媚薬、それは人の心を性的に操る薬地球でも色々と媚薬は開発されてきましたが、全部興奮剤の類なのです媚薬、それは相手を熱烈に愛するようになってしまう薬人の心を容易く操ろうなんてのは、間違っているのですよ媚薬、それは偽の恋愛を引き起こす薬性的に操ったって、本当の恋愛には程遠いのです「やっちまった。 金貨のインパクトと姫様の微笑みに釣られてつい…。」才人が頭を抱えているのでした。「東に行きたいとか言っていたのに、安請け合いしちゃって。 取り敢えず、頭抱えたまま歩くとか、奇怪だからやめなさいエロ犬。 姫様の微笑みに盛るなんて、不敬よ、不敬、斬首ものだわ。」「さ、盛ってなんかいねぇよ。」顔を赤くしているところを見ると、姫様の色気に一撃でやられたのが丸わかりなのですよ、才人。「はは~ん、顔を赤くして何言ってんだか、このエロ犬は。 あんたが盛っているかどうかなんて、このご主人様にはまるっとお見通しなんだからねっ!」「ああそうさ、姫様にドキドキしちまったよ不覚にも。 悪いか?いいや悪くないね。 俺には別に恋人がいるわけでもないし、可愛い女の子に微笑みながら頼まれたら嬉しくなるのは男の性ってもんだ。」うわ、正々堂々と認めやがったのですよ、才人。「悪いか?ええもう悪いわよとっても重罪よ、だって…だだ、だって、だだだだ。」ルイズが壊れたCDみたいになったのですよ。「ととと、兎に角、駄目なものは駄目なの! あんたは私の使い魔なんだから、私そばにいなきゃ駄目なのよ。 それが決まりでルールで規則なのよ、義務なの!」兎に角、一緒に居ろという事なのですね、わかります。「わけわかんねえよ。 なんかすげえがんじがらめな感じ?」ううむ、全然気づかずに不平を漏らしているのです。鈍すぎるのですよ、才人。「義務とか規則とか、そういう言葉で縛られるのってすげームカツク。」中二病ですか…まあ、思春期に良くある麻疹みたいなものですね。ルイズの気持ちを全く酌めていないのが物凄く不味いのですが。「なんですって!?」はぁ…ルイズはどこかに行っちゃ嫌と言っているのに、才人は気づかないと。…まあ、私も同じ立場に追い込まれたら、恥ずかしくて抽象的な物言いになってしまう可能性が高いのですが。「おやまあ…。」いつの間にか才人が居なくなっているのですよ…私まで置き去りなのですね。ルイズがぽつーんと一人で突っ立っているのです。「そんな…言葉で縛る気とか、無いもん。」軽く涙の浮かんだ瞳で、ボソリと独り言。二人とも、私を完全に置き去りにして話を進めているのが、ちと気に食わなかったのですが、このルイズを見られただけで全部チャラなのです。こ、これは…とても萌える。「伝えたいけど伝えられないその気持ち…乙女なのですね。」これはハグせざるを得ません。ええ、ええ、不可抗力なのですよ、必然なのです。「わきゃっ!? な、なんなの…って、ケティ? あ、あれ?才人と一緒に行ったんじゃ?」「取り敢えずあの乙女心の『お』の字もわからない、朴念仁は放っておくのですよ。 いずれ心配になって探しに来るに決まっているのです。」んー、ルイズ、良い匂いなのですよ。「うぃーっく!」その時、ドシンと私の背が何者かに押されたのでした。「うひゃぁっ!?」「むぎゅ!?」私とルイズはよろけてそのまま転んでしまい、ルイズは私の下敷きに。ルイズ一人なら、かすりもしなかったでしょうに、私が抱きついていたばかりに避ける事もままならなかったようなのですよ。「おうおう貴族の姉ちゃん達、ぶつかっておいて御免なさいも無しかよ?ひっく! うぃー…誰のおかげで、この国が守られたと思ってんでぃ!」「んなっ!?ぶつかったのはそちらでしょう?」戦に勝って大喜びなのは良いですが、昼間から泥酔し過ぎなのですよ、兵隊さん?「姉ちゃん良く見りゃけっこう別嬪じゃねえか。 酌しろや、そしたら許してやらあ。」酒癖の悪そうな兵隊は、そう言って私の肩を掴み、酒臭い息をかけて来たのでした。…酔っ払いだと思って、大目に見ていましたが、少し頭を冷やしてもらいましょうか?「それ以上の狼藉を働くようなら、こちらにも考えが…って、何なのですか、ルイズ?」「ケティ、ちょっと、退いて…。」「る、ルイズ、何を?」ゆらりと立ち上がったルイズが、私を押しのけたのでした。「あ?なんだこの小娘?子供が何の用だよ? 俺はこっちの姉ちゃんに用があって…。」「ケティより、私の方が年上よぱーんち!」ルイズの全体重を乗せた拳が、兵隊の腹に深々と突き刺さったのでした。「ぐはぁっ!?て、てめえ何を…。」「誰が子供よきーっく!」パンチに体をくの字に曲げた兵隊の顔面に、ルイズのひざ蹴りがめり込んだのでした。「が…ぁ!?」あまりの衝撃に、兵隊の体がぐらりと揺らぎ、倒れてしまったのでした。「何で年下のケティは姉ちゃんで、私が子供なのよ! あんた目がおかしいんじゃないの!? だいたい何で昼間っから酒呑んでんのよ!昼間に酒とか馬鹿じゃないの! 酒は夜になってからゆっくり楽しむものだって事くらい知らないわけ!?」「……………。」へんじがない、ただのしかばねのようなのです。「私は今とっても気が立ってんのよ、刺激しないでよホントにもう!」