「~♪~♪」夏の日、ボクは鼻歌を歌いながら、箒で空を飛んでいた。周りには重低音の羽音、ジャイアント・ホーネットが奏でるその音色とともに、ボクは空の散歩をしていた。彼らは基本的に山の女王の端末ではあるけれども、それでも自律的にかなり高度な判断ができるようになっている。だから、ラ・ロッタ家の人間が空を飛んでも襲ってはこないし、それどころか護衛までしてくれる。「ケティー!」声がしたのでそっちを見てみると、ボクと同じく箒に跨ったジョゼフィーヌ姉さまが居た。「あれ?ジョゼ姉さまどうしたの?」「大変なのよ、大変! 国王陛下が崩御なされたって!」わたわたと慌てながら、ジョゼフィーヌ姉さまがボクにそう説明してくれた。「ふーん、陛下の死因は?」「そんなの知るわけ無いでしょ! …って、冷静ねケティ。」まあ、国王陛下が崩御するのは知っていたし。「いや、びっくりし過ぎて上手く感情が出ないだけだよ。 後継ぎはどうするのかなぁ?」「国王陛下が崩御されたのよ! 後継ぎとかの前に、まずは葬儀でしょ!!」いや、ジョゼフィーヌ姉さま、これからこの国は最悪の三年間を迎えるんだよ。国王が死んだのは仕方が無いとして、後継ぎが後継ぎ足り得ていないのが怖いんだ。統治者が統治しない国は法が法として働かなくなる。故に貴族が無法を働き、汚職が蔓延し、この国の屋台骨はあっという間にぐずぐずに腐っていく。これからこの国は、それを目の当たりにするんだ。「そうだね、ジョゼ姉さま。 まずは葬儀だ、そしてそれからが多分地獄だよ。」「じ、地獄?」ボクの言った一言に、ジョゼフィーヌ姉さまは怯えたような視線を向ける。「マリアンヌ様は政治に興味が無い、そしてアンリエッタ様はまだ14歳。 王家には現状この二人しかいない。 国王陛下の懐刀であるマザリーニ枢機卿が頑張ってくれるだろうけれども…はて、それでどこまで持つものやら?って事。」「む、難しいわケティ。 もっと、わかりやすく教えて。」ジョゼフィーヌ姉さまはまだ15歳、政治になんかまだまだ興味ない年頃だから仕方が無い。「この国は滅びるかもよ?って事。」「この国が滅びる…?」ジョゼフィーヌ姉さまはいまいち理解できていないようだ。「うーん…私はケティと違ってそこまで難しい事を考えられないけれども、兎に角大変な事になるのね?」「うん。」でもなんとなくは理解してくれたみたいだし、まあ取り敢えずこれで良いや。「む…?」ボク…いえ、私はゆっくりと目を開けたのでした。「ずいぶんと懐かしい夢を見ましたね。」ジョゼフィーヌ姉さまは何事にも大雑把な人だったのですが、今はパーガンティ家で何をしてらっしゃることやら?「ふにゃ、エレ姉さま、離して。」「公爵家の娘が使用人と一緒の馬車に乗りたいだなんて、何を考えているのおちび!ちびルイズ!」金髪で目つきがきつくて胸が薄くて結婚に縁遠そうな眼鏡の女性が、才人とシエスタの乗る馬車に普通に乗ろうとしたルイズを叱りつつ、大きな馬車へと引き摺って行くのです。「おおぅ…アレが独神エレオノールですか…。 あのルイズを無抵抗で引き摺って行くとはやりますね。」独身でいる事を運命づけられた、独身の象徴なのですよ。「独神…って、いくらなんでも酷過ぎるような気がするわ。 ヴァリエールに同情するツェルプストーなんて、恰好悪いじゃない…どうしてくれるのよ?」ニヤニヤ顔で言っても説得力無いのですよ、キュルケ?「二人とも同列。」物陰からエレオノールに引き摺られて馬車に連れて行かれるルイズを眺めつつニヤニヤしていた私達二人に、タバサが涼やかというより冷ややかな視線でツッ込んだのでした。姫様がゲルマニアとの合同演習の席上で上目遣いのうるっとした瞳でゲルマニア皇帝に嘆願したのが効いたのか、実質ゲルマニア上位の合同派遣軍となったのでした。姫様にコロッと騙された皇帝の『嫁にぃ~来ないかぁ~』とかいう、皇帝の誘いはうまく断ったようですが。兎に角、無能な味方は盾にもならんという事で、トリステイン軍は今回は後方への支援と牽制が主体になるそうなのです。《数居りゃあ良いなら、学徒兵でも良いわね、安いし》という事で、魔法学院の男性に志願の受付をしたら…男子生徒が英雄願望に酔ったのか、根こそぎ居なくなったのでした…。姫様が目を潤ませながら『貴方達の助けが必要なのですわ!』とか、語ったせいなのですよ~…何でこう、見た目にころっと騙されるのだか。まあそんなわけで、新学期が始まったのに学院には殆ど男がおらず、まるで女子高のようなのです。ちなみに学徒動員に反対していたオールド・オスマンも現状には大満足らしく、『男子生徒の復学認めるのやめよっかなー』とか、ほざいているのを見かけたとの報告ありなのですよ。