「新式銃が欲しいのよ。」「新式銃…なのですか?」初夏の爽やかな陽気の中、一人城に呼び出されたケティはアンリエッタの執務室で首を傾げていた。「何故それを私に?」「我が軍に新式火薬を納入したパウル商会…最近我が国の軍需部門に販路を開いているのだとか?」アンリエッタの微笑みに、ケティは「うっ」と軽く呻いて一歩引いた。「あの商会はラ・ロッタ家公認の商会で、蜂の意匠を許されているのよね。 商会の主はパウル、貴方の幼馴染の一人。」「あはははは…。」乾いた笑い声を上げながら、ちょっとやり過ぎたかとケティは内心で愚痴る。「しかし何故そこから新式銃などという話に?」「モシン・ナガン。」ケティはびしりと凍りついた。「…ええと、ひょっとして姉の誰かから聞いたのですか?」「ええ、貴方が実家でその銃を使って、魔法を使ってもあり得ない距離から獲物を狙撃して見せた事も、その銃の速射性能が現在我が国に在るどの銃よりも素晴らしい事も、全部よ。」それを聞いて、ケティは深い深い溜息を吐いた。「あのモシン・ナガンは魔法が無い国が作り出した高度な冶金技術の結晶なのです。 メイジの錬金を全力で駆使したとしても、性能の劣化した模造品しか作れません。 軍全体に配備するには、ハルケギニアじゅうから土メイジをかき集めないと不可能かと。」「つまり、性能の劣化した模造品を少量生産するくらいなら可能…という事ね?」女王の問いに、ケティは軽い逡巡を見せたのち、観念したように頷いた。「…確かに性能を落とせば少量生産は可能なのです。 それでも十分ハルケギニアに出回っているどの銃よりも優秀なものになるでしょう。」そう言うと、ケティは参ったという風に眉をしかめ眉間を押さえた。「それは良い事を聞いたわ。 アニエス、入って来なさい。」「はっ!」アンリエッタの声に応え、金髪のショートヘアの女性が執務室に入って来た。「アニエス、この度の軍改革で創設された銃士隊の隊長よ。」「アニエス・シュヴァリエ・ド・ミランと申します。」アニエスはケティに深々と首を垂れる。「ああ…あのアニエス殿なのですか。」ケティの顔が軽く引きつった。「あの…とは?」アニエスの眼光が鋭くケティを貫いた。彼女は元平民という事で差別される事が多い、ケティもそういう輩なのかと睨みつける。「豪気にして苛烈、『鉄の塊』と称されるメイジ殺しにして、可愛い女の子が三度の飯より大好きなアニエス殿でしょう? その毒牙にかかって道を踏み外した乙女は数知れずとか…ぞ、存じているのです。」そう言いながら、ケティが数歩あとずさったのを見て、アニエスがずっこけた。「そ、それは私にやっかむ連中が流した根も葉もない噂だっ! いや…まあ、可愛いものは好きだが、それは女の子に限った話では無く…って、ああっ、更に後ずさらないでっ!?」後ずさるケティに、涙目で手を伸ばすアニエスだった。「ケティ、面白いけどアニエスをからかうのはそのくらいにしておきなさい。」「はい、かしこまりました姫様。」いきなり真顔に戻ったケティにアニエスがぽかーんとなっている。「貴方って真面目な人を弄るのが大好きよね?」「剛毅な武人が翻弄されうろたえる様はまさに甘露なのですよ、姫様。」そう言って、ケティとアンリエッタはお互いにっこりと微笑みあった。「騙されたーっ!」アニエスは天井に向かって叫んだ。「うぅっ、王宮内に噂の聞こえる才女が、まさかこんな変な性格の娘だったとは…。」そして盛大に落ちる。「これで、アニエス殿には顔を覚えて貰えたでしょうか?」「むしろ殺すリストに入れられたような気がするわ。」アンリエッタのその言葉に「あはー」と笑うケティだった。「複製したモシン・ナガンの第一号はやはりアニエス殿に?」「ええ、納入した途端に撃ち殺されないように気をつけておきなさい。」