汚職は官僚の慣わし高級官吏なら、汚職の一つくらいはしているものなのですよ汚職が増え過ぎると大変やり過ぎると国の運営が危うくなりかねないのです汚職は無くならないとは言え、綺麗にし過ぎても『白河の清きに魚も住みかねて…』となりかねない…何事も程々に、という事なのですね「よりにもよって、パウル商会の会計部長をひっかけようとするとはいい度胸なのですよ、伯爵?」まさかパウル商会の決戦兵器、鬼の会計部長キアラをひっかけるとは…確かに彼女は美人ですが。まあ兎に角、先日トリスタニアに来ていた彼女が、モット伯のスカウトにひっかけられたらしいのですよ。ラ・ロッタ家の名前を出して事無きを得ましたが、パウル経由で情報はしっかり私に入って来たわけなのです。「い…いや、まさか街で見かけてティンと来た娘が、よりにもよってラ・ロッタ領出身だなんて思わないじゃないか?」「問題はそこでは無いのですよ、伯爵?」最大の問題は、モット伯のハーレムが復活しつつあるという事なわけで。「逃げても良いかね?」顔面を汗塗れにしながら、目を泳がせえるモット伯。そんなにリュビ姉さまが怖いのなら、浮気しなけりゃいいのですよ…。「駄目に決まっているでしょう。」「やっぱり逃げる!」くるりと180度回転して駆け出すモット伯に向かって飾り用の紐を投げつけ…。「《バインド》。」捕縛の魔法でぐるぐる巻きに縛り付けたのでした。「は、離したまえ!僕はリュビと離婚したくないんだ! たのむ、見逃してくれたまえ!」だから、そんな魂の底から絞り出すような悲鳴を上げるなら、初めから浮気するな、なのです。「…はぁ、仕方がありません。 リュビ姉さまには、秘密にしておいてあげます。」「ほ、本当かね!?」救いの神を見たといった感じで、モット伯は私を見上げます。「私もリュビ姉さまに隠し事をするのですから、対価は貰うのです。 そうですね…貴領の御用商人には是非ともパウル商会を。 そして、貸し100なのです。」「い、いくらなんでも、それはぼったくりではないかね?」ちょっとした抵抗なのか、モット伯が反論してきました。リュビ姉さまへの隠し事はリスクが大き過ぎて、とっても危険がデンジャラスなのですよ。ばれたらタダでは済まないのですから、対価は必要なのです。「それでは仕方がありません。 見返りなしの提供など、私の主義では無いのです。 長い間の親戚関係でしたが…残念な事になりました。 早速、奥方を亡くされた貴族を探さないと…。」わざとらしく溜息を吐いてみたり。貸し100はほんのちょっとだけ冗談なのですから、そのくらいはさらっと流してくれないと…。「待ちたまえ!それでいい、それでいいから!」「毎度あり、なのです。」これぞ、理想的なWin-Winの関係なのですよ…嘘ですが。「端っから酷い目に会った…。 抜き打ちで徴税官がやって来てあれこれ言われて、ごっそり毟り取られた時みたいな気分だよ。」やけに具体的なのですね、モット伯。「…それはそれとして、姫様からですか?」「ああ、僕がこういう所に来ても、違和感が全く無いだろうってね。」全くもって適任と言わざるを得ませんが、姫様からもそういう評価なのですね、モット伯…。「しかしここは良いね、思わず常連になってしまいそうだ。 女の子は可愛いし、料理も美味しそうな物ばかり。 君の所に案内してくれた女の子が、何故か絶対に目を合わせてくれなかった事以外は素晴らしい店だよ。」下手に目を合わせると、ハーレムへスカウトし始めかねませんからね、この人は。もう少し下半身が大人しければ、能力的には非の打ちどころの無い人なのですが…。「あと、ここの給仕娘達の服装は僕の創造感覚を刺激するというか…使用人の服の新しいデザインが浮かびそうだよ。」あれ、自分でデザインしていたのですか…。