魔法陣の前で私は集中しています。使い魔を、私の使い魔を召喚する為に。「我が名はケティ! 五つの力を司るペンタゴン。 我の運命に従いし使い魔を召喚せよ!」 光る鏡のようなゲートが現れ、その中からにゅっと顔を出したのは…。「やあ!ぼくミ…。」「引っ込めこの腐れ鼠いいぃィィィィィィッ!」名状し難き鼠を召喚の門の向こうに強引に押し返したのでした。「何をするんだい?ぼくはミ…。」「出て来ないでー! つか、その先を言ったらアウトおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!」名状し難き鼠が、またもや召喚の門の向こうから顔を出しやがったので、もう一度押し返します。「グワ、グワワワ、ギャワワ!」「家鴨でも駄目ですうううぅぅぅぅぅっ!」今度は名状し難き家鴨ですかっ!「ぜえ…ぜえ…全くもう、何という世界から来るのですか。」著作権的にアレなので、絶対にこの門は潜らせま…。「ひぃっ!?あ、足が、足が掴まれた!?」私は徐々に召喚の門に引き摺り込まれて行きます。「ぼくたちと遊ぼうよ!」「結構です!」夢と愛と宇宙的神秘の国に引き摺り込まれたら、私は消滅してしまうかもしれません。「結構って事は了承してくれたんだね!わーい!」「何処の悪徳電話セールス業者ですか、この裏声鼠!」もう体の半分まで引き摺り込まれてしまいました。皆さん、さよなら、さよなら、さよなら…。「ひゃああああああああぁぁぁぁぁっ!?」がばっと起き上がった場所はいつものベッド。「ゆ…夢でしたか、とんでもないものを召喚してしまったのかと思ったのです。 …さて、気付けにワインで…も…。」テーブルの上にはこの世界には存在する筈の無い、名状し難き鼠の縫い包みが…。「いやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」私の意識は、もう一度暗転したのでした。どんどはれ。「くくくくく…私だって、お菓子作ろうと思えば作れるのですよ。」ブリオッシュを焼き、それにキルシュヴァッサーを使った甘ったるいシロップを染み込ませ、それを割ってこれまた甘ったるい果物の砂糖漬けをブチ込み、トドメに生クリームでトッピングするという、この世の全ての甘味を体現したかのような甘味の爆弾…。先日うどんを作った事で、私に《御菓子作れない、性格が黒いだけじゃなくて味覚も辛い女》という疑惑が水精霊騎士団の間に蔓延しているらしく、その解消の為に一肌脱いでいる最中なのですよ。「甘いものが大好きってわけではないので、あまり食べる気が起きない時点で語るに落ちていますがね!」まさに外道、狂気の甘味。そのまさに《甘味》な匂いだけで甘いものが駄目な人は頭痛がしてくるという、恐怖の物体が今まさに顕現…ま、ぶっちゃけババっていうお菓子なのですが。「もぐ…もぐ。」「…って、あれ?タバサ?」何時の間にか、タバサが一切れつまみ食いをしているのでした。「味見。」「いや、何でタバサがここに居るのかと…まあいいか、それで味はどうでしょうか?」食べ物ある所にタバサありと言うか、任務でこっそり見張っているけどついつい食べ物の匂いに釣られて現れるって事でしょうかね?「美味。」私が作ったものを食べたタバサの評価で、今まで《美味》以外の評価が出た事が無いのですが。ひょっとして…何食べても《美味》って評価が返ってくるんじゃあ?いやまあ、何食べても美味しいというのは、ある意味幸福な事ではありますが。「さて…では早速これを騎士団の皆の所に持っていくとしましょうか。」「あ…。」「普段口数少ないくせに、きつい事言うから…現段階で騎士ごっこなのは、環境的にどうにもならないのですよ。 タバサみたいな鍛え方をしていたら、死人だらけになってしまいます。」タバサは教導官待遇で勧誘に来たギーシュ達に水精霊騎士団を《騎士ごっこ》と一言の元に切り捨てちゃったので、水精霊騎士団の集会所には行けないのですよね。「言い過ぎた。」一言で言い過ぎるのが、タバサクオリティ。簡潔に物事を語るので、きつい事を言った時の威力が絶大なのですよね。「いや、あれで浮かれ気分は大分引き締まりましたし、結果オーライです。 言い過ぎたと思うなら、罰としてもう少しの間だけ憎まれ役を続けてください。」「ん、わかった。」前にタバサにどうやってシュヴァリエになったのか聞いたら、森に身一つで放り出されてドラゴン倒したのだとか。何処のレオニダス王だよって状況ですが、某映画に於けるスパルタの成人の儀式と違うのは、死ぬ事が前提だったって事ですか。ううむ、あのデコ姫を見た時には、憎しみとは違う感情を感じたのですが…。「ヒャッハー!お菓子を寄越せぇ!」「アイシクル・ブリッド。」