名誉とは、貴族にとってなくてはならないもの貴族は食わねど高楊枝なのです名誉とは、貴族にとっての規範地位の対価は血で購え、名誉は死してでも守れ…なのです名誉とは、貴族にとって色々な物を内包した言葉しがらみだって腐れ縁だって、貴族にかかればみんな名誉なのです「ケ、ケティ、僕は前から君の事が…。」宴会のさなか、私の同級生の一人であるガブリエル・ド・ロルジュが、私の手を握りつつ熱く語っているのです。「一昨日来やがれ、このスットコドッコイなのです。」私は冷めた視線をガブリエルにじーっと送っています。彼は同じく同級生のジェラルディン・ド・パヴィエールの幼馴染で、許嫁なのですよ。「え…いや、今は僕の瞳には君しか映っていないというか…その、あの。」ガブリエルの目が泳ぎ始めたのでした。「そりゃまあ、私を見ているのに私以外の姿が姿が見えたらびっくりなのですよ、例えばジェラルディンとか、ジェラルディンとか、ジェラルディンとか~?」「い、いや、その…。」今にも暴発しそうな下半身の前には、幼い頃から育んできた恋も無力ですか、そうですか。「もう…この件はジェラルディンには黙っていてあげます。」「ご、ごめんね?」まあ、彼が私を熱烈に口説いてきた原因は燃え滾る下半身のせいだけでは無いというのは、二つ向こうのテーブルに居る私の同級生の男子達がニヤニヤしているのを見ればなーんと無く分かるのですが。彼らの手にあるのは、こっちの世界のトランプなのです。「ゲームで負けて、罰ゲームですか。」「うん、実は…。」ガブリエルは恥ずかしそうに頷いたのでした。はぁ…男って奴ぁ。「…となると、このまま返すというのも、面白くありませんね。 ちょっとしゃがんでおでこを出しなさい。」「え?な、何をするんだい?」ガブリエルは躊躇無くしゃがんでおでこを差し出したのでした…ルイズもそうですけれども、トリステイン貴族の子弟はプライドは高いのですが根は素直なのですよね。「期待に胸を膨らませる人間を、がっかりさせると楽しいでしょう?」ガブリエルの幼馴染が私とそこそこ親しいジェラルディンだと知っていて、わざわざ皆でイカサマしてまでガブリエルをハメましたね…。「いや、僕は嬉しく無いけれども?」「素直にそんな事をさらりと言える貴方は、私には眩し過ぎますよこんちくしょー。 それはそうと…あいつら、私が怒ってガブリエルを引っ叩くのを、今か今かと待っているのですよ。」そうはいかんざきなのです。「ひ、ひっぱたくのかい?」「彼らの期待に素直に答えたら、私が楽しく無いでしょう? …ジェラルディン、これは意趣返しであって、浮気では無いのであしからずなのです。」私はガブリエルのおでこにキスをしたのでした。「わ、な、何!?」ガブリエルは顔を真っ赤にして後ずさったのでした。『な、何だってー!』大声をあげて仰け反る仕掛け人一同…って、貴方達は何処のマガ○ンミ○テリーレ○ートですか。「あっはっはっはっは!見なさいガブリエル、あの連中の阿呆面を!」「ちょ!?怖いよケティ!世間様には見せられない笑顔だよ!?」ガブリエルはドン引き…まあ、これで後は引かないでしょう。「あっはっは…ああ、笑った笑った。 さて、意趣返しも出来ましたし、もう戻っても大丈夫でしょう。」「うん、じゃあ僕はもど…。」ガブリエルが軽く手を振って戻ろうとした瞬間、彼の肩に手が。「ちょっと君ィ…。」「おにーさん達と呑んで語り合わないかィ?」何故に才人とギーシュが?「え、ええと、ケティ助けて?」「…?いや、その二人と呑むのも良いと思いますが?」ガブリエルもちょっと戻り難いかもしれませんし。「命の危機を感じるんだけど!?」「HA!HA!HA!そんな事は無いんだぜ、ボーイ。 俺達はただ君と呑みたいだけさ、なあギーシュ?」才人、何時の間にそんなにアメリカンな雰囲気に?「勿論だとも、僕達は君と呑み明かしたいだけだよ。 先程君が賜った名誉の件とかで、じっくりとね。」名誉…?ガブリエルの任務は輸送隊の護衛で、今回は戦っていない筈ですが。「ジェラルディン、僕はもうここまでみたいだ…。」そして何故にガブリエルはそんな悲痛な表情を?「たーすーけーてー。」「無駄だから、おとなしくしょっ引かれやがれコノヤロウ。」「貴族たるもの、諦めが肝心な時もあるのだよ。」ガブリエルは才人とギーシュに引き摺られて、喧噪の中に消えて行ったのでした。「…ほよ?」ガブリエルが何故にあんなに嫌がっていたのかが、皆目見当つかないのですよ。あの二人とガブリエルって、確か面識無い筈ですし。考えられる事と言えば、私がガブリエルのおでこにキスした事でしょうか?でも才人にはルイズが、ギーシュにはモンモランシーが居るわけで…やっぱり、これは原因では無いですよね。