつがケティに何したってんだよ…。 俺なんか命の危機を救ったり…後は、えーと、えー…と?」決闘のときルール教えてもらったり、色々と助けてもらったのに、俺がした事といえば、頬擦りしたり、パンツ見たり、押し倒したり、殆ど真っ裸なところを見たり…。「あれ?むしろ貸し借り大赤字?」なんというか、虫のように嫌われていても全然おかしくないレベルのセクハラですよ!「あれは仕方が無かったんだ、つい、何というか、男のサガというか、ケティが相手だと無防備に甘えたくなるというかっ! 兎に角、兎に角だ、あれだけやっても嫌われていないし、友好的に接してくれるという事は俺の事も結構好きなはずだよな?」「にゅ?誰が誰の事を好きなのれすか?」うぉ!?ケティが急に起きた!?「え、えと、いや、だから…。」「いいれすか?私はいつもいつもいつもいつも才人とルイズの事を心配しているのれす。 ルイズは自分の属性のせいで、心がかなり歪み始めてしまっているのれす。 うにゅ…それを癒してあげられるのはあなただけなのれすよ? ルイズだけを見ておいて欲しいのれす。 それと、あなたには女の子を惹きつける魅力があるのれすから、私に頼り過ぎないで欲しいのれす。 最近あなたに頼られる事が楽しみになってきた自分が嫌になるのれ…すから…私ここれ以上惹きつけないれ、くらさぃ…くー。」ケティはぱたりと倒れてしまった。寝言…だったのかな?「そうか、俺に魅力を感じてくれているんだ、ケティは。」そういう事にしておく、なんか元気になるし。「とりあえず、嫌われないためにするべき事は…とりあえず運ぶか。」抱き上げてみると、結構軽いのに少しびっくりした。確かにルイズやタバサほどじゃないとはいえ、ケティは小柄な体格の部類には入ると思うけど。「しかし、柔らかくて、ふわふわしていて、いい匂いだ…。」匂いを思いきり肺に入れるくらいなら、問題無いよな?な?「誰に言っているんだ、誰に。」独り言が多くなるな、やっぱり緊張しているんだろうか、俺?「あれ?サイト? 抱っこしているのは…ケティ?」向こう側からやってきたのは、ケティの姉ちゃんのジゼルだった。「何か、酔っ払って話しているうちに寝ちゃったんだよ。」この人、俺より少し背が高くて、スラッと伸びたモデル体系なんだよな。ケティよりもつり目に見えるのは、たぶんポニーテールのせいかな?ケティは可愛い系なんだけど、ジゼルは格好良い系、年下の女の子に「お姉さま」とか言われそうな感じの。なのにいっつもケティに甘えまくっているから、いろんな意味で台無しだけど。「ありがとう、女の子っていってもなんだかんだで結構重かったでしょ? 私が代わってあげる。」そう言うと、ジゼルは呪文を唱えはじめた。「レビテーション。」「おわっ!?」急にケティの体から重さが消えたかと思うと、浮き上がった。「いや、そんなに重くは無かったんだけど。」「うん、知ってる。」そう言うジゼルの腕の中に、眠るケティはふわりと納まった。「だって、こんなに格好良くて軽くて良い匂いのするケティを他の人に任せるだなんて、ねえ?」「ふにゃー…。」ジゼルはケティを抱き寄せて頬をすりすりしているけど、ケティはちょっと嫌そうに眉をしかめている。なんというシスコン…って!?「あーっ、騙したな!?」「おほほほ、ケティは渡さないわ、さらば!」そう言うと、ジゼルは物凄い勢いでケティを抱きかかえたまま走り去ってしまった。「足はえー、ジゼル…まあいいや、帰って寝よ。」もうちょっとあの感触と匂いを感じていたかったなぁ…。《ケティ視点》「…何故?」翌朝、目が覚めると何故かジゼル姉さまの抱き枕にされていたのでした。タバサにも抱き枕にされているのです。しかも何故か私の上にキュルケが乗っかっているのですよ…。「暑い…。」3人に囲まれて眠るのは、流石にきっついのです。ハーレム?前世なら兎に角、今の私は女の子なのですよ…。「取り敢えず起き上がりましょ…起き上がれない!?」3人の腕と足が私の腕と足に絡み合って外れないのですよ…。「ああ、暑い…。」「おーい、ケティおはよ…う?」