「ぎにゃあああああああぁぁぁぁっ!?」ドアを唐突に開けて入って来たマリコルヌに、タバサの放った氷の礫が直撃したのでした。「渡さない。」「フフフフフ、ょぅι゛ょから御仕置ですヨ。 何というご褒美、何という恍惚。」ゆがみねえなマリコルヌ…なのです。「ょぅι゛ょじゃない。」自分が小柄な事はあまり気にしていないものの、流石にょぅι゛ょ呼ばわりされるのは腹が立ったのか、タバサがマリコルヌを踏んづけたのですが…。「オゥフ!もっと、もっとその小さい御足で踏んで下さい!」「…………………。」ああもう、どうしてくれようか、この変態。ちなみにタバサは今までにない反応だったせいか、ちょっと涙目になっています。「タバサ、その手のは踏んづけても喜ぶだけなのですよ。 放っておくのが一番なのです…放っておいたらおいたで喜ぶのがアレですが。」「ん…。」しかしまあ、手の施しようのないパーフェクト変態ですね…。「…で、何しに来たのですかマリコルヌ?」「ギーシュにそろそろ幹部会合を始めるからって頼まれて、ケティを呼びに来たんだけど…。」…来たんだけど?「僕の大好きなババの匂いがしたからつい…。」「つい強奪に来るのですか、貴方は?」ついやっちゃうんだって、何処のドナノレドですか、貴方は?グランドプレ家は代々ちょっぴり変態臭い性癖を持ちながらも、優秀な軍人を輩出してきた家な筈なのですが。今代は優秀な変態が生まれてしまいましたか…。「いや、ケーキ貰うなら、まず笑いをとるべきかなぁと思って。」「死になさい、今すぐ。」何処の芸人ですか、貴方は。「有難うございます! …で、もう来るのかい?」「ええ、丁度出来た所だったので、タバサの分を切り分けたらすぐに向かいます。」タバサがあの程度のつまみ食いで満足出来る筈が無いので、きちんと一人前切り分けておきましょう。「ありがとう。」「いえいえどういたしまして…ん?」タバサの分を切り分けていると、ノックの音が。「入って良いですよ。」「はい、失礼しますラ・ロッタ副団長補佐代理心得。」入ってきたのは、レイナールなのでした。「ラ・ヴァリエール副団長が、《甘いもの作れないのは良くわかったから、早く来なさい》と…おお、出来ている!?」「あのピンクワカメ、人の事をいったい何だと…コルナス書記、今ひょっとしてびっくりしませんでしたか?」流石にあんまりにも期待されていないと拗ねますよ?「いいえ、滅相も無い。 やはりラ・ロッタ副団長補佐代理心得は、女の子らしくお菓子も作れるのだなぁと感心しておりました。」「…見え透いたおべっかも、心がささくれ立っている時とかには良いものなのですね。 ありがとうコルナス書記、あと私の事はケティで良いですよ。 貴方は私の上級生なわけですし、そんなに畏まらなくても良いです。 何より長ったらしくて呼び難いでしょう、私の肩書き。」冗談で肩書きを長くしたのは、失敗だったかもしれません。殆ど早口言葉みたいなので、実は噛む人続出なのですよね。「いえ、騎士団に居る時は貴方は私の上役ですから、礼を失します。」「むむむ、堅物ですね…でもまあ、そういうのは嫌いじゃありませんよ、コルナス書記。」まあ、本人が良いなら構いません。無理してまで名前を呼んで貰う必要もありませんしね。「何がむむむだ。」「何がむむむだの前に、何時まで寝転がっているつもりですかマリコルヌ?」寝転がったまま、人のスカートの中を覗き込んでいる変態の顔面を取り敢えず踏み潰して起きましょうか。「ひぎぃ!?有難うございます!」「……………。」何やってもポジティブに受け止められるなら、こっちはこっちで適当にやらせてもらいましょう…そう思っておかないと、SAN値が下がりそうですし。「自分の事はレイナールで構いません。 グラモン団長達にも名前で呼ばれていますし。」そしてこっちはマリコルヌの奇行に欠片も揺るがない男、レイナール。「そうですか…ではレイナールお兄ちゃんと。」こういう真面目な人は弄ると面白いのですよねー。「お兄ちゃんは結構です。 レイナールとだけお呼び下さい。」「あ?え?はい、わかりましたレイナール。」ひょっとしてレイナールって、真面目過ぎてボケが通じないという、あの伝説のボケ殺しですか!?堅物です、堅物過ぎる…これは才人達にも話して、よってたかって崩さねば…うけけけけけ。「…という事があったのですよ。」「成る程ねー…もふ。 普通に美味しいのが腹立つわ。」ババを食べつつ、ルイズが私をジロリと睨んだのでした。「レイナールをどう弄るかは取り敢えず置いといて…今度のアルビオン戦勝パレードの事なのだけれども。」そう言いながら、ルイズはカバンから書類を取り出したのでした。アルビオンとの戦いには何だかんだ言って勝ったので、景気づけにパレードをやろうという事になったのですよね。