ううむ…最近、男の思考をトレースするのが、かなり困難になって来たような気がするのです。わからん…男は…わからんのです。「…魔性の女ですね。」首を傾げる私の隣にストンと座ったのは、魅惑の妖精亭の臨時アルバイトになったシエスタなのでした。「私には、今の貴方の姿の方が魔性っぽく見えます。 そもそも、そんな扇情的な衣装、何処で仕入れたのですか?」「え?これはその、もしもの時の為に仕立てておいた服なんですよ、えへへ。 これで迫れば、サイトさんもイチコロかなって。」扇情的な服を着る『もしもの時』って、何なのですか!?才人もイチコロって、何をしかけるつもりでいやがりましたか!?…と、まあ、それは兎に角。「シエスタ…戦わなきゃ、現実と。」「またですか、しかもこの恰好でもそんな事言われるんですか!? やっぱりこんなまどろっこしい事せずに思い切って脱がなきゃだめなんですか、真っ裸最強理論ですか、そうなんですか、そうなんですね!?」何時も思いますが、シエスタって『押して駄目ならもっと押せ、それでも駄目なら更に押せ、その身が砕けるまで押し続けるのだ』っていう、脳筋志向なんですよね…って。「待った!何故ここで脱ごうとしますか?」「はっ!?いや何というか、つい。」何故につい脱ごうという発想へと行きつくのですか、シエスタ…。「でも、やはり真っ裸略してマッパなんですね、マッパ!? 素っ裸縮めてスッパでも良いですけど!」「…年頃の娘が、マッパとかスッパとか大声で言うもんじゃないのです。」そりゃまあ、裸の娘が誘っているのに飛び掛っていかない場合は、誘っている娘に男が魅力を感じていないか、あるいは誘っている相手が男じゃない何かな場合のみですが。「そもそも、それで拒否されたら、もう何の余地も無いのですよ?」「それはわかっていますけれども…私が好きな人が好きなのは、じっとしていたら何かの芸術品と勘違いするくらいの美少女なんですよ!? じっとしていないですけど! 拳が光りますけど! 蹴りで空気を切り裂きますけど! 素手で魔法弾き飛ばしますけど! そもそも杖使わずに魔法使っているように見えますけどっ!?」どうしてこうなった、なのです。原作の流れから激しく逸脱している最たるものがヒロインって、どういうことなの…なのですよ。「取り敢えずそれは置いておいて、兎に角もの凄い可愛いんです! 私だって、なでなでもふもふくんかくんかしたいくらい可愛いんです!」いや、それは同性でもどうかなと思いますがー?「サイトさんが何時まで耐えられるかなんて、完全に未知数なんです! だったら何とかして関係を持って、逃げられないようにコツコツと既成事実を積み上げていくしかないじゃあありませんか!?」「シエスタ…恐ろしい娘…ッ!?」自分が持てるもの全てを注ぎ込んで、好きな男を何とかして手に入れようというその情熱には頭が下がるのですよ。「まあ、頑張った分だけ不憫度が上がるだけなのですが。」「頑張った分だけ不憫とか言ったー!?」あ…思わず口に出てしまったのです。「ミス・ロッタだって同じなくせにー!」「ぐは…っ!?」何というピンポイント爆撃。私のナイーブな心が、一瞬にして爆砕したのですよ。「わ、わ、私の恋の花は、咲かさずに散らすと決めているのです!」「ミス・ロッタは嘘つきです、そんなの無理なの自覚しているくせに。」まあ基本的に私は嘘吐きですが、この件についてはなるべく嘘にならないように考えてはいるのです。考えてはいても、シエスタの指摘通りに無理なのかもしれませんが。「名誉名誉と…もっと具体的に言わんと、わけわからんわー!」向こうで何かあったのか、才人が吼えているのです。「手柄なのか、義理人情なのか、それぞれが持つしがらみなのか、はっきりしろィ! 全部纏めて何でも名誉って、お前らの脳味噌は腐った糠かか何かで出来とるんか!?」「だからだね、それらは僕達の中で複雑怪奇に絡まりあってだね! 特に戦の中ではっ…!」」おおぅ、議論が白熱しているようで結構なのです。「うわーん、何で僕はこんな二人に挟まれてるんだー!?」ガブリエル、ィ㌔。「あのミス・ロッタ、一つお聞きしたい事があるんですけれども。」「はい、何でしょう?」才人たちの話を聞いて何か思いついたのか、シエスタが質問してきたのでした。「この戦争の意味って、何なんですか? 私達、前にアルビオンが攻めて来たときにも散々傷ついたのに、今度は攻め込んでまで傷ついているなんて、おかしいと思いませんか? この戦争の意味には、この町を攻めたり、殺しあったりする以上の何かがあるものなんですか?」シエスタに、この手の質問をされたのは初めてなのですね。