「傷も癒えましたし、そろそろルイズ達の所に向かいたいのですが?」私は姫様に渡された書類を決裁しながら、姫様に頼み込んだのでした…あれ?何で私は姫様の仕事をしているのでしょう?「だぁめ★」「いや、『だぁめ★』とか語尾に黒い星付きで言われましても…。」既に学院長に掛け合って、シエスタを先行させて送ってしまったのに…。「だいたい、貴方が行ってどうするのよ、戦うの?」「いや、学院閉鎖してしまったので、やる事無いですし。 ルイズ達の様子を見てこようかなと。」我ながらアホな理由ですが、これくらいしかないのですよね。「そんな理由で許可できるとでも?」姫様はにっこりとほほ笑みながら却下したのでした…が。「昨日姫様が仰ったように、私とルイズは一蓮托生ですから。」『まさか、ルイズ不要論とかぶち上げませんよね、謀反起こしますよ?』という意思を込めて、姫様に微笑み返したのでした。「よよよ、親類の絆がこうも脆いものだとは。」「私はルイズも親友だと思っていますから。」わざとらしく泣き崩れつつ書類の決裁を行う姫様を半眼で生温かく見守ってみるのです。「嘘つき、サイト殿が居るからでしょ?」「ナンノコトヤラ?」私はしらばっくれたのですが…。「顔、赤いわよ?」「…ぬぅ?」思わず頬を触ってしまったのです。「まだまだね。」「姫様もハマればわかります。」バレバレなのですか。「じゃあサイト殿で、危険な火遊びを…。」「才人は駄目なのです。」それでなくとも原作では、姫様が散々引っ掻き回すのですから…と?「…ふと気付きましたが、わりと本気なのですか?」「さあ?でもサイト殿って、私が女王だろうが何だろうが、あまり気にしないでしょう? ああいう男の子って、私みたいな女の子にとっては、希少価値よね。」まあ確かに身分とか、基本的に気にしませんからね、才人は。「で、本当の所は?」「今のところは対象外、かしら?」飽く迄もはぐらかしますか。「兎に角、私はルイズの所に向かいます。 船はゲルマニアの商船を…。」「ヴィスビューを出すから、それに乗って行きなさい。」何やら、豪快な事を姫様が口走ったような?「ヴィスビューって、オクセンシェルナから借りているコルベットの…ですか?」コルベットというのは、小型快速な軍艦の事なのです。「ええ、あれなら明日の朝にはロサイスにつくでしょう? 搭乗員ごと借りたあの艦なら、熟練搭乗員ばかりだから何かあっても大丈夫でしょうし。 商船で行くなら、許可しないわよ?」」「わかりました、ではそちらで向う事にします。」確かにそっちの方が早いし安全なのですね。姫様のせっかくの好意なので、有り難く受け取りましょう。「は~るばる来たぜ、ロサイス~。」そんなわけでトリスタニアの軍港から、道中特に何事も無くロサイスへ。昨日の昼に出て今朝ついたので、かなり順風満帆な旅だったと言えるのです。「では艦長、お疲れ様でした。」「いえいえ、未来のトリステイン宰相を乗せたとあれば、誉れこそすれ疲れる事などありませぬ。」御前は何を言っているのですか、艦長。取り敢えず、スルーで。「出来ればこのハンカチにサインとか、戴きたいのですが?」私ゃアイドルか何かなのですか?「是非とも。」先程、出来ればとか言っていたような?「わかりました…これで良いですか?」艦長が差し出してきたペンをとって、ハンカチに名前を書き込んであげたのでした。「宝物にいたします、こういうのは無名時代の物の方が価値が上がるので。」御前は何を言っているのですか、艦長?矢張り、スルーで。「艦長はこれからどうするのですか?」「これからトリスタニアまで取って返します。 当艦の本来の任務は、もしもの時のものですので。」まあつまりはオクセンシェルナの要人や、場合によっては姫様を亡命させる為にある艦なのですよね。「お疲れ様なのです、良い航海を(ボン・ボヤージ)。」「は、それでは。」艦長は艦に戻って行ったのでした。「さて、才人達の顔を見に行く前に…。」私はそう呟いて、司令部までとことこと歩いて行くのでした。