「ルイズルイズ、その兵隊さんは既に気絶しているのですよ。」泥酔していたのが原因なのでしょうが、兵隊はあっさりと意識を手放してしまっていたのでした。「ああっ、ジャン!? てめえ、何処のモンだか知らねえが、何しやがんでい!」「よくもジャンを!」殴り倒された兵隊の仲間と思しき兵隊たちが、わらわらと出て来たのでした。「その倒れている愚かものが、私達にぶつかっておきながら絡んできたので、ルイズが軽くのしただけなのですよ。 とっとと連れてどこかに行けば、この件は見逃してあげます。」「なんだと、小娘の分際で生意気言いやがって! こちとら兵隊様だ、いくらメイジでも小娘ごときに怯むかよ!」ああもう、なんだってこんな酔っぱらった兵隊ばかりがわらわらと。「そこまで言うなら良いでしょう、かかって来なさいな?」ブルース・リーみたいに、掌をくいっくいっと曲げて、挑発してみたりして。「わわ、なんだかケティが怒ってる?」ルイズがびっくりしていますが、当たり前なのですよ。王都の治安を守るべき兵が、酒呑み過ぎてくだ巻いて一般市民に迷惑をかけているのでは、本末転倒も良い所なのです。貴族として、これを見過ごすわけにはいかないのですよ。「この小娘がぁ!殴り倒したら今夜は全員の相手をさせてやるから覚悟しやがれ!」「まぁ怖い、それは負けるわけにはいかないのですね。 取り敢えず、頭冷やしましょうか? 私の炎は頭を冷やすのにはもってこいなのです。」そう言って、私は呪文を唱え始めたのでした。「近距離で呪文だぁ?舐めやが…うお!?」「わたしを忘れるとか、莫迦ね。」ルイズは私に殴りかかろうとした兵隊の腕を掴んで引っ張り、その勢いを利用して兵隊の巨体を宙に舞わせ地面に落としました。「眠っていなさい。」「ぶっ!?」そう言って、ルイズは兵隊の頭を思い切り蹴飛ばして気絶させたのでした。…ううむ、これは合気道か何かですか?いったい誰に教わったのだか。「わたしは魔法が昔から大の苦手だったけどね…殴ったり蹴ったり投げ飛ばしたりするのは昔から大の得意よ?」ううむ、炎の矢で吹き飛ばそうと思っていたのですが、虚無の使い手なのにガンダールヴみたいなのですよ、ルイズ。これからはラ・ヴァリエールの喧嘩番長と呼びましょう、怖いから心の中でこっそりと。「ルイズ、大丈夫か…って、めっちゃ大丈夫そうだな?」騒ぎを聞いて駆けつけてきた才人が、拍子抜けした表情でルイズに言ったのでした。「勿論、酔っぱらった兵隊程度なら、私でもどうにかなるわよ。」普通はどうにかならないのですよ、ルイズ。私だって杖が無かったら、あっという間に組み伏せられてしまうのです。「まあいいや、こっちは三人、そっちも三人。 おれも強いぜ、さあどうする?」「お、やっと出番か?斬れるのか?斬れるんだな? 抜かれるよ、そして斬るよ!」才人はデルフリンガーの柄を握って見せたのでした。まあそれは良いとして、黙れ妖刀。「う…きょ、今日の所は見逃してやらあ。」「覚えてやがれ!」兵隊たちは、倒れた仲間を担ぐと立ち去って行ったのでした。デルフリンガーの放った殺気というか食欲というか、そんなものに気圧されたのですね、わかります。「びびび、びっくりした…。」兵隊たちが去って行った後、ルイズはぺたんと座りこんでしまったのでした。「とっさに体が動いてくれてよかったわ。 あと、相手が泥酔していて助かった…。」「ぶっつけ本番だったのですか、ルイズ?」私がそう聞くと、ルイズは無言でこくりと頷いたのでした。「取り敢えずハッタリかまして、あとは高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する…ケティが良く使う手でしょ? 私はケティみたいに口が上手くないから、いちばん得意な方法でやったけど。」何処のアンドリューさんなのですか、私は。確かにハッタリかまして驚かせた後で、自分の思う方向に口八丁手八丁で誘導するという方法をよく使いはしますが…。取り敢えずブッ飛ばしてから『話し合う』のは私ではなく、某時空管理局のN.Tさんの十八番なのですよ。「成程、自力でなのは式説得術を会得したのですね。 おめでとうございます。」「えーと、よくわからないけどありがとう。」きょとんとした表情で、ルイズは私の賛辞を受け入れたのでした。「あと、あの許可証を使わなかったのも、良い判断だったと思うのです。」「勿論、あんな雑魚相手に使ったりはしないわよ。 ああいうものはしかるべき所で必要な時だけ使うというのが鉄則でしょ?」さすがルイズ、権限を行使する際のTPOは理解していましたか。後は…。「才人、怒るのは貴方の勝手ですが、はぐれないようにして欲しいのです。」「え?俺ってはぐれてたの?」私とルイズは二人、才人は一人。どちらが迷子かなど一目瞭然なのですよ。「はぐれないように…こうしてしまいましょう、えいっ。」そういって、私は才人の左腕に腕を絡めたのでした。「え…ちょ!?」「なななな何してんのよ、ケティ!?」才人は顔を真っ赤にして恥ずかしがり、ルイズは顔を真っ赤にして怒っているのです。