取り敢えず、真面目に答えましょうか。「ふむ…そうですね。 今回の戦争の意味は、暫く傷つけあいたくないから、相手に暫く死んでいて貰う為の戦…といえば良いでしょうか?」「す、すいません…貴族的な言い回しは、出来れば避けて頂いた方が有り難いなと…何せ平民の生まれなので。」抽象的過ぎましたか?「じゃあ、アルビオンをぐちゃぐちゃにする為に来たのです。」「な、何でですか!?苦しむのはこの国の平民なんですよ。」まともに話すとシエスタに嫌われてしまうかもしれませんね。まあ、それはそれで仕方がありませんか…。「トリステインの民が、何度も踏み躙られないようにする為なのです。 この国がレコン・キスタという、馬鹿者集団に牛耳られているのは知っていますね?」「あ、はい、聖地を目指す為に作られた集団だとか。 立派な事だって、皆さん言っていますけれども…。」ハルケギニアの常識的には仕方がありませんが、市井には妙な評価が広まっているのですね。「何が立派なものですか。 聖地を目指すというのはすなわち、聖地の奪還ということなのですよ。」「ええと…それって良い事だと思うんですけれども?」シエスタは首を傾げているのです。ハルキゲニアの人間は貴族平民を問わず、子供の頃から司祭に『聖地を取り戻す事が始祖の御心に沿うものである』とか、繰り返し繰り返し教え込まれていますからね…。ここらへんが、ロマリアがアルビオンに『聖戦』を布告できなかった最大の理由なのです。基本中の基本である『聖地奪還』くらいしか説法が出来ない木っ端司祭だったクロムウェルがとっさに思いついたスローガンなのでしょうが、殆どマインドコントロールみたいに刷り込まれているので、これを掲げる相手をロマリアが正面きって倒すわけにはいかなかったのですよ。「そりゃまあ聖地奪還は良い事かも知れませんが、その為にアルビオンがしようとしている事は何ですか? そして、それをするのにどれだけの人命が失われると思いますか? 結果としての『聖地奪還』は、貴族平民を問わず皆の願いでは有りますが、それはハルケギニア全体を戦乱に陥れた挙句、更に外征まで行い、屍の山を築いてまで手に入れるべきものなのかどうか、という事なのですよ。」「あの…ええと、難しいです。」あー…聖地奪還を行おうとする者を叩き潰すというのは、根底にある常識を根こそぎひっくり返すような話ですからね。なるべく簡単に言ったつもりでしたが、脳が理解を拒否したようなのですね。それじゃあ、身近な話題で行きましょうか…。「つまり、ここでアルビオンを最低限暫く攻めて来られないくらいは痛めつけておかないと、上陸地点になるタルブが何度も何度も戦渦に巻き込まれる可能性があるという事なのです。」 「あ、成る程、それは絶対に駄目です!」最近身近で起こった出来事で説明しないとわかって貰えませんか。「で、でもそれなら、皆で話し合って聖地を…。」「今迄も何度か聖地を奪還しようとハルケギニアの諸国は『聖戦』を唱えてエルフ領に攻め込みました。 …が、結果は何れも遠征軍の壊滅という悲惨極まりない結果に終わりました。 こんな事を貴族の身で言いたくはありませんが、貴族とエルフが正面から戦うのは、貴族と平民が正面から戦うのと同じくらい困難なのです。」エルフが攻めて来ないから良いものの、よくもまあこれだけ力の隔絶した連中と何度もやりあったものなのですよ。おそらくは敗北の記憶が忘れ去られた頃に聖戦やって、滅茶苦茶に負けてまた皆が忘れた頃に…というのを繰り返していたのでしょうが。「え、エルフってそんなに強いんですか!?」シエスタは目を真ん丸に見開いてびっくりしているのです。「ええ、シエスタは正面切って私に勝てると思いますか?」「いえ、多分一瞬でミス・ロッタの炎に燃やされて消し炭になるのがオチじゃあないかなと思います。」シエスタの中の私が、情け容赦無さ過ぎるのです。「シエスタが私の事をどう思っているのか問い詰めるのは取り敢えず後にしておいて…エルフとメイジが戦う時もそのくらいの力の差があるのですよ。」「それだけの力の差があるのに、戦おうなんて気になるのが凄いです。」平民がメイジにかかっていくのは、かなり無謀な事だというのは常識ですからね。シエスタがそう思うのも当然ではあります。「何てったって、『聖地奪還』が悲願ですから。 無理でも無茶でも時期が来たら、やらざるを得ないのですよ。」「貴族って、大変ですね。」そう、世の中ってのは案外そんな理由で動くものなのですよね。「シエスタ…ひとごとみたいに言っていますが、聖戦には当然ながら平民出身の兵士も行きますし、大規模な戦争には大規模な増税がつきものなので、後方にいる貴方もただでは済まないのですよ。」