「まあ、そういう話はここまでにして…例の件は裏固めが8割がた終わったよ。」「以外と早かったのですね。」流石姫様、仕事が早い。「ただ、肝心要の情報は側近くらいしか知らないらしくてね。 末席とは言え、側近であるチュレンヌ卿の逮捕は絶対に外せなくなった。」「不正な蓄財が何処に蓄えられているのかが、分からないのですか?」私の問いに、モット伯はこくりと頷いたのでした。「その通り、大規模な不正を大胆不敵にやってのけるだけあって、随分と抜け目が無くてね。 姫様曰く、『本人から直接聞けばいいのよ』とはいえ、その前に欠片でも真実があった方が表向き都合がいい。 姫様の仰られる通り、『正直になりたくなる部屋』に躊躇無く大貴族を送り込むのは、私としても気が引けるのでね。 まあそんなわけで、その前に側近を徹底的に搾り上げるというわけなのだよ。」「…これは近いうちに諫言しなくては。」本人は脅しのつもりなのでしょうが、数少ない忠臣であるモット伯にこう言われるとは…このまま行くと、いつか暴君の謗りを受けかねません。まさか、本当に君主が読むのなら、調子に乗って『君主考察』にスターリン語録からの抜粋なんて入れなければ良かったのです。スターリン曰く、『愛や友情などというものは瞬く間に失われるが、恐怖は長続きする』。確かにそれは事実ですが、だからと言って姫様が恒常的に恐怖をもって統治するつもりなら諌めないと、姫様の後に国が瓦解する恐れがあるのですよ。恐怖は統治機構にとって劇薬、効果は抜群ですが用法用量を守って正しく使わないと後で手痛いしっぺ返しを受けるのです。姫様が素でこうなら兎に角、私の著書の影響を受けているのだとすれば、私の言う事ならある程度は耳を傾けてくれる筈。「…どうしたのかね?」「いいえ、何でも無いのです…お話はよくわかりました。 必ずやチュレンヌ卿をそちらに引き渡しますので、待っていて欲しいのです。」まさか、あんな本が少なくない貴族のお手本になっていただなんて、嬉しいやら悲しいやら…トホホなのですよ。「仕事の話はこのくらいにして…と。 そういえば、現在この店にはラ・ヴァリエール公の御息女もいらっしゃるとか?」「ええ、ですが彼女はこの状況に全く納得していないので、見つけないでいてあげてくださいね。」まあ、これに関しては貴族の娘なら大抵は抵抗感を感じるでしょうが…。「勿論さ、君ほど度胸の据わった娘はそうは居ない。」「私だって、なるべく顔見知りには出遭いたくないのですが…。」全く平気というわけではないのですよ、私がどう思うか思わないかにかかわらず、世間体というものがありますから。その後、私とモット伯はしばし歓談し、彼は帰って行ったのでした。モット伯との歓談が終わった後、才人とルイズを呼んだのですが…。「…ええと、どうしたのケティ?まさか!?」「モット伯に何かされたのか?」私が言うのもなんですが、このテの事柄に関しては信用度ゼロなのですね、モット伯。「いいえ、モット伯は姫様からの勅命を持って来てくれたのですよ。 彼がこの手の可愛い女の子がいっぱい居る店に来ても、誰も不思議だとは思いませんから。」酔い覚まし用のハーブティーを飲みながら、ルイズと才人を静かに見ます。「…成る程、それは確かに的確な人選だ。」才人は納得がいったように、こくこくと頷くのでした。「本来、これは私宛のものなのですが…聞きたいですか?」姫様がわざわざ才人も知っている人物を遣したという事は、手伝わせても良いということなのでしょう。「勿論よ! 私がここに居る事は知らないとは言え、姫様の為なら頑張るわ。」ルイズは力強く頷いたのでした。「…ばれているのですけれどもね、実は。」「ん?何か言った?」いけないいけない、思わずボソッと出てしまったのですよ。「いいえ、何も。 それよりも勅命でしょう?」ルイズのより気を引く話題で誤魔化して…。