ケティからの問いに、アンリエッタはそう言って頷く。「アニエス、そろそろ立ち直りなさい。」「は、はあ…しかしこの娘が、本当にあのパウル商会の影の主なんですか?」アニエスはそう言って、ちょっぴり恨みを込めた視線をケティに送った。「ええ、そうよ。 それにケティは王侯貴族だろうが平民だろうが、わけ隔てなく扱うから、貴方が特別に軽んじられたわけではないというのも理解してあげてね。」「私はわけ隔てなくおちょくられたというわけですか。」そう言って、アニエスはがっくりと肩を落とした。「これから先はあまりからかわないようにしようと思うので、勘弁して欲しいのです。 ああそうそう、お近づきの証にこれでもどうぞ。」そう言って、ケティはアニエスに小さな包みを渡した。「これは?」先ほどされた仕打ちのせいか、警戒気味に包みの中を覗き込むアニエス。「飴なのですが、少々特殊な製法を行使してみたのです。 とても甘くてクリーミーで、一口食べれば自分を特別な存在だと感じられるようになるのですよ。」「ふむ…?では失礼して。」アニエスは早速取り出した飴玉の包装を取り除いて、口の中に放り込んだ。「こ…これは、美味い。 たかだか飴玉がこんなに美味しいとは。 これを私にくれるのか…?」アニエスは頬を抑えてほわんとした幸せそうな表情になった。「ええ、先程の非礼のお詫びも兼ねて。」「私も欲しいわ、その飴。」恍惚の表情でコロコロと飴玉を舐めるアニエスを見て、アンリエッタも物欲しそうにケティを見る。「はいどうぞ。」「ありがとう、どれどれ…まあ、これは確かに美味しいわ。」アンリエッタも頬を押さえて幸せそうに微笑んだ。「パウル商会に発注していただければ、いつでもお届けできるのです。 …とまあ、飴玉の話はこれくらいにして、モシン・ナガンの複製品であれば一丁有りますので、複製した弾薬とセットで近日中にお届けにあがる事になるでしょう。」「成程、先程の話は既に一度実践した上でだったのね。」飴玉を口の中でコロコロと転がしながら、アンリエッタは頷いた。「ええ、ではまた数日後に…。」「なるべく早くお願いね。」ケティは一礼すると、執務室から退室した。数日後、トリスタニアの《星降る夜の一夜亭》で、三人の人物が食卓を囲んでいた。「ケティ坊ちゃん、ジゼルお嬢様もご一緒っすか。 このパウル、お二人からお呼びがかかる日を一日千秋の思いで待っていたっす。」パウルと名乗った茶色の髪と鳶色の瞳の青年は、人懐っこい笑みを浮かべた。「…いい加減坊ちゃんは止めなさい、坊ちゃんは。」その言葉に眉をしかめるケティ。「いやー、女の子だってわかっていてもケティお嬢様だと、呼ぶ時に何だか違和感があるんすよ。」「あはははは、良いじゃないケティ坊ちゃんで。」ジゼルは笑いながらケティの肩を叩いた。「うぅっ…。」ケティは観念したように肩を落とした。「…まあ、仕方がありません。 それでパウル、例のあれは?」「ここにあるっす…しかしまあ、女王陛下も剛毅っすね。 これ一丁作るのに半月はかかる上、普通の銃の30倍の値段になるってのにそれを銃士隊全員分とは。」パウルは細長いケースを食卓の上に乗せて開いて見せた。「それだけ銃士隊に期待をしているという事なのですよ。」ケティはそれを受け取ると、蓋を閉じる。「ここの名物料理はハシバミ草料理なのです。 支払いは私がしますから、好きなだけ食べていきなさい。」「私は?」ジゼルはそう言って、ケティをじーっと見つめる。「勿論、姉さまもなのです。 とは言え、パウルが儲けてくれるから、私たちも美味しい食事が食べられるのです。 パウルに食べさせてもらっているといっても、過言ではないかもしれないのですよ。」ケティはそう言って、パウルの働きをねぎらった。「ううっ、感無量っす。 あとはケティ坊ちゃんが俺の嫁に来てくれれば完璧なんすが。」