「ほらほら、ルイズも右腕にしがみ付くのですよ、早く早く。 こうしておけば、才人が私たちからはぐれて迷子になってしまう事も無いのです。」そう言って、ルイズを促してみたのでした。「う…し、しょうがないわね、あんたが迷子になると探すのが面倒だものね。」「ぬぉ、ルイズまで!?」ルイズも顔を真っ赤にしながら、才人の右腕に抱きついたのでした。「べ、別に二人して抱きつかなくても…。」才人は慌てて私たちを振りほどこうとしますが、かかる力が弱弱しいのですよ。「両手に花なのですから、役得だと思って観念するのですよ。」「そうそう、観念なさい。」生まれて始めてのモテモテイベントを楽しむが良いのですよ、才人。「仕方がねえなぁ。」とか、溜息を吐く才人ですが、顔のにやけが抑えきれていないのですよ。見回してみれば王都トリスタニアは戦勝ムードの真っ只中。町の中には露天が立ち並び、兵隊外にも酔っ払った人たちがちらほら歩いているのです。まさにお祭り、浮かれて酔っ払い過ぎた兵隊とかがいなければとってもいい雰囲気なのですよ。「日本の祭もこんな感じだったなぁ…。」うっ、気づけば才人が望郷モードに…。ルイズが『どどどどうしよう?』と目配せしてきます。いや…ホームシックに妙薬は無いのですよ?「ああっ、あれ、あれ、あれが見たいわ才人。」ルイズが指差したのは、露天の装飾品店なのでした。ナイス話題逸らしなのです。「ああ、良いのですね、私も少々覗いてみたいのです。」装飾品ゼロの私が言うと空々しいような気もしましたが、仕方がありませんよね。「二人がそう言うなら、行ってみっか。」才人が頷き、私たちは露天に向かって歩いていったのでした。「ふーん…ふむふむ。」ルイズが棚に並んだペンダントやら指輪やらを興味深く見ているのです。見たところ大半が銀製で、そこそこな代物ですが、トリステインの貴族が好むデザインではないのでした。おそらくこの派手さから言うと、派手な装飾を好むロマリアでもずば抜けて派手好きの人間がこしらえたものの…コピー品ではないかなと思われるのです。キュルケなら喜びそうですし似合うかもなのですよ。入っている宝石が水晶で無ければ…なのですが。「あ、これ良いかも?」それは確かに今まであったものの中では一際地味というか落ち着いたデザインであり、トリステイン貴族の許容範囲に入るデザインなのでした。…やはり宝石が安価な水晶ですが。「欲しいか?」「でもわたし、持ち合わせが無いわ。」ルイズは残念そうに溜息を吐いたのでした。「それでしたら…4エキューに負けておきましょう。」「うぅ、あと一声欲しいところだわ。」店主が値引いてくれましたが、ルイズは悩んでいるのです。「デルフリンガー買ったせいで、今月分のお小遣いが底を尽きかけているのよね。」「残念ですが、これ以上は引けませんや。」そういいながら、店主はその首飾りを引っ込めようとします。「よし、買った。 …ンでケティ、4エキューってどんくらい?」「その金貨を4枚なのですよ。」先ほど姫様から貰ったお金は、後で学院に届けてもらえるそうなのですが、その前に才人は一掴み分のエキュー金貨を、持っていたがま口財布に入れていたのでした。がま口の財布なんて久しぶりに見たのですが、才人はあれを地球でも使っていたのでしょうか?渋い、渋すぎるのです。「サンキュー、じゃあはい、4エキュー。」「まいどあり、はいどうぞ貴族のお嬢様。」残念そうだった店主の顔がびっくりするくらいの笑顔に変わり、ルイズに首飾りを差し出したのでした。「わ、ありがとう才人。 ど…どうかしら?」貝殻細工に銀の鎖を通して作られた首飾りは、ルイズに似合っていると思うのです。「お、おう、似合っているぜ、綺麗だと思う。」「ええ、よく似合っているのですよ、ルイズ。」「えへへへ、そう?」私達が褒めると、ルイズは照れたように笑って見せたのでした。「そうだ才人、ケティにもなんか買ってあげなさい。」「確かにそうだな…ケティは何が欲しい?」急に私に振られても、装飾品類は姉さまたちのお下がりだったので、今までこだわった事がないのですよ。「え?えーと…うーん…。」他人の事ならある程度わかりますが、いざ自分となると何をどうしていいのやら?ルイズより安そうなのは…。「これなんてどうかしら?」ルイズが指差したのはルイズと同じような細工が施された貝殻細工を嵌め込んだ銀の髪留めなのでした。でも、どう見てもルイズが持っているのよりも、銀の量が多くて高そうなのですよ、これ。「それでしたら…。」店主は私の顔をちらりと見てから。「…仕方がねえ、さっきと同じ4エキューで結構でさあ。」空気を読みましたね、店主。天晴れなのです。「はいどうぞ、貴族のお嬢様。」手渡されはしましたが、鏡も無しにこれを付けるのは至難の技なのですよ。「私が付けてあげるわ…よいしょ…うん、こんな感じね。 やっぱり、このくらいの髪の長さには、こういう髪飾りが一番似合うわ。 ワルドに髪をやられて落ち込んでいたから、気になっていたのよね。」ルイズってば、私の髪の事を気にかけていてくれたのですか。「どうサイト、似合うと思わない?」「うんそうだな、似合っていると思う。 