だから才人、レディの部屋を訪れる時はノックぐらいしやがれ、なのです。…ですが、今回はグッジョブ、許してあげるのですよ。「助けてください、才人…。」「助けるのはいいけど…触っても良いのか?」私はしょうがないと諦めますが、他の三人は未だ夢の中、流石にまずいかもしれないのです。「…シエスタとモンモランシーを呼んで来てください。」「おう、わかった。」才人に呼ばれてやってきたシエスタとモンモランシーに、指差されて笑われたのは言うまでも無いのでした。しかし、何でこんな事に…。昼過ぎになり、滑走路が何とか完成したのです。草を焼き払い、村の人たちに頼んで地均しをして、何とか500mの滑走路をでっち上げたのでした。もちろん、代金は全て今まで稼いだお金から支払っているのですよ。総額合わせて6000エキュー程。…結構な額になりましたが、竜騎士を呼んで運んでもらうよりは遥かに安い額なのですよね。ちなみにギーシュとモンモランシーは現在、村にある油を食用非食用を問わずに錬金で変質させて自動車用のハイオクガソリンに変えているのです…実は昨夜から。「…か、完成したわよ。」「こ…これが僕の本気さ。」燃料タンクの四分の三ほどの量ですが、これで十分なのです。デスマーチ、ご苦労様なのです。「二人ともお疲れ様でした。 取り敢えず今は寝てください。」「ええ、遠慮せず寝させてもらうわ…。」「精も根も尽き果てたよ、僕ぁ…。」二人はよろめきながら、肩を組んでシエスタの家に入っていったのでした。ううむ…これをただ働きさせるのは流石に鬼畜なので、ギーシュにも報酬を出しましょう。「では早速、これを蒼莱に注ぎましょう。」「ん、シルフィード、注いで。」「きゅい!」シルフィードはひと鳴きすると、木で作ったポンプのハンドルを口で持って回し始めたのでした。ガソリンがポンプで汲み上げられて、燃料タンクに注がれていきます。「んー…これは確かにガソリンの香り。」「いい香りなのですねえ。」ガソリンスタンドに漂う香りなのです。「しかし、こいつがハルケギニアの空に舞うのか…。」「感慨深いのですねえ。」燃料を注がれる蒼莱を見て感慨深げな才人に同意します。取り敢えず、弾倉から弾を一発抜いてきたので、これを何とかして複製できないものか粘ってみるのですよ。57mm弾…一日一個でもいいから、何とか複製できれば良いのですが。「ああそうなのです、防弾板と無線機を外して後部座席を取り付けたので、宜しくお願いしますね。」「…素早い、さすが元軍オタ、抜け目ねーな。」当たり前なのですよ、架空戦記の戦闘機に乗れる機会なんてそうそうあるものではないのですから、張り切って当然なのです。しかし、このハルケギニアの世界扉は才人の世界にだけ繋がっているわけではないのですね。聖地にヤクトミラージュが転がっていても、もはや何ら不思議ではないのですよ。「別に趣味だけで同乗するわけでなありませんよ? 才人だけで学院の近くに着陸したら、騒ぎが起きて収拾がつかなくなる可能性が高いでしょう。 私も乗っていれば、ある程度の誤魔化しもつくというものなのです。」「あ…そうか、この世界じゃ平民は空を飛べない筈だもんな。」そういう事なのです。「他の皆はどうするんだ?」「シルフィードで帰って来て貰うのです。 残念ながら、蒼莱は二人が限界ですし。」一人用のところを無理して乗るのですから、もうどうにもならないのですよ。「燃料注入終わった。」「才人、コックピットへ行ってエンジン始動の準備をして下さい。 私はプロペラを回すのです。」レビテーションのベクトルを回転様にいじって…こんな感じですか。「レビテーション。」こんな即興魔法にいちいち発動ワード考えるほど私は詩的才能に溢れてはいないのですよ、どうせ。「へえ、この二つの風車、逆方向に回転するのね。」「ええ、二重反転プロペラと言うのですよ。 ああキュルケ近づかないでください、プロペラがこれからものすごい勢いで回るので、吸い込まれたら一瞬で挽肉になるのですよ。 それでは才人、エンジンを始動させて下さい。」