「…貴方が無事で良かったわ、ルイズ。」自分のせいだと船の中で泣き叫び、すっかり憔悴しきったルイズと、それを宥めていた私がラ・ロシェール港の桟橋から降りると、そこには喪服姿の姫様が居たのでした。「姫様…わたし、わたし…わたしのせいでサイトが、サイトが…っ。」「うん…そう、サイト殿が。」姫様はそう言って、包み込むようにルイズを抱きしめます。「う…うぇ…うっ…ううっ。 わたしがあんな事言わなければ、わたしのせいなんです。」「兎に角、今は泣きなさいな。 めいっぱい泣くとね、冷静になれるから。」姫様はルイズの涙で服が濡れる事など気にせずに、泣き続けるルイズに胸を貸すのでした。「サイトは凄いな、僕を決闘で倒しただけの事はあるよ…なんてね。 僕に苦戦していた召喚直後の頃から見ると、信じられないほど強くなっていたのだね、彼は。」ルイズを優しく抱きしめる姫様を見ながら、ギーシュは私にそう言ったのでした。「…ケティは泣かないのかね? 僕の胸で良ければ貸しても良いが。」「出迎えに来たモンモランシーに見られても良いのであれば、それも有りかも知れませんね。」私がそう言うと、ギーシュはぎょっとしたようにキョロキョロとし始めたのでした。「え?え?モンモランシーが来ているのかね?」「モンモランシーは現在我がラ・ロッタ家のトリスタニア別邸に逗留中なのですよ。 到着前に別邸に通信用ガーゴイルを送っておいたので、彼女にも情報は伝わっている筈なのです。」逗留中というか、水の秘薬作りの住み込みアルバイトと言った方が正しいような気もしますが。ちなみにこの別邸、モンモランシーが言うには、かつてはモンモランシ家の別邸の一つだったらしいのですよ。その関係もあって、彼女が現在逗留中というわけなのです。しかしモンモランシ家が裕福だったのはわかるのですが、何でトリスタニアのようなさして大きくもない町の中に複数個の別邸を持たなければいけなかったのか、いまいち意味がわからないのですよね。見栄とは複雑怪奇なり、なのです。「ううむ…。」「あ、それじゃあ、俺の胸で泣きなよケティ。」いきなり、隣に立っていたぽっちゃりさんがそんな事を私に言ったのでした。「ええと…誰?」「僕の名はマリコルヌ、マリコルヌ・ド・グランドプレだよ! ギーシュとよくつるんでいるから、知っているだろぅっ!?」勿論知っていますが、ろくに話した事が無いのですよ。「てか、この前の祝勝会に僕だけ招待状が来なかったんだけど! 何?何あの放置プレイ!? 後で知って屈辱感と快感で身が震えたんだけど! 謝罪と賠償を求める!」「おお…それは申し訳ありませんでした。」屈辱感は兎に角、快感って何なのですか?「そんなわけで、賠償として僕の胸で泣きなよ! いくら濡れてもかまやしないよ、むしろ御褒美だよ、だから泣きなよ。 ほら、ほら!」ぽっちゃりさんがぽっちゃりした胸板をぽっちゃり差し出してきたのでした。「断固として、拒否させてもらうのですよ~。」もちろん、笑顔で断らせてもらいますが。「あヒん!改めて笑顔で断られた!? その冷たい笑顔、さすがは断罪の業火、僕の女王様ッ!」何故に顔を高潮させて奇声を上げますか…?ああ、いや、まあ、何となくわかりますが、理解するのは拒否させてもらうのです。「そもそも、私は生きている才人に逢って嬉し泣きする予定なのですから、まだまだ泣く予定は先なのですよ。」「彼の生存をそこまで信じているのかね?」ギーシュは、私に不思議そうに尋ねて来るのでした。まあ常識的に考えて、四万と戦ったら無傷じゃあ済みませんからね…。「諜報員が入手した情報によれば、アルビオン軍の督戦隊を壊滅させるまでは間違い無く生きていたようなのです。 