「ルイズってば、従軍しますって手紙を親に送ったら、あのお姉さんが来たんでしょ?」「ええ、魔法もうまく使えない娘に、そんな事は無理だと判断したのでしょうね。」虚無属性であるという事は、ルイズはまだ親兄弟にも伝えていない筈。ならば、許可が出るわけが無いのは、当然と言えます。「はぁ…親にも教えられないだなんて、難儀よねえ伝説の属性って。 私はつくづく火で良かったわ。 でもいいの?貴方は従軍しなくても?」「あとで合流する予定ではあります…とは言っても、出来る事はそんなにありませんが。 やる事はルイズ達の世話係なのですよ。」銃士隊以外に女性の士官はいません。軍の伝統として、女性は貴族であっても前線に出さないのが習わしなのです。銃士隊が今回の戦に従軍できないのは、軍内部の軋轢とか色々とありますが、何よりも全員女性の部隊だからなのですよ。何故女性を前線に出さないか?略奪暴行ヒャッハーが当たり前なこの文明レベルの戦争で女性を前線に出したら、アニエスレベルでもないとえらい事になるのですよ。なんというか、それなんて凌辱系エロゲ?な感じに。…ちなみに、ルイズは飽く迄も《虚無》なので例外なのです。表向きは後方支援ですし。「後で?」「ええ、アルビオンの雇った傭兵部隊が、学院を対象にした後方撹乱作戦を企図しているという情報が入っているのです。 ですから《軍事教練》という名目で、学院には銃士隊が入る事になっています。 私は彼女らと学院の橋渡し役という事なのですよ。」メイジの居ない銃士隊をメイジの軍事教練に派遣してどーすんだというツッ込みが入りそうですが、飽く迄も名目ですから。「相変わらず情報通ねえ…。」そんな声とともに、突然視界をふさいだのは金髪クロワッサン。「おや、最近恋人が軍隊に行って、夜な夜な火照る体を持て余しているモンモランシーではありませんか。」「私が重度の欲求不満を抱えたエロ娘みたいな風に言うなぁ!?」モンモン大噴火。「まあまあ、友人に対するちょっとウイットの効いた小粋なジョークではありませんか、怒らない、怒らない。」「どう見ても猥談ジョークよ、それ! ウイット効いていないし、小粋ですらないわ。」女しか居ない環境だと、ちょっと下品モードになるかもしれないのです、失敗失敗。「では、ギーシュ様が居なくても、ちっとも寂しくないと? 欠片も全く、なーんにも、例え死んだって気にしないとでも言いたいのですか?」「え?いや、そこまで言われると…ねえ、寂しくないとは言いづらいというか。」トリステイン貴族の娘は一般的に気位が高いので、勢いを削ぐような事を言わないとなかなか本音を話さないのですよねえ…。「…その話はこのくらいで良いでしょ。 それよりも、襲撃計画って危ないんじゃあないの?」「勿論、危なくない襲撃計画なんて、のほほんとしたものではないのです。 その上、傭兵部隊に超危険人物が居まして…これをどうにかしないと、銃士隊でもどうにもならない可能性が高いのですよ。」彼に対する対策法は考えつきましたが…さて、上手く行くのやら…。「ちょ、超危険人物って?」モンモランシーがおそるおそる尋ね返してきます。「白炎のメンヌヴィル、二つ名でわかるように火メイジなのですが…人の焦げる臭いに性的な快感を覚えるという、それはもう危険な危険な変態なのです。」どう見てもシリアルキラーとパイロマニアの複合系なのです、本当に(ry人の肉も動物性蛋白質なので、程好く焼ければ美味しそうな良い匂いがするらしいのですが、そういうのとは違うのでしょうねえ。そういうカニバリズム的嗜好でも、やっぱり変態ですし嫌ですが。「ひいいいいぃぃぃぃ!?」モンモランシーが震えあがっているのです。「その変態といい貴方といいキュルケといいコルベール先生といい、何で火メイジは感覚が常識の範囲外にズレている連中が多いのよ!?」「失敬な、白炎のメンヌヴィルのような人間やめかけた究極レベルの変態と一緒くたにしないでください。」それは流石に失礼なのですよ、モンモランシー。「そうよ、一見純情無垢な風に見えるだけで、腹の中が黒炭よりもなお黒いケティと一緒にされるのは困るわ。 私はもうちょっとまともだもの。」貴方がそれを言いますか、キュルケ。「ほう、男をとっかえひっかえ恋に生きていると言えば聞こえはいいが、単に長続きする質の良い恋愛に辿り着けないだけなキュルケにそんな事を言われる日が来ようとは…。」「…喧嘩売ってるのかしら?」喧嘩売られたのは、こちらが先なのですよ。「私の微熱と貴方の燠火、どちらが熱いか比べるべき時が来たのかしらね?」「それも是、なのですよ?」