「大増税ですか、それはまずいです。」それぞれの国の国力の限界近くまでヒト・モノ・カネを振り絞って、それでも殆ど為すすべ無くけちょんけちょんに負けるのですから、無駄もいいところなのですよね、聖戦って。あっちはこちらの大地が定期的に天空高くすっ飛んで行く事を知っていて、絶対に必要以上攻めて来ないのを知っている身としては、考えるだけで物凄い徒労感が…。まあ、《大地がいつ浮き上がるのか分からないのがおっかないので、エルフは絶対に攻めて来ません》とは、流石にメンツがかかっているので言えないのですよ。だったら攻めなきゃ安泰じゃないかという話になりますし、大地が空にすっ飛んで行くなんて事を知ったらパニックになるでしょうから。「戦争というのはなるべくしないに限りますし、もしこちらから仕掛けるのであれば、どういう意図を持ってどう行うのかというのを予め考えて置かねばいけないのですよ。 でなけりゃ戦費も兵の命も全部無駄になりかねないのです。」「あああ、また難しくなって来ました。」シエスタが頭を抱えているのです…基礎学力って、大事ですよね。この世界って、平民に社会科教育を施す事があまりありませんから…。「料理と一緒なのですよ。 適当に作ったら、大抵微妙なものしか出来ないでしょう? 時々物凄く美味しいのも出来ますが、そう言うのは単なる偶然ですし。」「おお、なるほどー。 つまり、何をしたいのかをきちんと考えなきゃ駄目って事ですね?」シエスタって良く気が回りますし、読み書き算盤が可能という平民の娘としてはかなりハイスペックな存在なのですよね。「あのなー、死んでもとか言うなよ!この莫迦、莫迦ギーシュ! 死んだら御終いなんだぜ、死を恐れないのと死んでも構わないってのは違うんだ、わかってんのか!?」おや?向こうで才人とギーシュの死生観の違いについて、白熱した話が始まったようなのです。それでは聞き耳聞き耳…。「ぼ、僕の覚悟を侮辱するのかね!?」ギーシュは顔を真っ赤にして手袋を握りしめているのです。…久し振りに『決闘だ!』ですか?「ああ侮辱するね、死んでも構わないなんていう後ろ向きな気持ちでまともに戦えるわきゃねーだろ。 そもそもだギーシュ、おまえが死んだら問答無用でモンモランシーは他の男に取られちまうんだぞ、わかってんのか!?」「ぬぐっ!?いや、モンモランシーなら、モンモランシーならきっと…。」きっと何とかしてくれる…じゃなくて、何でしょうか?「モンモランシーならきっと、お前に操を立てて生涯独身でいてくれるってか? 良く考えろよ、モンモンの家はド貧乏とはいえ、トリステインきっての名家の一つなんだろ? しかもあいつは、そこの一人娘なんだろ? ケティから教えて貰ったけど、貴族にとってそういう血統とかってすげー大事なんだろ? どう考えても、そんな事有り得ねーじゃん。 お前が死んだら、モンモンは望むが望むまいが、家の為に他の男に抱かれる運命なんだよ。 そんなのをお前は許せるのか?それで満足か?それがお前にとって正しい結末なのかよ!?」「それは、確かに、そうだが…っ!」おお、ギーシュが才人に貴族に関する話で押されている。ううむ、才人と私達の文化ギャップを埋める為に行っていた授業が、功を奏してきていますか…?「俺なら嫌だ、俺は絶対に嫌だ、俺の好きな女が俺以外の男と結ばれるのを想像するだけで、眩暈がする吐き気がする正気でいたく無くなる。 戦って名誉が得られるなら死んでも構わないだなんて言うな! お前は貴族の前に男だろ、男なら戦って名誉を得てなおかつ生きて帰って、好きな女と添い遂げると断言して見せろよ! それが男って奴だろ、ギーシュ!ギーシュ・ド・グラモン!」才人がかっこいい事を言っているのですが…対象が自分な可能性は皆無だというのが、心にぐっさり刺さるのですよ、うう。「サイト、良い事言った! 確かに好きな女が他の男に取られるのは絶対に嫌だよな。 よし、俺は戦って名誉を得て、生きて帰る…けど、彼女は居ないから、これから探す! 確かにどっちかじゃないよな、全部だよな、男なら!」「そんなわけで女を惑わす男の敵は死ね、取り敢えずジュリオ!」「え?何でそんな唐突に!?」ジュリオが竜騎士隊の面々に取り囲まれ、あまりの唐突な展開にワインを入れた杯を片手に持ったまま固まっているのです。おおう、ジュリオってば、すっかり竜騎士隊に溶け込んで…お姉さんは嬉しいのですよ、年下ですが。「ちょっと待ちた…ちょ、電気按摩は止めて、それ反則だから、やーめーてー、ぎにゃー!」ジュリオがジャン・ルイ…じゃなくて、なんでしたっけ…な、名前の竜騎士達にボコられている間にも、話は進んでいるのです。