「それはお断りなのです。」ケティは笑顔できっぱりと断った。「くーっ、負けないっす。 諦めたらそこで試合終了っすから。」「めげないわねぇ、貴方も。 今回で何度目だった?」苦笑交じりにジゼルが尋ねる。「何と、既に60回目っすよ。」パウルがそういう間にも、食卓には料理が並べられていく。「それでは商売の繁盛を願って、乾杯としましょうか。 給仕さん、タルブワインの良い奴を見繕って持って来て欲しいのです。」ケティの言葉に、給仕は頷いて去っていき、暫くしてワインのボトルを持ってきた。「では…乾杯。」三人の陶器製の杯が、カチンと良い音を立てたのだった。「ううっ、まさかあの酒に強い2人が潰れるとは…ウォトカなんか出さなきゃ良かったっす。」「うにゅー…。」「にゃー…。」星降る夜の一夜亭は宿も兼ねている。パウルは潰れてしまった二人の為に部屋を取り、ベッドに寝かしつけたのだった。「はぁ…俺が後先考えない男なら、2人とも餌食っすよ、全くもう。 それだけ信用されているって事でしょうけれども、男としてこの状況はちょっぴり不甲斐ないような気もするっす。」「才人…。」不意に、ケティの口からそんな言葉が漏れた。「うーん…ひょっとして男の影? これは調べる必要ありっすねえ…。」そう呟くと、パウルは立ち上がった。「お2人ともお休みなさいっす。」そう言って、パウルは自分の部屋に戻っていったのだった。次の日、アニエスに渡されたモシン・ナガンのコピーは、銃を熟知する彼女すらも驚愕させるに相応しい銃であった事はいうまでも無い。「…これは、威力と言い精度と言い、今までの銃が玩具に思える。」モシン・ナガンを操るトリステイン銃士隊は、ハルケギニアきってのメイジ殺し部隊として恐れられるようになるが、それはまた別の話である。「タバサ、美味しいですか?」「ん。」ここはトリスタニアの《星降る夜の一夜亭》、ハシバミ草料理が得意というけったいな料理店だが、ハシバミ草を美味しく食べられるというもの珍しさもあってか、実はそこそこの客入りはある。ケティは以前タバサと約束していた料理を奢るという約束を、何とか履行する事に成功したのだった。「…で、キュルケ抜きという事は、例の件なのですか?」「ん。」例の件とは、ケティがタバサの素性やら虚無の秘密やらをやたらと知っている事。「何処まで知っているの?」タバサは口の周りを拭きながら、視線は料理に向けたままケティに尋ねる。「媚薬に頭をやられていた時にうっかり口を滑らせたこと以外で、なのですか?」「ん。」ケティの問いに、タバサはコクリと頷いた。「他には貴方が北花壇騎士団の騎士である事と、貴方の母上がエルフの秘薬のせいで正気を失っている事…後は、貴方に双子の妹がいること。」「私に双子の妹なんていない。」タバサはそう言ったが、ケティは首を横に振る。「いいえ、オルレアン大公家に生まれた娘は双子…王家の習慣で片方は忌み子として、とある修道院に。 もしも貴方の母上が正気に戻られたら、尋ねてみるのもいいかも知れないのです。」「情報源は?」タバサが目を上げてケティを見ると、彼女はニコニコと笑っていたが目が笑っていない。(老練な商人の目。)ケティの目を見て、タバサはそう感じた。「情報は黄金に等しいもの。 流石にそこまではお話できません…が、間違いの無い情報なのです。」「取引?」タバサの問いに、ケティは頷く。「ええ、取引きなのです。」ケティは何の取引きであるのかは言わない。つまり、あまり自分を探ってくれるなという事なのだろうとタバサは解釈した。「そういう事なら仕方が無い。」「わかっていただけて有難いのです。」ケティはタバサの言葉に満足した表情で頷いた。「1つだけ言える事は、私はタバサは勿論、キュルケやルイズ達皆の不利益になるような事はしません。 