才人の服装は私達とはかなり違うものですから、戦場で見つからなかったとなると、生きている可能性もかなり高いのですよ。 死んだという証拠が何も見つからないうちは、生きていると信じているのです。」「成る程、そう言われると僕も希望が湧いてくるなぁ。 ケティ、才人を探しに行く時には僕にも声をかけてくれたまえ。 僕でも役に立つ事はあるだろうさ。」ギーシュはそう言って、杖を軽く振って見せたのでした。「ほほぅ…ケティと二人っきりでアルビオン旅行とは、やるわね?」ギーシュの背後から現れたるは、金色クロワッサンなのでした。「おや、恋人と離れていたせいで、性欲を持て余しているモンモランシーではありませんか?」「だから、私はそんなエロ娘じゃなーい!」モンモン大噴火なのです。「私とギーシュ様が二人っきりでアルビオンに行くとか、そんな不埒な妄想を思い浮かべる脳味噌の持ち主が?」「だって、ギーシュが言っていたじゃない!?」顔を真っ赤にしたモンモランシーは、怯えてコソコソと私の後ろに隠れたギーシュを指差したのでした。「ギーシュ様は一緒に行きたいと言っただけで、二人っきりでなどとは一言も言っていないのですよー?」「…そうだそうだー!」私の背後から、ギーシュのか細い抗議の声が聞こえてきたのでした。私を盾にしたぁ!?なのですよ、三人いませんが。「お黙り、ギーシュ!」「すいません、調子に乗りました。」おお、モンモランシーから名門オーラが出ているのですよ。そしてギーシュは才人のを見て学習したのか、見事な土下座なのです。「…で、ケティ。 サイトは生きているのね?」「ええ、ほぼ間違いなく。 才人が生きているので、貴方が例の件で才人から借りた借金も生きているのですよ。」私がそう言うと、モンモランシーは沈痛な表情になったのでした。「サイト…惜しい人を亡くしたわ。」「借金が嫌だからって、死んだ事にしないでください。」まあ、そういう冗談を口に出してくれるぐらいには、才人の生存を信じてくれているという事なのでしょうか?「だいたい、媚薬で正気失う前に薬を作るお金は立て替えてくれるって言ってたでしょ? あれ、どうなったのよ?」「薬の調合費を立て替えるとは言いましたが、借金を立て替えるとは一言も言っていないのですよ。 経費が欲しいのなら、その分の領収書を提出するのです。 それで借金を返せばいいでしょうと、私は何度も言っている筈なのですが?」私の言葉に、モンモランシーは目を逸らすのでした。「…精霊の涙を買えなかった分のお金を、才人に返さずに他の薬の材料を買う代金に当てましたよね?」「ナンノコトカシラ?」おいこらモンモン、しらばっくれようったってぇそうはいかねえぜぇ、なのです。「ぶっちゃけると、それが才人から借りたお金の大半だったりするのですよね?」「あ…あはははははは~…。」モンモランシーは誤魔化すように笑顔を浮かべたのでした。「あはははははははは~…。」「おほほほほほほほほ~…。」私とモンモランシー、しばし睨み合い。「そうそうモンモランシー良い縁談があるのですが、ポリニャック伯の後妻なんてどうでしょう?」「ポ、ポリニャック伯!?」それを聞いた瞬間、モンモランシーの顔が青くなったのでした。「ええ、先日ポリニャック伯は8人目の奥様を亡くされたそうでして。」ポリニャック伯はモット伯以上の性豪なのですが、浮気は一切しないしない人なのです。まあつまりわかりやすく言うと、奥方にその有り余る性欲の全てをぶつけ、しまいには奥方を8人もそういう行為の最中に死亡させたというとんでもない方でして。しかも性癖がちょっとばかり特殊という、もう何というか『それなんてエロゲ?』