虚無の使い魔それは虚無の使い手を守る盾虚無の使い魔それは虚無とともにある伝説虚無の使い魔とは言えど、中身は普通の人なのです「いやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」ルイズの悲鳴を聞いて駆けつけた私達が見たものとは?「やあ僕の清楚な蝶ケティ、何か用かい?「…ふむ、確かに小さいですね。」素っ裸のギーシュが薔薇咥えて、才人とルイズが寝ているベッドの前に立っているのでした。かわいい象さんが丸見え…15歳の乙女にそんな粗末なもの見せるんじゃねぇ、なのですよ。「ななななな何で冷静に見てんのよっ!? てかギーシュ!なんで裸なのよ!」ルイズのツッ込みが入りますが…。…そりゃまあ、素っ裸のギーシュが薔薇咥えてポーズとっていたら、混乱を通り越して却って冷静になるというものなのです。「やあ何なんだい皆、僕はルイズに始祖の祈祷書を見せて貰いに来ただけだと言うのに。」アルヴィーですね、燃やしましょう。あのアルヴィー、血を採取した本人だけではなく、その時に着ている服装まで再現出来るのですが…よりにもよって、裸で夜のレスリングの真っ最中なギーシュから血を採取したのですね。中途半端に自律式なのが、裏目に出ましたか…ふう。「何処の世界にマッパで本借りに来る人がいると言うのですか…ファイヤーボール。」「ぎゃああああああああぁぁっ!?」アホらし過ぎて、躊躇する気持ちが一切浮かばないのですよ。「ちょ、何でギーシュを躊躇無く燃やすのよ!ギーシュはサイトじゃないのよ!?」「そうだぞ、俺じゃねーんだから、死んじまうって!? …って、あれ?俺なんだか酷い事言われてね?」たぶん、結構酷い事を言われているのです。「大丈夫、偽物なのですよ…ほら。」燃えたギーシュが居た場所には、黒焦げになった人形が一体。「あら…人形?」ルイズは、その黒焦げになった人形を摘み上げたのでした。「ええ、変身するガーゴイル…アルヴィーの変わり種でスキルニルとかいう奴なのですよ。 血を採取して、その採取した人間と同じ姿に変身します。」「ああ、それでさっき踏み躙った挙句、蒸発させたんですね?」「ええ…。」シエスタの言う通りなのですが、客観的にそう言われると私が酷い事をしているように聞こえますね。「こんばんわルイズ、本を貸して欲しいんだけれども…。」「また裸…。」ドアを開けて入ってきたのは、モンモランシーなのでした…当然マッパの。「すげえ、ぺったん子だ…。」才人?眼を皿のようにして何を見ていやがりますかー?あと、ぺったん子とか、可哀想な事を言わないであげてください…自分の事を棚上げして何ですが。「あんたは見ちゃダメ!」「ごふぁ…。」ルイズのひじ打ちが才人の鳩尾に決まり、才人は力無く崩れ落ちたのでした。「それよりもモンモランシー、何故裸なのですか?」「え?服なら着ているわよ?」やれやれ…いったい何時の間に莫迦には見えない服が開発されたというのですか?スキルニルでは技能は兎に角、人格の再現に於いてはこの程度の自律が限界という事ですか…。「まあ兎に角、貴方は人形に戻りなさい。」そう言うと、ルイズは拳に青い光を纏わせ始めたのでした。「ディスペル!」ただし魔法は拳から出る…ではなくて、何度も言うようですが杖は何処ー!?「きゃぁっ!?」ルイズの拳から放たれたディスペルの魔法を浴びて、偽モンモランシーは人形に戻ったのでした。「これもやっぱりスキルニルだったのね…こんなド田舎来て、何やってんのよあの二人は。」都市だろうが田舎だろうが学院寮だろうが、若い二人の情熱は誰にも止められない…。…まあ、御蔭で区別し易かったですし、ついでに言うと手加減する気も無くなりましたし、結果オーライなのです。