…正直な話、国庫の余裕はあまりありませんが、政治は1にも2にもパフォーマンスが大事。臣民への周知徹底の為にも、軍の士気高揚にも、負けたという情報のままでは困るのです。「ギーシュ、なにこの戯けた落書き。」「あっはっはっはっは、戯けた落書きとは手厳しいな。 いや、僕なりに考えて企画してみたんだが、どうかね?」ルイズはいつもよりも仏頂面なのですが、ギーシュには空気を読みとる能力は無いので、ケロリとした顔でそう答えたのでした。「華麗にとか、優雅にとか、誇りに満ちたとか、抽象的な事しか書いていないじゃない。 もっとずばばばばばーんとした事書けないわけ?」ルイズが怒っていますが、お前が言うなー。「ず、ズババーン?」「そう、ずばばばばばーん!こう格好良い服でギュンギュギュンって感じで!」ルイズってば、二人で一人の変身ヒーローみたいなのですね。「サイト、ルイズはつまり…何を言っているのかね?」ギーシュは才人にルイズが何を言っているのかを訊ねたのでした…まあ、何を言っているのかわかりませんよね。「ケティ、ルイズは何を言っ…あっしまぁ!?」「やると思ったわぁぁぁっ! ええい、ご主人様の意図くらい察しなさいよ、バカ犬!」ギーシュの質問を私に受け流そうとした才人が、すかさずルイズにぶっ飛ばされたのでした。「そんな擬音だらけでわかるわけがねえだろ…がく。」「そんなわけでケティ、私の意図をカカッと説明しちゃってっ!」「説明するの私ですかぃ!?」結局、私の出番なのですか、そうですか。「はぁ…つまりルイズは、騎士団の制服を作って格好よく練り歩きたいと言っているのでしょう?」「良くわかるなケティ。」取り敢えず、ルイズの言っていた擬音以外の言葉から推察してみたり。「うんうん、あとは皆でズバババババーンって、やるの。 親衛隊の行進みたいに。」皆で…皆で…そして親衛隊…お、ティンと来ました。「一糸乱れぬ行進ってやつをやりたいのですね。 …でもアレ、単純なようで意外と時間と手間ががかかりますよ?」何処から来た召喚者から取り入れたのか知りませんが、トリステイン軍の行進は北朝鮮とか旧東側の軍隊行進で取り入れられているグース・ステップなのですよね。アレ、威圧感があって格好良いのですが、綺麗に見せるには結構訓練に時間がかかる代物なのですよ。ついでに言うと、行進曲はあちらの日本で運動会の時にかかるものばかり…発案者は何を考えていたのでしょう?「でも、水精霊騎士団の初御披露目なのよ。 ケティもいつも言っているでしょ、何をするにもまずハッタリが必要だって。」ぬぅ…確かに。「確かに規律正しく一糸乱れぬ行進を行えば、水精霊騎士団は結成間もないのに良く纏まった騎士団であるとハッタリを効かせられますけれども…。 騎士団がある程度纏まってから、改めて御披露目パレードでもやらせようと思っていたのですが。 …まだろくに訓練もしていませんし、現状欠片でも纏まっているかと言われれば正直な話『無いわ』の一言なのですよ?」「ええ、でも姫様はこの時期にパレードを計画して居るの…という事は、姫様はパレードまでに水精霊騎士団を部隊としては兎に角、集団としては纏めろと言っているんじゃないかしら?」成る程、確かにそういう考え方は出来ますね。姫様がそう思っていると騎士団のメンバーに思い込ませる事が出来れば、ある程度は纏まりますか。「ふむぅ…確かにそれならいけるかも? 水精霊騎士団も、一応は近衛に属しますし…技術指導員として、親衛隊から誰かを派遣してもらうよう姫様に要請しますか?」「うーん、姫様にそんな事を頼むのは気が引けるわね。 いちおう、身内に伝手がある事にはあるんだけど…。」ルイズ、ひょっとしてとんでもない人を呼ぼうとしていませんか?「伝手って、親衛隊にかね?」「うん。」不思議そうに訊ね返すギーシュに、ルイズがコクリと頷きます。「私のお母様。」「…ルイズのって、あのクルクル回ってたおばさんか?」くるくる?あの烈風カリンがクルクルって、いったい私が居ない場所で何が?「サイト、人の母親をいつも回転し続けているかのように言わないで。 でもまあそうよ、お母様はまたの名を烈風カリンっていうの。」「な、なんだってぇ~っ!?」ギーシュが仰天して飛び上がったのでした。「…って、おろ?びっくりしたのは僕だけかね? 皆…ひょっとして知っているのかい?」そして、周囲の反応が薄いのに気づいてきょろきょろしているのです。「いや、俺は烈風カリンと言われても驚けるだけの知識が無いし、ルイズはカーチャンの事だし、ケティに至ってはいつもの如く知ってんだろ。」「その通りですが、いつもの如くとか言うな~。」取り敢えず、抗議しておかねば。何でも知っていると思われて、肝心な情報とかが入って来なくなったら、色々とまずいですし。