を地で行く方であり、トリステインにおける『絶対に嫁に行きたくない男性貴族』ぶっちぎりNo.1を爆走中の方なのですよ。「ケティ、私達友達よね?」「そうですかー?」「疑問形で返さないでっ!?」モンモランシーから問われたので、とりあえず首を傾げたら思い切りツッコまれたのでした。「てか、何でいきなりポリニャック伯の話なんかするのよ!?」「紹介者にはたんまりと礼金が出るそうなので、それでチャラって事にすれば才人も安心かなと…。」取り合えず、才人が貸した分にお釣りが出るくらいは貰えるらしいのですよ。「友達を金で売り渡さないでっ!?」「…とまあ、これは冗談なので、真面目に働いてきっちりと才人に返すのですよ、モンモランシー?」「うう…不幸だわ。 ケティの鬼、悪魔ー。」友達関係でのお金のやり取りは、きっちりしておかないと後でぐだぐだになりますからね。「…まあそれは兎に角、サイトが生きているっていうなら私も行くわよ、とどめを刺す…じゃなくて、友達だものね。」「物騒な本音がだだ漏れているのですよー?」いやー、友人同士での金の貸し借りって、本当に怖いものなのですね。「…ケティ、実際の所サイト殿の生死はどうかしら?」「姫様も、才人の事が心配なのですか?」泣き疲れて眠ってしまったルイズをラ・ロシェールに姫様が用意した宿のベッドに寝かせた後、貴賓室で姫様が訊ねてきたのでした。「サイト殿はアルビオン軍4万を一人で殲滅させるなどという、伝説級の偉業を成し遂げた英雄よ。 生きているにせよ、死んだにせよ、消息をきちんと判明させる必要があるのは間違いないでしょう? …あれだけ無礼に私に接する事が出来る人間もそうそう居ないのよ、心配しないわけが無いわ。」「姫様らしい心配の仕方で安心したのです。」姫様にとって、才人の魅力は『無礼に接してくれる事』なのですか。確かに姫様を屋台に連れて行ってジャンクフード食べさせるなんて発想は、私にもルイズにも無理ですが。「それでケティ、どうなの?」「死んだという証拠は、今のところ欠片も見つからないのです。 ただ…。」案の定、西の森にすっぽりと情報の穴が開いているのですよね。「ただ?」「諜報員からの報告に上がらない地域が存在するのです。 戻っては来るのですが、何時も記憶が無いのですよ。」才人の意識が戻っていないからトリステインの関係者だと知らないのか、それともティファニアが怯えて片っ端から記憶を消しているのか?はたまた才人が単純に伝え忘れているのか…何だか、これが一番しっくり来るような。「それは臭うわね。 うちの諜報部が使っている薬みたいなのを使っているのかしら?」「記憶を消す類の水の秘薬を使われた形跡は、発見できなかったのです。」まあ、虚無で消していますから、当然といえば当然なのですが。「殺されたりした者は?」「今のところ皆無なのです…私に行けと?」私がそう訊ねると、姫様は当然といった表情で頷いたのでした。「ガリアに居る密偵から、両用艦隊が大規模な上陸部隊を伴ってアルビオンに向かったという情報が来ているのは知っているでしょう? 才人殿が大暴れしたあとだから、ロサイス入りしたとは言えアルビオン軍はボロボロだもの。 火事場泥棒されたみたいで複雑だけれども、明日にでも勝利の報告が来るんじゃないかしら? その後、デ・ハヴィランドでアルビオンをいかにして高値でゲルマニアに押し付けるかの作業が始まるわ。」デ・ハヴィランドというのは、ロンディニウムのハヴィランド宮殿の事なのです。木で戦闘機を作る会社ではないのですよ~?「ガリアも領有権を主張するのでは? 何だかんだで、とどめを刺す事になるわけですし。」私がそう言うと、姫様はニヤリと笑って見せたのでした。