私達が睨みあった瞬間に、いきなり鈍器で殴られた衝撃が!?「あべし!?」「ひでぶ!?」星が、星が見えたのですよ。強烈な衝撃と痛みにしばらく悶えたのち見上げると、そこには口をへの字に結んだタバサの姿が。「くだらなさ過ぎ。」『ごめんなさい。』流石はガリア王族、ちっちゃくても王者の風格なのですよ。ちなみに、今のやり取りはただの冗談だったのですが、そういうところは純情なタバサには理解してもらえなかったようなのです。しかしその杖、あいも変わらずの鈍器っぷりなのですね…意識が一瞬飛びました。「相変わらずの仲良しトリオねえ、あんた達。 だいたい、この学院の学生トップクラスの火メイジである貴方達が決闘なんかしたら、学院が炎上するわ。 火を消すのは私達水メイジなんだから、自重して。」何なのですかモンモランシー、その微笑ましいものを見るような視線は?「まあそれはそうとして、白炎のメンヌヴィルだったっけ? その変態への対策は出来ているの?」「まあ一応、魔法自体は試してみましたけれども、本人にやるのはぶっつけ本番なので、役に立たなくて焼死体になるかもしれませんが…。」メンヌヴィルのサーモグラフィ能力が、何処まで高性能なのかわからないのですよね…。「情報によれば変態は盲目であり、その代わりに対象物の熱を感知して攻撃してきます。」「つまり、背面に炎の壁を張って、変態が感知する熱を誤魔化せば良いのね?」さすがキュルケ、火の事になると目がきらきらしているのです。ええそうなのですよ、私達火メイジは皆、程度の差こそあれパイロマニアの傾向があるのですよね。「いいえ、背面に炎の壁を張ると、変態には人のいる所だけ熱が低く見えてしまうので、同じ事になるのですよ。 言うなれば、白い壁の前に黒い服を着て立つようなものなのです。」「それじゃあ、どうにもならないじゃない?」キュルケはガクッと肩を落としたのでした。「ですから、変態の能力を誤魔化す為に炎の壁をもう一つ自分の前にも用意するわけなのですよ。」炎と炎の間に入れば、メンヌヴィルのサーモグラフィ能力を誤魔化せる可能性は十分にあると考えています。「炎と炎の間に入る事で、自分の熱を誤魔化すという事?」「ええ、そう言う事なのです。」まあつまり、忍者が壁に同じ色の布を張って隠れるのと同じ事を炎でやるわけなのです。「問題としては、炎の壁に挟まれると猛烈に暑いので、短期決戦で何とかしないとこちらが先に参ってしまうという点。 もう一つは、変態の能力がこちらの予想を上回っていた場合、油断したこちらが的になる点なのです。」炎の壁の間に隠れたまま消し炭とか、勘弁したい展開なのです。「上回っていた場合?」「変態の能力が、正確に熱源との距離を推し量れる場合なのですよ。 炎の壁に挟まれるという都合上、どうしても後ろの壁との距離が出来ますから。」もしそうだったら、目で見るよりも便利なわけですが。「…もしそうだったら、お手上げね。 ところで、他の傭兵はどうするの?」その点はあまり心配無いと言いますか、逆に心配といいますか。「エトワール姉さまが…。」学院が、寮が、広場が、姉さまの狩場になる日が来ようとは…。「ええと、焦土のエトワールが本気出すわけ…?」モンモランシーの顔が引きつったのでした。「可哀想に…。」「悲劇。」キュルケとタバサも沈痛な面持ちなのです。エトワール姉さまは火と土のラインメイジであり、趣味が家事全般と…何故かトラップなのですよ。特に得意なのが最後に爆発系を組み込んだトラップコンボで、故に二つ名が『焦土』。傭兵たちが入り込んで来たその時から、学院は命を刻む館と化すわけなのです。エトワール姉さまは基本的に遠出の好きな人じゃありませんし、来なければ餌食にならないのに…銃士隊まで巻き込まなければいいのですが。「…ま、まあ、気を取り直して…兎に角、注意すればいいのはその変態だけなわけね?」「ええ、変態に注意というわけなのです。」すっかり『変態』で定着してしまったメンヌヴィル…まあ、実際変態ですし、どうせ敵ですし、良いのですが。「…と、こんな話をしている間に、馬車が出て行ってしまったわね。」「ルイズの未来に幸多からん事を…なのですよ。」ドナドナなのです。せいぜいボートの上で乳繰り合おうとして、公爵に追っかけられればいいのですよ。とぼとぼと歩いている反射鏡…ではなく、コルベール先生を発見なのです。先程ちょっと怒りながら歩き去っていくキュルケを見たので、たぶん『このヘタレがぁ!』とでも言われたのでしょう。「こんにちは、いつも眩しいコルベール先生。 落ち込んでいる所を見るに、毛生え薬の開発にでも失敗しましたか?」