「ヒャッハー!敵だァ!」「俺は何時も思うんだが、何でお前なんか買っちまったんだろう…はぁ。」喜びに撃ち震える己のインテリジェンスソードに、溜息を吐きながら愚痴る青いパーカーの少年。才人は敵を睨みつけつつ、デルフリンガーと何時も通りの莫迦話をしている。「ひでえ!俺は剣なんだから、斬って突いて叩き潰して何ぼだろ! いくら話せるからって、別に俺は話し相手が無い人用の剣とかじゃねーんだぞ?」「違ったのか? てっきり話し相手がいない寂しい人用の機能かと思ってたぜ。」デルフに対しては、色々と酷い才人だった。「ひでえ!俺は魔法吸いとれるっていう立派な機能があるんだぞ!他にも魔法吸いとれるし、何てったって魔法吸いとれんだ!」「魔法吸いとり機能だけじゃねーか! 吸い取った魔法を放つとか、そういう事は出来ないのかよ?」吸い取った魔法はどうするんだろうとか思いつつ、才人は訊ねてみる。「ズバリ出来無い!」「堂々と言う事かっ!?」敵はどんどん迫りつつも、一人と一振りの調子は変わらない。「あー…一応、吸いとった魔法を活用する機能はあるぜ? あるぜというか、今思い出した。」「へえ、どんな?」飛んできた数十本の矢を切り捨てながら、才人はデルフリンガーに訊ねる。「吸い取った魔力の分だけ、俺を握っている相手の体を動かす事が出来る。 …ただし、そいつの意識が無い時限定だが。」「つまりアレか、こんなふうに!魔法をめいっぱい吸い込んだお前を意識が無い誰かに握らせれば、そいつはお前の思い通りに動くと。」今度は飛んで来た火の弾を切り捨てながら、雑談を続ける二人。「おう、例えばお前の御主人様の娘っ子とか、あのおっかない娘っ子とかに俺を握らせれば、セクシーなダンスとかさせられるわけだ。 意識無い時限定だがな!」「まさに外道。 つーか、剣握った女の子のセクシーなダンスとか、誰得だよ?」風の刃を切り捨て、ゴーレムを粉砕し、氷の槍をただの氷に変えていく。「な、何なんだあいつは!?」「矢を切り捨て、魔法を切り捨てるだとぅ! メイジ殺しかよ!?」「だから、ガンダールヴだって言ってんだろうが!」盾を構える剣兵を剣と盾ごと叩き潰しつつ、才人はその兵士の疑問に答えて見せたのだった。「ヒャッハハァ!肉裂き骨砕くこの感覚!俺が剣だって実感する瞬間だぜ! で、この先どーすんだ相棒!?」剣として使われる喜びに打ち震えつつ、デルフリンガーは才人に訊ねる。「ここは敵の先鋒だ。 なら、どんどん進めば後方だ! どうせ回りは敵だらけ、ならばその中の最短距離を行く! 何か文句あるか?」「ヒャハハハハハ!無いねえ、全然無いねえ、正面突破上等! 進めば辿り着くのは最後方!そういう考え方、俺大好き!」後ろから切りかかろうとして来たアルビオン兵が、パァン!という音と共に後頭部を吹き飛ばして倒れる。「後ろからなら大丈夫ってか? 御生憎様、ケティの荷物から拳銃パクって来たんでね、後ろにも隙は無い!」才人の手に握られているのは、モーゼルC96M1932。館から撤収するどさくさ紛れにケティの荷物から抜き取って来たものだった。「その拳銃って、あのおっかない娘っ子が物凄く大事にしてる奴だろ? バレたらブッ殺されるんじゃね?」「ここで使わなきゃ、ここでブッ殺されるからな。 今死ぬか、先死ぬか?俺は一日一秒でも長く生きたいんでね!」槍を構えて来たアルビオン兵の穂先を切り飛ばし、更に踏み込んで首を一撃で斬り飛ばし、返す刀で更にもう一人の胴を薙ぐ。「俺達をまるで人の形した肉の塊みたいに扱いやがる!? 何で全方向からありとあらゆる攻撃を加えても全部に対処出来るんだよ!?」「ルイズが同時に全方向からありとあらゆる攻撃を加えてくるからな、しかもお前らよりもずっと早くだ! 遅過ぎるんだよ、そんな攻撃で断末魔を上げさせられるなんて、俺を舐めるんじゃねえ!? アレに比べりゃ、たかだか雑魚が4万程度、温過ぎるにも程があるわ!」ちょっと涙目になりながらも、才人は剣を振るう。その度に数十人が吹き飛び絶命していく。「ヒャッハァ!良いぞ、もっと心を震わせろ、そうすりゃ相棒はもっと早く強くなる! 