「ガリアにはアルビオンの基礎的公共施設(インフラ)を我が軍が裏の作戦で徹底的に破壊した事を、会議が始まる前にこっそり伝える事にするわ。 空にあるのに大規模な港湾施設が徹底的に破壊し尽くされていて、物資の運び込みもままならないのに、放って置くと叛乱が頻発する可能性が窮めて高い面倒臭い土地なんかを、王弟派を処刑しまくったおかげで土地なら腐るほど余っているガリアが欲しがるかしら?」「自分で思いついておいて何ですが、悪辣な…。」現在アルビオンの大規模港湾施設は、サウスゴーダの玄関口ポート・オブ・サウスゴーダの港湾施設をシティ・オブ・サウスゴーダへの侵攻ついでに破壊したので、根こそぎ壊滅状態。ロサイスは港湾こそ大規模ですが、軍港なので商人にはちと使いづらいという欠点がありますので、難攻不落の空飛ぶ島は難攻不落が故に物資不足に陥る事に相成るというわけなのです。いやしかし、えっちらおっちら空の上にある島にいちいち反乱鎮圧に向かうとか、面倒臭過ぎて眩暈がするのですよ。「おほほ、ゲルマニアに押し付けるにはうってつけの土地でしょ? ガリアが主張しても構わないわ、そうなればロサイスの取り合いで両国が揉めてくれるでしょう。 我が国を取り囲む大国同士が適度にいがみ合うのは、大いに結構なことだわ。 アルビオンで両軍が領土紛争でも起こしてくれるのなら、我が国は両軍に武器でも売ってのんびりと長引かせてあげればいいのだし。」姫様が揃えられるカードは全部揃ったわけで、これでようやくクルデンホルフとオクセンシェルナに借りを返せそうな感じになってきたのですね。「…話が脱線し過ぎたわね。 まあ兎に角、私はガリア王やゲルマニア皇帝と和気藹々楽しくお話して来るから、その間にサイト殿を探してらっしゃいな。 念の為、銃士隊から数人を貴方の護衛に回すから、必ず生きているサイト殿を連れて帰って来て頂戴。 サイト殿にはシュヴァリエ叙勲の準備をして待っていると伝えてあげて頂戴。」「はい、有り難うございます、姫様。」最近、姫様の捻くれっぷりが可愛いなとか思えるようになって来た私は、どこかおかしいのでしょうか?姫様と話した後、ルイズが眠っている部屋にギーシュやモンモランシー達と一緒に行ったのですが…。「サイト…駄目、わたしも残る…一人で行っちゃ駄目…。」「…眠りすらも、今のルイズにとっては安息足り得ませんか。」ルイズは酷くうなされていて、虚空に向かって何かを掴もうと必死で手を伸ばしているのです。「お願い行かないで…お願い、行かないでぇっ!」寝言が絶叫に近いのですよ…原作よりも仲良くなって貰ったのが、仇になりましたか…?「これは…起こした方が良くは無いかね?」ギーシュも心配そうにうなされるルイズを見ているのです。「そうね、こんな状態じゃあ却って精神的に消耗するわ。 夢も見ないくらい深い眠りに落ちる水の秘薬を後で処方するから、一旦起こしてあげた方がいいわね。」「それじゃあ、僕が起こすよ…ルイズ、ルイズ。」マリコルヌがルイズの肩に手をかけたのですが…。「行くなって、言っているでしょうがあああああぁぁぁぁ!」「ルイ…でぃじぇ!?」ルイズの光る拳に思い切り殴り飛ばされ、そのまま天井に激突し天井を突き破って空の彼方へ…。「マリコルヌは犠牲となったのだ…。」「まあ、マリコルヌだから大丈夫でしょ。」感慨深げに呟くギーシュと、興味無さげに流そうとするモンモランシーが対照的なのです。「あのね…僕を何だと思っているんだい?」空の彼方へは行かず、天井に突き刺さった頭を天井板から引っこ抜いて着地すると、マリコルヌは二人を睨んだのでした。…って、才人並みに頑丈なのですね、マリコルヌ。「勿論、君は友だとも。」「級友ね。」「当たり障りが無さ過ぎだよ、二人とも。」