落ち込んでいる所に追撃の一言。「い、いきなり果てしなく無礼だね、ミス・ロッタ。」「落ち込んでいるようだったので、もっと落ち込みそうな事をあえて言ってみました。」まあ、ちょっとしたショック療法なのです。「私のハゲ呼ばわりは取り敢えず置いておいて、何かありましたか? 例えばキュルケに、なんで軍に行かないのか責められたとか。」「君は何でもお見通しなのかね…?」この部分は先程キュルケが怒りながら歩いて行った時に偶然思い出しました。まあ、この後コルベール先生がふさふさになるわけでなし、どーでも良いっちゃどーでも良いエピソードなのですが。「キュルケの性格と先生の前歴を知っていれば、自ずと導き出されるのですよ?」「な…!?」思いきり嘘ですが、まあコルベール先生の前歴を知っていれば、このエピソードを思い出さなくても何となくは察する事が出来るでしょう。「火に破壊ばかり見出す生き方に疲れた。 だから火で何かを創り出そうとしているのですよね、先生は? キュルケは火を破壊以外に使いたいという先生の考えを戦場に行きたくが無い為の言い訳だと思っているようなのです。 まあ、それはある意味当たりなのですが。」「どこまでお見通しかね、君は?」コルベール先生も、流石にポカーンとしているのです。「敵を知り己を知らば、百戦危うからず。 情報は黄金に等しいものなのです。」「私の経歴は可能な限り消した筈なのだがね?」ショックから立ち直ったのか、コルベール先生の目つきにきつさが加わってきたのでした。「そんなもの、消すのが不可能な場所から汲み出せばどうとでもなるのですよ…と、まあそんな話はどうでもいいでしょう? 火で何かを作り出す…そうですね、例えば…。」炎の矢で、雑草を灰に変えて、それを一撮み。「この灰を草木の実り難くなった畑に撒けば、土壌を実り多き土地に戻す事が出来ます。」「なんと!そんな事が出来るのかね?」鎌倉時代の人の知識丸パクリなのです…とはいえ、単にいっぱい撒けばいいってもんじゃあ無いというのも、ラ・ロッタで実際に鍬持って実験やって知りましたが。好色皇として有名な某聖上は、前歴実践系の考古学者だった御蔭で上手く行きましたが、ざっとした知識しかない身では色々と黒歴史も…ふふふ。「炎で焼き尽くされた灰であっても、そこには芽吹きが、再生が内包されているわけなのです。 先生が常日頃から仰っているのは、こういう類のお話ですよね?」「私の目指しているものとは微妙に違うが、まあそういう事だね。」ぬ、コッパゲの癖に生意気な。まあ、コルベール先生は特技が工学系なので、仕方が無いといえば仕方がありませんが。「ほほう…では、これでどうなのですか?」そう言って手渡したのは、とある設計図。「な、なんですかこれは!?」「当家で建艦中の大型交易船『ホーネット号』なのです。 全長78メイル、全幅13メイル、政府に納入予定の新式大砲14基なのですよ。」設計に自分が関わりまくっておいてなんですが、ツッ込みどころ満載になりました。「…って、どう見てもこれは交易船じゃなくて軍艦だろう! しかも今までに無いくらいの新機軸ばかりだ。」「おほほほ、張り切って注文つけまくったら、いつの間にやら軍艦に。 まあ、大砲と機関を下ろせば、普通に商船としても使えるのです。」ちなみに新式砲は、この世界の技術で再現できたダールグレン砲のようなもの。何で『のようなもの』かというと、現物があってコピーしたのではなく、こちらの技術で設計思想だけパクって作り上げたものだからなのです。だから、間違いなく本物よりも性能は悪いのですが、それでも従来型の大砲よりは遥かに射程が延びたという…いや、人の知識の積み重ねって恐ろしいものなのですね。ちなみに、このダールグレン砲もどきの登場によって、アルビオンとトリステインは砲の性能では拮抗することが出来るようになったわけなのです。もっとも、次の戦にはほぼ間違いなく生産が間に合いませんけれどもね。技術流出を可能な限り抑えるために自社工場のみで生産しているのですが、施設の拡充が需要に追いついていないのですよ。「…で、この機関室というのは…?」「ああ、そこが先生に見せたかったところなのですよ。 それは、火で水を沸かして発生した蒸気を動力に変える機関なのです。」蒸気タービン機関を現在開発中ですが、実はこれも船が完成するまでに間に合いそうにない…というか、パウルからの報告では、先日蒸気を溜めておく缶が大爆発したそうなのです。冶金技術を魔法だよりにしている限界というか、私たちの技術力の限界といいますか。「ななな、つまり、この船は火を用いた動力で自航可能なのかね!?」