「そうね…で、何なの?その勅命って。」「実は…。」財務卿の不正云々はすっ飛ばして、汚職に手を染めている徴税官がいるから、こっそり成敗するという旨をルイズに伝えたのでした。この世界のヒロインたるルイズには光の当たる道が相応しい、真っ黒な事は私と姫様が大方やってしまえばいいのです。…酒場で働いているのを黙認している時点で、ちょっぴりアレですが。「成程、そのチュレンヌとかいうやつを、どうにかすれば良いんだな?」才人は納得がいったという風に頷いています。「ええ、出来る事なら、無傷で身柄を確保するのが望ましいのです。」私はぱぱーっと話して喉が渇いたので、ハーブティーをひと啜り。「…で、そいつの特徴は?」「え?んー?」そういえば、特徴を聞いていなかったのですよ。原作で出てきたチュレンヌ卿は…。「かなり太っていて…。」『ふむふむ?』2人はこくこくと頷いているのです。「態度が横柄で、口調が尊大…。」「なるほど…どっかで聞いたことがあるような性格だな。」そう言いながら、才人の視線がルイズに向かっています。「…好色で、巨乳好き…。」「なるほど…どこかのエロ犬みたいな性格だわ。」そう言いながら、ルイズの視線が才人に向かっているのです。「…そして、ケチ。」「モンモンみたいだな。」「モンモランシーみたいね。」二人とも酷いのですよ、それは。「いちまーい、にまーい…。」店の終わった後、怨念のこもった声が、貴賓室内に響き渡っています。待ち人来たらず…なかなか来ませんねチュレンヌ卿。「…ルイズ、人の部屋でお金を数えるのは止めて欲しいのです。」「ここじゃないと、サイトにばれるでしょ?」サイトにばれるばれないではなく、ホラーなのですよ、その姿は。「ケティに言われたのを自分なりに少しずつアレンジしながら頑張ってみたら、そこそこ成果は出るようになったと思うのよ。 ジェシカ、ジャンヌ、マレーネには及ばないけど、一気に中堅どころまで駆け上る事は出来たし。」ルイズは容姿が絶世の美少女なので、胸が薄い事を入れても総合的に可愛いのです…というか、巨乳好きでも顔が駄目だと駄目ですしね。胸は魅力の増幅器、ベースとなる容姿が良くなけりゃあどうにもならないのですよ。ですから、きちんと接客が出来るというだけで、ルイズの人気が出るのは自明の理なのです!…って、社会経験を積んでもらう為とは言え、次期女王予定者に何やらせているのでしょうね、私達は。「ここに来て、労働の有難味と創意工夫の大事さを実感できたわ。 日々の糧を得る為に、己に与えられたものを最大限に活用する…何事も気の持ちようよね、うん。」ルイズってばすっかり逞しくなって、お姉ちゃんは嬉しいのですよ…私の方が年下ですが。「…とは言え、アレよ。 ジェシカをギャフンといわせる為の一工夫が出ないのよね…。」「最近調理と皿洗い専門になりつつある私に、それを聞きますか。」キアラを《星降る夜の一夜亭》に呼んで、『パウルが金の無駄遣いをしているからしばいておけ』と伝えて以来、パウルの消息が途絶えたままですが…どういう手で来るか読めませんからね、奴は。だからこそ、商会の主を任せたわけなのですが。ちなみに、キアラを呼んだら偶然モット伯のハーレム再建計画が発覚。持つべきものは、やり手で美人の参謀なのですよ。「ケティならちゃちゃっと出るでしょ、ちゃちゃっと。」「男女の機微なら、ジェシカのほうが圧倒的に上手だと何度言えば良いのですか?」この件に関して言えば、私とルイズの間に差など全く無いのです。未来のルイズからアイデアをパクるくらいしか出来なかったわけですし。「私に聞くくらいなら、キュルケの方が遥かにましなのですよ。」「嫌よ、キュルケに聞くくらいなら、ジェシカに聞いたほうがましだわ…。」ルイズは溜息を吐いて、額を押さえたのでした。