なんだか、すげえ可愛い感じになった。」才人もにっこりとそう言ってくれたのでした。「あ、ありがとうございます。」正面からそんなことを言われると、照れてしまうのですよ。思わずもじもじしてしまうのです。「う…ええと、じゃ、じゃあそろそろ帰る…か…!?」いきなり帰ろうとした才人の動きがぴたりと止まったのでした。「お…お…おおおおおおぉぉぉぉぉ。」才人はふらふらとその露天まで歩いていき、一着の服を手に取ったのでした。「こ…これは。」「お客さん、お目が高いねえ、それはアルビオンの水兵服でさ。」水兵服、つまりはセーラー服…才人の心の中が手に取るようにわかるのですよ。なんという煩悩まみれ。さっきの感動を返せコンチクショーと言いたいのです。「い、い…いくら?」「4着で1エキューでさ。」高っ!?古着にその値段はボッタクリもいいところなのですよ。完全に足元見られているのです。「買ったっ!」才人…まさか私にそれを着ろとか言わないでしょうね?「頼む!これを着てくれっ!」「炎の矢。」予想通り繕い直したセーラー服を差し出してきた才人を、炎の矢で問答無用でぶっ飛ばしたのでした。「だ、だって…シエスタだと日本の女子高生的な雰囲気が再現できなくて。」煙を上げながら、それでもセーラー服だけは死守した才人が、私に訴えかけてくるのです。「私だって、前世の記憶は男のものなのですよ。 しかも今の私はどう見ても欧州系コーカソイド。 女子高生を再現なんて、出来るわけが無いのです!」部屋にタバサが居なくて良かったのですよ。彼女は現在お出かけ中、今頃ラグドリアン湖畔の実家に居る筈なのです。「中身に日本人の部分があるってだけで、かなり違うような気がするんだよ。 頼むよぉ…俺の望郷の念を満足させてくれ、お願いだよぅ。」望郷の念というよりも、ただの煩悩のような気がするのですが。「頼むぅ、一生のお願いだよぅ。」ああもう、これは着なければ収まりがつかなさそうなのですね。「はぁ、わかりました…着ますから存分に失望すれば良いのですよ。 で…何時まで部屋に居るつもりなのですか?」何度か裸を見られてはいますが、だからと言って着替えを見せる気はないのですよ、才人?「わかったヨ、何時までだって待つさァ。」目を虚ろに…しかし爛々と輝かせた才人が、ふらりふらりと歩きながら、部屋を出て行ったのでした。物凄く、判断を誤った気がするのですよ。「まあ、言ってしまったものは仕方が無いのですよね。 着替えますか。」このスカートは学院の制服を改造したものなのですね…無駄に凝っているというか。兎に角着替えましょう。「スカーフを巻いて…これでよし…と。 才人、着替え終わったので、入って来て良いのですよ。」「おう、失礼するぜ。」着替えが終わり、姿見で自分の格好を確認してから才人を呼びました。「炎の矢。」「ふんぎゃー!?」炎の矢で才人をもう一度ぶっ飛ばしたのでした。「な…何すんだよ、ケティ?」「才人、これはどこの風俗嬢の格好なのですか?」上着の丈が短くて臍は丸出しですし、スカートも少し動けばパンツが見えてしまうくらい短いのです。「い…いやだってさ、何つーか、男の夢って感じが。」「絶望した!才人のオッサン臭さに絶望したっ!」そんなオッサン臭い嗜好、前世の私ですら持っていなかったというのに、この高校生ときたらっ!…と、ふと気付くと、才人が倒れたままなのに気付いたのです。「ど…どこ見ていやがりますか、才人?」「え?いや、うん、男のロマン的な領域?」才人の顔からだらだらと滝のように汗が流れ出て居るのです。「でてけーっ!炎の矢!」「すんましぇーん!」才人には炎の矢と共に御退場願ったのでした。「さて…このセーラー服、どうしましょうか?」丈を直してもう一度着てみましょうか?こういうものに興奮する趣味はありませんが、郷愁みたいな感覚はありますし。「才人はなっちゃいないのですよ、美学に欠けるのです。 セーラー服といえば、膝下までの丈のスカートに白ハイソと相場は決まって居るのですよ。」あれ?どこからともなく、お前もかというツッコミが聞こえたような気が…?次の日の夜、悲鳴と共に才人が走っていったので、後をつけてみる事にしたのでした。入っていったのは…モンモランシーの部屋?ひょっとして、媚薬のエピソードなのでしょうか?取り敢えず、私もノックをして入る事にしたのでした。「モンモランシー、入りま…。」「こぉの駄犬がああああぁぁァァァっ!」私がドアのノブに手をかける前に、ピンク色の突風がドアをぶち破ったのでした。「あらー…。」中に入ると、ギーシュは変な薬品を全身に浴びて痙攣しており、モンモランシーはベッドに突っ込んでいるのです。「な…何考えてんのよ、あんた達…ガク。」あ、モンモランシーが力尽きたのです。「丁度いい所に着たわねケティ、才人を一緒に探して頂戴。 景気付けにこれでも半分飲んで。」「ちょ、うぷっ!?」そう言って、ルイズは何時の間にやら手に握ったワイングラスの中のワインを私の口に半分注ぎ込み、それから自分も一気に呷ったのでした。「ぷはぁ!いいワインね、これ。」確かに美味しいワインでしたが、これは…かなりまずい事になったような気が。