「早い話がそういう事なのです。」よし、ガッツリ食いついてきたのですよ。コルベール先生をゲットすれば、商会の機械関連の技術力はもう少し底上げできる筈なのです。…コルベール先生とキュルケのフラグがバッキリ折れるのが難ですが。「エンジンも良いですが、蒸気タービン機関の方が現状では出力出せますよぅ?」「蒸気タービン機関というのかね、これは!?」あ、思わず口が滑ってしまったのです。ちなみに推進機構はプロペラ方式、プロペラも可変ピッチ機構(といっても機械式なので、一旦止めてからしかピッチを変えられませんし、変えられるのも前進と後退のみですが)になっているのです。「ええ、蒸気で風車を回し、それを動力とするのです。」私は基本となる原理を作って見せて、こちらの技術者たちがそれを実際の機械になるように実現していくわけですが…技術者が土メイジばかりだった当商会にも、そろそろ火のエキスパートが必要でしょう。むざむざゲルマニアに渡す必要もありませんし。「いずれドックに招待いたします。」「ぜ、絶対だよ、絶対連れて行ってくれ!」コルベール先生てば、軽くイきかけているのですよ…。「あー…コルベール先生? 出来れば女子生徒を壁際に追い詰めて、血走った眼でハアハアしながら言わない方が良いと思うのですが。」私達二人を見かけた何人かが、ひそひそ話しながらこちらを見ているのですよ…。「え!?あ、こ、これは失敬…。」正気に戻ったコルベール先生は少し恥ずかしそうな表情になりつつも、スキップしながら立ち去って行ったのでした。「渋い趣味ね、ケティ?」「おや、キュルケではありませんか。」振り返ればヤツが居る…というわけで、キュルケが居たのでした。「ギーシュ、ダーリンと来て、コルベール先生なの?」「コルベール先生の技術力には惚れ込んでいますが、男性としてどうかというと、それは別なのです。 年上過ぎるのも難ですし。」出来れば反射鏡では無く、ふさふさな方が良いのですよ。「つるつるなのが駄目?」「貴方まで興味津々なのですか…タバサ?」キュルケの背後から、タバサが顔を出したのでした。「気まぐれ。」「気まぐれ…いや、つるつるが駄目かと言われると、確かに何となく駄目なのですよ。」まだまだ花の乙女なのですから、選り好みくらいさせてください。「残念。」「ええと、何故なのですか?」タバサの思考は、時々滅茶苦茶読みにくいのですよ。「つるつる。」そう言いながら、タバサは前髪を上げて見せたのでした。「おお、おでこ広いのですね。」「というか、貴方が髪を上げたの初めて見たわ。」そう言えば、タバサは『ガリアのデコ姫』として知られているイザベラ王女と親戚でした。ひょっとして、ガリア王族は全員おでこが広いのでしょうか…?「タバサ、おでこが広いのとハゲは違うのです。」「そうよ、貴方はハゲじゃなくて、おでこが広いだけ。」私達は励ましたつもりだったのですが…。「残念。」何故かタバサは残念そうなのでした…読めない、本当に、時々タバサの思考は読めないのです…。「ケティイイイイイイイイイィィィィィィィィ!」「ふんぎゃあああああああああぁぁぁ!?」ジゼル姉さまが、背後から突如私に抱きついてきたのでした。「ししし、心臓が、心臓が口から飛び出るかと思ったではありませんか!?」「だ、だって、最近ケティがかまってくれないんだもん。」あー…確かに、夏休みも別々でしたし、最近構っていなかった気が。「そんなわけでケティ分補給うううううううぅぅぅぅぅぅぅぅ!」「あいたたたたたたたたたたたっ!?」抱きつき過ぎなのですよ!「そんなわけで、買い物行くわよ、買い物。 どうせ学院も開店休業状態だし。」まあ確かに、生徒の半分が居なくなってしまった上に、男の先生もコルベール先生と学院長以外は全部出払ってしまったので、現在学院では終日自由学習という凄まじい状態になっています。「んー…まあ、最近一緒に買い物行っていませんでしたし、良いですよ。」「きゃっほう!」ちなみにエトワール姉さまは滅茶苦茶楽しそうに学院中に罠を仕掛けている最中なので、誰も声をかけられないのです…。「…ところでルイズから聞いたのだけれども。」ものすんごい悪い予感が…。「男装、したんだって?」「は、はて、そんな事もあったような、無かったような?」何で嗅ぎつけますか、この姉は!?「しかも、男言葉まで使ったとか?」「な、何かの間違いでしょう。」ルイズ、何だって一番ばらしちゃいけない人にばらしているのですか!?というかこれはアレですね、目を覚ますのにモンモランシーの薬使った復讐なのですね!?「ルイズって、凄く記憶力が良いの。 