ちなみにキュルケは自分の魅力を生かす術は心得ていますが、他人に関してはちょっぴりずれているのです。それを先日、身をもって知りました…。「色恋沙汰はケティも専門外かぁ…。」「誰にだって得手不得手はあるのですよ。 忘れているようですが、私は年下なのです。」しかし、眠い…現在時刻は地球で言うと夜中の三時くらいなのです。「そうよね、ケティの場合覚えた端から忘れるのよね、年下だって事。 何というか、年上のオーラが漂ってくるのよ、うん。」「言外に老けた性格だと言っていませんか、それ?」まあ確かに、前世を加えると30歳越えですが…敢えて考えないようにしているのですから、そこは放って置いてください。「老けているとは言っていないわ。 安心出来るというか、思わず甘えたくなるというか、そういう雰囲気なのよ。」そう言えば、ルイズは末っ子なのでした。ルイズの末っ子属性が、実は私が年上でもある事を暴くとは…。「おほほほほ、さあいらっしゃ~いルイズ~!」慈母の如き微笑みを浮かべつつ、ルイズに向かって手を広げてみたり。「ケティおねぃちゃ~ん!」そこにルイズが飛び込んで来たのでした。夜中なせいか、妙なテンションなのですよ、二人とも。「…お前ら、何やってんの?」おや、何時の間にやら、呆れ顔の才人が…。「んー、姉妹ごっこでしょうか?」「いや、それはわかるんだが…何でルイズが妹? ケティの方が年下じゃね? …いやまあ、そっちのほうがしっくり来るけど。」才人、自由奔放に発言するのは貴方の良い所でもあるのですが、それが舌禍の元でもあるという事に気づいた方が良いのです。例えば、顔を真っ赤にして体をブルブル震わせているご主人様の事を慮った発言をしてみるとかなのですよ?「記憶を…失えええええぇぇぇっ!」「へんでろぱ!?」顎を下から蹴り飛ばされて宙を舞う才人と、足を高く上げ顔を真っ赤にしたルイズの対比が見事なのですよ。「あ~、死ぬかと思った。」床に倒れた才人でしたが、何事も無かったかのように起き上がったのでした。「チッ、生きていたのね…。」もはや蹴り程度のダメージなど、ものともしない脅威の回復力を備えつつある才人。横○忠夫の域に到達する日も近いような気がするのです。「それは兎に角、こんな所でケティに迷惑かけていないで、とっとと帰るぞルイズ。 明日もきっつい仕事が待っているんだからな。」ううむ、才人は意外と世話焼き属性?「はいはい、わかったわよ。 じゃあケティ、おやすみなさい。」「はい、お休みなさい。」ルイズたちは貴賓室から去って行ったのでした。「ああ、あのベッドであんたと一緒だなんて…憂鬱だわ。」「仕方ねえだろ、ベッドが一つしかないんだから!」立ち去った直後にドアの向こうから漏れ聞こえてくる会話。あの2人、何でそれほど密着しておいて間違いの一つも起きる気配が無いのでしょう、不思議なのですよ…。「まあ、そんな事を考えていても仕方が無いのです。 眠りましょう…。」やっぱり、ルイズが強過ぎるのがいけない…むにゃ…ねむ…。「ねえ、『キャバレー』の件なのだけれども、ちょっといいかしら?」「はい何ですか、ミ・マドモワゼル?」翌日、開店前にスカロンに声をかけられたのでしたアップだと怖いので、出来る事なら20メイルくらい離れた場所から話しかけて欲しいのですが、そうも言っていられませんか。 「旅芸人の手配は出来たかしら?」「旅芸人の手配はもう少し待って欲しいのです。 季節がら、王都では無く地方に回っている季節ですから。」確かに地方回りの時期ではあるのですが、実は既に手配は終わっていたりします…が、チュレンヌ卿の一件が済んでからにしようと思っているのですよ。「うーん…それじゃあケティ、貴方何か出来ない?」「貴族に何を求めているのですか、ミ・マドモワゼル?」この世界の貴族は魔法が出来るくらいで、それ以外はそれほど多芸ではないのですよ。