「ちなみに烈風カリンというのはだね、我が国きっての大英雄にして始祖の再来とまで言われた、トリステイン史上最強の風メイジなのだよ。 数万のゲルマニア軍を数百の部隊で殲滅し、戦場に現れただけで敵軍が震え浮き足立ち勝手に壊走を始めたとか言う逸話まで持つ…言わば戦神みたいな人さ。」「無茶苦茶だなオイ!何処の戦闘民族だよルイズのカーチャン。 それにしても、母娘揃ってとんでもない生き物なのな、ルイズん家…。」何者だって目でルイズを見る才人ですが、お前が言うなと今才人以外のメンバーは心の中でツッ込んでいる筈。「一人で四万蹴散らしたサイトに言われたか無いわよ。」「いや、俺のはガンダールヴの力があってこそだし。 アレを俺の力だけで成し遂げるのは、はっきり言って無理だから。」才人って、意外と自分の事を冷めた目で見ていますよね。ネガティブ思考が、丁度良い具合に働いているという事でしょうか?「しかし、烈風カリンがわざわざ来てくれるのかね?」「あれね、トリステイン式行進って言われているでしょ? 実は最初に始めたのが、お母様の部隊なのよ。 それが格好良いからって親衛隊…当時の魔法衛士隊に全体に広まって、最終的にトリステイン国軍の制式行進方式になったものなの。」何ですと…?あれ、烈風カリンが発案者だったのですか?「へえ、烈風カリンが発案したものなのかね。」「ううん、お母様はマリアっていうゲルマニア人に教えて貰ったって言っていたわ。」マリア…一体何者ですか、そのゲルマニア人。ううむ…東ドイツあたりから召喚された人でしょうか?いやそれだとメイジなのが変ですし…相当昔の話らしいですが、少し調べさせてみますか…って、何で才人とルイズは私をチラ見しているのでしょうか?「話が脱線したわね…まあつまり、お母様はトリステイン式行進の第一人者だって事。 お母様にお願いすれば、パレードが始まるまでには水精霊騎士団の行進はモノになっている筈よ…お母様途轍もなく厳しいし。」そう言うと、ルイズはガタガタ震え始めたのでした。「ど、どうしたんだルイズ? 顔が真っ青だぞ、大丈夫か?」「だだだだだ大丈夫よ、問題無いわ。 自分で提案しておいて、心の底から後悔しているとか、そんな事は無いわよ。」どう見ても、心の底から後悔しているように見えるのですが。「どう考えても大丈夫じゃねーぞ。」「大丈夫ったら大丈夫なの! 兎に角、この件は私から直接お母様に手紙を送っておくことにするわ。」顔を真っ青にしながら、ルイズはそう言ったのでした。だ、大丈夫なのでしょうか?んでもって2日後、私達は学院に一隻の軍艦を出迎える事になったのでした。「うわー、何でお母様あんなに気合入っているのかしら?」「あれがヴァリエール私設艦隊ですか…。」当家のような特殊な事情でもない限り、大抵の上級貴族は自前の私設部隊を持ちますが、ヴァリエール家が持っているのは『私設軍』なのですよね。中でもヴァリエール空軍旗艦アルテベルはやや旧式ながら大型戦列艦であり、他にエウレカ、ベルジカという戦列艦、シュテルン、ヴァルケ、エクスター、クワチュール、バルララというフリゲートをも保持しており、アルテベル以外は学院上空に停泊中だったりします。「しかし何だって、ヴァリエール私設艦隊が全て来ているんだい?」マリコルヌが首を傾げています。ヴァリエール私設軍の動員兵力は2万強、ぶっちゃけクルデンホルフとガチで戦争しても普通に勝てるという、準国家とも言える大貴族なのです。加えて財政状況は極めて潤沢らしく、アルビオンとの戦争を拒否した代わりに莫大な額の戦争税を支払ったにも拘らずケロリとしています。姫様なんか、ポンと払われた戦争税の額を見て『私もヴァリエール家に生まれたかったわ…』とか、ボソッと漏らしたほどなのですよ。「軍艦が学院の港湾施設を使用するところなんて、始めて見たわよ…。」あまりの無茶苦茶っぷりに呆然とした表情で、モンモランシーが呻く様に言ったのでした。「さ、流石はヴァリエール家、僕らみたいなただの名門には出来ない事をやってのける…。」ギーシュもポカーンと口を開けて呆気に取られています。「広い広いとは思っていたんだが、モンモン達が呆然とする貴族ってどんだけだよ。」「おっかしいわね?うちは基本的に、こういう目立つ事はしないのがモットーなんだけど。」ルイズは流石に慣れているのか、驚くベクトルが他の人とはズレています。「軍事バレードの後は観艦式もやりますからね。 艦は一隻でも多い方が良いですから、艦隊丸ごと姫様が借りたのでしょう。」「お母様は丁度タイミング良くそれに便乗できたというわけね。 成る程、それなら納得ね…てっきり、魔法が使えないのを学院でおちょくられていたのがバレたのかと思ったわ。」