「さあ駄犬、出て来なさい!」「サイトハ、ココニハイマセンヨー。」「そこかっ!」そう言って、ルイズはベッドの布団を剥がしたのでした。「ああぅ、あぅ、あぅ…。」才人の怯えた顔を見た途端、私の心に電撃が走り始めたのですよ。まずい、このままでは私まで才人に。「こ…これに抵抗しろとか無茶な…でもしなきゃ、心が陥落してしまうのです。」「才人の莫迦、莫迦莫迦莫迦、何でわかってくれないのよぅ。 酷いわ、酷過ぎるわ。」ルイズが才人をポカポカと叩いているのです。いつもの無双っぷりが嘘みたいな、可憐で華奢な見た目にぴったりな弱々しい叩き方。あれは完全に堕ちてしまっているのですね。「な…なんで、体が勝手に…。」体が勝手に才人の方に向かって歩いていくのです。ああ、何というか才人がとても格好良く見えるのですよ。「才人…大好きなのです。」薬で変えられた感情だというのは理解しているのですが、抑えきれないこの感情はいかんともし難いのです。「うぉ、ケティまで!?」「こんな感情、正常ではないのに、何故抑えられないのでしょう。 理性が塗り潰される感覚が、なぜかとても心地良いのです。」ああもう、これで私は役立たず決定なのですよ。その前に、私とルイズが迫るのに才人が耐え切れるのでしょうか。耐え切れなかったら、薬が解けたあと物凄く微妙な事に…でもそんなのどうでも良いから全てを委ねてしまいたいのです。…って、まだ駄目なのですよ、それは。「ぐっ…さ、才人、私はあなたの事が大好き…ではなくて、何か強制的に異性に好意を持たせる魔法が私とルイズの心を蝕んでいるようなのです。 というかモンモランシー、さっさと白状なさいな!」「う…嘘、あの薬に耐えているの、ケティ!?」モンモランシーがびっくりって、どんだけ強力な媚薬なのですか、これは。「もうすぐ完全に心が塗り潰されるでしょうけれどもね。 材料費が足りないなら私があとで立て替えますから、解除の薬を早く作ってください。 それと、才人に手早く眠る為の睡眠薬を処方して欲しいのです。 あと、今回私は役立たずと化しますから、後は宜しく。」「ちょっと、まって!?」薬に逆らったままでは私の心が壊れてしまいますから、逆らうのをやめて、薬の効果に身を委ねるとしましょう。ああ…もう駄目…才人大好き…。《才人視点》「パ、パラダイス地獄だ…。」「んぅ…。」「くー…。」右手にはルイズ、左手にはケティ。美少女に挟まれて今俺は…眠ろうとしても眠れない。二人の柔らかい色んな部分が俺に押し付けられてくるんだから、興奮して眠れる筈がねーだろ!「そ、そういえば、モンモランシーから貰った睡眠薬があったな。」正気を失う前のケティは、これを見越してくれていたらしい。これはとても有り難いぜ。「飲むと朝までグッスリ気絶するとか言ってたな。 しっかし媚薬とかモンモンの奴、無茶な薬を作りやがって。」薬を水で流し込み、少ししたらいきなり意識がストンと落ちて、目が覚めると朝だった。「むー!才人から離れなさいよ、ケティ!」「嫌なのですよ、才人は私のなのです。」しかもルイズとケティが睨みあっている。「事態が悪化してやがる!?」何がどうしたらこんな事に!?ああそうか、モンモンの野郎のせいか、いやいや、モンモンにあんなモン作るきっかけを与えたギーシュのせいか?モンモンは女の子だし結構美人だから、悪いのはギーシュだ。「結論!ギーシュが悪い!」ふっ、我ながらなんという鋭い推理。いつもながらパーフェクトだぜ、俺…とか莫迦やっていないで、とっととこの状況を何とかしないとえらい事になりそうだ。特にケティがこんな事になっていると知れたら、俺はジゼルにぶっ殺されるかもしれん…と言うか、奴なら俺を葬り去る良い機会だと判断して嬉々として殺しに来る。発見されたら俺はおしまいだ。「んー…ちゅっ。」左の頬に何やら暖かくて柔らかい感触が…。「け、ケティ何を!?」「目覚めのキスなのですよ、才人。」はにかんだ微笑が、超絶に可愛いぜこんちくしょー。媚薬の効果でさえなけりゃあ、絶対に押し倒しているのに…。「あ、ケティずるいわ、私も…ちゅっ。」こ、今度はルイズだと!?「負けないのですよ、ちゅっ。」「私だって、ちゅっ。」だ、駄目だ、これは駄目だ、こんなのがずっと続いたら俺は確実に駄目になる。二人に溺れきって、へにゃへにゃのアホになる。「ふ…二人とも、これ飲んで?」俺は睡眠薬を二人に手渡した。「薬…?」「睡眠薬なのですね。」眠っていてくれれば、取り敢えず何とかなる筈。「それを飲んでくれると、俺はとっても嬉しいなー。」俺の笑顔は今、確実に引き攣っている。薬でおかしくなっているとは言え、この二人を騙すのは心苦しいぜ。「ホント?じゃあ飲むわ。」「ルイズには負けていられないのですよ。」ルイズは兎に角、普段はあれだけ慎重なケティまでもがあっさりと薬を飲んで寝てしまった。「むにゃ…。」「すー…。」「こりゃ本当に駄目だな。 取り敢えず、飯食ってからモンモンの所に行くか…。」俺はベッドから降りて、着替えてから部屋を出たのだった。「ほほう。」飯食うついでに事の次第をかくかくしかじかと説明したら、シエスタの顔色が変わった。