だから、しらばっくれても無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」「あぅ…。」オワタ…。「さ、行くわよケティ。」「じ、ジゼル姉さま、これはやはり勘弁して欲しいと言いますか…。」あの後ジゼル姉さまは私をレビテーションで浮かせて物凄い勢いで自室に連れ去り、どこからとも無く男子生徒の服を取り出すと、無理やり私に着せたのでした…。「いいから、部屋から出る!」ジゼル姉さまに押されて部屋から出ると…。「キャーケティサマー。」人の不幸は蜜の味といった表情のモンモランシーと…。「きゃーすてきー。」超棒読みなタバサと…。「こう…何というか…無茶苦茶にしてみたくなる魅力があるわね。」何とも物騒な秋波を送って来るキュルケが居たのでした。「これは…。」「ちょ、何で貴方達が居るのよ!?」ジゼル姉さまも予想GUYだったようなのです。「ジゼルがルイズから、ケティが男装した事を興味津々に聞いていたのをタバサが聞いていたのよ。」「ん。」キュルケの説明に、タバサがこっくりうなずいたのでした。「い…いつの間に…。」「だって、ヒソヒソ話って聞きたくなるじゃない? だからタバサに頼んだの。」北花壇騎士に何という阿呆な事を頼んでいるのですか、キュルケ…。まさに才能の無駄遣い…というか、何でタバサもVサイン出していますか。「そしてそれをタバサがキュルケに話しているのを、私が聞いていたというわけ。」そう言って、何故か誇らしげに胸を張るモンモランシー。壁に耳あり障子に目ありというか、何でクラスメイト同士で盗み聞きやりまくっていますか。「何もそこまでしなくても…。」「ケティも常日頃言っているじゃない、情報は黄金にも等しいって。」どう考えても、ゴミみたいな情報なのですよ。「それでジゼルが行動に移りそうだったから、タバサにそれとなく監視をお願いしていたのよ。」「ん。」北花壇騎士の無駄遣いその2。そして何故にそんなに《ふう、いい仕事した》みたいな、やり遂げた表情なのですか、タバサ?「まあ良いじゃない。 学院に男子生徒が居ない上に、男がコッパゲと爺さんしか居ない現状、美少年枠は貴重だわ。」モンモランシーの送る視線まで、ちょっと怪しいのですよ。「いやモンモランシー、貴方にはギーシュという立派な恋人が居るでしょう?」「相手が男装した女の子なら、浮気じゃないわ。 ただの女同士の可愛いじゃれあいじゃない?」アレですか、やはり女だけの環境というのは、こういう空気を醸成しますか?「ええい、ケティを貴方達になんか渡すものですか、レビテーション!」「うゎ、ちょ、ジゼル姉さま!?」ジゼル姉さまは私をレビテーションで浮かせて身動きを封じ、自分は箒にまたがり…。「フライ!」私を箒に座らせると同時に窓から逃げ出したのでした。「タバサ、シルフィードを!」「ん。」ジゼル姉さまの箒は確かに結構早いですが…シルフィードの速度には到底及ばないのですよね。「まちなさあああぁぁぁい!」「きゅいきゅいいいいいぃぃぃぃ!」シルフィードがタバサ達を乗せて、凄まじい勢いで追いかけて来ます。「ふ、甘いわね。」「うひゃあぁ!」ジゼル姉さまは空中で急停止と同時に急降下。「な、しまった!?」「きゅい!?」「おほほほほ、風竜は急に止まれない。 ましてや全速力を出したならばね!」シルフィードは慌てて減速をかけているようですが、搭乗者を乗せているので急には止まれずに遥か先まで行ってしまっているのです。下に広がるのは森林地帯で、トリスタニアの近くまで続いています。重力で速度を上げつつ、私達を乗せた箒は森に突っ込み、地面スレスレで体勢を立て直したのです。「おほほほほ、愛の逃避行ぉぉぉぉぉぉぉっ!」「無茶苦茶なのですよおおおぉぉぉぉぉぉっ!?」ちなみにジゼル姉さまはラ・ロッタに居た頃から、森の中を箒で縫うように飛ぶのが大の得意だったのですよ。まあそんなわけで、私とジゼル姉さまを乗せた箒は、鬱蒼と茂る森の中をアクロバティックに飛んでいったのでした。「あ…あぅ…頭痛い、ぎぼぢ悪い…。」「そりゃまあ、箒を二人乗りで、しかも全速力でかっ飛ばしてトリスタニアまで飛んだりしたら、誰だって魔力どころか生命力まで吐き出す羽目になるのですよ…。」現在ジゼル姉さまは魔力を吐き出し過ぎて、二日酔いの酷いのになったみたいになっています。こんな事を私が言うのもなんですが、ジゼル姉さまがハイテンションになり過ぎていて、止めるに止められなかったのですよ…。「まったくもう、ノッてくると自分の事がわからなくなる所は、昔とちっとも変わらないのですね。」私は真っ青になってベッドに横たわるジゼル姉さまの額に乗せたタオルを、桶に浸けて絞って額にもう一度置きました。