ギーシュとモンモランシーの二人の言葉に、マリコルヌが抗議の声を上げているのです。「種族:変態。」「そんな種族あるかあああぁぁぁぁっ!?」私の評価にマリコルヌが大声を上げてツッコんで来たのでした。「当たり障りの無い事は駄目だったのでしょう?」「当たり障りが有り過ぎるよ、君の評価は!?」贅沢なのですね、《贅沢は素敵だ》なんて言葉もありますが。「うぅ…ん?」マリコルヌの絶叫が引き金になったのか、ルイズが目を覚ましたのでした。「おおルイズ、目が覚めたのかね!?」「良かった、目を覚ましたのね!?」「目を覚ましたようですね、ルイズ?」「僕の魂の叫びはスルーかい!?」勿論なのです。「サイトぉっ!?」「ひゃあ!?」ルイズが寝ぼけて、このメンバーの中で唯一暗い色の髪の私に抱きついてきたのでした。「あれ?サイトにおっぱいがある…。」「才人におっぱいはありませんよ、私はケティなのです。」才人が女の子だったら、色々な意味で残念過ぎるのですよ。「ケティ…サイトは?」「依然として行方不明なのです。」私のその言葉を聞いて、ルイズはがっくりと肩を落としたのでした。「やっぱり、才人は…。」「才人は生きているのです。 死んだのであれば、とうの昔に私の元へ情報が来ている筈なのですよ。私の覚えている展開とはかなり違うような気がしますが、大丈夫、大丈夫…。「…ねえ、《サモン・サーヴァント》使ってみるというのはどうかしら?」モンモランシーが軽く手を上げて、提案してきたのでした。「あの魔法は使い魔が存在する限り、使えない筈でしょ?」「ふむ、それは名案だねモンモランシー。」正直な話、私も不安になるから見たくないのですが…。「確かに…それで一度確かめてみるのも悪くないかもしれませんね。」「駄目だったのよ…。」ルイズはそう呟いたのでした。「私も思いついて、さっきやってみたの。 召喚の門はきちんと形成されたわ…サイトを呼び出す時、あれだけ爆発したのにあっけなくね。 成功して欲しい時になかなか成功しないくせに、成功して欲しく無い時にあっさり成功するとか酷いと思わない?」ルイズの瞳はすっかり魂が抜け落ちたように光が消えているのです。私も同様に、足元にぽっかり穴が開いたような、そんな奈落の底に落ちて行きそうな気分なのですよ。なまじこの世界の常識があるので、わかっていても不安が消えてくれないのです。「才人は…死んだのよ。 ケティの元にもじきに情報が届く筈だわ。」「…いいえ、まだ希望はあるのです。」ティファニアが才人を拾っていてくれますようにと祈りつつ、私はあらかじめ調べておいた資料を出したのでした。「…使い魔が使い魔で無くなるのは、死んだ時ともう2つあるのです。」「…え?」私はその資料をルイズに手渡します。「それを読んでみればわかりますが、実は使い魔との契約が解除される場合は3通りあるのです。 使い魔が死んだ場合というのが一般的なのですが、使い魔のルーンのある箇所が切除された場合、もしくは使い魔のルーンが著しく傷つけられた場合にも契約は解除されるのですよ。 その資料は、実際に使い魔がルーンのある箇所を切除されるか傷つけられて、契約が解除された事例の報告書なのです。」「ほ、本当だわ…でも、こんな資料を何処から?」資料を読み漁りながら、ルイズは私に尋ねてきたのでした。「その資料は、学院の図書館にありました。 同級生に頼んで持って来て貰ったのですよ。」この資料を持ってきてくれたジェラルディンは今頃、無事帰ってきたガブリエルと再会していることでしょう…。「つまり、召喚の門が開いても希望はあるという事なのです。」「希望、持ってもいいの?」上目遣いでおずおずと私に尋ねるルイズに…。