むしろ皆に幸せになって欲しいと思っています…それだけは信じて欲しいのです。」「それは、言われなくても信じている。」タバサがそう言うと、ケティは心底安心したように溜息を吐いた。「その言葉は、私への何よりの報酬なのです、タバサ。」そう言って微笑むケティの顔は先程のような商人の顔ではなく、歳相応の…自分より年下の少女のものに見えたタバサだった。「では、食事の続きを…って、ひょっとして足りないのですか、タバサ?」「ん。」頬をうっすらと紅色に染めるタバサの皿は、既に空だった。「ケティ着せ替えツアー、ポロリもあるよ!」虚無の曜日は大抵部屋から出てこないケティの部屋の中に、キュルケの元気な声が響き渡る。部屋には鍵がかかっていたが、そんなもの彼女の前には無いも同然なのは言うまでもない。「…って、何で寝ているのよ、もう朝よ?」キュルケはケティの掛け布団をずらして、彼女の寝ぼけた顔を覗き込んだ。「虚無の曜日は一日中寝ている日と、昔から決まっているのですよ…。」そう言って、ケティは布団の中に潜り込もうとする。「そんな決まりはゲルマニアには無いわ、勿論トリステインにも。 虚無の曜日は一日中遊び倒す日と、昔から決まっているのよ!」「そんな決まりも無いのですよぅ…。」ケティがそう言うと、キュルケは掛け布団から手を離した。そして、ケティの箪笥を漁り始める。「ああもう、何で普段着は柄が地味でデザインも無難な服ばかりなのよ貴方は。 折角女に生まれて容姿も人並み以上なのに、勿体無いのよもう!」「すぴー…。」再び眠りについたケティを尻目に、キュルケは箪笥の中の服を何着か取り出すと眺め始めた。「探せばそれなりの服もあったけど…一回も着ていなさそうなのは何でなのかしら。 そうそう、折角可愛いんだから、こういうフリフリがついたのを着たほうが良いに決まっているのよ…よし、服はこれで良いわ。 後は下着と靴下よ…。」キュルケはケティの箪笥を暫く漁って、ああでもないこうでもないと考えている。「うん、これで完璧よ。」キュルケはそう言って立ち上がると、ケティのベッドの前に立ち、いきなり掛け布団を引き剥がす。「んにゃ?」ケティの寝ぼけ眼に、顔の半分が口みたいになった笑みを浮かべるキュルケがいた。「さて、最初の着せ替えよケティ。 さあ、可愛くなりましょうねえええええぇぇぇぇぇぇ…。」キュルケがホラーな雰囲気でケティにのしかかって行く。「ふんぎゃー!?」女子寮に、ケティの悲鳴が響き渡った。「…色々と穢された気分なのです。」数分後、フリフリのいっぱいついた可愛いドレスを着せられたケティが、キュルケに髪を梳かれながらも少々煤けた表情で呟いた。周囲には騒ぎを聞いて駆けつけた女子陣もいる。「こんな感じかしらね、貴方はどう思うタバサ?」「良い仕事。」タバサは才人の影響で最近学院に流行りだしたサムズアップをして見せた。「うん、確かに可愛いわね。」タバサの隣りで、ルイズも腕を組んだままコクコク頷いている。「ふふふ…着せ替え、心が躍るわ。」モンモランシーは何か変なスイッチが入ってしまったらしく、不敵に笑っていた。「お着替えのお手伝いをさせていただきますっ!」シエスタは何故だかわからないが、とても張り切っている。「さて、ジゼルに見つかって妨害される前に、いつもケティに弄られている分をここで一気に返すわよーっ!」『おーっ!』キュルケたちは元気に右腕を天に突き上げる。「…もう好きにして下さい。」ケティはがっくりと肩を落とした。そして両手両足を掴まれて、シルフィードに運び込まれていった。「俺達がついて行っちゃ駄目って、ケティに何する気だよあいつら。」「女性は強い生き物なのさ、逆らうだけ無駄というものだよ。」廊下で不満げに呟く才人の肩を、ギーシュはポンポンと叩いたのだった。