「男なら、名誉も女もどっちも手に入れろ…か。 確かにそう言われれれば、僕としても名誉だけじゃ不満だ。 名誉もモンモランシーも、どっちも欲しい!」「良く言ったギーシュ! それでこそ男だぜ!」そう言って、才人はギーシュの背中をバシンと叩いたのでした。「あいたたたた…で、それはそれとして、君は誰を選ぶのかね?」「へ?」ギーシュはそう言いながら、やんややんやと騒ぐ級友に囲まれ腰に手を当ててワインをジョッキで一気飲みしているルイズを指差します…って、見ないと思ったら、何やっているのですかルイズ。「おっしゃー!次こーい!」」「すげえ、もう5人抜きだ!?」いやだから、ホントに何やっているのですか、ルイズ?「えーと…御主人様かね?」次に私を指差します。「恩人かね?」そして、シエスタを指差します。「メイドかね? 君は誰を選ぶんだい?」ギーシュは、意地悪そうな笑みを浮かべたのでした。「えっ? いや、その…な、何を唐突に。」才人の目が豪快に泳ぎ始めたのです。「名誉と女の両立は出来るが、女と女の両立は…僕が言うのも何だが、難しいよ? 数が増えれば尚更。」「お、俺…は…。」言い淀む才人の後ろに怪しい影が。「貴様も…。」「男の敵だったか…。」「のっぺら顔の癖に。」その名もしっと団…ではなく、パッ○ラ隊…でも無く、竜騎士隊。「取り敢えず、一つの悪は滅んだ…。」「あああああああぁぁぁぁぁううううううぅぅぅぅぅぅぅ…。」彼らが指差す先には、股間を抑えて蹲るジュリオの姿が。「しかし、新たな悪を我々は発見した! 我ら竜騎士隊のモットーは!?」『悪・即・斬!』竜騎士隊ってば、酒が入ってすっかりハイになっているのですよ。「どこの斎○一だ、それは!?」「やかましい、ものどもかかれ!」「ふんぎゃー!」竜騎士隊は才人…と、その近くに居たギーシュとガブリエルの二人も捕獲したのでした。。「何をする、やめたまえ!?」「待って、僕は関係無いよ!?」パッパ…ではなく、竜騎士隊大暴走中。「しっとの心は父心!」「押せば命の泉湧く!」 『見よ! しっと魂は暑苦しいまでに燃えている!!』何処から受信しましたか、その電波。『彼女いる奴ぁ全部敵!天誅!』『うぎゃー!?』もう、しっと団で良いよ…なのです。「…はて?」目が覚めたら素っ裸。「すぴー…。」そして横に寝ているのはシエスタ(裸)。「ふむぅ…?」私も裸、シエスタも裸…なるほど、なるほど、酒の勢いで何かやらかしましたね、私たち。「ひょっとして、ひょっとしてですが、シエスタを食っちまいましたか?」ノンケでも食っちまう女でしたか、私は…私は…。「うにゃあああああああああああぁぁぁぁぁっ!? 酒呑んだら前世の人格が復活するとでもいうのですかー!?」「ふにゃ…?」私の悲鳴に、シエスタが目を覚ましたのです。「あ、お早う御座います、ミス・ロッタ…って、あれ、何で私たち裸…。」そういって、シエスタの顔が一気に赤くな…らずに、元に戻ったのでした。「ああ、そういえばそうでした…昨晩は呑み過ぎましたねー。」シエスタは少し恥ずかしそうに頬を掻いたのでした。「え、ええと、私はそこら辺の記憶が定かではないのですが…。」「あ、覚えていらっしゃらないんですか? 私、一気飲み合戦で酔いつぶれたミス・ロッタをここまで運んできたんですけど、ミス・ロッタってば部屋に着くなりスポポーンと服を脱いで『眠いーあなたも一緒にねましょー』と、私を手招きなさったので、私もなぜか服を脱いで一緒に寝る事になったんです。」一気呑み合戦とか、覚えていないのです…。「それにしても、何故脱ぎますか…。」「いや~私も酔っ払っていたんでしょうね。 何故だかそうしなきゃいけない気がしてつい。」自分への問いだったのですが、シエスタが自分に尋ねられたのと勘違いして答えているのです。「酒は、程ほどにしなきゃいけませんね…。」「あはは、本当にそうですね!」その時、不意に部屋のドアが開いたのでした。「ケティ、シエスタが居ないってルイズが…。」私と目が合う才人、そしてシエスタとも目が合う才人。私たち二人とも素っ裸、そして恐る恐る視線を下げる才人…って!「ドアを開ける時には、ノックをしろと何度言えばわかるのですかー!?」「サイトさんのエッチー!?」「何で二人ともはだ…しろっこ!?」私とシエスタの投げつけた枕が、才人をドアの向こう側に吹き飛ばしたのでした。やれやれ、それにしても久しぶりに発動しましたか、才人のラブコメ主人公属性。しかも今回のはシエスタも巻き添え…私たちはお色気担当ですか、そうですか。「降臨祭休戦も、今日で最終日ですか…そろそろ始まりますね。」外には降り積もる雪…と、それで雪合戦をする竜騎士隊の面々。