「はい、才人は生きているのです。」私は表向き自信満々に頷いて見せたのでした。何だかんだ言って、本当に死んでいる可能性が一番高いのですから。「だから、才人を一緒に探しに行きましょう。 希望があっても行動が無ければ、希望は結果と永遠に結びつかないのです。」「うん…ケティ、ありがとう。 …でも、何であんなものを取り寄せたの?」ルイズがそうするのを予め知っていたと言うのもありますが…。「使い魔の生存を確認する時に、とりあえず召喚の門を開くというのは極々普通の行為なのですよ。」「一番手っ取り早いものね。」モンモランシーも納得したように頷いているのです。「なるほど、それを知っていれば使い魔との契約解除が他にも起きないのかという事を調べられるという事だね。」ギーシュにインテル入っているのです。「そういう事なのです。 ただし、その資料は私の権限を使って本来学院の教員であっても学院長の許可無くば閲覧不可な書庫から持ち出してもらったものなので、内容は他言無用でお願いするのです。 …そういう方法で使い魔との契約解除が出来ると知ったら、悪用しようとする者が出かねないのですよ。」例えば才人を召喚直後のルイズがもし知っていれば、左手をちょん切った可能性だってありますし。「使い魔はメイジにとって大事な存在、それを軽んじるようなモラルの崩壊を招きたくないという事だね。」とは言え、どうやらコントラクト・サーヴァントには使い魔と主人双方に、相手に親愛の情を感じるように働きかけるある種の『洗脳』が存在するようなので、余程気に入らないものが呼び出されたりしなければ問題は起きないのです。しかも、召喚の門は術者と相性が良いものの前に現れるわけで、それすらも滅多に起きないわけですが。それはそうとギーシュ、何でインテル入ったままなのですか?「ギーシュが妙に賢くなっているわね…風邪でも引いた?」モンモランシーも疑問に感じていましたか。「おお麗しき蝶モンモランシー、この僕を心配してくれるのかい?」「…ギーシュが何時も通りで安心したわ、とても。」インテルさんはどっか行った様なのですね。「まあ兎に角、姫様と一緒に皆でアルビオンに行きましょう。 才人は生きています、必ず見つかります!」この言葉は半ば私自身に言い聞かせているものなのです。才人、どうか生きていてください。「あの、ミス・ロッタ?」実はずーっと私の横に居たシエスタが、おずおずと手を上げたのでした。「私も一緒に行きたいんですけど。」「構いませんよ、一緒に行きましょう。」シエスタが行くのは当然ですよね。「あのさ、ケティ?」「はい何でしょうか、マリコルヌ?」ぽっちゃりした物体がおずおずと手を上げたのでした。「僕も一緒に着いて行ってあげよう。」「好きにすれば良いのでは?」貴方が一緒に着いて来て、どうしようというのですかマリコルヌ?「あヒん!?その冷たい容認、最高だよケティ。」「何故に喜ぶのですか!?」ひぃ、理解の外の物体が、物体が。「うーん、ケティの身内以外には冷たい性格と、アレなマリコルヌの嗜好が嫌な感じに合致しているのだね。」「ギーシュ様、マリコルヌをなんとかしてください!?」私は顔を高潮させて近づくマリコルヌから逃れ、ギーシュを盾にしたのでした。「い、いや、何とかしろと言われてもだね…。」「貴方がマリコルヌに優しくすれば、多分元に戻る筈よ。」おおモンモランシー、それは名案。「マリコルヌは頼りになるのです、いよっ百人力!」優しくというか、ただの太鼓持ちな感じもしますが…。「そうだろそうだろ僕は頼りになるぞ、任せてくれあっはっはっはっは!」図に乗っただけではありませんかー!?これから先の道中、大丈夫なのでしょうか?心配なのです…。