「どうもどうも、お仕事お疲れ様なのです。」司令部の若い守衛さんに挨拶してみるのでした。多分、私とそう変わらない歳なのです。「な、何でこんな所に娘が!?」男ばかりでむさいでしょうからねえ、今のロサイス。「陛下からの使いなのです。 ド・ポワチエ卿にお目通り願います。」女王直属侍女という、偉いのか偉く無いのだかよくわからない例のライセンスを守衛さんに見せつつ、アポを取ってみるのでした。「へ、陛下の…畏まりました、ただいまお取次ぎいたしますので少々お待ちを!」守衛さんは慌てて司令部の中に駆け込んでいき、すぐに出て来たのでした。「お待たせいたしました、指令がお待ちです。」「ありがとうございます、守衛さん。」守衛さんに微笑みかけると、ぽっと頬を赤らめます…何というピュアボーイ。…まあそれは良いとして、指令室の前まで守衛さんに案内して貰ったのでした。「指令、陛下からの使いの方をお連れいたしました。」「うむ、お通ししなさい。」そんな声が聞こえ、指令室付きの守衛と思しき人が、ドアを開いてくれたのでした。「守衛さんのお名前は?」「は!カミーユと申します!」何だ、女みたいな名前ですね、とはあえて言わないのです。「ではカミーユ、有り難うございました。」「は!」うーん、何だか悪い女になった気分なのです。「使者殿、あまり純情な部下をからかわないでくれぬか?」ドアが閉まった後、ド・ポワチエ卿と思しき人が、私に笑いながら話しかけて来たのです。「いえ、あまりにも純情だったので、思わず…。 私は陛下直属の侍女で、ケティ・ド・ラ・ロッタと申します。」「私がジャン・ド・ポワチエである。 して、陛下からの用とは?」うーむ、立派なカイゼル髭…。「陛下から、閣下に勲章をと承って参りました。 十字銀杖百合章です、お受け取りください。」勲章を入れた箱をポワチエ卿に手渡したのでした。「ふむ…有り難く受け取っておこう。 使者殿、この後はどうなされる御積りか?」箱を開けて勲章を確認しながら、ポワチエ卿は尋ねてきます。「友人達が出征しておりますので、そちらに。」「友人とは?貴方が宜しければここに呼ぶが。」 ポワチエ卿の立場だと、あまり呼びたくなさそうな人なのですが。「ルイズ…いえ、ラ・ヴァリエール嬢です。」「ほう、虚無殿の…。」ポワチエ卿は目を細めて私を見たのでした。「そうか、虚無殿か、うむ、それは流石に呼びつけられぬな…。」ポワチエ卿の表情にうっすらと陰がさしたのでした。「ルイズが何かご迷惑を?」「いや、虚無殿は良くやっておられる。 だがしかしな、指揮権限がこちらに無いというのが、やりにくいのは確かではある。」公にはなっていませんが、権限に於いては姫様の次ですからね、ルイズは…。「王家の血筋で虚無の持ち主ですから、そこは諦めてください。」「うむ、それは重々承知している。 王家の血筋でしかも虚無、本来ならば玉座にあってもおかしくはない御方だからな。 だからこそ、公ではないとは言え、陛下に告ぐ権限をお持ちなのであろう?」ポワチエ卿は苦笑いを浮かべたのでした。「ええ、陛下も既に自分の後はルイズかルイズの子に継がせると決めてらっしゃいます。 …勿論、ルイズの件も後継者の件も口外無用でお願いしますね。」「勿論だ、私は他人からも自己保身の塊と揶揄される身なのでな。 陛下の逆鱗に触れるような真似は決してせぬと、私自身の悪評に誓おう。」ふむ、ポワチエ卿は中々面白い御仁なのですね、原作では全く記憶に残っていないのですが。「失礼しま…うわ。」ルイズたちが滞在している館に入ると、むわっとお酒の匂い…。「あ…ミス・ロッタ?」館に入った私を、酒瓶とつまみらしきものを運ぶシエスタが出迎えてくれたのでした。「これは一体何なのですか、シエスタ?」「戦勝祝い…とかでしょうか?」シエスタが私の顔を見て、明後日の方角に視線を逸らしながら疑問系で呟いたのです。「ヴュセンタールの…あ、これは私達の筏を引っ張っている戦列艦の…。」