「ど、どうしたのかね!?」「何があったの?」慌てて入ってきたのは、間違い無く本物のギーシュとモンモランシーですね。顔赤いですし、薄らと汗かいていますし、何より服が乱れているのです。「頑張れよ、二人とも!」才人は二人の肩をポンポンと叩くと、爽やかに笑って見せたのでした。「い、一体何だね?」「なんで私と目を合わさないのよ?」流石に裸見た女の子と顔を合わすのは気まずいのですね、わかります。「いや、頑張ってんなーと思ってさ。」「だから、何がだね!?」ギーシュは、わけがわからずに首を傾げているのです。「そうよ…あっ…。」モンモランシーは気付きましたね…才人の言っている事の意味に。「わけがわからないよ、ねえモンモランシー?」「私は分かったわ、わかっちゃったわ…ねえギーシュこれ以上の追及はやめましょ?」顔を真っ赤にして、モンモランシーはギーシュにそう言ったのでした。「わかったよ、モンモランシー。 君がそう言うなら、僕が聞く事は何もないさ。」それで良いのですか、ギーシュ…。「…さてと、実力行使に出たという事は、こんな所に固まっていては危ないですね。」ふざけている間に時間切れっぽいですが。「…どうしたの?」真面目な表情になったルイズが、私に聞いてきます。「敵です。 …しかもいっぱい。」外を見ると、人影がいっぱい…魔法は真似できないので全員メイジ殺しか何かを複製したスキルニルなんでしょうが、それにしても用意しましたねー。「人形かよ、斬るのアレ?」「贅沢言うなよ、斬れるだけましと思え。」愚痴るデルフリンガーを、才人が鞘から抜き放ったのでした。「だって人形だぜ? 切っても血がドバーっとか出ないんだぜ?」「黙れ妖刀。」相変わらず物騒ですね、デルフリンガー。「おっし、この前の丘では不覚を取ったから、今回は頑張るわよ!」指を鳴らすと、太くなりますよルイズ?「あんまし無茶すんなよ? お前が死んだら、俺は敵のど真ん中で普通の人に戻っちまうんだからな。」才人はルイズの頭をぽふぽふと撫でているのです。「ちょ、御主人様の頭を気軽に撫でないで!」文句を言いつつも、ルイズは才人の手を払いのけたりはしません…実は結構気に入っていますね、それ。「僕のワルキューレを駆使すれば、盾になるくらい御茶の子さいさいだと言っておこう。 敢えて言うが、攻撃力には期待しないでくれたまえ! ただし、守るべきものは絶対に守って見せると始祖に誓おう!」窓枠に嵌まっていたガラスを窓枠ごと分厚い青銅の塊に錬金しながら、ギーシュは堂々と言ったのでした。「…私も同じくというか、水メイジに攻撃力を期待しないでね? その代わり、今回に限ってはただで治療してあげる。」そう言って、モンモランシーはマントをバサッと広げて見せたのでした。勿論マントの裏には薬瓶がぎっしり…例のモンモランシ家の軍装ですか。「怪我人には水のモンモランシの真髄を見せたげるから、遠慮なく戦って来なさい!」モンモランシーは不敵な笑みを浮かべます。やっぱり、ヒーラーが居ると居ないとでは、安心感が大違いなのですよ。「…そんなわけで、ケティには攻撃を任せるよ。」「…頑張ってね、普通のメイジの星。 とはいっても、才人やルイズの残飯処理になるとは思うけれども。」二人はそう言いながら、私の肩をポンと叩いたのでした。『普通のメイジの星』ですか、トライアングルだって普通の系統メイジに於いては結構強い方なのですが…。「…はぁ、あの二人は規格外ですからね。 まあ、対集団戦なら火メイジの十八番なのです。 集団相手に戦う時に限っては火の系統が最適なのだという事を、外の方々に教育して差し上げましょう。」『強さ』というものは、戦場の状況によってかなり左右されます…才人とルイズみたいに反則級だと、その地形効果をある程度無効化してしまいますが。