「つまりモテモテというわけですね、才人さん。」「いやだから、薬のせいなんだって。」ええと…何でシエスタさん激怒しているんでしょうか?笑顔で怒るとか、なかなか見ない怒り方なんですが。「ミス・ヴァリエールだけじゃなく、ミス・ロッタまで。 へーえ、ふーん…。」笑顔が、笑顔が冷たいデスよ、シエスタさん。「あの二人にベタベタイチャイチャ…。」「いや、解毒薬作ってもらうつもりだから。 こんな状況でベタベタされてもなんかするわけに行かないから、蛇の生殺しだから。」ルイズとケティが色っぽく迫ってくるのに何も出来ないなんて、これなんて罰ゲーム?俺何か悪い事しましたか神様って、感じなんデスよ、シエスタ様。だから、お願いだから、痛いから、足ぐりぐり踏んづけないでシエスタ様…。「…まあ、これくらいで勘弁してあげます。 でも確か、惚れ薬とか精神に強い影響を引き起こす類の水の秘薬って、許可取らずに作ったら犯罪だったような?」「へえ、そうなのか?」ふむ、モンモンが解毒薬を作るのを渋った時に使えそうなネタだな、これ。「ええ、実はこの前取り寄せようと思って調べてみたら…って、これは余計でしたわ、おほほほほ。」「あはははは…。」わ、笑うしかねえ!これは冗談だし、冗談じゃなくても誰に使う気だったんだとか考えちゃいけねえことだ…。「そ、そんな事は兎に角、お二人とも薬で心を変えられているんですから、いくら迫られても手を出しちゃダメですよ。」「ああ、勿論だよ。 そんな事をして、正気の戻った時に俺の命が長らえる保証が無いし。 ルイズもそうだが、ケティも怒らしちゃ拙い気がするんだ。 つーか、その前にジゼルにブッ殺されるだろうけど。」宝探しの時、ジゼルはヒートウェイブとかいう魔法でゴブリンを蒸し焼きにした実績がある。やたらと器用に魔法を使いこなすのは、さすがケティの姉ちゃんって所か。あれ喰らったら余裕で死ねるぜ、いやマジで。「そ、それで…ですね、もしも辛抱しきれなくなったらですね、わわ私の所に来て下さいね。 わ、私がサイトさんのよよよ欲求不満の解消にきょ…協力しますからっ!」「え…いや…えーと。」メイドさんが欲求不満の解消とか、これなんてエロゲ?「わ、私じゃご不満ですか…?」シエスタがしゅんとした感じになって、俺を上目遣いでじっと見る。…う、可愛いよ、どうするよ俺?「いやいやいやいや、とんでも無い! シエスタ可愛いから、大歓迎さっ!」俺は何を言っているんだ俺は!?「本当ですか、嬉しいっ!」上げた顔は満面の笑顔、あれ?さっきまで泣きそうな顔じゃなかったかシエスタ?「サイトさん大好きっ!」「ぬぉ、むぎゅ。」シエスタに抱きつかれた…胸の感触が顔に当たるんですが、しかもなんだかグイグイ押し付けてくる感じなんですが、この先生きのこるにはどうすればっ!?「そ、そうだ!とっととモンモンに会いに行って来ないと!」ああそうさ、誤魔化しさ!誤魔化して逃げるしかないだろ、この場合。「ああっ、サイトさん!?」「ごめんシエスタ、急ぐからっ!」しかしアレだ、デカかったなシエスタ…。「うーっすモンモン、解毒薬作ってっかー?」…とか言いながらモンモンの部屋に入ったら、縦ロールがギーシュとキスしていやがった。「ぬお、な、何かね?」「ちょちょちょっと!レディの部屋に入る時はノックくらいしなさい! あと、モンモンっていうなっ!」レディの部屋と言われて、モンモンの部屋を見回してみる。ビーカーだのフラスコだのサイフォンだのが所狭しと並べられており、中央には妙な臭いを放つ大鍋…。「魔女の工房以外の何物にも見えないわけだが?」「ふむ、言われてみれば確かに。」ギーシュもうんうんと頷いている…って、言われなきゃ気付かなかったのか、ギーシュ?「頷くなっ!」「ぐふぅ!?」モンモンのツッコミが鋭く脇腹を抉り、ギーシュは苦悶の声を上げて崩れ落ちた。ふっ…まだまだだな、ルイズはそんなもんじゃねえぜ、モンモン。「ベッドがあるでしょ!? お茶のセットだって、箪笥だってあるわ! ほら、縫い包みだって!」ギーシュにまで頷かれたのが、そんなにショックだったか、モンモン?「実験器具によって、部屋の隅に追い遣られているけどな。」「ぐはぁ!」大ダメージだったのか、モンモンはその場で床に崩れ落ちた。「…仕方無いじゃない、学院の工房借りるお金なんか無いんだから。 みんな、みんな貧乏が悪いのよ、うっうっうっ…。」金が無いのは首が無いのと一緒とは、よく言ったもんだ。「モンモンをおちょくるのはこれくらいにしておいて…。」「おちょくられてたの私っ!?」「…解毒薬作ってるか?」抗議の声をさらっと聞き流して、モンモンに尋ねてみた。「…あー、うん、これから作り始めようかなーとか思ってはいるんだけど、材料が高くて。」「ケティが足りない分は立て替えてくれるって言っていなかったか?」モンモンの目が泳ぎまくっている。「…まさか、立て替えて貰う以前の問題なのか?」「だ、だから、うちは貧乏だって前から言っているじゃない。」いや、その理屈はおかしい。こいつはここのところかなりの額をケティから貰っていた筈だ。