「うう、姉妹のひと時を邪魔されたくなかったのよ。 あ、タオル気持ちいい…。」ちなみにここは、この前買ったばかりのラ・ロッタ家のトリスタニアにおける館…といっても、あまり大きくは無い上に大半がパウル商会のスペースなわけですが。…なので。「うっ、ひょっとして俺たち、お邪魔だったっスか?」「ジゼルお嬢様のケティ坊ちゃんへの日ごろの溺愛っぷりから察するに、お邪魔じゃなくて正直邪魔な筈です。」小さくなっているパウルと、隣で情け容赦ないツッコミをするキアラがいるのです。「そんなわけないわ…パウルにキアラ、ありがとう。」顔だけパウルたちに向けて、ジゼル姉さまはにっこり微笑んだのでした。「そうですよ。 パウル達は当家の領民、つまり家族同然ではありませんか。」「ううっ、ケティ坊ちゃんにそう言っていただけて嬉しいっス。」いやパウル、私は感動で目頭を押さえるほどの事を言った覚えはないのですが…。「ついでにこの書類にサインいただければ、なお嬉しいっス。」「婚姻誓約書…。」ドサクサ紛れに何を渡してやがりますか、パウル。「発火。」婚姻誓約書は、私の手の中で一瞬にして灰に変わったのでした。「いきなり燃やされた!? いや、家族同然ならいっその事、家族になろうかなと思ったんスけど!?」「バインド。」問答無用でバインドの魔法を近くにあった縄にかけて、素早くパウルを拘束したのでした。「キアラ、すいませんがパウルを適当に処刑しておいてください。」「はい、ケティ坊ちゃん。」普通にお見舞いに来てくれただけなら感動したのに、またそうやって受けを狙う…。まあ、そこがパウルの面白いところではあるのですが。「ちょ、ケティ坊ちゃん、よりにもよってキアラに処刑させるとか、本気で死ぬっすよ!?」キアラは表情一つ動かさずに、相手の関節外したりしますからね。私が今のパウルにかけてあげられる言葉は一つ…。「死ぬがよい。」「そんな、御助けを!?」パウルが悲鳴のような声を上げますが、無視無視なのです。「ケティ坊ちゃんの命です。 謹んで刑を受けてください。」「あぎゃ!? さ、早速何処か外したっスね、キアラ!?」流石キアラ、手加減ゼロなのですよ…。「では、あちらへ行きましょう。」「たーすーけーてー! つーか、うちの女の子に処刑されるなら、ブリジットかロクサーヌが良いっスよぉ!?」恥ずかしがり屋のブリジットと、ぽんやり系のロクサーヌとか、人選が露骨すぎなのですよ、パウル?「ブリジットは兎に角、ロクサーヌにやらせたら本当に死ぬような気がしますが。 あの子、十中八九ついうっかり首の骨とか折ります。 しかもその後、『てへっ☆殺っちゃった☆』とか誤魔化しますよ?」「そう言えば、そうだったっス!? やっぱり、ブリジットで…って、あたたたた、また外した!?」縛られた状態の相手の関節外すとか、超絶技巧なのですよ、キアラ。「却下ですというか、あの心優しいブリジットに何をやらせるつもりですか。 むしろそれは、ブリジットへの罰ゲームになってしまいます。」パウルはキアラに引き摺られて、ドアの向こうへと消えたのでした。「相変わらずね、パウルは。」「相変わらずも何も、少し前までラ・ロッタに帰郷していたでしょう、姉さまは?」私の潜伏生活が終わるまでは、パウルもラ・ロッタから出られないようにしていましたし。「うーん、でもケティも揃って、初めて『相変わらずだなぁ』って思ったのよ。」「成る程、確かにキアラもいましたし、そういう意味では相変わらずかもしれませんね。」一部ですが、子供の頃から一緒だったメンバーですから。「さて、それでは私は病人食を作って来ます。」「わ、やった、ケティの手料理。 何だか、限界以上に挑んでみた甲斐があったわ…。」いや、恐怖新聞みたいに寿命が縮むので、なるべく慎んで欲しいのですが…。現在厨房で仕込みの真っ最中なのです。たっぷり野菜とハムを刻み卵を用意、そしてとうとうこれの出番なのです。「ふふふ、リゾーニがあれば、おじやもどきが作れます。」リゾーニというのは、リゾットに使われる米のイミテーションとして作られたパスタなのです。とはいえ、ハルケギニアは地球の欧州と違ってエルフ領にほぼ流通を分断されており、パスタそのものが存在しなかったので、正確にはリゾーニもどきなのですよね。ロマリアでデュラム小麦自体は発見しましたが。作ったのは良いものの、今までパスタもコメも無かったハルケギニアの料理では使い道がいまいち見つからなくて、少量作ってボツった商品ですが。「おじやおじや~♪」牛骨からとったスープを拝借し、刻んだ材料とリゾーニを一緒に入れ、塩加減を調整しながら煮て、最後にとき卵をかけてあげれば完成…なのですが。