私みたいな火メイジは基本的に砲兵タイプ(アーティラリー)、きちんと守られて後衛から攻撃できる状況にあってこそ、その真価を発揮できるのです。ですから、才人達が前衛を務め、私達三人が後衛を務めるという状況は私にとってベストと言えます。「そんなわけで、才人とルイズは出入り口に居るのをある程度掃討して場を確保してください。 一発でかいのを食らわしますので、それが済み次第ティファニアと子供達が居る家の安全を確保するために移動します。」「つまり私達は殴りながら進めば良いのね?」ルイズ、なんでそんなに目がキラキラしているのですか?「そうなのですが…才人、ルイズをよろしく。 敵の狙いはルイズの持っている『始祖の祈祷書』ですから、ルイズが突出し過ぎないように注意してあげてください。」「おう、お守りは任された。」 才人はルイズの頭をぽふぽふ撫でながら、苦笑いを浮かべつつ頷いたのでした。「ごろごろごろ…お守りって何よ?」才人に長時間頭をぽふぽふされて気持ちよくなってきたのか、目を細めて喉を鳴らしつつルイズは不思議そうに首を傾げます…猫?「お前、方向転換しないと、何処までもまっすぐ行っちゃうだろ? 俺はお前の舵の役を仰せ付かったというわけ。」「そんな事は…あるけど、うん、サイト任せたわ…ごろごろ。」ルイズは才人に頭をスリスリし始めたのでした…なんだか再開して以来、ルイズの甘えっぷりがレベルアップしたような?つーか、ルイズあやすの上手いですね才人、何時の間にムツゴ○ウさん並みのあやしテクニックを…?「それでは、彼らがドアや窓を突き破って入ってくる前に…行きます!」『応!』まずはルイズがドアに向かって駆け出したのでした。「行くわよ!どっかーん!」ルイズの蹴りはドアを突き破って、ドアの前に居た数人ごと吹き飛ばしたのです。「あんた達にひとこと言っておくわ、近づいて来たらぶっ飛ばすわよ!」ぶっ飛ばした後にルイズは敵を指差して、そう宣言したのでした。「近づいて来なかったら、近づいて行ってぶっ飛ばすんだろ?」続いてドアから出て行った才人が、ルイズにそう話しかけます。「大当たり!」「大当たりなのかよ…敵とは言え、理不尽な奴を相手にするとは不幸な。」才人はツッコミ愚痴りつつ、斬りかかって来た数人を無造作に切り捨てます。「言っておくが、俺はツッコミだけが得意なわけじゃねえぞ!」「ボケも得意だぞ、相棒は!」「そういう意味じゃねえ!」デルフリンガーのボケにツッコミつつ、更に数人を切り捨てる才人なのでした。「取り敢えず、何処の誰だか知らんが責任者出て来い!」才人がそう叫ぶと…。『フフフ、始めまして、みなさ…。』「ファイヤーボム。」数人の黒ローブの女性が纏まって現れたので、問答無用でスキルニル@メイジ殺し集団に撃ち込むつもりで唱えていたファイヤーボムを撃ち込んでみたり。『ひゃあああああぁぁぁぁっ!?』爆風と閃光が響き渡り、数人の黒ローブの女性が纏めて吹っ飛んで倒れたのでした。「ケティの前に、もったいぶって出てくるから…。」「ケティって、そういうお約束と空気無視するからな。 つーか数人用意していても、纏まって出てきたら意味無いだろ。」攻撃してくる敵を撃退しつつ、轢かれた蛙のような格好で地面に倒れる黒ローブの集団を見ながら、ルイズと才人がしみじみと呟いているのです。『ふ、ふふふ…こんな事もあろうかと、数は用意してお…。』「ファイヤーボム。」人形に戻っていった黒ローブ集団の後ろから、更に黒ローブ集団が現れたので、もういっちょファイヤーボム。『うひゃああああああぁぁぁぁっ!?』黒ローブ集団は、またしてもゴミのように吹き飛んだのでした。『話させなさいよっ!?』