…よく考えたら、俺たちいつの間にかケティに財布を握られている…?「この前の宝探しとか、ガソリン作るので結構儲けた筈じゃなかったか?」「ルイズとケティが飲んじゃった媚薬の材料に消えたわよ、全部っ! とんでもなく高かったのよ、あの薬作る為の材料って。 しかも、解毒薬作るのにも殆ど同じ材料が必要になるの。」金額は良くわからんけど、この赤貧縦ロールはかなりの守銭奴だった筈。そのこいつが殆どの金を注ぎ込んだって事は…。「つまり、必死に貯め込んだ財産の殆ど全てを注ぎこんで作った渾身の媚薬を、ルイズに台無しにされたわけか…。」「ぐはぁ!」あ…また倒れた。「うううっ…主従揃ってひどいわ、私に何か恨みでもあるの? あの桃色猪娘、正気に戻ったら賠償請求してやるんだから。」「…貸してやっても良いぜ?」流石にちょっぴり可哀相になったから、助け船を出す事にした。「あんたにそんな金があるわけないでしょ!?」「あるんだなぁ、これが。」姫様がくれたお金は何と四万エキューもあった。こんだけあれば、材料費くらいなんとかなる筈。「ちょっと待ってろよ。」そう言って俺は部屋に戻り、デルフの柄を握って金のどっさり入った箱をモンモンの部屋に運び込んだ。「これで足りるか?」「え…ええ、足りるというか、余るわ、これは。」「おおおおおお…こ、こんな大金を目にしたのは宝探し以来だよ。」貴族なのにすげえ貧乏臭いよ、こいつら。「知っているかね?貴族は三つに分けられるのだよ。 金が唸るほど余っている貴族、そこそこ金のある貴族、そして借金で首が回らない貴族。 この三つなのだよ、モンモランシーや僕は…。」「借金で首が回らない貴族。 私の所は知っての通りだし…。」そう言って、モンモランシーはギーシュに視線を送った。「我がグラモン家は軍人としての才はあるが、領地経営の才に溢れた者は居なくてね。 そのうえ見栄っ張りと来ている。 モンモランシー程ではないが逆さに振ったって金は無いのだよ、あっはっはっはっは。」「何でそんなに明るいんだ、お前…?」洒落になっていないような気がするんだが。「笑わなきゃやっていられないからさ。」急に真顔になったギーシュが、ぽつりと言った。「成程。」貴族も内実は結構きついのな。「欝な話題は兎に角…どんだけあれば足りる?」「じゃ、じゃあ、取り敢えずこれだけ借りるわ。 足りなくなったらまた貸してちょうだい。」早く作ってくれよモンモン…出来れば俺の理性が決壊する前に。それから我慢の三日、シエスタに欲求不満の解消をしてもらおうかなとか頭にチラつき始めた頃、廊下でモンモンを見かけた。「おーい、モンモン、薬は出来た…か?」「ごめんなさああああぁぁぁい!モンモンはものすごい勢いで走って逃げていく。「待てやゴルァアアアアアァァァッ!」デルフの柄を握って、ガンダールヴの力で超加速をかけたら、あっさり追い付く事に成功した。そのまま廊下の袋小路になっている場所まで連れて行く。「モンモン、逃げるたぁどういう事だ?」「ちょっとサイト、あんた目が血走っているわよ?」そりゃもう、ルイズの履いてない攻撃やら、ケティのチラリズム攻勢やらで俺の理性はもう決壊寸前だからな。「ああ、言って置くが俺の理性はもう限界だぞ? 解毒薬が出来ないと、あと数日で俺はあの二人に手を出す、間違いなく。 そしてジゼルに殺される。」「で、出来ないゴメンとか言ったら?」はっはっは、冗談言うなよこの縦ロール。「決まっているじゃねえか、欲求不満の全てをお前にぶつけるぞ、性的な意味で。」「ひぃ!?」モンモンはガタガタ震えだした。「だ、だって、一番肝心要の材料が、どうやっても入手不可能だとか言うのよあの材料屋。 現地に行っても手に入らないって。」何…だと…?「で、その材料ってのは?」「精霊の涙っていう素材。 わかりやすく言うと、ラグドリアン湖に棲む水の精霊の一部よ。」水の精霊っていうのがさっぱりだよ、俺は。これだからファンタジーは嫌いなんだ。「採れる場所は知ってんのか?」「知っているわ、モンモランシ家の元の領地だもの、そこ。」めっちゃ土地勘ある場所かよ!「よし、じゃあ行くぞ。」「ま、待ってよ、授業サボるわけには…。 せめて夏休みまで待ってもらわないと。」冗談は縦ロールだけにしておけよ、モンモン。「わかった、夏休みまで俺の理性が持ちそうにないから、今ここで全部お前にぶつけるわ。」そう言いながらベルトをカチャカチャ外しにかかる。「そ、そんな事したら訴えてやるんだから。」「良いぜ、そんときゃお前が媚薬作っていた事をバラすから。 無許可だと牢獄にぶち込まれるそうだな、臭い飯食うかモンモン?」飽く迄脅しだぞ、背徳的な雰囲気にちょっと腰が引っ込みがちな事になってしまっているけど。「ああもう、わかったわよ、行くわよ、行けばいいんでしょコンチクショー!」物わかりの良い友人を持てて、俺は幸せだよ、モンモン。そんなわけで、俺たちはラグドリアン湖とかいう場所を目指す事になったのだった。到着するまで持ってくれよ、俺の理性!「はぁい!引導を渡しに来たわよ、サイト?」「ぎにゃああああぁぁぁぁっ!?」支度をするために部屋に戻ろうとしたら、部屋の前にジゼルがいた。