ルイズは納得がいったという風にうんうんと頷いたのでした。「いやいや、子供がおちょくられているのにキレて艦隊派遣するとか、どんな親ですか。」随分ダイナミックなモンスター・ペアレントですね、それは。しばらくすると、港になっている塔から、メイジがぞろぞろと降りて来たのでした。「わお、あの紋章は…突風騎士団(ラファール)も連れて来たのですか。」ヴァリエール私設軍の地上部隊における最精鋭突風騎士団(ラファール)。ツェルプストー辺境伯家との軍事衝突に於いては、ツェルプストー最精鋭の烈火騎士団(ローエン)と何度も熾烈な戦いを繰り返しているのだとか。「うわぁ…お母様本気過ぎる。 そこまでしなくても良かったのに。」私の隣では、ルイズがドン引きしています。「どういう事ですか?」「つまりお母様は、突風騎士団(ラファール)と一緒にパレードの訓練をしろって言っているのよ。」成る程…一人に教えて貰うよりも、ノウハウを知っている集団に寄ってたかって教えて貰った方が効率は良いですか。「きをつけぃ(アテンション)!整列! ヴァリエール公爵夫人のおなぁりぃ!」塔から降りて来た30人程の突風騎士団(ラファール)の団員達が、素早く一糸乱れず整列し直立不動になったのでした。「聞いてはいましたが、物凄い錬度なのですね。 流石は南トリステインの盟主ヴァリエール公爵家。」「ええと…うちって、そんな凄い家だったの? このくらい普通だと思っていたのだけれども。」ルイズは私の言葉を聞いて、目を白黒させています。「ルイズの家がトリステイン貴族の普通だったら、トリステインは今頃ハルケギニアの覇者なのですよ。」「へえ、そうなの?」「そうです。」ああもう…ルイズには、自分の家の事をいっぺん理解させる必要がありそうですね。「ああマリー!やっぱりマリーだわ!」「ぬをっ!」いきなり私は何故か女性に抱きつかれたのでした。「ふわぁ、お母様本当にケティの事知っていたのね。」「久しぶりね、会いたかったわマリー!」ルイズが老けたらこんな感じになるのだろうなという容貌の美熟女…この人が烈風カリンですか。それにしてもマリーって、私のお母様の名前なのですが…ひょっとしてお母様の知り合いなのでしょうか?「マリー・テレーズは私の母なのです!」「あら…ちょっと幼い?」私を腕の中から解放したその女性は、しげしげと私の顔を眺めます。「いや、母親似ではありますが、そんなに老けていませんよ、私は。」「いいえ、その喋り方はまさしくマリーだわ。 確かに貴方はマリア・アントニア・フォン・エステルライヒよ。 ああそうそう、サンジェルマン婦人伯爵を名乗っていた事もあったわね。」何なのですか、その『パンが無いならブリオッシュを食べれば良いじゃない?』で断頭台(ギロチン)逝きな名前と、不老不死っぽい名前は。「ええと、どういう事なのですか?」「あらまあ、このマリーはまだ時の迷子にはなっていないのね。」時の迷子というのは、要するにタイムスリップした人の事。何せ魔法上等な世界なので、そういう不思議事件が時々起きるのがこのハルケギニアなのですが…転生した上にタイムスリップとか、ジェットコースターですか私の人生。「お母様に聞いた話では、何でもケティはこの先、時の迷子になって私達くらいの年齢だったお母様達と冒険する事になるらしいわよ?」してやったりという表情で、ルイズがニヤリと笑ったのでした。「マジデスカ?」「マジマジ、俺も聞いた。」才人もゆっくりと頷いています。タイムスリップですか、そうですか。しかし、母親の名前がマリー・テレーズで子沢山の家の末娘だからってマリア・アントニアとか、悪乗りし過ぎなのですよループの最初の私。しかもエステルライヒって、神聖ローマ帝国の皇族ですか私は。「ふむ…それでは、お初にお目にかかりますカリーヌ・デジレ・ド・マイヤール・ド・ラ・ヴァリエール公爵夫人。 ケティ・ド・ラ・ロッタと申します。 この度は水精霊騎士団の指導の為に来ていただき、有り難うございます。」「マリーの顔と声で言われると、違和感が酷いわ…。」…いやカリーヌさん、そんな微妙な表情をされても。こっちは完全に初対面なのに、どないせえというのですか。「そもそも親衛隊の行進を発案したり、行進曲を音楽家に作らせたのって貴方じゃない。 会いたかったから来たけれども、貴方が教えればいいのに。」「…何やっているのですか、過去に行った未来の私。」この前ルイズが言っていたマリアって、未来の私の事ですかぃ!私のあずかり知らぬところで一体何をやっているのですか私は!?「あー…この時点では、まだ思いついていないので、教えるのは無理なのです。」未来の私が過去に行った時にグース・ステップなんかを親衛隊の行進に取り込んだせいで、パレードを行う際のハードルが滅茶苦茶上がったわけで…。