とは言え、実はちょっとした卓上手品程度ならできますが…。この世界には魔法があるせいで、奇術が発達していない上に見世物にならないのですよ。そこそこ大がかりな奇術でも『人が浮いています!』『レビテーションだろ?』で、終わってしまいますからね…。「歌とかは…?」「故郷の葡萄踏み歌とか、小麦収穫の祝い歌でいいのなら。」ワインを仕込む時に村の娘達が集まって、皆で歌いながら葡萄を踏むのですよ。「貴族なのに…。」「当家の領地は慢性的に人手不足なので、立っているものは領主だろうが使うのです。」繁農期になると、領主どころか山の女王に働き蜂を派遣してもらわないと追いつかない程なのですよ。「小洒落た歌とか…思いつかないかしら?」「うーん…。」前世の記憶なら、歌える女性の曲は…『ワールドイズマイン』?「…ニコ厨丸出しなのですよ。」こっちの時代には曲調が合いませんし、無理なのですね。「あとは…『リリー・マルレーン』ですか…ふむ?」これなら曲調もゆったりしていますし、キャバレーっぽくて良いかもなのですね…色っぽい歌詞ですけど軍歌ですが。…少し記憶が定かでは無い部分もあるので、一番だけ歌ってみますか。「~~~~♪~~~~♪ …とまあ、こんな感じで御粗末様なのです。」「綺麗な声…歌詞も兵隊さんに受けそうだわ。 ゲルマニア語なのが玉に瑕だけれども。」ゲルマニアとは基本的に仲が良くないですからねえ、我が国。「まあ、ゲルマニア語っていうのも異国情緒漂っていていいかもね。 …って、楽隊の手配とかは?」スカロンってば、キャバレー化の提案をかなり気に入ってくれていたのですね。それは良いのですが…。「ま…待って下さい、持ち歌一曲でやれとか罰ゲームなのですよ。 きちんと劇団は手配するので、もう少々待って欲しいのです。」「そ、そうよね…流石に一曲だけはきついわよね。 残念だわ、ケティちゃんの歌、とっても上手だったのに。」ひょっとして、プロに混じって歌う破目に陥りましたか、これは…。「それじゃあ、今日も頑張るわよ。」「はい、ミ・マドモワゼル。」さて、今日も一日調理と皿洗いを頑張るのですよ。「はぁ…何時見ても不思議な光景だわ。」カブを切っていると、厨房に来たジェシカが不思議そうに私の手元を覗き込んでいるのです。「そんなにブレイドでカブを切るメイジが珍しいのですか?」「珍しいというか、今まで一度も見た事が無いわよ。」ブレイドは刃に切ったものがくっつく事はありませんし、伸縮自在で洗う必要も無いという便利な調理用魔法なのです。ブレイドが戦闘用魔法?HA!HA!HA!そいつぁいったいどういうジョークだいジョニー?なのですよ。「ケティ、こっちに火を頂戴!」「はいはい、炎の矢!」スカロンの掛け声に応じて、かまどに着火します。「この肉、ちょっと炙って軽く焦げ目をつけてくれ!」「はい、発火!」発火の魔法で肉を炙って焦げ目をつけます。「明らかに厨房の効率が上がっているわ…メイジって便利ね。」火メイジの力を最大限に活かせるのは、戦場と厨房なのですよ、ジェシカ。いつものように店の羽扉が開き、客が入ってきましたが…何時もとは様子が違う感じの一団なのでした。中央にいるのは、太っていて態度の大きそうな貴族…その周囲を下級官吏や軍人と思しきメイジ達が取り囲んでいるのです。「チュレンヌだわ、急いで応対しないと!」スカロンはフリフリエプロンを壁にかけると、クネりながら大急ぎでチュレンヌ卿の元に向かっていったのでした。「あれがチュレンヌ卿なのですか…。」ぬぅ…どアップのスカロンを前に全く怯まないとは、やりますね。おを?取り巻きが杖を抜いたのですよ、客が一斉に出口に向かって逃げて行くのです…下品で低能な脅し方なのですね。脅す時はもっと密やかかつ陰険に…。「…ではなく!そろそろ行かないと。」