「知っているのです。」にっこりと、シエスタの言葉を遮ります。「で、そこの竜騎士様たちと才人さん達がすっかり仲良くなっちゃって…延々と酒盛りを。」「何日間?」「もう8日目ですわ…。」困った表情を浮かべながら、シエスタは溜息を吐いたのでした。「…ほほう。」「でもでもでも、親睦を深めるのは良い事だと思うんです! 私も正直ちょっとうんざり来てますけど、でも…。」シエスタが焦り始めましたが、知ったこっちゃ無いのですよ。「あっちなのですね?」「そう、あっちです…。」シエスタは諦めた表情に鳴ると、私が向いた方を指差したのでした。「シエスタ、付いてきなさい。」「はい…。」外からでもどんちゃん騒ぎが聞こえるその部屋に、私は踏み込んだのでした。「バースト・ロンド!」『ふんぎゃー!?』どんちゃん騒ぎで五月蝿かった室内が、破裂音と悲鳴に満たされたのでした。「待機命令の真っ最中に、8日連続不眠不休で酒盛りとか、貴方達は一体何を考えているのですか?」煤けた才人にルイズに竜騎士の面々を見下ろしつつ、私は尋ねてみたのでした。「断罪の業火、再臨…。」「バースト・ロンド。」「ぎにゃー!?」才人がぼそっと何か呟きやがったので、軽く焦がしておきました。「ルイズ、貴方まで…。」「わわ、私だって、今日はもう止めようって言っていたのよ?」その割には顔が真っ赤なわけですが。「だ、誰?このおっかない女?」「そこのぽっちゃり系竜騎士、おっかない女とは何ですか、おっかない女とは。 私の名前はケティ・ド・ラ・ロッタなのです。」ボソッと呟いた竜騎士の一人を睨みつけます。「ぽっちゃり系…僕の名はルネ・フォンクだ。 しかし君はその…あの、ラ・ロッタ? ジャイアントホーネットの…。」本当に空を飛ぶ人には不評なのですね、我が家名は…。「あのラ・ロッタ以外にどのラ・ロッタがいるというのですか。」まあ、トリステインの狭い空の一角を完全に飛行不能にしているわけですから、仕方が無いのは仕方が無いのですが。「ああやっぱり…この通り謝るから、どうか蜂はけしかけないで下さい。」祈られても困るのです。「ジャイアントホーネットは彼らの制空権内に近づいたらきちんと警告しますし、もし間違えて侵入してしまったとしても、攻撃せずにすぐに出て行けば攻撃はしません。 ガリアの両用艦隊は、ジャイアントホーネットを駆逐しにやって来たのであんな事になったのですよ。 近づいただけで肉団子にされるとか、そういう悪しき風評に惑わされないでください。 当家領と領民にとっては、春の種蒔きや収穫作業時にも人手を貸してくれる大切な守り神様なのですから。」「蜂が収穫するのか…。」土を耕してもくれます、物凄いパワーなのです。「ではルネ、この酒盛りは一旦解散なのです。 隊舎に戻って、酒が抜けるまで来てはいけません。 酒は百薬の長ですが、どんな薬も過ぎれば毒となります。 戦が止まったままなのを紛らわす為とは言え、飲みっ放しではいざという時に体が動きませんよ?」おっかないままで覚えられるのも癪なので、にっこり微笑んでみたのでした。「酒が抜ければ、また来ても良いんだな?」「ええ、程々であれば私も止めたりはしません。 お酌の一つもして差し上げましょう。」にこにこーっと笑みを浮かべたままで、私は頷いたのでした。「それじゃまあ、良いか。 皆、一旦帰って風呂入って寝るぞ!」『おーっ!』竜騎士たちは帰っていったのでした。「ちょっと良いか?」「何ですか、才人?」宴の後片付けの最中、才人が話しかけて来たのでした。「貴族は誇りの為に戦うっていうの、ケティはどう思う?」「当然ではありませんか。 貴族で無くても同じなのですよ、誇りの為に戦うのは。」私がそう言うと、才人はびっくりした表情になったのでした。「な、何でだよ、自分の命が一番大事だろ、親から授かったたった一つの宝物なんだぜ?」「ふむ…それもまた真理なのです。」ただ、誇りの為に戦うのは、それとは全然違うものなのですが。「だろ、だったら…。」