「ファイヤーボム。」更に出てきたので、更にもういっちょファイヤーボム。『またああああぁぁぁぁぁぁっ!?』だからこの空間で火メイジ相手に数を頼りにすると酷い目に遭うと、何度言えば…。「そ~れファイヤーボム。」『こっちにも来たー!?』予定通りにスキルニル@メイジ殺し集団にも撃ち込みます。『始祖の祈祷書を渡しなさい!』「嫌ですファイヤーボム。」『渡しなさいってばああああああぁぁぁぁっ!?』性懲りも無く現れる黒ローブ集団にも一発放ち、またしても黒ローブ集団は吹き飛びます。「流石はトリステイン魔法学院の断罪の業火…ゴクリ。」ゴクリじゃないのですよ、ギーシュ。「…なんだか可哀想になってきたから、そろそろ話させてあげたら?」モンモランシーも、ちょっと呆れた表情で私を見ているのです。「ふむ…良いでしょう、話してください。 話だけなら聞き流してあげます。」ちなみに聞く気は全然無いのです。『聞き流さないで!?』そんなふざけたやり取りの間にも、黒ローブ集団が後から後からぞろぞろと出現中…レミングか何かですか、こいつらは。『始めまして皆さん、そしてミス・ヴァリエール。 偉大なる虚無の使い手?さん。』何故に虚無の使い手が疑問系なのですか…。「話が長い…そろそろ吹き飛ばしてもいいですか?」『挨拶しかしていないじゃない!? もうちょっと話させてよっ!?』おおう、集団からツッコミが入るというのもなかなか無いのですね。「ああ、わたし知らない人と話すの苦手だから、話すならケティに。」しかもルイズは自分に振られた話を私に受け流したのでした。『ええっ!?いや、虚無の祈祷書を持っている使い手って、貴方でしょう? しかも何で聞き流すって宣言した娘に振るのよ?』色々と予想外だったのか、黒ローブ集団はちょっとあたふたしているのです。「わたしと語り合いたいなら拳でって事になるけれども、それで良いなら。」肉体言語オンリーですか、ルイズ…。『…ケティ殿でいいわ。』集団で一斉にガックリ肩を落とすというのも、なかなか見ない光景なのです。『私は《神の頭脳》ミョズニトニルン。 ミス・ヴァリエールの使い魔《神の左手》ガンダールヴと同じく、虚無の使い魔よ。」ミョズニトニルン集団はそう言うと、一斉にローブのフードを取り払い額をさらして見せたのでした。その額には、古代語で書かれた光るルーンが…。「ブフーッ!?な、何て可哀想な所にルーンが…っ!?」「デコが光って…デコがひか…ってっ!!」箸が転げても可笑しい年頃のルイズとモンモランシーが思い切り噴き出したのでした。「…プッ、こ…これは、これ…は、酷いさらし者なのですね。」視覚的インパクトが酷いのですよ、私も冷静さを維持するのが困難になったのです。「くっ…俺も似たようなもんだから、ブフッ、笑っちゃいけねえのはわかるが、うくくっ、あの位置はねえよ。」才人も必死に笑いを噛み殺しているのです。「れ、レディを笑うわけには、僕の矜持にかけて、笑うわけには…プフッ。」ギーシュも我慢の限界を迎えつつあるのです。「戦場の空気と見た者の腹筋を破壊するとは…なんて恐ろしいルーン。」『このルーンはそんな意味で恐ろしいんじゃないわよっ!? つーか、私だってこんな変な所にルーン刻まれたくなかったわよ!? あんたは良いわよガンダールヴ!左手にルーンなんて、何か格好良いじゃない! 何で額なのよ、いくら神の頭脳だからって、額は無いじゃない!? 額がピカ~ッと光ったら、どう考えたって面白人間でしょ! あの方だって、私が魔道具使うと噴き出すのよ、どうしてくれるのよ!? 何考えてんのよ始祖ブリミルとやらは、うがーっ!』集団で一斉に額を指して涙目で訴えるという光景も、なかなか見られないのです。