事前の打ち合わせ通り、貴賓室に連れて行ってって…。「ぶ!無礼者おおおおおおおおっ!?」「ええええええええええっ!?」ルイズの胸を触ろうとしたチュレンヌ卿が、ルイズの蹴りで空中高く飛び上がったのでした。才人への蹴りは、アレでも本気では無かったのですね…。「この!貴族の!恥!さらし!めええええええっ!」1Hit!2Hit!3Hit!4Hit!…ルイズの凶悪な空中コンボに、取り巻きも何が起こったのかわからずに、ポカーンと眺めているのです。「墜ちなさいっ!」浮かびあがったチュレンヌ卿を、ルイズは空中踵落としで叩き落としたのでした。ええと…27Hitコンボなのですよ。「げふぁ…。」「うわぁ。」駆け寄った時には既にぴくぴくと痙攣するチュレンヌ卿が横たわっているのです…《チーン》と、何処かで鈴が鳴ったような気が。「な、何をするか平民風情が!」「何をするか、では無いのですよ。 いきなりルイズに手を出して殴り倒されるとか…計画が丸潰れなのです。 何を考えているのですか、貴方達の親分は?」私のそこそこ綿密なプランを返せコンチクショーなのですよ。「無茶苦茶言うなっ!?」取り巻きAが、何か言っていますがスルーなのです。「ルイズ、計画がぶち壊しなわけですが…?」「少しやり過ぎちゃった、てへっ☆」あの惨劇を見せた後で、かわいこぶっても無駄なのですよ。「少しじゃ無いだろ、泡吹いているぞこのオッサン。」デルフリンガーでチュレンヌ卿を突っつきながら、才人がルイズにツッ込んでいるのです。「うっさいわね、あんたも泡吹かすわよ?」「怖いから、どうぞやめてください。」即座に土下座体制に入る才人…最近下僕体質が染みつきつつあるのでしょうか?「ええい、我らを無視するなこの平民どもが!」取り巻きBがなにやら喚いているのです。「宮廷の蛆虫に集る木っ端役人風情が喚くな、なのですよ。」「な、な、な、なんだと!?」取り巻きBは、びっくりして口をパクパクさせているのです。「黙れと言っているのですよ、自らの地位を成り立たせているものが何であるのかすら理解出来ていない愚か者どもに。」そう言ってから『ハッ!』と、鼻で笑って見せたのでした。「平民!今の暴言聞き捨てならんぞ!」「平民風情がその口のききかた…断じて許しては置けぬ!」取り巻きたちは色めきたって、杖を抜いて私に向けたのでした。「ふぅ…平和な話し合いは成り立たず、なのですね。」これで取り敢えず、この場から逃げ出すものは居なくなったでしょう。出口には目つきの鋭い女性が数人…銃士隊の隊員なのですね、サポートありがとうございます。「何処が平和な話し合いだっつーの!?」「あれが平和な話し合いの態度なら、宣戦布告はさながら熱烈な愛の告白だわよ。」才人は肩をすくめ、ルイズは額を押さえているのです…。「ちょっとした冗談のつもりだったのですが…。」「笑えないわ。」ルイズにバッサリと斬られてしまったのですよ…。「うぅっ…と、兎に角…才人、ルイズ、懲らしめてやるのです!」『あらほらさっさー!』ええと、「やぁっておしまい!」の方が良かったでしょうか…?「全国の女子高生の皆さ~ん!お待ちかねのデルフリンガー様参上ですよ~! 寄らば斬る!寄らなくても斬る!隠れても逃げても斬る!今宵の俺は血に餓えているぞ、うひひひひ!」「黙れ妖刀!」「うっさいわよバカ剣!」才人はデルフリンガーを抜き放ち、ルイズは拳を光らせながら敵に飛び掛って言ったのでした…って、ルイズの拳が光ってる!?「サイト!そっちの敵は任せたわ、私はこっちのをやる!」「おう!任せとけ…って、そんなのアリ!?」ええとルイズ…今、拳でウインドカッターを弾き飛ばしませんでしたか…?「ちょ、デルフ!アレが例の力なのかよ!?」「え!?あー…いや、良くわかんないけど違うような気がする。」