「色々とぶち壊しなのです…。」まあ、アンニュイな気分が少々晴れたような気はしますが。「才人の命を、私は賭けなければいけないのですね。」無事に帰ってきてくれる可能性は…などと考えても無駄ですか。トリステイン軍自体の被害は私が知っているものよりもはるかに少なくてすみますし、これでゲルマニアに恩を売れば色々出来るのは確かですが、七万の前に伝説の使い魔とはいえ少年を放り出すのです。その事に罪悪感を覚えないわけがありませんし、何よりも才人自身への危険は大きいのは確かなのです。とは言え、基本的に気弱なテファに何の前触れもなく接触したりしたら、いきなり彼女関連の記憶を消されて終わりのような予感が…私から記憶抜いたらただの娘ですから、それはまずいわけなのです。重傷を負った才人の友人というクッションを置かねば、彼女はずっと西の森の住民のままなような気がするのですよね。「結局は自己保身ですからね、凡人に出来るのはこのくらい…。」不意に町の西側の方から煙が上がり、続いてドンという爆発音が響き渡ったのでした。「さて…英雄を作りに行きましょう。」私は何事かと騒ぎ始めた外の風景を後目に、ドアに向かって歩き始めたのでした。狙ったわけでもないのに、蒼莱は燃料不足で筏の上に泊まりっ放し。歴史の修正力だか因果律だか知りませんが、飛行機には乗るなという事ですか。とは言え、私にとってこの先は観測し得ぬ未来、シュレディンガーの猫の筈。姫様がアレな感じになったのは間違い無く私の介入の結果なのですから、変えられる所は変えられる筈なのです。「ポワチエ卿、御無事ですか?」屋敷から脱出した私達は、取り敢えずトリステイン軍司令部に向かって見たのでした。「残念ながら無事だ。 小心者な私としては一刻も早く悪夢から覚めたいのだが、待てど暮らせどこの部屋に砲弾が飛び込んでくる気配が無いものでな。」怒号飛び交う作戦室では、顔色一つ変えずにド・ポワチエ卿が立っているのです。「ゲルマニア軍が西側市街地から逃げて来ているわ。 一体何が起きているっていうの!?」「どうも、ゲルマニア軍の半数以上がいきなり寝返ったようですな。 逃げてきたゲルマニア兵に尋ねても、全員錯乱状態で意味不明であります。」ポワチエ卿はそう言って、肩をすくめると溜息を吐いたのでした。「何故寝返ったのかの理由は全くの不明ですが、ゲルマニア兵から聞いた話によるとゲルマニア軍司令部は先程の爆発で消し飛んだ模様です。 何とか地形を利用して東側市街地に叛乱兵が侵入して来ないように交戦中ではありますが、あまりにも突然の事で長期的な防衛は不可能かと思われます。」続いて報告してくれたのはウインプフェン卿。取り敢えずいきなり壊乱は防げましたが、何せこっちは大半が新兵という超ポンコツ軍隊ですからね…。「ヴァリエール嬢、撤退でよろしいですかな?」「ケティ、撤退で良いわよね?」うわ、ルイズいきなりサラリと右から左へ受け流しやがりましたね。「私に決断させてどうするのですか、私に。 何だかんだでここで最上級権限を持っているのはルイズなのですよ?」「ええ、私が!? いやだって、ポワチエ卿がトリステイン軍司令官じゃあ?」自分を指差してルイズがびっくり仰天しているのですよ。「確かにそうなのですが、姫様が自分に準ずる権限を貴方に与えましたからね。 いくら司令官だって、最高責任者に準ずる人が居ればその人を蔑ろには出来ないのですよ。」「わ、わわわ私が最高責任者!?」ルイズの顔が真っ赤になったかと思うと、いきなり真っ青になったのでした。「ケティ、パス!」「無茶言わないで下さい。」いやまあ、誰にも相手にされない人間(だと思い込んでいたルイズ)が、いきなり数万の軍隊の最高責任者にされたら戸惑うのはわかりますが。「こういう時、ケティなら上手く出来るでしょ!? でも、私じゃ無理!!」「私だって、上手くやっているわけじゃないのですよ。 決断するのは貴方の仕事なのです…ぶっちゃけ、こういう時に専門家ではない最高責任者が言うべき事は。」「言うべき事は?」たった一言なのですよ、ええ。「良きにはからえ、なのです。」「いや、それは流石に駄目なような気がするわ…。」ルイズががっくり肩を落としたのです。「つーか、バカ殿じゃないんだし。」ついでに才人にもツッ込まれたのでした。「はぁ…良いですか? 私達は指揮官教育を受けた将校では無いのですから、判断するだけの知識や能力など無いのですよ。 ですから、こういう時は専門家に任せるのが一番なのです。 そうですよね、ポワチエ卿?」「まあ、私のような木っ端指揮官でも、専門家ではありますな。」ポワチエ卿はゆっくり頷いたのでした。