「才人、貴方はルイズが目の前で殺されそうになっていて、それがどうしても己が身を差し出さないと防げない場合、どうしますか?」才人が我が意を得たりと何か言おうとしたのを遮って、そういう問いかけをしてみました。「え?いや、俺が咄嗟に駆けつけて防げるだけの時間があるならルイズは避けるだろ、しかも反撃するだろ余裕で。」「嫌な現実なのですね…。」何がどうなって、ルイズはああもグラップラー化しましたか。虚無って不思議なのです…。「そ、それでは質問を変えます。 私が殺されそうになっていて、それが貴方の敵うような相手で無さそうだったら、貴方は私を見捨てて逃げますか?」見捨てて逃げるとか言われたら泣きますよ、いやホント。「え?いや、勿論何とか助けるさ。」「それは何故?」『暇人の学問』こと、哲学の時間なのですよ~。「え?いや、ケティには今まで散々お世話になっているし、それにピンチの女の子助けなきゃ男が廃るってもんだろ。」「ふむ、矢張り才人も誇りの為に戦うのではありませんか。」『誇り』って括ってしまうと、何だか見栄の為に戦っている様に聞こえますが、そんな事は無いのですよね。「へ?」「私への義理の為と、女の子を助けなきゃっていう義務感の為でしょう? そういうのも貴族的な言い方をすれば、『誇り』ってやつなのですよ。」まあ、見栄の為だけに戦う人も居るかもしれませんが、幾ら見栄っ張りなトリステインの貴族でもそこまで見栄っ張りな人はそうは居ないのです。「例えばなのです。 その時、才人は躊躇って、結果として私が殺されてしまったとします、もしそうな…。」「躊躇ったりなんかしない、そんな事をしたら俺は俺で無くなっちまう。 俺の目の前でケティが危険な目に遭っているなら、俺は必ず助ける。」ガシッと肩を掴んで、才人は真剣な目で私に言ったのでした。「あ、有り難う御座います…。」こ、これは照れるのですね…。「人が他の場所片付けている間に、何でケティを口説いてんのよ、あんたは…。」いつの間にやらルイズが来ていて、私と才人を半眼で睨み付けていたのでした。「ああいやルイズ、別にいちゃついてたとか、そんなんじゃなくてだな。」「ハッ、黙りなさいバカ犬。 女の子の肩掴んで『俺は君を必ず助けるぜアモーレ』とか、今どきロマリア人でもやらないベッタベタの口説き文句じゃない。」ふむ、才人はラブコメ主人公属性ですから、ごくごくナチュラルに自覚無く女の子を口説くのですよね。「そ、そんな無駄に情熱的な事は言っていない!」「やかましい却下!そして処刑!」「は、話せばわか、ぎゃー!!」私が口を挟む暇すらなく、ルイズの拳が光って唸ったのでした。「なるほど、そういう話だったのね。」「そういう話だったのです。」鉄風雷火の如き暴虐の後、落ち着いたルイズにかくかくしかじかと話をしたのでした。「殴ってから納得するんじゃねえよ…がくっ。」あ、死んだ…南無南無。「貴族の名誉の話だったわね。」「ええ、それを才人に分かりやすく説明している最中だったのですが、何時の間にやらこんな具合に。」惨めな肉塊と化した才人を指差したのでした。「う…御免なさい。」「……………。」へんじがない、ただのしかばねのようだ。「…あー、死ぬかと思った。」「おお、蘇生しましたか。」しばしの沈黙の後、才人が起き上がったのでした。暴虐の痕は何処へやら?すっかり復活なのです。「竜騎士の奴ら名誉の為名誉の為って言っているけれども、名誉の為に戦ったり死んだりするってのが、よく理解できねえんだよ、俺は。」「だから何度も言っているでしょ、名誉は貴族にとって、とっても大事なものなの。」「だから、それだけじゃわかんねえから、ケティに聞いたんだろうが。」ルイズはなまじ理解力があるのに生活環境がコミュニケーション不足だったものですから、他人に自分が理解した事を伝えるのが大の苦手なのですよね。つまりアレです、ルイズが端的に語るのは長嶋語の一種なのですよ。