あう…因果が時間軸を遡る自業自得とか、軽く眩暈がして来たのです。「あらそうなの…でも、これってあの時しごかれた借りを返す良いチャンスだわね。」うわぁ…こういう美人がニヤリと笑うと、迫力がとんでもないのですね。「ルイズ、騎士団を集めなさい。 早速指導を開始するわ、フフフ。」「はははい、お母様!」妙なオーラを放ち始めたカリーヌさんに、ルイズが直立不動で敬礼しながら答えたのでした…まさかとは思いますが、あの敬礼も私が原因だったりしないでしょうね。過去に戻った未来の自分が、調子に乗ってドンだけこの世界を引っ掻き回しているのか、正直な話知りたくないのですよ…。「1!(アン)2!(ドゥ)1!(アン)2!(ドゥ)このリズムを忘れないように、足を曲げず、背筋をまっすぐ伸ばして歩きなさい!」『ウィ、マダム!』凄まじい威圧感を放つ伝説の英雄から指示され、水精霊騎士団は機械の部品になったつもりでひたすらギクシャクと動き続けます。突風騎士団も各々私達の背筋や足の伸ばし方などを細かく調整してくれているのです。「しかしこれは…時間がくるりと一回転して閉じているような?」たぶん未来の私は、今日教わったこのグース・ステップを思い出して、過去のカリーヌさん達に教えるのでしょう。私が時の迷子になったせいで、因果が私を起点と終点としてループし閉じている…妙な事になっています。これ、量子力学的に大丈夫なのでしょうかね?それとも、私程度のストレスならば、時空はどうとでもしてしまうという事でしょうか?しかし、こんな魔法溢れるファンタジー世界で、私は何でSFチックな考察を行っているのでしょう。「そこ!独り言を呟かない!」「ウィ、マダム!」おこらりたのです。考え事をする時に独り言を呟くこの癖、やっぱりどうにかしないと…。数時間後、私達はやっとこさ訓練から解放されたのでした。んでもって現在、学生食堂で御飯を待っている最中なのです。「…矢張り一筋縄ではいきませんね。」体が、体ががが…。「毎日これを繰り返すかと思うと気が滅入るわ…。」ルイズは体の方は大丈夫みたいですが、精神的に疲弊しているようなのです。「全員の挙動を完全に合わせるってのは、思った以上に神経を擦り減らすものなんだな。」才人は言葉ほど消耗はしていません…まあ、日本の学校でその辺り鍛えられていますからね。「しかし、モンモランシーに惚れなおして貰う為には、是非ともこれを成功させねば。」そもそも、団員募集にかこつけて女の子達に話しかけたりするからフラれるのですよ、ギーシュ…。「リア充はもげて爆発しろ。」黙れ変態。「僕だけ4文字かよ!? 名前くらい呼んでくれよ、マリコルヌだよ!」「人の心の声を勝手に読まないでくださいっ!?」何でもありですね、この変態は。「マリコルヌの事は取り敢えず無視しておいて…わたしとケティは出られないのに、何で一緒に訓練しているのかしら…?」そう、この国では女性の軍人は基本的に不可。私とルイズは『女王付侍女』の肩書が優先されるので、姫様と一緒にパレード見物する事になっているのです。「ああそれは簡単ですよ。 例えばルイズがひ―ひ―言いながら訓練しているのを、才人がガレット頬張りながら眺めていたらどう思います?」「腹立つから、取り敢えず息が止まるまで殴るわ。」…即答ですかい。「ガレット食ってただけで殺されんの俺!? お前には情けとか、そういうモンは無いのか!?」そんなルイズに才人が涙目でツッコミを入れたのでした。「だ、だって…腹立つんだもん。 だから、思わず息が止まるまで殴っちゃうんだもん、しょうがないじゃない。」「しょうがなくねえよ! つか頬を赤らめて上目がちに可愛く言っても、内容の物騒さは変わらねえから!」「…程度の差はありますが、私達がのんびり見物している場合、そういう反感を私達に抱く者が出ないとも限りません。 例え女の身であり今回のパレードに参加出来ずとも率先して頑張る姿を見せれば、組織の連帯感は上がります…まあつまりはパフォーマンスの一種なのですよ。」涙目になっている才人は取り敢えずスルーして、ルイズに話しかけたのでした。「つまり、騎士団を纏める為の手段という事なの? それなら、面倒臭いけれども仕方が無いわね。」「あざといですが、騎士団はまだ結成したばかりですからね。 団員の心を一つに出切る手段があるなら、どんどん使っていかなくてはいけないのです。」それはそれとして…。「ケティまでスルーとか…。」そんなに落ち込まなくても良いではありませんか、才人。「はいはい…ルイズ。」「なに?」こうやって、小首を傾げる様は可愛らしいのですがね…。「貴方は何でもかんでも腕力で解決し過ぎです。 