「ちなみに、こうしてゆっくり話している間にも、我が軍の崩壊は刻一刻と近づいているわけでありますが。」「う…ごめんなさい。 それでは良きにはからって下さい。」ルイズの一言に、ポワチエ卿は深く頷いたのでした。「現在防戦中の部隊以外を再編せよ! ゲルマニア軍の叛乱部隊に総攻撃を仕掛ける!」『はっ!』指令室がされに慌ただしくなり始めたのでした。「え…えっと、何か総攻撃を仕掛けるとか聞こえたんだが?」「奇遇ねサイト、わたしもそう聞こえたわ。」才人達が顔を見合わせているのです。「攻められっぱなしでは撤退の機会が掴めませんから、一度攻勢をかけて敵軍を崩した後に撤退するという事なのですよ。 本国から輸送部隊と一緒に連れてきた民間人も先に撤退させる必要がありますし、その時間稼ぎでもあるのです。」「成る程、そういう事か。」才人は納得したように頷いているのです…が。「ポワチエ卿、あれで正解?」「ですな、その通りであります。」ルイズ…何故ポワチエ卿に?「しかしロッタ嬢は士官教育も受けていないのに、大したものですな。」「でしょー?ケティって凄いんだから!」そして、何故に誇らしげに…。「指令部はこれから撤収の準備に入ります。 貴殿らも撤収を急いで頂きたい。」「使用人に既に始めさせております。 程無く撤収は可能かと。」今頃、シエスタが私達の荷物をてきぱきと荷馬車に運び入れている筈なのです。「ではポワチエ卿、ロサイスで会いましょう。」「ははは、無残な敗北を迎えた敗将として扱われるかと思うと、今から気が重くなりますな…では、ロサイスで。」ポワチエ卿が敬礼をすると同時に、司令部の全員が一瞬止まって私達に敬礼をして見せたのでした。「ねえ…ケティ、あの人達どうすると思う?」最後の司令部の雰囲気を感じ取ったのか、ルイズが尋ねて来たのでした。「司令部直轄の部隊は、この軍の中でも最精鋭…撤退時のしんがりを務める部隊は高い士気と錬度が必要なのです。」「最後まで残るって事!?」総指揮官が直轄部隊率いてしんがりとか先頭に立って戦うとかなんてのは飛び道具が発達した世界では愚の骨頂なのですが、この世界の軍隊が持っている飛び道具は銃士隊の持っているモシン・ナガンを除くと大した事ありませんからね。まあそんなわけで、生き残れる可能性がかなりあるのは確かなのです。「そういう事になります。」「わたし戻る!」ルイズがくるりと反転したのでした。「待てぃピンク。」「ぐえ。」すかさずルイズの襟をつかんだのでした。「あ、あにするのよぅ。 てか今、ピンクとか呼ばなかった!?」「空耳なのです、そして駄目なのです。」おほほほ、私がルイズの事をピンク呼ばわりするわけが無いじゃありませんか?「嫌よ!」「駄目なのです!」ムズがるルイズを何とかロサイスまで下げないと…。「しんがりとはいえ最精鋭ですから、統制のとれていない叛乱部隊を相手にするくらいなら何とかなります! これがアルビオンの仕業ならば、叛乱がこちらに起こっている事はとっくに知れ渡っている筈。 今するべき事はゲルマニア軍の残党を拾いつつ、全速力でロサイスまで下がって戦線を再構築し撤退の準備を行う事なのです。 兎に角ロサイスまで下がりましょう!」「わ、わかったわ…そういう事なら。」ルイズはしぶしぶと言った感じで引き下がってくれたのでした。「シエスタ、準備は?」「全部終わったわよ、ケティちゃん☆」屋敷に戻ってシエスタに声をかけたらスカロンが出てきてウインクされた、不思議!そしてキモい!…ではなく、なんでスカロンが?「あ、ケティ、うちを片づけるついでにこっちも片づけておいたから。」「ジェシカ…に、妖精亭のみんなも?」見知った顔の女の子達が、屋敷から荷物を運び出して荷馬車に積んでくれているのです…というか、積み過ぎ。私達の荷物だけなら荷馬車1台でも全然余るのに、6台ある荷馬車に荷物が満載なのですよ。「あの…この屋敷に元々あったものまで運び出していませんか?」「どうせ、この街はこれから戦禍に巻き込まれるんでしょ? だったら調度品なんてあっても無駄じゃない? この御屋敷の調度品、うちのお店で使えそうなのも結構あるし☆」ジェシカはそう言って、私にウインクして見せたのでした。つまりついでに火事場泥棒ですか…その発想は無かったのです。「いやー、ジェシカ達が来てくれて助かりましたー。」この屋敷に置いてあった銀製の食器と燭台を抱えてシエスタが現れたのでした。「シエスタ…何を?」「え?だって、この御屋敷の荷物を一切合財引き払うんでしょう?」指示の仕方を間違えましたか、私。「私達の荷物だけで良かったのですが…。」「ええっ!そうだったんですか!? 私もそう思ったんですけれども、ジェシカが屋敷の物全部持っていく事だって。」