「あーもう、何でわからないのかしらね、貴族にとって名誉ってのはクッと来てバッとあってスイスイッというものなのよ!」本当に長嶋語で来るとは思いもよりませんでしたが…。「だから、そんな意味不明な擬音使われたら、余計にわかんねえよ!」「だからもう、何でわかんないの! ヒュッとしてスッとなってシュルルッとあるのが当然なのよ!」ルイズは大げさに身振り手振りをしますが、そのせいで余計に意味不明感が…。言いたい事は何となくわからなくも無いですが、やっぱり何言っているのか意味不明なのです。「やっぱりケティ、さっきの続き。」「何でよ!」「…ふむ、ですから才人は私の命の危機があった時には、私をその身に代えても守ってくれるということでしょう?」才人に説明を無視されたルイズが若干機嫌悪そうなのです…ルイズの説明下手はどうにかしないといけませんね。「ああ。」「つまり、そういう事なのですよ。 貴族はそれらを総括して『名誉』などと呼びますが、根底にあるのは引く事の出来ない義理人情だったり義務感だったり使命感だったりするのです。」まあ、義理人情やら義務感やら使命感やらを全部『名誉』という言葉に置き換えてしまうというのは、いかにもトリステイン貴族らしい見栄っ張りな言い回しなのですが。「そういう事を言いたかったわけか?」才人がルイズに尋ねると、ルイズはコクコクと頷いたのでした。「うん…と言うか、私も散々同じ事言っていたじゃない?」「ルイズのは擬音が多過ぎんだよ…兎に角、何となくだけどわかった。」何となく要領を得たといった感じで、才人は頷いたのでした。「でもそれだとだ、あいつら…竜騎士隊の連中の名誉って?」「立身出世の事でしょうね。 戦場で華々しく戦って、武功を立てて出世して給料上げて…家族や恋人の為なのです。」私がそう言うと、才人は首を傾げます。「いやでもさ、死んじまったらそれまでだろうに。」「ええ、そうですね。 どんなに出世しようが、どんなに勲章貰おうが、死んでしまえばハイそれまでヨなのが軍人なのです。 戦うのが仕事なのですから、死ぬのも仕事のうちなのですよ。」誰かが勝てば、誰かが負けますし、誰かが生き残れば、誰かが死ぬのです。「う…因果な商売だな、おい。」「才人も現在それに加担しているのですから、立場は一緒なのですよ?」「そうでした…。」私の指摘に、才人は肩を落としたのでした。「うーん、成る程。 そう言えば良かったのね。 こんなに簡単に才人を言い負かすだなんて、さすがケティ。」ルイズは何故か異様に感心しているのです。「いや、説明の大半が擬音で無ければ、多分理解出来たと思うんだが。」「ご主人様の言う事なんだから、ちゃんと理解しなさい。」そんな御無体な…。「ミス・ヴァリエール、お風呂が炊けました。」部屋に入って来て私達の話を聞いていたシエスタが、ルイズの無茶振りを逸らす為に、そう口走ったのでした。「お風呂…うん、何だか酒臭し入った方が良いわね。 ケティはどうする?」「ふむ…では一緒に入りましょう。 シエスタはどうしますか?」「あ、はい、お二人の御髪を洗わせていただきます!」いや、私は一人で洗うから良いのですが、ルイズの髪は洗って貰った方が楽そうなのです。「そんなわけで…覗いたら潰すわよ?」ルイズは才人の方を向くと、軽く睨んだのでした。「覗かねえよ!俺をなんだと思ってんだ?」そう才人が言ったので、私達は顔を見合わせたのでした。「何だと思ってんだって…ねえ?」ルイズは襲われた事ありますしねえ。「今更、何言っていやがるのですか?」私も着替えを散々見られましたし。「私はサイトさんを信じたいのですけれども。 ここはお二人に合わせないと空気読めないと言いますか。」せーの。『スケベ。』「やっぱりそういう評価かよ!?」才人は頭を抱えたのでした。「中々広い浴場なのですね。」私ケティこと、普通の領地持ち貴族の意見。「普通じゃない?」大貴族のルイズの意見。「ううっ、まさかこんな貴族様のお風呂に入れるだなんて。」そして一般庶民でも、そこそこ裕福な家の娘であるシエスタの意見。