「助けに来たぞ皆、僕が来たからにはもう安心って…ブフーッ!?何あれ!? あっはっはっはっは!何あの芸人殺し!?そこに立っているだけで面白いんですけど! うひゃひゃひゃひゃ!僕のアイデンティティを脅かしに来たの?ねえそうなの!?」フライで空からやってきたマリコルヌが、いきなり腹を抱えて転げ始めたのでした。「…おお、すっかり存在そのものを忘れて去っていました。」「忘れ去るなよ、僕の時代はまだまだこれからだ! こんな芸人殺しにだって負けるものかよ!芸人じゃないけど!」『芸人殺し言うなー!』ミョズニトニルン集団が、涙目で抗議しています。「兎に角、貴方は可哀想な虚無の使い魔なのですね?」『可哀想なとかつけないで! でもその通りよ。』ミョズニトニルン集団は一斉にこくりと頷いたのでした。「矢張り可哀想なのですね。」『そっちじゃない!虚無の使い魔の方よ!』こんな一糸乱れずに動く集団に一斉にツッコまれる経験なんて、早々出来るものではないのですよ。『ここは包囲したわ、死にたくなければ大人しく虚無の祈祷書を渡しなさい。』「包囲され何かを要求された時の返答は一つなのです…すなわち、《莫迦め》。」返答はこれしかないのです。『何ですって!?』「もう一度言いましょうか? 何度要求されても、返答は《莫迦め》だけなのです。 貴方の要求は通りません、諦めて帰って青い髪のご主人様にそうお伝えください。」始祖の祈祷書を渡す気なんかありませんし、渡す必要性も必然性もありませんから。『なっ!?貴方なんでそれを!?』「ただのカマかけにあっさり引っかからないでくださいよ、それでも《神の頭脳》なのですか? その程度なら《紙の頭脳》で良いのでは?」カマかけなのは思い切り嘘ですが。まあミョズニトニルンはガンダールヴの魔道具版ですから、その本質は魔道具を扱う技術と知識にあって、それ以外の点で知能を上げる効果は多分無いのです。…そう考えると微妙に使いにくい使い魔ですね、ミョズニトニルン。『むむむ…。』「何がむむむですか…では才人、ルイズ、やぁ~っておしまい!」『アラホラサッサ~!』ルイズと才人は攻撃を再開したのでした。「それ行くわよ、どっかーん!」ルイズが拳を振るうと、一気に数十人が吹っ飛んで元の人形に変わっていきます。「素手でアレかよ、相変わらず出鱈目染みた破壊力だなオイ。」「俺は、その出鱈目染みた破壊力で折檻されても死なない相棒の方が出鱈目だと思うんだが。」才人の剣が振るわれるたびに、矢張り十数人が引き千切れながら飛んで行っては人形に戻っていきます。「こっちににも来た!? ギーシュ!きっちり守りなさいよ!」「勿論だとも、僕の可憐な蝶モンモランシー。 来たまえ、僕のワルキューレ達よ!」ギーシュのバラの造花から花びらが落ち、それがワルキューレ?に変わったのでした。「いつもと形が違いますね? …足のついた盾?」「守りに徹すると言ったろう? いつものワルキューレは中が空洞で、衝撃にあまり強くないからね。 今回のは空洞を無くして盾状にして、防御力を上げたのさ。 おかげで攻撃は出来ないけれども、防御力ならバッチリだよ。」そう言って、ギーシュは私にウインクして見せたのでした。「機能を限定して、防御に特化させたのですか…考えましたね。」「戦場で矢玉を避ける時に使った手さ。 見た目は不恰好だけれども、使えるんだ。」つまり、戦場で命がけで学習した賜物ですか。「魔力を上げる薬があるけど、飲む?」モンモランシーが私に薬瓶を差し出してきたのでした。「副作用は?」「いきなりそっちから聞くか…効いている間は気が荒くなる上に、効果が切れたら発情するわ。」何なのですか、そのバーサークエロゲ薬は。「…いざって時に使いましょう。 私の気が荒くなったら、統制をとるのが困難になります。 