「…何をしていますか、パウル?」厨房のテーブルには、何故か食事の準備万端なパウルが。「ボロボロになった俺の為に、食事を用意してくれるとか…くうぅっ、このパウル一生尽くすっス。」お前に食わせるタンメンは無ぇ!…とか言いたい所ではありますが、ボロボロの姿を見ると少し心が痛むと言いますか。「はぁ…仕方がありません。 ついでですし、貴方とキアラの分も作ります。」お見舞いに来てくれた義理もありますし。もう一度仕込みをせねばいけませんが。「け、ケティ坊ちゃん、この莫迦者だけで無く私にまで…。」ええと、何だかキアラがえらく感動しているのですが。ちなみにキアラは、パウルを排除しようとやってきたようなのです。「そこまで感動するようなものは作れないと思いますよ? 何せ、病人食ですし。」味そんなに濃くないですし、というか薄味ですし。「いいえ、ラ・ロッタを出てからというもの、会えば口説かれるわ妾になれと迫られるわで貴族不信になりそうだったんです。」あー…ラ・ロッタから出た領民が、一番真っ先に受けるカルチャーショックなのですよね、それ。あと、その節はモット伯が大変ご迷惑をおかけいたしました…。「でもやっぱりケティ坊ちゃんやラ・ロッタの貴族は違う…その事を今、再認識いたしました。」キアラは真面目ですから、セクハラとか本気できつかったでしょう…というか、年上なのに可愛いっ!「キアラ、元気出すのです! 貴方の能力には私も期待しているのですから。」「け、ケティ坊ちゃん…。」そう言いながら、私はキアラを抱きしめたのです。「あ、ありがとうございます。 このキアラ、今後もケティ坊ちゃんの為に全力を尽くすことを誓います。」健気です、健気な娘さんなのです、しかも美少女!可愛過ぎる!くううううぅぅぅぅ…この身が女なのが悔やまれるのですよ。私はもう一度キアラをぎゅっと抱きしめたのでした。「…………………。」取り敢えず、視界の端っこで腕を広げて準備しているパウルは無視の方向で。「パウルもせいぜいがんばってください。」「ハグどころか、視線すら向けてくれないとか、冷たっ!?」女は黙って背中で語るのですよ、喋っていますけれども。「ジゼル姉さま、病人食が出来たのですよ。」「わ、美味しそうな匂い。」私はおじやを乗せたお盆を持って、部屋に戻ったのでした。野菜とハムの洋風おじや…どう作ったって洋風おじやにしかならないじゃねーかとかいうツッ込みは無しで。「一緒に食べに来たっス!」私に続いて、テーブルと椅子を持ったパウルが元気に入ってきたのでした。「病人の前でうるさいです。 黙ってください、出来れば永遠に。」そしてそれに、おじやの乗ったお盆を持って、続けて入ってきたキアラが冷たくツッ込んでいるのです。「なんだか最近、キアラの俺への扱いが酷いっス…。」「扱いを良くして欲しければ、可及的速やかに自重してください。」ぬぅ…厳しいのですよ、キアラ…ツンデレ?「ジゼル姉さま、食べられそうですか?」「このいい匂いを嗅いでいたら、少し食欲がわいてきたわ。」良い傾向なのですよ。「では食べましょう、ふー…ふー…はい、ジゼル姉さま、あーん。」匙でおじやをすくい、冷ましてからジゼル姉さまの口に近付けたのでした。「ああ、本当に魔力を使い尽くして良かったわ…あーん。」理解し難い台詞を言ってから、ジゼル姉さまはおじやを口に含んだのでした。「…どうですか?」「おいしい、物凄く美味しいわ、ケティ。 ああ…これが私の人生における絶頂期なのね、間違いないわ。」何という地味な人生の絶頂期。それは間違いなく違うと思うのですよ、ジゼル姉さま。「んじゃ、俺達も食べようか、キアラ?」パウルは何故か気取った感じで言ったのですが…。「成る程、あのリゾーニとかいう食材は、こうやって食べるものだったんですね。」「もう食べてるっスか!?」キアラはジゼル姉さまが食べるのとほぼ同時に食べ始めていたり。実はお腹が減って気が立っていたのですね、わかるのです。「くぅっ、キアラに後れを取るとは不覚っス。 では早速戴きます…美味い、美味いっすよ、ケティ坊ちゃん。」牛骨スープがいい感じに味付けになりましたね…誰が作ったか知りませんが感謝なのですよ。皆が食べたので、私も早速口に運ぶと…うむ、米とはちょっと食感が違いますが、きちんとおじやになっていて良かったのです。今度才人にも食べさせてあげましょう、米っぽいので喜んでくれる筈なのです。「ふー…ふー…では、ジゼル姉さま、あーん。」「ケティ一人占め、まさにこの世の春だわ!」ジゼル姉さま、お願いですから早く誰かに恋してください…。