心の震えの原因が相棒の御主人様なのがアレだがなぁ!」「うるせえ!ルイズとケティの折檻以上に、この世に怖いものなんかねえ! これは俺にとって世界の真実だ!」才人は打ちこまれる密度が増してきた魔法の矢や火の弾などを切り裂きつつ、更に進む。魔法の密度が増してきたという事は、平民が主体の先鋒から、メイジ主体の中堅部隊に移り変わって来ているという事。「僕はアルビオン貴族の…ぐふぁ!?」「名乗りを上げている暇があるなら、魔法撃って来い!」名乗りを上げようとしたアルビオン貴族を才人は一刀の元に切り捨てる。「自分は名乗り上げたくせに、ずるいぞ!」アルビオン貴族達は応戦しつつも抗議の声を上げるが…。「さっきと違って、今俺は忙しいんだよ! 名乗りを上げるのは死んでからにでもしてくれ、あの世に逝った後に聞いてやるから!」「名誉を解さぬ奴めっ! うぐぁっ!」」ブレイドで斬りかかってきた貴族を切り捨て、背後から魔法を撃とうとする貴族をモーゼルで射殺する。「この数で囲んでおいて、名誉もクソもあるかボケえええええええええぇぇぇっっ!」「いいぞ相棒、何でもいいから心を振るわせ続けろ! 4万人を全て斬っちまえば、何もかも終わらぁな!」才人が剣を振るうたびに数十人が吹き飛んでいくという構図は、アルビオン軍にとって悪夢以外の何者でもなかった。「囲め、十重二十重に囲んで攻撃を加えるのだ!」「駄目です!いくら囲んでも、力づくに突破されていきます!」「まだ4万だ、まだ4万もいるのだぞ! それを何故たった一人の少年が、あそこまで好き勝手にできるのだ!? 本当にガンダールヴだとでも、伝説の使い魔だとでもいうのか!?」アルビオン軍の指揮官であるホーキンス将軍がいくら指揮をしようが、血に塗れて既に真っ赤になった一人の少年によって、それら全てが突破されていく。『聖地奪還委員会』の貴族たちは、常軌を逸した『力』によって自分たちのした事全てが無に帰していくのを見続ける事になったのだった。「こちらへ向かっているのか…私の首が目当てか? もしくは…貴公らの存在に気づいているのやも知れませんな?」ホーキンスは『聖地奪還委員会』の面々にそう言って笑いかける。「な…まさか?」「どちらにせよ、彼が目指しているのは我が軍の士気そのものの破壊でしょうな。 そして、おそらくそれは間違いなく成功するでしょう…我が軍はたった一人の少年によって、見るも無残に惨敗するのです。」既に才人が突破した後の先鋒から中堅にかけては、兵が逃げ散り始めている。督戦隊が彼らを撃つが、たった一人の『確実な死』と対峙するのと、逃げれば『死ぬかもしれない』逃亡では、逃亡の方が勝ったのである。「我々が撤退を始めれば、おそらく彼は引くでしょう。 引かなければ、我等は皆殺しです。 どちらを選ばれますかな?」「ホーキンス将軍、貴公は敗北主義者だ。」『聖地奪還委員会』の委員がそう言うと同時に、ホーキンスはブレイドで胸を突かれて倒れた。「これより我々『聖地奪還委員会』が、この軍を統率する!」だがしかし、全ては何もかも完全に手遅れだったのだ。「同志、奴が、血塗れの真紅の悪魔が来ます!」『ぎゃあああああああぁぁぁぁっ!?』司令部を覆っていた人の壁の一部が吹き飛ぶ。そしてそこから現れたのは…全身を返り血で真っ赤に染めた1人の少年だった。「…督戦隊は?」才人がそう言うと、警護の兵たちの視線が一斉に『聖地奪還委員会』の面々のほうに向いた。「…そうか、お前らか。」無機質なまでに醒めきった才人の瞳が『聖地奪還委員会』の面々を貫く。「いやー、斬った斬った満喫した! こいつらで最後か?」「たぶんな、いい加減面倒くせえ。 逃げるか、それともこの場で死ぬか?」「ひぎゃ!?」才人は近くに居た『聖地奪還委員会』の委員を無造作に切り捨てた。「俺に斬られるまでに決めろ、さもなくば死ね。」「くっ、さっさとやらんか!この血塗れの悪魔を殺すの…だ…。」そう言った委員は、即座に上半身と下半身が泣き分かれになった。「何故たった一人に我々の理想が潰されなけれ…。」そう言った委員は、下顎から上が消滅した。「死ぬんだな、わかった死ね。」