虚無じゃないとしたら、何なのですか、アレは…?「酒場の酔っ払い相手に鍛えた避けの極みよ、あんた達如きに見切れるわけが無いわ!」ルイズは飛んでくる魔法をやすやすとかわし、あるい弾き飛ばして取り巻きに肉薄…。「吹き飛びなさい!」パンチと同時に拳の先にエクスプロージョンを発生させて文字通り吹き飛ばしたのでした。「な、何だこの娘!?」「ボーっとしてんじゃ…無いわよっ!」更にルイズは反動を利用して、向かい側の取り巻きにキックをして蹴り飛ばしたのです。「グハッ!?」取り巻きは壁に激突して、そのまま崩れ落ちたのでした。「ちょ、相棒!拙いぞ、ちょっとの間に娘っ子が滅茶苦茶強くなってる!? このままだと俺達いらない子になっちまうぞ!」「わかってるけど、剣は手加減が難しいんだ…よっ!」才人も負けじとデルフリンガーの横の部分で一気に2人をぶっ飛ばしています。ちなみに私なのですが…。「この娘は指揮官か…戦いは苦手そうだな。」「取り敢えずこいつを捕らえて人質に!」肉弾戦が苦手な私は、戦えないのと勘違いされて捕らえられそうになっているわけなのですが…。「ちょっと待て、それは呪文!?」「まさか、メイジなのか貴様!?」呪文を唱え始めると同時に火球が形成、例の如く高速回転して小さく白く、眩しくなっていくわけなのです。「火というのは、温度が高くなれば高くなるほど白く眩しくなっていくわけなのですが…さて、蒸発したいのはどちらなのですか?」そう言って、にっこり笑いかけてみたりするのです。「ま、待て…参考までに効くが、貴殿のクラスは?」引き攣った顔で、取り巻きが私に話しかけてきたのでした。「冥途の土産に教えてあげますが、火のトライアングルなのです…で、どちらが先に蒸発するのですか?」『ヒィっ!?』そんなに私の笑顔に怯えなくても…ちなみに魔法への対処が全く出来ないない場所で火の魔法をブッ放すわけにはいかないので、これはハッタリなのです。いや全く、本当に使いどころが限定されるのですよ…。「ふ…フン、『どちらか』という事は、一つしか作れないのであろう?」「そんな貴方の御期待に応えて、いつもより多く御用意~♪」火球二つ追加なのですよ~。まあ、増えてもハッタリはハッタリなわけなのですが。「杖を捨てて両手を上げれば、命だけは助けてあげるのです。」「ぐ…仕方があるまい。」取り巻きたちは杖を捨てて両手を上げたのでした。「才人、そろそろ良いので、アレいきましょう。」「おう…静まれぃ!」才人が大声で叫んだのでした。「静まれ静まれぃ!」それにデルフリンガーが続きます。静まれとは言っても、殆どの者が床に倒れ伏して、残りは手を上げているわけなのですが、まあ気分作りということで。「こちらにおわす方を何方と心得る! 畏れ多くも女王陛下直属の特務侍女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール公爵令嬢にあらせられるぞ! そのほうら頭が高い!ひかえおろぅ!」とは言え、ほぼ全員床に倒れ伏しているわけなのですが(以下略「え…いや、てっきりこっちの一件大人しそうだけど、おっそろしい娘が一番偉いのかと…。」取り巻きが恐る恐る私を指差しているのです。「いえいえまさか、私はただの三下なのですよ?」いやぁ、最前線で自分達をぶっ飛ばしていた相手が、まさか一番偉い人だとは思いも寄らなかったでしょうねえ、あっはっは。「ちょ、ちょっとケティ?」「はい、何なのですか?」ジェシカがおそるおそる声をかけてきたのです。「ル…ルイズってそんなに偉い人だったの?」「ルイズは基本的にエラい人なのですよ。」関西弁的な意味で。「ど、どうしよう…あたし散々からかってたんだけれども、ぶ、無礼討ち?」「大丈夫大丈夫、これはいちおう極秘任務なので、命の危険は無いのですよ…私達の正体さえ口外しなければ、ね。 