キュルケがもの珍しそうに覗き込んでいるので、注意して留まってもらったのです。「おっけー、んじゃいくぜ!」バスン!バスン!という音が何回か鳴った後、バスバズバズバス…という連続した音になっていき、プロペラの回転数もどんどん上がっていきます。とうとうバババババババババ!という爆音に変化したのでした。「きゃあああああああっ!?」シエスタのスカートが物凄い勢いではためいているのです。それを、風に吹き飛ばされそうになりながら、村の男達が鼻の下を伸ばして眺めています。…後ろに立つなというのをすっかり忘れていました。「シエスタ、さあ、こちらへどうぞ。」「ミス・ロッタ、パンツ、パンツ!」シエスタが必死になって呼びかけてきますが、私のミスなのですからパンツの一つや二つ、見えたところでしょうがないのですよ。前世の経験から考えても、堂々と見えっぱなしだと逆に劣情を誘わないものですし。「ふう、すいませんシエスタ、すっかり忘れていたのですよ。」「ありがとうございます、スカートが捲れるのも気にせずに助けに来ていただいて…。」改めてそう言われると、かなり恥ずかしくなるからやめて欲しいのですよ、シエスタ。「それでは私と才人はこの蒼莱で、一足先に学院に帰るのです。」「えー?ケティだけずるくない?」キュルケが口を尖らせて文句を言い始めました。「な、何でミス・ロッタなんですか、私でも良いじゃありませんか?」シエスタも不満そうに眉を吊り上げているのです。「私もケティと一緒に乗りたいー!」ジゼル姉さま、才人が降りたら操縦できる人がいないのですよ…。「……………。」最後にタバサ、本を読みながら何度もこちらを意味ありげな視線でチラ見しないでください。「これが学院の近くに着陸すれば、必ずや大騒ぎになるわけですが…。 …この蒼莱がどうやって飛んできたのか、うまく説明できる人が私以外にいるならどうぞ?」ええい、確かにこれは殆ど趣味ではありますが、理由だってきちんとあるのですよっ!「そういう面倒臭いのは簡便だわ、学院に帰ってから乗せてもらおうっと。」キュルケなら、きっとそういうと思っていたのです。「うう…ミス・ロッタずるい。」今回は勘弁して欲しいのです、シエスタ。「うう、私がソウライの扱い方がわかれば…っ!」だから、何で才人を排除しようとするのですか、ジゼル姉さま?「残念。」「きゅいぃ…。」シルフィードが切なそうに見ていますよ、タバサ。「異論は無いのですね、ではまた後で会いましょう♪」「…自分の趣味の為に皆を言いくるめるか、普通?」コックピットに入ると、才人がボソリと言ったのでした。「趣味の為でなかったら、ここまでの強攻策は取らないのですよ?」「何かが激しく間違えているような気がする…。」頑丈な椅子を加工して作った仮設の座席に、自分の体をしっかりと縛り付けていきます。仮設の座席をしっかり作っておかないと、私の後に乗るルイズが戦闘機動であちこちに体を打ち付けて、無残な事になってしまいかねないのですよ。ヒロインとして色々とNGでしょう、それは?「まあいいか、じゃ行くぞ!」才人の声とともに蒼莱はゆっくりと動き出し、急速に加速し始めたのでした。「うひゃあ、揺れる、ゆ~れ~る~!?」「黙ってないと舌噛むぞ!」前世で渡米するときに乗ったジャンボジェット機とはぜんぜん違う離陸なのですよ、物凄く揺れるのです。今度滑走路を作るときは、もう少しきちんと整地しましょう…。「あ…、揺れが。」「離陸したぜ、ケティ。」急に揺れがやんで、ふわりと持ち上がった感覚がしたのでした。「凄い上昇速度、流石は蒼莱なのですね。」あっという間にタルブの村が遠ざかっていくのです。「蒼莱は確か高度12000メートルまで上昇できますが、やめてくださいね?」「何で?」「外気温が-20℃くらいになるのですが、行きたいのですか?」蒼莱は与圧が比較的しっかりしているらしいですが、簡便願いたい気温なのですよ。「高度3000メートルくらいにしておくな…。」賢明な判断なのですよ、才人。この後私たちは一時間弱の空の旅を楽しんだのでした。