そんなわけで、式典が終わってカリーヌ様がラ・ヴァリエールに帰るまでの間、才人に暴力振るうの禁止。」「な、何ですってー!?」いやルイズ、そんなに驚愕しなくても。「破れば、カリーヌ様に『ルイズが使用人の男の子に暴力を振るって変態的性欲を満たしている』と告げ口します。」「やめて!ただでさえ学院内で『あいつ、ひょっとしなくてもドSじゃね?』とか言われているのに、そんなの告げ口されたら激怒したお母様に粉々にされるわ!?」学院内で才人を人目も憚らずに蹴る殴るするからですよ…。才人がルーンによって獲得した強力な再生能力のおかげで擬似不死性を獲得している上に、痛みに対してかなりの耐性があるなんて事を知る者は居ませんからね。才人自身もガンダールヴのルーンの効果によって、それには気づかずに居るはず。上条さんじゃあるまいし、ついこないだまで一般人だった才人が、ギーシュとの決闘で何のお膳立てもなしに腕折られても立ち向かえるわけがないのです。ガンダールヴのルーンは武器を握っていなくとも、ある程度の再生能力と痛みの軽減効果があるのでしょう。それがガンダールヴ、『神の盾』と呼ばれる所以なのだと思われます…どつき漫才でそれが最大限に発揮されているという状況は、いろいろとアレですが。「では、暴力禁止週間という事で。」「わ、わかったわ…。」ルイズは小さな肩をガックリと落として頷いたのでした。「よっしゃ!」さて、勘違いしてガッツポーズ取っているもう一人にも釘を刺しますか。「ところで才人、これでルイズおちょくり放題だヒャッハー!とか思っていませんよね?」「え?違うの?」何故に不思議そうな表情で聞き返しますか才人…?「ルイズをおちょくったのが発覚したら、ジゼル姉さまの射的の動く的にします。」ジゼル姉さまなら、才人を絶対傷つけずに恐怖のズンドコまで突き落としてくれる筈なのです。「お前はアーモン・レオポルト・ゲートSS少尉かよっ!?」「『プワショフの屠殺人』とか、そんな歴史に残る変態ドS野郎と一緒にしないでくださいっ!?」幾らなんでもそんなんと一緒にされたら泣きますよ私は。「しかし、何でそんなマニアックな人を知っていますか…?」「映画で見たんだよ。」ああ、シンド○ーのリストですか、それならまあ納得なのです。「だいたい、時限があるのにおちょくったりしたら、終わった後でルイズに消滅させられますよ?」「それもそうか…わかった、自重する。」しばし目を泳がせてからチラリとルイズを見た後、才人はコクリと頷いたのでした。《才人視点》飯も食って風呂も入って、すっかり夜も更け、俺たちは部屋でのんびりしている。精神的に少し疲れたし、ゆっくり眠りたいもんだぜ。「しかし、本当にケティの事を知っていたんだな、ルイズのカーチャン。」「え?何の事ですかサイトさん?」シエスタが不思議そうに訊ねてきた。「ん?ああ、話さなかったか? ケティは近い将来タイムスリップするんだと。」「たいむすりっぷ?」ヤバい、翻訳され無かったかな?「えーと、こっちの言葉だと…何だったルイズ?」ソノコが迷子だかどーたら…だったか?「時の迷子。」「おお、それだ!」 思わずポンと手槌を打って、俺は大きく頷いた。「時の迷子って言うと、御伽話とかによく出てくるアレですか?」「そうよ。ケティってば、近い将来過去に飛ばされるらしいわ。 それで、若い頃のお母様たちと色々とやらかすみたい。 お母様が言うには元の時代に戻ったらしいから、帰ってくるみたいだけれども。」ルイズって、ケティが居なくなると説明キャラになるよな…つーか、ケティが居る間は考えるの止めてるよな。ある意味、王者の威厳ってやつなんだろうか?「ほへ~、ミス・ロッタも色々と大変なんですねえ。」「ケティなら、どんな世界でも渡って行きそうな気はするけどね。」それには俺も同感…というか最近すっかり忘れていたけど、ケティって確か前世が俺達の世界の人間なんだよな。よくもまあそこまでこの世界に馴染んだと言うか、あのケティならこの世界の過去に飛ばされるくらい平気かも知れない。「ふわ…それにしても疲れたわ。 普段はあんなまっすぐ足を突き出す事なんか無いし、なにより皆と合わせるのって大変なのね。 才人は結構平気だったみたいだけど、どうして?」「俺の国の学校では、集団行動ってのを子供の頃から叩き込まれるんだよ。 だから皆に合わせて動くのも、そこそこ慣れてるんだ。」この学校、集まるって言っても整列とかしないし、席順もその日によって適当だし、そもそもいいとこのボンボンばっかで、人に合わせるっていうのが苦手っぽい。ケティも結構染まっているっぽいんだよな、このあたり…この点について、今度話してみようかな?「はー…子供の頃から軍事教練しているだなんて、あんたの国凄いわねぇ。」