一人のメイドに屋敷の荷物全部片付けろとか、どんな無茶振りなのですか、それは。「ジェシカ…従妹騙して何をやっているのですか?」「あははは~、貴方達の荷物も一緒に片付けてあげたんだから良いじゃない?」相変わらず逞しいにも程がありますね、ジェシカは。「はぁ…まあ、確かにここに置いておいてもどうにもならないでしょうね。」「さすがケティ、話がわかるわ。 長期戦になるかと思って来たのに予想外の短期間だったから、このくらいしないと採算が合わないのよ。」まあ撤退する時に略奪するするのはよくある話ではありますし、無人になる屋敷から物を持ち出すくらいなら仕方が無いという事にしておきますか…。「とは言え、もうすぐここにもゲルマニアの反乱軍が来るでしょう。 撤収作業は中断!全力でロサイスまで逃げますよ!」『はーい!』《魅惑の妖精亭》で働く少女達の声が、屋敷内に響き渡ったのでした。「…何というか、惨めだな。」才人はロサイスの街中を見まわして呟いたのでした。「そいつを言っちゃあおしめぇよ、なのです。」街中には着の身着のまま逃げてきた民間人や、同じく殆ど着の身着のままのゲルマニア軍の生き残りが、虚ろな顔で座り込んでいるのです。まあ実際私達も出来得る限り全力で逃げてきたので、疲れきっているわけですが。「ここであれば、1週間以上かけて築いた陣地があるので、多少は持ちます。 兎に角、今は休みましょう…とは言え、ロサイスの住民が襲ってくる可能性があるので、全員注意して下さい。」庶民というのは、敗軍には厳しいですからね。何だかんだ言って、私達は侵略者ですし。「私達の荷物は?」ジェシカが暗い街の雰囲気に少し怯えながら、恐る恐る訪ねてきたのでした。「取り敢えず筏に運び込みましょう。」「でも、今日泊まるのはあの屋敷なんでしょ? もしも放っておいて盗まれたりしたら…。」ジェシカは不安そうに言ったのでした。「この状況で高価な品を近辺に大量に置いておくのは、却って危険なのです。 盗まれたら諦めなさい、命があればお金は幾らでも稼げるのですから。」「ううう、わかったわ。」まあ、筏に置いておけば水兵が警備していますし、何とかなるでしょう。「御注進!御注進!」伝令と思しき兵士が、馬によってやって来たのでした。「御苦労、して何か?」「しんがりの司令部直轄部隊、シティ・オブ・サウスゴーダよりの脱出に成功! 現在こちらに向かっています!」しんがりはなんとか無事でしたか…良かった、良かった。「ただ…指令は撤退時の戦闘で大怪我を負われた模様。」「な…それで、ポワチエ卿の容体は?」予想以上に良い指揮官だったのですが…まさか、駄目なのですか?「はっ、予断を許しませぬが、恐らくは大丈夫であろうと。 それに伴い、司令部の指揮権はウインプフェン卿に移譲されました。」「それは良かった…返す返す御苦労でありました。」何とかなりましたか…しかし、偉そうな返答は疲れるのです。 「おお…何か偉そうな喋り。 ケティが初めて貴族に見えたわ。」ジェシカが感心したように私を見ているのです。「いや、それでは今まで私はどんな風に見えていたというのですか?」「ん~?魔法が使える商人。」あう…言い返せないのですよ。しんがりの司令部直轄部隊到着の後、急いで軍議が開かれたのでした。「…大分、参謀も警備要員も減ってしまいましたね。」「あいつら、しんがりこそは武人の誉れだと張り切っておりましたからな。 皆、武人の本懐を果たし、名誉の戦死でありました。」ウインプフェン卿の顔は、そう言いつつも寂しそうなのです。「感傷に浸るのはこれくらいにして、本題に入ります。 敵軍はゲルマニア叛乱軍と合流し、一気に7万まで膨れ上がりました。 かえしてこちら側はほぼ全てがトリステイン軍で、しかも数は3万弱であり、ゲルマニア軍は壊乱状態で再編もままならず数すら把握出来ませぬ。」「倍以上ですか…。」ゲルマニアは、遠征軍のほぼ全てを喪ってしまったという事ですか。現状でもギリギリ限界な動員をかけた我が国と違い、それでも更に10万以上の動員が可能な国ではありますが。もとからそうするつもりだったとはいえ、これを知ったらキュルケは私をどういう目で見るでしょうか?「政治とは、まさに悪党の道なのですね。」「は、何か?」思わず口に出てしまったのか、ウインプフェン卿が不思議そうに聞き返してきます。「いえ、何でも…それは兎に角、ここを守りつつどう撤退す…。」「はい、私達にお任せ下さい!」ルイズが挙手して、そう言ったのでした。「7万の兵を止めるくらい、私達特務機関オレンジのみで十分です。」あれ?ひょっとして私も戦うとか、そういう話なのですか、これ?