「ここよっ!」まず最初にキュルケが来た店は、キュルケが好きそうな胸を強調したデザインの布地の少ないドレスが多く飾られている店だった。『うわぁ。』キュルケ以外の全員が声を上げる。「着たらそのままストンと落ちる。」自分の体をペタペタ触りながら、タバサが呟いた。「タバサに同じく、悔しいけど私じゃ体のメリハリが無さ過ぎるわ…。」その横にいたルイズが、沈痛な表情で同意する。「何とかなるとは思うけど…あまり似合わないと思う。」胸の辺りを気にしながら、眉をしかめるモンモランシー。「こういうのでサイトさんに迫ったら、どういう反応が返ってくるかしら?」何だか幸せな妄想をしているらしいシエスタ。「こ、こういう色気たっぷりなドレスは、私の趣味ではないのですが。」引き攣った表情のケティ。「趣味であるか似合うかはまた別よ。 貴方、その歳で結構なものを持っているんだから、そこを強調しない手は無いわ。」キュルケはそう言うと、ケティの手を掴んだ。「そんなわけで、行くわよ!」「ひぃ、まだ心の準備が、ちょっと待ってくだ…。」ケティはキュルケに引きずり込まれて、店の中に消えた。「私も手伝いしますっ!」シエスタもそれに続く。「さ、さあ、行きましょ。」「ん。」「ふふふ、心が躍るわ。」三人も店に入って行き…。「あーれー…!?」『じゃあ、行ってみよー!』店の中からケティの悲鳴が聞こえ、そして少女達の歓声が響き渡ったのだった。「ふ、ふふふ…常識が崩れて世界が変わった気分なのです。」一時間後、大きく胸元と背中の開いた黒いドレスを着て虚ろな目をしたケティが、店の中からよろよろと現れた。「大げさねえ。」キュルケがそれを見て苦笑する。「背中どころかお尻が殆ど丸見えなドレスとか、頭おかしいのですかあの店は。 しかもシースルー生地って、アレだったら素っ裸で歩いた方がまだ恥ずかしくないのですよ…。」「年取ってボディラインが崩れ始めたら、今度はどうやって隠すのかに苦心するようになるわ。 だから見せられる時に、見せられる場所は、見せるようにしておいて損は無いわよ。 …まあ、流石にアレは悪乗りしすぎだけど。」ケティのぼやきに、キュルケはそう返して苦笑した。「あの店のデザインはやはり私には無理。」軽いショックを受けたのか、タバサが青い顔をして店から出てきた。「同じく。キュルケみたいな女の子専門の店とか、誰が行くのよ…。」額を押さえたルイズが、店から出てきた。「で、でもまあ…誘う時にはいいかもね。」箱を抱えたモンモランシーが、少し頬を赤らめて店から出てきた。「貯金崩して思わず買っちゃいました…きゃっ。 これなら間違いなく、サイトさんも我慢し切れませんわ。」顔を真っ赤にしたシエスタが、最後に店から出てきた。「じゃあ、次は私ね…というか、キュルケの趣味に合わせていたら価値観が変わりそう。」モンモランシーがそう言い、彼女行きつけの店に行く事になったのだが…。「地味ね。」キュルケが興味無さそうに言う。「庶民的。」タバサがぽけーっと店の中の服を眺めている。「全体的に貧乏くさいわね。」ルイズは服を選びながら呟く。「普通ですね。」シエスタは姿見の前で自分と服を合わせている。「地味とか庶民的とか貧乏臭いとか平民が普通とか…悪かったわね、貧乏貴族で。」モンモランシーは不機嫌そうにそう言った。「まともでよかった…。」「貴方だけよ、そう言ってくれるのは。」嬉しそうに服を合わせるケティに、モンモランシーは涙目で抱きついた。「ああ、ケティのまともって庶民的って意味よ。 箪笥に入っている服、見たでしょ?」「やっぱりそういうオチなのね…。」そのキュルケの一言に、モンモランシーはがっくりと肩を落とした。「私はこういう服の方が安心するのですよ。 元々田舎育ちですし。」そう言って、ケティはにっこり笑ったのだった。