「正確に言うとちょっと違うんだが、まあそういう理解でもいいかな…。」ケティに聞いたら、案外ルイズの言っている事が正しかったりして…ハハッ、まさかね。「ふわ…それじゃ寝ましょ。 シエスタも早く寝巻きに着替えないと、明かり消すわよ?」「あ、はい、わかりましたミス・ヴァリエール。」「んじゃ、俺も寝るかね。」いつも通りシエスタとルイズの間に入って…と。何時の間にやら女の子に挟まれても熟睡出来るようになった俺って、年頃の男として激しく間違っている気がしないでもないんだが、慣れちまったもんはしょうがないよなぁ…。「夜遅く御免なさい、ちょっと入るわよルイ…ズ…。」いきなりドアがガチャリと開いて、誰かが入ってこようとして…固まった。「あああああああああなた達、なななななななな何をしているのかしら?」「んぁ…?あれ?ルイズのカーチャン?」身を起こすと、顔を真っ赤にしたルイズのカーチャンが突っ立っていた。「あれ…?お母様、どうしたの?」「どどどどどどどうしたのじゃ、どどどどどどうしたのじゃありません! こここここここれは、どどどどどどどういう事かしら?」あれー?なんかルイズのカーチャン怒ってねえか?「どういうこと…?えーと…あ゛…。」寝ぼけ眼だったルイズの動きが固まっている。ついでに言うと、顔を真っ赤にした後蒼白になり、更に真っ白になった。「しまった…学院だからって、すっかり油断していたわ。」「よよよよ嫁入り前の娘が、ししししし使用人の男と何をしているのかしら!?」嫁入り前の娘ってのは、ルイズか?てぇと、使用人の男ってのは俺か…って、ひょっとして拙くねえか?「どうしたんですかぁ?」「しししししし使用人の娘も!?」起き上がったシエスタを見て、ルイズのカーチャンは更にヒートアップ。は…はは、実はかなりヤバくねえか、これ?「ヤバいっつーか、部屋の中の風が渦を巻き始めてるんだが…。」「拙いです、逃げられません…。」シエスタも、事態のヤバさに気づいたらしい…が、自分だけ逃げるつもりかオイ。「あわわわわ、おおおおお母様、これには山よりも深く海よりも高いわけが…。」それ全然理由無いような気がするとか、ツッ込める状況じゃねえ!「どどどどどどういうわけなの? 説明なさい!」「え…ええと、ケティィィィィィィ、カアアアァァァァム、ヒアアアアアアァァァァァァッ!」ケティはダイターン3かああああぁぁぁぁっ!?とか、ツッ込める雰囲気じゃねえ!何なんだ、何でこんな時に限ってボケまくるんだルイズ!?「つか、いつのまにかいねぇし!?」何時の間にか部屋には俺とルイズのカーチャンのみ…ってか、シエスタも逃げてるー!「うわ何をするのですかルイズ!?」「良いからちゃっちゃと着いて来なさい!」廊下から何か聞こえてきた…。「ついて来るも何も、抱え上げるとか、こらちょ、ま、私は、私は脇がよわうひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」ケティを肩に担いだルイズが、部屋に戻ってきた…。「はひ…はひ…な…何なのですか…?」ケティは前にも見た事のある黄色いパジャマ姿だった。ナイトキャップまでかぶっているという、完璧な就寝モード。「実は才人達と一緒に寝ていたのが、お母様にバレたのよ。」「えっ…?ああ、それはご愁傷様なのです…では私はこれで。」「逃げないで、お母様を説得して!」完全に他人事扱いで立ち去ろうとした寝ぼけ眼のケティを、ルイズがガッチリ離さない。「カリーヌ様…。」「カリンって呼んで。」「ふわ…では、カリン。 才人は隣で寝ている女の子に指一本触れないという、騎士道精神の鑑みたいな男(ヘタレ)なので一緒に寝てもルイズに子供が出来たりはしませんから、安心してください…くー。」ケティ、立ったまま寝やがった。前に眠気に弱いって話を聞いた事あるけど、本当に駄目なんだな。「で、でも、殿方と一緒に寝るだなんて、そんなはしたない事…。」「才人はルイズの使い魔なのです。 使い魔とその主人が一緒に寝るなんて、よくある話じゃありませんか。 ベッドも広いですし、寝床の有効活用なのですよ…あふぅ…むにゃ。」すげえ、寝ながらルイズのカーチャンを説得してるぞケティ。「むにむに…これ以上ウダウダ続けて私の眠りを妨げるようなら、キレますけど…。」「えっ!?ちょ、ちょっと待ってマリー、キレないで。 嫌な記憶が蘇るからキレないで。」伝説的英雄な筈のルイズのカーチャンが青くなるって…何したんだよ、未来のケティ。「話は明日聞くから、一緒に寝るのは駄目、わかったわね?」「う…うん。サイト、久々で悪いけど、あっちの藁ベッドで寝て。」「おう。」冷静になったのか、まともな態度に戻ったルイズのカーチャンの言葉に俺達は頷くのだった。…明日、どーなるんだ?