ちなみにシエスタは私達の髪や体を洗うだけで、自分は使用人用の風呂に入るつもりだったのですが、そんな面倒なことをせずに一緒に入っちまえとルイズと二人でメイド服を剥ぎ取ったのでした。「こういうお風呂は初めてなのですか?」「はい、こんな彫刻が彫られてハーブが入ったお風呂に入るのなんて、初めてです。」庶民は普通蒸し風呂か、浴槽があってもそんなに広くないですからね…。私は断然一人で浸かれるお風呂のほうが良いのですが。「しかしアレね、あんたら私に喧嘩売ってるわけ?」ルイズの表情が優れないのです。「何がなのですか?」「喧嘩売った覚えなんてありませんが…。」私達がそう言うと、ルイズは憤怒の表情を浮かべて、私達の胸を鷲掴みにしたのでした。「いっこ上なだけと年下の癖に、何でこの、脂肪の塊が、こんなに、大きいのよ!」「きゃっ、何を!?」「あいたたたた!あんまり強く掴まないで欲しいのです。」私とシエスタは思わず悲鳴を上げたのでした。痛覚が通っていないわけでは無いのですから、強く掴まれれば当然痛いのですよ。「だって、ずるいんだもん。」「いや、ずるいと言われましても、こればかりは親から授かった体なので何とも言いようが。」拗ねられても困るのですよ。「ねえ、あんた達、どうやってソレ大きくしたの?」「ええと、別に何か努力をしたわけじゃあ。」シエスタも困惑しているのです。「ケティ、質問。」「はい、何なのですか?」ルイズが手を上げて質問してきたので、思わず当ててしまいました。「胸を大きくするにはどうしたら良いのかしら?」「胸の大きい母親から生まれて下さい。」色々と風説がありますが、実のところ遺伝子に任せるしかなかったりするのです。「ええと…それしか無いの?」「はい、実はそれでも結構賭けなのです。」どっちの親の遺伝子が出るかは未知数ですからねぇ…うちの家でも背があまり高くなくて胸がそこそこ大きい私やエトワール姉さまみたいなタイプと、背が高くてモデル体系なジゼル姉さまやリュビ姉さまみたいなタイプに分かれるのです。ジョゼ姉さまみたいに背が高くて見事な巨乳という、いいとこ取りな人はなかなか生まれないのですよね。「全然駄目じゃない、というか、生まれ直すとか無理だし。 生まれ直しても、うちのお母様あまり胸大きくないし。」全然駄目とか言われましても…。「揉まれると大きくなると聞いた事があります。」「成る程…ケティ、事の真偽は?」いや、真偽は?とか言われましても。「うーん、まあ、血行が良くなれば、成長が若干促進される可能性はあるといえばある筈なのです。」物凄く若干ですが。「本当!?」ルイズのぎらぎら光る目が怖いのですよ。「ただ、やるとなると一日に何回も揉まないと、効果は出ないような気がするのですよ。 しかも、うまくやらないと形が崩れる可能性もあるのです。 正直な話、骨折り損のくたびれもうけになるので、やらない方が良いかなと。」「駄目なのね…。」ルイズはがっくり肩を落としたのでした。「牛乳を飲むとか?」「ケティ?」私ゃウィキペディアかなんかですか?「牛乳飲んで胸が大きくなるなら、肉でも大して変わらないのです。」「これも駄目…。」ルイズはまたしても肩を落とします。「何か、良い方法は無いの?」「正直な話、無いとしか言い様が無いのです…そもそも、ルイズはそこそこあるではありませんか、胸。」そう、ルイズは自分の胸を矢鱈卑下していますが、こうして見てみると普通にあるのですよね。確かに全体的に華奢ですが、背が低いので胸囲が小さくても出るものはそこそこ出ているのです。原作でタバサと自分が被るとか言っていますが、タバサなんか本当に僅かしか無いのですよ、ぺたーん、つるーん、なのです。それどころかルイズは全体的なバランスで言えば、見た感じモンモランシーやジゼル姉さまよりも大きいのです。あの3人とはお風呂で良く一緒になる私が言っているのですから、間違いないのです。