しかも殺す気満々だ。「部屋に入ったわよぉ。」「ひいいいぃぃぃぃっ!」ジゼルとケティの姉のエトワールさんも居た。この人は何だかわけがわからんが、兎に角怖い。「うちの妹に媚薬を飲ませた挙句、あんな格好をさせるだなんて…許し難いわ。」ジゼルそれはわかったが、幸せそうな顔で鼻血流していても説得力ねーよ。「ケティって、ああいう誘惑の知識もあるのねぇ、今度試してみるわぁ。」論点がずれまくっていますよ、エトワールさん。「ま…待て、話せばわかる。」「話せばわかるという相手には、問答無用と返すのが礼儀だとケティに言われたことがあるわ。」5.15だか2.26だか忘れたけど、何でそんなお約束をジゼルに教えているんだよ、ケティ!?「こんな禁制の品、どこから手に入れたのやら? …入手経路がわかれば、私も試してみたいんだけど。」ジゼル、誰に試す気だ、誰に?「焚刑しかないわねぇ。」エトワールさん、そんな今日のおかずはこれねって感じでさらっと。燃やされるわけですか、そーっすか…ああ、俺の人生短かったなぁ。「兎に角話を聞いてくれ。 ケティに媚薬を飲ませたのは俺じゃない、断じて。 実は…。」ダメ元覚悟で、俺はかくかくしかじかと二人に事の成り行きを語り始めた。「…という訳だ。」「またギーシュなの!? あいつはラ・ロッタにとっての疫病神なのかしら?」話を全部聞いたジゼルは頭を抱えた。いやでも、あのアホ面に限って疫病神はないと思う。あいつにはご利益も無い代わりに、その逆も無い。「ああでも、まさかあのモンモランシーが…いや、モンモランシーならやりかねないわね。 一年生の時、植物の成長を早くする薬の調合に失敗して、学院東側の平原を奇怪な密林に変えた前科があるから。 あそこ、人食い人参とかがいるから、いまだに立ち入り禁止なのよね。」「ちなみに、生き物に劇的な変化を引き起こす薬も禁制なのよぉ。 あの時は間違いだったという主張が通ったから、無罪放免だったけどねぇ。」そこだけ聞くとまるっきりマッドサイエンティストだな、モンモン。正体は単なる赤貧貴族なのに。「つまり色々な偶然が重なって、なぜかケティあんなことになったのね。 仕方が無いわね…あの状態のケティに手を出さなかったというのは、褒めてあげてもいいくらいだし。」生きのこることに成功した!?「あの状態の二人を相手にするのは大変だったでしょ? 仕方がないから、今回だけは助けてあげるわよ、感謝してよね。」次回は無しですね、わかります。「じゃあ、ケティ達を着替えさせてくるから、少し待っていてねえ。」そう言って、エトワールさんとジゼルは部屋に入って行った。部屋の中から変な声がして、体育座りせざるを得なくなったのは内緒だ。「おっ、来たね。」「あんまり待たせないでよ。」学院の門の前にはギーシュとモンモランシーが来ていた。「おっモンモン、ギーシュも呼んだのか?」「貞操に危機を感じたのよ、誰かさんのせいで。 あと、モンモンって呼ぶな。」あれ?ひょっとしてモンモンの頭の中では、俺はちょっとヤバい人になってる?…まあ、あんな脅しかたをした俺も俺だし、しょうがないのか。「それより、何でジゼルが居るのよ? ひょっとして、ばれたの?」モンモンが少々焦っている。「ああ、洗いざらい喋るしか無かったんだ…察してくれ。」「短い命だったわ…。」俺の表情を見て、モンモンはがっくりと肩を落とした。「いや、今回に限っては許してくれるそうだぞ。 お互い、命拾いをしたな。」「そういう事は早く言ってよ!」そう言って詰め寄るモンモンから漂う香りにドキリとする…うがぁ、溜まりまくっているせいか、体が見境なく女に反応しやがる!さっさと解毒薬作って何とかしないと、俺は壊れちまうかも知れん。「嫌なのです、私も才人と一緒がいいのです。」「そんな事言わずに、私と一緒に行きましょ、ね?」あちらでは、いつもと勝手が違うのか、ジゼルがケティと一緒に馬に乗ろうとして、手こずっていた。「そんな事言うジゼル姉さま嫌いっ!」「きらい…がーんがーんがーん。」あ、ジゼルが石化して砕けた。「ねえねえ才人、モンモランシーなんかと話しないで、私だけ見て。」こっちはこっちで、右腕にしがみついたルイズが涙目で俺を睨む…。「もうどうにでもしてくれ…。」どうすりゃいいんだよ、これ…。「みんな、馬車を持ってきたわよぉ。 これなら、一緒に行けるでしょ?」そう言って、エトワールさんが持って来たのは、6頭だての結構大きな馬車だった。ドアには学院の紋章付きだ。「エトワール姉さま、これどうしたの?」「学院長から借りてきたわぁ。」あのエロ爺から…どうやって?「ど、どうやって借りたの?」「ひ・み・つぅ。」エトワールさんがそう言った途端に、学院長室が大爆発して煙が噴き出し始めた。今、爆発と同時に窓から飛び出して落ちていった人には、とても長い髭があったような気がするが…何も考えまい、語るまい。「ジゼル、私は後始末…もとい学院に残るからぁ、ケティの事は頼むわねぇ。」「が、合点承知だわ。」そう言ったジゼルの顔は、かなり引き攣っていた。「気を取り直して…では、行くぞ諸君!」勝手に仕切るなよ、ギーシュ。