そういうわけで皆にも徹底してくださいね、ジェシカ?」ジェシカににっこりと微笑みかけると、引き攣った笑顔を浮かべてジェシカがコクコクと何度も頷いて見せたのでした。「さて皆さん、起き上がって裏口へ。 お迎えの方々がいらっしゃっているのですよ?」もう少し静かにするつもりだったのですが…まあ、いいでしょう。客は全員退避済みですし、給仕娘達の口も封じました。とは言え人の口に戸は立てられず…何れ漏れるでしょうが、二月程度ならば何とかなる筈なのです。「え…ええと、このお財布の山は何?」私がルイズに手渡したのは、チュレンヌ卿とその部下の人数分と同じ数の財布。「先程の催しにチュレンヌ卿とその取り巻きの方々がいたく感激なさってくれたようで、その財布をルイズへのチップにどうぞと。」「えええぇ!?感激というより悲嘆に暮れていた感じだったけど?」まあ、そうとも言うのです。「良いから受け取っておくのですよ、あの方々の最期の厚意なのですから。」「ええと、今ケティが言った《さいご》の意味が凄く怖かったような?」気にしちゃ駄目なのですよ。「もう二度と永遠にこの店には来られないのですから、貰える時に貰っておくのですよ。」「…すっごく受け取りたくないんだけど。」ルイズの顔が引き攣っているのです。「冗談なのですよ、彼らがそんなに酷い目に遭う事は無いのです。 あの姫様がそこまで酷い事が出来る訳無いではありませんか?」「う…うーん、そうよね。 そういう事なら受け取っておこう…かしら。」正直が一番なのですよ、ルイズ。「…そうそう、彼らが正直だと良いのですね、ルイズ。」「怖い、怖いわケティ!」うふふふふふふふふ…。「うぉぅ…。」才人の感嘆の声。「ふつくしい…。」思わず声が上がるのですよ、これは。「えへへ~どう?どう?」ううむ、流石は魅惑のビスチェ。あのキュートなルイズが輪をかけてキュートなのですよ。そんなこんなで次の日の夜。実は昨日がチップレースの最終日だったらしく、無茶苦茶な量のチップをカツ上げ…もとい、手に入れたルイズが勝者となったのでした。そんなわけで、魅惑のビスチェはルイズがゲットなのです。「とてもとても可愛いのですよ、ルイズ。」そう言いながら、ルイズをぎゅーっと抱きしめます。「ああ、魅惑のビスチェの効果は恐ろしいのです。 そっちの気の無い私が、ルイズに堕とされそうなのですよ。」これは…ノンケでもかまわず食っちまおうとする危険なビスチェなのです。「ええっ!?いやそれは是非とも勘弁してケティ。」わかってはいるのですよ…しかし、わかっちゃいるけどやめられないのですよぅ。「そ、そうだわ、ケティも着てみてよ。」「えー?」スカロンが着ていたものを身に着けろと…?いやまあでも、今はルイズが着ているから別に構いませんか。「それではお言葉に甘えて…。」ルイズに魅惑のビスチェを借りてみたのでした。「ぶーっ!?」私を見るなり、才人が鼻血を噴いて気絶。「ちょ、サイト!? 何、なんなのこの反応の違い!?」そう言いつつ、ルイズが私の胸元を覗き込んだのでした。「おおぅ…こ、これは…これはなんというけしからん膨らみ…。」そう言いながら、ルイズが私に抱きついてきたのでした。「魅惑の膨らみ…なんという素晴らしい感触…。 これは才人も耐え切れるものじゃあないわね…。」「ちょ、ルイズ、正気に戻ってください!?」ルイズが私の胸にすりすりと顔を押し付けてくるのです。「素晴らしい膨らみ…これは私のものだわ、誰にも渡さない…。」「ひええええええ!誰か助けてーっ!?」明け方の《魅惑の妖精亭》に、私の切ない悲鳴が響き渡る事になったのでした。うう、もう二度と絶対にこんなもの着ないのですよ…。※1000ゲッターの方へ外伝リクエスト権をプレゼント( ゚∀゚)ノ分の悪い賭けが嫌いでなければどうぞ、何なりと。