あと、ついでに言えばシエスタは私と同じ83サントなんて絶対嘘なのです、測ったメジャーが安物だったのでしょう。アレは私の見立てによれば、あと5サントは大きい…つまり88サントなのですよ。ああ夢の88、アハトアハトは理想郷なのです。「わたしはせめてちい姉さま並みになりたいの!」「…強欲は罪なのですよ、ルイズ?」私はそう言って、ルイズの肩をポンポンと叩いてみます。「そうですよ、ミス・ヴァリエール。 全く無い人とかが聞いたら、富める者の我儘だと思われてしまいます。」「あんた達は規格外にでかいから、余裕でそんな事が言えるのよ!」シエスタも宥めますが、ルイズはムキーと怒っているのです。「だいたい、何であんた達はそんなにでかいのよ!」そう言って、ルイズは私とシエスタの胸を指差したのでした。「私の母もそうだったからとしか言い様が無いのです。」「私も同じです。」遺伝子って、本当に不思議なのですよ。「理不尽だわ、ちい姉さまは大きいのに…。」ルイズはそう言って、くず折れたのでした。「良いではないですか、ルイズはとても可愛らしいのですから。」「私が、可愛い…?」私から見たら超絶美少女なのに、自覚無しですか、そうですか。「私の調べた限りでは、院内で可愛いと言われている女の子の一人でしたよ、ルイズは。 しかも常に五指以内に入っていました。」「う、嘘よ!私魔法が使えないから、莫迦にされていたのよ?」 それが嘘で無いのが、人の心の複雑さと言いましょうか。「男子がルイズをからかっていたのは、莫迦にしていたというのもありますが、ルイズに覚えて欲しいからなのですよ。 女子に関しては…まあ、嫉妬なのですね。 魔法の才能が無いのに、私達より可愛いなんてきぃ悔しいといった感じで。」魔法が上手く使えない貴族、しかも公爵令嬢で美少女…まあ正直な話、ルイズは侮蔑ではなくて困惑に包まれていたのですよね。私だって同級生にそんな娘が居て、何も事情を知らなければ扱いに困ったでしょうし。「そんなわけで、ルイズは人も羨む可愛らしさの持ち主なのですから、安心してください。」「そ、そうなのかな、えへへへへ。」ルイズはにへら~と笑い始めたのでした。「髪の毛だって綺麗ですし、私みたいに何処にでも居るような髪の色ではありませんし。 ルイズはもっと、己に自信を持つべきなのです。」「な、何だか自信が湧いてきたわ…くっちゅん!」いかに風呂場とは言え、裸でくっちゃべっていたら、流石に冷えますか…。「はい、ミス・ヴァリエールはそちらに座ってください。 御髪を洗わせていただきます。」私もさっさと体とかみ洗って、湯船に浸かるとしましょう…。「うーん、良い湯でした。」旅の疲れもすっかり取れたのです。「すっきりしたわね。」まだお酒が残っているルイズは、顔が真っ赤なわけなのですが。「お風呂から出て、こんなに良い匂いになったの初めてです。」シエスタはシエスタで、自分の匂いを嗅いでうっとりしていますし。「酷い、覗かないって言ったのに…。」そして才人はバインドの魔法で簀巻きにされて、廊下に転がされていたのでした。「いえ、才人なら何か物理法則の限界を超えて、私達のいた浴室にダイブしていてもおかしくは無いのです。」「俺は一体ナニモンだ…。」ラブコメ系主人公属性の持ち主なのですよ。ですから入浴時には簀巻きにでもしておかないと、何時エロハプニングの犠牲になるか知れないのです。「まあ気にしない気にしない。 拘束を解きますから、才人もお風呂に入ってきてください。」「おっ、センキュー。」バインドの魔法で簀巻き状態だった才人を開放したのでした。そしてそのまま浴室の脱衣場へ…脱衣所?嫌な予感が…と、扉の向こうでずっこけたような音がしたのでした。「うわ、何だこの布…なんでパンツがこんな所にー!?」「誰のパンツ!?」慌てて脱衣所に引き返した私達の目に入ったのは、下着を纏めて置いた籠をひっくり返したのか、私のブラを頭に被って右手でルイズのパンツをつまみ左手にシエスタのパンツを握り締めた才人の姿なのでした。