身構えた委員は、それだけで抵抗する間もなく杖ごと切り捨てられた。「逃げろ、逃げるんだ、本当にガンダールヴだ! 虚無は、始祖の御意思は我々の所業にお怒りなのだ!」その声が軍全体に浸透するのに数分と時を要さなかった。「やってられるか、なんなんだよ、何なんだよいったい!?」「皇帝陛下の御意思は神の御意思ではなかったのか!?」信仰によって結束した軍勢はその信仰対象が、自分達の敵であるという事を思い知る事になったのだ。「神よお許しください!どうやら我々の革命は大いなる過ちであったようです!」たった一人の少年に蹂躙し尽くされた4万の軍勢は、総崩れになって味方の居る場所、ロンディニウムに向かって遁走を始める。そしてたったの数十分で、その平原から五体満足なアルビオン兵は居なくなったのだった。「…大丈夫か、相棒?」「正直な話、もう駄目かも知らんね。 さすがにアレだ、味方ごと巻き込んで銃撃してくるとかマジ勘弁。」才人の全身が赤いのは、返り血だけではなく、やはり避けきれない攻撃もかなり受けていた。「これからどうするね?」「とりあえずはアレだな、身を隠せる場所を探そうぜ。」そう言って、才人はふらふらと歩き始め…そのままばたりと倒れた。「相棒!相棒! …仕方ねえな。」デルフリンガーがそう言うと同時に才人はむくりと起き上がった。「おう、こりゃまずいな。 もうすぐ心臓が止まっちまう…仕方がねえ、相棒が言ってた通り、どこか身を隠せる場所でも探すか。 あの森なんか良いかねえ?泉とかがあれば最高だ。」デルフリンガーに操られた才人の体は、ふらふらと森に向かって歩いていったのだった。「ひうっ!?」ティファニアは水を汲みに行った泉の近くに倒れている少年を見つけて、びっくり仰天した。何せ、全身殆ど血塗れで、体からは血の染みが広がっている。どう見ても、死んだ直後の新鮮な死体だった。「あわわわわ、蘇生、とにかく蘇生…。」母からの遺品である指輪を取り出し、『生き返って』と祈る。彼女は村がある西の森で倒れている兵士には蘇生措置を施し治療した上で、記憶を消して帰ってもらっていた。何故ならば彼女はエルフの血を引く娘。この世界ではエルフは悪魔のように恐れられているので、意識が戻ってから彼女の耳を見ると皆恐慌状態に陥り時には攻撃してくる者も居るのだ。なので、魔法で記憶を消してお帰り願うしかないのである。本当は、友達が欲しいだけなのだが…。「ふぅっ…どうかしら?」ティファニアは祈るのをやめて、その少年を見てみた。胸が微かに動き、自発的な呼吸が再開されたのが確認できる。「大丈夫みたいね。」ティファニアは胸に手を置くと、ほうっと安堵の溜息を吐いた。「それじゃあ、よいしょ…っと!」ティファニアは少年を軽々と持ち上げると、肩に担ぐ。記憶を消す魔法を覚えて以来、妙に力持ちになった彼女だった。でも生活に便利なので、特に不思議だとは思っていない。「う…血生臭い。」少年は全身血だらけの為、妙にぬるぬるするし、何よりも血生臭い。彼女の服にも血がついてしまうが、そんなのは今までの戦でこの森に迷い込んだ兵士も一緒だったので、わりと慣れっこなティファニアだった。「おーい、そこの娘っ子!」「ひうっ!? あ、危ない危ない!?」ティファニアが立ち去ろうとした時に、いきなり下のほうから声がしたので、びっくりして危うく少年を落としてしまうところだった。「ど、どなたですかぁ?」「足元だ、足元を見てくれ娘っ子。」ティファニアが足元を見ると、そこには血塗れの剣があった。「ひうっ!?」「しゃべる剣は珍しいのか娘っ子? おうエルフか、ずいぶんとまあ珍しいのが居るな。」その血の生々しさにギョッとして、思わず少年を肩に担いだまま飛び退いてしまうティファニア。「しゃしゃしゃ、しゃべる剣ですか?」「おう、しゃべる剣、インテリジェンスソードのデルフリンガー様だ。 俺はそこの相棒の得物でな、わりぃが俺も持って行ってくれねえか? でもこのままだと錆びそうだから、できればその前にそこの泉で洗ってくれると嬉しいんだが。」ティファニアはその剣、デルフリンガーの言う事にこくこくと頷いたのだった。