あと、発情するのは嫌なのです。」「そう言われればそうね…実験できるかと思ったのに。」ボソッと呟いて、モンモランシーは薬をマントの下に引っ込めたのでした…キコエテマスヨー。「まあ取り敢えず…ファイヤーボム!」『また来たー!?』炎の弾が大爆発して、数十人を一気に薙ぎ払ったのでした。スターリン曰く、《砲兵は戦場の神である》なのですよ。「矢が飛んできた!?」「僕に任せろ、ウインド・シールド!」遠くから山なりに飛んできた矢を、風の盾が弾き飛ばしたのでした。「マリコルヌ!?」「そういえば居たわねマリコルヌ!?」「ただの賑やかしだと思っていたのに!?」私達が驚愕の視線を向けると…。「酷過ぎるぞお前ら!?」涙目で抗議するマリコルヌが居たのでした。「これで火水風土の全部の系統が揃ったってのに!」「おお、そういえば風でしたね、マリコルヌ。」それすらもすっかりと忘れ去っていたのです。「憶えておいてくれよ、そんな記憶力で大丈夫か!?」「大丈夫です、問題ありません。」なんだかこう言うと、そこはかとなく駄目なような感じがしますが…。「兎に角、どんどんブッ放してくれたまえケティ。 僕ら4人合わせても、虚無とその使い魔には全然及ばないのがアレだが。」「わかりました…ファイヤーボム!」私の放つファイヤーボムが、敵のど真ん中で炸裂したのでした。「ひぅ!?」その時、背後からおっぱいエルフの鳴き声が聞こえたのでした。「ひぅ、な、何、なんなのこれ?」「ああティファニア、パーティーへようこそ。 ファイヤーボム。」『わひゃあああああぁぁぁぁっ!?』豪快に吹っ飛んで人形に戻っていくスキルニル達を尻目に、ティファニアに挨拶したのでした。「ここにはどうやって?」「私のお姉さんみたいな人が居るんだけれども、その人が非常時の為に村の建物全部に秘密の脱出路を掘ってくれているのよ。 この家が囲まれていたから、その道を通ってきたの。 家の中に居たシエスタも、その脱出路を使って逃がしたわ。」流石はフーケというか、そのあたり抜かりないのですね。シエスタも脱出してくれたのであれば、後顧の憂いもありません。「それにしても、一体何があったの?」「ルイズが持っている『始祖の祈祷書』を狙っている人が居まして。 その人の使い魔がスキルニルという人の姿に変身するマジックアイテムを使って人海戦術を取ってきたのですよ。」だいぶ数が減ってきたので、そろそろ打ち止めなのでしょうが。「そろそろこの辺で一旦痛みわけにしませんかと、貴方の主にお伝え願えませんか? そろそろフッ飛ばすのもめんど…もとい、魔力が尽きてきそうなので。」実際、そろそろこっちも打ち止めっぽいのは確かなのですが、本音とハッタリをひっくり返して話しかけてみます。ミョズニトニルンの背後にいる人に。『そんな滅茶苦茶余裕そうな顔で言われても信用できな…え?あ、はい、サーセン、ええもう本気出せばあいつらなんてイチコロなんです、チョチョイのチョイなんですが! え!?いえ、あの、あ、はい、はい、はい、わかりました。 そんなわけで帰るわ、じゃあね!』『何がそんなわけなの!?』そんな電話の向こうの人とのやり取り見たいのを聞かされても、何がなんだかさっぱりなのですよ。「光るデコといい、気が抜ける奴だったわね…。」「…まあ、何と言いますか。 これで打ち止めという事でしょう。」ルイズ達がブッ飛ばしているスキルニル達を見つつ、私もファイヤーボムを放ち、残敵を掃討して行ったのでした。翌朝、私達は後片付けの真っ最中なのです。何せルイズが家のドアを蹴破ってしまいましたし、私もファイヤーボムであちこち地面を抉ってしまったので、それを修復しないと村が元に戻りません。