「ラブコメ系主人公属性持ち相手に、下着を放ったらかして置いたのは失策でした…。」シエスタが後で纏めて洗うからと言う事で、見えないようにして纏めて置いたのですが。どうしてずっこけて偶然そこに飛び込みますか…。「よしわかった、死刑ねあんた。」「ちょ、待てルイズ! これはコケた弾みに何故か起こった不幸な事故であってだな!」闘気みたいな何かに身を包んだルイズが、ゴキゴキっと拳を鳴らしているのです。「申し開きは拳で聞くわ。」「はんぶらび!」ちょっと気を抜くと、すぐに落とし穴あり…ラブコメ系主人公属性恐るべしなのです。夜中、そろそろ寝ようとしていた私の部屋に、コンコンとノックの音が響いたのでした。「はい、どなたなのですか?」「わたし、ルイズ。」何か相談事でしょうか?「はいどうぞ…ぶふぉ!?」わ、ワイン飲んでいなくて良かったのですよ。「ど、どうしたの?」「どうしたのって、なんつー恰好をしているのですか?」裸マントで夜の部屋に来訪とか、貴方は私に何を求めているのですか、ルイズ。「じ、実は、何時も着ていたネグリジェが一着しか無くって、それを洗濯に出しちゃって…。」「私のがありますから、それを着てください。 寝巻が無いからって、裸マントで出歩く人がいますか!」そこはブラウスとかでしょう、常識的に考えて。時々、物凄く大胆な事をするのですね、ルイズは。「用事というのは、寝巻を貸して欲しいという事だったのですか?」「それもあったんだけれども、サイトの事とか…ね。」私が差し出した寝巻を着ながら、ルイズはちょっと言い難そうに私を見るのです。「わたし、男の子だったら良かったのに。」「ルイズが男の娘だったら色々と大変なのですよ…。」ルイズの容姿で男の子…ううむ、才人が衆道一直線になる展開しか思い浮かばないのです。うふ、うふふふふ、これはちょっといけてるかも…って、私は何を考えているのですか!?「何か、変な想像していない…?」「ななな何をおっしゃる鰻さん。 私は何にも変な事など考えていないのです!」まさか男の娘ルイズと才人のBL妄想してしまうとは…己が事とはいえ、乙女脳恐るべし。何よりもおぞましいのが、私自身がカップリングによってはBLもいけるクチだったという事実でしょうか…。「だって、酒宴の最中サイトったら私の方なんか見もしないで、男の子達に混ざって、楽しそうにして。 私にはああいう笑顔見せてくれないのに。」「いや、好きな相手に友達向けの笑顔見せられたら、かなりの衝撃なのですが…。 『君は異性として眼中に無い』と、言外に言われるようなものですし。」「そうなの?」ルイズは不思議そうに首を傾げているのです。「そうなのです。」「そうなんだ。」もしそうなったら、フラれるフラれない以前の話なのですよ。「男の子は男の子同士で、気楽な会話を楽しむものなのですよ。 そこに女の子が入り込むのは無粋というものなのです。」時々、そういう場に入っていける娘も居ますが、そういうのは希少ですし。「でも、羨ましい。」「でも男の子の会話って矢鱈と堅苦しいか、知らない人の話か、そうでなければ下品な内容が多いでしょう?」政治の話か友達の話か性的な話か、政治や友達の話は兎に角、異性と性的な話をするのは結構恥ずかしいのですが。「もうちょっと、おしゃれの話とかもすれば良いのにね。」「それはチャラ男の集団みたいで、ぶっちゃけ嫌なのですが…。」まあそんなわけで、男同士と女同士の会話は、基本的に相いれないものなのです。「ケティって、男の子の事もわかるのね。」まあ、前世の人の記憶がありますから、わりと分かるのです。とは言え記憶は記憶で、私の脳は女ですから、理解しきれない部分もあるのですよ。ワルドの事とか…アレは脳味噌の構造がどうなっているのやら。「…ねえ、これも前からずっと聞きたかったのだけれども。」ルイズは私の目をまっすぐ見て、次の言葉を放ったのでした。「ケティって、サイトの事が好きでしょ?」「え?あ、ええと…?」ど、どう返答しましょう…?