「…ケティって、貴族なのに大工仕事するのな。」ドアを作るために私が鋸でギコギコと木材を切っていると、才人が不思議そうに声をかけてきたのでした。「領主と言えど何でもやるのが実家の慣わしでしたし、家事も大工仕事もそこそここなせるように教育されているのです。 家を作る時は領主も領民も集まって、山の女王にもお願いして蜂を数匹貸してもらって総出で仕事ですからね。 領主一族のメンツにかけて、出来ない事があってはいけないのですよ。」「ところで、ブレイドは使わないのか?」それを使いたいのは山々なのではありますが…。「…実は、昨日の戦いで魔力が殆ど空なのです。 数日で戻りますが、今は出来れば魔法は使いたくありません。」おかげで頭が少しフラフラしますが、肉体労働なら何とかいけます。非力なのでブレイドを使うときと違って、なかなか鋸が進みませんが。「貸してみ? たぶん鋸ならガンダールヴのルーンも反応するから。」鋸が武器って、なんだかホラー映画染みた光景しか想起できないのですが…。「お…やっぱ反応した。 これならいけるな。」そう言って、才人は鋸で木材を切り始めたのでした。「うおおおおおおおおおおおぉぉぉっ!」ガンダールヴの力を借りた勢いで、あっという間に木材が切断されていきます。「凄い、電動鋸のようですね、才人。」「へへっ、ルーンの力だけどさ、こんな事にも一応使えるんだぜ。 ほい、これで良いんだな?」才人ははにかんだような笑顔で切断された木材を手にとって、私に渡したのでした。「あー…才人、実はもう少しあるのですが、お願いできますか? どういう寸法で切るかは指示しますので。」「オッケー、力仕事なら任せとけ!」そんな感じに私達が木材を切っていると、ティファニアが現れたのでした。「御免ね、お客様なのに手伝わせちゃって。」「いえいえ、客の分際で村を破壊してしまったのは我々の責任ですから、我々の手である程度の原状回復をするのは当然なのですよ。」すまなそうに私に言うティファニアに、私も笑顔で返します。うーん、なんという可憐さ…俗世に塗れた私には、もう無理な感じの清楚さなのですよ…うぅ。「でも、貴族の方々にこんな事をして頂けるだなんて…。」「それを言うなら、貴方は王族ですよテファ? 遠慮する事など無いのです。」ちなみにギーシュも魔法で抉れた地面を直している最中ですし、モンモランシーとシエスタは料理を作っていますし、マリコルヌは子供達に遊ばれています。迷惑をかけたら、それが平民だろうときちんと返さないと家門の名誉に関わる話ですし…貧乏貴族にとって、領民からの評判は最後の財産なのです。ちなみにルイズは、昨日蹴り倒した木を木材にする為にこちらに引きずってきている最中なのです…流石にルイズでも丸太は持てませんよね。テファが両肩に丸太を抱えて歩いていたのは幻ですよね…そうだと言ってよバーニィ。「でも、王族って言われても実感が無いわ、私はエルフとの混ざりものだし。」「普通の人間はエルフを怖がって居ますし、普通のエルフは人間を心底馬鹿にしていますからね。 …とは言え、貴方はこんな所に何時までも居て良い人物でもありません。 本国に帰り次第姫様に報告し、速急に対処させて頂きます。」ティファニアみたいな娘が、これから荒れに荒れるアルビオンに長い間居るべきではありません。子供達ともども、こちらできちんと速急に対処しましょう。「御飯が出来たわよー!」遠くでモンモランシーが呼んでいます。水メイジは基本的に料理が上手なので、シエスタだけではなくモンモランシーの料理の腕もかなり良い筈なのです。二人で山菜や野兎なども取ってきたみたいですし。「ああ、御飯が楽しみなのです。」朝から何も食べていなくて、お腹がぺこぺこなのですよ、早く行きましょう。